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[ SF/ファンタジー ]
コップ一杯の戦争
小松左京 出版月: 1981年03月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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集英社
1981年03月

No.1 6点 斎藤警部 2025/07/07 21:30
初期(S30年代後半~40年代初頭)ショート・ショート集。
夏のきまぐれで読みました。

◆さんぷる一号: 習作認定。 ◯◯には困らない仕事に就いた主人公。 ← この伏字を明かしたらもうネタバレに。
◆コップ一杯の戦争: 問題作かな。 場末?スナックを舞台に、一読いい気なバカ話に見えるが、この戦争の経緯と話の結末(そして未来)には身を捩って困ってしまう。 オープンなエンドは、考え落ちというより、哲学領域が透けて見える考察落ち。 だけどやっぱバカだよなあ、色々と。 ラジオが主役を喰う一篇。
◆ホクサイの世界: タイムトラベラー夫婦がやって来た昔のトーキョー。 実はソッチでなくアッチだった。 某有名映画を彷彿とさせる、緩いが怖いオチ。
◆釈迦の掌: スーパー文明の利器を使い、浮気の "究極アリバイ" 工作を目論む初老の男(このアリバイ工作がちょっと凄いのよ)。 "その" シーンをもっと微に入り細に入り描写してくれたら、さぞ高笑いの怪作になっただろうに!! 充分想定内の結末真相より、むしろそっちに力点置いて欲しかった。
◆花のこころ: これは美しい、怖い、思索を誘い、香りがする。 異星の植物をめぐって起伏あるストーリー。 覚悟の決まったラストセンテンスは、星新一流儀か。
◆恵みの糧: 虐げられたマイノリティの、淋しく哀しい物語。 ところが、虐げられたのは彼らだけではなかった。
◆恥: 未来の下劣な見世物をねちっこく語る。 冒頭の伏線というか大ヒントは、わざとですね。
◆さとるの化物: バーで出逢った二人の男。 SFというより◯◯話。 ← この伏字を明かしたらネタバレ。
◆仁科氏の装置: 生涯掛けて、或る装置を完成させた男。 寓話ですか? こういう大人になってはいけませんね。
◆四次元トイレ: 借金取りたちから逃げおおせる画期的手段を発見した若い男。 絶望的バカ話。
◆忘れられた土地: 地球と月の間に、幻のような "土地" が漂っているとの目撃証言が続出。 バカバカしいが壮大な反転真相。 ちょっとFブラウンっぽい?
◆面従腹背: 斬新な "異星人撃退法" を見舞われる地球人。
◆完全犯罪: 老囚人が若い囚人たちに聞かせる壮大な話。 ブラウン神父風の逆説いっぱい。 ミステリ度高し。 ショートショートならではの斬れる一篇。
◆交替: 人間派・社会派・心理派ホラーSF。 真相の意外性は薄いが、全体にA級オーラが漂う。 怖いエンドには独特の風格が在る。
◆四次元ラッキョウ: 皮をいくら剥いても無くならないラッキョウが発見された。 しかしなんでその小道具(?)にラッキョウを? 話のバランスがおかしいまま無茶苦茶なカタストロフへ突入。 挙句の果てに××オチ。 なんなんだこれはぁ~
◆なまぬるい国へやって来たスパイ: "あの長篇" を思い出す、バカチェスタトンみたいな話。 ショートショートでやるとバカバカしさが際立って笑ってしまう。 最後の一言はもうオチにもなっていない(笑)。
◆返還: 恒久平和が実現(!)した未来世界にて、北海道をアイヌに返そうという動きが起こる。 やがてこの動きは世界中に波及し・・・ 掌編でこそ実験出来たムチャクチャ話。 (筒井康隆なら長めの短篇でやったかも?)
◆辺境の寝床: 銀河のはずれで拿捕された宇宙船。 ところが乗組員は歌に踊りにスケベもアルヨの歓待を受けるばかり。 拿捕した側の目的は ・・・ ちょっと社会派の寓話性ある真相だが、コケるっちゃコケる。 見せ方の問題。
◆怪獣撃滅: 異星にて ”敵” の殲滅に加勢する地球軍。 明瞭な設計図に則った端正な反転劇だが、模範解答に終わること無く、重みと動きがある鮮やかな教訓ストーリー。
◆運命劇場: おー、これぞハッピーエンド。 こんな人、実は昔もそんなにいなかったんでないの? と疑ってしまうほどの苦しい矮小サラリマーンが、色々あって、、この結末に至る。 一種の禁じ手と言えるアレを上手に大胆に使っています。
◆宇宙鉱山: 宇宙空間で発見された或る異状の原因を解明せんとする、地球発の宇宙艇。 科学方面・社会方面ともに、本掌編集の中では少し難解かも知れないが、この奥深さには浸れます。
◆宇宙に嫁ぐ: クイーン『世界に捧ぐ』を思い出す表題。 地球での習慣(← 実はこれ...)と異なるプロセスを経て異星人へと嫁ぐ娘を見送る母。 "花の歌劇(オペラ・デ・フロール)" なる言葉に込められた工夫には感心した。 「そうよ、お母さま ・・・・・・ 」 ちょっぴりブラッドベリ風な、水のしたたる叙情に包まれる美しいお話。 

時間を経て熟成したSF小説は、時に、実在しない虚数時間の時代小説に化ける事があり、それもまた良い味わい。
本掌編集にも、そのような小説があり、そうでない小説もある。


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