皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1785件 |
No.1645 | 5点 | 火のないところに煙は- 芦沢央 | 2021/05/13 22:19 |
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~『神楽坂を舞台に怪談を書きませんか』・・・突然の依頼に作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は事件を小説として発表することで情報を集めようとするが・・・~ 企みに満ちた連作形式の短編集。
2018年の発表。 ①「染み」=神楽坂にある“よく当たると評判の占い師”に占ってもらった恋人同士。そこで不吉な占いを聞いた男性はその後態度を豹変させる。そしてついには最悪の結果が・・・。最初から不吉な展開。 ②「お祓いを頼む女」=「私」の知人である作家。彼女の元へ突如かかってきた電話。その電話はまるで憑かれたような女が、「お祓いをしてくれる人を紹介して欲しい」と懇願してくる。でも、女が語る身の上話はどうも・・・ ③「妄言」=最初はよくある隣人トラブルの話かと思いきや、かなりヘビイな内容だった。こんな奴が隣に住んでたら、それこそ不幸としか言いようがない。そして今回も最悪の結末が待ち受ける。 ④「助けてって言ったのに」=今回もある「家」が舞台。結婚して、夫の実家で義母と同居を始めた途端、悪夢にうなされることになる新妻。その夢は何と、義母もうなされ続けた悪夢だった・・・。そしてまたも不幸な結末が。 ⑤「誰かの怪異」=今回はとある集合住宅が舞台。優良物件に住めたと思った瞬間、不幸のどん底に落とされる学生と、その隣人の女性。知人の助けを借り、盛り塩と御札で結界を張ったのだが、またしても予想外の展開が。 ⑥「禁忌」=本編は単行本化に当たって書き下ろされたもの。①~⑤までの連作をまとめて、つながりを持たせるための最終章。 以上5編+α なかなか器用だね、作者は。 「怪談」(と言っても、ちょっと怖い話という程度だが)という体裁を借り、しかも①⇒②⇒③というふうに話に繋がりをつけながら徐々に読者の心を煽っていくという展開。ここまで技巧的なプロットは最近お目にかかってないと思う。 でも、ちょっと器用貧乏なところはあるかな。 確かに心は多少ざわざわするけど、揺さぶられるというほどでもない。よく言えば「ほどよい怖さ」かもしれないけど、悪く言えば「中途半端」ということになる。 もう少しビジュアル的にインパクトのある「怖さ」、或いはにじみ出るような「悪意」というようなものがあれば、よかったのかもしれない。 |
No.1644 | 5点 | 探偵術教えます- パーシヴァル・ワイルド | 2021/04/29 22:21 |
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~お屋敷付の運転手モーランは通信教育の探偵講座を受講中。気分はすっかり名探偵の彼は、習い覚えた探偵術を試してみたくてたまらない。ところが、シロウト探偵の暴走が毎回とんでもない騒動を引き起こすユーモア・ミステリ連作集~
米EQMM誌に1943年から1947年まで掲載された後、同年に作品化されたもの。 ①「P.モーランの尾行術」=実に不親切な通信講座とモーランのやり取りから始まり、実際の事件発生⇒何だかんだあってなぜか解決、という本作の道筋が示される初っ端の作品。途中が・・・よく分からん。 ②「P.モーランの推理法」=作中ではなぜかモーランは「推理」ではなく、「論理」「論理」と間違い続ける。でもラストのどんでん返しっていうか、「結果オーライ」の展開がなかなか楽しい。 ③「P.モーランと放火犯」=これまたドタバタ劇(死語?)が展開される第3編。なのだが、やはり最後は上手い具合に解決してしまうモーラン。結局、犯人は何をやりたかったのかイマイチ不明。 ④「P.モーランのホテル探偵」=ホテル付の探偵として臨時に雇われることとなったモーランに再びドタバタ劇が巻き起こる。これもよく分からなかったんだけど、最後にはなぜか解決してた! なぜ? ⑤「P.モーランと脅迫状」=町の教会に届いた1通の脅迫状を巡る探偵譚。当然、誰がなぜ出したのかが問題になるわけで・・・。そんなこんなでモーランのああでもないこうでもない推理が展開される。 ⑥「P.モーランと消えたダイヤモンド」=大勢の人の目の前で忽然と消えたダイヤモンド。今回モーランの助手役となる女性=マリリンは有名ミステリー作家たちの作品を参考に謎を解こうとするのだが、それが間違いの始まり。迷走に告ぐ迷走で、依頼人は何とかモーランたちの暴走を止めようとする。ハチャメチャ。 ⑦「P.モーラン、指紋の専門家」=これはラストのツイストが効いた最終譚。まさか通信講座のやり取りが最後になって効いてくるとは・・・ 以上7編。 これって、やっぱり「ユーモア・ミステリー」なんだろうな。ユーモアという言葉自体死語だけど、アメリカンジョークみたいな雰囲気の「ユーモア」を読ませられても、なかなか大爆笑というわけにはいかなかった。 ただ、さすがに筆達者な作者だけあって、なかなか小気味いいプロットではある。 通信講座を巡るやり取りもなかなか。モーランが単語の間違いを連発していた前半。後半はなんと講師役の主任警部までも綴りを間違うことに・・・。こんなこともアメリカン・ジョーク? |
No.1643 | 5点 | 四季 夏- 森博嗣 | 2021/04/29 22:20 |
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「四季」四部作の二作目は当然「夏」。四季も成長して十三歳・・・。
目くるめく森サーガはどのような展開をしていくのか。 2003年発表。 ~十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得て、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだことは? 孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾~ 本作にはうわべだけの書評なんて必要ない。いや無意味だろう。 以上、終了。 ・・・いやいや、さすがにそれでは気が引ける(何に?)、ということで雑感だけを記す。 本作はいわゆるミステリーでは全くない。 ラストに衝撃的な展開が待ち受けてはいるが、中途は目に見える形では「謎」の提示もなく、事件めいた事象も起こらない。ただ、ひたすら、四季の目で捉えた事象、話した言葉、頭の中のイメージが語られていくだけ。 それでも。読者は揺さぶられる。圧倒的な世界観に。 今回のサブタイトルはRed Summer! 確かに「Red」。 四季にとっての「生」とは、はたまた「死」とは。人は「死ぬ」のではない。「死ななければならない」のだ。それが彼女にとっての唯一無二の帰結、ということなのだろうか? 今回は前作に引き続きとなる紅子、各務のほか、保呂草も登場する。時系列の壁を越えて登場する森サーガの役者(登場人物)たち。まるで彼らの群像劇のようだという思いを強くした。 誘拐された(?)四季と彼女を発見した林(この書き方って叙述トリックですか?)のやり取りがなかなか秀逸。紅子とかつて夫婦だったことを一瞬にして四季に言い当てられた林。結婚指輪を外してない林が「外れないだけ」とうそぶくのに対して、「嘘」「緩そうだもの・・・」って返す13歳。何か心に残る場面だ・・・ |
No.1642 | 5点 | 烙印の森- 大沢在昌 | 2021/04/29 22:19 |
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ノンシリーズ・ハードボイルド。(ノワールかもしれないが・・・)
こういう小説を書かせれば安定感十分! 作者の比較的初期の作品。 ということで単行本は1992年の発表。 ~芝浦の人気のない運河沿いに佇むバー「ポッド」。集まるのは裏稼業に携わる者ばかり。元傭兵のマスター、盗聴のプロ、ニューハーフのボディガード、そして私は犯罪現場専門のカメラマン。特に殺人現場に拘るのは、ある目的で伝説の殺し屋”フクロウ”を探し当てるためだ。ある晩、ついに命を狙われ始めた私は裏社会に生きる「ポッド」の連中と手を組むことに。驚愕のラストが待ち受ける!~ 作者というと、どうしても新宿、歌舞伎町の薄暗い街角が思い浮かぶ。 しかし、「新宿鮫」の人気シリーズ化以前である本作の舞台は六本木・西麻布界隈。どちらかというと、薄暗いというよりは「きらびやか」な雰囲気。 そのせいなのか、どうもしっくりこないというか、ややうわべ感が強いような気がしてしまう。 伝説の殺し屋「フクロウ」を巡って、決してカタギでない登場人物たちが繰り広げるドラマが本作のテーマ。 主人公の「メジロー」の秘められた過去が明かされる中盤以降、物語はスピードを増し、紹介文でも触れている驚愕のラストへ突入する。 ただ、これが「驚愕」かというと大いに疑問ではある。 全体的に、「新宿鮫」以降に触れてきた人物たちの背負っている「因果」に比べれば、どうにも軽いような気がするな・・・ まっでも、それほど穴のない作品に仕上がっているのは事実。 さすがにまとめ方は若いころから熟知していたのだろう。一定の満足感は得られるはず。 ラストになってタイトル(=烙印)の意味が判明するところも読みどころかな。 |
No.1641 | 5点 | 刑事の慟哭- 下村敦史 | 2021/04/15 22:27 |
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「小説推理」誌に2018年6月号から2019年1月号まで連載された作品。
短い期間に矢継ぎ早に作品を発表する作者だが、警察小説は初めてかな? 単行本は2019年の発表。 ~新宿署の刑事・田丸は、本部の方針に反して連続殺人事件の捜査を行い、真犯人を挙げた。結果、組織を敵に回し署内で厄介者扱いされていた。そんな中、管内でOLの絞殺体が見つかった。捜査の主軸から外された田丸は、帰宅途中に歌舞伎町の人気ホストの刺殺体を発見する。ふたりの思いがけない共通点に気付き、その筋を追うことを会議で提案するも叶わず、相棒の神無木と密かに捜査を行うが・・・~ 何か中途半端な警察小説だな・・・というのが最初の感想。 紹介文を読むと、いかにもはみ出し者で威勢のいい刑事が、警察組織を向こうに回して八面六臂、大活躍の末に真犯人逮捕! スゲエー っていう展開なのかなと思うかもしれない。 実際はかなりジメジメした警察小説。 組織に反したことを後悔したり反省したり、逆に正しいことをしたと開き直ったり、なのだ。 数多の警察小説で描かれるとおり、警察組織ほどタテ社会そして複雑な人間模様を持つ組織はない(実際はどうか知らないけどね)。そんな組織のなかで逆らった行動を取ることのリスクをしみじみと感じさせられる。 まぁ私もとある組織の中で生きるはしくれだが、組織の難しさを感じる日々・・・ うまく組織の中を亘っていける奴は羨ましいことこの上ない。 って、いやいや、自分の組織の中での話なんてどうでもよかった。 本筋は・・・うーん。最初に書いたとおり、どうにも中途半端だ。終盤、唐突に真犯人が判明するのもどうかと思うし、ラストシーンも感動するというよりは、エッ!っていう感覚。これが「慟哭」ということなのかな?よく分からん。 作者も書きすぎじゃないかな。アイデアがいろいろあるのかもしれないけど、この「薄味」はやはりいただけないと思う。 (タイトルだけみると薬丸岳の作品っぽい。中味も意識してるのかな?) |
No.1640 | 6点 | スリーピング・ドール- ジェフリー・ディーヴァー | 2021/04/15 22:26 |
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リンカーン・ライムシリーズの「ウオッチメイカー」で初登場したキネティクスを操る名手キャサリン・ダンス。
そんな彼女を主役に据えたスピンオフシリーズの一作目。 2007年の発表。 ~他人をコントロールする天才ダニエル・ペル。カルト集団を率いて一家を惨殺、終身刑を宣告されたその男が、大胆かつ緻密な計画で脱獄に成功した。彼を追うのは、いかなる嘘も見抜く尋問の名手=キャサリン・ダンス。大好評<リンカーン・ライム>シリーズからスピンアウト。ふたりの天才が熱い火花を散らす頭脳戦の幕が開く~ 徹底的に「物証」に拘るのがリンカーン・ライムならば、徹底的に「人間の心情」に拘ったのが、このキャサリン・ダンス。でも、これ真逆というわけではなく、どちらも犯罪を構成する重要な要素ということなのだろう。 彼女のキネティックの力が最も示されたのが、終盤の天才的犯罪者ダニエル・ペルとの対決シーン。ペルの罠に嵌まり、捕らわれの身となってしまったダンスが、自らの能力で見事脱出を図る場面。 キネティクスどころか、僅かな心理の“アヤ”から事件の真の構図を暴くことに成功するのだ。この辺りの爽快感はリンカーン・ライムシリーズにも決して引けを取らない。 そしてもう一つのヤマが、作者お得意の終盤のどんでん返し。他の方も書いているとおり、作者の作品に通暁している読者ならもはや自明なのがツライところなのだが、それでも序盤から作者が密かに仕掛けていた伏線が見事に炸裂することになる。 ということで、安心して楽しむことのできる作品なのは間違いなし。けど、刺激性や爆発力といった点からはちょっと物足りなさも残った感じ。 まぁシリーズ一作目だし、まずはスロースタートということもあったのかも。 途中、ライムとアメリアがカメオ出演するシーンもあったから、これからも「両者」の共演が期待できるということなのだろう。次作も期待大。 (結局ペルのいう「山」って、何のことだったんだろう? いわゆる「山」?) |
No.1639 | 5点 | 血縁- 長岡弘樹 | 2021/04/15 22:26 |
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~親しい人を思う感情にこそ、犯罪の盲点はある。誰かに思われることで起きてしまう犯罪。誰かを思うことで救える罪~
ということで、作者得意の短編集。2017年の発表。 ①「文字盤」=コンビニ強盗を追う田舎警察署の刑事。彼には独特の捜査方法があるのだが、その捜査を行ううちに”ある人物”に目を付けることになる。 ②「青いカクテル」=父親の介護をする「姉」。弁護士と言う仕事をしながら厳しい日々を過ごす「妹」。介護をテーマにした作品は数多いけど、本作も事件の根は介護される人の「尊厳」ということ。 ③「オンブタイ」=これも介護、介助?がテーマとなる作品。タイトルは聞いただけでは?だが、最後にはその意味が分かる仕掛け。 ④「血縁」=うーん。本当の姉妹でここまでのことをするのかなぁ? どうもリアリティにかなり欠けるような気が・・・。でも女性同士だからなぁ・・・あり得るかも。 ⑤「ラストストロー」=これもかなり特殊な状況。死刑囚に刑を執行する役どころの3人に纏わる物語。その心は相当に複雑。だからこそ・・・いろいろ起こる、ということか? ⑥「32-2」=意味深なタイトル。何かと言うと、正解は「民法」。民法第32条の2項がテーマということ。なのだが、これもかなり特殊な状況。こういう状況としても、こんなことやるか?という感じ。 ⑦「黄色い風船」=舞台は死刑囚を収監する刑務所。悩みを書いた札を黄色い風船に巻き付け飛ばす⇒気持ちが軽くなる、ということ(らしい)。 以上7編。 短編集の名手らしく、いろいろなアイデアを惜しげもなく投入された作品集、なのだろう。 ただ、上にも書いたように、どうにも無理矢理感のあるプロットが目に付く作品だった。 プロットのためのプロットとでも表現すればよいのか、強引にパズルのピースに当てはめたところ、嵌まったと思った刹那、すぐに崩れたような感覚。 それだけ良質な短編集を量産するのは難しいということなんだろう。 でも、作者の拘りとしての短編集はこれからも続けてほしいなぁ・・・ |
No.1638 | 4点 | 赤い霧- ポール・アルテ | 2021/03/21 10:15 |
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ツイスト博士シリーズの第一長編「第四の扉」に続いて発表された長編二作目。
ノンシリーズしかも二部構成、舞台は19世紀のイギリスというちょっと変格気味のプロット。探偵役として登場するのは、スコットランドヤードの腕利き警部ジョン・リードなのだが・・・。1988年の発表。 ~1887年英国。ブラックフィールド村に新聞記者を名乗る男が10年ぶりに帰郷する。昔、この村で起こった密室殺人事件を正体を隠して調べなおそうというのだ。10年前、娘の誕生日に手品を披露する予定だった父親が、カーテンで仕切られた密室状態の部屋で背中を刺されて死んでいた。当時の関係者の協力を得て事件を再調査するうちに、新たな殺人事件が起こり・・・~ 『何じゃ、こりゃ?』っていうのが最初の感想。 第一部は紹介文のとおり、作者らしい不可能趣味に溢れた密室殺人がテーマとなる。なんだけど、この解法はないんじゃないか? あまりにもお粗末に感じた。 現場に居合わせた人々の誤認や誤解だけをあてにしたトリックなんて、誤認・誤解を誘導する仕掛けに納得感があるならまだしも、これではアマチュアレベルと言われてもやむなしではないか? これは本気のトリックじゃないのかな・・・と思ってるところで、第二部に突中。 ここで突然、舞台は霧深いロンドンの暗部に移る。19世紀のロンドンでの大量猟奇殺人事件といえば、そう、「切り裂きジャック」ということで、よもやの切り裂きジャック事件の真相解明がテーマとなってしまう。 真犯人は大方の読者なら途中で十分察しがついただろう。 ということで、本格志向の読者にとっては全く食い足りない印象。スリラー、サスペンス寄りだとしても、あまり緊張感のある展開とは言い難い。 もってまわったような表現が多いという作者の悪い部分が目に付くところも評価を下げる。 これは思い付きのプロットを十分煮詰めないまま慌てて発表しましたということなのかな? 他作品でも荒唐無稽で現実性に乏しいトリックというのはあるけど、それはそれで本格ファンにはご馳走なのだが、本作は味のない見た目だけの料理を食べさせられた感じ。 (19世紀末のロンドンということで、世界で最も有名な私立探偵と助手のコンビもカメオ出演! しかも探偵はジャックではないかと一瞬疑われる役どころ!) |
No.1637 | 5点 | 四季 春- 森博嗣 | 2021/03/21 10:15 |
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真賀田四季-森博嗣作品を語るうえで、欠かすことのできない登場人物。
その彼女を主人公とした四部作。その第一章となるのが、本作。題して「春」・・・ 2003年の発表。 ~天才科学者・真賀田四季。彼女は五歳になるまでに語学を、六歳には数学と物理をマスタ、一流のエンジニアとなった。すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考するその能力に人々は魅了される。あらゆる概念にとらわれぬ知性が遭遇した殺人事件は、彼女にどんな影響を与えたのか?~ 文庫版の121頁で、四季が言い放つ台詞。 『そうなの。冗談みたいな真似をしないといけないってこと。この世の手続って、大半が冗談だと思うわ。』 ・・・成程。フィクションの中の登場人物とはいえ、わずか6歳の子供にこうまで断定されるとは。 でも、言われてみればそうかもしれないなぁー。 昨今の政治家たちの答弁や、日々繰り返される過剰接待を巡る野党からの追及なんて見てると、「冗談」という表現が最も適格かもしれないと思ってしまう。 いやいや、そんなことはどうでもよかった。 本題なのだが、うん? 本題って何だ? そもそもこの作品に本題、本筋なんてものが存在するとは思えない。 個人的には、読んでて森博嗣の頭の中が恐ろしくなってきた。 矢継ぎ早に出された作品の数々、時系列すら超えた登場人物たちとその背景。こんなにまで膨らみを持つ作品世界が頭の中で構築され、それを実際に表現できるなんて・・・ 単純に作者の才能に、能力に敬服するばかりだ。 vシリーズの最終作「赤緑黒白」で、思いもよらなかった作品世界のつながりが見えてきた刹那。もはや、本作はトリックがどうとか、密室がどうとかいうレベルで断じてはいけないのかもしれない。 真賀田四季をめぐる物語は始まったばかり。そして、今後どのように「すべてがF」に繋がっていくのか・・・ (本作を一作ごとの登録にしていただいて誠にありがとうございます) |
No.1636 | 6点 | お引っ越し- 真梨幸子 | 2021/03/21 10:14 |
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~片付かない荷物、届かない段ボール箱、ヤバイ引っ越し業者、とんでもない隣人・・・きっとアナタも身に覚えのある引っ越しにまつわる6つの恐怖!~
ということで、「引っ越し」テーマの連作短編集。2015年発表。 ①「扉」=謎の「扉」の向こうには何がある・・・ということで実際「何か」があった! で、その「何か」が問題。でも途中夢オチっぽい仕掛けが何回か続いて、よく分からない感じに・・・ ②「棚」=不要なものを捨てようとして、仕分けしてたら、懐かしいものがどんどん出てきて、あーあ時間が過ぎていく・・・ということはよくある。で、最後は急に時間軸が怪しくなって・・・???という状況。 ③「机」=決して開けてはいけない机の引き出し。それを開けると、奥に挟まっていた書類にある文章が・・・。恐ろしい想像をした割に大したことではないと思ってたら、そうでもなかった! ④「箱」=こんなに大きな社内でこんなに大掛かりな引っ越し作業するのは結構キツイ。ついでに社内には有象無象な「局」やら「怪人物」たちが・・・で、最後は「無」。 ⑤「壁」=壁と言えば「隣人トラブル」。これは・・・あるよなぁー。でも、想像してたのと違った結果、エライ結末を招くことに・・・ ⑥「紐」=今度は謎の「紐」。確かめずにはいられない主人公は結局・・・「無」。 以上6編。 スルスル読めるのがまずは良いところ。「引っ越し」という身近なテーマと「引っ越しあるある」的ネタで万人ウケする作品には仕上がってる。 各編は一応独立しているけど、謎の管理人”アオシマ”が全編に登場し、緩く世界観が繋がっていることを示唆する。(実際①と⑥のマンションは同じだしね、って全部同じマンション?) まぁそれほど大きな仕掛けはないし、ホラーというほど怖くはないので、中途半端といえば中途半端。 隙間の読書にはちょうど良い。 (独身時代の引っ越しは楽だったけど、家族が増えての引っ越しはキツイ) |
No.1635 | 5点 | 間違いの悲劇- エラリイ・クイーン | 2021/03/08 16:26 |
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~クイーンの既刊短編集に収録されていない中短編七編と未完成長編の梗概からなる、最後の「聖典」作品集である。単なる落ち穂拾いではなく、優れた作品や興味深い作品が揃っているので、ミステリファンには格別な贈り物になるに違いない~という作品。原書は1999年の発表。
①「動機」=とある田舎の村で起こる連続殺人事件。若き副保安官が必死に動機&真犯人を突き止めようとするが・・・。いわゆるミッシング・リンクがテーマと思われるのだが、うーん。クイーンにしてはぼやけた作品かなぁーと感じた。雰囲気は確かにあるんだけどね。 ②『クイーン検察局』での3編。いずれも短いながら、どこかにキラリとした輝きがある(ほんの少しだけどね)のは、さすがというところか。中では「結婚記念日」が一番だと思うが、「トナカイの手がかり」もトリビア的で好き。 ③『パズル・クラブ』での3編。これはアシモフの「黒後家蜘蛛会」を思わせる設定。他の3人がエラリーに向けて推理クイズを出題し、エラリーがあっという間に真相を見抜くというパターン。3編ともワンアイデアで大したことはないのだが、それはクイズですから・・・ ④「間違いの悲劇」=これこそが本作の白眉。本作に纏わる詳細は他の方の書評を参照していただくとして、これはやはり「もったいない」というのがまず最初の感想。梗概というレベルでもここまで「読ませる」ストーリーを編む力量はクイーンということなのだろう。テーマとなっている「操り」についても、それ自体がうまい具合にミスリードを誘うようになっていて、それだけにラストのサプライズが嵌まっている。もちろん、国名シリーズでの鮮烈なロジックは期待すべくもないけど、ちゃんとした作品にならなかったのが返す返すも悔やまれる。 以上、〇編? 中味はもちろんだが、巻末の有栖川有栖氏の本作発表についての経緯がなかなか興味深い。かのE.クイーンの作品を”おこす”なんていうことになれば、自作品を発表する以上に大変なんだろうな。 それはともかく、期待以上に楽しむことはできた。クイーンの未読作品も残ってはいるんだけど、その手の入りにくさもあって、どうしても後回しになっている現状なのだが、やはり避けては通れないと再認識した次第。 やっぱり、ミステリー界の巨人、いや巨星だな。クイーンは。 |
No.1634 | 6点 | 鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース- 島田荘司 | 2021/03/08 16:25 |
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「追憶のカシュガル」に引続き、京都大学在学中の若き御手洗潔と彼を慕う予備校生サトルが再登場。つまり、舞台は昭和40年代の京都。更に事件はその十数年前、つまりは昭和30年代・・・ノスタルジックだよね。
単行本は2018年の発表。 ~完全に施錠された少女の家に現れたサンタクロース。殺されていた母親。鳥居の亡霊。猿時計の怪。クリスマスの朝、少女は枕元に生まれて初めてのプレゼントを見つけた。家は内側から施錠され、本物のサンタクロースが来たとしか考えられなかったが、別の部屋で少女の母親が殺されていた。誰も入れないはずの、誰もいないはずの家で。周囲で頻発する怪現象との関連は?~ 「いい話である」。本作をひとことで言い表すなら、そういうことになる。 御手洗も若く、何とも言えない瑞々しさがある。最初に我々の前に登場した、あの馬車道の御手洗は、世間に背を向け、ねじ曲がった性格の奇人としてだった。 そんな御手洗もこの時はまだ医大生。当然、常人では計り知れない頭脳と洞察力を併せ持つスーパーマンなのだが、まだまだ人間そして日本という国に失望してない雰囲気を纏っている。 それだけでも本作を読了した価値があるというものだ。 で、本題なのだが、「密室」。うーん、「密室」ねぇ・・・ 確かに堅牢な密室が出てくる。一階はスクリュウ錠、二階はクレセント錠ですべてが施錠された家・・・堅牢だ! でも、これってワンアイデアだろう。作者が前々から持ってた「密室」ネタのひとつを大きく膨らませたもの。 まぁ、ワンアイデアでここまで感動的なストーリーを紡ぐことができるのだから、それはそれでさすがということなんだけど、いかにも「薄味」という感覚にはなるよね。 途中に挿入された物語。こういう手の話も、「あーあ。島荘らしいね」と思うんだけど、何となく既視感いや既読感ありありって感じになってしまう。(こういう不幸でやりきれない男や女の話は妙にうまい) 悪くはない。うん。悪くはないんだけど、満足もしてない。前の島荘作品の書評で「荒唐無稽でもいい、あの剛腕で私をこれでもかとねじ伏せて欲しい」って書いた気がするんだけど、同じく! でも、さすがに今は150キロの剛速球なんて無理だよな。じゃあせめて、100キロでもいいから鋭い変化球を見せて欲しい・・・って難しいかな? |
No.1633 | 5点 | 道徳の時間- 呉勝浩 | 2021/03/08 16:24 |
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第61回の江戸川乱歩賞受賞作にして、当然作者のデビュー長編。
謎めいたタイトルが以前から気になっていた作品なのだが・・・ 2015年の発表。 ~連続イタズラ事件が起きているビデオジャーナリストの伏見が住む町で陶芸家が殺される。現場には『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』という落書きがあり、イタズラ事件との類似から同一犯との疑いが深まる。同じ頃、かつて町で起きた殺人事件のドキュメンタリー映画のカメラの仕事が伏見に舞い込む。証言者の撮影を続けるうちに、過去と現在の事件との奇妙なリンクに絡め取られていく・・・~ 他の方も書かれてますが、乱歩賞審査での池井戸潤氏の選評に頷かれる方が多いように思う。 曰く、①『まず、過去の事件と現代の事件が結びつかないこと。せめて・・・略』②『選考会で最も問題になったのは主要登場人物の背景である』③『文章がよくない。大げさな描写は鼻につくし、誰が話しているかわからない会話にも苛々させられる。さらに最後に語られる動機に至っては、まったくばかばかしい限りで言葉もない』 ・・・酷評である。 出版に当たっては手直しされた箇所もあったろうと思うので、選考会時の原稿とは異なるのかもしれない。 でも、②はともかく、①と③は首肯してしまう・・・かな。 ①については、要はプロットのまとまりの問題だろう。複数の筋が時間軸を超えて並行して語られるのだが、どうにも整理されてない。ラスト、一応の解決が付くわけだが、結局?で終わった筋もあった。 ③はかなり手直ししたのかな? まぁデビュー作だしね。多少の粗はやむなしという気はするんだけど ただ、受賞することとなった理由として、辻村深月氏が言及している「続きはどうなるのか」と思わせる作内の謎が際立っていた、という点。確かに、ミステリーとしてこれは外せないポイントなのだろう。これについては、「まぁそうかな」という感想。いずれにしても、「作家」としての腕前はまだまだこれからという読後感。 他の作品を手に取るのかというと・・・やや微妙。 (他者の感想の引用ばっかで申し訳ございません。でも、一流作家は選評の文章も読ませるね) |
No.1632 | 4点 | こうして誰もいなくなった- 有栖川有栖 | 2021/02/17 20:36 |
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~本書はノンシリーズものの中短編をまとめたもので、ラジオでの朗読のために書いたため初めて活字になる作品も含まれている。・・・内容も長さも様々で、有栖川有栖の見本市みたいなものだ~前口上より
ということで、作者のア・ラカルト的な作品集と言えば格好いいのかな? 2019年の発表。 ①「館の一夜」=ノスタルジィだなぁー。 ⑥「怪獣の夢」=男なら、少年なら、こんな夢みるよなぁー。 ⑦「劇的な幕切れ」=女なんてそんなもんだよーって、ヤバイ! 今これ言うの禁句だった。(私も会長を辞任します。何の会長?) ⑨「未来人F」=江戸川乱歩作品へのオマージュだが・・・。こうしてみると、明智小五郎も全知全能だな。 ⑪「本と謎の日々」=書店で起こるちょっとした日常の謎。かなりほっこりする一編。最後はやや捻る。 と、ここまでは雑文レベルの作品も混じるなど、まさに“ごった煮”。で、ラストの表題作のみが中編的分量。 ⑭「こうして誰もいなくなった」=これまで数多の作家たちが挑んできた「そして誰もいなくなった」へのオマージュ。ついに作者までも・・・ということで期待したのだが、正面から正攻法で挑んだものとは言い難い。恐らく、最後の殺人に絡むワンアイデアから膨らませたのだろうけど、手練れの読者を満足させる水準ではなかった。せっかくなら、もう少し腰の据わった長編でチャレンジしてもよかったと思うが・・・ 以上14編。 まぁあまり褒められた内容ではない。有栖川有栖だから活字になったのかもしれないが、他の泡沫作家なら歯牙にもかけられないだろう。 ミステリーのみならず、評論など各種精力的な活動には敬意を表するわけですが、本作については読むだけ時間の無駄(よりちょっと上)程度の評価が妥当かと・・・ |
No.1631 | 8点 | 犯人に告ぐ3 紅の影- 雫井脩介 | 2021/02/17 20:34 |
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前作「犯人に告ぐ2~闇の蜃気楼」読了の興奮も冷めやらぬなか、続編となる本作。(要は前作の粗筋を忘れぬうちに・・・ということだけなんだが)
巻島の手を逃れた『リップマン』こと淡島と巻島の勝敗の行方、ついに決着か?! 2019年の発表。 ~依然として行方の分からない「大日本誘拐団」の主犯格『リップマン』こと淡野。神奈川県警特別捜査官の巻島史彦はネットテレビの特別番組に出演し、『リップマン』に向けて番組上での対話を呼びかける。だが、その背後で驚愕の取引が行われようとしていた! 天才詐欺師が仕掛けた大胆にして周到な犯罪計画。捜査本部内の不協和音と内通者の存在。警察の威信と刑事の本分を天秤にかけ、巻島が最後に下した決断とは?~ これは、雫井史上最高傑作に間違いない!(全作読んでいるわけではないので、あくまで読了したうちだが) 作者の持てる技量をすべて注ぎ込んだかのように、あらゆるファクターが詰まった作品となった。 小説としての骨格は、やはり「警察小説」ということだろうか。 巻島という特異なキャラクターを主役には据えているが、彼を取り巻く上司、同僚、部下、そして県警という巨大組織が、『リップマン』というひとりの敵役を相手に、ダイナミックに動き、考える様子が克明に描かれる。 『リップマン』というひとりの敵というのは、正確ではない。今回は、前作ではヴェールに包まれていた金主-『ワイズマン』の存在も明かされる。そして、何と県警内の内通者『ポリスマン』までも・・・ ひとりひとりの登場人物のキャラ立ちも半端なく効いている。 事件の舞台は、第一作でも使われたメディアを使った“劇場型”公開捜査へ。そして、これまた斬新なことに、ネット配信を使って、巻島VS『リップマン』(のアバター)が対決なんていう趣向まで用意されている。ふたりの化かし合い、ちょっとした違和感も逃さない頭脳戦の行方は! そして、終章。うん!? これは・・・続編ありってことか? 『ポリスマン』も『ワイズマン』もねぇ○○○○だし・・・ これは楽しみになった。久しぶりに時間も忘れて読書に没頭してしまった。それほどの出来栄え。(ちょっと褒めすぎかな?) これだけの大容量を一気呵成に読ませるんだから高評価は当然 (組織の論理って、どこの世界でも厄介だよね・・・。それを逆手に取る巻島はさすがだ) |
No.1630 | 6点 | グラーグ57- トム・ロブ・スミス | 2021/02/17 20:33 |
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前作「チャイルド44」の衝撃からあまり間を置かず、続編となる本作を手に取った次第。
世はスターリン政権下での粛清状態から移り変わり、フルシチョフ書記長が実権を握る時代へ・・・ レオの運命は如何に? 2009年の発表。 ~運命の対決から3年・・・。レオ・デミトフは念願のモスクワ警察殺人課を創設したものの、一向に心を開こうとしない養女ゾーヤに手を焼いている。折しもフルシチョフは、激烈なスターリン批判を展開。投獄されていた者たちは続々と釈放され、かつての捜査官や密告者を地獄へと送り込む。そして、その魔手が今、レオにも忍び寄る・・・。世界を震撼させた「チャイルド44」の続編~ 悲しい物語だ。 主人公レオ、妻ライーサ。レオに決して心を開こうとしない養女ゾーヤ。ゾーヤが唯一心を開く少年マリッサ。そして、今回大いなる敵として登場するフラエラ・・・ひとりとして幸福となる登場人物はいない。 タイトルになっている「クラーグ57」とは永久凍土の地シベリアにある囚人たちを収監する牢獄のこと。レオは捕らわれたゾーヤを取り戻すため、単身、敵だらけの土地に飛び込む。そこは、想像を絶するような地獄だった。 それでも希望を失わず、脱出を図ろうとするレオ。しかし、脱出した先には更なる障壁と不幸が待ち受ける・・・ いやいや辛い、つらい、ツライ話が延々と続いていく。 前作「チャイルド44」ではミステリー的な妙味もあったが、本作はそういった趣旨はほぼ見えない。全編がレオを取り巻く人々が、抗えない運命に流されていく姿が描かれている。 ソ連ってすごい国だったんだねぇ・・・。スターリン政権の粛清渦巻く社会からやっと抜け出したかと思いきや、そんなことでは長年積み重ねてきた価値観は変わらない刹那。 読むだけでも重く、辛い感情になってきた。 しかしながら、レオ一家をめぐる物語はまだ続いていく。終章でゾーヤとの関係にも一筋の光明が見えてきただけに、今後の展開は期待できるか。 作者のストーリテラーとしての能力はやはり確かだ。なんだかんだ言いながら、頁をめくる手が止まらなくなる。 次作もやはり手に取るしかないようだ。粗筋を忘れないうちに・・・ (ブタペストから奇跡の生還を果たしたレオの転職先は何と・・・パン屋だ! これってネタバレ?) |
No.1629 | 6点 | もの言えぬ証人- アガサ・クリスティー | 2021/01/28 22:39 |
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だいぶ少なくなってきたポワロもの未読作品のひとつがコレ。
著名作の間に埋もれた佳作なのか、はたまた埋もれるべくして埋もれた駄作なのか? 原題は“Dumb Witness”(そのままだね) 1937年の発表。 ~ポワロは巨額の財産を持つ老婦人エミリイから、命の危険を訴える手紙を受け取った。だが、それは一介の付添い婦に全財産を残すという問題のある遺言状を残して、彼女が死んだ二か月後のことだった。ポワロとヘイスティングズは、死者からの依頼に応えるとともに、事件に絡む愛すべきテリア犬「ボブ」の濡れ衣も晴らす~ これ、設定だけを取り上げると“いかにもクリスティ”のように見える。 「悪意のある遺言状」や「五指に余る疑わし気な親族=容疑者たち」。「容疑者ひとりひとりの証言の齟齬、心理を読み、真相に迫るポワロ」などなど、数多の彼女の佳作と比べても遜色ない“枠組み”だと思った。 最終的にはミスリードが見事に嵌まり、斜め上から抉るような真相が語られるに違いない・・・ その筈だった。 実際は・・・やや微妙か。 他の方も書かれてますが、特に中盤の展開がモヤモヤしていて、すっきりしない。確かに伏線は張られてるし、ポワロの推理にも一定のキレはある。ただ、どうもね・・・ 序盤での不穏な空気間から醸し出される私の期待感からすれば、この真相はちょっと龍頭蛇尾に思えた。そういう意味では、本作が「埋もれてる」のもむべなるかな、ということなんだろう。 でも、日本国内でこの設定(上に書いた「悪意のある遺言状」など)なら横溝正史辺りが思い浮かぶけど、それならおどろおどろしい、血みどろの惨劇なんていう作風になっちゃうんだろうな。 これがクリスティにかかれば、英国の伝統的な田園風景のなかで、牧歌的とさえ言えそうな作風になるんだもんね・・・やっぱり違うよなぁと思った次第。 ちょっと辛口に書いてしまったけど、別に駄作というわけではない。水準給の面白さは十分備えてるし、何より「ボブ」が愛らしい。犬の言葉が理解できたら、こんな感じなのかな? |
No.1628 | 7点 | 片桐大三郎とXYZの悲劇- 倉知淳 | 2021/01/28 22:38 |
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~聴覚を失ったことをきっかけに引退した時代劇の大スター・片桐大三郎。古希を過ぎても聴力以外は元気極まりない大三郎は、その知名度を利用して探偵趣味に邁進する。後に続くのは彼の「耳」を務める野々瀬乃枝~
ということで、かのE.クイーンの有名シリーズを翻案(?)した連作短編集。 2015年の発表。 ①「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」=山手線の満員電車で起こる殺人事件。凶器はニコチン毒・・・。犯人は犯行現場を山手線内に見せかける価値があると考えたとあるけど、わざわざ顔を晒して、凶器も捨てて・・・などというリスクの方がどう考えても大きそうだが? ②「極めて陽気で呑気な凶器」=車椅子の老画家殺し。現場近くにあった数多くの“凶器候補”の中から選ばれたのは、なぜか「ウクレレ」・・・。なぜウクレレ?というのが大きな謎となるわけだが、本作はオマージュ作品とは異なり、大五郎の逆説的な解法が決まる。ただ、このロジックは一直線に首肯し難い気がする。 ③「途切れ途切れの誘拐」=まさか序盤のあの光景が伏線になっていたとは・・・。そこはいいんだけど、まさか凶器がアレとは・・・(もちろんウクレレではありません)。 ④「片桐大三郎最後の季節」=これが一番ヤラレタ。冒頭~終盤まで、亡き巨匠の遺作シナリオ盗難事件に纏わるヌルい展開が続くのだが、ラストはまさかの真相! そうか、これが最終的にやりたかったのね。 以上4編。 E.クイーンのドルリー・レーン四部作のオマージュは言うまでもない。 全体的にはロジック重視の好短編集という評価で良さそう。 もちろん、「ロジックのためのロジック」というようなものもあるけど、そんなことを今さら持ち出したってねぇ・・・ 従来の「猫丸先輩」シリーズに負けず劣らずの主人公キャラだし、さすがに短編は手馴れている。 是非シリーズ化or続編に期待したいところ。 (ベストは③か④で迷うところだが、「騙し」がラストに見事決まった④に軍配かな。①②もまずまずの水準。) |
No.1627 | 7点 | 犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼- 雫井脩介 | 2021/01/28 22:37 |
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前作となる「犯人に告ぐ」を読了したのが、今を去ること11年半前の2009年9月。満を持して今回続編を手に取ることに(単なる偶然、思い付きですが・・・)
巻島警部は警視に昇進。相変わらずの長髪をなびかせている模様。2015年の発表。 ~神奈川県警が劇場型捜査を展開した「バットマン事件」から半年。巻島史彦警視は、誘拐事件の捜査を任された。和菓子メーカーの社長と息子が拉致監禁され、後日社長のみが解放される。社長と協力して捜査態勢を敷く巻島だったが、裏では犯人側の真の計画が進行していた。知恵の回る犯人との緊迫の攻防!~ 作品中では前作から僅か半年後の設定になっているけど、実際の刊行は11年後。さすがに忘れてるよなー でも、前作の設定が割と密に絡んでくる本作。本来は、前作を読み直した方がいいのかもしれない。 で、物語は「オレオレ詐欺グループ」の組織的犯罪を描くところからスタートする。 今回、巻島の好敵手となる謎の男「淡野」と、彼に従う兄弟の3人が手を染めるのはズバリ「誘拐ビジネス」。 そう、「誘拐」という犯罪をビジネスにしてしまおうという実に「ふてぇー」奴らなのだ。 何より、巻島を中心とする神奈川県警と「淡野」を中心とした犯人グループの知恵比べが本作最大の注目点。 お互いが「裏」、「裏の裏」そして「そのまた裏」をかこうとするまさに化かし合い。 この辺りの盛り上げ方はさすがに作者。心得ている。 山下公園⇔横浜公園を舞台とする身代金を受け渡しは両者痛み分けに終わるのだが、そこまでも見越したうえでの淡野の次の一手! 実に劇場的。裏をかかれたはずの巻島を救ったのは、まさかの人物! いやいや、なかなかの面白さ。予定調和な箇所もあるにはあるけど、十分に満足できるエンタメ作品に仕上がっていると思う。 そして終章。巻島の前にひれ伏すことになった・・・と思いきや。物語は若干の残尿感を残してパート3へ続くことに。 当然読みますよ。記憶が薄れないうちに。 (途中に描かれている県警内の人事の話がリアルっぽくて「へぇー」って思った。どこもそういうことってあるよね) |
No.1626 | 5点 | 玉村警部補の巡礼- 海堂尊 | 2021/01/10 13:29 |
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「玉村警部補の災難」に続く、警察庁一の切れ者・加納警視正と“哀れな部下”玉村警部補のコンビが活躍するシリーズ第二弾。
今回は「巡礼」の言葉どおり、ふたりが四国八十八か所のお参りに出掛けた先で遭う事件を解き明かす・・・展開。 2018年発表。 ①「阿波 発心のアリバイ」=まずは一番札所のある阿波からスタート。この「巡礼」は何かしらのウラがあることが序盤からほのめかされるなか、八十八か所セレブツアー(そんなの本当にある?)のメンバーが挙げた100万円の賽銭(!)が盗まれる事件が発生。で、そんなこんなで加納警視正が解決。めでたし、めでたし。 ②「土佐 修行のハーフムーン」=政治家が絡むきな臭い自殺事件。政治家と秘書といやぁー、安倍前首相だってねぇ・・・というわけで、お仕えの身はツライということ。メインはアリバイトリックなのだが、まさかこのご時世で写真を使ったトリックにお目にかかれるとは思ってもみなかった。 ③「伊予 菩提のヘレシー」=全身の血を抜かれた死体。Why?というわけで、「蚊」=弘法大師の生まれ変わりとして崇めるという風習が伊予の一部地域にあるらしい(ホンマかいな?)。まさか! 蚊に血を全部吸われた? それはないだろう・・・ ④「讃岐 涅槃のアクアリウム」=冒頭からほのめかされていた「ウラ」の事情が明らかとなる最終編。舞台は屋島水族館ということで、久々にあの「ボンクラボヤ」も登場する(知ってる人は知っている)。 ⑤「高野 結願は遠くはてしなく」=ボーナストラック的なまとめ。 以上4編+1。 まさか四国八十八か所を題材に持ってくるとは・・・。作者の懐の深さというべきか、多趣味というべきか・・・ 巻末には八十八か所の地図や全ての寺院名も掲載されていて、全くの素人という方にも配慮がされてます。 まぁ、あんまり真面目に書いた作品ではないのだろうから、肩の力を抜いて読めばいいということかな。一連の「桜宮サーガ」の番外編という位置付けなんだろうけど、今まで読んだことない人でも特段関係なし。 お遍路に興味がある+ミステリー好き、というニッチな方なら是非どうぞ! でも本当に歩くと大変らしいよ。 |