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[ 短編集(分類不能) ] 死の快走船(創元推理文庫) |
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大阪圭吉 | 出版月: 2020年08月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 東京創元社 2020年08月 |
No.1 | 6点 | 斎藤警部 | 2025/07/21 11:40 |
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"鐘は生きている!"
死の快速船 ヨットと殺人。 清らな海風の中、地道な物理捜査。 強い疑惑が光る数人と、美しい風景描写。 軈て自然の猛威と軌を一にして襲いかかる真相暴露のクライマックス。 結末には一見アンバランスな程の意外性が溢れかえっているが ・・ 推理小説の結末意外性に、過多なんてことがあってたまるか・・! いや、ほんとは意外過ぎてダメな結末というのは稀にありましょう。 ですが本作の場合は際どいその意外性に堂々真正面から力強く取り組んでおり、結果として良い結末になったと思います。 The Whoの清冽な暴力性を賢く纏ったような真相解決です。 短篇「白鯨号の殺人事件」(創元推理文庫『とむらい機関車』収録)を内容薄めず中篇化した作品。 なこうど名探偵 トマト泥棒を特定する推理から、音を立てての人情反転劇。 何を隠そう、表題が泣かせる。 塑像 夭折した少女の「像」が徐々に痩せ細って行くとの目撃談。 怪奇からギャフンへとズリ落ちる掌編。 人喰い風呂 銭湯からご婦人が消失する事件が続き、その話題で町内はもちきり。 これを苦にした銭湯屋は。。 品の無いサゲには苦笑。 水族館異変 夏の趣き風に漂う、昔の田舎の水族館。 そのバックヤードで疼く男女間の縺れと、客をも巻き込んだ殺人事件。 軈てまさかの◯◯的ラストシークエンス。 無駄に巧妙な伏線や無駄に凝った犯罪連鎖の設計等あり、それらが小説の形態を完璧でなくしているが、そんな夏っぽい過剰さも面白味のうち。 求婚広告 トリックも見え見えのユーモア押し一本だが憎めない掌編。 ラスト一行 '副詞' のスッとぼけが良い。 三の字旅行会 まるで鉄道を使ったクローズアップマジック。 ちょいとスペエの風も吹く。 応用に応用を重ねれば現代でも応用出来るか、出来ないか。 愛情盗難 東京の安アパートを主舞台に、ちょっと複雑なドタバタ◯◯喜劇。 準主新聞記者のキャラ立ちが良い。 中篇並の長さでも、じゅうぶん謎で引っ張る日常のケースは成立する、という証拠だね。 正札騒動 都心の百貨店にてひと騒動。 小スペエな結末。 小味過ぎて涙も出やしねえが、語り口は彩り豊かで憎めない。 告知板の女 駅の伝言板を使って(シティハンター..)しりとりの様な、恋愛鬼ごっこの様な、謎の遊戯が繰り広げられ、途中でしっかり「転」が入り。。 これも軽くスペエ風味だが、もしかして地下鉄サムがヒントに? 香水紳士 叔母と従姉妹の住む街へ電車で向かった少女は、怪紳士と同席の憂き目に遭う。 咄嗟の機転と落語風サゲが光る、少女のための掌編。 空中の散歩車 再三にわたるアド・バルーン逃避行?事件。 完全にアッチの真相。 そのものスバリの三文字も露呈。 何気に意外な犯人と、洒落た?というか◯◯擦り寄り?のオチ。 氷河婆さん ゴールドラッシュ期のアラスカに於ける或る激烈な悲劇と、自然×ギリ数学(?)トリックの妙。 時代を映したラストセンテンスも凄い。 ちょっと泣ける話。 夏芝居四谷怪談 江戸の街、芝居小屋の '奈落' で起きた怪奇現象。 ひねりが無さすぎか。 ちくてん奇談 ちくてん≒逐電(七割死語)。 江戸の街、正月に姿をくらました町人たち。 ひねりは無いが、当時のレアな風俗が知れて愉しい。 数学的興味はあるようで無かったが、そこは構わない。 最後に纏められた『随筆・アンケート回答』もキレ良く快調。 小栗さんの印象など/犯罪小説と探偵小説/鱒を釣る探偵/巻末に/怒れる山(日立鉱山錬成行)/アンケート回答 "いやそれより若しもあの黒死館みたいな調子で終始応待されたらなんとしよう!" "最近特に兇悪な犯罪が続出して (中略) 軽いスリルをさえ覚えさせるようになって来た。" |