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[ 本格 ]
白魔
ノートン・ケイン警部
ロジャー・スカーレット 出版月: 2015年10月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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論創社
2015年10月

No.3 6点 2016/03/26 15:59
論創社はシムノンの『自由酒場』“Liberty Bar” の新訳版を『紺碧海岸のメグレ』という妙な邦題にしていましたが、一方で、原題 ”Back Bay Murders” の本作に、昔の翻訳と同じほとんど意味不明な邦題を付けるなんて、タイトルに対する感性がよくわかりません。
謎解きはよくできているのですが、他の評者も書かれているように、小説的には稚拙さを感じさせます。巻末解説では、昔の森下雨村のダイジェスト訳を、第5章の終り方を例に挙げて褒めていますが、雨村的な章区切りはカーなどが得意とする手法で、そういった小説技巧や登場人物の描き分けが不足しているのです。
なお、p.58~59に「九時五分に」「九時五分だった」の記述がありますが、これはその後の、それを言った人物の再度の証言からしても、明らかに原文の誤植あるいは誤訳で、「九時五分前」です。矛盾に何か意味があるのかと頭を悩ます必要はありません。

No.2 6点 kanamori 2016/01/22 18:16
クインシー夫人の屋敷に住み込む間借り人の一人、アーサーの部屋に何者かが押し入り、大量の血がまかれる怪事件が起きる。ボストン警察のケイン警視が調査を担当するが、今度はアーサー自身が殺害され、さらに第2の殺人が発生する---------。

女性2人のコンビ作家ロジャー・スカーレットは、著書の5作全てが”館ミステリ”ということで知られていますが、本作は、色々な人物が間借りし集団住宅のように使用している屋敷が舞台なので、館ミステリというよりは、ヘレン・マクロイ「読後焼却のこと」や、エリザベス・フェラーズ「私が見たと蝿がいう」、ステーマン「殺人者は21番地に住む」などと同タイプの、”下宿モノ”と言った方が適切だと思います。
本書の構成上で眼を引くのは、(nukkamさんも指摘されてますように)物語が半分も行かない段階で、関係者を一堂に集めたケイン警視による謎解き披露、犯人の特定がありながら、その上でフーダニットの興味を最後まで持続させていることですね。(その意味するところは、さほど大したことではありませんが)
容疑者の間借り人たちのうち、視力障害の人物以外はキャラクター的に印象に残らないのと、邦題の「白魔」のもとになった白いペルシャ猫の手掛かりがアレなのが難点ですが、フーダニットに関わるミスリードが効果的な、まずまず楽しめた作品です。

No.1 6点 nukkam 2015/11/21 22:48
(ネタバレなしです) 1930年発表のケイン警視シリーズ第2作の本格派推理小説です。大勢の下宿人が住む豪邸(第9章で見取図があります)という、いかにも古典的な舞台に起きる殺人事件を扱っています。謎解きの魅力では同時代のアガサ・クリスティーの作品と比べても決して劣らないですが(巧妙なミスディレクションもあります)、容疑者たちとケイン警視との単調なやり取りに終始しているところがこの作者の限界でしょうか(クリスティーも人物描写に問題ありと指摘されることがありますが表情づけや会話の抑揚などでメリハリはつけていました)。本書の1番の特色は論創社版の巻末解説でも触れていますが、全24章の第9章で早々とケイン警視に犯人の名前を指摘させながらちゃんと終盤まで犯人探しを成立させているプロットでしょう。


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