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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
ヒトごろし
京極夏彦 出版月: 2018年01月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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新潮社
2018年01月

新潮社
2020年09月

No.2 6点 びーじぇー 2023/12/17 21:24
物語は土方歳三の幼少期から箱館で死ぬまでを描いた一代記である。試衛館で多くの剣客と出会い、京に上り新選組を作る。芹沢粛清、池田屋、山南脱走、高台寺党の分派、油小路、鳥羽・伏見、流山、宇都宮、箱館など巷でよく知られる新選組史そのままだ。それらの出来事を、京極夏彦はどれもこれも「土方がサイコパスだった」という一点をベースに再構築してみせた。史実の辻褄をオリジナルな発想で合わせてみせるというのは歴史小説の醍醐味だが、まさか土方が殺人鬼にするとは。
何より最大の読みどころは、自らを「人外の者」と自覚している土方が、次第に唯一まともな人間に見えてくるという逆転にある。彼は殺せれば何でもいいわけではない。殺す相手、殺し方に理想がある。けれど幕末の動乱の中で、人は十把一絡げに殺されていく。あるいは、何の利益もないのに死ぬことが美学だと思い込んで無駄に腹を切る。土方はその考え方に腹を立てる。
新選組はよく、時代の狭間に咲いた徒花に喩えられる。だが本当にそうだろうか。むしろ殺人鬼の土方が真っ当に見えるような社会こそがおかしいのではないか。本当に狂っているのは土方か、社会か。
壮絶で妖艶、異端にして王道。新たな新選組小説の里程標だ。

No.1 7点 小原庄助 2018/04/02 09:33
明治維新から今年で150年。幕末志士の中でもとりわけ人気の高い新選組の土方歳三が主人公。幼い日の体験から人斬りの衝動に取りつかれた土方が、「人を切っても罰せられない仕組み」を作り、次々に人を殺していく、という衝撃的な内容だ。
幕末史は尊皇派と佐幕派による”殺し合い”にもかかわらず、子母沢寛や司馬遼太郎以来、小説やドラマで美化されてきたと感じていた作者。新選組が敵よりも味方をより多く殺してきたことに着目。「まともな神経の人は平気でいられない」との考えから、土方を”人外し”として描いている。
作中の土方は、殺人を悪と認識した上で、新選組という制度を利用してターゲットを追い詰めていく。これに対し、薩摩藩や長州藩、旧幕府軍は明確なビジョンやイデオロギーがないまま、「国のために」近代兵器を備えて戊辰戦争に突入し、結果的に多くの兵が死んでゆく。作者は「どちらも間違っているんだけど、土方の方がまだ筋が通っている」と戦の愚かさを強調する。
毎回、ボリュームが多いことで知られる京極作品だが、とりわけ今回は1083ページの大長編。持ちにくい、読みにくい、重い、高いの四重苦である。


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