皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
弾十六さん |
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平均点: 6.14点 | 書評数: 529件 |
No.489 | 5点 | 謎解きのスケッチ- ドロシー・ボワーズ | 2025/04/12 05:03 |
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1940年出版。kindle版で読みました。翻訳は結構問題あり。後で細かく指摘するが、一番ガッカリしたのは『ダンサーの冒険』(the Adventure of the Dancing Men)、ミステリ関係者でこれを知らないの?と驚いた。
他にも「停電」(blackout、正しくは「灯火管制」)とか、「管理人」(warden、灯火管制を破っていないか見回る人、罰金あり)とか、今は戦争が始まってるんだか、戦争間近なんだか、不明瞭な表現が混じってるのだが、原文では明白で、作中現在は英国が宣戦布告した後の1939年10月である。 数ページに一度は首を傾げる表現があり、ストレスを覚える人がいるはず。 まあ大体の内容はちゃんと把握できるのだが… 細かいところが気にならない人向けの翻訳だね。 なので解決篇が薄ぼんやりしてるのも、翻訳のせいかなあ… と疑ってしまった。 なかなか面白そうな作品なんだけど、翻訳で損してるかも。(まだ詳しく分析してません。読むなら原文もkindle版があるので入手した方がイライラしないだろう、と思いました。) 以下、トリビア。 原題The Deed Without A Name、マクベス第4幕 第1場より。マクベスが魔女たちに会って「お前ら何してる?」に対する返事。「名前の無いワザじゃよ…」 翻訳されていないが献辞あり。To May◆ 誰でしょうね? こちらも翻訳されていないが注意書きあり。「Chelsea 地域で変な空想してごめんなさい。もちろん Pentagon Square, Rossetti Terrace, Hammer Street & Mulberry Fountain は過去にも現在にも存在しませんよ」と書いている。 p(1%) お茶のカップを四つ持ってきて… 暖炉のそばにゆったりと座ってから同意を示した(He was finding it agreeable after four cups of tea to lounge by a good fire)◆ 試訳「あたたかい暖炉のそばで、お茶を四杯飲み、すっかりくつろいで座っていた」 p(2%) 今後は、手紙でやりとりしよう(Hence an attempt through the post, I suppose)◆ 試訳「したがって、郵便での試みとなったんだろうな」 p(2%) 素人探偵のまね事(amateur snooping) p(3%) まだ明るいから、車の運転も大丈夫だ(I’d like a run while it’s still light)◆ 夜になると照明が無く、ヘッドライトもつけられないから自動車は使えないのだろう。 p(3%) 円熟するような過程(mellowing process)◆ 試訳「角が取れるような時間経過」 p(3%) 六十代の頃、ダウニング・ストリートのガードレールの設置に再三にわたって力を尽くした(in her sixtieth year she had repeatedly attached herself to the railings of Downing Street)◆ 試訳「60歳の時には、首相官邸前の抗議運動に何度も参加した」 p(3%) このような骨折りで、肉体的な面では男にかなわないことを、夫人は自覚した(Such exertions had at least expressed her sense of masculine inferiority)◆ 試訳「そのような過激な活動は、少なくとも彼女が、男性は劣等種であると思っていることを示していた」 次の文もちょっとヘンテコだけど、ここでは省略。 p(4%) 明かりが街をぼんやりと照らし、ネオンサインが火の小川のようにロンドンの街を彩っていた(Then the lamps might prick it, the sky signs burn it with rivulets of fire 以下略)◆ 原文では、ここら辺は動詞の前にmightがついてるので、「かつて、灯火管制前なら、明かりが灯ってネオンサインギラギラだったよなあ」という主人公の想像。 p(4%) 二回目の停電の日(the second month of the blackout)◆ 試訳「灯火管制二か月目」 p(4%) タクシーを運よく拾う(he had the luck to pick up a taxi)◆ 灯火管制下、夜走ってるタクシーは稀だったろう。夜八時半でもまだぼんやり明るさが残っているようだ p(5%) 裏口のドアも他と同じように施錠されているが、鍵がついたまま(That door, locked like the rest, had its key... on the inside)◆ 「内側に」が抜けている p(6%) おばが戦時中の規則に従って取り付けた黒いカーテン(the black curtains his aunt had provided in compliance with the rule)◆ 戦時中って補い訳してるのにblackoutが灯火管制だと気づかない… 残念。 p(6%) 玄関ドアの掛け金(the latch of the front door) p(7%) 十月十五日の日曜の朝(Sunday morning, October 15) p(7%) 彼女はいつもどおりに、こぼれた塩の後片づけをしたり、カラスを見張ったり、歩道をまたいでいる梯子を確認したりした(It was true that she dutifully observed certain procedures following the spilling of salt, the sight of a single crow or the presence of a ladder straddling the pavement)◆ ここは迷信の列挙。試訳「塩こぼし、単独カラスの目撃、歩道に立てかけた梯子に対して、必ず迷信破りの対処法を行うのが常だった」 p(7%) ヒトラー… ルーズベルト大統領… シャーリー・テンプル◆ 取り合わせが面白い p(9%) 女中は軽んじられてはいなかった。それというのも、女中はいちいち「旦那様」とか「奥様」といった言い方をしていなかった(She was not the less respectful because for the most part “sirs” and “madams” did not figure in her vocabulary)◆ 試訳「彼女に尊敬の念が足りないわけではなかった。「旦那様」とか「奥様」という語が大抵の場合、口から出てこないだけだった」 p(10%) 初めからずっと変なことばかり続いて(There’s something queer, like. I said there was all along)◆ 試訳「何か変みたい。わたしずっと言ってました」 p(10%) 男が倒れていた(There’s a man there)◆ ここでは倒れているはずがない。試訳「男がいた」 p(10%) 「これは自殺だな」◆ 原文の警察医のセリフはもっと長い。“Pretty how-de-do for a soo’cide, ain’t it?” (かわいらしい自殺のやり方じゃねーか)&集まってる警官たちを眺めて “Proper gathering of the vultures, eh?”(お馴染みの禿鷹の集会だな?) p(10%) 取引などには応じない(with the police surgeon’s usual lack of conciliation in his manner)◆ 試訳「警察医によくある全く空気を読まない態度の」 p(10%) 警察医はざっと死体を検査した(the divisional surgeon was carrying out a swift examination preliminary to the autopsy that would follow)◆ 試訳「地区警察の医者は、その後の解剖に先立ち、迅速な検査を行っていた」 p(10%) もっとも若い警部(The youngest chief inspector)... 四十歳(forty years) p(10%) 彼はもはや臆病者ではなかった(He was no more of a sissy than the next man)◆ 昔の事件で女々しかったのだろうか? p(11%) 二本の鍵(two latchkeys)◆ ここは「ラッチキー」と訳して欲しいなあ。 p(11%) 安物の懐中電灯(A torch of the sixpenny-battery size)◆ サイズ、と言っているので、6ペンス貨の直径(19.41mm)の懐中電灯か? 調べつかず。 p(11%) コナン・ドイルの小説... 過労の事務員がずっと以前から漠然と抱いていた殺人の心象が、鏡によって夜ごとはっきりとしていくのだ(Conan Doyle’s fine story in which a mirror had nightly revealed to an overworked clerk the cloudy image it had received of murder long ago)◆ これはThe Silver Mirror(初出Strand 1908-08)のことだろう。 ---------- (以下2025-04-13追記) p(12%) 彼はポケットに玄関のドアの鍵を(he had the latchkey of the front door in his pocket)... 玄関のドアには鍵のほかにかんぬきまでかかっていたので(the front door was found bolted as well as latched)… 庭から入った(got in by forcing the door into the garden)◆ 玄関ドアはlatchkeyで開くlatch&ボルトで二重に施錠されており、ボルトは鍵では開かない。庭ドアはforcedなので「無理に押し破った」と訳さないと後の文がわからなくなる。 p(12%) この場合、外から鍵をかけなくてよいですから。庭のドアは閉まると、外側からは開けられなくなります(he must'a turned the key from the outside, because it was inside when it was forced)◆ 適当訳。前述のforcedに気づいていない。試訳「やつは外から鍵を回したことになっちゃいます。だってドアが押し破られた時に、鍵は内側にあったんですから」 p(13%) 一枚も紙はちぎられていなかった(The top was virgin white and untorn)◆ 試訳「一番上の紙は真っ白で、破られてはいなかった」 p(13%) 二シリングと半ペニーの切手(a two-shilling book of stamps with a single halfpenny stamp remaining)◆ 2シリング切手(1569円)は高額過ぎるよ! 試訳「合計2シリングの切手シートには一枚の半ペニー切手だけが残っていた」 半ペニーだと48枚綴りで2シリング。 p(16%) パン屋とガス会社がくれた何の変哲もないカレンダー(the innocent calendars a thoughtful baker and gas company had provided) p(17%) 二冊の安物のスリラー小説(two sixpenny thrillers)◆ 英国thrillerなら「ミステリ小説」と訳した方が適切かも p(22%) 小人閑居して不善をなす(Satan finds some mischief for) p(23%) いつ戦争が始まってもおかしくありません(none of us knew there was going to be a war)◆ こういう文章が混じってるので、作中現在は戦争前?と誤解してしまう。試訳「誰も戦争が始まるなんて知りませんでした」 p(34%) 悪評の高い検視… 検視官は自分が全能の神だと思っている(a notorious inquest and a coroner who thought he was the Almighty)◆ 検死官は終身制で、インクエストの進行では全権を握っている。そして監督官庁がないからねえ… こういうことが起こりうるのよ。 p(35%) 去年、試験勉強で共に苦労しました(were co-sufferers in the last year we swotted in the Sixth)◆ 話者はもう就職する年頃なのに、去年? 試訳「高校(Sixth)最後の年は、二人とも猛勉強で共に苦労しました」 p(37%) 最近は、灯火管制が敷かれるようになりました(the fresh habits the blackout)◆ なんだい、ちゃんとわかってんじゃん! ---------- まあこんな感じで、ちょいズレの翻訳がたっぷり。これ以上は長くなり過ぎるし、疲れたので、ここでやめておきます。 謎解き部分がどうなってるかは、ネタバレになるので控えます。まあでも、ざっとみたところ、今まで示したようなちょっと外した文章がチラホラでした。 小説自体は、1939年10月前後の英国の日常生活が細かに描かれていて、非常に良かった。ミステリとしては、展開が面白いし、大ネタ、小ネタもなかなか良い感じ。これで翻訳がちゃんとしてればなあ、という感じです。 |
No.488 | 7点 | 不可能からの脱出―超能力を演出したショウマン ハリー・フーディーニ- 伝記・評伝 | 2025/04/11 10:34 |
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国会図書館デジタルコレクションで読了(2ページ分の欠落あり)。松田道弘さんの本、結構NDLdcに登録されている。
フーディニの手錠はずしなどのトリックを(多分こうだろうと)解説。松田さんだけに、頷ける説明。『フーディーニ!!』と合わせて読むと尚更面白いと思う。 |
No.487 | 6点 | ドラゴン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2025/04/10 21:03 |
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1933年出版。初出Pictorial Review 1933-06〜11, 挿絵Carl Agnew。創元推理文庫で読みました。
不可能犯罪めいたオープニングと、お互いを「あいつが怪しい」と罵り合うパーティの出席者たち。類型的すぎてサイコーです。 怪奇現象の盛り上げ役もいて楽しい。幕切れも大胆で良いのですが、真相がアレなら登場人物たちの動きが違和感あり。ヴァンスも、知ってたなら、もっと最初からアレすれよ… はいつものパターンですね。 でもまあ楽しめるオハナシでした。 舞台装置は実在のものらしくて、図面が広めに展開、どうなるのかな?と思ってたら、ああ、そうなんだ… というのが最大の意外性でしたよ。 トリビアは気が向いたら。暑い八月は1928年だろうか?データを見つけられなかった… |
No.486 | 6点 | 猿来たりなば- エリザベス・フェラーズ | 2025/04/09 06:10 |
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1942年出版。トビー&ジョージ第4作。
このコンビのシリーズを読んでると、だいたい先行きが想像出来ちゃうのが欠点。 冒頭は「ほほう」と唸る出来だけれど、もっと田舎ってどんよりしてるのでは?と思った。 キャラは全員ヘンテコで、まあメリハリという意味では良いのだが、ドラマという点ではなんだわざとらしいかなあ、と感じてしまった。 トビーの一人称もあんまり効果はなかった気がする。目先を変えただけ? |
No.485 | 5点 | ブラック・マスクの世界3 ブラック・マスクの栄光- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/06 02:11 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
---------- (1) Close Call by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1933-01) 「はなれわざ」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点 弁護士ケン・コーニング第三作。原題close callは「ギリギリセーフ」の意味。いつもながら工夫された強引な展開が良い。やりすぎだが、当時なら有り得そうな話。 ---------- (2) 「殺人狂騒曲」フレデリック・ネベル (3) 「重要証拠」エド・ライベック (4) 「強盗クラブ」トム・カリー (5) 「美人コンテスト殺人事件」デイル・クラーク (6) 「死のストライキ」フランク・グルーバー (7) 「シャム猫の謎」ラモン・デコルタ (8) 「拷問以上」C・P・ダネル・ジュニア (9) 「沈黙は叫ぶ」フレドリック・ブラウン ---------- (10) 「裏切りの街」(3)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ジョー・ゴアズ (構成: 木村二郎) 1985-03-28サン・アンセルモの自宅にて。EQ1985-09記事に加筆。 ハメット伝について: ジョンソンはシンパシーが無いが、ノーランとレイマンはシンパシーがありすぎて客観的ではない。三冊合わせてハメットの全貌がわかる。 コンチネンタル・オプの捜査方法はリアルだ。 DKAのラリー・バラードのモデルは自分だろう。 ---------- <解説> 本書出版時には、「東京の東武デパートで<ミステリー・ミステリアス展>というわけのわからぬ名称の催し物が開催されているはず(1986年7月31日~8月12日)」と書いている。ハードボイルドもここまで来たか、という密かな感慨が伺える。 |
No.484 | 5点 | ブラック・マスクの世界2 ブラック・マスクの英雄たちⅡ- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/05 15:37 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
---------- (1) 「ウェイドを救え」ジョージ・ハーモン・コックス (2) 「リンカーンの口ひげ」シオドア・ティンズリー (3) 「ボストンから来た女」フレデリック・ネベル (4) 「賭博師の厄日」W・T・バラード ---------- (5) Blackmailers Don't Shoot by Raymond Chandler (初出Black Mask 1933-12) 「ゆすり屋は撃たない」レイモンド・チャンドラー作、小鷹信光 訳: 評価7点 私立探偵マロリー。ハメットを真似た徹底的客観描写、と小鷹さんが書いていて、ああそうなのか、と初めて気づいた。無茶苦茶な話だが、なんとか成立してるように感じられるのがチャンドラー・マジックなのだろう。マロリーの拳銃はルガー。第一次大戦に従軍して、そのお土産、という設定かも。 ---------- (6) 「雪原の追跡」L・R・シャーマン (7) 「ウインク」J・M・ベル (8) 「初舞台」ドナルド・バー・チドシー ---------- (9) 「裏切りの街」(2)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ビル・プロンジーニ (構成: 木村二郎) 1985-03-27SF近郊の自宅にて。HMM1985-09掲載のものを再編成。 十六、七年前(1969年くらい?)、オークランドの古本屋でパルプマガジンは一冊10セントで売られていた。誰も買わなかった時代。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円) 名無しのオプは良い名前を思いつかなかったから、と話している。昔のタフな主人公に比べて、現在の人間はより「人間的」だという。humanの訳?最後はすべて上手くいく、という小説を読みたいから、最近の私立探偵もの人気があるのでは?と分析している。 ---------- <解説> ノーラン調べでブラックマスクの最高部数は1930年の10万3000部だったという。1934年末にはスター寄稿者(デイリイ、ガードナー、ネベル、チャンドラー、ポール・ケイン)がたくさんいたが部数は6万部少々だったようだ。 |
No.483 | 5点 | ブラック・マスクの世界1 ブラック・マスクの英雄たちI- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/02 23:22 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。このシリーズ、買おうか迷ってたけど、NDLdcで読めるようになっていたとは!
---------- (1) Straight from the Shoulder by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1929-10) 「ネックレスを奪え」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点 エド・ジェンキンズもの。テンポが良くて実に素晴らしい作品。「探偵雑誌を読む少年は見込みがある」とさりげなく雑誌販促してる。 ---------- (2) 「賭に勝った女」ロジャー・トリー (3) 「黒い手帳」ホレス・マッコイ (4) 「新しいボス」N・L・ジョーゲンセン (5) 「KKKの町に来た男」キャロル・ジョン・デイリイ (6) 「帰路」ダシール・ハメット (7) 「帰ってきた用心棒」ノーバート・デイヴィス (8) 「最後のしごと」L・V・アイティンジ (9) 「白い手の怪」スチュワート・ウェルズ (10) 「裏切りの街」(1)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ウィリアム・F・ノーラン (構成: 木村二郎) 1985-03-22LAの自宅にて。HMM1985-10掲載のものを再編成。 ノーランは「心はいつも27歳」と言っているが、どうしてそのトシなんだろう。1969年当時、ブラックマスクが一冊2ドルで買える古本屋があったらしい。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円) ---------- <解説>で小鷹さんはブラックマスク一時離脱前のハメットの稿料が「破格の…一語三セント」(p232)だった、としているが、ほんとうかなあ。ブラックマスク創刊号の表紙が当時はビル・プロンジニーニもノーランも見たことが無い、という話題で盛り上がっているが、現在はFictionMags Indexでちゃんと見ることが出来る。 |
No.482 | 5点 | 13の判決- アンソロジー(海外編集者) | 2025/03/31 16:52 |
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1978出版。ジュリアン・シモンズ編。こちらはデテクション・クラブ主催のテーマ別書き下ろしアンソロジー。書籍で持ってるけど、探すのが面倒。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
インクエストねたもあるかも?と期待していました。 ---------- (5) Great-Aunt Allie's Fly-Paper by P. D. James「大叔母さんの蠅取り紙」P・D・ジェイムズ作、真野明裕 訳: 評価7点 ダルグリッシュもの。昔の裁判記録により真相を探る。エドワード朝マニアが出てきて楽しい。今回Flypaperを調べてみた。長細いリボン状のものかと思ったら四角い製品だった。絵で見ると食卓用トレイくらいあった。化粧水に使うって、他の作品でも読んだ記憶あり。何だっけ?(実在のFlorence Maybrick事件(1889年)ですね。殺された夫が精力増強のため砒素を常用してたことも有名) ジェイムズらしい読後感が非常に良い。 (2025-04-07追記) ---------- (6) Pelly and Cullis by Michael Innes 「ペリーとカリス」マイケル・イネス作、池央耿 訳: 評価5点 アプルビイもの。もう隠居している。裁判において陪審員の評決は、どこで確定するのか?という点が面白い。いつも携帯してる、というのがヘンテコだが… タイトルは何かに懸けてるのでは?と直感したのだが、ググっても出てこない。 |
No.481 | 6点 | 密室大集合- アンソロジー(海外編集者) | 2025/03/31 16:26 |
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1981出版。MWA主催のテーマ別アンソロジー。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
編者「まえがき」で発表された有名な「密室傑作長篇10傑」って僅か17人参加のお遊び企画(ホック自身がそう書いている)だったんだね。 (1) The Shadow of the Goat by John Dickson Carr (初出: 大学校内誌The Haverfordian 1926?) 「山羊の影」ジョン・ディクスン・カー作、島田三蔵 訳: 評価6点 バンコラン初登場らしい。豪華な複数密室。当時の1000ポンドは英国消費者物価指数基準1926/2025(78.11倍)で£1=15090円なので、ここでの使い方は異常。舞台は英国の古い屋敷。バンコランは「86人の警察長官のうちの一人」とされている。私は好かんタイプの解決だが、ギリギリOKかな。作者が後年も多用するラッキーパンチ要素もちゃんとある。JDCは最初から密室大好きだったのか!と感慨深い。 |
No.480 | 6点 | 37の短篇(傑作短篇集)- アンソロジー(国内編集者) | 2025/03/31 08:50 |
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1973年出版。確か書籍でも持っているはずなのだが、書庫を探すのが大変。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
巻末の石川喬司、稲葉明雄、小鷹信光の座談が非常に楽しい。稲葉さんが「C・O」と言ってて何?と思ったら「コンチネンタル・オプ」のことでした。 一つ一つ、ゆっくり読んで行きますよ。総合評価は暫定6点で。 ---------- (2) Human Interest Stuff by Davis Dresser(Brett Halliday) (初出Adventure 1938-09、挿絵画家不明)「死刑前夜」ブレット・ハリデイ作、都筑道夫 訳: 評価6点 稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。初出誌は全ページ無料公開されている。イラストは二枚だが雰囲気良し。 原文と比べると最後の一行はなんか違う。ハリデイさんの長篇は読んだことはないけど、短篇数作を読んだ印象からとっても良い人なんだろうと感じる。何せヘレン・マクロイを妻にしてた人だしね。 ---------- (8) Don’t Look Behind You by Fredric Brown (初出?EQMM1947-05) 「後ろを見るな」フレドリック・ブラウン作、曽我四郎 訳: 評価6点 稲葉さん推薦作。座談会では最初は雑誌の最後の短篇として印刷…というふうに書いてあって、そういう組み方の初出?雑誌(イラストもあった)をどこかで見た記憶があるのだけれど、上記EQMMでは三番目の短篇。あれ?と思った。短篇集Mostly Murder(1954)では最後になってるけど… 作品の書きっぷりから言って、雑誌最後の短篇じゃないと成り立たないようにも感じるので、本当の初出はマイナーなパルプ雑誌なんだろうか? ところで翻訳の曽我四郎って誰でしたっけ?早川関係だったような朧げな記憶が… 作品内容は才人ブラウンらしいちょっとトリッキーなもの… ってみんな大体知ってるよね? p157 ロナルド・コールマン(Ronald Colman)◆ 1920〜30年代のスター。なので1947年だとすこし古臭い感じ。 p158 細字の思い切った草書体(freehand cursive style) ---------- (9) Off the Face of the Earth by Clayton Rawson (初出EQMM 1949-09) 「天外消失」クレイトン・ロースン作、阿部主計 訳: 評価7点 稲葉さんが本作を推してるのが意外だった。マリーニ探偵の不可能犯罪もの。トリック、ちゃんと出来るかなあ、と思うのと、やる側の心理(プラン立てたとして、これで上手くいく、と思える?)がちょっと不満。TVドラマで見てみたいなあ。 p176 ジプシー・ローズ・リー◆ Gypsy Rose Lee(1911-1970) 1930年代後半ごろからが最盛期か。英Wiki参照。 p177 ペパーの幽霊魔術(Pepper’s ghost)◆ 1862年ロンドンで大評判になったマジック。 p177 ドロシー・アーノルド◆ 米国で有名な失踪者。英Wiki “Dissapearance of Dorothy Arnold”参照。1910年12月10日午後、ニューヨークで失踪。五番街で友達と別れたときセントラル・パークを通って帰ると話していた。当時25歳。 p180 クレイター判事◆ Joseph Force Crater(1889年生まれ) ニューヨーク州最高裁判所判事。1930年8月6日午後9時半ごろ、ニューヨーク西45番街のレストランを出て、二人の連れと別れ、一人タクシーに乗り込んだ後、行方不明となった未解決事件。 ---------- (26) Contents of the Dead Man’s Pocket by Jack Finney (初出Collier’s 1956-10-26) 「死者のポケットの中には」ジャック・フィニイ作、福島正実 訳: 評価7点 稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。とってもコワイ話。まあ結末はこれで綺麗だけど、でも不満だなあ。 ---------- (29) The Sailing Club by David Ely (初出Cosmopolitan 1962-10) 「ヨット・クラブ」デイヴィッド・イーリイ作、高橋泰邦 訳: 評価6点 小鷹さんお勧め。言いたいことは何となくわかるけど… ファンタ爺に過ぎる。当時作者35歳か。ならジジイの気持ちなんてわかるはずないよね。 ---------- (32) The Man Who Read John Dickson Carr by William Brittain (初出EQMM 1965-12)「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」ウイリアム・ブルテン作、伊藤守男 訳: 評価7点 小鷹さんお勧め。実に気が利いている。 p632 ドアは五インチもある厚いかしの木製で、それをしめるためには、両側の壁にがっちりとはめこまれた鉄のとめ金に重い木のかんぬきをさしこまなければならない(a two-inch-thick oak door... could be locked only by placing a ponderous wooden bar into iron carriers bolted solidly to the wall on both sides of the door)◆ 密室ドアの鍵関係のサンプル (2025-04-03記載) ---------- (33) The Locked Room to End the Locked Room by Stephen Barr (初出EQMM 1965-08)「最後で最高の密室」スティーヴン・バー作、深町真理子 訳: 評価7点 著者は経歴不詳となっているが、Stephen Richie Barr(1904-1989)生まれは英国Uxbridgeだが、米国で活躍、数学分野での著作が多い。マーチン・ガードナーの友人、父は米国人数学者James Mark McGinnis Barr(1871-1950)と判明している。 原タイトルは「密室にケリをつける密室」密室論議はこれでオシマイdeath、というようなニュアンスかな? よく出来た密室もの。正しくは「密屋敷」だが。 (2025-04-05記載) ---------- (37) The Gemminy Crickets Case by Christianna Brand (初出EQMM 1968-08)「ジェミニイ・クリケット事件」クリスティアナ・ブランド作、深町真理子 訳: 評価7点 上記のお三方が三人とも「お気に入り」と認めているのが、本作。大昔に読んだはずだけど、すっかり忘れていた。自然な流れが非常に良い。タイトル、由来はJiminy Cricket(ジーザス・クライスト!の言い換え語)なんですね。クリケットが登場するのかな?と期待しちゃった。ワールド・カップ決勝の日(土曜日)が事件の日となっているが、1966年サッカー・ワールド・カップはイングランドがホスト国で、イングランドが初優勝している。(1960年にイングランドで開催されたラグビー・ワールド・カップの可能性もあるかな。こちらも英国が二度目の優勝)。まあ戸外に誰も出ていない、という熱狂ぶりなのでフットボールのほうだろう。ただし「二十年以上前」の事件のはずなので、作中現在は未来なのかな?(1990年ごろか) 「[ワールドカップなので]誰もがテレビにかじりついてる」という文言があった。最初のTV中継は1954年のワールドカップが最初。(訂正: 事件が二十年以上前、ではなくて、登場人物が再会したのが二十年ぶり、という事でした。とすると、作中現在は初出1968年でも大丈夫ですね) |
No.479 | 8点 | 三人の名探偵のための事件- レオ・ブルース | 2025/03/28 04:25 |
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1936年出版。扶桑社ミステリー文庫で読みました。翻訳は素晴らしいが、スミス師の喋りを中村保男サン風にしてくれたらもっと良かった。
レオ・ブルースさんは前からずっと気になって、翻訳書はたくさん買い溜めていたのだが、初めて読んだ。 ポアロ、ピーター卿、ブラウン神父のファンなら必読。同時代のTorquemada評を見ると、ポアロ味は健闘、ブラウン神父味も時々良いが、ピーター卿はちょっと違うなあ(特にビールとダーツのくだり)と書いていた。(Webサイト "The Grandest Game of the World" 参照) まあでも素晴らしいパロディ作品。こういうトリックや筋書きは、探偵小説ファンなら誰もが自分で創作してみたい、と夢見て、そしてなしえることが稀だろう。 ところで作者(本名Rupert Croft-Cooke)は1923-1924にブエノスアイレスで過ごしている(どういう事情なんでしょうね。ヘイスティングスの例でもわかるように、当時アルゼンチンは成長が著しかったので一旗組か)。でもボルヘスが創始したミステリ叢書「第七圏」の初登場は1982年。#354. El caso de la muerte entre las cuerdas, de Leo Bruce (Case with Ropes and Rings 1940『ロープとリングの事件』)。ペンズラー&スタインブランナー編 "Encyclopaedia of Mystery and Detection"(1976)にも作者の項目は無かった。1970年代までは忘れられた作家だったのかも。 トリビアは後ほど。 |
No.478 | 6点 | 三角館の恐怖- 江戸川乱歩 | 2025/03/24 02:27 |
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原作はロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人』(1932)、乱歩さんは光文社から連載探偵小説をせっつかれて、原著者と出版社の了解を得られたら、という条件をつけて自由訳を提案したところ、意外にも光文社がちゃんと条件をクリアしたので、連載することになった、と書いている。
初出: 光文社「面白倶楽部」昭和二十六年一月号から十二月号まで連載(挿絵:富永謙太郎)。私は創元推理文庫の電子版で読みました。初出時の挿絵や読者への挑戦(賞金付き、一等五千円)もちゃんと再録されています。結果も載っていました。 当時の五千円は日本物価指数(戦前東京区部)昭和25年/令和6年(8.46倍)なので42300円。 乱歩さんは原作を最初に読んだ時、探偵小説史上でも素晴らしい傑作だと思ったが、後で良く読んで見るとそこまでの作品ではない、と思い直したようだ。 私は原作を先に読んで、文章が辿々しいところがあるなあ、キャラも書き込み不足だなあ、と思ったが、乱歩さんの翻案がある、と知って、乱歩さんならああいうところを上手く扱っているかも、と思って読んでみた訳です。 でも翻案ではなくて、登場人物を日本に移しただけのかなり忠実な翻訳というレベルだったので、ちょっとガッカリ。まあでもチカラの抜き差しとかメリハリはさすがで、非常に読みやすい。乱歩作品、というほどガッツリ魂はこもってないのが残念です。 以下、トリビア。 p(5%) 双生児です。昔の習慣でわしの方が後に生れたので兄◆ 昔はそういう考えもあったようだ。現在は、先に生まれた方が「兄、姉」と定められている。(2025-03-24追記: 翻訳文からの印象だが、原作では、どちらが長子であるか、明示していないように思われる。兄、弟とあるが、いずれもbrotherの訳語であろう) p(7%) 明治の末… 百五十万◆ 日本物価指数(戦前東京区部)明治43年/令和6年(3425倍)で51億円。 p(10%) 妻のろ◆ こういう言い方があったのか p(16%) 千円札… 百円札◆ 一万円札の初登場は昭和33年(1958)なので、この小説には登場しない。当時の千円札は聖徳太子の肖像、サイズ164x76mm、百円札も聖徳太子の肖像、サイズ162x93mm。 p(21%) 煙硝◆ 現代なら「硝煙」だろう p(24%) 自動拳銃◆ 原作では「45口径の廻転拳銃(revolver)」挿絵はオートマチック拳銃が描かれているが、もしかして乱歩さんはオートマチックではなくリボルバーのつもりで使っているのかも。オートマチックなら薬莢を探すはずだが、全然言及が無い。 p(33%) 自動エレベーター◆ 探偵が不慣れという描写がある。 p(36%) 落語◆ 「松鶴」に「しょうかく」というルビが振ってある。文楽、志ん生、松鶴という並びが良い。 p(36%) 億を超える財産◆ 原作でも本作でも財産の額はぼかされている。 p(51%) 交換機の故障◆ 当時の日本では電話交換機の故障がよくあったのか。原作では単に繋がらない、という場面。 p(91%) 万年筆型の豆懐中電灯◆ 当時でもそういうのがあったようだ。原作では「小さな懐中電灯」 |
No.477 | 5点 | エンジェル家の殺人- ロジャー・スカーレット | 2025/03/23 21:39 |
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1932年出版(Doubleday Crime Club)。創元推理文庫を元にした国会図書館デジタルコレクションで読みました。
文庫あとがきでは謎とされたブレアさんのやや詳しい情報が英Wiki "Roger Scarlett"に掲載されています。Roger Scarlettは女性二人の共同筆名、二人とも女子大出(Bryn MawrとVasser)で1920年代にホートン・ミフリン社で出会ったようですね。 多分EQ同様、ヴァンダイン・バブルの影響で探偵小説は金になる、と書き始めたのでは?と思いました。 本作はシリーズ4作目。二人の老人に支配されたボストンの屋敷が舞台で、作中現在は1932年と明記されています。図面が豊富なのが楽しいのですが、キャラが非常に弱いですね。ミステリ的には大ネタを粗末に扱っている感じです。こうなると乱歩さんの翻案が気になりますね。キャラを上手く扱うと面白い話になりそうなんですが… 弁護士がかなりのアレな人で、この人大丈夫かなあ、と思いました。 原文も入手出来ず、トリビア的に面白いネタもありません。 |
No.476 | 7点 | ビッグ・ヒート- ウィリアム・P・マッギヴァーン | 2025/03/23 00:50 |
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1953年出版。初出週刊Saturday Evening Post誌1952-12-27〜1953-2-7(7回連載、挿絵William A. Smith)。私は創元推理文庫版を国会図書館デジタルコレクションで読みました。
最近、人並由真さまのマッギヴァーン作品評を読んで、そういえば昔フリッツ・ラング監督の『ビッグ・ヒート』(1953)を観たことがあり、マッギヴァーン原作だったのか!と気づいて、さらに初出がポスト誌だと知って、原作を読みたくなりました。 映画の筋はあらかた忘れていたのですが、読んでみると、ところどころぼんやり覚えていて、まあでもとても楽しめる娯楽作品です(嫌なシーンも多いけど)。米国人が空気を読めない、なんて嘘だよね。皆んなこの作品では圧を感じてるじゃないか、と思いました。 マッギヴァーンは短篇を読んだことがあるのですが、長篇は初めて。FictionMags Indexで短篇を年代順に見ると、1940年から1945年まではほぼSFばっかり、1946年以降はミステリや西部小説などが増えている。1952年末に突然スリック雑誌のポスト誌連載から映画化の流れ。その後、映画化作品が続き(過去の長篇も映画化されている)… という感じで、本作が出世作なのではないか、と思う。 SF出身なので、本作でも見せる理想主義的な青っぽさがある人なのかも、と感じました。 ポスト誌アーカイヴ(有料)で挿絵を見ましたが、実に良い絵ですよ! そして映画も再見しました。結構場面を覚えてましたが、原作クレジットが「サタデー・イヴニング・ポスト誌連載による」となっていて、一種のタイアップか。ステーキの夕食がポテトを丸ごと焼いた?のをゴロンと付け合わせで食べててビックリ。バーでのビールの値段は35セント。脚色は工夫されてて、原作にかなり忠実ですが、いきなり中ネタを割ってるので、読んだ後で見た方がいいかなあ。 戦争を体験した市民のシーンも再現されてて、ああ、そういう感じが残ってるのね(映画公開当時は朝鮮戦争が休戦となったばかり)と感じました。 小説のほうでも映画でも、結構上手に構成されてて、ハラハラ、ドキドキ出来ます。まあ現在の管理が行き届いた世界では、組織と対決するなんて、個人では無理無理感が強すぎて、とてもシンジラレナイ、と感じちゃう人が多いと思いますけど… |
No.475 | 7点 | 忘れられた殺人- E・S・ガードナー | 2025/03/21 22:49 |
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1935年出版。当初はTHE CLEW OF THE FORGOTTEN MURDER by Carleton Kendrakeとしてお馴染みモロウ社から出された。私は創元推理文庫で読了。
この探偵と相方のコンビが良い。いつものESG流の込み入ったプロットだが、展開が良くてあんまり混乱しないように鼻面を引き回される楽しさがある。 残念ながら原文は入手出来ませんでした。 トリビアは後ほど。 |
No.474 | 5点 | キャッツ・アイ- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/16 05:03 |
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1923年出版。初出Westminster Gazette紙連載1923-04-07〜1923-06-25(挿絵無し)。私はちくま文庫版で読みました。
著者「まえがき」に書かれている「著名な警察幹部に起きた大変な災難」が気になるだろうけど、「訳者あとがき」でちゃんとネタバラシしてくれてるから、ご安心ください(さすが渕上さん)。でも何で長篇に触れて無いのかな?あっちの方があの事件にバッチリ言及してますよ! 作中現在は『アンジェリーナ・フルード』(作中現在1919年)の前であることだけが確実(こちらも「訳者あとがき」で触れている)。自動車の時代になってるので、1910年代後半だろう。私は未読なので『ヘレン・ヴァードン』との関連はよくわからない。そちらの作中現在からもっと年代が絞られる可能性はある。実は本書の細かい分析はまだ行なっていないので、年代確定のヒントがもっとあるのかも? 本作には、英国歴史と聖書の話題が出てくるので、日本人にはちょっと取っ付きにくい作品だろう。あのズレは英国人には常識?私は古楽関係で知識はあったけど… ミステリ的には、推理味が薄い。色々振り回されるのが楽しい人向けだろう。ソーンダイクは、いつもの通りダンマリだしね。アンスティを無邪気に危険に晒すなんて結構酷い人だ。 冒頭から事件が発生して、テンポいいなあ、傑作かも?という期待は裏切られたが、一晩で一気に読んじゃいました。アンスティ・ファンにはおすすめです!(そんな奴、いるのかなあ) トリビアは後ほど。 |
No.473 | 6点 | 偽装を嫌った男- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/14 05:55 |
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1925年出版。原題 “The Shadow of the Wolf” (『狼の影』という素敵なタイトルを、なぜヘンテコな訳題にしちゃうんだろう?) 中篇The Dead Hand(Pearson's Magazine 1911-10&-11)の長篇化。Kindle版は私家版であるが、翻訳は直訳調だが、読みやすい。夫の手紙(第12章)をもっと乱暴な文体にすべき、と思った以外、大きな不満は無い。
訳者あとがきで言及している、原文の変な点って、二十ポンドと五ポンドの齟齬だろう。第1章では「二十ポンド」と書かれているのに、第8章では同じものが「五ポンド」とあり、第7章&第8章で五ポンド紙幣のサイズとして記載された数値(eight inches and three-eighths long by five inches and five thirty-seconds wide, =213x134mm)は、二十ポンド紙幣のもの(8 1/4" x 5 1/4", =211x133mm)なのだ。実際の五ポンド紙幣は一回り小さい7 11/16" x 4 11/16", =195x120mmである(数値はいずれもBank of Englandより。ものによって若干違う場合もあるらしい)。中篇では二十ポンドだったものを、一旦はそのまま長篇化したけれど、後で状況を考えると五ポンドのほうがあり得るなあ(なにせ危険が高まっているのだ)と修正したが、第1章の「二十ポンド」と第7章&第8章のサイズを直し忘れた、という事だと思う。 本作にもフリーマンの社会改良の視点があり、今回は離婚問題である。だが、ちょっと間違っている。作中現在は1911年だが、この年だと妻からの離婚申立は、夫の不倫だけでは認められず、本件のケースなら、夫の不倫に加えて二年以上の遺棄がなければ申立理由とはならない。本書の状況は遺棄が数か月程度なので、今回、離婚申請が認められる可能性があるように書かれているのはおかしい。しかし1923年の離婚法改正で夫の不倫だけでも訴えは可能となったため、出版時なら離婚が認められる可能性はある。なので事件を1911年に設定していたはずなのに、作者がうっかり出版時の状況を読み込んでしまったのだろう。離婚が申立可能な状況設定は、長篇のテーマのキモの一つなので、長篇化を行ったのは1923年以降の可能性が高いと推測できる。 肝心の本書の内容は、中篇を引き延ばしたので、ちょっと軋みを感じるところがあるが、情感のある小説に仕上がっている。ミステリ的には小ネタな作品。妻が夫を冷静にディスるところが面白かった。 トリビアはのちほど。 |
No.472 | 6点 | 謎ときエドガー・アラン・ポー- 評論・エッセイ | 2025/03/13 11:01 |
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2025年新潮選書。
「犯人はお前だ」(1844)を丁寧に読み込む企画。確かに合理的な分析でとても面白いけど、全然ポー自身の姿が浮かんでこない。著者が人工的な世界で遊んでいるだけ。 ところが本書を全部読んでみると、ポーの諸作品には共通テーマが隠れてるのでは?という印象になる。じゃあ、この分析を応用して、この本では全く触れられていない「マリー・ロジェの謎」を読み解いてみたくなる。なぜ探偵小説がテーマの本書に、他のデュパンもの(「モルグ街」&「盗まれた手紙」)は分析されているのに、「マリー・ロジェ」だけが言及さえされていないのか?それは著者の論旨に全く合致してないからという理由だけなんだろうか? ちらりと紹介されてるジョン・アーウィンの『解決の謎--ポー、ボルヘス、そして分析的探偵小説』(The Mystery to a Solution: Poe, Borges, and the Analytic Detective Story by John T. Irwin)が気になるなあ。 まあ私は当時の日常世界とか思想世界とかが気になるタチなので、歴史的記述が全く欠けているこういう分析にはあまり面白さを感じないのです… |
No.471 | 6点 | 冷たい死- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/03 09:47 |
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1937年出版。Kindle訳は私家版。
検査官(inspector)、チャンバー(chamber)とか、変な訳語が時々出てきて、原文が透けて見えるような直訳調。でも意外と読むのにストレスがあまりない日本語になっている(平明な文章のフリーマンだからだろう)。小説の文章としてはメリハリの付け方が不十分だが… 夫が英国人のようで、英国の風習や制度などにも誤解は無さそう。これが初めての翻訳らしいけど、訳者は翻訳ミステリの読者ではなかったのでは?(inspectorを知らないからねえ…) この翻訳者のソーンダイクものは、変に工夫したタイトルが多いけど直訳のタイトルにして欲しいなあ。今回の場合は米版Death at the Innという代案もある。まあどっちもパッとしないタイトルになっちゃいそうだが… (『自殺か?』『インにて死す』) まだ細かく分析してないけど、私は結構楽しめました。なにせこの小説、インクエストの情報が豊富なんですよ。Felo de Seという用語もインクエスト用語と言って良いだろう。それに作中現在は1929年のロンドンですからね。私の興味の中心どストライクです。 ミステリ的には、そうくるか?という話。ゆっくりした話の流れは、いつものフリーマン調で、牡蠣のごとく口を閉ざすソーンダイクにイライラしなければ、楽しい読書です。 トリビアは後ほど。 |
No.470 | 7点 | エドウィン・ドルードの謎- チャールズ・ディケンズ | 2025/02/25 16:42 |
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いや、素晴らしい。
ディケンズの長篇を読むのは初めてですが、文章の充実が半端ないですね。全てのモノ(生物・無生物を問わず)に生き生きと息を吹き込む魔術的表現力。隙があったらこのテクニックをねじ込むので、長くてくどい文章ですが、クセになったら病みつきになりますよ。それにキャラクターの個性の演出が凄い。悪ガキのデピュティが特に気に入りました。 『アンジェリーナ・フルード』を読まなければ、書庫の片隅に確実に眠っていたはずの作品なので、フリーマンさんに感謝です。 まあ作品としては「未完」なのですが、途中までの筋だけでも非常に面白い。「未完だから有名」ではなくて、完結してても名作として評価されたのでは?と思いました。 映像化もぜひ見たいです。なお、BBC2012[1時間x2]が某動画サイトで見られます。見どころ数カットが冒頭にあったので、それだけ見ました。当時を再現したドラマ化のようで、雰囲気は良さそう。でも、見どころでも犯人を明示しちゃってる。話も完結させてしまっているようですけど、そこはちょっとどうかなあ。(まあ原作に忠実に途中でぶち切ったら、視聴者が怒るからしょうがないのでしょうけど) さて、トリビア的なものは『アンジェリーナ・フルード』に書きます。 ついでに『エドウィン・ドルードの失踪』も発注しちゃいました。後でHMMに載ってたアームチェア・ディテクティブ誌の解決篇も読んでみる予定ですが、当面の間は、本書の解説も読まず、自分のアタマの中でぼんやり続きを妄想したいです… しばらくディケンズ漬けになるかも… という恐ろしい予感がいたします。 |