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[ 警察小説 ]
ロセアンナ
マルティン・ベック 旧題『ロゼアンナ』
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー 出版月: 1975年01月 平均: 6.00点 書評数: 4件

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角川書店
1975年01月

KADOKAWA
1975年03月

KADOKAWA/角川書店
2014年09月

No.4 6点 2020/07/01 10:57
 1965年7月8日の午後三時過ぎ、ボーレンスフルト閘門を管理する浚渫船グリーペン号が渫った汚泥の中から、若い女性の絞殺死体が見つかった。クレーンのバケットから下ろされた女は素っ裸で、装身具もいっさい身につけていない。
 エキスパートとして呼ばれたストックホルム本庁の刑事殺人課捜査官マルティン・ベックは、地元モーターラ警察の捜査官グンナル・アールベリに協力し事件を追うが、前後に該当する失踪者は見当たらず、追跡捜査は早くも難航する。だが死体発見から三ヶ月後、さまざまな行方不明者照会を通じて判明した被害者の名はロセアンナ・マッグロー、アメリカのネブラスカ州リンカーンに在住する、二十七歳の図書館司書だった。そんな外国人女性がなぜ、スウェーデンの田舎町を貫く運河の泥底に埋もれる破目になったのか?
 被害者が送った、内陸の湖をつないで運行するクルーズ船に乗るとのはがきから、ユータ運河をクルーズする観光船ディアナの存在が浮かぶ。ディアナ号の乗客リストには予想通り、ミス・R・マッグローの名があった。ベックは真夜中過ぎ、ボーレンスフルトを通過する船上で犯行が行われたと確信するが目撃者は誰もおらず、しかも船客六十八人と乗組員十八人、合わせて八十五名の国籍は世界じゅうにちらばっていた・・・
 スウェーデンミステリの新時代を切り開いた大河警察シリーズの第一弾。1965年発表。この前年日本では東京オリンピックが開催されており、高度経済成長の真っ只中。武装中立を行い二度の世界大戦に一切参加しなかったスウェーデンもまた、そのまま国力を保ち続け1950年代に地中海方面からの外国人労働者を受け入れ、対外投資を増大させて日本同様長期の経済成長を迎えます。
 国内犯罪の増加を受けた本シリーズの成立もそんな事情によるもの。わが国の松本清張『点と線』による社会派の到来と意味合いはほぼ同じでしょうか。新訳版でのヘニング・マンケルの献辞によれば、本書が出版される以前はアングロサクソン式の探偵小説ばかりだったそうです。
 内容的にはどうかといえば、描写は重厚なれどストーリーはやや単調。『笑う警官』『消えた消防車』のような込み入った筋や捻りは期待できません。容疑者を絞る過程でも見落としがあり、積み重ねがあるにせよ犯人の発見はほぼ偶然。犯行自体も〈バレなかったのが不思議〉といったレベルのものです。ある意味徹底してリアルとも言えますが。
 最後にちょっとした山があるとはいえ、読んでいてそこまで面白くはない。〈北欧だと張り込みがキツいよな〉というのが読後の主な感想でした。このシリーズの本領はやはり、『笑う警官』以降の円熟した中期作品にあるようです。

No.3 6点 クリスティ再読 2019/10/19 21:23
87分署は言ってみれば「両さん」のわけで、キャラさえ把握していれば、どの巻から読んでもそうそう支障はない。マルティン・ベックは大河ドラマなので、やはりこれは第1作から順次読んでいくことにしようか。大昔に大流行したときに、本作・バルコニー・笑う・消防車くらいは読んだ記憶があるが、としてみると過半数は未読になる。ちょうどいいお楽しみになるだろう。
大昔スウェーデンというと、ススンでる、というジョーシキがあったことは、もう年寄りしか知らないんじゃないかな。異常性犯罪を扱った本作はそういう意味じゃ、宗教関係で性に厳しいアメリカでは出づらくて、スウェーデンらしいススンだ警察小説、ということにもなるだろう。60~70年代の性解放という時代背景を頭に入れて読むと、本作の意義とか見えると思うよ。
湖から全裸死体として見つかった、アメリカから来た奔放な娘ロセアンナの性生活と、犯人との接点を探っていく話である。手がかりを得ては行き詰まり、得ては行き詰まりの繰り返しで徐々に捜査が進むさまが堅実。最後の罠もそういう仕掛けだから、本当に本作はアメリカじゃ書けないなあ。
本作は第一作というのもあってか、ベックもコルベリも何か若々しいイメージ。ベックの心気症気味はすでに登場しているが、本作だとコルベリに「ベックの相方」以上の個性と、ベックからの信頼感を強く感じる。バディ萌えしそうだ。まだアクの強いラーソンなど登場しないしね(するけど、別人だ)。ステンストルムも尾行名人で活躍するのが、数作後のアレを知ってると感慨がある。当時から思っていたことなのだが、旧訳だとフツーの刑事たちも「警視」と訳されてて、えそんなにエラいの??だったのだけど、やはりこれはそんなにエラいわけではない(新訳は「警部」になってるみたいだが、「警部」は管理職だから違和感が..)。単に Inspector の訳語で、それが各国の警察制度の中でいろいろな意味に使われているからだけのことのようだ。タダの捜査官とか刑事くらいの意味で捉えるのが適切だろう。「バルコニーの男」で Chief Inspector にベックが昇進して、これが「警部」相当くらいだと思うんだ。だから本作ではまだ管理職ではなくて、ベックも実働部隊である。
とはいえ、イマドキのニッポンでも、婦警がシングルマザーというのはいまだ実現できてないだろう。スウェーデン、ススンでるなあ!

No.2 6点 mini 2016/03/25 09:57
本日25日に角川文庫から「刑事マルティン・ベック 煙に消えた男」が刊行される
角川文庫のマルティン・ベックシリーズでは柳沢由実子氏によるスウェーデン語からの直接の翻訳への切り替えが進められているがその一環である
このシリーズ第2作は旧訳では「蒸発した男」だったが邦訳題名を若干変更した、「笑う警官」では題名変更はしてなかったけど

「煙に消えた男」が第2作ならシリーズ第1作目が「ロセアンナ」である、旧題では「ロ(ゼ)アンナ」だけれど新訳では「ロ(セ)アンナ」なんですよ、スウェーデン語ってこういう場合の発音は濁らないのだろうか?LiLiCoさんにでも訊いてみないと分かランナ
旧高見浩訳のは当然所持しているので訳文を比較しながら読んでみた、シリーズは英訳されて世界的な人気シリーズになったが、高見訳はスェーデン語から英語に訳された版を日本語訳したものだ
比較すると、基本的には殆ど内容は同じ、どちらを読んでも意味は通る
違いは主に文章表現上のニュアンスの相違、冒頭から例文を抜粋すると

旧高見訳
”死体は七月八日、午後三時をまわった直後に発見された。かなりきれいな状態であることから推して、長期間水底にあった可能性は少ないように思われた。
発見された経緯そのものは、単なる偶然のたまものだったのである。これほど早く発見されたからには、当然警察の捜査にもプラスにになるはずであった”

柳沢訳
”死体が上がったのは七月八日の午後三時過ぎのことだった。まだ完全な状態で、長く水の中にあったようには見えなかった。
発見はまったくの偶然からで、早く見つかったため、最初は警察の捜査の手間が省けるだろうと思われた。”

その後の文章もこんな感じ、旧高見訳は漢語や二文字熟語の類いをかなり多用して、全体的に文語っぽいと言うか悪く言えばちょっと硬い
ただこれが英語表現とスウェーデン語とのニュアンスの違いなのか、翻訳者の癖なのかは不明
高見浩氏は東京外語大のオランダ語科卒な割にはヘミングウェイやミステリーでもアメリカ作家の翻訳が多く、そのきびきびとして余韻を感じる訳文は私は好きなのだが、北欧という土地柄に似合っているか?というと疑問は出てくる
英語の文章をヘミングウェイなどを得意とする人が翻訳すると必然的に漢語や熟語を多用したくなるということなのだろうか
柳沢訳の柔らかい感じの方が本来の北欧の雰囲気なのかも知れない、がしかし北欧は歴史的に見ればヴァイキングの根城、案外と北欧って海賊風の荒々しさなのかも知れぬ、そうならば高見訳の方が合っている可能性も有る
これから初めてこのシリーズを読もうとされる方に1つだけ新訳版をお勧めする理由が有る
それは翻訳者には責任は無いのだが、文章ではなく製本上の違いで、新訳版の方が活字がくっきりとして格段に読み易い

さて「ロセアンナ」の内容だが、まぁ予想通りと言うか、つまりね第1作らしくシンプルなのですよ、第4作目の「笑う警官」のような多方面からの捜査が同時進行的に行われないんだよねえ
だから「ロセアンナ」の場合、警察小説というジャンル特有の魅力にちょっと欠けてると言わざるを得ない、まぁシンプルな分、シリーズ入門には丁度良いかもだが
むしろ特筆すべきは被害者女性の当時としては斬新な性格だろう
この合作作家、夫婦なのに何で別姓なの?と以前は思ったけど、北欧というお国柄も有るかもしれないが、こういう夫婦だからこそ書ける被害者女性の造形なんだろうね
こうした社会性がシリーズの大きな魅力で、昨今は社会派的要素というとやたらと忌み嫌う風潮が有るが、社会派というのはある種非常に魅力的な要素だと私は思う
ところで解説で初めて知ったのだが、この夫婦コンビ、例の87分署シリーズを初めてスウェーデンに翻訳紹介した事でも知られているがそれは後年の話で、実はマルティンベックシリーズを開始した時点では87分署シリーズを読んだ事が無かったのだという
つまり87分署シリーズの影響の元にマルティンベックシリーズが書かれたという説は誤りなわけだ
そう知って成程と思った、87分署シリーズって社会派要素は無いもんなぁ、あれは要するに大都会のメルヘン御伽話だもんな、マクベインはエヴァン・ハンター名義の方が社会派要素を感じる

No.1 6点 2015/04/29 09:35
スウェーデンの夫婦作家による警察小説シリーズの第1作は、身元不明の女の死体発見シーンから始まります。その死体が、観光船から投棄された可能性が浮かんでくる経緯、被害者の身元が題名のロゼアンナだと判明する経緯など、偶然ではあるのですが、ていねいに調査を続けていれば、そのうち明らかになるのが当然という気もします。実際、事件の輪郭は何ヶ月もかけて、少しずつ見えてきます。テンポは遅いのですが、退屈ではありません。
しかし意外に早い段階で、容疑者は絞られてしまいます。後、全体の3割ぐらいも残っているのにこれからどうするのだろう、それともこの容疑者はダミーか、等と思ったのですが、後はどうやって逮捕にこぎつけるのかが、じっくり描かれていました。逮捕後、犯人の自白で明かされる動機はかなり意外です。ただ、ラストでの囮捜査のサスペンスだけは、作りものっぽくなってしまったという感じがしました。


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