海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

ミステリ初心者さん
平均点: 6.20点 書評数: 375件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.315 6点 偽のデュー警部- ピーター・ラヴゼイ 2022/07/14 19:30
ネタバレをしております。

 非常に特殊な状況のミステリでした。自分の妻を殺そうとした犯人が警部と間違えられ、別事件での名探偵役になってしまうのは面白いですね。
 ただ、船に乗る前までがやや退屈な展開でした。船に乗ってからはそれほど苦も無く読了できました。

 本格推理小説としてはやや薄味というか、犯人当てやアリバイトリックなどはありません。ドンデン返しのある、広義でのミステリーといった感じです。
 ラストがそこそこ大団円で終わるのは爽やかでいいですね(?)。

 私はリディア殺害シーンがない、ぼやかされて書かれているので、絶対生きていると思っていました。なにかの叙述トリックになっていると思ったのですが、どちらかというとドンデン返しのための要素だったようですね(笑)。なるほど、船に乗っていなかった(すぐに降りてしまった)とは思いつきませんでした。

 総じて、海外翻訳特有の読みづらさは前半以外ではありませんし、明るくて読みやすい本だと思いました。本格度がもう少し高ければもっと好みなのですが、楽しめたので6点としました。

No.314 6点 あした天気にしておくれ- 岡嶋二人 2022/07/01 19:49
ネタバレをしております。

 私は競馬については無知だったのですが、それでも大丈夫でした(笑)。非常に読みやすい文でテンポもよく、一気に読み終えられました。

 始めは倒叙形式のような感じで、主人公達が狂言誘拐を企てますが、別の犯人が誘拐の乗っ取りをして…といった流れです。競馬という特殊な設定を活かした意外な方法での身代金奪取と、意外な犯人が楽しめます。
 私は、セシアが怪我をする前にもう入れ替わっているかもしれない…とうっすら頭によぎったぐらいで、後のことはわかりませんでした。いろいろな偶然も絡みますし、推理小説としては読者が全て推理できないとは思います。

No.313 7点 ジャンピング・ジェニイ- アントニイ・バークリー 2022/06/24 19:19
ネタバレをしています。

 アントニイ・バークリーの本はまだ3冊目なのですが、明るい作風にユニークな設定が面白いですね。本作も非常に面白い設定でした。
 探偵が犯人を庇って証拠を隠蔽したり、ミスが発覚して自分の首を絞めたり、たの推理小説では見られないような設定でした。もちろん、それとは別に、犯人がだれであるか?という検討も楽しむことができます。
 また、海外翻訳物にしては非常に読みやすかったです! 最初のパーティーのシーンでは、多い登場人物に扮装もあり、読みづらさを感じました。しかし、ロジャーが椅子についての発見をしてからはかなり読みやすくなり、そこからは一気に読み終えることができました。

 推理小説的要素について。
推理小説的には、やや薄味というか、犯人当てにはなってはいなかったです。私は、イーナが梁に登れるシーンから、自殺だと決め込んでいました(笑)。結末はあまり予想できるものではないですね。
 ただ、ガチガチの本格推理小説としてではなく、広義のミステリーとして読んだ場合、大変楽しむことができました。

 総じて、単純に読みやすく面白い本でした(笑)。イーナは自己顕示欲が強くて面倒な女性だったにしても、ややかわいそうな気がしますが(涙)。

No.312 6点 卍の殺人- 今邑彩 2022/06/14 20:57
ネタバレをしています。

 同作者の他作品も読んだことがありますが、それと同様に非常に読みやすかったです。全くストレスなく読み終えることができました。
 さらに、ギスギスしている(?)旧家の館ものであり、連続殺人があり、クローズドサークルではないものの一つの館で話が完結します。これらの要素により、ほぼ一瞬とも思えるほど早く読み終えられました。

 推理小説的要素について。
 大きな事件は2度。殺人事件は3度起こります。
 私は館の地図を見た途端、嫌な予感がしました。そして、亮子が付き合って3カ月であること、宵子が亮子を連れて醸造所を解説して回ったシーンなどを見て、ある程度は真相と同じものを予想しました(笑)。最初の事件が起こったのを見てからはもう確信しました(笑)。やや、予想されやすいというのは欠点かもしれません。ただ、それはフェアさの現われでもあると思います。

 不満点はあまりないのですが、亮子が良い人過ぎましたね。ラストがちょっと淡泊に終わります。亮子と宵子の対決、匠の葛藤を描いても面白かったかもしれません(笑)。

 総じて、読みやすい文と、館ものらしいダイナミックなトリックが持ち味の作品です。作者あとがきにかかれたような「酷評された」のは信じられません。本格推理小説への愛も感じられる一冊でした。
 佳作と呼ぶにはトリックがパンチ不足感が否めませんが、楽しめました。

No.311 6点 扼殺のロンド- 小島正樹 2022/06/09 19:47
 ネタバレをしております。

 文章が非常に読みやすく、あまり話が脱線しないため、すいすい読むことができました。また、キャラクターがややコピペ感が否めないものの、あまり癖もなく、読書をじゃましないいい塩梅でした。

 推理小説的要素といえば、サービス精神旺盛な密室3連発です。また、随所にミスリードがちりばめられており、全力で読者を欺いてきます。プロローグからしてそうですね。ある程度推理小説を読んだ読者なら、推理小説のプロローグが全く信用のならない紛らわしいものというのは周知のことでしょうが(笑)。
 密室はというと、これはやや偶然の要素や、共犯による工作、犯人の失敗などでできたものであり、読者が論理的に真相へたどり着くのは難しいものでした。しかし、腹が割かれた死体と高山病の死体の二重密室はインパクトが強く惹きつけられます。
 手を切る→手を縫合するといった、狂気的なアリバイ作りもよかったですね。

 総じて、叙述トリックなどがあまり用いていない、正道?のドンデン返しが楽しめる作品です。
 文庫版あとがきに島田荘司の名前が挙がっていましたが、読者が論理的に当てられない作品というのが共通しておりますね。島田作品のほうがもっとインパクト重視なのに対し、本作のほうがやや本格チックな分、インパクトの面では劣っているかもしれません。しかし、馬鹿ミス度は島田作品のほうが上でしょうかね(笑)

No.310 6点 時間島- 椙本孝思 2022/05/31 18:44
 ネタバレをしています。

 読みやすそうなクローズドサークル系をチョイスして買いました(笑)。
 表紙がスーツ姿の志々雄真実のような漫画っぽい絵なので、ライトノベルのような雰囲気です。しかし、特にライトノベルというわけでもなく、標準的なよくあるクローズドサークル系のミステリとして読むことができます。
 それでいて文は読みやすく、またSF要素が入っておりますがそれほどしつこくなく、説明なども必要最低限であり、キャラクターの書き分けもうまくて、読了まで時間がかかりませんでした。

 クローズドサークル系のミステリだけあって、ラストはドンデン返しが用意されています。ミステリとしても満足な出来だと思いました。
 私は、ミイラ男が記憶喪失なのをみて、犯人はまゆ=ミイラ男か?と思いましたが(しかしアリバイはある(笑))、なんと犯人らしい犯人はクローズドサークル内にいないという、ミステリ好きの特性を逆手に取ったようなアンチミステリ的トラップにまんまと引っかかりました(笑)
 ミイラ男のメールでの指示が100%成功するとは限りませんが、このアイディアは面白く感じました。

 初めて5年後皆にメールを送ったまゆは、何を考えて送ったのでしょうね? 本作の物語上では、アイドルとして成功した現在をの状態を保つために5年前へメールを送ったことになっております。それは、事件の際に佐倉からメールの存在を明らかにされたから出た行動です。佐倉が死ぬシーンでは、すでの本作の物語上ですべての登場人物にメールを出していた(たぶん)ことがわかります。本作の物語ではすでに何周かした世界だと思いますが、最初に送ったのはどういった状況だったのでしょうか? 本当に怪我をして、奇跡的に助かって、事件を止めたいとしたら、全員を殺害させるようにコントロールするようなメールは出さないと思いますし…。

No.309 6点 黒龍荘の惨劇- 岡田秀文 2022/05/25 19:01
ネタバレをしております。

 明治時代が舞台の推理小説です。伊藤博文など、実在の人物も多少出てきて、すこし壮大な話もありますが、基本的には横溝正史の金田一シリーズのような楽しみ方のできる作品でした。
 黒龍荘という、かなり大きな館が舞台であり、クローズドサークルかは微妙ですが、ほぼ館で話が完結するので読みやすくテンポもよかったです。
 また、キャラクターに癖がなく、最近の推理小説に登場しがちな漫画やライトノベルのようなキャラクターは出てきません。ただ、逆に言うとあまりキャラ立ちしていない人物が多く、特徴的な名前の探偵である月輪も凡人のように見えます。しいて言えば、偉そうな態度をとってもいざとなるとポンコツ気味な谷越警視、たおやかな女性かと思ったら緊急時には江戸っ子の啖呵をきって棒を使う蘭子がよいキャラクターでした。

 推理小説部分について。
 非常に大がかりな大トリックが楽しめます。ただ、2014年発売にしてはすこし既視感があり、個人的に大きな驚きは感じませんでした。
 また、大トリックをするとやはり無理がでてきます。不可能犯罪も、ここまで多くの共犯者がいてしまっては、謎でも何でもありませんね(笑)。

 総じて、佳作にはあと一歩足りない作品ですが、文は読みやすく雰囲気はよかったです。本格度も高く、読んで損はありませんでした。

No.308 5点 九尾の猫- エラリイ・クイーン 2022/05/13 19:12
ネタバレをしております。

 正直に言うと、かなり相性の悪い本でした。
 まず、非常に退屈で読みづらい文章でした。興味がそそられず、ページが進むのも遅かったです。500ページ近くありますが、250ページぐらいに収めてほしいぐらいです(笑)。
 主人公エラリー・クイーンがあることで自嘲的というか、自己卑下がしつこくて、煩わしかったです(涙)。

 推理小説的要素は、もっとガッカリなものでした。
 読みづらい文章を我慢して読んでいて、ラストのどんでん返しがコレ…? 国名シリーズのようなロジカルな要素もなく、不可能犯罪もなく、意外な犯人がいるかと思えばミステリ好き100人中98人が予想するような犯人…。この作品の良いところがわかりません。アガサ・クリスティーならミスリードに使うような犯人で、さらにどんでん返しがあるでしょうね(笑)。

 エラリー・クイーンの作品ということで期待値が上がりすぎてしまったようです。ただ、最後のエラリーを激励?する博士のセリフは良かったです。

No.307 6点 密室の鎮魂歌- 岸田るり子 2022/04/29 19:26
ネタバレをしております。

 タイトルにある通り、密室ものです。3つの密室が登場し、豪華(?)です。
 物語は、基本的には麻美が主人公の文章で進みます。ちょっと自己肯定感の少なめなキャラクターで、いろいろな苦悩が書かれており、すこし読みづらさも感じました。麻美の心情が良く書かれているかと思いきや、高木のや一条の死体に対するリアクションは淡泊な印象をもちました(私だけかもしれませんが)。
 また、真相が明かされると、殺人者たちの汚い部分が細かく書かれております(笑)。

 推理小説的な要素について。
 密室が3つ。あとは、意外な犯人とその真相。5年前の事件と、現在の2つの事件では全員犯人が違うという複雑な物語でした。

 密室について。
 3つの密室がありましたが、最初の1つは拍子抜けするというか、あまりにも古典的というか、古典的過ぎてわからなかったぐらいです(笑)。
 2つ目の密室が最も凝っていて、私もわからなかったですし、面白くも感じました。密室の外から死体を動かすのは前例がありますが、キャスター付きの椅子を利用するのは盲点でした。ただ、小説のように成功するかはちょっと疑問ですね。
 3つ目の密室は、頭パープリンな私には理解できませんでした(笑)。どうやったんですかコレ? 解説が無いようなのですが?

 総じて、ストーリーや殺人者が殺人を犯すに至るまでを細かく書かれていて、かつその伏線もよく張られていたと思います。タイトルに密室とつけるにはやや力不足な密室という感じは否めませんが、邪道ではない密室なので好感が持てました。

No.306 7点 魍魎の匣- 京極夏彦 2022/04/23 00:38
ネタバレをしております。

 純粋な本格推理小説というよりかは、広義でのミステリーです。ホラーとして読んだ方が楽しめると思います。
 戦後の雰囲気、妖怪や宗教や占い霊能力の話、カナコ殺人未遂事件にバラバラ殺人事件、カナコ消失、木場の恋(?)、久保の狂気…長さに見合った、濃厚な作品でした。京極堂のいう通り、推理小説的には一本の事件でもなく一人の犯人でもありません。しかし、それぞれの要素がうまく物語に絡んでおり、よくまとまった印象なのは素晴らしいです。
 また、個人的には、姑獲鳥の夏にくらべて読み易さが向上した印象があります。これは原因がよくわかりませんが、姑獲鳥の夏は鬱ぎみの関口による主観文章が大半であり、すこし暗かったように思えましたが、それに対し今作は鳥口や榎木津など明るくて面白いキャラクターの出番も多かったせいかもしれません。

 推理小説的要素について。
 大きなトリックや論理的犯人当てはありません。カナコの消失トリックも、さんざん伏線があったので、発想自体は気づきました。ただ、あそこまで大幅に取り除かれていたとはまったく予想できませんでしたが…(涙)。
 消失トリック自体よりも、美馬坂のしていたこと自体がおぞましく感じられ(そう感じること自体が間違っているかもしれませんが)、ホラーの感じが強いです。久保の狂気や、手術をして箱に入ったときの主観文章は、どこか乱歩の有名作品と同じような気持ち悪さを感じてしまいました。カナコのこともあり、後味が悪い作品ではありますね(涙)。

 そういえば、雨宮はどうなったのでしょうね…?

 総じて、推理小説的要素に関しては薄いですが、ホラーとしてみた場合は厚みがある作品でした。トリック自体よりも、それを利用した物語の組み立てが素晴らしく、姑獲鳥の夏よりもさらにオリジナリティも感じました。
 ホラー作品は推理小説的技術の評価がしづらいので、話の面白さや個性で点を上下させようと思いますが、なかなか良かったので7点としました。

No.305 6点 あなたは嘘を見抜けない - 菅原和也 2022/04/02 18:42
ネタバレをしております。

 二人の視点を交互に繰り返して物語が進みます。孤島の廃墟に出かけた恋人を失って、恋人は本当に事故で亡くなったのか、殺されたのかを調べる青年高辻。一方、映画を製作するために孤島の廃墟に出かけたグループの一人の青年亮太です。
 恋人を失った青年は、突発的に殺人してしまう描写があります。ちょっと衝撃的ですが、それ以降はクローズドサークルも相まって、非常に読みやすい本です。読了まですぐでした。

 推理小説的部分について。
 孤島に出かけたメンバーがハンドルネームで呼び合います。こうなると、やはり、高辻が追う孤島の事件と亮太が体験している事件は別物と考えますよね(笑)。ただ、あまり深く考えずに読んだせいで、私は本のトリックである"高辻から見て過去の事件と思いきや、未来の事件"という時間の認識をずらす叙述トリック的仕掛けを見破れませんでした。わたしは嘘を見抜くべきだった(笑)。よくよく考えれば、ヒントも結構あったかと思います。
 また、それとは別に、亮太が体験する密室殺人事件が起こります。少なくとも、私は前例を見たことがない密室だったため、この点では満足しました! ただ、死体に痕跡は残らないものですかね…? そうでなくても、やや知識がいる謎となっているのはマイナスですね。ミキが○っさくと呟いたのは、吉作落としですね! 蔦かなにかをロープにして崖を降りるのですが、蔦の収縮がおこってロープが短くなり、崖に取り残れる恐怖の話ですね…(涙)。

 総じて、テンポがよく読みやすい本であり、最近よくある叙述トリック1本の小説とは違って密室殺人も用意してある良い本でした。ただ、叙述トリックも密室の謎も、佳作にはもうひと踏ん張り欲しかったところでした(笑)。

No.304 7点 妖魔の森の家- ジョン・ディクスン・カー 2022/03/31 23:22
ネタバレをしております。

・妖魔の森の家
 短めですが、推理小説に必要なものがつまっており、大変質が高かったです。
 カーらしいミスリードとどんでん返しが楽しめますね。犯人の行動がやや手際が良すぎたり、本当にばれずにできるのか?という疑問はありますが、それでも良い作品でした。
 ラストのHM卿のセリフは、すこしだけホラー感もありましたね。

・軽率だった野盗
 殺人現場が不可解で面白いです。犯人にとって不幸な偶然が重なっているものの、合理的な解決だとおもいました。

・ある密室
 結局、犯人の意図しない密室であり、やや知識が必要であり、被害者が嘘を言ってしまっている(勘違いだが)のがマイナスでした。

・赤いカツラが手がかり
 これも非常に不可解な状況で、狂気的な感じもありました。
 偶然に偶然が重なっており、推理は難しいですが、意外な犯人もあって面白かったです。

・第三の銃弾
 全推理小説を見ても、これほど不可解な状況はめったにみられません(笑)。しかし、不可解であればあるほど、やはり解決に無理が生じますね。
 容疑者の男の証言が嘘であれば、なるほど謎は解けますが、読者にとっては謎を謎のままにしてほしかったところですね(笑)。
 共犯者の存在も少し残念でした。

 総じて、全体的に、冒頭から面白い不可解な状況を楽しめる中短編集でした。カーらしく、その解決は偶然や証言者の嘘などが多く、推理は難しいものになりますが、短編ならばそれほどこだわらなくてもよいかな?と思いました。

No.303 6点 ドッペルゲンガー宮「あかずの扉」研究会流氷館へ- 霧舎巧 2022/03/14 00:41
ネタバレをしています。また、アガサ・クリスティーのそして誰もいなくなったのネタも割れてしまう可能性があります。

 非常に凝った作品です。
 あかずの扉メンバーはキャラクターが立っていて、清涼感?があります。そのメンバーが事件に巻き込まれることになります。あかずの扉メンバーの一人がクローズドサークルと化した館に行くことになりますが、ほとんどが主人公二本松カケルの視点で書かれているので、クローズドサークル内の情報が電話でのやり取りとクローズドサークルでの事件が起こっている館とそっくりな館になります(主人公の方でも死体があるので、無関係ではないが)。
 また、かなりの文量が犯人の犯行に至るまでの説明に費やされており、犯人の背景をよく知りたい、こだわりたい人には最適です。
 メンバーに何かしらの恋愛要素があり、それでいて爽やかな印象があるのもよかったです。

 推理小説の部分について。
 クローズドサークル内の文章が乏しく、クローズドサークルならではのサスペンス感は楽しめません。しかし、テンポはそれほど悪くなく、非常に丁寧に書かれていたため、個人的には悪くなかったです。
 そして誰もいなくなったを読んだ読者に向けた(?)であろうミスリードもよかったです。
 大掛かりな館の仕掛けがありましたが、それもうまくストーリーに落とし込んでいると思います。
 一方で、ちりばめられた謎の多さと、その解決の細かさから、非常に難易度が高くなってしまっています。後動のような推理ができた読者は何人いたのでしょうか(私が頭パープリンということもありますが)。犯人当てとして読んだならば、どこまで読んだらいいかわからず、やはり読者への挑戦状が欲しいところでした。

 総じて、読みやすい文章と本格愛を感じる、佳作な推理小説でした。細かい謎が多すぎて、私は解こうと思えないような戦意喪失感を味わってしまいましたが、頭の良い人ならば合うかもしれません。

No.302 6点 忌名の如き贄るもの- 三津田信三 2022/02/24 18:42
ネタバレをしています。

 待ちに待った刀城言耶シリーズ新作長編です!
 相変わらず戦後の時代と民俗学の合わさった良い雰囲気です。ただ、今回はいろいろな難しい用語が多く、刀城言耶シリーズにしては意外なほどページが進まず、読了まですこし時間がかかりました。特に、場所を表す言葉がおおく、位置関係を頭の中で想像するのが大変でした。そのため、地図が欲しかったところです。

 推理小説的要素について。
 解決編前まで読み、既読の方からヒントをもらいながらあれこれ妄想しつつ推理しました。ヒントがなければとても真相にたどり着けないような、ものすごい数の伏線とミスリードでしたね(笑)。それを存分に活かした意外な犯人は、シリーズ屈指とも言えます。
 今作一番の良い点といえば、犯人のその意外な動機です。なぜ市糸郎はころされたのか? 葬式がしたかったからだとは、なかなかに狂っていますね。それを推理するためには、尼耳家が村八分にあっていることを理解しなければならないのですが、ここには読者・探偵共に与えられていない情報が隠されていましたね。すこしだけ叙述トリックのような香りのする仕掛けですね。
 村八分・葬式といった、本シリーズと相性の良い要素を、動機に絡めたところが、本作で一番気に入っております。

 以下、難癖部分。
 トリックは遠隔殺人。ヒントは出ておりましたが、尼耳家の人間がほぼ全員アリバイがないため、推理は難しいものになるでしょう(笑)。このトリック、遠隔殺人系で超有名作品にほぼ同様のものがあり、オリジナリティーという点では評価できません。凶器の処理について滝を利用するアイディアは見事でしたが、有名作品には他にも遠隔殺人があり厚みでは全く敵っていません。
 また、これは本シリーズでもお決まりのパターンですが、証言者がかなり信頼できません。今回は視力が悪いとのことなので、ある程度は予想した居ましたが。証言者がミスリードにしかならないのは、カーも一緒ですね(笑)。

 総じて。
 アリバイトリックや論理的な犯人当てを期待すると、すこし期待外れな感じがあります。刀城言耶シリーズは多重解決が売りの一つでもありますので、論理的な犯人当てができないことを許容するとしても、犯人のトリックが小粒すぎるのはいただけません。
 しかし、ガチガチの本格推理小説ではない、一冊の本としてみるならば、非常に面白い本であることは確かです。私はアリバイトリックと犯人当てが好きなので点数は低めですが、良い作品なことは確かです。

No.301 7点 双蛇密室- 早坂吝 2022/02/11 23:16
ネタバレをしております。

 明るい作風、読みやすさ、高い本格度が楽しめるシリーズです。今回もまたそうでした。かなり速く読了しました。また、シリーズすべてに言えることですが、一見ギャグやエロなど不要に思える要素も、最終的に推理小説として組み込まれており、技量が高いと思います。

 タイトルの通り、テーマは蛇と密室。2つの大きな密室事件が起こります。
 1つはビルからビルへ飛ぶトビヘビを使ったアクロバティックな密室です。が、これはあまり好みではありません(笑)。犯人が狙い通りに犯行を行った密室であり、よりフェアではあるのですが、ややバカミスな香りもします(笑)。
 もう1つ、足跡とプレハブ小屋の二重の密室がメインだと思います。もっと詳しく書くと、黒太郎はいかにして死んだのか?という問題がメインです。そんな可能性があったとは…全く予想していない展開に度肝を抜かれました。とはいえ、ヒントはちりばめられていました。推理ではなくメタ的な考えではありますが、この作者の書く小説に妊婦・アナフィラキシーショックが登場するならば、もっとよく考えるべきでした…。唯一、難癖をつけるならば、偶然の要素が非常に多く、犯人の狙い通りではなかった密室殺人だったことですね(それもヒントがありますが)。

 総じて、今回も読みやすく、また思考の盲点を突くようなどんでん返しが見られ、満足しました。途中、多重解決のような、らいちの偽解決がありますが、ちゃんとその否定を論理的にできる点はポイントが高いです。

No.300 7点 マスグレイヴ館の島- 柄刀一 2022/02/07 17:02
ネタバレをしております。

 ページ数が多く厚いですが、内容も非常に濃厚な本でした。シャーロックホームズの物語の矛盾点と考察の話だったり、宝探し的話だったり、犯人の足跡がない殺人、島での不可解な死体…。
 実は、私はシャーロックホームズを読んだことが無いので、あまりよくわからなかったのですが(笑)。ちょっと杜撰な書かれ方をしているようですが、あえて矛盾点がないような館の構造を考える話はなかなか面白かったです。
 また、主人公格の一人、慶子の一人称?文章の"あなた"と読者を名指ししているかのような表現や、読者ではなく慶子への挑戦状など、ひと手間加えられた要素もありました。

 推理小説部分について。
 大きく分けて2つあると思います。1つは孤島の不可解な死体3人。もう一つは岬館における足跡のない殺人。
 孤島の死体については、非常にダイナミックなことが行われております。結末は、泡坂作品を思わせましたね(笑)。館ものとしては満足なのですが、ややヒント不足というか、知識が必要な気がしたりして、個人的にはいまいちでした。私は、ちょっと前に、水を使った推理小説を読んだため、解決編前の水門の話が出たときは嫌な予感がしました(笑)。論理的なことは全く分からなかったですが、おおむね想像通りでした(笑)
 岬館の足跡のない殺人について。私はページ数の多さから、読み返して考察することを怠ったのですが、この殺人については考察するべきだったかもしれません。この小説のなかでは一番良い殺人でした。足跡のない問題を存分に楽しむことができ、またそれができた人間はひとりであり、そして意外でもあります。事件の全体像を把握することにもつながります。素晴らしい出来でした。

 総じて、雰囲気・ダイナミックな館ものらしい事件・論理的に解けるアリバイトリック・アクセントにわずかな叙述トリック的な仕掛け・爽やかなラストと、高い水準でバランスが取れていた作品でした。ホームズを知らない私にとっては、序盤もう少し短くなると良いのですが、ホームズファンの人にとってはまた良い点になるのでしょうね。
 6点か7点かで悩みましたが、甘めの7点にしてみました。

No.299 6点 兄の殺人者- D・M・ディヴァイン 2022/01/23 09:50
ネタバレをしています。

 この作者の推理小説は3冊程度読んだ経験があり、どれも端正な本格でした。なので、高評価作品を買いました(笑)。

 この作品もよくできていました。
 殺された兄の殺人者の究明、兄の恐喝者としての過去への疑問、知り合いの女性の無実の証明などを目的とした主人公の話です。
 兄の過去と犯人の動機探し・アリバイ検証など、淡々と事件を追っていくだけではありません。彼と別居している妻や、その父、主人公の兄の妻など、いろいろな人間模様もあり、ストーリーもしっかりしていて、読者を飽きさせない工夫が凝らされています。とはいっても、私は少し読むのに苦労しましが(笑)。
 ほのかな恋愛要素もあり、主人公にとって救いのあるラストなのもいいですね。

 推理小説部分について。
 アリバイトリック・意外な犯人とドンデン返しが楽しめる作品です。
 犯人の過去が明かされたとき、今まで疑問があったことや、伏線が一気に回収されるところは、流石アガサ・クリスティーが褒める作品だけありました。

 難癖部分について。
 意外な犯人系ではあるのですが、それほど読者を騙すのに成功しているとは思えません。推理小説を読む人ならば、ストーリー前~中盤に浮上する怪しい人物は犯人ではないと察するのですが、私もそうでした(笑)。ファーガソンが犯人ではないのなら、真犯人の目星はなんとなくついてしまいます。ファーガソンの娘だったとはわかりませんでしたが(笑)。しかし、これはフェアさゆえのことかもしれません。
 あと、アリバイトリック自体は、それほど独創性のあるものではありません。この点ではややガッカリ感はありました…。

 総じて。
 丁寧に書かれている推理小説です。ただ、7~8点をつける作品よりかは、もう少しとがった部分が欲しいです。

No.298 6点 五覚堂の殺人~Burning Ship~- 周木律 2022/01/14 01:27
ネタバレをしています。

 変人っぽい数学者の十和田、十和田に連続殺人事件の問題を提供する(?)神、十和田に振り回されがちな警察宮司、その妹百合子と、前作までにメインキャラクターがそろった感じがあります。
 前作に比べ、十和田のウザい変人感がやや薄まった印象があり、さらに読みやすく読了までに時間がかかりませんでした。
 シリーズを通して、館に仕掛けがあり、ダイナミックな密室トリックが楽しめます! さらに今回は連続殺人であり、密室が2つあり、前作よりもさらにボリュームが上がっております。
 また、密室の仕掛けが明かされた後、それを条件に組み込んだ端正な犯人当てがあったのはよかったです。私は盲目の登場人物がいることを全く予想できませんでしたが、仮にそれが推理できなくても犯人にたどり着き得るという点が素晴らしいですね。

 難癖点。
 登場人物があっさり死んでしまい、クローズドサークルながらあまり緊張感はありませんでした。途中で十和田と神がビデオを見て考察するページが多かったため、事件の渦中にいる人物の心情を書くページが削られたためだと思います。読みやすさとテンポはよかったですが、ここだけ残念です。
 スポンジを使った密室や、館自体が大きく動く仕掛けの密室は、全く推理できませんでした。ただ、あれは本当にうまくいくのでしょうか? また、うまくいったとしても、それを推理するのは、知識がいるのではないでしょうか(私が頭パープリンなだけでしょうか?)。私にはあまり魅力を感じませんでした…が、館ものとしては、満足です(笑)

 総じて、読みやすさ・館ものとクローズドサークルの雰囲気・密室・犯人当てと、バランスがよい作品であり、ここまで3作読んだ中ではベストです。

No.297 6点 オーデュボンの祈り- 伊坂幸太郎 2022/01/08 00:39
ネタバレをしています。

 これは私が読んだことのないジャンルの本です。ミステリ的ではないので、評価が難しいです。
 ファンタジーのような、SFのような、童話のような…。ただ、物語全体的に、なんとなく寂しいような雰囲気があり、好みを言えば、もうすこし物語の起伏が欲しかったかもしれません。
 読後感は爽やかで、非常に良いものでした。また、文章に癖がなく、すいすい読むことができました。

 不満点はあまりないのですが、静香のサックスを聴いた島民の様子が見たかった!

No.296 7点 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 2021/12/27 19:21
ネタバレをしています。

 歌野さんの作品は、一貫して文章が読みやすいです。この本も、読了までにさほど時間がかかりませんでした。
 1つの長編の扱いかと思いますが、4つの事件(物語)に共通のトリック?が用いられており、1つ解けると大体が芋づる式に解けてゆきます(笑)。連作短編(中編)の趣がありました。

 推理小説的要素について。

 絵本風のナノレンジャーの話から始まります。この話は、最後の最後で種明かしされますが、それまでに3つの事件が解決さえれたあとなので、ナノレンジャー自体は伏線として使われている気がします。
 ところで、髭のおにいさんは、どうやって井戸から水を出すのでしょうかね? サイフォンの原理?は、たしかより低い位置にしか水を運べませんよね? ポンプなどを使うのでしょうかね。

 次に、メキシコ海岸の切り裂き魔の事件が始まります。タイトルとあまりにかけ離れた場面設定に面食らいました(笑)。
 これも最後らへんに解決編があります。実は、まったくわかりませんでした(笑)。アメリカのハリケーンは、それほどまでに強力なのですね。
 アメリカでは台風に人名をつけることを利用した叙述トリックが使われております。面白い試みですが、この話全体的には、ちょっと長すぎた印象があります。

 158ページまでいくと、安達ケ原の鬼密室がはじまります。
 戦中の日本の時代の物語であり、主人公が少年で、奇妙な館の奇妙な老婆がいて、少年が鬼を何度か目撃し、現地の子供は鬼の唄を歌い、老婆が客を殺す伝説?があり、アメリカ兵が迷い込んできたり…。非常にいろいろな妄想を掻き立てられる要素が多く存在し、わくわくしながら読みました。雰囲気が三津田信三さんの刀城言耶シリーズのようで最高でした。
 密室殺人事件が起こった際に、私は中庭がプール化することに気づいたのですが、伏線は多かったため、フェアだからだと思います。河瀬が気づかないのはちょっと疑問ですが、河瀬は鬼や霊魂の存在を強く信じているからですかね。
 ただ、細かい部分では不満があります。事故死が多いんですよね…。個人的には、殺意を持った犯人がトリックを使って殺人するほうが好きです。
 途中、現代の話になり、そこでまた一つ事件が起こります。その解決で全体の"水によって運ばれる"という要素がばらされているので、細かい部分以外では実質の解決編といえるかもしれません。それ以外にはあまり印象に残りませんでした(笑)。

 総じて、なかなか凝っている、良い作品だと思いました。安達ケ原の鬼密室パートが特によかったです。館もの・密室もの・パニックホラーとしても悪くなかったと思いました。
 蛇足ですが、この作品で年間50冊読破達成しました(多分)!! 私は読むのが遅いうえ、筋トレ熱が上がってきているので、過去2年よりきつかったです(笑)。

キーワードから探す
ミステリ初心者さん
ひとこと
 有名な作品をちょこちょこ読んだ程度のミステリ初心者です。ほとんど、犯人やどう殺したかを当てることができません。


 高評価・低評価の基準が、前とは少し変わってきました。
 犯人を一人に断定で...
好きな作家
三津田信三 我孫子武丸 綾辻行人 有栖川有栖 鮎川哲也
採点傾向
平均点: 6.20点   採点数: 375件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(16)
三津田信三(14)
歌野晶午(13)
エラリイ・クイーン(11)
綾辻行人(11)
東野圭吾(10)
東川篤哉(10)
鮎川哲也(10)
西澤保彦(9)
有栖川有栖(8)