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[ 本格 ]
怪盗ニック全仕事(1)
怪盗ニック
エドワード・D・ホック 出版月: 2014年11月 平均: 6.00点 書評数: 5件

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東京創元社
2014年11月

No.5 5点 バード 2022/09/13 08:36
ニックの小粋さが心地よいキャラもの。依頼人たちの裏事情が絡み合うことで単なる盗難事件では終わらず、全体的に先の読めない面白さがある。
重厚なストーリーが好みな人には物足りないと思われるが、ウィットが効いた小ネタ・小噺が好きな方にはお勧め。
個人的に気に入った話(6点以上)は下記。

・プールの水を盗め:依頼人の作戦は相手が冷静になれば看破されそうだがはったりが効いてて面白かった。
・真鍮の文字を盗め:詐欺をやるにもやり方が個性的すぎる。
・邪悪な劇場切符を盗め:割と予想通りの顛末だが、そういう話もあって良かったかな。
・弱小野球チームを盗め:これだけ派手にやって捕まらないのは流石です(笑)。
・囚人のカレンダーを盗め:こんなもの盗むとは看守も流石に思いつかんわな。

No.4 6点 ボナンザ 2020/08/23 22:12
ハウダニットに見せかけて大半ホワイダニットな短編集。
この期に創元の全集で読み直し。

No.3 6点 E-BANKER 2018/06/10 10:18
「サム・ホーソン」「サイモン・アーク」両シリーズ読破後、次に挑むのは「怪盗ニック」シリーズということで・・・
全八十七編からなる膨大なシリーズを十四~十五編ずつに分け、全六巻に渡っての刊行とのこと(スゲぇ・・・)
まずは第一巻に取り掛かろうか・・・

①「斑の虎を盗め」=まさに本シリーズの初っ端に相応しい一編。要は本シリーズのプロトタイプたる作品なのだろう。最初の依頼は動物園の虎を盗めという無理難題なのだが、盗んだあとでもう一捻りあるのがホックらしい。
②「プールの水を盗め」=今度は何とプールの水だ! これはhow done itを楽しむタイプの一編。確かに水だったらこうやって「盗む」よねぇー
③「おもちゃのネズミを盗め」=おもちゃのネズミを盗みにパリまでやって来たニック。これも単なる盗み以外に仕掛けが!っていうタイプ。
④「真鍮の文字を盗め」=とあるビルに掛かっている真鍮製の企業のロゴを盗めという依頼。本編ではニックの“天敵”としてウェストン警部補も登場。
⑤「邪悪な劇場切符を盗め」=上映が終わったはずの芝居の切符を盗めというかなり風変わりな依頼。半信半疑で依頼を受けたニックを待ち受けていたのは・・・っていうプロット。単純だけど、結構面白い。
⑦「弱小野球チームを盗め」=西村京太郎は長編「消えた巨人軍」で、新幹線の車中から巨人の全選手を誘拐してみせたが、今回作者はメジャーリーグの弱小チームを飛行機の中から盗む(=誘拐?)することに成功! でも終盤の捻りの方が本題。
⑧「シルヴァー湖の怪獣を盗め」=アレをアレに見せるのは相当無理があるんじゃない? お前の目は節穴か!って言いたくなる。バカミス的な面白さはあり。
⑩「囚人のカレンダーを盗め」=今回の依頼はかなりの難題。何せ牢獄の中からその壁にかかっているカレンダーを盗めというのだから・・・。それでも割合簡単に盗んでしまうニックって・・・
⑫「恐竜の尻尾を盗め」=なぜ恐竜の尻尾なんか?って、そう、まさにwhy done itがうまく嵌った一編。さすがに短編の名手だ。
⑬「陪審団を盗め」=ニックが怪盗ではなく、「名探偵」ばりの活躍をする一編。これは本格ミステリーだね。
⑮「七羽の大鴉を盗め」=「盗め」という依頼と「盗みを防げ」という依頼を同時に受けてしまったニック! さぁーどうする?っていうプロット。あんまりよろしくない。

以上全15編。
さすがに短編の名手という冠に相応しい。確かに似たようなプロット&趣向の作品は目につくけど、読者を飽きさせないように、どこかしらに工夫が凝らされているのが職人芸だ。
ということで、第二巻も楽しみ楽しみ・・・

No.2 7点 名探偵ジャパン 2015/04/10 10:59
子供の頃「名探偵大集合」みたいな企画の新書でその名前だけは知っていた怪盗ニック。「価値のないものだけを盗む」という設定に興味を持ち、「いつか読んでみたいなぁ」と思いながらも、いつしかその存在を忘れ時は経ち、ある日書店で本書に出会った。
プールの水、看板の文字、野球チーム、ニックが盗むものは多岐に渡り、「どうやって盗むんだろう」というニックの手段への興味と、「こんなものをどうしてほしがるんだろう」という依頼人の秘密への興味が毎回冒頭で提示され、読者の目を引きつける。
基本盗む盗まないのドタバタがメインだが、時折本格っぽい殺人事件に発展することなどあり、読者を飽きさせない工夫がされている。
一編が短くちょっとした待ち時間で読めてしまうし、全体を通した謎みたいなものもないので、一気に読んでしまうのでなく、鞄に忍ばせて週に一話くらいのペースでゆっくりと読んだ。
収録作はどれも一定以上の水準のクオリティで、2巻移行もこれが持続されるかという不安はあるが、続刊も楽しみに待ちたい。

No.1 6点 mini 2014/12/30 09:57
先日に創元文庫からエドワード・D・ホック『怪盗ニック全仕事 1』が出た時には驚いた人も居たんじゃないかな
何故ならこれまでホーソーン医師とサイモン・アークは創元、怪盗ニックは早川と住み分けてきた感が有ったからだ、怪盗ニックと言えば早川のイメージが定着していたからね
しかしだ、考えてみれば早川は単発企画は別にして、同一キャラで纏めたものはニックシリーズ以外無かったのだから、実は早川が特にホックという作家にこだわりが有ったわけでもないんだよな
創元としても従来は早川に遠慮していた面もあったかもしれないが、今後は怪盗ニック全作品を発表順に並べる完全版を全6巻に纏めていく意向だそうだ、今後はホックと言えば全て創元の時代になると思われる
”完全版”と銘打つには理由が有る、実は早川版がそもそも小鷹信光氏による日本オリジナル編集なので抜けている作品が有ったのだ、多分だが海外でも完全版の全集は無いはずだ
今回の創元版では雑誌掲載日を徹底調査した模様で、私はよく創元編集部のやり過ぎを批判してきたが、こういうのをやると流石に創元編集部の能力の高さが活きるな

私は当然ながら早川版の『怪盗ニック登場』は既読だが、上で述べたように両社で編集方針が違うので共通の収録作も多いが収録短編に少し違いが有る、従って全く別の短編集と見なせるので別途に登録して、今回は新しく刊行された創元版を入手して訳文を比較チェックしながら読んでみた
実はねえ、翻訳者は木村二郎氏で共通しているのだ、ただし部分的に改訳したり新訳だったりしてはいるが
一応は翻訳者が同一だから雰囲気は全く共通しているが、仔細に比較すると語尾など微妙に変更している部分もかなり有る
個人的に受けた印象なのだが、旧訳の早川版の方が総じてシャープで文章にキレがあり、今回の創元版は説明調で良く言えば丁寧、悪く言えばやや回りくどい表現だと感じた

さて内容だが、依頼を受けて価値の無いものを盗む怪盗ニックだが、当然ながら依頼者には理由が有る訳だ
他の作家ならこんな限られた前提条件で話を創ったらヴァリエーションは限られると思うのだが、流石はホック、よくこんな縛り条件の下で沢山書けるものだと感心する
しかし大雑把に見て、依頼者の狙いという観点から3つのパターンに分類出来るのではないかと思える
第1のパターンは、依頼された盗品はたしかにそれ自体は金銭的価値は無いのだが、やはりその品物自体にある種の価値が存在するパターン
ネタバレになるから具体的作品名は伏せるが、その物品に宝のありかの地図やヒントが隠されていたりとか、盗品を分析調査したかったりとか
第2のパターンは、依頼者にとって盗品そのものが欲しかったわけじゃないパターン
例えば盗難事件が起きる事によって、依頼者に都合の良いある事情が発生するとか、ある目的の為に邪魔な品物を除けて欲しかった等々
第3のパターンは、盗難そのものが目くらましで、ニックに仕事をさせる事によって周囲の目を向かして、メインの目的は実は別のところに有ったというパターン
これは第2のパターンに似ているが、第2パターンが盗品自体に価値は無くても依頼品が代用品ではない必ず”その品物”でなくてはならないのに対して、第3パターンは盗品自体に全く意味が無いことになる
この第3パターンは結構使われているのだが、たしかに依頼した動機の意外性という利点は有るが、結局のところ盗品は実は何でもよかったという弱点が有る
たまにヴァリエーションとして使用する分には良いのだが、あまり何度も使うと”またこれかよ(笑)”と読者に思われる気もする
思ったのだが、表面上はただの石に見えて実は宝石だったとかの直球勝負というパターンも、シリーズの読者には逆に意外だと思うんだけどね
流石にそれだとシリーズ読者を裏切る事になるから滅多にやらないが、ホックの才能なら上手い変化球として投げられる気もするけどね、もちろん本当にたまにしかやっちゃ駄目だが(笑)


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