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[ 日常の謎 ]
青べか物語
山本周五郎 出版月: 1964年08月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
1964年08月

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1967年01月

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1970年07月

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1979年08月

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2015年02月

新潮社
2018年12月

響林社
2019年05月

No.1 7点 斎藤警部 2025/07/25 21:07
“私は決して誇張しているのではない、これは浦粕(うらかす)という土地の気風なのだ。”

作者「浦安」在住の四年間にインスパイアされたと思しき連作掌編集。 おおらかな気風ながら容易ならぬ狡猾さも忍ばす漁師町「浦粕」を舞台に起こる不穏な(時に優しい)出来事の数々を、愉しくも抑制の効いた、癒される筆致で豊かに叙述。 ‘日常のサスペンス’ や ‘日常の謎’ そして ‘日常の悲劇’ に ‘日常の悪事/犯罪’ がちょいちょい紛れ込む。 中にはあっさりエッセー風日常の描写もある。 方言のきつい会話が並ぶが、ど根性で解読していただくしかねえがよ。

はじめに/「青べか」を買った話/蜜柑の木/水汲みばか/青べか馴らし/砂と柘榴/人はなんによって生くるか/繁あね/土堤の春/土堤の夏/土堤の秋/土堤の冬/白い人たち/ごったくや/対話(砂について)/もくしょう/経済原理/朝日屋騒動/貝盗人/狐火/芦の中の一夜/浦粕の宗五郎/おらあ抵抗しなかった/長と猛獣映画/SASE BAKA/家鴨(あひる)/あいびき/毒をのむと苦しい/残酷な挿話/けけち/留さんと女/おわりに/三十年後

ミステリ性の検知される所では、余所者群の謎の行動の意味が明かされる話とか、心中事件の顛末とか、あと警察と住民の騙し合いのような二連作が続いたり。 鉱物の成長(!)に関するインチキロジック立ち聞きには大笑い! 女が男に取り入って利益を得んとする話も目立つ。 他にも違法商売と夫婦喧嘩の顛末やら、もの哀しく美しい、川、舟、岸を舞台に、過去から今へと繋がる恋愛話(これが沁みる…)。 

最後の「三十年後」で豊胸デスティニーランドみたいのが出て来たらどうしよう、なんて心配はまっぴらご無用。 時代小説の大家「山本周五郎」が稀に書いた「現代小説」なんぞと呼ばれますが、現代と言ったって大昔の話ですから。

「なにしろ古いことだからねえっ」

俗に '世間は狭い' と言うのは実は '世間は広い' ではないかとの、ちょっと数学的な考察は面白かったです。


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山本周五郎
1970年01月
寝ぼけ署長
平均:8.00 / 書評数:3
1964年08月
青べか物語
平均:7.00 / 書評数:1
1959年01月
赤ひげ診療譚
平均:8.00 / 書評数:1
五瓣の椿
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1958年01月
樅ノ木は残った