皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.1505 | 5点 | 青ひげの花嫁- カーター・ディクスン | 2019/03/21 22:10 |
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H・M卿を探偵役とするシリーズ第十六作目。
作者らしからぬプロットとなっている(らしい)本作。やはり、シリーズもここまで重ねると変わった趣向に行かざるを得ないのか? 1946年の発表。 ~最初の犠牲者は牧師の娘。つぎは音楽家、三人目は占い師、四人目は身元不明・・・。謎の男ビューリーと結婚した女たちが消えた事件にロンドン近郊の住民は“青ひげ”出現と震え上がった。しかもビューリーは警官の張り込みのなかを死体とともに姿を消したのだ。そして何の手掛かりも掴めぬままに11年後・・・ある俳優の元に何者かから脚本が送られてきた。それは警察しか知りえないビューリー事件の詳細まで記した殺人劇の台本だったのだ! 果たしてこれは殺人鬼の挑戦状なのか?~ -「青ひげ」とは、シャルル・ペローの童話。有名なグリム童話としても収録されていた- 知らなかった・・・ 要は結婚するたびに妻が行方不明になるという部分が「青ひげ」との共通項ということである。 で、本筋なのだが、冒頭に触れたとおり、いつものHM卿シリーズとはやはり違う雰囲気。 殺人こそ起こるのだが、トリックとか不可能趣味などとは一線を画した展開。 目の前から死体が消えるという現象は起こるのだが、その解法も正直何だかよく分からない。 そう、「何だかよく分からない」というのが本作全体に対する感想になる。 ブルース(俳優)が殺人鬼に扮した理由なども、終盤明らかにはなるのだが、敢えてこんな面倒なことをやった理由はよく分からない。 HMは中盤辺りで事件の構図を察したらしいのだが、どうも何をしたいのかよく分からないまま終盤の見せ場に突入した感じ。 うーん。とにかくいつものシリーズの展開を期待すると肩透かしを食う。 殺人鬼の正体についてはサプライズ感はあったものの、そこだけだったかな・・・ あっ忘れてた、「お笑い」シーンはいつもどおり用意されてます。 それもまさかのHMのゴルフ! ズルしちゃいけませんや! HM卿!(笑) |
No.1504 | 6点 | 日本アルプス殺人事件- 森村誠一 | 2019/03/21 22:09 |
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作者が得意とするジャンルのひとつが“山岳ミステリー”。
その代表的作品といて挙げられるのが本作(恐らく)。 「週刊小説」連載後、1972年に単行本化して発表されたもの。 ~北アルプス・槍ヶ岳の観光開発をめぐり、しのぎを削る若きエリート社員ー国井、村越、弓場。三人は福祉省・門脇局長への接近を図り、更に上高地で会った門脇の娘・美紀子の愛を得ようと争う。自分の会社に開発利権を導くために。しかし、彼女に最も近づいていた国井が殺害された。村越と弓場が容疑を掛けられるが・・・。捜査陣は鉄壁のアリバイを崩せるのか?~ いかにも森村誠一らしい本格ミステリー。 よくいえば“生真面目”で、悪く言えば“生硬”と表現すればいいのだろうか。 犯罪を犯す側も捜査する側も全く“遊び”がなく、それぞれの役目を懸命に果たそうとしている。 時代性かもしれないけど、そんな思いを抱いてしまう。 本作のテーマは紹介文のとおり、アリバイ崩しに収斂されていく。 当然、舞台はアルプス山脈となるのだが、トリックの殆どが「写真」或いは当時の「写真機」(古い表現だ)によるものなのがツラい。 刑事たちが図解入りで説明してくれるけど、もともとこういう方面に疎い私が、しかも数十年前の内容で説明されるもんだから、ほぼ理解不能。 列車に関するアリバイ作りも一応登場はするのだが、あくまで添え物程度で、こりゃぁーカメラマニア以外にはどうにもピンとこなかったのではないか。 本格ミステリーとしてのプロットはほぼこれ一本勝負なのは、他の良作と比較すると弱さを感じる。 あとは美紀子だな・・・ これも、いかにも森村作品に登場しそうなヒロインとして描かれている。 誰もが振り返る美しさ、そして清廉な心を持つ女性・・・なんだけど、自分が美しく男を惑わしていることも十分に認識している・・・ そんな彼女を不幸のどん底に陥れる終章。そして思いもかけぬラストシーン! もしかしたら、これが本作で一番のサプライズかも? |
No.1503 | 4点 | 御子柴くんの甘味と捜査- 若竹七海 | 2019/03/21 22:08 |
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~長野県警から警視庁捜査共助課へ出向した御子柴刑事。甘党の上司や同僚から何かしらスイーツを要求されるが、日々起こる事件はビターなものばかり・・・~
というわけで、大人気(?)シリーズとなった葉村晶シリーズのスピンオフ的位置づけの連作短篇集。 2014年の発表。 ①「哀愁のくるみ餅事件」=長野県上田市の甘味にまつわる事件・・・というわけではなくて、上田市の山中で発見された不審死体にまつわる事件。今どき、こういうニートの子供を持って苦労する親って多いんだろうな・・・ ②「根こそぎの酒饅頭事件」=酒饅頭かぁー確かに旨いやつもある!っていうわけでなく、何だか怪しい奴がいっぱい出てきて何が何だか分からないうちに解決されちゃった事件(あくまで雰囲気です) ③「不審なプリン事件」=どんなやつだ?「不審なプリン」って?? 長年逃亡を続けてきた殺人犯をめぐって、軽井沢の教会を舞台に起こる事件・・・。で、何なんだ「不審なプリン」って? ④「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」=味噌ピッツァとは、長野県駒ヶ根市のB級グルメだそうです。甘味じゃねえじゃん! でもこれがミステリー的には一番まとまってる気がした。 ⑤「謀略のあめせんべい事件」=何なんだ?「謀略のあめせんべい」って?? 長めの割には実につまらない事件、っていうかプロット。 以上5編。 主人公はタイトルどおり御子柴刑事だけど、探偵役は短篇集「プレゼント」に登場する長野県警の小林警部補。全編、御子柴君からの報告を受けて、小林警部補の“気付き”から事件が解決するというパターンとなっている。 まぁ正直言ってつまらん。その一言。 そう言ってしまうと身も蓋もないのだけど、やっつけ仕事感が半端ないっていう感じだ。 作者あとがきで、作者自身もそれっぽいことを書いてるんだから、もはやそういうことなんだろう。 こういう巻き込まれキャラっていうのも既視感ありありだしね。 葉村晶シリーズのファンとしてついつい手にとってしまった本作なんだけど、うーん、余計だったな・・・ |
No.1502 | 8点 | 眠れる美女- ロス・マクドナルド | 2019/03/10 21:40 |
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リュウ・アーチャーシリーズとしては最後から二番目に当たる長編。
1973年発表。要は晩年の作品ということ(だろう)。 原題“Sleeping Beauty”(そのまんまだな・・・当たり前か) ~流れ出した原油が夜の帳のように広がる海岸で、美しい女が鳥の死骸を抱いて泣いていた。女の名前はローレル・ラッソ。原油流出事故を起こした石油王のひとり娘だった。海岸で彼女を見かけたアーチャーは、その翳りのある美しさに心惹かれ自分のアパートに連れ帰った。しかし女は何も言わずに致死量の睡眠薬を持ち出して姿を消した。夫の依頼を取り付けたアーチャーは捜査を開始するが、両親のもとに身代金を要求する脅迫電話がかかってくるにおよび事件は深い傷口を見せ始めた。悲劇に弄ばれる人間の苦悩を浮き彫りにする巨匠の野心作~ 何とも救いのない話である。 プロットの主軸はやはりロスマクらしく家族の悲劇。 石油王・レノックス一族にとどまらず、レノックス家に関わることになった二つの家族も抗えない大きな渦に巻き込まれることになる。 いつの時代も、どこの世界でも男と女は決して相容れぬもの。それでも互いに互いを求めあう・・・ それが全ての悲劇の源流になってしまう。突き詰めればいつもそこに行き着く。 そんなことを読了して改めて感じさせられた。 物語は偶然原油流出事故を目撃したアーチャーが、美しい女性にひとめ惚れしてしまうことから始まる。 女性の自殺を心配するアーチャーが、彼女を捜索するうちに、事件は思わぬ広がりを見せる。そして開いてはいけない過去の悲劇にも・・・ 読者に対し、横へ奥へ世界を広げて見せる作者一流のプロット。 そして、今回はその回収ぶりも見事。終章、悲劇は想像以上だったことをどんでん返しの結末から知ることになる。 今回、アーチャーは惚れた弱み(?)か、いつも以上に積極的&献身的。食事を取るのも忘れるほど、疲弊した体を酷使し続ける。 でも、なぜ人はアーチャーに聞かれるとなんでもしゃべってしまうのか? 当たり前だろ!って、まぁそのとおりなのだが、何だか古いタイプのRPG(ドラクエ的なやつ)を思い出してしまった。(田舎の街の人々一人一人に主人公の勇者が聞きまわってる姿にアーチャーを重ねてみる・・・別に意味はない) いずれにしても、作者熟練の腕前を堪能させていただいた。晩年の作品でここまでのクオリティを見せられれば文句はない。 さすが!のひとこと。 |
No.1501 | 5点 | 白衣の嘘- 長岡弘樹 | 2019/03/10 21:39 |
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~医療の現場を舞台に描き出す、鮮やかな謎と予想外の結末。名手による傑作ミステリー集~
ということで、「傍聞き」「教場シリーズ」で著名となった短編の名手(?)の作品。 2016年発表。 ①「最後の良薬」=問題の多い女性入院患者を担当することになった医師。その入院患者と接するうち、あることに気付く。そして思わぬラスト・・・。いくら人材不足とは言え現実の医療現場でそんなことがあり得るのかは大いに疑問。 ②「涙の成分比」=医師の姉とバレーボール日本代表の妹。ふたりが車中で遭遇したトンネル落盤事故。脚の半分を失った妹を気遣う姉もまた・・・。なにも二人揃って不幸にならなくても、って思ってるうち、ラストは微かな光が射す。 ③「小医は病を医し」=タイトルは中国の諺(らしい)。これって、どこまで真実を見抜いての行動なのかが今ひとつ分からず。でも、確かに大きな病院って迷路みたいだよね。(嘘をつき通しても良かったんじゃない、って個人的には思ってしまった) ④「ステップ・バイ・ステップ」=これも③と同じベクトルの作品。医療現場の裏側で別の犯罪が・・・っていう展開なんだけど、こんな回りくどい示唆の方法しかなかったのかという疑問を感じずにはいられない。 ⑤「彼岸の坂道」=主任の地位を競い合うライバルふたり。その任命権を持つ上司が不慮の事故に遭う。そしてラストは思わず真実が・・・。うーん何か地味。 ⑥「小さな約束」=刑事の姉と新米警官の弟。姉が腎疾患で入院するなかで知り合った青年医師。医師と弟で磯釣りで出掛けた最中に大事故が起こる! これも三たび医療現場の裏側で別の犯罪が!っていう展開。 以上6編。 作品トータルでみて、ひとことで評価するなら「旨い」ということになる。 でもこの「旨い」がイコール「面白い」にはつながっていない。 他の方も書かれているけど、どうにも無理矢理感が強すぎるんだろう。 プロットをこね回しすぎてるというか、意外なラストのために登場人物の行動がどうにも不自然になっている。 短篇だから、ワンアイデアの切れ味勝負になるのは当然なんだけど、日本刀やナイフでスパっと切るという感じではない。 良く練られてるし、ツボは押さえてるんだけどね・・・ そういう意味では惜しい作品。 |
No.1500 | 6点 | 首無館の殺人- 月原渉 | 2019/03/10 21:38 |
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「使用人探偵シズカ~横浜異人館殺人事件」に続いて発表されたシリーズ第二長編。
新潮文庫NEXのために書き下ろされた作品。 2018年の発表。 ~没落した明治の貿易商、宇江神家。令嬢の華煉は目覚めると記憶を失っていた。家族がいて謎の使用人が現れた。館は閉ざされており、出入り困難な中庭があった。そして幽閉塔。濃霧立ち込める夜、異様な連続首無事件が始まる。奇妙な時間差で移動する首無死体。猟奇か怨恨か。戦慄の死体が意味するものとは何か。首に秘められた目的とは?~ もうすぐ平成の世も終わるというこのご時世に、こんな大時代的な設定を出してくるとは・・・ この作者何奴? っていうことで「首切り」である。 探偵役となるシズカ自身が作中で「首切り」=「入れ替わり」というロジックを読者にちらつかせます。 これが本作のプロットの肝となるのは当然で、読者は入れ替わりを意識しつつも、その裏や裏の裏まで想像することになる・・・ で、終章に明かされるサプライズ感満載の真相。 他の方も触れられている首切りの理由については、これは・・・要は戦国時代の武将と同じような発想ってことか? でも、しかし・・・これはいくらなんでも無理筋だろう。さすがに荒唐無稽すぎて、どうにも消化不良だった。 あと、濃霧の中を移動する「首」の真相。 まさかと思ったが、最も単純なやつだったとは・・・(最初は例の島荘振り子トリックかと考えてた) 動機を含めて事件の構図自体をガラっと変えてみせる仕掛け自体は面白い。 ただ、これを成立させるにはこのボリュームでは無理が目立ちすぎる。 いきなり記憶喪失を持ち出されると、ここに仕掛けがあることもすぐに察してしまうしなぁー まぁでも、その心意気や良しだ。 2019年の世でこんな作品を書く作者、発売してくれる出版社に乾杯! 前作も未読なので、読んでみようと思います。 |
No.1499 | 7点 | 黒死館殺人事件- 小栗虫太郎 | 2019/02/23 11:48 |
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やっとたどり着いた1,500冊目の書評。
今回は「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」とともに、日本ミステリー界の三大奇書として名高い本作をセレクト。 直近で復刻された河出文庫版にて読了。 本作は雑誌「新青年」1934年4月号から12月号にかけて連載され、1935年新潮社より刊行。 ~黒死館の当主・降矢木算哲博士の自殺後、屋敷の住人を血生臭い連続殺人事件が襲う。奇々怪々な殺人事件の謎に対し、刑事弁護士・法水麟太郎がエンサイクロペディックな学識を駆使して挑む。江戸川乱歩も絶賛した本邦三大ミステリーのひとつ、悪魔学と神秘科学の結晶しためくるめく一大ペダントリー~ いやはや・・・まずはその一言しか思い浮かばなかった。 読む前から三大奇書中でも最難関の難解さという評判は聞いていたが、その評判もむべなるかなという感想。 文庫版で500頁を超える分量を読了するのに、どれだけの時間を要したことか・・・ でも途中で諦めなかった!(エライ!と自分で自分を褒めたりする) これが以前の私なら、途中で投げ出していたに違いない。そういう意味ではミステリーファンとしていくらかでも成長したのかなと思う。 そんな個人的なことはどうでもいい! 本筋の評価は? ということなのだが・・・ うーん。書きようがない。 終章も終盤に差し掛かったところで、一応真犯人の名前は明確になり、事件全体を貫く構図や動機も(恐らく)こうだろうというのが見える。 でも、読者にとってはそんなこともはやどうでもよくなってる! 中途で法水から披露される圧倒的な衒学と、トライ&エラーの上に積み重ねられる推理の数々、一応科学的と思われるトリックの数々・・・いったいどれが正解でどれがダミーなのか、混乱に混乱が重なってもはや夢遊状態! ネタバレサイトも閲覧したが、あまり納得のいく解釈はなかった。 これはもう・・・作品の雰囲気・世界が好きかどうか、それ次第。 これが書かれたのが昭和一桁年代というのが驚き。よく出版したな! 読者もビックリだろう。 でもこの作風が後のミステリー界に影響を与えたのは確実。そんなエッセンスが作中のあちこちに見られた。 それだけでも本作に触れた意義はあったと思いたい。 (とりあえず2,000冊目までは書評を続けていこう。そこまで到達すれば後は・・・) |
No.1498 | 5点 | 悪意の夜- ヘレン・マクロイ | 2019/02/23 11:47 |
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ベイジル・ウィリング博士を探偵役とするシリーズで十番目の長編に当たる。
原題は“The Long Body” 1955年の発表。 ~夫を転落事故で喪ったアリスは、遺品のなかに“ミス・ラッシュ”なる女性の名前が書かれた空の封筒を見つける。そこへ息子のマルコムが美女を伴い帰宅した。彼女の名前はラッシュ・・・彼女は何者なのか? 息子に近づく目的、夫の死との関連は? 緊張と疑惑が深まるなか、ついに殺人が起きる・・・。迫真のサスペンスにして名探偵による謎解きでもあるウィリング博士もの最後の未訳長編~ “Long Body”・・・作中でウィリング博士がヒンズー教でいうところの『分身』という意味で使っている言葉。 宗教的でやや難解な説明なので分かりにくいけど、その人の本質という意味で理解した。 本作の主人公アリスは、「夢中歩行」という怪現象に悩まされることになる。(夢遊病と同意?) 自室や病室にいながら、肉体だけはそこから無意識に抜け出し、思いもよらぬ行動を取ってしまう。 そして気づくと部屋のなかにいる・・・という怪現象。まさに「分身」。 1955年というと作者中期の作品で、創元文庫で先に刊行された代表作「暗い鏡の中に」や「幽霊の2/3」と同じ頃ということになる。 「暗い鏡・・・」のドッペルゲンガーと同様、本作では「夢中歩行」が象徴的なテーマとして取り上げられたわけだ。 これが幻想的、神秘的な作品世界を醸成する効果を発揮しているのは確かなんだけど、本格ミステリーとしては決していい方向に出ていないのが玉に瑕。 登場人物が少ないことも相俟って、最初から真犯人が察しやすくなっている。 ウィリング博士の真相解明場面。 これも殆どが動機探しなんだけど、どうもオカルトや神秘性が果たして必要だったのかという思いを抱いてしまう。 要は復讐譚なわけで、個人的にはホームズものの「恐怖の谷」なんかを想起してしまった次第。 それだけ単純なプロットということだろう。 作者の作品は刊行されるごとに読了してきた。どの作品も一定水準以上の良質な作品ばかりと賞賛してきたけど本作は・・・うーん。 解説の佳多山氏も本作が最後の未訳作品となったのも頷けると評されているが、まぁそのとおりかな。 良作の間に挟まれたのが不運ということかもしれない。 |
No.1497 | 5点 | イヤミス短篇集- 真梨幸子 | 2019/02/23 11:45 |
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2007年~2013年にかけて「メフィスト」誌などで発表された作品をまとめた短篇集。
その名も「イヤミス短篇集」(!) さぞかし“イヤーな”感じなんだろうな・・・ ①「一九九九年の同窓会」=同窓会の主役に祭り上げられる男。そして幹事役としての役割を率先してこなす男。実は裏側では・・・という実際にありそうな話。別に“イヤ”じゃない。 ②「いつまでも、仲良く」=昔からの仲良し五人組。グループのなかで最下層(容姿で)にいたはずの女性がダイエットに成功して想像以上の美女に! グループ内のヒエラルキーは崩壊。でも結局は・・・というお話。いかにも女性グループっぽい。別に“イヤ”じゃない。 ③「シークレットロマンス」=上司と部下が男女の関係に・・・それこそありふれたお話なのだが、本編はひと味違う。そこにさらに一人の男と一人の女が絡んでくるのだが、やがて思わぬ方向に・・・。これは“イヤ”だ。(最初は「オッサンズ ラブ」的な話かと思ってた・・・) ④「初恋」=中学生時代の甘~いお話、な訳ない。恋していた同級生の美少女は・・・という展開。でもそれほど“イヤ”じゃない。 ⑤「小田原市ランタン町の惨劇」=本当にあるのでしょうか? ランタン町って? まっそれはどうでもいいのだが、これは“イヤ”だ!と思ったら、最後に軽く救われる。じゃあ“イヤ”じゃない。 ⑥「ネイルアート」=ある企業が運営するサイトでのやり取りをテーマとした一編。まとまりなくダラダラ書かれたのが惜しい。オチも見えやすいのが×。それほど“イヤ”でもなかった。 以上6編。 なにしろ「イヤミス短篇集」と銘打っているくらいだから、よっぽど“イヤーな”感じなんだろうと構えていたんだけど、③が割とイヤだった他はそれほどでもなかった。 まぁー若干背筋がヒンヤリという感はなくもなかったけど、こういう手のジャンルが好きな方にとっては喰い足りない水準ではないか。 女性作家だけあって、どっちかというと女性視点で女性のイヤーなところをあからさまに書いた方が良いのでは? あまりホラー寄りになるのも嫌なので、立ち位置が難しいな。 これが作者の初読みなんだけど、続けて手に取りたいというほどでもなかった。 (ベストはうーん③かな・・・) |
No.1496 | 6点 | 一ドル銀貨の遺言- ローレンス・ブロック | 2019/02/08 21:53 |
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マット・スカダー・シリーズの三作目に当たる本作。
原題は“Time to murder and create” 1977年の発表。 ~タレコミ屋のスピナーが殺された。その二か月ほど前、彼はスカダーに一通の封書を託していた・・・自分が死んだら開封してほしいと言って。そこに記されていたのは彼が三人の人間をゆすっていたこと。そして、その中の誰かに命を狙われていたことだった。スカダーは殺人犯を突き止めるため、自らも恐喝者を装って三人に近づくが・・・。NYを舞台に感傷的な筆で描く人気ハードボイルド~ 発表順に関係なく、ランダムに読み進めている本シリーズ。 どちらかというと「倒錯三部作」以降の後期作品を多く読んでいるので、“アルコール抜きの”スカダーに慣れているせいか、本作のようなシリーズ初期作でひたすらアルコールに溺れるスカダーに接すると違和感を覚えてしまう。 (表紙からしてジャックダニエルの瓶だしな・・・) 今回の事件は紹介文のとおり、ひょんなことから巻き込まれた殺人事件の真犯人探し。 解明する義理など何もないはずの事件。なのに、スカダーはNYの街を歩き回ることになる。 そして、恐喝者を装い「おとり」役となったスカダーに殺人者が迫る。 そんな中、不可抗力で起こってしまった自殺事件。この事件はスカダーの心に深いダメージを与えてしまう。 行き着く先はやはり酒場・・・ フーダニットに関しては終盤一応捻りはあるものの、それほど凝った作りではない。 プロットそのものも後期代表作などに比べると平板で起伏に富んでいるとは言い難い。 でもこれはこれで良いのだ。 当初から、シリーズがこんなに長く続くと意識していたのかは定かでないが、最初から波乱万丈、驚天動地なんていう展開だったら、きっと短命シリーズで終わっていただろう。 世界一の大都会NYと同様、作者そしてスカダーの懐はそれだけ深いということか。 総じて評価するなら、本作はジャックダニエルをロックグラスでちびちび飲んでるような作品・・・だと思う。 (意味不明) |
No.1495 | 2点 | 探偵部への挑戦状 放課後はミステリーとともに2- 東川篤哉 | 2019/02/08 21:51 |
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「放課後はミステリーとともに」に続いて、私立恋ヶ窪学園探偵部シリーズの連作短篇集。
本作は多摩川部長を中心とした(?)三馬鹿トリオではなく、副部長霧ヶ峰涼が主役となる・・・(まぁどうでも良いが) 2013年の発表。 ①「霧ヶ峰涼と渡り廊下の怪人」=“怪人”でも何でもない。単なる騎○戦・・・。あ~あ脱力! ②「霧ヶ峰涼と瓢箪池の怪事件」=凶器の消失がメインテーマなのだが・・・。これ成功するか? だった○アメだし・・・っていうのは野暮なのか? ③「霧ヶ峰涼への挑戦」=「霧ヶ峰」VS「うるるとさらら」・・・これがエアコン対決! ④「霧ヶ峰涼と十二月のUFO」=UFOをこよなく愛する美人教師(?)池上先生が探偵役となる一編。これは・・・実に映像的というか、頭の中でこの光景がスローモーションで流れた。 ⑤「霧ヶ峰涼と映画部の密室」=これが最もミステリーっぽいトリック(実にしょうもないけど・・・)。普通気付くよ! ⑥「霧ヶ峰涼への二度目の挑戦」=③に続いて「霧ヶ峰」VS「うるるとさらら」第二弾。真相はもはやどうでもよく、ドタバタ感を楽しむのみ。 ⑦「霧ヶ峰涼とお礼参りの謎」=こんなおフザケミステリーだけど、ネタ切れだったんだなぁーと思わせる一編。アレが凶器なんてあまりにもヒドイ! 以上7編。 ミステリーとしては「壊滅的」といえる水準。 これを時間をかけて読む人ってどんな奴?って思ってしまう!? 出版社もよく許したな、こんな出来で・・・ そんな作品を読む私も「どうかしてた」。 反省してます・・・ 作者ももうちょっとまともな作品を書いてください。 上から目線かもしれませんが・・・ |
No.1494 | 6点 | 去就- 今野敏 | 2019/02/08 21:50 |
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「隠蔽捜査シリーズ」も重ねて六作目となる本作。
お馴染みとなった“合理性の男”竜崎署長をめぐるストーリー。 2016年の発表。 ~大森署管内で女性が姿を消した。その後、交際相手とみられる男が殺害される。容疑者はストーカーで猟銃所持の可能性が高く、対象の女性を連れて逃走しているという。指揮を取る署長・竜崎伸也は的確な指示を出し、謎を解明していく。だが、ノンキャリアの弓削方面部長が何かと横槍を入れてくる。やがて竜崎のある命令が警視庁内で問われる事態に。捜査と組織を描き切る警察小説の最高峰~ 今回も竜崎は竜崎だった。(当たり前だ!) いや、ますます竜崎らしくなっている。(どういう意味だ?) とにかく組織の旧弊やら妙なしがらみ、個人の出世欲や支配欲・・・etc そんな障壁をものともしない。国家・国民に資する公務員として、大森署を預かる署長として、原理原則そして合理性に則った行動を貫こうとする。 そんな竜崎の姿に本作でもほだされた男がひとり。警視庁・梶警備部長だ。 事件は紹介文のとおり、ストーカー被害が背景となっている。 若い女性が好きでもない男に付き纏われ、その結果事件に至る・・・という当然の図式が竜崎たちの明晰な頭脳&捜査でひっくり返されたと思った束の間・・・読者は本作のタイトルが「去就」であることを思い知ることになる。 弓削方面部長の横槍のため大ピンチに陥った竜崎だったが、竜崎を救ったのは親友である伊丹刑事部長をはじめ、一緒に事件を解決した部下たちだった・・・ そして梶部長が竜崎にかけた最後の言葉『今、おそらく日本中の警察が君のような人材を求めている』・・・(泣ける!) 私も一応組織の中で管理職(のようなもの)を務めているが、組織の旧弊に負けない、部下を信じきって任せる、そして自分が全責任を負う・・・これがどんなに難しいことか・・・ 読んでて自分が恥ずかしくなってきたと同時に、竜崎にどうしようもない羨望の眼差しを向けてしまう。 架空の人物にこんな感情を抱くなんて、のめり込みすぎだろうか? でもすごい奴。 |
No.1493 | 5点 | ハートの4- エラリイ・クイーン | 2019/01/24 22:56 |
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「悪魔の報酬」に続くハリウッドシリーズの第二弾。
遠くハリウッドに進出(?)したエラリーは果たしてNYと同様に活躍できるのか? 1938年発表。 ~作家兼探偵のエラリー・クイーンは映画脚本執筆のためにハリウッドに招かれたが、そこでも彼が直面したのはやはり殺人事件だった。銀幕の名優、スクリーンの美女、変わり者の脚本家や天才的プロデューサーなど、多彩な映画王国の登場人物をめぐる冷酷きわまる殺人、また殺人。前作「悪魔の報酬」につづき、クイーン中期を代表するハリウッドもの第二作~ 何だか、無理矢理ハリウッドに合わせたかのような作品。 前作はまだクイーンらしさも十分残っていたように思うけど、本作はかなりくだけた印象。 まぁ、紹介文のとおり、登場人物が俳優や映画関係者など、いわゆる“業界人”だから、それもやむなしというところか。 硬質なミステリーという雰囲気は殆ど消え失せ、映像化を意識した軽い読み物っぽい。 で、本筋はというと・・・ 本作のメインは一見「動機さがし」。ハリウッドを代表する俳優と女優の毒殺事件。でも、ふたりには少なくとも同時に殺される理由が見当たらない。そこへ現れるトランプのカードによる殺害の予告・・・ こう書くと魅力的な道具立てにも見えるのだが、これが単なるこけおどしなのだ。 動機はエラリーがさんざんもったいぶって披露するようなレベルではない。むしろ最初から明々白々・・・ それよりも、本筋の裏側で進行していた別の悪意の方がサプライズ。 こちらの方は伏線もなかなかうまい具合に回収されてクイーンっぽい感じだ。 (古典作品によくある○れ○わりなんだけど、やむにやまれずというか、必然性がある分納得感がある) でも評価としては高くはならないよなぁー。 「駄作」と評されるのも仕方なしという感じだ。やっぱり、クイーンにはNYの街が似合うということなのかも。 (本作発表年は日本でいうと昭和10年代前半。戦前のきな臭い時期だったわけで、ハリウッドの華やかさとの差に愕然とさせられる・・・) |
No.1492 | 6点 | 捩れ屋敷の利鈍- 森博嗣 | 2019/01/24 22:55 |
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Vシリーズも回が進んで八作目となる本作。
本作最大の売りは何といってもS&Mシリーズの主役・西之園萌絵の登場。 森ミステリーファンにとってはまさに堪えられないシチュエーション(!)、ということで2002年の発表。 ~「エンジェル・マヌーヴァ」と呼ばれる宝剣が眠る“メビウスの帯”構造の巨大なオブジェ様の捩れ屋敷。密室状態の建物内部で死体が発見され、宝剣も消えた。そして発見される第二の死体。屋敷に招待されていた保呂草潤平と西之園萌絵が、事件の真相に至る。S&MシリーズとVシリーズがリンクする密室ミステリ~ 作者のミステリーというと、やっぱり「密室」というキーワードは切っても切れない。 ただし、密室に対して正面から挑んでいた感のあるS&Mシリーズとは異なり、Vシリーズ突入後は「密室」に対するアプローチも徐々に変革的というか、トリックは二の次というプロットが目立つようになってきた。 本作も、「捩れ屋敷」という妙ちきりんな建物とコンクリートで隙間が塞がれた最大級に堅牢な建物が保呂草と萌絵の前に立ち塞がる。 これはもう・・・普通なら歓喜すべきシチュエーションのはず。 どんな密室トリックなんだ?・・・って。 ただ、示された解法は正直言って、決して満足のいくものではない。 「拍子抜け」と表現される方も多いだろう。 エンジェル・マヌーヴァの消失トリックについても同様に「そんなこと?」というようなものだ。 ただ、本作の「狙い」はどうもそんなところにないようだ。 「密室」は単なる疑似餌。真の狙いはシリーズ全体を貫くもっと大掛かりなもの・・・ 保呂草と萌絵のハイセンス(?)な会話からもそんな空気がヒシヒシと伝わってきた。 他の方々も触れているとおり、次作以降、作者の狙いも明らかになってくるようで、まぁ旨いよね・・・ 私はたっぷり前菜をを食わされたということなんだろうか・・・ じゃぁー次の料理、そして是が非でもメインディッシュを食べねば、という気分になるじゃないか。 瀬在丸紅子の言葉も気になるよねぇ・・・ |
No.1491 | 4点 | 今宵、バーで謎解きを- 鯨統一郎 | 2019/01/24 22:53 |
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「九つの殺人メルヘン」「浦島太郎の真相」に続き、桜川東子を安楽椅子探偵役とするシリーズの第三弾。
BAR「森へ抜ける道」を舞台にしたいわゆるバーもの(?) 単行本は2010年発表。 ①「ゼウスの末裔たち」=高齢の男に嫁いだ若き女性といえば狙いはひとつ・・・。だからゼウス? ②「アリアドネの糸」=この妻の行動は相当安易に思えるが・・・(普通バレるだろう) ③「トロイアの贈り物」=「トロイア」といえば有名な木馬の逸話なのだが・・・本編も当然それを踏まえてはいる。 ④「ヘラクレスの棺」=これも登場人物たちのなかから無理矢理犯人を捜したような感じが・・・。これをヘラクレスになぞらえるのも無理がある。 ⑤「メデューサの呪い」=メデューサといえば睨まれると石になる・・・。睨まれると“医師”になれるんだったらいいけど・・・(全然関係なし) ⑥「スピンクスの問い」=スピンクス=スフィンクスのこと。問いが誕生日とは・・・それくらい覚えとけ! ⑦「パンドラの真実」=所詮世の中金と色・・・ということ。 以上7編。 読了してから気付いた。本作の評価がかなり低いことを・・・ なるほど。確かに。 軽いというひとことでは済まないような軽さ、とでもいうべきか。 まぁこれが作者らしいと言えなくもないが。 1編=10分くらいで考えましたということかな・・・ 巻末解説では本作をバーミステリーとして、鮎川哲也「三番館シリーズ」・北森鴻「香菜里屋シリーズ」と並べているけど、とてもではないが同列にはできない。 まぁ重い雰囲気のときに気分転換で読むというならいいかもしれない。 |
No.1490 | 7点 | その可能性はすでに考えた- 井上真偽 | 2019/01/06 20:08 |
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2019年、新年明けましておめでとうございます。
毎年、新年一発目に何を読もうかと書店を徘徊するわけですが、今年は本作をセレクト。っていうか、実はちょっと前からコレにしようと決めてたわけですが・・・ 2015年に発表された新進気鋭のミステリー作家の出世作(?)と言っていいのか? ~山村で起きたカルト宗教団体の斬首による集団自殺事件。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首なし聖人伝説のごとき事件の真相とは? 探偵・上苙丞は、その謎が奇蹟であることを証明しようとする。論理(ロジック)の面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵にミステリー界激賞の話題作~ 確かに「斬新」なプロット。 さすが、日本の最高学府を卒業されてるだけあって、行間や作品の奥底から隠せない知性や高いIQが垣間見える。 毎年、数多のミステリー作品が上梓されるなか、目新しいプロットを捻り出すだけでも、まずは賞賛に値すると思う。 これは・・・いわゆる「多重解決」ものに分類されるんだろうか? 別に分類することに拘っているわけではないのだけど、読み進めながら、どうしてもそういう気にはさせられた。 「多重解決」というと、所詮ミステリーなんて「作者の匙加減次第」というややアンチ・ミステリー寄りのプロットかと思わせるんだけど、本作はそういうことでもないようだ。 『相手による仮説の提示』⇒『探偵(上苙)による仮説の否定』を繰り返しながらも、徐々に一定の到達点に向かう盛り上げ方。 ラスボス(?)的なキャラとの対決終了でエンディングかと思いきや、なかなかに洗練されたオチが決まるラスト。 こんなところは、まだ数作しか発表していない新人作家らしからぬ腕前だと感じた。 でも、これはコアなミステリーファン以外には敷居が高いのでは? 提示されるトリックも相当デフォルメされてるというか、リアリティはほぼゼロだし、何より複雑すぎて腹に落ちるまで結構時間がかかったのが事実。 「首斬り」についても、雰囲気作り以外、トリックとの融合性は薄いように感じた。 ということで、手放しに褒められるというわけでもないけど、次作以降も期待できるということは間違いない。 (三作一度にアップしようとすると時間がかかりそうなんで、まずは新年一発目のみのアップということで・・・) |
No.1489 | 6点 | 処刑までの十章- 連城三紀彦 | 2018/12/31 13:09 |
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作者没後に何作か発表された長編作品のうちのひとつがコレ。
「小説宝石」誌に連載された後、2014年単行本として発表。 遺作でも“連城マジック”は披露されているのか? ~平凡なサラリーマンであった西村靖彦が突然消息を絶った。弟の直行は、真相を探るうちに兄が殺されたという疑念を持つ。義姉の純子を疑いながらも翻弄されるなか、高知で起こった放火殺人事件の知らせが入る。高知と東京を結ぶ事件の迷路を彷徨いながらたどり着いた衝撃の真相とは? これぞまさに連城マジックの極み!~ なかなか“言い得て妙”の紹介文である。 私個人も、文庫版で600頁弱、まさに「迷路を彷徨いながら」の読書だった。 本当にこれは真相にたどり着くのか? ぐにゃぐにゃとした迷路或いは暗路を歩いているような感覚・・・なのだ。 登場人物はそれ程多くない。物語の主軸はあくまでも靖彦の妻と弟。このふたりの愛憎劇が中心。 ただ、物語が進むにつれ単なる端役でしかないと思っていた登場人物たちがまさかのクローズアップ、「ここで出てくる!?」の連続! これも“連城マジック”なのかと唸らされた矢先に、それまでも否定されてしまう・・・ もう何が何だか・・・である。 ただ、「暗色コメディ」など過去の佳作で見せていたようなアクロバティックな反転劇ではない。 表現するなら万華鏡だろうか。 読者に見せる角度をつぎつぎと変えていく技法。物語もひとりひとりの人物も、最初に見せていた角度はあくまでも読者に対する欺瞞。 角度を変えて見せれば、予想外の姿が見えてくる・・・ そういう意味では、年月を経て熟練、円熟味を増した作者のテクニックを味わえる。 ただ、他の方も書いているとおり、死を目前にした書き急ぎが見えるのも事実。 特に終章はこじんまりとまとまりすぎ。 もちろん仕方ないのだけど、これだけの大作なのだから、それに相応しいシメやオチが欲しかったなあとは思う。 でもまあ、久々にあのネットリした連城節を堪能できたからよしとしようか。 評価としてはこんなもんだけどね。 (何とか年内に間に合った・・・。本作を読了するのに相当時間がかかったせいだな・・・) |
No.1488 | 6点 | 嘘ばっかり- ジェフリー・アーチャー | 2018/12/31 13:06 |
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大長編「クリフトン年代記」完結の熱気も冷めやらぬうちに、早くも次作が発表!
今度はお得意の短篇集! 新潮文庫の帯には『人生いたるところに地雷あり』という刺激的な惹句! でも、今回はいつもの数字に因んだタイトルじゃないのね・・・ ①「最後の懺悔」=舞台は欧州が第一次世界大戦に向かう頃の英国。尊敬するドイツ人教師と英国人の生徒。ふたりがその後に出会う運命とは・・・。何たる偶然! ②「オーヴェル・シュル・オワーズの風景」=夢を持ち警官になった若者が初めて迎えた大事件。マフィアの自宅に麻薬を押収に行ったはよかったが、麻薬はどこにも見つからず・・・。嫌な雰囲気のなか若者が殊勲を上げる。 ③「立派な教育を受けた育ちのいい人」=なんちゅうタイトルだ! 主役は閉鎖的な男女社会のなか、初めてその学校に採用された女性教師。四面楚歌の授業のなか、孤軍奮闘するが・・・ ④「恋と戦は手段を選ばず」=なんちゅうタイトルだ! 金持ちで鼻持ちならない地主の男が清貧の美女を無理矢理恋人から強奪! ラストに当然その報いがやってきます。 ⑤「駐車場管理人」=実に作者らしい一編。要は成功譚なのだが、賢い妻を持つと、男は幸せということか?(ただし、賢すぎても困るが・・・) ⑥「無駄になった一時間」=オチがちょっとよく分からなかったのだが・・・ ⑦「回心の道」=第二次世界大戦下。ユダヤ人に対する非道な仕打ちの数々。「回心」とはそういうこと。 ⑧「寝盗られた男」=これは・・・寝盗られた相手が嫌だな。女は怖い。 ⑨「生涯の休日」=結末が3種類用意されているという趣向に富んだ一編。個人的には最後のやつがベスト。(当然こういう奴は因果応報だろ) ⑩「負けたら倍、勝てば帳消し」=当然ながらギャンブル(ルーレット)の話。こんなお人好しのカジノってあるんだろうか? ⑪「上級副支店長」=分かるよ。面白くないよねえ・・・。出世の道が閉ざされてしまうと、こういう思い&行動に走る人っていそうだな。 ⑫「コイン・トス」=これも戦争のお話。ラストはややしんみり・・・ ⑬「だれが町長を殺したか」=これがマイベストかな。イタリアにある架空の村が舞台。村人のほぼ全員が町長を殺したと名乗り出るという異常な事態! ちょっと寓話的な雰囲気。 以上13編にショート・ショートのような2編もあり。 とにかく芸達者な作者。今回もバラエティに富んだ小気味の良い短編が味わえる。 ただ、今までに比べると「毒」の度合いが少ないのがやや不満。ひねり具合も今ひとつという作品が多い。 その当たりはネタ切れなのか、やっつけ仕事なのか、どっちかかな? |
No.1487 | 5点 | 当確師- 真山仁 | 2018/12/31 13:04 |
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「当確師」とは実在するのか?
巻末解説の池上彰氏は「実在する」と断言されています。 というわけで、選挙があるたびに毎回疑問に思っていたことを少しでも解決すべく、本作を手に取ったわけだが・・・ 2015年の発表。 ~莫大な報酬と引き換えに当選確率99パーセントを約束する敏腕選挙コンサルタント・聖達磨。「当確師」とも呼ばれる彼への今回の依頼は、大災害に備えた首都機能補完都市に指定された高天(たかあま)市の市長選で、圧倒的支持率を誇る現職を倒すこと。裏切り、買収、盗聴、恫喝なんでもあり。著者が政治の世界を描ききった選挙版「ハゲタカ」~ “選挙版「ハゲタカ」”というのは少々大げさかな。 綿密な取材と緻密なディテールがウリだった「ハゲタカ」シリーズと比べると、枚数制限でもあったのか、本作の内容は薄っぺらい。 多少の障壁や紆余曲折はあるものの、最終的には「弱き者が強き者に打ち勝つ」という手垢のつきまくったラストが待ち受ける。 正直、この「障壁」が低すぎる(or薄すぎる)のだ。 ひとつの街を日本全体のプロトタイプとして、実験的に人心掌握して、ひとつの方向へ人為的に動かしていく・・・ こういう小説って今までも読んだ気がするけど、それって最終的な狙いとか裏側の構図というのがあるからこそ生きるプロットであって、本作ではそこら辺りが何もなかったというのが「薄っぺらさ」の原因なのかもしれない。 せっかく市を牛耳る“影の存在”(=小早川家)を出しているんだから、もう少し盛り上げ方を考えてもらいたかったな。 まぁ、一般ピープルの選挙行動というのは、かくも浮き草的というか、マスコミになびきすぎるのか? 「誰がなっても一緒」というのは確かにそうかもしれないけど、選挙権は権利であるとともに義務だからね・・・ などと、昨今の政治への無関心を嘆いたりする・・・ で、本作の評価は・・・うーん。この程度かな。 |
No.1486 | 6点 | 陽気なギャングは三つ数えろ - 伊坂幸太郎 | 2018/12/10 22:08 |
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前作からはや九年、奴らが帰ってきた!!
「・・・地球を回す」「・・・日常と襲撃」に続く『陽気なギャング』シリーズの第三弾。 2015年の発表。文庫化に当たって読了。 ~陽気なギャング一味の天才スリ師久遠は、ひょんなことからハイエナ記者火尻を暴漢から救うが、その正体に気付かれてしまう。直後からギャングたちの身辺で当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器・成瀬ら面々は追い詰められた! 必死に火尻の急所を探る四人組だが、やがて絶体絶命のカウントダウンが!~ 理屈抜きに面白い! 雑念抜きで楽しめる! やはり本シリーズは極上のエンターテイメントと言っていい。 成瀬(人間嘘発見器)、久遠(天才スリ師)、雪子(人間体内時計)、そして響野・・・(演説と邪魔の天才?)の四人が巻き込まれる事件の数々と訳の分からないうちに解決してしまうストーリーには、九年振りとは思えない、妙な安心感を覚えてしまった。 今回のプロットは「カチカチ山」か「サルカニ合戦」がモチーフなのだろうか? いわゆる「復讐劇」が下敷きになっている。 こんなこと書くと、シリアスで悲劇的な話?などと想像してしまうけど、本シリーズでそんなことは有り得ない。 最後は、サルが臼にのしかかられて観念したように、タヌキが泥の船で溺れさせられたように・・・因果応報的なラストが待ち受けている。 (強いて言えば、今回は「亀」だな。) 作者の作品の書評では何回も書いてるけど、やはり只者ではないよ、伊坂幸太郎は。 結構なハイペースで作品を上梓し続けているはずなのに、駄作は数える程しかないというのは才能ということなんだろう。 こういう作品なら誰でも(作家ならば)書けそうなんだけど、誰も書けないということが作者の力量を証明している。 作者が生み出した数々のキャラクターを、コンダクターのように作品世界の中で生き生きと活躍させる想像力と筆力。 やはり、今回も伊坂には脱帽(?)という感じだな。 |