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[ SF/ファンタジー ]
日本アパッチ族
小松左京 出版月: 1964年01月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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光文社
1964年01月

角川書店
1971年12月

角川書店
1997年01月

城西国際大学出版会
2006年09月

角川春樹事務所
2012年11月

KADOKAWA
2021年09月

No.2 7点 虫暮部 2021/06/25 11:51
 不景気や失業者の増加が“鉄食い”の生まれる社会的条件だそうな。昨今は進化を促す淘汰圧が厳しく、私も実は‟鉄は食えるんじゃないか”と感じ始めていた。
 そこにもって来てこんなに美味そうに書かれた食鉄の手引きを読んでは、試さないわけには行かない。
 ネジを舐めてみると軽くピリッとした刺激がある。嚙み切るのはまだ無理そうなので、金鋸で細切れにして硫酸で煮込んでみた。舌触りが幾分か滑らかになり半解凍のケーキのようでジュッと音を立てて香ばしさに鼻が半壊するが慣れれば平気だと思う。うむ、やはり良い作品には感化されてしまうな。そういえば先日、筒井康隆の「最高級有機質肥料」を読んだのだが……。

No.1 7点 人並由真 2021/06/05 04:50
(ネタバレなし)
(いまで言う並行世界の)戦後日本。そこは、失業して再就職が不順な人間は社会体制に楯突く「失業罪」にあたるとする、改憲がなされた世界だった。「私」こと、同罪に問われて大阪の閉鎖区画「追放地」に追われた青年・木田福一は、何もない同地で餓死か死を賭して脱走するかの二択を迫られていた。その結果、相棒の同じ受刑者・山田捻(ひねる)を惨殺されて絶望した木田だが、彼は奇妙な一団に救われる。彼らこそは、廃墟の廃鉄スクラップを食して肉体を鋼のごとき超人に変える鉄食い人種「アパッチ族」だった。内なる資質に目覚め、自らもアパッチに転化した木田は、仲間とともに現在の日本の状況を変えてゆく。

 小松左京の長編デビュー作。亡き父の蔵書だったカッパノベルスの初版がまだ家にあったので、これをついに読む(というか、実は数十年前から、父の蔵書の中から自分の書庫の方に移動しておいたのだが)。

 ディストピア調の世界観を導入部に開幕し、いつのまにか戦後の日本に誕生していた鉄人ミュータントの存在が、日本の文明そして政治や経済を大きく変革してゆく様を克明に語る。

 当時のそして将来の現実の日本の世相を展望しながら、文明批判や風刺などが旺盛なのは当然。時に生々しいほどリアルに、時に地口なども交えたギャグやジョークもふんだんに、アパッチが日本国内に広範化して、同時に公認されてゆくプロセスが積み重ねられてゆくが、ドラマの根本の部分は「差別」「階級差」「人間としての実存」など、おそろしくオーソドックスな主題のものだ。

 作中の「アパッチ族」の原型は、実際の関西地区にいた廃品回収業者の人たちが「アパッチ」との「蔑称」を受けていたことに由来。この物語の中でもその前提は遠景にあり、超人的な鉄食いミュータントとして覚醒するのは、主にそういう社会的な弱者、という視線がある。やがて人類の種の変革の流れで多数の新たなアパッチ族が日本中に新生するが、その中には人間を捨てることに葛藤するものもいれば、新人類に転生することに希望を見る者もいる。21世紀の弱体化しつつある日本だからこそ、普遍的に心に響く主題であろう。
 見せ場は笑えるシーンも緊張の局面もそれぞれ多いが、全編にある種のペーソスが漂い、アパッチ族との相対化で人間のバイタリティも下らなさも同時に照らし出される。
 さすがに視点が古くなってる……かと思いきや、根幹の幹部は予想以上に現代にも通じる内容で、初期から押さえる要所をきちんと押さえまくっていた作者の実力に感服。
(とかなんとかエラソーなことを言うが、気がついたらマトモに小松左京の長編をきちんと読むのは、これが初めてであった~笑・汗~。)

 この元版のカッパノベルスが刊行された同年の1964年にさっそく東宝で映画化企画が動き、クレイジーキャッツの主演と岡本喜八が監督の予定でシナリオも書かれていたようだが、もちろん幻に終わった。
 高橋泰邦の『軍艦泥棒』ともども、完成された岡本映画作品として、観たかったねえ。


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