皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] エンジェル家の殺人 ノートン・ケイン警部 |
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ロジャー・スカーレット | 出版月: 1956年01月 | 平均: 6.09点 | 書評数: 11件 |
東京創元社 1956年01月 |
東京創元社 1987年05月 |
No.11 | 6点 | クリスティ再読 | 2024/02/29 21:51 |
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みんな知ってる乱歩「三角館の恐怖」の元ネタ作品。
一応西田政治訳で創元の「世界推理小説全集」で紹介されてもいたから、創元の新訳が出る前でも「幻」というほどでもなかったよ。乱歩の翻案が大体忠実、というのは知られていた。 乱歩が気に入るのはよくわかる作品。なんだが、乱歩が晩年に強い興味を示したとある趣向を、本作もやっているのが見逃されがちだ。カーの「**の*****」とかクリスティのいくつかの作品がやっている、あれ。まあ、これは作中であまり強調されていないから無理もないんだけど、乱歩って評論を読むと、意外なくらいにデテールが読めていて驚くことが多いよ。 そういうあたりも含めて、本作で導入されたいろいろな趣向は面白いものが多いんだが、具体的な作品の出来にうまく反映していないのが弱みである。出だしなど、かなり細かく建物の描写をしたり、最終的に全フロアの平面図が入ったりと、実は本作の主人公は「建物」なんだということに、乱歩は気がついている。だからこそ、しっかり「三角館」と命名したわけだ。言い換えると乱歩としての最大の創作は、まさにこの建物を「三角館」と名づけたことにあるんだよ。 |
No.10 | 5点 | レッドキング | 2023/11/22 22:01 |
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乱歩「三角館の恐怖」の元ネタと言うより、ほぼ原作(「幽鬼の塔」の場合と違って)。見どころは二点。エレベーター刺殺トリック・・島荘「斜め屋敷」より精確度感高いが、カー「仮面劇場」と同様に凶器有効感に乏しく(殺せる?)・・と、Whyダニット・・憧れ女へのストーカーならまだしも、あの執着は、ちとピンとこず・・の二点。面白いが、乱歩の読んどきゃ十分だな、逆でもいいけど。 |
No.9 | 6点 | 空 | 2020/08/21 22:11 |
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乱歩『三角館の恐怖』(春陽堂1953出版 日本探偵小説全集)のタイトル・ページにある「ロージャー・スカーレット「エンジェル家殺人事件」に據る」という注釈によって存在を知った作品です。今回は創元推理文庫の完訳版で、乱歩版も参照しながら読んでみました。原題は "Murder among the Angells"。Lが2つなんですね。
メインになるアイディアを中心としたプロットはやはりよくできていると思います。第2の殺人のエレベーター密室トリックは、乱歩版ほどではありませんが、やはりかなりあっさり解明されてしまいます。見破られても犯人特定に結びつかない方法ですし、即死させる必要もない設定(この点は乱歩版の方が明確に指摘しています)なので、トリック的には問題ありません。 しかし、簡潔でありながら扇情的な乱歩の文章表現に比べると、特に最後の犯人を罠にかける部分のサスペンス等、文学的にはもの足りません。 |
No.8 | 6点 | 臣 | 2020/01/27 10:18 |
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江戸川乱歩が絶賛し翻案までした作品。
館も、密室も、遺言も、登場人物の構成や人間関係もよい。 雰囲気は、もっとおどろおどろしくしてもよかったのではとも思うが、まずまず良好である。 乱歩はよほど気に入ったのだろう。 個人的にも嗜好のど真ん中である。 図面がたっぷりあるのもよい。 推理小説を文学と捉えたいためか、図面を嫌うミステリーファンはいるが、この種の本格ミステリーには図面は必須である。 文章と図面とで読者に謎解きさせるようにしたことは、推理作家として好ましいかぎりである。 トリックは、当時としては、かなりすぐれたものではなかったのだろうかと思う。 動機は普通に見えて意外性があり、これもよい。 それに、馬鹿げた遺言が本格ミステリーにマッチしすぎているのがよかった。 とにかくアイデア的には抜群である。 物語性も悪くはない。 ただ、ミステリーとして不備なくまとめ上げたかというと、力出し切れず感があり、そこが残念なところ。 |
No.7 | 7点 | りゅうぐうのつかい | 2016/10/07 19:28 |
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古い作品だが、日本では古典作品としての評価は高くなく、あまり知られていない作品ではないだろうか。江戸川乱歩が本作品を原案にして「三角館の恐怖」を書いたということで、私はこの作品を知り、まず先にこちらを読んでみた。
読んでみると、ミステリーとしての作り込みという点で高く評価できるし、随分と楽しめる内容であった。奇妙な遺言がもとで殺人事件が起こり、登場人物の関係が二転三転するという成り行きは、kanamoriさんが書かれているように横溝正史の世界を彷彿させる。左右対称で2つの家族に分割されていて、玄関とエレベーターでしか両家を行き来できない、エンジェル家の構造が何ともユニークだし、それが密室殺人の謎に結びついている。 密室殺人のトリックも面白い。ただし、このトリックで人を殺せる確率はきわめて低く、偶然うまくいったとしか言いようがない。 ケイン警視は早い段階で犯人の目星をつけており、その判断に基づいて、犯行を防ごうとしたり、犯人をあざむいたりするのだが、その根拠としている理由にそれほど説得力が感じられなかった。 また、誰の発言なのかがわかりにくい、代名詞が誰を指しているのかわかりにくいなど、文章が読みにくいのが難点。 |
No.6 | 7点 | nukkam | 2016/07/13 13:29 |
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(ネタバレなしです) 1932年発表のケイン警視シリーズ第4作でヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」(1929年)を連想させるプロットの本格派推理小説です。江戸川乱歩が大絶賛して本書を下敷き(というかほとんど模倣)にした作品を書いたことでも有名です。エレベーターの密室というのが大変珍しく(トリックは可もなく不可もなくといった程度ですが)、ぎりぎりまで犯人の正体を明かさないなど謎解きの面白さは黄金時代の作品ならではです。 |
No.5 | 8点 | ロマン | 2015/10/20 22:05 |
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先代当主が残した奇妙な遺言をめぐり、エンジェル家で連続殺人事件が発生。その捜査を通じて、屋敷内に別居する二家族の人間関係が浮かびあがる。なるほどツッコミ所はあるけれど、アイディア自体は面白いと思う。謎の来訪者が消失した理由とか(これはちと無理があるかも)。密室となったエレベーターでの殺害方法とか。単なる金銭欲にとどまらない犯行動機とか。何より事件の舞台である屋敷の造形が、現実離れしていて素晴らしい。古き佳き館ものミステリの傑作といえる。 |
No.4 | 6点 | 蟷螂の斧 | 2015/10/03 18:49 |
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奇妙な遺言、動機などのアイデアは評価したいと思います。犯行方法、密室、盗難事件などがあっさり片づけられているので、何が中心なのか、ぼやけてしまった感じです。金への執着心などを中心に人物像をもう少し堀り下げていたら、傑作になっていたかも。 |
No.3 | 5点 | 了然和尚 | 2015/08/05 21:59 |
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まあまあな感じでした。本格物として手がかりもよく示されており、良い作品だと思うのですが、探偵に馴染みがないのが残念なのと、クイーンの好きそうな異様な大家族物ですが、クイーンほど人物描写がねちこくないのでキャラの印象が薄い点で−1点です。ロジャースカーレットという名前は英語ではwikipediaに出てこないのですが、その辺の事情の一部があとがきに書かれていて参考になりました。乱歩の翻案の方は未読なので、読み比べが楽しみです。 |
No.2 | 6点 | E-BANKER | 2011/12/10 00:33 |
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謎(?)のミステリー作家、R・スカーレットの1932年発表の第4長編。
江戸川乱歩が激賞し、自身で「三角館の恐怖」へ翻案した作品としても有名。 ~エンジェル家はまるで牢獄のような陰気な外観を持つ家だった。しかも内部は対角線を引いたように二分され、年老いた双子の兄弟が其々の家族を率いて暮らしていた。彼らを支配していたのは長生きした方に全財産を相続させるという亡父の遺言だった。そして、死期の近いことを感じた兄が遺言の中味を変更することを提案した時から全ての悲劇が始まった。愛憎渦巻く2つの家族の間に起こる連続殺人事件を巧みなストーリー&サスペンスで描いた古典的名作~ 舞台は理想的だが、やや尻つぼみ。 っていうのが、読後の感想でしょうか。 悪意ある遺言といがみ合う家族、真ん中にあるエレベーターにより2分された妙な「館」と作品中に挿入された数々の見取り図、そして「密室殺人」と謎の帽子の男・・・どうですか! 凡そ本格物を愛する読者であれば、この舞台設定を見れば狂喜乱舞してもおかしくない(!?) ただ、惜しいなぁ。この舞台設定が十分生かしきれてるとは言えない。 まずは「密室」。 エレベーターで3階から1階へ降りるまでの間に殺人が起こるのだが、このトリックでは仕掛けの「跡」が残ってしまうという致命的な欠点がある!(実際、それをケイン警視が見つける) つぎに「フーダニット」。 動機からのアプローチがかなりあからさま。全体的に「金」への執着心というものが前面に出され過ぎて、それがダミーなのだということがどうしても分かってしまうのだ。 というような欠点が目に付き、高評価というわけにはいかないのだが、やっぱり好きなんだよなぁ、こういう作品。 乱歩を始めとして、日本の作家へも強い影響を与えたのは確かだと思う。 (新訳版のせいか、非常に読みやすく、「館」の平面図が豊富に挿入されており大変親切) |
No.1 | 5点 | kanamori | 2010/09/06 22:43 |
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ケイン警視シリーズの第4作。
乱歩の「三角館の恐怖」の元ネタとして有名な本書ですが、特異な遺言が原因となって残された家族内で惨劇が引き起こされるというプロットは、どちらかと言うと横溝正史の世界。 屋敷の変な構造やエレベータ内の密室殺人などそこそこ面白いが、訳文が悪いのかあまり楽しめず、乱歩のリライト版?のほうが図解つきで分かりやすく面白かった気がする。 |