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斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1496件

プロフィール | 高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.1496 6点 透明な遺書- 内田康夫 2026/10/28 01:06
「透明な遺書です」
「透明な遺書 ・・・・・・ ですか」

事態が深刻な割に、登場するどなたさんの佇まいも妙に軽くてお気楽風で、胸に 「Let’s Together」 ってプリントしてあるTシャツ着てそうな人ばかりやたら目に付く。
田舎町にて自殺した(?)と目されるエリート・サラリーマン。 その疑惑まみれの死の真相を追う。 死体の傍らには 「遺書」 と書かれた空の封筒が落ちていた。 だが家族によれば、遺書はもう一通あったと言う。
ポップ社会派を中途半端に気取ったような序盤。 だが中盤に至っての、話のふくらみと、心地良い振動はちょっと頼もしい。 んでもやっぱり、タトゥーシールで腕に 「It’s tattoo」 とか書いてる人がうろちょろしてそうな空気感もある。

「あの 『透明な遺書』 は何だったのか、説明がつきにくくなりますからね」
「透明な遺書、ですか? ・・・・・・」

ちょっと気を抜くと、冒険小説の要素が何気にドカスカ割り込んで来る。 これが結構アツい。
殺人方法の連鎖、しかもそれに国家権力が加担するとかしないとか、妙なリアリなんとかがあってやばいのである。
終盤に入り、意外なタイミングで意外なトゥイッチ急襲と来やがるのも、なかなかの手応えである。

「そうよねえ、うちでゴロゴロして、おならなんかしているパパを見ているかぎり、そんなに、部下のひとたちに尊敬されるようには思えなかったな」

嘘をつく理由、あるいは根拠、このあたりに関して、意外なタイミング(?)で意外な急カーブを切り急遽参戦した、新たなホワイダニットの輝き✨が見えた。
早くもそこで “述懐” って、、 何かやらかしてねえだが? って愉しい疑惑を唆すシーンもあったねえ。

「警察に、警察を ・・・・・・ いや、警察がどうしたと言うんです?」

シーン切り替えのあまりに巧みな “テレビ” ドラマ性には、感心するやら笑うやら。
トゥーマッチコミカル&イージーゴーイングな人物の闖入だとか、浅はかでツルツル軽すぎのホニャラレロがとにかく目立つんだけど、好きな人にはたまらないのかも知れません。 私も時々好きです。

“浅見は初心者のミステリーファンのように、喜び勇んだ。“  ← 何なんだよこれは(笑)

まあでも最後のあの ‘オープンな’ 真相(?)の深みとか、ちょっと眼を瞠る所もありました。 何より退屈とは無縁でした。 ドラマが躍動しました。 どうもありがとうございました。
この小説の内容がどれくらい現実世界に立脚しているのかについては、当面内緒でお願いします。

「透明な遺書ですか ・・・・・・ 」
「は? 透明? ・・・・・・ ああ、なるほど、ははは、そうとも言えますか」

No.1495 7点 名探偵のはらわた- 白井智之 2026/10/22 23:43
「素晴らしく健康的な犯行動機だな。 世の悪党どもはこれくらい人間味あふれる理由で罪を犯してほしいもんだ」

神咒寺事件
さすがだな。 伏線伏線、否が応でも伏線の王国。 独特な視点のアリバイ工作。 ここが目的地と思うと、更に奥までぶん回される感覚。
主役のハラワタが私生活でモミクチャにされている矢先、岡山県北部、オダギリジョーに縁の深そうな土地の寺が放火され、死者も出る。
因縁話だけで済まない複雑で旨味ある真相と、意外過ぎて空に祈ってしまう様なエンディングに引き摺られた。

“下腹部からちょこんと飛び出たイチモツはちょん切ってくれと言わんばかりだ。”

八重貞事件
タイトルから想像できるような事件内容+奇想妄想特殊設定てんこ盛り。
ある種 “時間差◯◯” の上の事件という事か。 こりゃすげえや。
だが、奇想はあまりにも熱いが、特設本格ミステリとしてちょいと四方八方凝りすぎたら一種のストーリー疲れでシオシオのパーだったかな。
そこへ妙におポップなノリがグリグリ挟まれ込んだらいよいよ、眉を顰めてしまわざるを得ない事態になりました。
惜しい。

農薬コーラ事件
津ヶ山事件
上記の二作は、個別コメントを避けます。

連作短篇と長篇のハイブリッドの様なこの小説、滑り出しは最高に良かったんだけれど、いつしかズルズルと、やり過ぎとクドさのスベリ沼へと突入しましたねえ。
ロジックの穴ツブシも、徹底してんだか、してねんだか、勢いで目くらましも出来ないギリギリの閾値を越えられなかったな。
パラリロなアレもセルフ呑み込み感情パロデエの高波で無かったことに圧殺しようとしたんだか、ん-、自分何言ってんだかわかんねーや。

最後のほうは悲しいことに読むのもちょいダルくなって来て、しまいにゃこりゃ全体で5点だなとまで思ったが、よく考えたらそれは飽くまで厳しいシラユキ(みりんさんの呼び方を真似しました)基準の採点であって、一般的ミステリ基準で採点したら、やっぱ四捨五入で7点ラインからは落ちませんね(6.6くらい)。

「そんな化学物質があったら日本軍が喜びそうだな」

叙述トリックに近い所にある読み違え(とは違う)ネタやら、あったなあ。 そこはまあ、良かった。
深く入り組んだ特殊設定はややスットコでラノベティックな味も沁みだすが、それ自体は良いだ。

いちおう言っておくと、昭和の有名大事件エピソードを、とある特殊設定に乗っ取らせて大暴れする物語で、多重解決もブイブイです。
でもま、シラユキさん(みりんさんの呼び方の真似です)ならではの、一線を越えちゃったヤバさは必ずしも感知できなかったわけでしてね。 残念。

「お前の推理には体温がない」  ← これ、どうなんだろうねえ

スマホの、そんな側面かあ・・・・

No.1494 7点 作家の秘められた人生- ギヨーム・ミュッソ 2026/10/18 19:43
近代国家よ、◯◯を禁じてくれてありがとう。(…)

貫禄の現代ミステリともなると、あらすじに触れるだけでもなかなか手強い。 ネタバレ有無に関わらず。
まあ私のようなミステリ素人文学素人が論じようとしても難しい、おこがましい、二つ合わせてむずがましい。

二十年前、人気の絶頂で突如断筆宣言し、その後は、地中海の小島で隠遁生活を送る小説家。
彼を追ってはるばるやって来た若い小説家の男と、偶然出遭った(?)新聞記者の女。
男は島の書店(店主が気難しい!)に仕事を得、女は小説家の飼い犬を連れ戻す。

島では惨殺死体が見つかり、外部との交通が封鎖され、内部の交流も滞る。
閉ざされた空間と、多方向に躍動する叙述の中で、複雑な過去への疑惑が醸造されて行く。
(◯◯写真のロジカルな謎・・)

「凝った文体は要らない、詩情も余談も誇張もなしにして。 三十分後に書いたものを渡してもらいます」

しっとり内省的な(?)表題に似合わず、中身は極彩色の××睨み合い。 奔放なストーリー展開を繋ぎ留めるのにも快い疲労を伴う。
多層を見せつけるプロットが縺れるたび、火花が拡散。 そこへ時折忍び込む、文学論のタペストリー。
何気に、隠された章タイトルの即効パンチ力が凄い。

極限舞台にて、逆転訊問の沸騰するスリル。
情から知へ、逆転奔流の圧倒的踏破力。
(そう、その順番はおかしい・・)
そしてまさかの物議とやらのアレが襲ったと思ったら。。 いやはや、凄まじき復讐のぶつかり合いにはジーンと痺れっぱなしだ。 心理の残虐を最大限にまでチューンナップした、一見オープンなようなラストシーン・・・・

と、感心しきりの夢心地(悪夢心地)でいたところ ・・・ 不意に

“実際に生きてみた人生と、後にそれを子細に調べた人生とがどれだけ異なっていることか。 ジョルジュ・シムノン”

まあ、××は大いにそうだけれど、××の構造的な所でも、若干はぐらかされたような感覚はある。
(おお語り手・・)
読むのはスムーズに行くが、一筆したためるにも一苦労。 現にこの感想文を書くのに四年半掛かった。 というのは、嘘である。

“こうして知らぬ間に、わたしはきみの命を救ったというわけだ。”

No.1493 8点 十戒- 夕木春央 2026/10/10 23:40
勇者よ・・・・

「最期かもしれない時に、バラバラに過ごすこともないでしょ。 みんな一緒にいよう」

二度読みの騙し絵。
いっやー、際どい際どい。 所々、悲しかったり、切なかったりもある。(そこが個性だよなあ)

こりゃ再読に何年も待っていられるわけがない。 むしろ、即読み返してこそ完成する読書体験。
記憶頼みで再読代替、というわけにも行かない感覚(というか仕掛け?)がなんだか凄い。

孤島クローズド・サークル。 そのくせ外部への連絡は可能。
だが 『十戒』 の制約により、肝腎のことは何も話せない。 人は次々死んで行く。

ある朝、一人の死体と共に現れた 『十戒』 の第十条には
> 殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。 その正体を明かそうとしてはならない。 殺人犯の告発をしてはならない。
とあり、これを含む十の条項いずれかに反した場合
> (前略) 起爆装置が作動する。 その際は、全員の命が失われることを覚悟しなければならない
との旨が明記されている。

「そのために、私は今から、この事件の真犯人を指摘しようと思います」
「え? 何?」

とりあえず怪しい奴は一人いる。 だが途中で変わった。(まさか変わるとは思わなかった)
ところが、ところが??(どうも、余計なことを言いそうになる)

金持ち風来坊の気まぐれな贅沢と、テロリズム(?)と、おとなしい市井人と、冷静沈着剛腕頭脳との四者組み合い、◯◯合い、◯◯合い。 そこには◯◯◯◯もある。
登場人物は九名。 舞台となる孤島の所有者だった亡き ‘伯父’ の親族と友人合わせて三名。 観光開発会社から二名。 建設会社から二名。 不動産会社から二名。

足跡トリック想定アーカイヴの遠く斜め前を行く、摩訶不思議な足跡事案がミステリの重しとなった。
足跡の経緯は、思った以上に奥が、足跡だけに、深かった。 深いだけでなく、広かった。

前作 『方舟』 の弱点であった “中盤のスリル” の不十分性は、本作では力強く鮮やかに払拭された。
だが 『方舟』 結末の革命的ショックまでは惜しくも及ばず(こちらの真相・結末も相当に衝撃的なんですが)、 結果として同じ8点になりました。

「――大丈夫です」
「そっか。 ありがとう」 

誰だか分からない犯人とのYes/No会話の論理パズル的工夫は良かった。 おまけに、話が進むにつれコミカルな味も醸し出すようになる。
‘犯人特定’ の今っぽいタイム感も良かったな。(← むふふ)

‘犯人とは何か’ に上乗せする形で ‘探偵とは何か’ の現代ミステリ的奥義にまでグイグイ踏み込んで来たのは、戦慄を催したぜ。
信頼出来ない××が××になっている、とでも言えば良いのか。
核心部分、表向きはシンプルな仕掛けのようでいて、内側はちょっと複雑だけれど、二度読みすればしっくり来ると思う。 混乱しても、しがみ付いて! 

なんというか、二度読みの事情含む重層的(一度返って2.5重?)な意味でちょっと笑ってしまう “もちろん” という言葉、二回ばかり出て来ましたかね。
ところで、真犯人についてだけど、最後のアレの矛盾に誰も気付かなかったのかー  ‘アイツ’ はシラッと通り過ぎたってことかーー  
なんて、ちょっと思ったんだけど、読み返したら自分の勘違いでした。 あはは。 

「でも、みんなちゃんとやってくれて良かったな」

◯◯があるなら、消せば良い。
他人の◯◯に乗っかるのも、時に有効。 

“それでも、子供のころ、伯父にこっそりお酒を飲ませてもらった思い出と一緒に、わたしはこの秘密を守り続けるだろう。”

No.1492 7点 告白の余白- 下村敦史 2026/10/05 23:23
こんな心地よい◯◯◯◯で終わるミステリもなかなか無い。
普通だったら 「なんやの、これ?」 となる所。 思い切ったバランス感覚が光る。

高知出身の二人の男。
二人は時を違えて京都に滞在し、同じ三人の女性、同じ一人(?)の男性と関わりを持つ。

「『相変わらずうちを悩ませはるなあ』 って」

実は、前述の男二人は◯◯◯◯である。
一人は、四年ぶりに高知へ帰郷した直後、不可解な◯◯を残して( 以 下 略 )。
一人は、不可解な◯◯の( 中 略 )を目的に、京都へと赴く。
京都と言えば、村八分と、ラーメンと、フランク・ザッパ。
そんな京都の街並、老舗の和菓子屋に西陣織屋、そして “葵祭” を背景に掘り下げられる、四方に根を張った或るホワットダニット/ホワイダニットの深淵を、明言と匂わせとオーヴァーラップさせながら語るストーリー。

「京都人は、反応せずにいられへんボールを試しに投げてみて、その返事で相手の性格とか真意を探ろうとするしなあ」

読み返せば(実は、読み返すまでもなく)数多の台詞の裏の意味が滲み出るように紙面から浮き出して来るのがありありと分かる。
だが( 以 下 略 )。 強い牽引力を秘めた小説である。

或る回想シーンに於ける、一人称シミシミの一風変わった神視点は面白かった。
前日譚エピローグの様な ‘独立短篇’ が本編の後に置かれるのも心憎い趣向。
それにしたって、或る人物の “悪行”(と呼ぶべきでしょう)、 酷いことやおまへんか。。

“××さんが消えて二度と戻ってきませんように”  ← ・・・・・・

No.1491 5点 黒いカルテ- 島田一男 2026/10/02 00:32
医者が探偵。 婦警がワトスン。 庶民相手の貧乏医院を舞台に、人情ミステリの短いピースが並ぶ。

黒いハガキ/未亡人/天使の手/ガラスの砦/うそつき坊や/ラッパ鼓隊/悪徳医師/スリの娘/二重殺人/小さな姉/嘘、売ります (春陽文庫)

文章もミステリも、ちょっと緩くていい塩梅だね。 最初の数本、タイトル出落ちが際どかったり、せっかくの伏線から逃れるように真相があれあれカックンだったりする傾向があったけど、全体通して見たら尻上がりに謎が深みと輝きを増して行きましたかね。 前半も悪いワケじゃない。 ま、あまり期待し過ぎないで。

「まあまあ、そう神経質になりなさんな。 こどもたちは、あの軽快なリズムを愛しているんだ。 戦争なんか考えていやしないよ」

昭和も二世紀目に入った今年だけど、本当に昭和に戻ったかと思うほど短い夏だった。 まさか八月で夏が終わっちまうとはなあ。。 口惜しいからこのシマイチは九月の貴重な真夏日にぶつけて読んだもんさ。 そいや今日(もう昨日か)も久しぶりの真夏日だったなあ。 島田一男の夏、今からチョットでも復活しないかなあ。

「えーと、もうひとつ・・・・・・、おかあさんッ」

No.1490 6点 元彼の遺言状- 新川帆立 2026/09/29 01:05
“法律の前では、悪い人も良い人も、強い人も弱い人も平等で、どんな悪どいしょうもないクズ野郎であっても、高貴な善人と同じだけの権利を持っている。 私はそこが好きだった。”

ミステリ界に、現実世界に(?)、突飛な遺言状数あれど、本作に登場する遺言状の本気の突飛度は飛ぶ鳥を落とす勢いで群を抜いている。
何がどう突飛であるのかは、流石に私からは口が裂けても言えないので、他の方の書評などを参考にしてください。

その突飛な遺言状を迎え撃つ、或る安直な残念アイデアと、対照的に、細に入り第三者のビジネスと実利/権力争いの本丸に踏み込んで自ら莫大な利益を得んとする豪腕アイデア。
このへんの頭脳ゲームがマッコト痺れるのだが、ストーリーの隠し持つ更なる突飛なミステリ要素が勢いよく横っ腹に襲い掛かり、一見やさしげ(?)な文化人類学要素もじわじわと包み込みに掛かり、もうどうしようもなくマバユイ未知のミステリ領域へと哀れな読者は引き摺って行かれるのです。

「皆さん、草をむしりましょう」

主人公は、気が遠くなるハードワークで相当な高給を取る若い女性弁護士。 そこそこ高給取り研究職サラリーマンの現彼が “結婚してください” と差し出した指輪の値段が世間相場並と知って突き返し即関係を絶ち、ボーナス支給額を巡っては所属の弁護士事務所まで “逆クビ” で蹴り倒すように飛び出し、気晴らしに大学時代の元彼に連絡を取ろうとしたところ、彼(元彼 ← 今は “彼女” という意味ではない)はつい先日亡くなっていたことが判明。 ついでに彼(元彼)が、付き合っていた時節にはついぞ知らなかったが、実は日本を代表する某大企業グループの御曹司であったことも判明(おおっ?)。 御曹司とは言え、能力的にはのび太属性の彼だが、ルックスと性格の良さは出来杉くん以上で、家柄と財力はスネ夫をも遥かに凌ぐ、そしてジャイアンの十分の一も無い筋肉の薄さを気にしているとかないとか言われる( ← これ何気に重要ポイントだとか何とか)そんな彼が亡くなる直前に世に放った世にも突飛な遺言状、が本ストーリーの中心部に居座り、様々なトラブルやクラッシュやミステリ新世界の悦びを我々にもたらすのであります。  

「もし逃したら、任務懈怠で国家賠償請求をしてやりますからね」

主人公は、、 、 ぃゃやっぱり言わないでおこうぜ? とにかく色々あって(この色々がまたしても突飛で××)、美人だが深い意味でほとんど女らしい所の無い彼女に初めての女友だちらしき存在が出来たような出来かかったような、そこで色々反感やら悶着やら嫉妬やら友情の萌芽やら見え隠れして、、 そのあたりのほとんどみ~んな事件の深い部分と緊密に結び付いていたのでした。 おなかいっぱい。

ミステリらしい、いくつかの逆説震動もじわじわ効いていたと思います。
DNAの◯◯に纏わる伏線の機微なんてまるで驚き慄(おのの)き残暑の期でした。
主人公が或る◯◯スポーツの名手だったというエピソードも、何気に大小の伏線/背景でしたね。
あと彼女の家族+αの諸々、元彼の家族+αの諸々諸々とか、本当に色々あります。 複雑に生成された諸々を思い切りよく丁寧に見やすく捌くのが上手い作家さんのようであるね。

「あと一週間で(後略)」  ← これ、これなんだよな。。
はたまた ‘第七章 道化の目論見‘ の ‘道化’ とは果たして誰だったのか、というねえ。。(候補はいっぱいいるのだ)
もはや “真犯人” を突き止めただけでは、本ミステリの土台はせいぜい5ミリ程度しか動きやしない、というねえ。。 凄いよねえ。

ラストシーンの突拍子もない明るさと御都合と、ラストセンテンスのちょっと納得行かない甘さ(笑)。 この主人公キャラでこの( 中 略 )となると、最後になって一気にラノベ感が噴き上がるんだが、それもいいでしょう。
だけどまあ、上記の甘要素で微妙に物語が湿気ったよなあ。 もしや、出版社の入れ知恵/作者の忖度だったり?

“私は密かに××の幸せを祈った。”  ← この奇襲には、流石に泣かされました。

参考文献の後の注意書きに、お茶目なコトが記してありますね。 これは作家本人かな。

No.1489 5点 黄色い部屋はいかに改装されたか?- 評論・エッセイ 2026/09/28 17:56
“やや神がかりないいかたをすれば、ある特定の状況における、犯人の行動およびその心理を追究していけば、トリックなんぞは放っておいても出来るのです。 本格推理小説において、人間を書く、というのはそういうことだと私は思います。”

うむ、これぞ極意だと思いますね。

No.1488 6点 見知らぬ妻へ- 浅田次郎 2026/09/21 19:04
“呆然とした沈黙の後に、電話は静かに切れた。”

彼方にミステリの幻影をのぞき見ずにはいられない。 パラミステリの更に半歩手前のような作品が並ぶが、ミステリの視点で読まずにはいられない独特の浅田次郎短篇集。
まるでNSPのようにやさしく柔らかい恋愛と淡い友情が沁みた文章だが、そこへかまやつひろしのような訳知りポイズンが適所々々品よく滴り落ち、ただごとでは済まない小説世界を完成させている。

「中央公園発地獄行きの定期便だ」

ヤクザ社会の絡んだ人情ストーリー残酷篇/ドタバタ篇。 遠い想い出に浸るしみじみ篇/ゾワゾワ篇。 蘇部健一を思わす趣向のやんちゃ作もある。 ラストセンテンスがどうも鼻につくピースがいくつかあるが、一方で最後の一行が予想外のブラック集束でほとんど怪談の域に達した凄い作もあった。 その作だけは充分にミステリ。 最後、八方丸く収めるのに上手いこと考えたな。。(?) 言外の諸々が、深過ぎる考え落ち要素として一気に襲い掛かるのだ。 絶妙に迷彩施されたアノ伏線も効いた!!

踊子/スターダスト・レビュー/かくれんぼ/うたかた/迷惑な死体/金の鎖/ファイナル・ラック/見知らぬ妻へ  (光文社文庫)

表題作は、同作家による有名な「ラブ・レター」と同じく或る目的のための "国際偽装結婚" をモチーフとしているが、本作の方がプロットが複雑で、また違った色合い、複数方向へと伸びる人情哀歌と残酷さとで彩られている。 エンディングは異様なほど沁みる。 最後の数ページを無意識にすぐ読み返してしまいます。

No.1487 7点 ナヴァロンの要塞- アリステア・マクリーン 2026/09/20 22:34
“警鐘を打ちならしたのが、もの音などではなく、音の欠如であったことに、彼は不意に思い当った。

闇か、閃光か。

アイスブレイクが優しすぎる。 と思った直後、物語の大きな氷柱が落ちて来た。 直撃なら即死だ。

「今のはまずかったな、そういうことをされたんじゃ、生かしておくわけにはいかんからな」

第二次世界大戦、エーゲ海、中立国トルコの鼻先の島で生まれた冒険ドラマ。 立ちはだかるナチスドイツの要塞ナヴァロンを出し抜き、近隣のケロス島で死に直面する1,200名の連合国将兵を救出せよとのミッションを帯びた五人、そして追加戦士たち。 苦難を突き抜け歓喜へ。

“恐れていることも断乎として行えば、恐怖は必ず消える。 心というものには限界があるのだ。”

これほどまでに過酷な試練と恐怖に溢れた日々の道程ながら、不思議にもまるでTAKANAKAを思わせるような多幸感につつまれた文章であることが素晴らしい。 極限状況にてユーモア過多かとも思ったが、そんなことはないのである。

「俺が判事であり、陪審員であり、死刑執行人であることについて、長講一席あってしかるべきところだが、やめとくことにするよ」

泣かせるホワイト裏切りやら、××偽装トリックで泣き叫び、長いスパンでミステリ興味を引っ張る “アノ” 要素も平然として佇み、最後は過酷な落とし前を受け入れた。

「イギリス軍もみごとな殺し屋をえらんだもんだ!」

緊急輸送のさり気ない燃焼をさり気なく描き切る機微が光った。
激しすぎる冒険の目くらましで最終目的(将兵救出)が小説的に忘れられがちだったりの危惧もあったが、、 そりゃあ人間味って事だよね。

個人的には、TAKANAKAよりTAKENAKA(Char)に近い分厚いスリルが貫いた “ユリシーズ号” の方がグッと来るが、こちらも快作だ。
読んでみるといい。

「痛みも感じませんしーー何も感じないんです。 すばらしい気分ですよ!」

No.1486 7点 複合誘拐- 大谷羊太郎 2026/08/31 01:10
“人質発見の現場では、事件の流れを大きく変えるような事態が起きていた。”

誘拐されたのは社長令嬢。 誘拐現場はTV局。 噴き上がったのは、騙し合いと思惑違いのバトルロイヤル。 あの手この手で違和感こんもり。 こりぁ複雑じゃわい。
事件は俊敏に、思いも寄らぬ様相を次々と見せ始め、いつの間にか、疑惑圏外だったはずの人物が、次々とミステリ再検討の俎上へと連行される。 これはたまらない。
‘真犯人’、 まさかあいつじゃ ・・・ と匂わせるあの人物はダミーなのか。 仮にそうだとした場合、本命容疑者(仮真犯人)の立ち位置が、想像を絶する事態になりやしないか。。

「怨恨と秘密保持の二つが殺人動機ですよ」

血湧き骨跳ね肉躍る犯罪ストーリーだが、最後の、謎をたっぷり残した詰めの一幕こそミトコンドリアが振動を隠さなかった。
‘80年の刊行にして、ヴァーチャルリアリティ的トリックの登場には驚いた。 幻の◯◯◯って・・

> 第十二章  容疑者一巡
> 第十三章  真犯人
↑ この目次の訴求力がもう、読み進めるほど増し増しになって行くわけだ。

手を替え品を替えるが如く、いつまでもいつまでも搾り出し切れない、肝腎の謎と、付いて回る匂わせ、そしてカタストロフへの予感。
事件真相の、皮が剥がれても剥がれても、むしろ見せつけるように居座る大きな謎の本丸。 それは、小説としてのラスボス的本丸なのか、それとも小説内の事件そのものとしての ・・・ そんな焦れた思惑に聖剣をぶっ刺すミステリロジックの煌めきと来たらもう、ちょっと無かったぜ。

オチも、斬新ではないが、鮮やかだ。
タイトル、嘘はついていないわけだ。(それどころか・・)

「とにかく、そうするのが自分の幸福につながるから、何も聞かずに言うとおり動いてくれ」

本作の弱点と思うのが、nukkamさん仰る
> 前半ほとんど登場しない人物が突然容疑者として浮上
このあたりに象徴される、「えっ」 と思うような、意外な肩透かし感が終盤に至りところどころ現れる所ですかね。
一方で、前述したように、終盤に迫る、解決を待つ謎群の圧迫感は本当に凄いものがあるのですが、最後の最後にちょっとだけ崩したバランスのおかげで、空気がシューと抜けました。

でもやっぱり熱い、面白い、凝りに凝った、複雑系誘拐モノ意欲作である事は否めません。
果敢に仕掛けて来る攻めの姿勢には故・東野圭吾氏に大いに通ずるスピリットを感じました。

No.1485 7点 ぶらんこ乗り- いしいしんじ 2026/08/23 20:15
“この、おだやかなふるえを、今晩はじっと味わっていよう、そして朝がくるのを待とう。”

行方知れずの弟。 彼が残した夥しい “おはなしノート” が出てきたよ、と或る日の学校帰り、祖母が教えてくれた。
母は画家。 父は額縁職人。 亡くなった祖父は有名画家。
飛び級を繰り返すくらい聡明で、ぶらんこと指鳴らしが上手く、ある日珍しい事故で声を失い、動物と会話できるようになったという弟。

“本気のさよならはいなくなったひとをちょうどいいところへぶら下げる。”
↑ これは深いね。 感心しました。

前述の “おはなしノート” をきっかけに、長い長い回想が霧と雲の中を巡る物語。
桜井章一さんを思い出す、独特過ぎる名前の犬が、キードッグとして活躍する。

後半の後半に差し掛かる前、ショックが襲い掛かる。(きれいな目次に潜む違和感の源は、これだった)
カウントアップの名を借りたカウントダウンは胸に迫った。 やはり、段階を置くというのは大事だ。
“伝言板” のトリック(?)が大化けするさまには、本当に泣かされた。
幻想交じりのようではあるが ×× のトリックには驚いた。 流石は天才といった所か。

“暗くなるまであの絵はがきは、私たちふたりの手をいったい何往復したんだろう。”

物語の面白い形と手触り配置とが人を惹き付ける、甘すぎない綿あめのような、ホワットダニット・ファンタジーの短い長篇です。

No.1484 7点 沈黙のパレード- 東野圭吾 2026/08/21 00:04
「そういう気持ちをほんの一瞬でも味わったんだと思うと、親としては救われるんです」
↑ この台詞は沁みた。。。

湯川がいきなり怪しい。 不自然だ。 擦れている。
湯川は俺と酒の好みが合うようだ。

歌が上手い街のアイドルは、定食屋の娘。 プロデビューを念頭にレッスンに励む日々。
そんな彼女に目を付けた、陰気な客がいる。 数年前に起きた幼女殺人事件の容疑者として一度は逮捕されたものの、証拠不十分で釈放された問題人物だ。
彼は、目に余る行為で定食屋への出入り禁止を言い渡された。 すると娘は消息を絶った。
数年後、娘の遺体が発見されたのは、“陰気な客” の、ゴミ屋敷と化した ‘わけありの’ 実家の中だった。
どこかで、復讐に向けてのカウントダウンが始まった。

「バレッタは逃げない。 ××が大切に保管している」

ミステリの、そして物語の仕掛けの重心が思いのほか低く、真相解明で読者は大きく揺さぶられよう。
思いの外複雑な全体像、良いじゃないか! 途中からひたすら直線コースを疾走する。。 わけないよな、いやしくも俺の東野が! チキンレースを制するように崖の直前、急カーブにて一旋。 凄まじい砂吹雪に前も見れねえ。。のだがそこで終わりじゃねえんだ! 虐熱の逆説ドンデン返しには耳を疑った!!

或る “意外な人物” のちょっとユーモラスな立ち位置には、素晴らしい緩和作用があった。 
のみならず、絶妙に ‘或るバランス’ を調整する際どい惑わしにも加担していたな。
ここ、ミステリとして結構大事なポイントなんじゃないでしょうか?

或る “時効” の効用。 ある告白のタイミングの効用。 いやいや、タイミングだなんて、そんな他人事の言い種で済むものか!
土壇場のミスディレクションも、短命ながら、効いた!
湯川は人情を理解した。

中盤前に押し寄せる違和感の、微妙過ぎるさじ加減がほんとうに素晴らしい。
電話やら何やら、会話の赴く××が微妙過ぎて、もう。
絶妙に過ぎるっちゃねえ、牡蠣のようなアリバイやら(ちょっと意味不明)。

色々あったけれど、読み味としてはミステリの意外な真相を強烈な人間ドラマが押し切った感が強い。
ミステリ側が奮起してもっと両者拮抗してくれたら、より感動も深かったとは思う。

↓ これはネタバレになるのかな?
“第一の事件” のほうにもっと予想外の内実があったら ・・・ と思わないものではないのです。

No.1483 6点 ミス・ブランディッシの蘭- ハドリー・チェイス 2026/08/19 00:38
「つかまるまでは、うんと、おもしろい思いをさせてやることになるだろうぜ」

酒とメシから始まる小説は良いな。 だがアンタ、ミステリじゃねえな。 ドタバタ残酷(ギリ)コメディ(?)かな。 最後はちょっとじっとりするな。
ある意味 ‘信頼できない登場人物表’ まで魅力に溢れる一冊だ。

すぐ殺(や)る課の万年課長のようなやばい奴を中心に、同じくらいやばいその母親(こいつの存在が本作に独特なガッツをぶち込んでいる)、取り巻く悪党たち、敵対する悪党たち、女たち、ブンヤ、警察に私立探偵。
“牛肉王” ジョン・ブランディッシの一人娘はちょいと高価なネックレスを首に婚約者と社交場へ現れたのが運の尽き、拉致されてやばい目に遭う。 婚約者は秒で屠られる。

「娘は死んどると思う」

前述の通りミステリ性は極薄の、ハードボイルドって柄でもない、パス回しの上手い暴力スリラーだが、読ませるぜ。
カットバックに何気な時系列の惑わしが仕込んであったりもして、面白い(そのへんちょっぴりミステリの香りがする)。

モヤモヤが溢れ出るラストシーンと、最後のセリフ。
まあ物議を醸したオリジナル版では全く違う味わい(というか結末)の様だが。。 というかオリジナル版の最もやばい諸々がカットされてこの結末、ってなんだかモヤモヤするのだが。。

No.1482 8点 シンデレラの罠- セバスチアン・ジャプリゾ 2026/08/07 00:24
“海からあがってくると、額のうえの濡れた髪をかきあげようともせず、彼女のそばに近づき、ズボンのポケットに煙草をさがした。”

いったい、どういうことなんだ!
火災の被害者は、幼なじみの若い女性二人。 一人(ド)は死に、一人(ミ)は大火傷を負って記憶喪失。 生き残った(とされる?)方の叔母(ミドラ)は事業で成功を収めた億万長者だ。 それがどうした。 莫大な遺産でも転がり込むってのか。。

「あいつはトコトンまでやるぜ」

冒頭から漏れ出るムードが教えてくれた通り、ありきたりの展開に雪崩れ込むつもりは無いようだ。
幻覚ゴン攻めでフラフラ。 時系列行き来の中に仕掛けられた強い惑わし。 何人もの人物があらわにする不安定な情緒。 揺れて被さりモアレが動く。
当然のように、混乱に次ぐ混乱。 章を跨ぐたび、また章の中途でも容赦なく。

「七月四日はあなたの誕生日ね」
「私がこの鏡を見たとき、私が大好きになったのよ。 いまは私に夢中だわ!」

“◯◯”とは誰だ? そもそも “◯” とは。。?  
平常時(?)から自然な人格撹乱が行き渡り、いざとなったらとんだ大仕事を見せてくれそうだ。

現れ出でたるフィクサーだか何サーだか、スパイだか、インフォーマーだか、ムーチャーだか、なんなんだろう、この人たちは。
ラス前々章の不穏な、不安なエンディングとか。 いきなり読者を振り回しに掛かる、癖強の序章とか。
クライムノヴェルとサスペンス型ミステリとがバチバチにやり合うような、独特の薫りを放つ作品だ。
それにしても、各章の表題。

“彼をあれほど熱中させている、この事件のなかには、私だけしかいないのだ。 私は探偵であり、殺人犯人であり、犠牲者であり、目撃者である。”
↑ レトリック性が強いこの地の文から、件のキャッチコピーが編み出されたのかと思うが、 ( や っ ぱ り 以 下 略 )

で、もう一人(ラ)は ・・・

虫暮部さん
> 安部公房『他人の顔』と併読したらえらいことになる。
本当です。 やめておきましょう。

No.1481 8点 求婚の密室- 笹沢左保 2026/08/04 00:00
何よりタイトルが魅力的だ。

「では最後に、密室のトリックについて説明をお願いします」

終わり8分の1を読むのがこれほど怖いミステリもなかなか無い。
クリスティ諸作の様に企画のくっきりした明瞭形式で進む不可能犯罪ストーリーだ。

“第一回ジャーナリスト大衆賞” を受賞したばかりの主人公、天知。
夏の軽井沢別荘にて、養女の結婚相手を決めるパーティーを開いた、著名な仏文学教授。
養女は有名女優。 彼女は密かに、天知に思いを寄せている。

パーティーを主催する教授は、半年ほど前に或る重大な性的スキャンダルに襲われた。 天知は教授をその窮地から救った経緯がある。
パーティーには、スキャンダルの際の陰謀者と想定される者や、直接の関係者数人が、夫妻やカップルの形で “敢えて” 招かれている。
彼らの中心に置かれるのが、花婿候補の医者と弁護士二人。
他に、教授の秘書や親戚筋。

先のスキャンダル火消しで教授の信頼を得た天知は、幼い息子と共に是非ともと招待を受けた。
教授夫妻には、養女とは二十歳以上も離れた実子の娘がおり、天知の息子とは仲が良いようだ。

その教授夫妻が、敷地内にある地下倉庫内で、服毒自殺を図ったような死体で見つかった。 実質的に密室状態だ。

花婿候補の医者と弁護士が、求婚の権利を賭けて、夫妻の死の真相に対する、それぞれの推理合戦を繰り広げる。
先攻の弁護士は、心中説。 後攻の医者は、他殺説。
だが、養女から見たら本命の花婿候補である天知には、東京に留まった雑誌編集長の田部井という、情報収集の専門家たる、強い味方がいた。

「それ以上に、残酷なことを聞かせよう」

真犯人暴露の前に置かれる際どいワンクッションは、難しいマルチタスクを見事にこなした。(この筆力!)
しかしこの意外な真犯人像、そして深い深い動機、更には◯◯手段、全てエグ過ぎました。 本作は ×× である、という思い込みを見事に乗っ取ったミスディレクション、に操られたのかも知れません。

恐るべき密室トリックに物理的違和感無し。 心理的にも ‘さほどの’ 違和感は無い。 しかし、何故 ‘さほど’ 無いのかを語ったら、途端にネタバレ水域へと飛んで行ってしまう。

「このことを承知していたら、悲劇はもっと違ったかたちになっていただろう」

人間ドラマに加勢しミステリを邪魔しない良質のベッドシーン、ラヴシーンも効いた。
ゲーム性と意外性と熱い/冷たい人間性とが最適で最高の角度でぶつかり合った意欲作。 まるでYMOだ。

そこに、愛は無かったのか・・・ あったのか・・・


蟷螂の斧さんのコメントされた
> もっと登場人物(生前、女性スキャンダルを仕組んだ教授、助教授、女本人、その恋人)を活かしながら、アリバイ崩しに重点を置き(ページを増やし)、そこから浮かび上がってくる犯人像!とした方がインパクトがあったように思います。
には同感です。 良作と思いますが、作品ポテンシャルをあたら活かしきれていないのかも知れませんね。

> どのように二人が水を飲んだのか(飲ましたのか)が本作では白眉でした。
こちらも同意いたします。 色々あるけれど結局このトリックゲーム(あの本ではない)要素が本作のミステリ主役のような気がします。 色々あってもYMOのNo.1キラーチューンは "Rydeen" で鉄板、という事象に似ています。

それと、このトリックは、微妙にある意味 '爽やか(?)' な要素を含んでいる所がまた、何とも割り切れない不思議な印象を残すわけでしてね。

No.1480 8点 兇人邸の殺人- 今村昌弘 2026/07/31 02:09
死に様。

「分かりません。 もしかしたら、やっと家族を見つけられたのかも」

真犯人はミステリ半生の土地カンで当てた。 迷い無しだ。 しかしながら、(以下略)。

「私を見なさい! あなたたちはこうなっちゃ駄目なのよ!」

出だしの学生会話は最高にかったるい。 その後すぐのミステリ進行はムード満点で言うこと無し。
現在どうしの小さなカットバック、そして現在と過去(これが大いに怪しい..)との大きなカットバックが併走する構造。 中には、意外な組み合わせ・順番のカットバックにオッと足許すくわれる所もある。
文章もまずまずだ。

人気の猟奇テーマパーク内、立ち入り禁止の 『兇人邸』 に深夜不法侵入する者たち。 彼らの目的は、かの “班目機関” 禁断の研究資料を奪取する事。(いやいや本当は、とてもそんな単純な構図ではないようだ。) 広大で複雑構造の邸内にはテーマパークを経営する社長と、男女二人の使用人が住む。 (これも、実際は少し違う。) そこへ来てもう一人の不法侵入者が加わり、話は複雑になる。 不法侵入者たちの中には本シリーズ探偵役/助手役の二人も含まれるが、肝腎の探偵役は邸の ”離れ” に閉じ込められてしまった。 これに加えて、悪いことに隻腕巨躯の “首斬り殺人鬼” が邸内を跋扈していると言うではないか。

「もっと正直に、悩みを打ち明けていればこんなことにはならなかったんだ」

クローズドサークルの、メカニズムがちょっと複雑な、だがその意図するところはシンプルな、斬新な構造が光る。
物語に潜む奇妙な非対称と対称の併存も、引きずるものがある。
カットバックの使いよう、流石の大爆発。 しかも、最後には ・・
もはや、ミステリに於ける真犯人とは何だ?! と来ちゃうわけだ。(この感覚、すこぶる重要)
一体、キーパーソンは誰なんだ!!

「皆が一緒にいられるように、たった一人で!」

或る、色んな意味で重要な人物の様子が中盤からにわかにおかしな様相を晒し続け始めるのがなんとも、今時ダミーと捉えるべきか、疑うべきか、とりあえず騙される事を第一とすべきか、こりゃ迷わせてくれる。
いかにも “ソコ” に叙述トリックが潜んでいるんじゃないでしょうかと匂わせ芬々なのは、実は本当にそうなのか、或いはやっぱり違うのか、全く方向の異なる第三、第四の意外性なのか、こっちも実に迷わせる。
最高に束縛される。

複雑系特殊設定と複雑系一般設定との容赦ない重なり合いはチョイとアタマを酷使させてくれるが、複雑系特殊設定の中でも特に大事な所はキャッチーで分かりやすい(そして最終的には特に大事な役割を果たす!)という美点は認められた。
まさかの、物理的にはあまりにも短い、人情心情アクションシーンの大爆発。 それに続く、重大な推理のダメ押しには更なる熱い塊が隠れていた。 この一連の流れ、参ったなあ。。
なあーーんか甘っちょろいナニなのかと訝しんでたアレが、いやいやナニナニ、ふむ、そうなんですか。。

『魔眼の匣』 みたく一線を超えちゃったミステリSOWに襲われたわけではないけれど、これだけやってくれりゃあもう、充分S級合格ですよ。
読んでて所々こっぱずかしくなる青臭さの沼も、まあ構わんのですよ。

「これからなにが起ころうとも、あなただけは彼女を責めないでください」
「なにをーー」

それにしても、最後に明かされたあの “トリック” の、心の激しさには、流石にやられました。 誰かと語り合いたい。

“おやすみ、みんな。 そして母さん。”

No.1479 6点 月は幽咽のデバイス- 森博嗣 2026/07/27 00:34
“こうまでして音楽を聴く必要があるのか”

特に最初と最後のあたり、言葉の遣り取りの面白さが、面白さのレベルで言えば調子のいい時の島田一男級だ。 面白さの方向性はもちろん明後日の方向だ。

「キス以外の方法で・・・・・・」

極端なオーディオマニアである富豪の邸宅にて、パーティーの最中、密室状態のオーディオルーム内に客人の一人が死体となって発見される。
言うまでもなく、絵に描いたような違和感、不自然な状況でいっぱいである。
風変わりな意匠で知られる邸宅には、狼男が出没するとの噂もあった。 それがどうした。。 ってが。。。

「私ね、田中と加藤の区別ができないの。( 中 略 ) 清水と斎藤も駄目」
分かる(笑)! 何を隠そう、拙者も清水と斎藤(と林だったか?)の区別が付けられなくて、克服するために自ら斎藤を名乗るようになったという側面もあるのだ。

勝負を賭けた準複雑系バカトリック(?)も、できることなら島田荘司流の正面突破力で、まとわり付くノイズ発信源を全破壊してくれたら、もっと輝いて見えたかもなあ。 弘法も刎頸の交わりとはこのことだなあ。
密室構成の古典的 “アノ要素” を上手に使ったものだなあと感心したのだが、如何せん、前述のバカトリック(?)の見せ方における思い切りの悪さに踏みつぶされて目立たなくなってしまった。
楽器演奏の手掛かりとか、そもそもの思わせぶりな人物配置とか、惜しいというか、もったいないなあ。 猫にブルース・コバーンだよなあ。

“何故なら、私が、保呂草潤平だからだ。”  ← こ、これ・・・・・・

No.1478 7点 星の王子さま- アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ 2026/07/24 12:07
“王子さまが、戻ってきたよ”

さびしさ、ありがとう。
出会いと別れと逆説オムニバス。

宇宙の様々な星に立ち寄り、七番目の地球に辿り着いた ‘王子’ と、地球の砂漠で飛行機を不時着させた ‘おいら’ とが出遭う。
‘王子’ は、飛行機修理のメドが立たず生命の危機が現実味を帯びる ‘おいら’ に、自らの小さな星と、地球に来るまでの六つの星で見聞き体験したプチ寓話ストーリーを語って聞かせる。

SF魂を棄てた純粋ファンタジーのようであるが、コミック風に短く戯画化されたSOWの素のようなものも散見される。
“帽子の絵” や、各星の住民たちに纏わるミステリ的逆説スケッチも目を引く。

責任感の強い ‘王子’ により最後に実行された或る ‘トリック’ が心に深く沈降します。

有名な箴言のようなものを数多く生み出した小説ですが、私は何と言っても、ラスト近くの、寂しい物言いから一気にポジティヴ反転する、ちょっと長い某台詞がいちばん沁みますね。
◯◯を◯◯◯からかも知れません。

“あれからもう、六年になる……。”

No.1477 7点 目には目を- カトリーヌ・アルレー 2026/07/19 21:38
“時限爆弾の準備はすっかり整っていた。”

ちょっと読み出したらもう、たまらないぜ。 目次をチラッと見たらもうたまらん。 登場人物表を覗いたらもうたまらねえ。

ジャンは裕福な貴族。 事業を営んでいるが、破産の危機に陥った。 妻アガットとの贅沢な暮らしを続けるには、起死回生の手が必要だ。
そこで目を付けたのが、市民階級の同業者で、自身は小金持ちだが、フィクサー的信用力で巨額のカネを動かす事ができる、十も年上のマルセルだ。
独身の彼は、やはり独身の姉マルトと共に、ジャンの家へと招待される。 マルセルはアガットを一目見るなり、恋に落ちた。

“男にとって、理想は、戦死だわ。”

ほうら来た、シンプル極まりない(?)目次をあらためて追ってみると ・・ 嗚呼、ストーリーへの妄想が勝手に走り出して止まりません。
しまいにゃ各章ページ数のゆらぎにさえ、憶測と疑惑の手が伸びる。

きちがいと、馬鹿と、邪悪な切れ者がいたとして、淘汰される順番はどうなるだろう。

あまり書くとネタバレに繋がるが、二つ目の◯について或る人物が ( 中 略 ) ってのがやっぱり、ミステリとして、ドラマとして、犯罪物語として一番のツイストであり、肝腎のミソだろうねえ。

「あんたも仕合わせにはなれない。 ほんとうの喜びっていうのは、喜びを与えることにあるのに、あんたは、まるでかちかちにかわいた果物だもの」

ちょっとした風景描写良し。
地味なようで凄まじいドラマを含んだアクションシーンもたまらない。
ほんのささやかな叙述の戯れが、最高のカタストロフ結末を導き出す。
スリル良し、サスペンス良しのヴァカンス小旅行でありました。

「あなたはこれから毎晩、この秘密の夢を見るわ」

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.69点   採点数: 1496件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(61)
松本清張(58)
鮎川哲也(51)
佐野洋(41)
アガサ・クリスティー(40)
島田荘司(39)
西村京太郎(36)
島田一男(31)
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F・W・クロフツ(26)