皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1842件 |
No.26 | 5点 | 不完全犯罪 鬼貫警部全事件(2)- 鮎川哲也 | 2024/01/28 14:02 |
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どうせなら続けて読んでやれ!って考えて手に取ったパートⅡ。
今回も鬼貫警部“てんこ盛り”の作品集(←当たり前だろっ!)でしょうね。 出版芸術者編集により、発表は1999年。 ①「五つの時計」=これは、かなり手の込んだアリバイトリック。ただ、こんなややこしいことをやると、当然どっかから瓦解するのが必然、というわけでご愁傷さまです。 ②「早春に死す」=ある意味逆説的な真相。ただ、最初の監視員を騙すやり方が上手くいくとは思えないのだが・・・ ③「愛に朽ちなん」=一瞬、あの名作「黒いトランク」のプロットが甦る作品。なのだが結末は尻つぼみ。 ④「見えない機関車」=「へえー」っていう具合に作者の鉄道オタクぶりが窺える作品。②もそうだけど、時刻表トリックだけじゃないのね・・・ ⑤「不完全犯罪」=まさに”不完全”すぎる犯罪というしかない。こんな事件で多忙な鬼貫警部の手を煩わせないでもらいたいものだ。 ➅「急行出雲」=今度は列車の編成か・・・。手を変え品を変え、列車絡みのトリックをよく思い付くよなあー。「出雲」と「大和」のトリックは別作品(確か「砂の城」だったか?)でも使ってるから、2回は使えなかったんだね ⑦「下り“はつかり”」=鬼貫警部もので頻繁に出てくる「写真を利用したトリック」。この程度の写真トリックで鬼貫警部を騙そうと考えるなんて太え野郎だ!! ⑧「古銭」=これも実にあっけない幕切れとなる。チンケなトリックだこと ⑨「わるい風」=これも⑧と同様なのだが、もっと酷い。 ⑩「暗い穽(あな)」=これもちょっとした偶然であっけなくバレてしまう。しかも鬼貫警部ではなく丹那刑事に! ⑪「死のある風景」=長編化したものは既読。普通は短編よりも長編の方が面白そうだけど、これは案外短編の方がまとまっていて良かったように思う。アリバイトリックも気が利いてる。 ⑫「偽りの墳墓」=これも長編は既読。なので新鮮味はない。でも、これも短編の方がシンプルで良いかもしれん。 以上12編。 Ⅰよりも鬼貫警部がこなれてきた感じ。 まーあ、でもいい時代だったんだねぇ・・・。鉄道もいろんな列車が走ってて、いろんな路線も残ってて。日本という国がまだまだこれから成長していくんだというエネルギーを感じる。 あと、こうして改めて触れてみると、トラベルミステリー=(イコール)西村京太郎、ではなく、鮎川哲也なんじゃないか? (個人的ベストは・・・どれかな? 敢えて挙げれば④かな) |
No.25 | 5点 | 碑文谷事件 鬼貫警部全事件(1)- 鮎川哲也 | 2024/01/06 15:45 |
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久々の鮎川哲也である。「鮎川哲也賞」受賞作はそこそこ読んでいたけど、肝心の鮎川作品はここのところ全く手に取ってなかったなあー、ということで既読作品も多いはずだけど、未読もまだまだ多いはず!
本作は出版芸術社が編んだ「鬼貫警部登場作」に拘った作品集の第一集。 ①「楡の木荘の殺人」=①と②は鬼貫のハルビン赴任中の事件(かなり昔ということだ!)。で、主題は当然のごとく「アリバイ」ということになるのだが、まあトリック自体はたいしたことはない。基本的な〇所の誤認を使ったもの。 ②「悪魔が笑う」=これもアリバイトリックなのだが、もはやトリックというほどのものでもない。ちょっと捜査すれば分かるでしょ!というレベルなのだから。鬼貫もまだ若い頃なんだろうけど、この程度ならすぐに推理できてしまう。 ③「碑文谷事件」=まさに“ザ・鮎川哲也”と呼びたくなる鉄道アリバイトリックもの。真犯人が弄したふたつのアリバイトリック。1つめの写真を使ったトリックはいくら何でもダメだろう。簡単な聞き込みで容易に瓦解するのだから。問題は2つめ。「しまだ」と「いわた」と聞いてもしかしてとは思ったけど、まさかその通りとは・・・ ④「一時10分」=これも鉄道を使ったアリバイトリックがテーマ。ただし、手近な「湘南電車」だし、これも実際に乗ったらすぐに判明する程度のトリックというのが辛い。電話のトリックもなあー、子供だまし。 ⑤「白昼の悪魔」=これは完全にタイトル負け。悪魔というほどでもない。鬼貫警部にかかれば、こんなトリックなんてあっという間に解決だ! ここでやっと丹那刑事が登場してくるのがうれしい。 ⑥「青いエチュード」=これもアリバイトリック自体はたいしたことはないが、味わいの良い作品。今回の鬼貫警部はなんだかカッコいい。 ⑦「誰の屍体か」=身に覚えのない郵便物が三人の画家のもとに届いた。中身はそれぞれ硫酸壜とヒモ、そして拳銃・・・。何となく引っ張り込まれるような冒頭から始まるある事件。死体の首がなかったために被害者が特定できないなか、若き美しい女探偵が登場する。ということで、起伏に富んで面白い作品。犯人がそこまでしないといけなかったのかは甚だ疑問だが。 ⑧「人それを情死と呼ぶ」=後に長編化されておりそちらか既読。そのときも高い評価はしていなかったのだが、原作の方も同様。しかもこちらは鬼貫警部が未登場なのでなおさら評価は下がる。アリバイトリックも「つまらない」のひとこと。 以上8編。 もちろん鮎川は大好きだが、本作を高評価するのはさすがに厳しい。 長編だと、いい意味で作者の遊び心が味わえるのだが、短編ではそれも難しいからねぇ・・・ まあでも、今さら鮎川作品を私ごときがどうのこうの批評すること自体が随分と失礼な話である。 ということにしておこう。 (個人的にはやっぱり③が抜けているとは思った) |
No.24 | 5点 | 完璧な犯罪- 鮎川哲也 | 2018/08/12 21:14 |
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数多い作者の短編の中から、“倒叙もの”を集めた作品集。
光文社からは同じく倒叙ものの「崩れた偽装」に続いて刊行されたのが本作。 もちろん「アリバイトリック」がメイン。 ①「小さな孔」=夫の愛人が子を身籠る自体に憤慨した妻はついに夫を殺すことに。完璧だったアリバイトリックが瓦解するきっかけとなったのは、まさに小さな「孔」だった・・・。こんなこといくらでも誤魔化せる気がするけど・・・ ②「ある誤算」=まさに一つの「誤算」から犯行が暴露される刹那・・・。推理小説を何冊も読み、必死で組み上げたトリックが“あんなことで”崩れるとは・・・ご愁傷さまです。 ③「錯誤」=誤算のつぎは「錯誤」ですが、誤算というよりは「不運」と呼んだ方がいいと思う。几帳面な性格が裏目に出ることってあるよなぁー。ご愁傷さまです。 ④「憎い風」=これもなぁー、ご愁傷さまとしか言いようがなんいだけど、こんな適当なトリックで通用すると思う方がどうかしている。 ⑤「わらべは見たり」=うーん。ここまでくるとワンパターンすぎて飽きてきた。準備に時間をかけ、練りに練った殺人計画がほんのちょっとの偶然で瓦解する・・・。①~④と同様。 ⑥「自負のアリバイ」=典型的な倒叙もの。犯人役の夫が典型的なナルシストなのが鼻につく。最後は実にあっけなくトリックが瓦解することに・・・。お気の毒。 他に文庫未収録の「ライバル」「夜の演出」の2編を併録。 犯人役がかなりマヌケなのが物悲しさを誘う。 ああでもないこうでもないと、苦労して作り上げた犯行計画が、いとも簡単に見抜かれてしまうのだから・・・ 作者も人が悪い! もう少し勞ってあげればいいのに・・・ こんなチンケなアリバイトリックで何とかしようなんて、そもそも虫が良すぎるということか。 いずれにしても小粒&小品。 作者のアリバイトリックを堪能するなら、やっぱり鬼貫警部シリーズの長編に限る。 (どれも似たような水準。敢えて言うなら①かな) |
No.23 | 4点 | 風の証言- 鮎川哲也 | 2017/12/11 22:47 |
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鬼貫警部/丹那刑事。安定感抜群のコンビが登場するシリーズ長編。
長編とはいっても、もともとは「城と塔」という中編を引き伸ばしたもの(とのこと。もちろん悪い意味ではなく)。 1971年発表。 ~井之頭公園に隣接する植物園で音響メーカーの技師とバレエダンサーが死体となって見つかった。技師が同僚に「うちの研究がライバル会社に盗まれた件だが、スパイの正体をこの目で見届けたよ」と告げていたことから、疑惑を糾す矢先に消されたと判明。当局は色めき立つ。しかし最有力容疑者である男は、堅牢なアリバイを楯に犯行を否認。調べれば調べるほど膠着状態に陥る難局に挑む丹那刑事は、ある日歯科医院で思いがけない大発見をするのだが・・・~ 1971年というと後期の作品ということかな。 個人的には作者も、鬼貫警部シリーズも大好きなんだけど、本作はどうにも評価できない。 作家としての峠を越えてしまったせいかのか、マンネリなのか、中編を引き伸ばしたせいなのか、そこのところはよく分からないけど、傑作をつぎつぎと送り出していた全盛期と比べるべくもない・・・っていう感じだ。 鬼貫警部シリーズというともちろん「アリバイトリック」なのだが、本作は「時刻表」はいっさい登場せず、二つの「写真」に関するトリックがメインテーマとなる。 ただ、これがどうにもピンとこないのだ。 他の作品でも写真がアリバイトリックに使われたケースがあったけど、これでは鬼貫警部の存在価値が半減すると思うのは私だけだろうか・・・ 作品としてのランクが一枚も二枚も下のように感じてしまう。 あと「双子トリック」・・・これもちょっと酷くて、トリックとは呼べないレベル。 唯一、タイトルの意味が浮かび上がる終章だけが作者のセンスを味わうことができた。(なるほど、だからこのタイトルね) ということで、否定的なコメントばかりとなった本作。 でもまぁ正直なところ、本シリーズ中では今のところ最低ランクの作品だと思う。 もちろん、他に面白い作品が多数あるからということではあるけど・・・ (結局、最初のオメガ電機のくだりは何だったのか??) |
No.22 | 7点 | 死のある風景- 鮎川哲也 | 2017/04/15 09:52 |
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鬼貫警部シリーズの長編。
原型となる中編が「オール読物」誌で掲載されたのが1961年。長編化されて1965年に単行本化された作品。 今回は創元文庫版ではなく、ハルキ文庫版で読了。 ~結婚を目前に控えて、幸福に包まれているはずの女性が、ある日突然姿を消した。やがて彼女は阿蘇山の噴火口に自殺体となって発見される。一方、金沢の内灘海岸でもひとりの女性が射殺されるという事件が発生する。一見無関係に見えたふたつの事件の背後に、次第に明らかにされる犯罪の構図。堅牢にして緻密なアリバイを前に、鬼貫警部の推理が冴える! 本格推理小説の傑作~ まさに“正調”鮎川ミステリー、という表現が似合う作品だろう。 鬼貫警部シリーズも結構読んできたけど、ここまで「典型的」な作品は他にないかもしれない。 そんな気さえした。 何より、序盤の「謎の提示」が魅力的だ。 阿蘇火口と金沢・内灘海岸。一見まったく無関係の事件がそれぞれ描かれ、現地の警察の捜査が進められるものの、早々と挫折させられる。 さらに奥多摩での殺人事件まで登場し、混迷の度合いを深めるかと思いきや、ここで名“露払い”丹那刑事の出番となる。 ここまで来ると、「待ってました」とばかりに、犯人側が築いた堅牢なアリバイ砦が作中の刑事&読者の前に立ち塞がることになる。 もう・・・まさに“正調”って感じだろう・・・ 今回、「電報」がアリバイの鍵となる点など、いかにも時代性を感じさせるプロット。 列車を使ったアリバイトリックは、それほど凝ったところはないのだけど、あれほど堅牢と思えた「アリバイ砦」が、鬼貫警部のちょっとした“気付き”で、あっという間に崩されていくカタストロフィ! これこそが本シリーズの楽しみ方に違いない。 不満点も当然あるのだけど、そんなことはもういい。 名人芸の落語や漫談でも見たような、そんな満たされた気分にさせられた・・・感覚。 ファンにとっては堪えられない作品なのかもしれない。 (毎回思うけど、現在の時刻表ではこういうアリバイトリックって絶対不可能だよね・・・) |
No.21 | 5点 | アリバイ崩し- 鮎川哲也 | 2016/12/03 20:38 |
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光文社編集による作品集。
タイトルどおり、テーマはまさに「アリバイ崩し」・・・というわけで作者の名人芸が堪能できるかどうか? ①「北の女」=“古川”って出てきた段階で、あのことかなぁーと思っていたらやっぱりそうだった。アリバイトリックそのものはそれほど高度ではないけど、電話やメモの使い方なんかはさすがと思わせる。 ②「汚点」=舞台が仙台というのが珍しいなぁと思っていたら、やっぱり理由があったのね・・・。一応列車を使ったアリバイトリックが登場するけど、時刻表云々ではなくてアリバイトリックの王道のようなヤツ。タイトルが最後になって効いてくるのが旨い。 ③「下着泥棒」=これは・・・どうかなぁー。下着泥棒に間違われた哀れな新聞記者が巻き込まれる事件を扱っているのだが、これもある小道具がアリバイトリックの鍵となっている。でも普通警察は気付くだろ! ④「霧の湖」=ロマンチックなタイトルだけど、真相解明につながる理由が温泉に纏るある事実にあるところはややいただけない。フーダニットも自明すぎ。 ⑤「夜の疑惑」=これだけは中編といえるボリューム。それだけにプロットには工夫が凝らされていて、真犯人が用いた欺瞞もなかなか複雑。逆に言えばここまで複雑にする理由がよく分からないということになる。他の方も触れているが、ラストがなかなかの衝撃。「悪女だねぇ・・・」 以上5編。 アリバイ崩しとはいえ、鬼貫警部シリーズではないので、時刻表が登場するタイプではない。 場所の錯誤や時間の錯誤などを用いた、まさにアリバイトリックの正道が使われている。 ただ・・・地味だね。 短篇には切れ味が必須だと考えているわたしにとっては、ちょっと食い足りない作品集だった。 好意的にとれば、よくまとまっているとは言えるし、さすがの名人芸ではある。 評価はこんなもんだろう。 (一応⑤がベストかな。他はあまり差はない) |
No.20 | 5点 | 沈黙の函- 鮎川哲也 | 2015/06/13 20:37 |
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1977年発表。
お馴染み、鬼貫警部と丹那刑事のコンビが活躍するシリーズ作品。 ~落水周吉と茨木辰二は、掘り出し物の中古品も商うレコード店を共同経営している。仕入れ担当の落水は、函館の製菓会社副社長宅で珍しい初期の蝋管レコードを見つけた。蝋管レコードには古い手紙が付いていたが解読不能、何が吹き込まれているのか分からなかった。引き取りのため再度出向いた落水は、函館駅からレコードを発送したまま行方不明に。無事上野駅に到着した梱包をほどいてみると中には落水の生首が・・・鬼貫警部の名推理!~ ちょっと拍子抜け・・・ そんな読後感だった。 本作のメイントリックは「函」ということで、駅のコインロッカーが事件の鍵を握る。 函館からは確かにレコードを送ったはずなのに、上野駅のコインロッカーから持ち出されたカバンの中には生首が入っていた・・・ という魅力的な謎が読者には提示される。 こうやって書くと、何だか作者の代表作である「黒いトランク」を思い起こさせるのだが、ミステリーの“出来”としては格段に差がある。 とにかく無理矢理感が強すぎて、トリックのためのトリックという感覚が拭えないのだ。 (新聞投書に関するトリックは最初意味が分からなかった・・・) あと本作は鬼貫警部の出番が少なすぎ! 終盤も押し迫った段階でやっと登場して、あっという間に思い付いて解決に導いてしまう。 鬼貫の捜査行を楽しみしているている読者にとっては、実に食い足りない! ということで、粗ばかりが目立った本作。 レコードに関する薀蓄を書きたかったんじゃないかという邪推すらしてしまう。 やっぱり本シリーズは時刻表を絡めたアリバイトリックでないと! と思うんですが・・・ (私立探偵の存在も結局中途半端ではないか?) |
No.19 | 5点 | 人それを情死と呼ぶ- 鮎川哲也 | 2014/11/13 22:42 |
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1961年発表。鬼貫警部シリーズの長編作品。
当時隆盛を誇った社会派ミステリーのプロットを取り込み、特に松本清張の出世作「点と線」を強く意識した作品となっている。 ~人は皆、警察までもが河辺遼吉は浮気の果てに心中したと断定した。しかし、ある点に注目した妻と妹だけは偽装心中との疑念を抱いたのだった・・・。貝沼産業の販売部長だった遼吉はA省の汚職事件に関与していたという。彼は口を封じられたのではないか? そして彼が死んでほくそ笑んだ人物ならば二人いる。調べるほどに強固さを増すアリバイ。驚嘆のドンデン返し。美しい余韻を残す長編~ 他の方の書評は好意的な意見が多いようだけど、個人的には今ひとつパッとしない作品という印象が残った。 確かに心中事件という煙幕を張り、終盤に事件の構図そのものをひっくり返すというプロットは見事。 さすが鮎川哲也というべき手練手管。 紹介文どおり、余韻を残すラストもなかなかの味わい。 なのだが、如何せん本格ミステリーとしての出来栄えとしては素直に高評価できない。 特に途中で起こる管理人殺人事件のアリバイトリック。 あるひとりの人物の錯誤に頼ったトリックなのだが、これは相当弱い! (アリバイトリックのよくある手としては「場所の錯誤」なのだろうが、この「○○の錯誤」は著しく綱渡りだと思うのだが・・・) フーダニットについても最初から明々白々過ぎでは? 巻末解説では芦辺拓氏が擁護してますが、ここまで分かりやすいと「犯人探し」という、読者にとって本格ミステリー最大の興味を自ら放棄しているようにも見える。 あと加えるなら、鬼貫警部の出番少なすぎ! 他の刑事(or素人)の捜査→頓挫→丹那刑事の捜査→行き詰まり→鬼貫警部の再捜査→解決、というのが本シリーズの王道なのだが、今回は素人が頑張りすぎだな。シリーズファンにとっても満足いくものではなかった。 冒頭に触れたとおり、本作は「点と線」のヒットを相当意識して書いたフシがあるが、二つを読み比べると、鮎川好きの私でも「点と線」に軍配を上げざるを得ないと思う。 嫌いな方も多いかもしれないが、本シリーズは「時刻表」と「鬼貫警部の丹念な捜査行」が必須なのではないかと感じた次第。 |
No.18 | 5点 | 戌神はなにを見たか- 鮎川哲也 | 2014/04/07 22:20 |
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1976年発表の長編。
鬼貫警部シリーズの作品だが、本作では地味で忠実な部下・丹那刑事が大活躍(!?)する・・・ ~東京・稲城市のくぬぎ林で小日向大輔の刺殺死体が発見された。物証は外国人の顔が刻まれた浮き彫りと、小日向の胃に未消化のまま残されていた瓦煎餅のみ。捜査陣の地道な努力によって、同業のカメラマン・坂下護が浮かび上がるが・・・。犯行時期、坂下は推理専門誌の仕事で、乱歩生誕の地・三重県名張市にいたと主張する。アリバイ崩し、遠隔殺人トリック、アナグラムなどを盛り込んだ重量級ミステリー!~ 長かった! 冒頭でも書いたとおり、本作では中盤、主に丹那刑事の捜査行が書かれているのだが、これが実に丹念&懇切丁寧。 事件関係者から話を聞くために、日本列島を東奔西走し、本作はそれをひとつひとつ書き残していく・・・ そういうシリーズだからと言ってしまえばそれまでだが、さすがにこれは冗長だった。 懸命の捜査の末判明する真犯人。 後半は真犯人のアリバイ崩しが当然のごとくメインテーマとなる。 二つ目の殺人については、遠隔殺人というほどのものではないが、メインの小日向殺しのアリバイはかなり精緻なもの。 いつもの時刻表を駆使したトリックではないが、写真というお得意の小道具をうまく使いながら、捜査陣(読者)の誤認を誘っている。 この辺りはやはり“さすが“ということだろう。 ただ、本作は鬼貫警部は完全に脇役扱いで、シリーズファンにとっては物足りないのではないか? トリック&プロットも今ひとつ切れ味に欠けるという印象。 作者の作品群でも上位に評価するのは難しいと思う。 (日本各地の変わった地名がうまく使われてるのが面白い・・・) |
No.17 | 4点 | 準急ながら- 鮎川哲也 | 2013/04/20 20:20 |
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お馴染み「鬼貫警部シリーズ」の長編。
といえば、言うまでもなく鉄道・時刻表を絡めたアリバイトリックがテーマの作品。 ~果たして、奇怪な殺人事件を解く鍵はどこにあるのか? 雪深き北海道・月寒で瀕死の怪我人を助けた海里昭子。その美談が十数年後、新聞に採り上げられた。一方、愛知県・犬山で経営不振にあった土産物屋店主が何者かに刺殺される事件が発生。だが驚いたことに、被害者の鈴木武造は、出身地・青森で健在だとの情報が入った。一見無関係な事件がダイナミックに絡み合う。そして鬼貫警部を悩ませるのは鉄壁のアリバイ!~ 作者の「アリバイ崩し」としては「中の下」というレベル。 時刻表を駆使したアリバイトリックというのは、もはや現代の鉄道ダイヤでは不可能な“過去の遺物”になっていて、それだけノスタルジックで、守るべき「文化遺産」という感じ(あくまで個人的にだが・・・)なのだが・・・ 本作のメイントリックはフィルムカメラの特性を駆使した「写真トリック」なのが好みからは外れている。 作品終盤、鬼貫警部が写真トリックでトライ&エラーを繰り返すプロットはまずまずなのだが、これってカメラの知識がないと読者にはお手上げではないか。 一見無関係と思われる二つの事件が結びつく・・・というプロットは面白そうなのだが、丹那刑事らの捜査で偶然に判明するというご都合主義が目立つのがちょっといただけない。 この辺は「黒いトランク」などの佳作とは、プロットの練り込み具合が違う。 人物造形もサラっと流していて、全体的に推理クイズレベルというのが偽らざるところかもしれない。 まぁ分量としては手頃なので、さっと読むにはいいかもしれないが、敢えて手に取るほどの作品ではないかな。 評価もやや辛め。 (「ながら」は当時、東京~大垣間を走っていた準急列車。当然、長良川の「ながら」・・・) |
No.16 | 5点 | 王を探せ- 鮎川哲也 | 2012/06/16 15:39 |
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鬼貫警部と丹那刑事の名コンビが活躍する人気シリーズの1作。
1979年に「王」と題して発表された中編を加筆修正し、改称したのが本作。 ~だから、どの「亀取二郎」が犯人なんだ? その「亀取二郎」は2年前の犯罪をネタに恐喝されていた。耐え切れず、彼は憎き強請屋・木牟田を撲殺する・・・。警察が被害者のメモから掴んだのは、犯人が「亀取二郎」という名前であること。だが、東京都近郊だけで同姓同名が40名。やっと絞り出した数人は全員アリバイを持つ、一筋縄ではいかない「亀取二郎」ばかり。鬼貫・丹那のコンビが捜査するなか、犯人は次なる凶行に及ぼうとしていた・・・~ プロットは面白いが、なんとも中途半端な読後感だった。 紹介文のとおり、犯人の名前は事件の発生直後に判明しているのだが、同姓同名が多いうえに、5名に絞られた容疑者たちは全員鉄壁のアリバイを持つ、というのが本作の「肝」だ。 (「亀取二郎」なんていう珍名がそんないるか? という当然の疑問は置いといて・・・) となると、本シリーズの定番である「アリバイ崩し」の出番。 今回のアリバイトリックは確かに「凝ってる」。 途中、鬼貫警部が犯人が弄したであろうトリックを説明してくれるが、実はこれが捨てトリック。 ただ、終盤に判明する真のトリックがショボイ、っていうかある意味強引。 この時代の「急行列車」ならでは、ということなのだが、新幹線や特急列車に馴染んだ現世代の方々には想像つかないんじゃないか? 死亡推定時刻の「誤認」についてはウマイようだが、かなり「雑」にも思えた。(タイトルも本筋との関係が薄いのではないか?) まぁ、鮎川作品としては晩年に発表されたもので、トリックの見事さよりは、リーダビリティーや作者らしい軽妙な語り口を楽しむべき作品のような気がする。 (本作でも事件の舞台の1つとして「鎌倉周辺」が登場・・・好きなんだねぇー) |
No.15 | 7点 | 消えた奇術師- 鮎川哲也 | 2012/01/21 21:33 |
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名探偵・星影龍三登場作品をまとめた光文社文庫版の作品集。
名作の誉れ高い「○い密室」シリーズも収録した「お得」な1冊。 ①「赤い密室」=やっぱりこれは名作中の名作。ごく短い作品だが、逆に余計な部分は一切なく、ロジックに徹しているところがいい。 「密室」トリックとはこうあるべきだし、これこそ「困難は分割せよ」の見本。 ②「白い密室」=これは「雪密室」の見本。とはいえ、赤・青に比べると落ちるよなぁ・・・ロジックはまぁ分かるのだが、それ以外の動機やら何やらが弱いので、何となく全体的にグラグラしている印象。 ③「青い密室」=ロジックが見事な密室。ラストの星影の推理は戦慄すら感じた。今現在から見れば、ありふれたサプライズではあるのだが、短いだけに切れ味が鋭い。 ④「黄色い悪魔」=これはどうかなぁ・・・ まぁ思惑とは違う「密室」という視点は面白いが、やっぱり若干こじつけ感はある。アナグラムも本筋とあまり関係なく、単なるお遊び程度。 ⑤「消えた奇術師」=短い作品だが、これも逆転の発想が見事に決まっている。ただ、トリックそのものはすぐに想像がつくレベルではあるが・・・ ⑥「妖塔記」=①~⑤とは若干趣の異なる作品(田所警部も出ないしね)。トリックの要点はこれまでと同様、逆転の発想。ここまでくると、トリックはほぼ予想どおり。 以上6編。 さすがに秀作が揃ってるっていう感じ。今さら改めて書評する必要はないかもね。 『田所警部=星影龍三コンビ』って、そのまんま『名なしの私立探偵=三番館のバーテン』と同じイメージ。 (①は言わずもがなの名作。あとはやっぱり③でしょう) |
No.14 | 5点 | 材木座の殺人- 鮎川哲也 | 2011/11/28 22:23 |
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銀座のとあるビルにあるというBAR「三番館」を舞台とするシリーズ4作目。
今回も、肥満の弁護士=名無しの私立探偵=「三番館」の達磨大使のようなバーテン、の三者がそれぞれ活躍(?)。 ①「棄てられた男」=雪国のとあるペンションに集められた「いわく付き」の男女と、彼らを脅すために招待した男。そして、脅迫者の男が殺された! って書くと、何だか魅力的なプロットのように見えますが・・・なんともあっさりしたオチと真相。 ②「人を呑む家」=以前、住人が忽然と消えた「家」。そしてまた新しい住人が忽然と消えた! って書くと、何だか魅力的なプロットのように見えますが、非常にあっさりしたというか、子供だましのようなトリック。こんなトリックに引っ掛かるなよなぁ・・・ ③「同期の桜」=同じ会社で働く女性を殺害した容疑者として挙がったのは、「同期の桜」3名。それぞれアリバイがあるのだが、探偵の捜査&三番館のバーテンの推理により意外な犯人が判明。 ④「青嵐荘事件」=金満家で「青嵐荘」の主人である男が毒殺される事件が発生。鍵になるのは、死亡推定時刻と容疑者(=青嵐荘の住人たち)のアリバイ。よく「推理クイズ」なんかで出てくるようなプロット&レベル。 ⑤「停電にご注意」=これも主題は「アリバイトリック」だが、かなり強引なトリック。この写真のトリックって、相当使い古されたやつだと思っていたが、まさかこんなに堂々と使われていたとは・・・「三番館」のバーテン推理後に再度事件が起こるというのが、珍しいパターンの作品。 ⑥「材木座の殺人」=鎌倉在住だった鮎川氏らしく、鎌倉~三浦半島の名所めぐりをした後に事件が発生。これもアリバイトリックが主題だが、ラストはあっさり。 以上6編。 よく言えば「偉大なるマンネリズム」、悪く言えば「いつものワンパターン」。 ただ、いつもは『事件発生の顛末』⇒『名無しの私立探偵の捜査』⇒『三番館のバーテンの推理』という3部構成だったのが、探偵の捜査をほとんど省略して、すぐにバーテンが推理して解決というものが数編ある。 プロットもまさに「ワンアイデア」の一発勝負ばかりで、こうなるとかなり味気ない気もしてくる。 シリーズものの宿命とはいえますが、やっぱり回を重ねるごとにクオリティが落ちてくるのが仕方ないのかなぁ・・・? (特にお勧めはなし。敢えて言えば⑤) |
No.13 | 6点 | 鍵孔のない扉- 鮎川哲也 | 2011/09/24 21:53 |
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鬼貫警部シリーズの長編。
同シリーズらしく、巧緻なアリバイ崩しが主眼の作品です。 ~徹頭徹尾、謎に満ちた長編。声楽家で野生的な美貌を持つ久美子と、その夫で伴奏ピアニストを勤める冴えない男・重之。この音楽家夫妻に生じた愛情の亀裂を発端に殺人事件が発生した。被害者は久美子の浮気相手と思われる放送作家だった。事件は華やかな芸能界の裏面に展開。犯人確実と目された重之の容疑が晴れると、捜査は混迷の一途を辿る。やがて、犯人は大胆にも第2の殺人を予告してきた・・・~ まさに「これぞ、鬼貫警部シリーズ」とでも言いたくなる作品。 作者が「あとがき」でも触れているとおり、真犯人は作品中盤でほぼ確定し、あとは如何に堅牢なアリバイを崩すのかに移る。 どの作品でもそうですが、とにかく見せ方がうまい。 本作では「被害者の靴」が、真犯人の仕掛けた欺瞞を解く「鍵」になっており、ここが判明すればあとはスルスルと解けることに・・・ 「電話」については、時代を感じさせますねぇ。 (特に、天○と天○の違いなんて、ニクイねぇー。だからこその舞台設定!) ただ、密室(とは言えないかな?)については拍子抜け。 あれだけ鍵の構造について講釈をたれたのですから、もう少し凝ったトリックかと思いきや・・・(あれとはねぇ) まぁ、初心者でも中毒者でも安心して読める作品というのが鮎川ミステリーの良さでしょう。 (今回は「時刻表」は出てこないので、その方面が苦手な方も気軽に読めるのでは?) |
No.12 | 6点 | ブロンズの使者- 鮎川哲也 | 2011/05/15 21:21 |
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創元推理文庫版の三番館シリーズ第3弾。
作者らしい軽妙かつ洒脱な味わいを感じる作品集です。 ①「ブロンズの使者」=事件の舞台、熊本県人吉市へ探偵が出張。事件を解く鍵がかなり後半になってから出てくるというのは如何なものか? ②「夜の冒険」=よく目にするプロットのような気がするが、見せ方が熟練の技。 ③「百足」=要は、「木は森へ隠せ」的趣向でしょう。 ④「相似の部屋」=プロットはなかなか面白いが、トリックはかなり危なっかしい気がしてならない・・・裏の裏をかくというのはいいね。 ⑤「マーキュリーの靴」=いわゆる「雪密室」を扱った作品。アリバイトリックを含め、なかなか練られている作品。④と⑤は意外な犯人を狙ってる? ⑥「塔の女」=単純な算数(1-1=0)の問題(?!) 以上6編。 作品のレベルとしては「たいしたことない」というのが素直な感想になるのですが・・・ なぜか楽しく読めちゃうんですよねぇー、この「三番館シリーズ」は・・・やっぱり、その辺が鮎川先生のスゴさというべきかもしれません。 偉大なるマンネリズムを味わってみるのも一興かと思います。 (面白いのは④と⑤、後もそれほど悪くない・・・) |
No.11 | 6点 | 死びとの座- 鮎川哲也 | 2011/03/05 00:03 |
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鬼貫警部シリーズ。
大作家、鮎川哲也最後の連載長篇作品です。 ~一人目の被害者は東京・中野区の公園に置かれたベンチに座っているところを、拳銃で打ち抜かれて息絶えていた。捜査陣は次々に現れる容疑者に困惑する。スチュワーデス、フリールポライター、同業者たち・・・動機を持つ人間が多すぎる! 鬼貫警部は奔走し、彼らのアリバイを崩そうとするが、やっと 嘘を見破っても、即逮捕とならないから厄介だ・・・~という粗筋。 例によって、容疑者が順次登場し、鬼貫警部がアリバイの壁に阻まれるものの、ついに光明が・・・という定型のプロットが展開されます。 ただ、今回はちょっと「変化球」気味。 被害者の設定自体に「企み」が秘められており、それが分かることで、容疑者の特定→アリバイ崩しという流れになってます。この辺りは老練なプロット&筆致ですね。さすがです。 ただ、全体的にはやはり「ネタ切れ感」が漂うなぁ・・・という感想ですね。作者あとがきにも、「なかなか連載に踏み切れなかった」様子が書かれてますが、往年の作品のような「切れ」は到底窺えません。 ということで、評点的にはこの辺が精一杯ということに・・・ (今回は鬼貫警部の登場シーンも少なめ。相棒の丹那刑事もだいぶ年をとったように書かれていて何だか切ない・・・) |
No.10 | 7点 | 悪魔はここに- 鮎川哲也 | 2010/12/25 23:48 |
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星影龍三登場作品をまとめた光文社版の作品集。
4編どれも”小粒ですがピリリと辛い”というべき、高レベルの作品です。 ①「道化師の檻」=密閉空間からの脱出が問題となるアリバイ崩し。真相はアリバイ崩しの基本-「時間軸の錯誤」です。 ②「薔薇荘殺人事件」=犯人当て小説として発表された作品。なかなかの秀作で、ロジックによる見事な解決が気持ちいい! 「○○○○」を見抜くところまでは迫れましたが、真相はさらにもう一段階捻りがあるんですよねぇ・・・冒頭の場面に騙されてしまいました。 ③「悪魔はここに」=「どの殺人現場にも逆向きのものが・・・」というあらすじ紹介を見て、てっきり「チャイナ橙?」と早とちりしましたが、真相はもっと単純なもの。でも分かりやすくて、こっちの方が好きですね。 ④「砂とくらげと」=絞殺死体とくらげに刺された死体が同居する現場って・・・かなり突飛な設定ですし、ちょっと偶然要素が強すぎる気はしました。鮎川氏も自分を卑下しすぎ! 以上、4編。 ②~④は鮎川氏本人が星影の友人という設定で登場するというサービス振り。その辺も、洒落っ気ある作者らしいとこですね。 ②は評判どおりの名作だと思います。 (他の短編集収録作と重なってると思いますが、ご容赦ください) |
No.9 | 6点 | サムソンの犯罪- 鮎川哲也 | 2010/11/07 17:49 |
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三番館シリーズの第2短編集(創元文庫版)。
前作に続いて、弁護士に雇われた私立探偵の「わたし」が三番館のバーテンダーの的確な助言を得て、事件を解決します。 ①「中国屏風」=ちょっと違った角度で見たら、不可能が可能になる。言われてみると簡単なことですけど・・・ ②「割れた電球」=これも発想の転換が見事。 ③「菊香る」=双子登場でトリックはやはり双子絡みですが・・・たいしたことはありません。 ④「屍衣を着たドンファン」=これも本シリーズ典型的な内容。あまり印象に残らない・・・ ⑤「走れ俊平」=新宿通りをストリーキングした理由は? この謎がロジカルに明かされるところがいい。 ⑥「分身」=珍しく殺人事件以外の内容。けっこう面白くて好き。 ⑦「サムソンの犯罪」=短編らしい逆転の発想。 以上7編。 秀作が多かった前作に比べると、若干レベルダウンした印象。さすがにここまでワンパターンが続くと、読む方もちょっと変化球的作品が欲しくなる・・・ |
No.8 | 7点 | 太鼓叩きはなぜ笑う- 鮎川哲也 | 2010/09/08 23:02 |
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「三番館」シリーズ。
本作は創元推理文庫版での同シリーズ第1作。 鬼貫警部や星影龍三を探偵役とする長編の重厚な雰囲気と違い、洒落っ気たっぷり、軽いタッチでグイグイ読ませます。 ①「春の驟雨」=アリバイトリックとしては基本どおりなのですが、見せ方がうまいですね。 ②「新ファントム・レデイ」=W.アイリッシュの名作「幻の女」を下敷きにはしてますが・・・そこはやはり鮎川流のアレンジ。 ③「竜王氏の不思議な旅」=短編ですが、鬼貫物を彷彿させるアリバイトリックが炸裂。ラスト1行が効いてます。 ④「白い手黒い手」=白い手の人物と黒い手の人物・・・バーテン氏の推理はちょっと強引な気がしますけど・・・ ⑤「太鼓叩きはなぜ笑う」=これもやや変格のアリバイトリック物。バーテンの推理法が鮮やかです。 全5編。 短編もうまいですねぇ。バーテン氏をはじめ、私立探偵・弁護士といったシリーズキャラクターの配役も絶妙です。 |
No.7 | 6点 | 偽りの墳墓- 鮎川哲也 | 2010/07/10 21:53 |
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鬼貫警部シリーズ。
もともとは短編だったのを加筆修正した作品。(鮎川氏にはお馴染みのパターンらしいですが・・・) 2つの殺人事件(?)が出てきますが、最初の事件の方は、ある「病気」との絡みの中であっさり解決。 問題は第2の殺人の方に・・・ということで、いつもの「アリバイトリック」の登場となります。 今回はいつものようにストレートな「時刻表トリック」ではなく、まさに捜査者(=読者)をミスリードすることで成立する種類のトリック・・・ 人間ではなく、○○○の移動を欺瞞させる手口はなかなか鮮やかと言えるかもしれません。 ただ、何となくストーリー自体の盛り上げ方が今ひとつのような気がして(犯人があまりに自明)、この程度の評価になりました。 |