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[ 本格/新本格 ]
蒸発
夏樹静子 出版月: 1972年01月 平均: 5.50点 書評数: 6件

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光文社
1972年01月

角川書店
1977年11月

双葉社
1996年11月

光文社
2007年03月

No.6 2点 犀天犬郎 2024/11/18 03:31
 故あって、この著者のリメンブランスを思い立ち、最初に手に取ったのが本作。1973年第26回日本推理作家協会賞受賞作でもあり、代表作の一つと聞いていたのだが、相当凸凹の激しい出来。シヅ子リメンブランスの継続は、いきなり挫折の危機に瀕しているw。

(このガックリ感をお伝えすべくそれなりにネタバレ領域に踏み込むので、未読の方はご容赦を。)

 冒頭、航空機内からの消失トリックが、本作の評価の7割〜8割を占めると思われるが、正直、長編一本を支えるだけの強度はなく、短編ぐらいでとどめておくべきクオリティ。

 しかし問題はそれではない。
 この錯誤を仕掛けた人物は「失踪先を隠蔽するため」にこの小細工を断行したーーというのだが


1、探偵役の新聞記者が、物語冒頭からこの隠蔽工作を全スルーして、正解の失踪先を特定してしまい(by直感)一ミリも疑わない。
 これはプロット自体の問題なのだけれど、「本格ミステリ」と銘打つ上でどうかと思うし、何より目的の「誤誘導」が成立していないのだから、仕掛け損で終わっている。

2、さらには、結構な手間を弄したこのトリックを台無しにして、失踪者自身が失踪元へとんぼ返りしてしまっている。最優先の「ある目的」を達成するための避難だったはずなので、あまりに悪手。そして無駄。

 このメイントリックの弱さを補強するため投入されたとおぼしき時刻表トリックも、鮎哲や京太郎センセイを引き合いに出すのは申し訳ないようなお粗末の極み。真犯人の採った犯行方法に、解明部分まで全く検討がなく、唐突に仕掛けのみ提示されて終わり。それまでの推理と検証作業をゴミ箱行きにする。
 
 いずれもトリック優先のイディオット・プロットで弁護の余地がないわけだが、最終盤のツィストとして明かされる失踪者の心理の解明も酷かった。

 今で言うサ◯コ◯スの模倣行為なわけだが、対象によってブレがあり、「動機の謎」として提示するにはあまりに一貫性がない。

 これらのガタツキは主にトリックとプロットの衝突をきちんと整理しようとしていない=場当たりとコジツケに頼った書きっぷりに由来する。

 文章は平易で、そこそこリーダビリティはあるものの、全般に薄味。人物心理に一貫性も、迫真性もないので「トリックには無理があるが、ドラマ的に素晴らしい」といった弥縫的な褒め言葉にも該当するとは思えず。

 半世紀前の基準とはいえ、推協賞を冠するに値するほどの出来ではないなあ。

 

No.5 7点 よん 2023/10/27 13:38
当時、社会問題化していた人間の蒸発を扱った社会派推理だが、航空機の乗客消失、列車ダイヤ、変装、交換殺人といった本格的なトリックを随所に散りばめ、さらに美しい人妻とベトナム帰りのジャーナリストの悲恋を織り込んだ読みどころの多い作品で、社会派にして本格派という作者の持ち味がよく生かされている。

No.4 8点 斎藤警部 2015/06/15 12:52
質実な人間ドラマに貫かれた複雑系アリバイトリックの傑作。航空機という大きな密室からの人間消失事件で幕を開け、その後も次々と現れる多くの謎と疑惑が最後に美しく収束します。ぐっとフェミニンになった鮎川哲也といった趣があり、鮎さんファンにもお薦め(特に「死のある風景」が好きな人)。 これは再読したい。

No.3 4点 江守森江 2010/03/25 00:40
遥か昔に、角川文庫の推理小説フェアか何かで天藤真や鮎川哲也と一緒に平台に並べてあったので勘違いで購入した。
その当時に読んだのだが、トリック云々以前の問題としてガキな少年が大人の女性が描く愛のカタチを理解出来ずに消化不良だった記憶しかない。
それ以来作者から離れ、映画化と同時に読んだ「Wの悲劇」以外接していない。
わざわざ再読すべき作品とも思えないのが慰めになっている。

No.2 5点 測量ボ-イ 2010/03/25 00:15
20年以上前に読んだ作品ですが、あまり強い印象には
残っていません。
作者にしては珍しく時刻表トリックもありましたが、
出来栄えは平凡でした。

No.1 7点 kanamori 2010/03/17 21:06
羽田発札幌行きの航空機から女性が消えた・・・。
母性の喪失という社会派ミステリ的要素と航空機からの人間消失という不可能興味の本格ミステリ的要素がうまく結実した作者の代表作といわれる作品。
たしかに、読者を母性に関わるある状況に惹きつけることにより、消失トリックの真相を分かりにくくしている点はうまいと思いました。


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