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[ 本格/新本格 ]
花の旅 夜の旅
別題『奪われた死の物語』
皆川博子 出版月: 1979年12月 平均: 5.50点 書評数: 4件

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講談社
1979年12月

講談社
1986年12月

扶桑社
2001年08月

柏書房
2020年07月

No.4 6点 虫暮部 2023/08/17 12:17
 まるで新本格と言う感じの凝った構造。各短編は深みがありつつ結末を書き過ぎない美意識が好ましい。メタ部分は、前半で期待した程に盛り上がる真相ではなかったので、やや失速との印象が残ってしまい惜しかった。

No.3 6点 蟷螂の斧 2021/03/16 17:10
雑誌の掲載小説と作家の取材日記が交互に配され、「現実」と「虚構」が交錯します。それが著者の特徴である幻想的で眩暈を引き起こすような雰囲気を醸し出し、まさに「皆川ワールド」全開と言えるでしょう。ミステリーの構造としてはかなり凝った作品であると思います。果たして三人の死は事故だったのか殺人だったのか???

No.2 5点 2021/03/16 04:20
 新人賞を受賞後、作家としては芽の出なかった小規模なタイプ印刷会社社長・鏡直弘の元に、旅行雑誌「ウィークエンド」から連作小説の依頼が舞い込んだ。季節々々の花の名所をまとめたグラビア四ページに短篇を添えるというその企画「花の旅」に張り切った鏡は、久しぶりの仕事に勇んで撮影旅行に同行するのだが・・・。作家自身の覚え書と作中作を交互に配置して驚愕の物語を紡ぎあげてみせる、幻の初期傑作!
 精神病院を舞台に殺人犯の心の闇に切り込んだ『冬の雅歌』に続く、著者の大人向け長篇第五作(処女作は1972年10月刊行のジュブナイル『海と十字架』)。通販業界の老舗・千趣会の発行する月刊誌「デリカ」に、一九七八年五月号~翌一九七九年四月号まで一年間連載されたもの。講談社文庫に収められた際には『奪われた死の物語』と改題されているが、これは著者の意にそったものではないらしく〈昭和ミステリ秘宝〉収録時に元のタイトルに戻されている。昭和ミステリ秘宝版あとがきによれば〈会員頒布の市販していない小雑誌〉という形態を逆手に取る趣向だったようで、若干の修正はあるものの概ね初期の構想通りに実際の発表形式をなぞり、掲載短篇中で繰り返される犯罪と、作中世界での過去の墜死事件とが次第に融合していくメタ・ミステリ小説に仕上がっている。
 ただし作品としては薄味。不穏さを湛えた文章で平戸・網走・能登といった取材地を舞台に撮影隊メンバー各人を擬した人物による殺人が描かれるが、第三話まで来たところでその一人が現実に海に墜ちた後、実作者の鏡も睡眠薬の服みすぎで事故死してしまう。第四話の京都からは皆川氏モデルの新人女流作家・針ヶ尾奈美子が「花の旅」を書き継ぐ事になるのだが、彼女の推理によって導き出される真相は、毒がたっぷり含まれた前半部分の濃さを埋め合わせるにはいささか弱い。掲載誌もあるが軽いタッチで纏めてしまった感じ。先にふしぎ文学館『悦楽園』各収録作の凄まじさを知っていると、どうしても物足りなく思えてしまう。やはり編集者に対し「これ以上は」との遠慮があったのだろうか。この人らしい繊細な筆致で書かれてはいるが、彼女の本領は発揮されていない。
 そういう訳で採点は5点止まり。皆川氏にはやはり、初期短篇のように真っ黒な世界観をとことん追求して欲しい。

No.1 5点 nukkam 2016/01/23 23:07
(ネタバレなしです) ミステリーの初期代表作と評価の高い1972年発表の本書は、花をモチーフにした短編の仕事の依頼を受けた売れない作家がカメラマン、マネージャー、モデル、アシスタントらとの取材旅行を続けながら作品を書いていくが怪事件が発生するという展開を見せます。作中作の短編第一話で始まり、その後に現実の世界が続き、その後も虚構の世界と現実の世界が交互に描かれる凝ったプロットの本格派推理小説です。作中作はどれももやもや感が濃い上に、時に虚構の世界か現実の世界かよくわからなくなり、終盤で登場人物に「読者はめんくらうでしょうね」と言わせています。謎解きもしてはいますが解決のすっきり感よりも幻想性の方が高かった印象を受けました。ミステリーとしては「紙芝居殺人事件」(1984年)の方が本書より完成度が高いように感じられて個人的には好みなのですが、幻想作家としての皆川を期待している読者には本書の方が受けがいいかもしれません。


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