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ディケンズ短篇集
チャールズ・ディケンズ 出版月: 1986年04月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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岩波書店
1986年04月

No.2 8点 おっさん 2012/03/24 20:58
今年はディケンズ生誕200周年。そうだ、『エドウィン・ドルードの謎』を読み返そう、と思ってあれこれ準備していたら、3/16日付けで mini さんの同書評がアップされ、シンクロニシティに唖然としました。

本書は、その『エドウィン・ドルード』の露払い的意味で取り上げようと考えた一冊なのですが・・・これまた mini さんに先行レヴューがあるじゃありませんか! 因縁めいたものを感じますw

さて。
岩波文庫のこととて、『ディケンズ短篇集』とそっけなく銘打たれていますが、この本はオーソドックスな“傑作選”ではありません。
一般には明るいイメージの強い、19世紀のイギリスを代表する文豪ディケンズの作品群(必ずしも純然たる短編ばかりでなく、長編に挿入されているエピソードも対象)から、編訳者の小池滋氏が、あえて ①超自然的要素②ミステリ的要素③異常心理的要素 に着目してセレクトした、さながら気分は“異色作家短篇集”な一冊なのです。

収録11篇のうち、傑出しているのは、やはり古典怪談のアンソロジー・ピースである「信号手」と、エラリー・クイーンの絶賛で知られる「追いつめられて」でしょう。
幽霊におびえる鉄道マンの悲劇を描く、1866年作の前者は、第三者的立場で、一切を幻覚として合理的に解釈しようとする、語り手自身が、じつは怪奇の連鎖に取り込まれていることで、読後に、合わせ鏡を覗くような無限の不安感を残す、名作中の名作。
保険金殺人のエキスパート(発表は1859年ですよ)を民間人が追及する後者は、殺人者の肖像の近代性と、ミステリ的に、伏せられたアイデンティティの暴露がクライマックスを形成する構成が光っています。この“仕掛け”は、おそらく『エドウィン・ドルード』にも通底するものだったと筆者は考えます。
『エドウィン・ドルード』と言えば、それとの関連で見落とせないのが「チャールズ二世の時代に獄中で発見された告白書」(1840)。荒削りではありますが、死刑囚の回想という形式で、甥殺しにいたる心理と経過、発覚の顛末を淡々と語る本篇は、三十年あまりのちに着手される、かの長編を予見させる、習作的スケッチと見なせるからです(はい、筆者もやはり、ジョン・ジャスパーが甥のエドウィン殺害を企てた人物だと思います。二階堂蘭子が何と言おうとw)。
その他では――
「自分は気ちがいだ」と主張する人間は本当に気ちがいなのか? と思わせることで、“信用できない語り手”という現代文学の技法にもつながる「狂人の手記」、そのテクニックの洗練された発展形としての「ジョージ・シルヴァーマンの釈明」、筆者好みのユーモア怪談から「グロッグツヴィッヒの男爵」あたりも推しておきましょう。

小池滋氏による丁寧な解説を含めて、ミステリ・ファンのためのディケンズ入門書としては、これ以上望めない内容の一冊です。

No.1 6点 mini 2011/01/06 10:11
ポーとほぼ活躍年代が被るチャールズ・ディケンズは純文学作家と思われがちだが、多くの作品が犯罪が絡んだり幽霊が出たりとどうやら大衆文学作家という面が強いらしい
犯罪文学や怪奇幻想文学の作家である事や、英米両国に同時期に出現した事を考えると、さながらもう1人のポーである
ただし2つほどポーとの違いも有って、ポーは生涯に長編は1作しかなく基本的に短篇作家だが、ディケンズは大長編をいくつか書いている
もう一つは耽美的詩的な作風のポーに対して、ディケンズは散文的でシニカルな味わいが持ち味である
この辺はアメリカ人のポーと英国人のディケンズというお国柄もあろう
長編は未読だが短編も捨て難く、またミステリー史的にも重要な作家であり、短篇集が『クイーンの定員』に選ばれているのも当然だ
この岩波文庫版は編者が小池滋だけに、ミステリーと怪奇幻想文学の視点で収録作が選ばれているので、ミステリー読者としては岩波文庫版が決定版である
特に重要な収録作は次の2作
「追いつめられて」は雑誌に初掲載された後、長年埋もれていたのをエラリイ・クイーンが発掘しEQMMに掲載した曰く付の作品で、これを見出したクイーンの慧眼は流石
何たってホームズ以前、まだミステリーの形式すら確立されてなかったポーと同時期の作だけに通常の形式論で見てはいけないのだが、それにしてもこれは紛れもなくミステリー小説そのものである
もう1作は「信号手」、数々の怪奇幻想系アンソロジーに採られ昔からディケンズ短編の最高傑作として知られている有名な短篇だ
流石にこれは私も他のアンソロジーで既読だったが、再読して見ると解説にもあるように怪談としてだけでなくミステリー的な解釈も可能かも

ミステリー史において、よくポーは”探偵小説の父”と称えられるが、それを言うならディケンズも”探偵小説の叔父”くらいには呼んでも然りだろう
※ ちなみに祖父や母もあって、”探偵小説の曾祖父”と言われるのがW・ゴドウィンのゴシック小説「ケイレブ・ウィリアムズ」で、”探偵小説の母”と呼称される作家がアンナ・キャサリン・グリーンである
どこかの出版社が「リーヴェンワース事件」を新訳刊行してくれないかな


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チャールズ・ディケンズ
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