皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
弾十六さん |
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平均点: 6.14点 | 書評数: 528件 |
No.488 | 7点 | 不可能からの脱出―超能力を演出したショウマン ハリー・フーディーニ- 伝記・評伝 | 2025/04/11 10:34 |
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国会図書館デジタルコレクションで読了(2ページ分の欠落あり)。松田道弘さんの本、結構NDLdcに登録されている。
フーディニの手錠はずしなどのトリックを(多分こうだろうと)解説。松田さんだけに、頷ける説明。『フーディーニ!!』と合わせて読むと尚更面白いと思う。 |
No.487 | 6点 | ドラゴン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2025/04/10 21:03 |
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1933年出版。初出Pictorial Review 1933-06〜11, 挿絵Carl Agnew。創元推理文庫で読みました。
不可能犯罪めいたオープニングと、お互いを「あいつが怪しい」と罵り合うパーティの出席者たち。類型的すぎてサイコーです。 怪奇現象の盛り上げ役もいて楽しい。幕切れも大胆で良いのですが、真相がアレなら登場人物たちの動きが違和感あり。ヴァンスも、知ってたなら、もっと最初からアレすれよ… はいつものパターンですね。 でもまあ楽しめるオハナシでした。 舞台装置は実在のものらしくて、図面が広めに展開、どうなるのかな?と思ってたら、ああ、そうなんだ… というのが最大の意外性でしたよ。 トリビアは気が向いたら。暑い八月は1928年だろうか?データを見つけられなかった… |
No.486 | 6点 | 猿来たりなば- エリザベス・フェラーズ | 2025/04/09 06:10 |
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1942年出版。トビー&ジョージ第4作。
このコンビのシリーズを読んでると、だいたい先行きが想像出来ちゃうのが欠点。 冒頭は「ほほう」と唸る出来だけれど、もっと田舎ってどんよりしてるのでは?と思った。 キャラは全員ヘンテコで、まあメリハリという意味では良いのだが、ドラマという点ではなんだわざとらしいかなあ、と感じてしまった。 トビーの一人称もあんまり効果はなかった気がする。目先を変えただけ? |
No.485 | 5点 | ブラック・マスクの世界3 ブラック・マスクの栄光- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/06 02:11 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
---------- (1) Close Call by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1933-01) 「はなれわざ」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点 弁護士ケン・コーニング第三作。原題close callは「ギリギリセーフ」の意味。いつもながら工夫された強引な展開が良い。やりすぎだが、当時なら有り得そうな話。 ---------- (2) 「殺人狂騒曲」フレデリック・ネベル (3) 「重要証拠」エド・ライベック (4) 「強盗クラブ」トム・カリー (5) 「美人コンテスト殺人事件」デイル・クラーク (6) 「死のストライキ」フランク・グルーバー (7) 「シャム猫の謎」ラモン・デコルタ (8) 「拷問以上」C・P・ダネル・ジュニア (9) 「沈黙は叫ぶ」フレドリック・ブラウン ---------- (10) 「裏切りの街」(3)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ジョー・ゴアズ (構成: 木村二郎) 1985-03-28サン・アンセルモの自宅にて。EQ1985-09記事に加筆。 ハメット伝について: ジョンソンはシンパシーが無いが、ノーランとレイマンはシンパシーがありすぎて客観的ではない。三冊合わせてハメットの全貌がわかる。 コンチネンタル・オプの捜査方法はリアルだ。 DKAのラリー・バラードのモデルは自分だろう。 ---------- <解説> 本書出版時には、「東京の東武デパートで<ミステリー・ミステリアス展>というわけのわからぬ名称の催し物が開催されているはず(1986年7月31日~8月12日)」と書いている。ハードボイルドもここまで来たか、という密かな感慨が伺える。 |
No.484 | 5点 | ブラック・マスクの世界2 ブラック・マスクの英雄たちⅡ- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/05 15:37 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
---------- (1) 「ウェイドを救え」ジョージ・ハーモン・コックス (2) 「リンカーンの口ひげ」シオドア・ティンズリー (3) 「ボストンから来た女」フレデリック・ネベル (4) 「賭博師の厄日」W・T・バラード ---------- (5) Blackmailers Don't Shoot by Raymond Chandler (初出Black Mask 1933-12) 「ゆすり屋は撃たない」レイモンド・チャンドラー作、小鷹信光 訳: 評価7点 私立探偵マロリー。ハメットを真似た徹底的客観描写、と小鷹さんが書いていて、ああそうなのか、と初めて気づいた。無茶苦茶な話だが、なんとか成立してるように感じられるのがチャンドラー・マジックなのだろう。マロリーの拳銃はルガー。第一次大戦に従軍して、そのお土産、という設定かも。 ---------- (6) 「雪原の追跡」L・R・シャーマン (7) 「ウインク」J・M・ベル (8) 「初舞台」ドナルド・バー・チドシー ---------- (9) 「裏切りの街」(2)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ビル・プロンジーニ (構成: 木村二郎) 1985-03-27SF近郊の自宅にて。HMM1985-09掲載のものを再編成。 十六、七年前(1969年くらい?)、オークランドの古本屋でパルプマガジンは一冊10セントで売られていた。誰も買わなかった時代。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円) 名無しのオプは良い名前を思いつかなかったから、と話している。昔のタフな主人公に比べて、現在の人間はより「人間的」だという。humanの訳?最後はすべて上手くいく、という小説を読みたいから、最近の私立探偵もの人気があるのでは?と分析している。 ---------- <解説> ノーラン調べでブラックマスクの最高部数は1930年の10万3000部だったという。1934年末にはスター寄稿者(デイリイ、ガードナー、ネベル、チャンドラー、ポール・ケイン)がたくさんいたが部数は6万部少々だったようだ。 |
No.483 | 5点 | ブラック・マスクの世界1 ブラック・マスクの英雄たちI- アンソロジー(国内編集者) | 2025/04/02 23:22 |
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1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。このシリーズ、買おうか迷ってたけど、NDLdcで読めるようになっていたとは!
---------- (1) Straight from the Shoulder by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1929-10) 「ネックレスを奪え」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点 エド・ジェンキンズもの。テンポが良くて実に素晴らしい作品。「探偵雑誌を読む少年は見込みがある」とさりげなく雑誌販促してる。 ---------- (2) 「賭に勝った女」ロジャー・トリー (3) 「黒い手帳」ホレス・マッコイ (4) 「新しいボス」N・L・ジョーゲンセン (5) 「KKKの町に来た男」キャロル・ジョン・デイリイ (6) 「帰路」ダシール・ハメット (7) 「帰ってきた用心棒」ノーバート・デイヴィス (8) 「最後のしごと」L・V・アイティンジ (9) 「白い手の怪」スチュワート・ウェルズ (10) 「裏切りの街」(1)ポール・ケイン <長篇連載> ---------- <インタビュー>ウィリアム・F・ノーラン (構成: 木村二郎) 1985-03-22LAの自宅にて。HMM1985-10掲載のものを再編成。 ノーランは「心はいつも27歳」と言っているが、どうしてそのトシなんだろう。1969年当時、ブラックマスクが一冊2ドルで買える古本屋があったらしい。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円) ---------- <解説>で小鷹さんはブラックマスク一時離脱前のハメットの稿料が「破格の…一語三セント」(p232)だった、としているが、ほんとうかなあ。ブラックマスク創刊号の表紙が当時はビル・プロンジニーニもノーランも見たことが無い、という話題で盛り上がっているが、現在はFictionMags Indexでちゃんと見ることが出来る。 |
No.482 | 5点 | 13の判決- アンソロジー(海外編集者) | 2025/03/31 16:52 |
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1978出版。ジュリアン・シモンズ編。こちらはデテクション・クラブ主催のテーマ別書き下ろしアンソロジー。書籍で持ってるけど、探すのが面倒。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
インクエストねたもあるかも?と期待していました。 ---------- (5) Great-Aunt Allie's Fly-Paper by P. D. James「大叔母さんの蠅取り紙」P・D・ジェイムズ作、真野明裕 訳: 評価7点 ダルグリッシュもの。昔の裁判記録により真相を探る。エドワード朝マニアが出てきて楽しい。今回Flypaperを調べてみた。長細いリボン状のものかと思ったら四角い製品だった。絵で見ると食卓用トレイくらいあった。化粧水に使うって、他の作品でも読んだ記憶あり。何だっけ?(実在のFlorence Maybrick事件(1889年)ですね。殺された夫が精力増強のため砒素を常用してたことも有名) ジェイムズらしい読後感が非常に良い。 (2025-04-07追記) ---------- (6) Pelly and Cullis by Michael Innes 「ペリーとカリス」マイケル・イネス作、池央耿 訳: 評価5点 アプルビイもの。もう隠居している。裁判において陪審員の評決は、どこで確定するのか?という点が面白い。いつも携帯してる、というのがヘンテコだが… タイトルは何かに懸けてるのでは?と直感したのだが、ググっても出てこない。 |
No.481 | 6点 | 密室大集合- アンソロジー(海外編集者) | 2025/03/31 16:26 |
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1981出版。MWA主催のテーマ別アンソロジー。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
編者「まえがき」で発表された有名な「密室傑作長篇10傑」って僅か17人参加のお遊び企画(ホック自身がそう書いている)だったんだね。 (1) The Shadow of the Goat by John Dickson Carr (初出: 大学校内誌The Haverfordian 1926?) 「山羊の影」ジョン・ディクスン・カー作、島田三蔵 訳: 評価6点 バンコラン初登場らしい。豪華な複数密室。当時の1000ポンドは英国消費者物価指数基準1926/2025(78.11倍)で£1=15090円なので、ここでの使い方は異常。舞台は英国の古い屋敷。バンコランは「86人の警察長官のうちの一人」とされている。私は好かんタイプの解決だが、ギリギリOKかな。作者が後年も多用するラッキーパンチ要素もちゃんとある。JDCは最初から密室大好きだったのか!と感慨深い。 |
No.480 | 6点 | 37の短篇(傑作短篇集)- アンソロジー(国内編集者) | 2025/03/31 08:50 |
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1973年出版。確か書籍でも持っているはずなのだが、書庫を探すのが大変。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
巻末の石川喬司、稲葉明雄、小鷹信光の座談が非常に楽しい。稲葉さんが「C・O」と言ってて何?と思ったら「コンチネンタル・オプ」のことでした。 一つ一つ、ゆっくり読んで行きますよ。総合評価は暫定6点で。 ---------- (2) Human Interest Stuff by Davis Dresser(Brett Halliday) (初出Adventure 1938-09、挿絵画家不明)「死刑前夜」ブレット・ハリデイ作、都筑道夫 訳: 評価6点 稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。初出誌は全ページ無料公開されている。イラストは二枚だが雰囲気良し。 原文と比べると最後の一行はなんか違う。ハリデイさんの長篇は読んだことはないけど、短篇数作を読んだ印象からとっても良い人なんだろうと感じる。何せヘレン・マクロイを妻にしてた人だしね。 ---------- (8) Don’t Look Behind You by Fredric Brown (初出?EQMM1947-05) 「後ろを見るな」フレドリック・ブラウン作、曽我四郎 訳: 評価6点 稲葉さん推薦作。座談会では最初は雑誌の最後の短篇として印刷…というふうに書いてあって、そういう組み方の初出?雑誌(イラストもあった)をどこかで見た記憶があるのだけれど、上記EQMMでは三番目の短篇。あれ?と思った。短篇集Mostly Murder(1954)では最後になってるけど… 作品の書きっぷりから言って、雑誌最後の短篇じゃないと成り立たないようにも感じるので、本当の初出はマイナーなパルプ雑誌なんだろうか? ところで翻訳の曽我四郎って誰でしたっけ?早川関係だったような朧げな記憶が… 作品内容は才人ブラウンらしいちょっとトリッキーなもの… ってみんな大体知ってるよね? p157 ロナルド・コールマン(Ronald Colman)◆ 1920〜30年代のスター。なので1947年だとすこし古臭い感じ。 p158 細字の思い切った草書体(freehand cursive style) ---------- (9) Off the Face of the Earth by Clayton Rawson (初出EQMM 1949-09) 「天外消失」クレイトン・ロースン作、阿部主計 訳: 評価7点 稲葉さんが本作を推してるのが意外だった。マリーニ探偵の不可能犯罪もの。トリック、ちゃんと出来るかなあ、と思うのと、やる側の心理(プラン立てたとして、これで上手くいく、と思える?)がちょっと不満。TVドラマで見てみたいなあ。 p176 ジプシー・ローズ・リー◆ Gypsy Rose Lee(1911-1970) 1930年代後半ごろからが最盛期か。英Wiki参照。 p177 ペパーの幽霊魔術(Pepper’s ghost)◆ 1862年ロンドンで大評判になったマジック。 p177 ドロシー・アーノルド◆ 米国で有名な失踪者。英Wiki “Dissapearance of Dorothy Arnold”参照。1910年12月10日午後、ニューヨークで失踪。五番街で友達と別れたときセントラル・パークを通って帰ると話していた。当時25歳。 p180 クレイター判事◆ Joseph Force Crater(1889年生まれ) ニューヨーク州最高裁判所判事。1930年8月6日午後9時半ごろ、ニューヨーク西45番街のレストランを出て、二人の連れと別れ、一人タクシーに乗り込んだ後、行方不明となった未解決事件。 ---------- (26) Contents of the Dead Man’s Pocket by Jack Finney (初出Collier’s 1956-10-26) 「死者のポケットの中には」ジャック・フィニイ作、福島正実 訳: 評価7点 稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。とってもコワイ話。まあ結末はこれで綺麗だけど、でも不満だなあ。 ---------- (29) The Sailing Club by David Ely (初出Cosmopolitan 1962-10) 「ヨット・クラブ」デイヴィッド・イーリイ作、高橋泰邦 訳: 評価6点 小鷹さんお勧め。言いたいことは何となくわかるけど… ファンタ爺に過ぎる。当時作者35歳か。ならジジイの気持ちなんてわかるはずないよね。 ---------- (32) The Man Who Read John Dickson Carr by William Brittain (初出EQMM 1965-12)「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」ウイリアム・ブルテン作、伊藤守男 訳: 評価7点 小鷹さんお勧め。実に気が利いている。 p632 ドアは五インチもある厚いかしの木製で、それをしめるためには、両側の壁にがっちりとはめこまれた鉄のとめ金に重い木のかんぬきをさしこまなければならない(a two-inch-thick oak door... could be locked only by placing a ponderous wooden bar into iron carriers bolted solidly to the wall on both sides of the door)◆ 密室ドアの鍵関係のサンプル (2025-04-03記載) ---------- (33) The Locked Room to End the Locked Room by Stephen Barr (初出EQMM 1965-08)「最後で最高の密室」スティーヴン・バー作、深町真理子 訳: 評価7点 著者は経歴不詳となっているが、Stephen Richie Barr(1904-1989)生まれは英国Uxbridgeだが、米国で活躍、数学分野での著作が多い。マーチン・ガードナーの友人、父は米国人数学者James Mark McGinnis Barr(1871-1950)と判明している。 原タイトルは「密室にケリをつける密室」密室論議はこれでオシマイdeath、というようなニュアンスかな? よく出来た密室もの。正しくは「密屋敷」だが。 (2025-04-05記載) ---------- (37) The Gemminy Crickets Case by Christianna Brand (初出EQMM 1968-08)「ジェミニイ・クリケット事件」クリスティアナ・ブランド作、深町真理子 訳: 評価7点 上記のお三方が三人とも「お気に入り」と認めているのが、本作。大昔に読んだはずだけど、すっかり忘れていた。自然な流れが非常に良い。タイトル、由来はJiminy Cricket(ジーザス・クライスト!の言い換え語)なんですね。クリケットが登場するのかな?と期待しちゃった。ワールド・カップ決勝の日(土曜日)が事件の日となっているが、1966年サッカー・ワールド・カップはイングランドがホスト国で、イングランドが初優勝している。(1960年にイングランドで開催されたラグビー・ワールド・カップの可能性もあるかな。こちらも英国が二度目の優勝)。まあ戸外に誰も出ていない、という熱狂ぶりなのでフットボールのほうだろう。ただし「二十年以上前」の事件のはずなので、作中現在は未来なのかな?(1990年ごろか) 「[ワールドカップなので]誰もがテレビにかじりついてる」という文言があった。最初のTV中継は1954年のワールドカップが最初。(訂正: 事件が二十年以上前、ではなくて、登場人物が再会したのが二十年ぶり、という事でした。とすると、作中現在は初出1968年でも大丈夫ですね) |
No.479 | 8点 | 三人の名探偵のための事件- レオ・ブルース | 2025/03/28 04:25 |
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1936年出版。扶桑社ミステリー文庫で読みました。翻訳は素晴らしいが、スミス師の喋りを中村保男サン風にしてくれたらもっと良かった。
レオ・ブルースさんは前からずっと気になって、翻訳書はたくさん買い溜めていたのだが、初めて読んだ。 ポアロ、ピーター卿、ブラウン神父のファンなら必読。同時代のTorquemada評を見ると、ポアロ味は健闘、ブラウン神父味も時々良いが、ピーター卿はちょっと違うなあ(特にビールとダーツのくだり)と書いていた。(Webサイト "The Grandest Game of the World" 参照) まあでも素晴らしいパロディ作品。こういうトリックや筋書きは、探偵小説ファンなら誰もが自分で創作してみたい、と夢見て、そしてなしえることが稀だろう。 ところで作者(本名Rupert Croft-Cooke)は1923-1924にブエノスアイレスで過ごしている(どういう事情なんでしょうね。ヘイスティングスの例でもわかるように、当時アルゼンチンは成長が著しかったので一旗組か)。でもボルヘスが創始したミステリ叢書「第七圏」の初登場は1982年。#354. El caso de la muerte entre las cuerdas, de Leo Bruce (Case with Ropes and Rings 1940『ロープとリングの事件』)。ペンズラー&スタインブランナー編 "Encyclopaedia of Mystery and Detection"(1976)にも作者の項目は無かった。1970年代までは忘れられた作家だったのかも。 トリビアは後ほど。 |
No.478 | 6点 | 三角館の恐怖- 江戸川乱歩 | 2025/03/24 02:27 |
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原作はロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人』(1932)、乱歩さんは光文社から連載探偵小説をせっつかれて、原著者と出版社の了解を得られたら、という条件をつけて自由訳を提案したところ、意外にも光文社がちゃんと条件をクリアしたので、連載することになった、と書いている。
初出: 光文社「面白倶楽部」昭和二十六年一月号から十二月号まで連載(挿絵:富永謙太郎)。私は創元推理文庫の電子版で読みました。初出時の挿絵や読者への挑戦(賞金付き、一等五千円)もちゃんと再録されています。結果も載っていました。 当時の五千円は日本物価指数(戦前東京区部)昭和25年/令和6年(8.46倍)なので42300円。 乱歩さんは原作を最初に読んだ時、探偵小説史上でも素晴らしい傑作だと思ったが、後で良く読んで見るとそこまでの作品ではない、と思い直したようだ。 私は原作を先に読んで、文章が辿々しいところがあるなあ、キャラも書き込み不足だなあ、と思ったが、乱歩さんの翻案がある、と知って、乱歩さんならああいうところを上手く扱っているかも、と思って読んでみた訳です。 でも翻案ではなくて、登場人物を日本に移しただけのかなり忠実な翻訳というレベルだったので、ちょっとガッカリ。まあでもチカラの抜き差しとかメリハリはさすがで、非常に読みやすい。乱歩作品、というほどガッツリ魂はこもってないのが残念です。 以下、トリビア。 p(5%) 双生児です。昔の習慣でわしの方が後に生れたので兄◆ 昔はそういう考えもあったようだ。現在は、先に生まれた方が「兄、姉」と定められている。(2025-03-24追記: 翻訳文からの印象だが、原作では、どちらが長子であるか、明示していないように思われる。兄、弟とあるが、いずれもbrotherの訳語であろう) p(7%) 明治の末… 百五十万◆ 日本物価指数(戦前東京区部)明治43年/令和6年(3425倍)で51億円。 p(10%) 妻のろ◆ こういう言い方があったのか p(16%) 千円札… 百円札◆ 一万円札の初登場は昭和33年(1958)なので、この小説には登場しない。当時の千円札は聖徳太子の肖像、サイズ164x76mm、百円札も聖徳太子の肖像、サイズ162x93mm。 p(21%) 煙硝◆ 現代なら「硝煙」だろう p(24%) 自動拳銃◆ 原作では「45口径の廻転拳銃(revolver)」挿絵はオートマチック拳銃が描かれているが、もしかして乱歩さんはオートマチックではなくリボルバーのつもりで使っているのかも。オートマチックなら薬莢を探すはずだが、全然言及が無い。 p(33%) 自動エレベーター◆ 探偵が不慣れという描写がある。 p(36%) 落語◆ 「松鶴」に「しょうかく」というルビが振ってある。文楽、志ん生、松鶴という並びが良い。 p(36%) 億を超える財産◆ 原作でも本作でも財産の額はぼかされている。 p(51%) 交換機の故障◆ 当時の日本では電話交換機の故障がよくあったのか。原作では単に繋がらない、という場面。 p(91%) 万年筆型の豆懐中電灯◆ 当時でもそういうのがあったようだ。原作では「小さな懐中電灯」 |
No.477 | 5点 | エンジェル家の殺人- ロジャー・スカーレット | 2025/03/23 21:39 |
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1932年出版(Doubleday Crime Club)。創元推理文庫を元にした国会図書館デジタルコレクションで読みました。
文庫あとがきでは謎とされたブレアさんのやや詳しい情報が英Wiki "Roger Scarlett"に掲載されています。Roger Scarlettは女性二人の共同筆名、二人とも女子大出(Bryn MawrとVasser)で1920年代にホートン・ミフリン社で出会ったようですね。 多分EQ同様、ヴァンダイン・バブルの影響で探偵小説は金になる、と書き始めたのでは?と思いました。 本作はシリーズ4作目。二人の老人に支配されたボストンの屋敷が舞台で、作中現在は1932年と明記されています。図面が豊富なのが楽しいのですが、キャラが非常に弱いですね。ミステリ的には大ネタを粗末に扱っている感じです。こうなると乱歩さんの翻案が気になりますね。キャラを上手く扱うと面白い話になりそうなんですが… 弁護士がかなりのアレな人で、この人大丈夫かなあ、と思いました。 原文も入手出来ず、トリビア的に面白いネタもありません。 |
No.476 | 7点 | ビッグ・ヒート- ウィリアム・P・マッギヴァーン | 2025/03/23 00:50 |
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1953年出版。初出週刊Saturday Evening Post誌1952-12-27〜1953-2-7(7回連載、挿絵William A. Smith)。私は創元推理文庫版を国会図書館デジタルコレクションで読みました。
最近、人並由真さまのマッギヴァーン作品評を読んで、そういえば昔フリッツ・ラング監督の『ビッグ・ヒート』(1953)を観たことがあり、マッギヴァーン原作だったのか!と気づいて、さらに初出がポスト誌だと知って、原作を読みたくなりました。 映画の筋はあらかた忘れていたのですが、読んでみると、ところどころぼんやり覚えていて、まあでもとても楽しめる娯楽作品です(嫌なシーンも多いけど)。米国人が空気を読めない、なんて嘘だよね。皆んなこの作品では圧を感じてるじゃないか、と思いました。 マッギヴァーンは短篇を読んだことがあるのですが、長篇は初めて。FictionMags Indexで短篇を年代順に見ると、1940年から1945年まではほぼSFばっかり、1946年以降はミステリや西部小説などが増えている。1952年末に突然スリック雑誌のポスト誌連載から映画化の流れ。その後、映画化作品が続き(過去の長篇も映画化されている)… という感じで、本作が出世作なのではないか、と思う。 SF出身なので、本作でも見せる理想主義的な青っぽさがある人なのかも、と感じました。 ポスト誌アーカイヴ(有料)で挿絵を見ましたが、実に良い絵ですよ! そして映画も再見しました。結構場面を覚えてましたが、原作クレジットが「サタデー・イヴニング・ポスト誌連載による」となっていて、一種のタイアップか。ステーキの夕食がポテトを丸ごと焼いた?のをゴロンと付け合わせで食べててビックリ。バーでのビールの値段は35セント。脚色は工夫されてて、原作にかなり忠実ですが、いきなり中ネタを割ってるので、読んだ後で見た方がいいかなあ。 戦争を体験した市民のシーンも再現されてて、ああ、そういう感じが残ってるのね(映画公開当時は朝鮮戦争が休戦となったばかり)と感じました。 小説のほうでも映画でも、結構上手に構成されてて、ハラハラ、ドキドキ出来ます。まあ現在の管理が行き届いた世界では、組織と対決するなんて、個人では無理無理感が強すぎて、とてもシンジラレナイ、と感じちゃう人が多いと思いますけど… |
No.475 | 7点 | 忘れられた殺人- E・S・ガードナー | 2025/03/21 22:49 |
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1935年出版。当初はTHE CLEW OF THE FORGOTTEN MURDER by Carleton Kendrakeとしてお馴染みモロウ社から出された。私は創元推理文庫で読了。
この探偵と相方のコンビが良い。いつものESG流の込み入ったプロットだが、展開が良くてあんまり混乱しないように鼻面を引き回される楽しさがある。 残念ながら原文は入手出来ませんでした。 トリビアは後ほど。 |
No.474 | 5点 | キャッツ・アイ- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/16 05:03 |
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1923年出版。初出Westminster Gazette紙連載1923-04-07〜1923-06-25(挿絵無し)。私はちくま文庫版で読みました。
著者「まえがき」に書かれている「著名な警察幹部に起きた大変な災難」が気になるだろうけど、「訳者あとがき」でちゃんとネタバラシしてくれてるから、ご安心ください(さすが渕上さん)。でも何で長篇に触れて無いのかな?あっちの方があの事件にバッチリ言及してますよ! 作中現在は『アンジェリーナ・フルード』(作中現在1919年)の前であることだけが確実(こちらも「訳者あとがき」で触れている)。自動車の時代になってるので、1910年代後半だろう。私は未読なので『ヘレン・ヴァードン』との関連はよくわからない。そちらの作中現在からもっと年代が絞られる可能性はある。実は本書の細かい分析はまだ行なっていないので、年代確定のヒントがもっとあるのかも? 本作には、英国歴史と聖書の話題が出てくるので、日本人にはちょっと取っ付きにくい作品だろう。あのズレは英国人には常識?私は古楽関係で知識はあったけど… ミステリ的には、推理味が薄い。色々振り回されるのが楽しい人向けだろう。ソーンダイクは、いつもの通りダンマリだしね。アンスティを無邪気に危険に晒すなんて結構酷い人だ。 冒頭から事件が発生して、テンポいいなあ、傑作かも?という期待は裏切られたが、一晩で一気に読んじゃいました。アンスティ・ファンにはおすすめです!(そんな奴、いるのかなあ) トリビアは後ほど。 |
No.473 | 6点 | 偽装を嫌った男- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/14 05:55 |
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1925年出版。原題 “The Shadow of the Wolf” (『狼の影』という素敵なタイトルを、なぜヘンテコな訳題にしちゃうんだろう?) 中篇The Dead Hand(Pearson's Magazine 1911-10&-11)の長篇化。Kindle版は私家版であるが、翻訳は直訳調だが、読みやすい。夫の手紙(第12章)をもっと乱暴な文体にすべき、と思った以外、大きな不満は無い。
訳者あとがきで言及している、原文の変な点って、二十ポンドと五ポンドの齟齬だろう。第1章では「二十ポンド」と書かれているのに、第8章では同じものが「五ポンド」とあり、第7章&第8章で五ポンド紙幣のサイズとして記載された数値(eight inches and three-eighths long by five inches and five thirty-seconds wide, =213x134mm)は、二十ポンド紙幣のもの(8 1/4" x 5 1/4", =211x133mm)なのだ。実際の五ポンド紙幣は一回り小さい7 11/16" x 4 11/16", =195x120mmである(数値はいずれもBank of Englandより。ものによって若干違う場合もあるらしい)。中篇では二十ポンドだったものを、一旦はそのまま長篇化したけれど、後で状況を考えると五ポンドのほうがあり得るなあ(なにせ危険が高まっているのだ)と修正したが、第1章の「二十ポンド」と第7章&第8章のサイズを直し忘れた、という事だと思う。 本作にもフリーマンの社会改良の視点があり、今回は離婚問題である。だが、ちょっと間違っている。作中現在は1911年だが、この年だと妻からの離婚申立は、夫の不倫だけでは認められず、本件のケースなら、夫の不倫に加えて二年以上の遺棄がなければ申立理由とはならない。本書の状況は遺棄が数か月程度なので、今回、離婚申請が認められる可能性があるように書かれているのはおかしい。しかし1923年の離婚法改正で夫の不倫だけでも訴えは可能となったため、出版時なら離婚が認められる可能性はある。なので事件を1911年に設定していたはずなのに、作者がうっかり出版時の状況を読み込んでしまったのだろう。離婚が申立可能な状況設定は、長篇のテーマのキモの一つなので、長篇化を行ったのは1923年以降の可能性が高いと推測できる。 肝心の本書の内容は、中篇を引き延ばしたので、ちょっと軋みを感じるところがあるが、情感のある小説に仕上がっている。ミステリ的には小ネタな作品。妻が夫を冷静にディスるところが面白かった。 トリビアはのちほど。 |
No.472 | 6点 | 謎ときエドガー・アラン・ポー- 評論・エッセイ | 2025/03/13 11:01 |
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2025年新潮選書。
「犯人はお前だ」(1844)を丁寧に読み込む企画。確かに合理的な分析でとても面白いけど、全然ポー自身の姿が浮かんでこない。著者が人工的な世界で遊んでいるだけ。 ところが本書を全部読んでみると、ポーの諸作品には共通テーマが隠れてるのでは?という印象になる。じゃあ、この分析を応用して、この本では全く触れられていない「マリー・ロジェの謎」を読み解いてみたくなる。なぜ探偵小説がテーマの本書に、他のデュパンもの(「モルグ街」&「盗まれた手紙」)は分析されているのに、「マリー・ロジェ」だけが言及さえされていないのか?それは著者の論旨に全く合致してないからという理由だけなんだろうか? ちらりと紹介されてるジョン・アーウィンの『解決の謎--ポー、ボルヘス、そして分析的探偵小説』(The Mystery to a Solution: Poe, Borges, and the Analytic Detective Story by John T. Irwin)が気になるなあ。 まあ私は当時の日常世界とか思想世界とかが気になるタチなので、歴史的記述が全く欠けているこういう分析にはあまり面白さを感じないのです… |
No.471 | 6点 | 冷たい死- R・オースティン・フリーマン | 2025/03/03 09:47 |
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1937年出版。Kindle訳は私家版。
検査官(inspector)、チャンバー(chamber)とか、変な訳語が時々出てきて、原文が透けて見えるような直訳調。でも意外と読むのにストレスがあまりない日本語になっている(平明な文章のフリーマンだからだろう)。小説の文章としてはメリハリの付け方が不十分だが… 夫が英国人のようで、英国の風習や制度などにも誤解は無さそう。これが初めての翻訳らしいけど、訳者は翻訳ミステリの読者ではなかったのでは?(inspectorを知らないからねえ…) この翻訳者のソーンダイクものは、変に工夫したタイトルが多いけど直訳のタイトルにして欲しいなあ。今回の場合は米版Death at the Innという代案もある。まあどっちもパッとしないタイトルになっちゃいそうだが… (『自殺か?』『インにて死す』) まだ細かく分析してないけど、私は結構楽しめました。なにせこの小説、インクエストの情報が豊富なんですよ。Felo de Seという用語もインクエスト用語と言って良いだろう。それに作中現在は1929年のロンドンですからね。私の興味の中心どストライクです。 ミステリ的には、そうくるか?という話。ゆっくりした話の流れは、いつものフリーマン調で、牡蠣のごとく口を閉ざすソーンダイクにイライラしなければ、楽しい読書です。 トリビアは後ほど。 |
No.470 | 7点 | エドウィン・ドルードの謎- チャールズ・ディケンズ | 2025/02/25 16:42 |
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いや、素晴らしい。
ディケンズの長篇を読むのは初めてですが、文章の充実が半端ないですね。全てのモノ(生物・無生物を問わず)に生き生きと息を吹き込む魔術的表現力。隙があったらこのテクニックをねじ込むので、長くてくどい文章ですが、クセになったら病みつきになりますよ。それにキャラクターの個性の演出が凄い。悪ガキのデピュティが特に気に入りました。 『アンジェリーナ・フルード』を読まなければ、書庫の片隅に確実に眠っていたはずの作品なので、フリーマンさんに感謝です。 まあ作品としては「未完」なのですが、途中までの筋だけでも非常に面白い。「未完だから有名」ではなくて、完結してても名作として評価されたのでは?と思いました。 映像化もぜひ見たいです。なお、BBC2012[1時間x2]が某動画サイトで見られます。見どころ数カットが冒頭にあったので、それだけ見ました。当時を再現したドラマ化のようで、雰囲気は良さそう。でも、見どころでも犯人を明示しちゃってる。話も完結させてしまっているようですけど、そこはちょっとどうかなあ。(まあ原作に忠実に途中でぶち切ったら、視聴者が怒るからしょうがないのでしょうけど) さて、トリビア的なものは『アンジェリーナ・フルード』に書きます。 ついでに『エドウィン・ドルードの失踪』も発注しちゃいました。後でHMMに載ってたアームチェア・ディテクティブ誌の解決篇も読んでみる予定ですが、当面の間は、本書の解説も読まず、自分のアタマの中でぼんやり続きを妄想したいです… しばらくディケンズ漬けになるかも… という恐ろしい予感がいたします。 |
No.469 | 6点 | アンジェリーナ・フルードの謎- R・オースティン・フリーマン | 2025/02/19 05:39 |
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1924年出版。私は平凡社 『世界探偵小説全集16』(1930)を元にした国会図書館デジタルコレクションで読みました。本字旧かな遣いですけど、邦枝 完二さんの翻訳は非常に読みやすい。ざっと原文を見ましたが逐語訳のようです(訂正: 七割ほどの抄訳でした)。ただ平凡社版はタイトルがね… (あえてタイトルを明記しませんよ!)一応ミスディレクションは施されている?のですけど、ダメだコリャ物件でした。どうしてこう言うタイトルが良いと思ったんだろう?見たら脳から消してくださいね(無理です)。全くの白紙状態で読むには、新訳を読むのが吉です(解説で戦前訳のタイトルに触れていますので、解説は読後に読んでくださいね)。
肝心の本作の内容は、ウブな新人医師がベテラン医師の不在時の代診をやってる時に、謎の事件に巻き込まれる、という発端(このパターン、結構フリーマンは使いますよね)で始まる、ちょっとのんびりした探索もの。なかなか進展しないのでイライラする人もいるかも。私は当時の英国の生活描写を楽しみました。インクエストの場面も出て来ます(翻訳では「裁判」と勘違いしてるけど)。 読後、おやおや、と思う人が多いでしょうけど、私は十分満足しました。事前情報無しで読みたかったなあ、という不満はありますが。 面白いネタが少しあるので、トリビアを後で補充します。 (以下2025-02-23追記) 結局、新訳も気になって購入しちゃいました。戦前訳と単純に語数を比較すると戦前訳は新訳の75%、確かに細かく戦前訳を検討すると、所々(特にあまり筋と絡まない固有名詞関係)を抜き、繰り返しと感じられる主人公の内省が諸所でばっさり削られている。しかし戦前訳でも全体の雰囲気は十分残しており、肝心なところは逐語訳といって言いくらい、一語一語をちゃんと翻訳している。文章も引き締まってリズムも良い。 ところで新訳の解説(井伊順彦)で重大な指摘あり。この作品ディケンズ『エドウィン・ドルードの謎』(1870)へのオマージュらしいのだ。確かにタイトルもMystery of Edwin DroodとMystery of Angelina Froodで相応関係にある。筋も似てるらしい。本作がディケンズ案件であることには気づいていたのだが(六人の貧しい旅人の宿とかディケンズが晩年住んでたロチェスターのガッド・ヒルなど)、エドウィン・ドルードを読んでからまた出直しです! (以下2025-03-02追記) Wikiでは戦前訳のタイトルがデフォルトになっちゃっている。更に「大幅な抄訳」という注釈もついているが、これは新訳の解説を鵜呑みにしただけだろう。新訳タイトルをWikiの項目タイトルに変更して欲しいなあ。(自分でも試みましたが、上手くいきませんでした…) さてトリビアです。原文はGutenberg Australiaのを参照しました。ページ数は、基本、論創社のもの。戦前訳は「平凡p999」と表記。新訳だと明示したい時は「論創p999」と表記した。 p93, p111, p220から「四月二十六日、土曜日」なので、該当は1919年だが、p173とp174では曜日がずれて該当は1914年。でも「四月二十六日土曜日」は何度も繰り返されている重要な日付と曜日であり、動かせない。なので1919年で確定。その二週間+数日前の1919年4月10日ごろが第二章(ロチェスター篇)の開幕時期だと思われる。なお冒頭は、そこから更に一年少し前(p20, p37)だが、季節すら明示されていない。 価値換算は英国消費者物価指数基準1919/2025(65.99倍)で£1=12496円、1s.=625円、1d.=52円。 まず戦前訳も新訳もどっちも当時の英国の制度、インクエストと法的別離の制度を誤解しているので、少々長くなるがここで解説。 まずインクエスト。戦前訳では裁判と同一視しており、裁判官、判決、裁判所などの用語が平気で出てくる。新訳でも「判決(verdict)」、「結審(concludes the case)」、「裁判官が席を立つや(As soon as the court rose)」など、裁判用語が顔を出している。本書で検死官が陪審員に注意している次の教示がわかりやすい。 「検死法廷は刑事裁判とは違うのです。故人の死因を特定するのが我々の役割です。もし、証拠から被害者が殺害された事実が浮かび上がれば、判決(verdict: 正訳は「評決」)の中でそう述べるべきです。さらに、もし証拠が、明らかに特定の人物を殺人犯であると示しているなら、同様に、判決の中で名指しすべきでしょう。しかし、そもそも我々は犯罪を捜査しているわけではありません。故人の死因確定がこの審問の主たる目的(we are investigating a death)であり、犯罪捜査は警察の仕事です(p254)」こんな説明が必要だという事は、英国1922年の一般人でもインクエストを正しく理解していなかったのだ。インクエスト記事、そろそろ書かなくちゃ… 次に法的別離(別居)。戦前訳も新訳も、英国のこの制度(judicial separation)を「離婚」だと勘違いしている。「論創p40: 離婚を申し立て(applied for a judicial separation); 平凡p53: 離婚の手続き」、「論創p63: 法的保護(a judicial separation); 平凡p86: 離婚の手続き)」、「論創p284: 離婚を申し出る(could have applied for a separation); 平凡p344: 別居を願い出れば[ここは正解]) 当時の離婚要件は非常に限定されており、夫側は妻の不倫で申立可能だったが、妻側からは夫の不倫は理由にはならず、男女平等の観点から、1923年法改正でやっと夫の不倫が申立事由として認められた。今回の事例で離婚事由となりそうな「虐待」が申立可能となったのは更に遅く1937年改正時である。そのため英国では古くから「法的別離」(夫婦の同居義務を免除する)という代替手段が用意され、利用されている。 さて『エドウィン・ドルードの謎』との関連性については、本作はフリーマンが考えた『ドルード』完結篇、という説に全面的に賛成。他にもディケンズ関連が豊富に散りばめられているが、私はほとんどディケンズを読んでないので、見逃しもありそう。気づいたものはトリビアに採り上げました。 登場する地名は全部が実在のものなので、訳者あとがきで推奨されてる様に、Web上でRochester観光が楽しめる。原綴りが無いと検索しにくいが、かなり長くなるので、ここではカット。原文を参照願います。StroodからRochesterを経由してChathamまで歩いて50分の距離、この位置関係をまずは把握しておこう。城壁観光にはWebのロチェスター旧城壁地図(p56に記載)が非常に便利。 p9 ばち指(clubbed fingers)◆ (平凡p7: 棍棒型) p9 巨大な洋ナシ(great William pear)◆ Williams pearは英国の言い方、米語ではbartlett pear、瓢箪型の西洋梨の代表種のようだ。日本では「バートレット」が定訳か。(平凡p7: 大きな梨) p10 外套(a cloak)◆ ここは「マント」が好み。 p14 破損した錠前と折れ曲がったレンチ(disordered lock and loosened striking-box)◆ striking-boxはボルトの受け金具。試訳「ずれたボルトと外れそうな受け金具」 (平凡p15: [訳なし]) p16 [訳し漏れ](sat down before the gas fire)◆ 季節は秋か冬だろうか。(平凡p18: ストーブの前に腰をおろし) p18 結局なんの結論も出せずに終わった(they led to nothing but an open verdict)◆ open verdictはインクエスト用語。現時点での証拠を検討しても、死亡に至る状況は不明、という評決。 (平凡p20: 別に何物を得られなかった) p19 よくないことが起きる前は、前兆の影が差すものだ(Coming events cast their shadows before them)◆ 19世紀に流行っていた言い方。元ネタ不詳。 p20 一年以上経過(Rather more than a year had passed) p22 船乗りの間で"グリーン・リヴァー"の呼称で知られる鞘付きナイフ(sheath-knife of the kind known to seamen as "Green River")◆ マサチューセッツ生まれのJohn Russellはナイフ製造業を1834年にGreenfieldで創業。1836年に工場をGreen Riverに移し、会社名をJ. Russell & Co. Green River Worksとした。ナイフの刃に会社名がしっかり刻まれている。knife green river traditionalで検索。5インチ刃が標準か。(平凡p26: 海員用の大きな短刀) p23 建築・不動産鑑定業(Architects and Surveyors)◆ 建築関係の言葉らしい。本作の描写なら「不動産屋」で良いか。(平凡p27: 工務所) p25 たぶんハビーです(Hubby, I ween)◆ Husbandか (平凡p30: 亭主の奴) p25 ベロアの帽子(a velour hat)◆ (平凡p31: 天鵞絨の帽子) p26 旧街道(old street) p30 お洒落な若者(young “nut”)◆ 当時の新語? (平凡p38: 気取屋) p30 どう見ても「風変わりな」具合に前髪を後ろに… (From his close-cropped head, with the fore-lock "smarmed" back in the correct "nuttish" fashion)◆ ファッション資料として、髪型描写を原文のみ抜粋 (平凡p38) p32 メッサーズ・ジャップ氏とバンディ(Messrs. Japp and Bundy)◆ ケアレスミス。試訳「ジャップ&バンディ社」 p33 書類をひとまとめにして赤い平ひもで束ねると(Folding the documents and securing them in little bundles with red tape)◆ 「有名な」赤テープ が比喩(官僚仕事)ではなく、実際に出てきた。(平凡p43: 書類を纏めて、それを赤いテープで縛って) p35 よく通る甲高い声(in the clear, high-pitched voice)◆ (平凡p45: ハッキリした癇高い声) p37 一年少し前の真夜中(a little more than a year ago, about twelve o'clock at night)◆ ここでも戦前訳のほうが逐語訳(平凡p47: 一年計り前… 夜の十二時頃) p38 もうすっかり知られてしまった(the cat is out of the bag)◆ 戦前訳が可愛い。(平凡p48: 猫は袋から出て仕舞った) p39 夫は別居に同意せず(He wouldn't agree to the separation)◆ 戦前訳では省略 p40 船医(ship's surgeon)としてアフリカ西岸(West Coast… West Africa)◆ フリーマン(Gold CoastのAccra)もコナン・ドイル(捕鯨船 Hope of Peterhead)も船医の経験あり。(平凡p52: 阿弗利加の西海岸; 「船医」は省略) p43 慈善家のリチャード・ワッツ(worthy Richard Watts)◆ ディケンズ他の短篇連作 "The Seven Poor Travellers"(1854)の元ネタ。コリンズ短篇集『夢の女・恐怖ベッド』(岩波)の「盗まれた手紙」(四番目の貧しい旅人の話)に詳しく書いたので参照願います。 p43 ただし悪党と弁護士は除く(must be neither rogues nor proctors)◆ proctorはp141を先取りせず、誰もが「何故そうなの?」と思う「弁護士; 代書人」と訳すべきところ。(平凡p58: 但し、乞食や浮浪人は除外する) p45 売春宿(Turkish baths)◆ ああ、昔の日本同様、そういう意味もあったのか… 周りが嘲っているので確実にその意味をこめているはず。なお日本の性風俗店として「トルコ風呂」の名称を使った店がオープンしたのは1971年が最初らしいので、戦前訳(平凡p60: 土耳古風呂)は英語のイメージか(ただの直訳か)。 p51 馬車(a cab)◆ この時代ならタクシーの可能性が高い。(平凡p69: 馬車)第16章でtaxi-cab 又はcab(戦前訳「馬車」; 新訳「タクシー」)と書かれているのはdriver(戦前訳「御者」; 新訳「ドライバー」)が運転しているので間違いなく自動車である。(論創p255) p51 十シリング(a ten shilling note)◆ 当時の10シリング紙幣は10 Shilling 3rd Series Treasury Issue(1918-10-22〜1933-08-01)、サイズ138x78mm、緑と茶。 (平凡p69: 五志の紙幣[ケアレスミス]) p54 サム・ウェラーのことばを借りると---"覗き見"(to use Sam Weller's expression—"a-twigging of me.") ◆ 元ネタ(ディケンズ "Pickwick Papers" 第20章 'They're a-twiggin' of you, Sir,' whispered Mr. Weller)は主人公を事務員たちが好奇心もあらわに上から「盗み見してる」場面で、本書の場合も「盗み見」が適切だろう。 p55 葬儀屋の女房みたいな人(Looks like an undertaker's widow)....ウィロー(柳)と韻を踏んでる(Rhymes with willow)◆ 原文では名前Gillowを揶揄っている。widowも仲間に入れてあげて。(平凡p73: 葬具屋の後家さんみたいな人… 陰気な名前) p55 おお、我が帽子の周りを取り囲む緑色の--(Oh, all round my hat I'll wear the green—)◆ willowと続く。愛した女を失った悲しみで緑色の柳を喪章としてつける、という歌。メロディに乗せて歌えるように「ぼ〜しには、つけるよ緑…」はいかが?英国19世紀の俗謡 “All Around My Hat”(Roud 567&22518, Laws P31)英Wikiに項目あり。(論創p55: 平凡p73: あはれ、わが/帽子のまはりに/われは付けむ/緑の…) p55 おお、良き知らせをシオンに伝える者よ(O! Thou that tellest good tidings to Zion!)◆ ヘンデル『メサイア』第9曲の冒頭、元はIsaiah 40:9(KJV) O Zion, that bringest good tidingsから。メロディに乗せて歌えるように「良き知〜らせを伝えよ、シオンに」でどうでしょう?「に」がちょっと苦しい。(平凡p74: シオンの御山へ、よきおとづれを告げたまえる主よ) p56 彼はいいやつ〜だ(For-hor he's a jolly good fell—)◆ メロディに乗せて歌えるように「彼はとてもいい奴…」にしたいなあ。(平凡p75: フォア、ヒーズ、ジョリー、グッド、フェロー) p56 城壁(the remains of the city wall)◆ WebサイトCastellogyに"Rochester city walls"という記事があり、ロチェスター市の城壁の地図があった。(平凡p77: 此の町に残っている城壁) p57 ステイプル・イン(Staple Inn)◆ (平凡p77: ステープル・インと云う田舎の宿屋に) 戦前訳は誤解している。ここはロンドンにある元法学院宿舎だが、のちに一般のアパートに転用された。『ドルード』第11章からグルージャス氏の住処として登場する。 p57 ジャップは... 鍵を引き抜き(he drew out the key)◆ ケアレスミス。ここは「バンディ」 p59 雇用の創出(create employment)◆ 第一次対戦後の不況で、失業対策事業が流行っていたのだろう。トミー&タペンスも戦後は貧乏に苦しんでいた。英国社会が社会主義的な福祉国家の政策を次々と実現したのもここら辺の時期からである。(平凡p80: 仕事の口を作るため) p59 生石灰(quicklime)◆ この資材は『ドルード』第12章に出てくる。そこでもブーツに言及。 p62 亡きベイツ夫人と比べなければ(without competing with the late Mrs. Bates)◆ 背の高い女の話題なのでAnna Haining Bates (旧姓 Swan; 1846-1888)だろう。カナダ生まれ(スコットランド系)で身長2.41m、史上稀な大女。サーカス在籍中のハリファックス興行の時、Martin Van Buren Bates("Kentucky Giant", 1837-1919, こちらは2.36m)と知り合い、超ビッグカップルの結婚は1871年ロンドンで行われ、非常に話題となった。戦前訳も新訳も誰だかわかってない。(平凡p84: 故人になった女優のベーツ夫人に比べても遜色の無い方でせう; 「女優」は多分当てずっぽう) 試訳「大女の故ベイツ夫人と比べたらとても敵いませんけど」 p64 ロチェスター大聖堂(Rochester Cathedral)◆ 11〜13世紀に建てられた壮麗な大聖堂。 (平凡p87: ローチェスタア寺院) 『ドルード』のクロイスタラム大聖堂のモデル。 p67 ジャスペリン水門小屋のそばに悪くないティーハウスが(very comfortable teashop close to the Jasperian gate-house)◆ (平凡p89: 附近の喫茶店)この門付家屋は15世紀初頭の建築で、『ドルード』でジャスパーが住んでいた門番小屋のモデル。それにちなんで現実世界でも「ジャスパーの門番小屋」と呼ばれるようになった。Webに"Jasper's Gatehouse, Rochester, Kent"(1911) by Ernest William Haslehust (1866-1949)という絵画あり。『ドルード』を読んでたらJasperian gate-houseで気づくはずだが… p67 表向きは医師として働いている(Nominally... I am engaged in medical practice)◆ (平凡p90: 医院の権利を買った) p69 橋を渡り、ストラッド駅へ向かった。駅の中央改札で(over the bridge to Strood Station, at the main entrance)◆ 英国や欧州の駅には、出入口はあるが「改札口」はないはず。 p70 盗賊の洞窟にこっそり隠れて暮らすチャーリー王子(Prince Charlie, lying perdu in the robbers' cavern)◆ Charles Edward Stuart(1720-1788)のことだろう。Battle of Culloden(1746)に負け、スコットランド北部を逃げ回ったときにBorrodale beachの洞窟に隠れたという伝説あり。もしかして作者は意図的にこの人物に言及してるのか? p72 サム・ウェラー言うところの"修道院の附属物"(Sam Weller would call a 'priory attachment')◆ ディケンズ "Pickwick Papers" 第39章 ウェラーは"prior attachment"(先に惚れる)を"priory 'tachment"と言い間違えている。「訳注: 内緒の恋人」はちょっとずれてるかも。試訳「イロの目遣い」「流しの目を送る」 p78 ギャズヒル(Gad's Hill)◆ (平凡p98: ガッド丘) この散歩は歩いて一時間ほど。Gad's Hillはディケンズが1856-1870に住んでいたGad's Hill Placeだろう。'Gad's Hill' The Residence of Mr Charles Dickens 1870で検索。 p79 通りの向かいにある穀物取引所の建物から吊り下がる、寝床用あんかのような形の巨大な時計(at the great clock that hangs out across the street from the Corn Exchange, like a sort of horological warming-pan) ◆ (平凡p99: 青物市場の大時計; 戦前訳は大幅に描写を省略) この時計はWiki "Corn Exchange, Rochester"に項目あり。ディケンズは「世界最高の時計」と評している。 p82 十シリングの懸賞金 (ten shillings reward)◆ 紛失物に提供 (平凡p102: 十志の賞金) p83 探偵きどり(sleuth-hound)◆ (平凡p105: 探偵犬) p85 金魚を出す手品(the gold fish trick)◆ WebサイトMagicpediaに項目あり。Professor Mingusが1893年に創作し、ロンドンで活躍していたChung Ling Sooも演じていたが、トリックをバラしたようだ。(平凡p107: 金魚の手品) p86 賞金額が多すぎるんじゃないかな。支払い可能な額か、確認しなくちゃ (Japp writes a shocking fist. I must see if it is possible to make it out)◆ ここは戦前訳が正しい。(平凡p109: ヂャップの文字は読みにくいんですからね。どんな風に書いたかしら) p90: パートリッジ医師のラベル(Dr. Partridge's labels)◆ 原文には何の説明もないが、引き継ぎ後、間がないので、前任者が残してあったラベルを貼ったのだろう。(平凡p114: パアトリッチ医師のレッテル) p91 新聞(Sunday paper)… 四月末日(at the end of April)◆ p111で判明するが、この日は27日であり、末日ではない。(平凡p115: 今朝の新聞... 四月末) p92 玄関が施錠されていない(I found the door unbolted and unchained)◆ ボルトとチェーンを省略 (平凡p117: 閂が懸かって居り; 戦前訳はケアレスミス) p93: 時間が遅すぎます。いくら土曜の夜とはいえ(but it was rather late, though it was Saturday night) ◆ 日曜日は店が閉まるので、多少夜遅くても買い物に行く可能性はあるが… というニュアンスかな?(平凡p117: 時刻は遅うございましたけれど、土曜日でしたから) p97 ジャップは態度をがらりと変えて言った(he replied, with a sudden change of manner)◆ ケアレスミス。ここは明白に「バンディ」 p99 病院(the hospital)◆ St Bartholomew's Hospital, Rochester、英Wikiに項目あり。 p99 軍事病院(military hospital)◆ Fort Pitt Hospital, Rochester、第一次大戦の負傷者用に拡大されたが1922年閉鎖。英Wiki "Fort Pitt, Kent"に解説あり。(平凡p126: 衛戍病院) p101 第一便の配送物(by the early post) p104 デルモニコ・レストラン(Delmonico's)◆ ニューヨークのレストラン(1827-1923)が英国でも知られていたようだ。(平凡p130: [訳なし]) p106 判決が下される(the verdict agreed upon)◆ 試訳「評議が一致した」 (平凡p132: 裁判の終わった) p107 『荒涼館』に出てくるクルック氏の悲劇的末路(the tragic end of Mr. Krook in 'Bleak House,')◆ 詳細未調査 p110 警察署(the police-station) p111 四月二十六日(Saturday, 26th April)◆ 新訳は「土曜日」抜け。(平凡p139: 四月二十六日、土曜日) p111 [人相書] Age 28, height 5 ft. 7 in., complexion medium, hazel eyes, abundant dark brown hair, strongly marked black eyebrow◆ 年齢、身長、肌の色、瞳、髪、眉の順 (平凡p139) p116 紅色の用紙(sermon paper)◆ is actually Foolscap Quarto, nominally 8 x 6 1/2 inches (but there were slight variations between batches). The paper was sold 'ruled feint', i.e. lined with the thinnest line a nib could produce.(ブログWarmwoodianaのAngelina Froodのページから) 薄いピンクの紙に薄いラインが引かれてるのが鮭肉っぽい? p125 半クラウン(half-a-crown)◆ (平凡p157: 半クラウンの銀貨) ここら辺、戦前訳は丁寧。p51も「紙幣」と訳している。 p131 死体の発見には二ポンドの賞金が(there is a reward of two pounds for the body)◆ (平凡p164: 屍体には二磅の賞金が) p140 市庁舎(ギルドホール)(Guildhall)◆ 1697建造。英Wiki "Rochester Guildhall" 参照。(平凡p175: ギルド・ホール) p141 穀物取引所(the Corn Exchange)◆ 前出。(平凡p176: コーン・エキスチェンヂ座) 19世紀末にはコンサート・ホールとして使われ、1910年にロチェスター初の映画館(The Old Corn Exchange Picture Palace)に改装、1920年代まで使われた。休館後、名称がThe Corn Exchangeに戻り、結婚式場、パーティ会場、音楽やビジネスイベントの会場として使われている。当時の実態を考えると、戦前訳が正しい。 p141 映画館なんぞに(to be turned into a picture theatre)◆ 当時はまだサイレント映画の時代。 (平凡p176: 活動写真の小舎に) p141 プロクター(弁護士) Proctor◆ cadger or swindlerの意味らしい p149 クモ(mosquito)◆ 「蚊」だよねえ。他にも出てくるが翻訳では全部「クモ」になっている。 p152 がっちりと腕を組んで(hooking my arm through his)◆ ヴィクトリア時代の風習が残っている。p158も同様。 p156 ポプラー遺体安置所(Poplar Mortuary)◆ ロンドンのPoplar Public Mortuary(127 Poplar High Street London E14 0AE)のことだろう。地図を見ると、検死審問廷に併設されているようだ。 p158 私の脇から腕を差し入れ、私の腕にそっと手を添えた(slipped his arm through mine, and pressing it gently with his hand) p173 五月二十五日月曜日(On Monday, the 25th of May)◆ 直近は1914年 p174 六月二十日土曜日(On Saturday, the 20th of June)◆ 直近は1914年 p175 有罪判決を勝ち取りたい。それなのに、今もって、検視審問に差し出す遺体すらないとは(I want to get a conviction, and so far I haven't got the material for a coroner's verdict) p175 七月初めの土曜日の午後(one Saturday afternoon at the beginning of July) p176 ベルティヨン式人体測定法(Bertillon measurements)◆ 原文はif we had them(もしその人の身体データがあれば)と続くが、相応する訳文なし。続く原文ではソーンダイクは別の科学的方法を言っているのだが、訳文ではベルティヨン式のこと、として繋げてしまっていてヘンテコになっている。 p178 テニス(playing tennis)◆ 流行 p185 イエール錠がかけてある不審さ(oddly enough, provided with a Yale lock)◆ 簡易錠前で充分だろうに、なぜ戸棚に高価なイエール錠が?という当然の疑問。 p185 ゴミ収集人は、勝手口から出入りしていると思う(the dustman must have used the side door)◆ 家人がゴミ箱(dust-bin)を抱えて階段を上がって、玄関脇に置くはずがない、とソーンダイクは言う。ゴミ収集人が個々の家屋内のゴミ箱を勝手に持っていく仕組みなのか。Webサイト “Consumption, Everyday Life & Sustainability” に Bins and the history of waste relationsというページがあり、ゴミ収集人が家屋内から歩道までdust binを運び、収集車に中身を出してからdust binを家庭内に戻す、という仕組みだったようだ。dust binとは大型の「ごみ収集容器」なのだろう。カナダのバンクーバーに住んでた知人は、裏通りには各家屋のゴミ収集容器が並んで置かれて、ゴミ収集車が収集日に裏通りを回り、各家屋のゴミを持って行く仕組みだ、と話していた。 p185 科って口のドアを開け--そこにもイエール錠が下りていた(opened the side-door--which had a Yale night-latch)◆ 冒頭のは 「勝手口」の誤植。ナイト・ラッチのイエール錠ヴァージョンは初めて見た。ナイト・ラッチの利点は、内側から鍵を使わず簡単に施錠出来ることである。 p186 質問というものは、往々にして情報を引き出すより、与えてしまうものです(A question often gives more information than it elicits◆ ソーンダイク名言集 p186 色彩調整(a colour control)◆ 試訳「色の比較」 p186 女性の多くは、抜け毛を入れる袋を持っている(Many ladies keep a combing-bag) ◆ 何だろう? ググっても出てこない。続く文はXXX's hair was luxuriant enough to render that economy unnecessary. p188 気づく(aware) p192 ルムティフー司教と同名(I am called Peter—like the Bishop of Rumtifoo)◆ from The Bab Ballads by W.S.Gilbert "The Bishop of Rum-ti-Foo" (Fun n.s. VI - 16th Nov. 1867) p201 ロチェスター、ハイ・ストリート(High-street, Rochester)◆ ジャップ&バンディ商会の住所 p214 裁判官が専門家の参考人を毛嫌いする(why judges are so down on expert witnesses) p214 バンズビー船長(Captain Bunsby)◆ ディケンズ Dombey and Son(1848) Chapter 23 p224 聖火ランナー(a sporting lamp-lighter)◆ 試訳 「元気な(街灯の)点灯夫」 p232 詳細な身元確認は検死官の仕事だ(Detailed identification is a matter for the coroner)◆ p249&p259参照 p237 召喚状(your summons)… 青色の紙(the little blue paper)◆ インクエストの。 p238 単なる"死体の発見"、つまり"溺死体の発見"でしかないのです(it would have been merely a case of 'found dead,' or 'found drowned.')◆ いずれもインクエストの評決に使われる決まり文句。試訳「[インクエストの評決は]"死んだ"又は"溺死した"ということにしかなりません」 証拠不十分なので殺人とは認められませんよ、というニュアンス。(平凡p287: それは単なる溺死と云ふことになります) p238 故意による殺人だと断定されるでしょう---警察は検死官の判断に依存してはおりません(There is sure to be a verdict of wilful murder—not that the police are dependent on the coroner's verdict)◆ インクエストの評決が「故意の殺人になるはずです---[もしそういう評決が出なくても]もちろん警察はインクエストの評決とは無関係に動くんですけどね」というニュアンス。 (平凡p287: 検屍官の判決を待つまでもなく、謀殺犯に違いありませんね) p239 二日(two whole nights)◆ 「夜」が抜けてる。昼は無理だった。(平凡p288: 二晩続けて) p241 公式な検死審問(the formal inquiry)◆ 試訳「公式の査問会」 p242 市庁舎(the Guildhall)◆ (平凡p291: 裁判所) p242 霊安室(the mortuary)◆ あらかじめ市庁舎に常設しているとは思えないので、会議室を転用しているのだろう。「遺体安置所」でどう? インクエストのview the bodyのために用意されている。 p245 ホィットスタブルの牡蠣なみに口が固い(about as communicative as a Whitstable native)◆ (平凡p294: 自分の考えを容易に云わない) p246 陪審員が遺体検分から戻ってきました(the jury have come back from viewing the body)◆ 1926年の改正までview the bodyはインクエストの陪審員にとって必須の行為。(平凡p295: 陪審官達が検屍から帰って来た) p247 [証人の証言が終わるごとに、検死官が陪審員に質問の機会を与えている] p249 証言を吟味して故人の身元を推定するのは、陪審に任せられています(Inferences as to the identity of deceased, drawn from the evidence, are for the jury)◆ p259のようなことも多かったのだろう。 p255 閉廷する(complete the inquiry)◆ 主動詞hoped toなので「審問を終えたい」が正解。 p255 タクシー(taxi-cab)... ドライバー(driver) p259 むろん、身元を確認するための、費用と手間のかかる手続きは省かれました(but of course, no expensive and troublesome measures were taken to trace his identity) p259 オーク材の階段を二段上がって(up a couple of flights of oaken stairs)◆ flightは踊り場までの階段のひと繋がり。試訳「階段を二回上がって」 p270 検死審問では認められています。そこまで厳格な規則に縛られていないのです(It is admissible in a coroner's court... We are not bound as rigidly by the rules of evidence as a criminal court, for instance)◆ 新訳は 「刑事裁判と比較して」が抜けている。(平凡p325: 此処は検屍法廷ですから採り上げても差支はありません。刑事法廷の様に規則に拘泥する必要はないでせう) p272 発見された遺体が消失した(The destruction of this particular body)◆ 誤解されそうな表現。試訳「この遺体については骨以外がすっかり分解している」 (平凡p327: あの死骸が腐食した) p273 親展(Esq.) p282 この質問に答える義務はありません(you are not bound to answer that question)◆ 当然の注意。自分の罪を認める証言は拒否できる。 p282 四ポンド十四シリング十三ペンス(four pounds, fourteen and threepence)◆ ケアレスミス。次の頁では正しく訳している。 p287 縁起良く、人数が偶数になった(the advantage of even numbers)◆ 昼食の出席者が偶数になって、この感想。"odd numbers were carefully avoided, particularly at wedding feasts and funerals" (The Penguin Guide to the Superstitions of Britain and Ireland 2003)でも、この場面とはちょっと違う。Webでも見つけられず、良く知られた迷信ではなさそう。 p289 居間を作らなかった(dispensed with a drawing-room)◆ drawing roomは居間じゃないと思うけど… 私の印象では「食事が終わって男たちがタバコを吸う時に、女性たちが引っ込み(drawing)おしゃべりする部屋」。試訳「女性向けの客間(ドローイング・ルーム)」 p293 上流階級の女性(A woman of good social position)◆ upper-classと誤解されるので、適切ではない。goodは「並み」だろう。試訳「普通の社会生活を送っていた女性」 p295 わなを仕込む(plant) p297 カモ(chosen victim) p302 男女間の平等(The equality of the sexes)◆ ちょうど英国ではThe Sex Disqualification (Removal) Act 1919が成立した時期である。 p303 産毛(the lanugo) p309 まるで、どの容器に豆が入っているか当てさせるゲームを、透明な容器でやっていたような気分(I feel as if I had been doing the thimble and pea trick with glass thimbles)◆ 街頭で小銭を掠める賭博ネタ。英Wiki "Shell game" (英和辞書では「豆隠しゲーム」) shellはクルミの殻が普通。英国ではthimble(小さなカップ状の指貫)が多い印象あり。透明な容器ならタネがバレバレだ。このイカサマをカードでやるのがスリー・カード・モンテ(私も昔、練習しました。カードを折るのが嫌なんだけど…)。 p313 日時計(the dial)◆ 『ドルード』第19章に怖い場面があるよ。作者は連想しているはず。 |