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[ 警察小説 ]
笑う警官
マルティン・ベック
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー 出版月: 1972年07月 平均: 7.25点 書評数: 12件

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KADOKAWA
1972年07月

角川書店
2013年09月

No.12 5点 ボナンザ 2022/10/30 20:58
刑事もののいいところを集めたような流石の名作。

No.11 8点 2021/10/15 04:53
 ベトナム反戦デモが吹き荒れる一九六七年十一月十三日の夜、ストックホルムは土砂降りだった。デモ隊がほとんど蹴散らされ街にいっとき静けさが戻ったとき、四十七番線の終点に近いノラ・スターシューンガータン通りの荷役場の鉄柵に赤い二階バスがつっこんだ―― 運転手以下、乗客の死体を満載して。
 大量殺人! 市内循環バス内で狂気の軽機関銃乱射事件発生!
 悪夢の第一報。しかも死体の中に部下が一人含まれているとの連絡に、現場に急行する警視庁殺人課主任マルティン・ベックの胸は騒ぐ。屠殺場同然の血の海の中には、はたして拳銃を手に絶命している若手刑事オーケ・ステンストルムの姿があった。彼を含む犠牲者九人はすべて偶然そのバスに乗り合わせた者ばかり。狂人の犯行説が圧倒的ななか、生前のステンストルムを洗うベックの前に彼の異様な行動が浮かびあがってくるが――。
 錯綜した謎を追う刑事たちの人間味豊かな活躍を描きながら、"現代" の非情な顔をあばく警察小説の白眉!
 『バルコニーの男』に続く大河警官小説第四作。1968年発表。シリーズ最高傑作との呼び声も高く、事実第一作『ロセアンナ』と比べても奥行きと深みは段違い。87分署をよりヘビーにしたような内容で、自分がこうと思いこんだ手がかりにしがみつく刑事たち個々人の追求が、半ば過ぎから一気に収斂していく手並みは見事なもの。その重層的なプロットは本家であるマクベインを凌ぐ。以前読んだのは遙か昔のことだが、正直あの頃よりも楽しめた。
 その当時の主人公ベックのイメージは〈無味無臭な影の薄いおっさん(酷いね)〉で、ラーソンやコルベリの印象の方が遥かに強かったのだが、改めて読み返すと全然そんな事はなく、「ベック一家」の中心としての存在感はしっかり持っている。加えて次作『消えた消防車』でも引き続き登場するポンコツ警官、クリスチャンソンとクヴァントのコンビもいい薬味。本書の影の主役はもちろん殉職したステンストルム刑事だが、彼を喪失した空虚さに蹲る恋人オーサ・トーレルと、ベックの副官レンナルト・コルベリとの裸のぶつかり合いも魅力の一つ。
 今現在選ぶと海外ベストに入るかどうかは分からないが、衝撃的な題材に綿密な捜査過程や各種ドラマを過不足なく詰め込んだ作品で、採点は佳作の上から秀作クラスの7.5点~8点。

No.10 8点 クリスティ再読 2020/10/25 22:14
警察小説の「ミステリとしての面白さ」ってどこにあるのか?というと、それはおそらく、「犯人・真相が見え隠れしながら浮かび上がってくるさま」にあるんだと思う。本作はそれまでの3作よりずっと構成が複雑化して、その分この派手な大量殺人の根深い背景・犯人がじわりじわりと浮かび上がってくるのを存分に楽しめる。マルティン・ベックもやはり本作で完成した、というべきだろう。

で今回誰が殊勲か...というと、それはやはり

実はステンストルムって刑事が、とうの昔にケリをつけていたのさ

と最後にラーソンが評するように、若くして大量殺人の被害者となったステンストルム、ということになるのだろう。上司であるベックが、直接の部下で被害者となったステンストルムを回想して、

それにしても彼はどうしてステンストルムに関して、そんなにわずかしか知らないのだろう?観察力に欠けていたせいだろうか?それとも、もともと知るべきことなどたいしてなかったからか?

と反省するあたりの「苦さ」が、「オトナの小説だな...」なんて感じさせるところである。

作中でもベックは娘から最近笑った顔を見ない、と指摘されて、そのために娘からクリスマスのプレゼントは「笑う警官」。古いコミックソングのレコードなんだけども、少しも笑えない(YouTubeの「The Laughing Policeman - Charles Jolly / Penrose」で聞ける)。まあベックって胃痛やら風邪気味やら心気症に悩んでいつも苦虫を噛み潰したようなイメージがあるからね。この曲で聞けるような高笑いを、マルチン・ベックができる日は....来ないなあ。最後に低く笑うのは自嘲みたいだよ。

こんなアイロニイが効いた作品でもある。

No.9 7点 E-BANKER 2020/06/02 22:47
読了してビックリした!
もう書評してたんだ! この作品って・・・
6年半前かぁー でも、読んでいる最中も全く気付かなかったなぁー、すでに読んでたことを気付かなかったのって、もしかして訳のせいか?
最初に読んだのが、新しい柳沢由実子訳バージョン。そして今回読んだのが旧の高見浩バージョンなのだ。
いやいや、もう呆けてきたのか・・・ということで前の書評は削除して再掲
(実は本作のちょっと前にも、宮部みゆきの「人質カノン」を既読&書評済なのに途中まで全く気付かずに読んでた)

改めて自分の書評を読んでみて、さすがに思った。
「ほぼ同じ感想だ!」(当たり前だろ!)
ということで、前の書評をほぼほぼ踏襲しながら、更新することに。

やっぱり、警察小説の金字塔だな。
ストックホルム市内で発生した二階建てバス内での銃乱射事件。大勢の被害者のうちに、マルティン・ベックの部下の若手刑事ステンストホルムがいた。
彼は一体なぜ縁もゆかりもないバスに乗っていたのか・・・
これが最大の謎として刑事たちの前に立ち塞がることになる。

複数の刑事目線で書かれているため、当然に脇筋や捨て筋も相応にあるのだが、それが邪魔だとか余計だとかにならないのはさすが。(それが捜査だもんな)
捜査を進めるうち、徐々に真相が見えてくる展開。本格ミステリーの如く、視界がパッと開けるという感覚ではなく、ジリジリという感覚。これこそが警察小説の醍醐味に違いない。
やっぱ面白いわ。
今現在の警察小説の隆盛は、本作抜きには語れないのだと思う。
再読してよかった・・・と思うとしよう。

No.8 8点 ロマン 2015/10/20 11:55
十一月の豪雨の夜、反ヴェトナム戦争を訴える市民デモに熱されたストックホルムの一角で事件の幕が開く。その喧騒にまぎれるように、人知れず発生した事件の凄惨さが明らかになっていく序盤の緊迫感がすばらしい。激変する社会情勢、警察官の私生活を垣間見せながら、徐々に事件の真相に迫っていく展開は、まさに社会派警察小説の王道。結末近く、ある警察官が吐き捨てるように口にするやるせなさが心に突き刺さらない人はいないだろう。いまなお新鮮さを失わない必読の傑作。

No.7 6点 蟷螂の斧 2015/01/09 13:15
(東西ベスト30位~1985版・2012版とも)警察小説なので、致し方ないところなのか?。意外とオーソドックスな展開でした。

No.6 8点 2014/11/23 17:56
この警察小説の傑作に昨年新訳が出たことは、miniさんの書評で知ったのですが、読んだのは高見浩による旧訳版です。
そのことを念頭に置いて読んでみると、途中疑問に思ったところがありました。渋い警察小説という印象のあったこの夫婦作家にしては、バスの中でのマシンガンによる大量殺人という衝撃的な事件以上に意外だったのが、ダイイング・メッセージが出てくるところでした。で、これが英語からの翻訳であることを考えると、原文とは違うのではないかと気になったのです。実際、後から新訳版を立ち読みして確認したところ、やはり2つのセリフのうち1つは変えてありました。ただ、英語版でも納得いく設定にはしています。
また、高見訳ではラストをマルティン・ベックが「…笑いだした。」の文で締めくくっていて、その後の説明的な2行がないのですが、確かにこれは省いた方が余韻があっていいのではないかと思えました。

No.5 8点 mini 2013/09/30 09:58
先日25日に角川文庫からひっそりと、シューヴァル&ヴァールー「笑う警官」の柳沢由実子氏による新訳版が刊行された
同時に角川文庫で刊行されたクイーン「エジプト十字架」の陰に隠れて話題になってない様だが実はある驚きがあるのだ
「笑う警官」は過去に書評済みなのだが、一旦削除して全面的に改稿することにした、その理由とは?

さて注目は翻訳者が”柳沢由実子氏”という点だ
この翻訳者は現在は中年のおばさんって感じだが上智大学卒の後にストックホルム大学にも留学している
そう、日本では珍しいスウェーデン語の専門家なのである、最近ではへニング・マンケルやインドリダソンの翻訳などでも御馴染みだ、それがどうして重要な要素なのか?
英米独仏語圏以外の翻訳には時々有るのだが、世界的な話題作だと一旦英語に翻訳されて英米で刊行されたものをテキストにして日本語に翻訳する場合がある
実は「笑う警官」旧訳版も英語版から訳されたものなのだ
つまり今回の柳沢訳は初めてのスウェーデン語オリジナル原著からの翻訳なのである
やはり一旦英語を介しての翻訳だとスウェーデン語本来のニュアンスが微妙に違っている可能性も有り今回のは待望の新訳だとも言える

こう書くと旧版の高見浩訳が良くないみたいに聞こえるかも知れないので、誤解されないように言っておきたいのだが、私は高見浩氏の翻訳が大好きなのである
プロンジーニの名無しのオプシリーズなどの翻訳でも素晴らしい仕事をしていたが、特筆なのはカーである
高見氏はどちらかと言えばハードボイルドやサスペンスで本領を発揮する訳者でカーの翻訳は少ない、その数少ないカーの訳書の1つが「魔女の隠れ家」なのだ
「魔女の隠れ家」は内容よりもその青春小説のような瑞々しい感性のヴィヴィッドな文章が魅力だった
カーの中でも文体の異色作という認識だったのだが、高見氏による他のカー長編の翻訳はあまり無い事を考慮すると、「魔女の隠れ家」の異色性は訳文のせいなのかも、う~む
何が言いたいのかと言うと、要するに作家との相性に関係無く高見浩氏の翻訳は素晴らし過ぎるのである
しかもヘミングウェイに関する著書も有るくらいだから高見氏の本領はアメリカ文学であろう、そう言えば「笑う警官」旧訳もちょっとアメリカっぽい感じがする
という事はだ、旧訳のアメリカ風の活き活きとしてちょっと切ない感じは本来の文章のタッチと差異が有るのか?という点が気になる
スウェーデン語のオリジナル原著はもっとしっとりして落ち着いた文章なんじゃないか?という疑惑も湧くのだ、だからこそ今回の角川文庫の新訳復刊は注目なのである

内容はと言うと、中盤で多角的に行なわれた捜査が一旦行き詰る、その後それら多角的捜査が一点に向かって収束していく様は圧巻、これぞ警察小説の醍醐味

No.4 7点 2013/04/19 10:48
北欧産ミステリーの代表格として有名ですが、個人的にはむしろ、警察小説の鑑と呼ぶべき作品だと思います。マルティン・ベック・シリーズの10作品の中で評価の高い作品です。

ミステリーならなんでも謎解きミステリーという観点から見てしまいがちなので、犯人像が見えにくい、なんて指摘をしてしまいそうですが、捜査により得た手掛かりを積み上げて集約し、徐々に真相に向けて収束させていくというスタイルは、地味ながらも推理小説のお手本ともいえます。
それに、この小説は、典型的な群像劇とはいえないものの、ときには刑事ごとの挿話を交えながら、刑事たちが警察組織の一員として個別に捜査をしていくという流れにしていることからしても、湾岸署を舞台にした「踊る大捜査線」のような(たとえが悪いですが)、一警察署物語と呼ぶにふさわしい小説でもあります。
国内ではいろんな警察小説が蔓延し、とくに今では、キャラクタ重視の、特定の一刑事だけが活躍する刑事ミステリーが主流となっていますが、そういうのは探偵小説かハードボイルド小説の傍流といったほうがよく、本来は本作のような小説こそを警察小説として区分すべきなのではという気がします。

本シリーズの初読作品として著名作である本作を選びましたが、こういうシリーズは第1作から読むほうがさらに楽しめそうです。シリーズの他の作品は、おそらくミステリーとしての評価が本作より低いだけで、警察署物語としては十分に楽しめるものと想像できます。

No.3 7点 あびびび 2011/06/12 16:27
これを読めば当時のスウェーデン警察の内情が手に取るように分かる?

二階建てバスで9名が機関銃らしきもので惨殺され、その被害者の中に若い刑事がいた。その刑事は功名のため(あせり?)昔の未解決の事件に首を突っ込んでいた…。

捜査の積み重ねで次々と新事実が分かるスタイルで、読者が推理すべき展開ではないが、警察小説のはしりとして満足できる。

No.2 7点 toyotama 2010/12/23 16:55
アメリカの警察ものに比べると、ちょっと日本的ではありますね。
犯人が登場人物表に載ってないのも警察小説的です。
それをアメリカは地下鉄を舞台にした映画を作っちまった。

No.1 8点 kanamori 2010/07/19 15:43
「東西ミステリーベスト100」海外編の30位は、大河警察小説シリーズの代表作。
同じ北国でも北海道警ではなくて、ストックホルムが舞台。
全10巻でスウェーデン社会の10年間の変遷を描きながら、マルティン・ベックを始めとする個性豊かな刑事群像が読ませる(次作で大活躍するラーソン刑事がよかったなあ)。
第4作の本書は、冒頭から緊迫した展開を見せ、完成度ではシリーズ随一だと思います。


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マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
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