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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
開かせていただき光栄です
エドワード・ターナー三部作
皆川博子 出版月: 2011年07月 平均: 7.00点 書評数: 12件

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早川書房
2011年07月

早川書房
2013年09月

No.12 8点 ALFA 2022/03/06 17:41
時は18世紀後半。場所がフランスなら「べルサイユのばら」の時代だが、こちらはロンドン。ほとんどの人はイメージがわかないだろうが心配はいらない。綿密な考証といきいきとした描写で、読者を当時の猥雑なロンドンに連れて行ってくれる。
舞台は外科医の解剖教室。おどろおどろしい設定だが、怪異や幻想は出てこない。乾いたユーモアに彩られた本格ミステリーである。ただしょっぱなから死体や解剖シーンがゴロゴロ出てくるから苦手な人はご注意を。
登場人物は多いがそれぞれにキャラがたっている。辛口の青春小説としての趣もあり、特に主要人物二名のドライでダークな心象は心に残る。
作者が好きというクリスティアナ・ブランドばりに、二転三転する真相開示もダイナミック。
クラレンスのエピローグは余計だと思うが続編への布石かな。

それにしても作者、これの発表当時は80歳過ぎ。そのあと続編「アルモニカ・ディアボリカ」、さらに昨年90歳を過ぎて続々編「インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー」を発表されている。この現実のほうが大いなるミステリー。

No.11 7点 パメル 2021/11/20 08:31
まだ解剖が一般的ではなく、医学的に間違っている治療法が、当たり前のように行われていた十八世紀のロンドンを舞台にしている。そんな時代に、周囲の悪評をものともせず、ダニエル・バートンは墓あばきから死体を買い、正しい医学的知見を見出してきた。
冒頭で現れる三つの死体。一体はダニエルがいつものように墓あばきから買い取ったものだが、残りの二体は不明。死体消失ならば、珍しくない趣向だが死体増殖とは。この死体は何者なのか。ダニエルと弟子たちしか知らない場所に二体の死体を隠したのは誰なのか。
初めは繋がりはないと思えた三体が、少しずつさまざまなことが明らかになっていく。本書では、さまざまな人間が少しずつ嘘をつく。嘘をつく人間は、それぞれ大切なものがあり守りたいものがある。些細な嘘、各人の思惑がさらに状況を謎めいたものにしていく。ここが読みどころでしょう。
事件を引き起こした動機や最終的な着地点なども、当時のロンドンだからこそという部分が含まれている。繊細な推理を二転三転させ、驚きの真相へと導く本格ミステリとしても質の高さを感じるし、ロンドンの猥雑な活気を伝える歴史小説としても優れている。

No.10 7点 メルカトル 2021/10/13 23:11
18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室からあるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男。戸惑うダニエルと弟子たちに治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には詩人志望の少年の辿った恐るべき運命が…解剖学が最先端であり偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちが可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む、本格ミステリ大賞受賞作。前日譚を描いた短篇を併録。
『BOOK』データベースより。

本来もっと早く読むはずだった一冊。諸事情により本日漸く読み終えました。まあ読んで良かったなと思える作品ではありました。文体はあまり好きじゃないですけれど。
しかし兎に角導入部から怒涛の展開に思わず唸らせられました。ところがその後、嬉しくない方向に進んで行き、更に早々に種明かしをしてしまって、大丈夫かと心配しました。無論それは読了時点で杞憂に終わった訳で、流石にこちらの想像の上を行く絡繰りが用意されていました。

読む前から思っていた事ですが、これは歴史ミステリではないですよねえ。本格ミステリでしょう。もっとドロドロした物語を想定していましたが、意外とユーモアも適度にあり、そこまで陰湿な雰囲気はありませんでした。18世紀のロンドンの様子はそれなりに描かれていますし、現在では通用しない犯罪の数々に舌を巻きました。主にホワイダニットとして楽しめました。

No.9 7点 レッドキング 2021/08/01 14:23
時は1770年、場所はロンドン。外科医と弟子達が解剖中の娘の死体が、四肢切断された少年死体に入代り、さらに顔無し男の死体まで現れて・・・。同じ歴史ミステリでも「死の泉」はミステリアスな歴史奇譚だが、こちらは歴史浪漫を纏った本格ミステリ・・・消失トリックや多重ツイスト、盲目の名探偵まで出て来て、オマケなしでも7点。

No.8 7点 ミステリ初心者 2019/10/19 17:48
ネタバレをしています。

 前から気になっていたものの、読んでいなかった作品です。なぜかというと、解剖や1700年代のロンドンが舞台と聞くと読みづらいかもしれないと思っていたからです。しかし、まったくそんなことはありませんでした。解剖のシーンも登場人物の魅力のためか、まったく苦にならなかったです。ロンドンの描写も、まるでその時代に書かれた小説のように感じ、かつ翻訳物でよくある日本語の読みづらさもありません(その時代のロンドンに関しては無知なので、正しいかどうかは知りませんが(笑))。唯一読みづらかったのは、主観の一人であるネイサンが悲惨な目に合うシーンでした。

 ダニエルとその弟子たちの視点と、その少し前のネイサンの視点が交互に書かれているスタイルでした。ロンドンの治安が悪いこともあり、ネイサンが悲惨な目にあっています。ネイサンの主観はエヴァンスの家から抜け出し、エドとナイジェルに助けを求めて解剖教室に向かうところで終わっています。渡るロンドンは鬼ばかり!地獄!救う神なし!とおもいきや、最後にどんでん返しがあり、読後感が非常に良いものとなりました。

 推理小説的要素だけでなく、通常の小説としても楽しめる要素が多かったです。ロンドンの風俗の話、友情物語、ユーモラスなダニエルの弟子たち(アル・ベン・饒舌の人はもうちょっと登場しても良かった!)。私の買った文庫版には、解剖ソングが譜面付きで乗っていました(笑)。私に音楽の心得がないため、だれかうたってみた動画上げてほしいですね。

 以下、難癖ポイント。
・どんでん返しはすばらしかったですが、このトリックはよくあり、あまり驚きはありませんでした。時間と主観が違う人物を交互に書くと、やはり入れ替わりを疑います。そして墓荒らしで死体がよく手に入るとくれば・・・。しかし、全ての伏線を回収できたわけではありませんので、偉そうなことは書けませんが(笑)。某有名作品も同様のトリックでしたが、こちらの作品のほうがはるかに小説として優れていたため、加点しました。

No.7 9点 青い車 2017/01/20 12:23
 解説で有栖川有栖氏が惜しみない賛辞を送っているのも頷ける傑作だと思います。イギリスの風俗小説のようでもあり、少年たちの青春小説の面もあり、一個の読み物として最高に面白いです。初読時は「これは本格だろうか?」とも思いましたが、このたび再読して構成や記述など、よく考え抜かれて書かれていることに気付きました。再読、再々読に耐えうる点でも本格ミステリ大賞を受賞したのも納得です。

No.6 9点 ボンボン 2016/12/13 23:03
嘘、嘘、嘘、そして嘘、さらに嘘。事実に嘘を織り混ぜて幾重にも重ね、何回情報を更新すればいいのか。戻って読み返すと、実に細かいところまで事実描写と供述がしっかり一部違っている。途中で、「ああ、読めたぞ」とニヤリとしても無駄。まだまだ何度も転々とするから。
失礼ながら、80歳を超えたおばあさまが、本当にこんなに緻密な本格ミステリをポンポン書いてしまうのか。驚愕するしかない。
18世紀ロンドンの解剖教室というだけで、重くて無理、と思った方もそう言わず読んで欲しい。ドリフのコント的なおふざけと(あくまでもウッチャンではない)、スイスイと軽い読み心地が気持ち良く、青春小説と言ってもいい元気さがある。それでいて、歴史的事実や実在の人物が丁寧に書き込まれており、さらに登場人物の書き分けも巧みで、本当に充実した内容になっている。
とはいってもやはり、18世紀の英国の風俗や解剖学等々の世界を受け入れられないと成立しないつくりになっているので、好き嫌いが分かれるのかもしれない。まあ、とにかく私にとっては、どストライクだったが。

No.5 2点 makomako 2014/08/23 07:40
 皆さんの評価が高いのですが、私にはこれはちょっと--。
 冒頭から死体解剖のシーンが出てくる。こんなの読んでて楽しいのでしょうか?
 文章が良いのか読んでいると屍体のにおいが感じられてとても嫌な雰囲気となり、これ以上読み続ける気がしなかった。実際にこんな匂いを嗅いだことがない方はまあ良いのでしょうかねえ。

No.4 6点 蟷螂の斧 2013/07/02 22:13
題名からして皆川ワールド全開か?と思いきや、意外とあっさりしていたという印象です。時代は1770年、場所はロンドン、主人公は医師ということで、服部まゆみ氏の作品(1888年、ロンドン、主人公医師)と、どうしてもダブってしまいました。内容は全く違っていますが・・・。物語の展開は楽しめましたが、読後感がイマイチすっきりしないのは、やはり犯人の処遇に?マークがつくからですね・・・。

No.3 7点 kanamori 2012/01/05 23:04
読む前は、いつもの耽美的でドロドロした物語かと思ってましたが、ユーモア混じりの軽妙な語り口なので、馴染みの薄い18世紀後期のロンドンを舞台とした日本人も出てこない物語で、なおかつ当時のロンドンの雰囲気が細部にわたって書き込まれているにもかかわらず、とっつきにくいことはなくスラスラ読めた。日本人作家、しかも80歳を超えた女性が書いたとは思えない筆力と若々しい感性に脱帽です。
ダニエル医師と5人の弟子の個性的な面々が主役といえますが、実在の人物である盲目の治安判事・ジョン・フィールディング卿とボウ・ストリート・ランナーズも魅力的な探偵役です。ブルース・アレグザンダーが描いたジョン卿(「グッドホープ邸の殺人」等)と読み比べてみるのも一興かも。

No.2 8点 smile66 2012/01/04 22:23
18世紀のロンドンのどす黒い感じにミステリがよく馴染んでいると思う。盲目の判事、解剖医とその取り巻きなど、登場人物のラインナップも素敵である。

ヘヴィな展開と軽妙な展開が織り交ざりとても読みやすかった。

この作品が素晴らしいのはとにかく迫りくる不条理、理不尽がめちゃくちゃ胸糞が悪いということだと思う。思わず「ぶっ殺せ!」と言いたくなるような悪い奴が出てくるが、何よりも当時のロンドンの司法制度の不条理さが読んでいて本当に陰鬱となる。

受難を受ける登場人物が高い能力を持っていながらも、虚栄心のような人間らしい側面を持っていて身近に感じやすいから、より痛々しいと感じるのだと思う。

No.1 7点 HORNET 2012/01/04 21:49
 18世紀のロンドン、外科医ダニエル・バートンは私的解剖教室を開き、5人の若い弟子とともに解剖学の研究の励んでいた。研究のためと、非合法にも屍体を入手していたこの教室から、身に覚えのない四肢を切断された少年と顔を潰された男性の屍体が。
 事件の解明が進められていく現在と、事件の背景となった過去とが交互に展開され、最後にそれが一致するという構成が妙。師匠との信頼関係・結束に嘘はないが、何やら不審な様子も窺える弟子たちとの真意の測りあいも見もの。そんな弟子たちも一方で「解剖ソング」なるものをつくり、口ずさむユーモアもあり、場が和む。
 ミスリードなのか本当に真相を解明しているのか、見極めきれない展開にページをめくる手が早まる。そのはやる気持ちに応えるだけの、驚きと納得の結末。読後感も良◎でした。


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