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エドウィン・ドルードの謎
チャールズ・ディケンズ 出版月: 1977年04月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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講談社
1977年04月

東京創元社
1988年05月

白水社
2014年05月

No.3 6点 nukkam 2012/04/29 15:33
(ネタバレなしです) 19世紀英国を代表する作家チャールズ・ディケンズ(1812-1870)は友人でもあったウィルキー・コリンズから「月長石」(1868年)を献呈されたことに刺激を受けたか自らもミステリーを書こうとしました。しかし残念なことに全体の40%程度を発表したところで1870年に作者が死去してしまい、未完の作となってしまいました。20分冊予定の6分冊までしか書かれなかったのですが、この6分冊分だけで創元推理文庫版で23章400ページ以上あるのですからもし完成したらコリンズの「月長石」(1868年)を上回る(当時としては)「世界最長のミステリー」になったかもしれません。物語としては14章でようやく事件(それも失踪)が起きるというゆっくりした展開で、23章で謎解きの雰囲気が盛り上がり始めたところで絶筆。うーん、消化不良だ(笑)。ちなみに創元推理文庫版の巻末解説では、ディケンズの友人の伝記作家の証言(ディケンズから聞いたという伝聞証拠)に基づいて完成したらこういう謎解きになっていたはずだと紹介しています。物語中の伏線と整合がとれており説得力はそれなりに高いですが、まだ物語は40%程度の段階ですからここから(新証拠や新容疑者が登場して)二転三転する予定ではと期待もしたくなります。いずれにしても全ては永遠の謎になってしまいましたが。

No.2 7点 おっさん 2012/04/01 16:04
「ディケンズは、この作品で、ポーやコリンズに対抗して、犯人当て要素を含む推理小説の傑作を書こうと企てたわけね。だったら、最も容疑が濃いジャスパーを真犯人に据えるなんて、そんなことをするはずがないわ」
   『魔術王事件』 二階堂黎人

そんなふうに、ひねくれた読み方をする必要はないと思うなあw(その件に関しては、別口の『魔術王事件』のレヴューで、具体的に触れることにしましょう)

さて。
月刊分冊の形で刊行されながら、1870年6月の作者の急逝により、予定の半分で未完の遺稿になってしまったのが、この『エドウィン・ドルードの謎』。
失踪したエドウィンは殺されたのか? その経緯をさぐるダチェリーなる人物の正体は? という未解明の謎を残す本作は、逆説的に、この文豪がもっとも長編ミステリに接近した例と見なされ、黎明期のミステリ史に特筆大書されてきました。
全体の半分の量といっても、翻訳すると、それだけで400字詰原稿用紙にして約800枚はあるうえ、重苦しい雰囲気が作品を支配し、布石のための状況設定にミッチリ筆が費やされ、なかなか本題の事件が発生しないため、イージー・リーディングには向きませんが、ディケンズ生誕200周年に合わせ、意を決しw 読み返してみました。

学生時代(遠い目 ^_^;)は、ろくにモノを考えず機械的にページを消化しただけで、あっさりツマンナイと片付けていましたが・・・
さすがに腰を据えてじっくり読むと、これは、大聖堂のある古い町クロイスタラム――まさにその、退廃的なバックグラウンドが生み出す、秘められた悪(さながらモダン・ドラキュラ、と言いかけて、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』の発表年を調べてみたら1897 年でした。プレ・ドラキュラですねw)を浮き彫りにした、奥の深い小説でした。
ミステリ的に構成されていることは間違いありませんが、虚心坦懐に読めば、これは、今日的な本格推理小説を意図したものではなく(表面的な趣向は、ポオの「お前が犯人だ」の系譜でもありましょうが)、ディケンズ自身の「追いつめられて」の延長線に位置するような、仕掛けのある犯人狩りの物語に収束するはずだったものでしょう。
創元推理文庫版の、巻末70ページを占める、訳者・小池滋氏による詳細な(研究論文といっていい)解説は、ミステリ・ファンなら必読で、採点はそれ込みのものです。

ちなみに、小池解説以降の『ドルード』研究で、筆者が目にした最重要と思える文章は、松村昌家氏の「『エドウィン・ドルードの謎』――ハーヴァード殺人事件と関連して」(研究社出版『ディケンズの小説とその時代』(1987)所収)です。
現実に、1849年のアメリカの大学構内で発生した、ディケンズの知人(!)による殺人(および死体処理工作)をエドウィン殺しと関連づけ、その共通性から、作品の未解明の謎に迫ったもので、伝聞証拠によらないこの論考は、筆者には、ジャスパー犯人説の決定打のように思えます。
アカデミックな領域に抵抗のない向きは、ぜひご一読あれ。

No.1 6点 mini 2012/03/16 09:58
今年はディケンズ生誕200周年である、今年中にミスマガで特集組む予定が有るのかどうか甚だ疑問なのでこの際書評してしまおう
チャールズ・ディケンズは、国籍上の英米の違いは有るがポーと同時代であり、ミステリー史的に見ると多くの作品が犯罪が絡んだり怪奇幻想文学だったりと、さながらもう1人のポーみたいな作家である
ディケンズには「バーナビーラッジ」「荒涼館」といったミステリー風味な長編も有るらしいが、風味では無くはっきりミステリー趣向を打ち出した作品として知られるのがこの「エドウィン・ドルードの謎」なのだ
もう一つこの作品が有名なのは、未完に終わった遺作なのである
歴史的名作リスト表にコリンズ「月長石」と並んでこの作品を入れる評論家と、「月長石」は入れてもこっちは入れない評論家とでバラツキがあるのは、多分に”未完”だという事情が有るからだろう
私はつい最近知ったのだが、ウィルキー・コリンズとディケンズとは生前に親交が有り、互いの作品をよく知っていたとの事だ
「月長石」が1868年、「エドウィン・ドルード」が1870年
つまり「エドウィン・ドルード」は「月長石」の影響下に書かれたらしいのだ
一方でコリンズは「エドウィン・ドルード」を未完の段階で読んで批判していたとの事で、晩年は不仲説もあったようだ
こうした裏事情は訳者の小池滋が70ページにも渡って解説している
500ページの文庫本中で何と70ページが解説に費やされているのを見ても、謎の多いこの作品の特徴が知れる
私が感じたのは、もし未完で終わらなかったらちゃんと謎解きミステリーとして成立していたかも知れないという事
終盤にさ地下墓地のあたりで、ある薬剤がうず高く積まれているという描写が有るんだけど、あれ死体消失トリックの伏線ではないかと勘繰ったのだが私の考え過ぎかもな
何たって”解決部分”が存在しないのだから想像するしかないのだが
キーティングはこの作品を犯罪小説の先駆と位置付けて評価しているが、たしかに未完ではそいういう風に捉えるしかない
犯罪小説と考えるなら未完であっても歴史的存在意義は揺るがないだろう


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チャールズ・ディケンズ
1986年04月
ディケンズ短篇集
平均:7.00 / 書評数:2
1977年04月
エドウィン・ドルードの謎
平均:6.33 / 書評数:3
1975年01月
バーナビー・ラッジ
平均:7.00 / 書評数:1
1969年01月
荒涼館
1966年01月
クリスマス・キャロル
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大いなる遺産
平均:9.00 / 書評数:1
1942年02月
二都物語
平均:7.00 / 書評数:1