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ミステリの祭典

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ギザじゅうさんの登録情報
平均点:6.99点 書評数:238件

プロフィール| 書評

No.158 8点 時の誘拐
芦辺拓
(2004/04/11 11:36登録)
フーダニット、ホワイダニットにハウダニットでは密室、アリバイ、誘拐と殺13のような本格の嵐。おまけに過去の事件ではあの警部(十津川警部じゃないで)まで登場して、他にも本格のツボを突くシーンが満載。一つ一つのトリックも面白く、誘拐の手際もかなり見事。
この本核の過多状態が良くも悪くも芦辺の持ち味。
さらに、今までの作品には見られないストーリーテリングの巧みさも加わり、読者はもうただ唸るばかり。
過去と現在を結ぶ線がもう少し欲しい気もしたが、最後に森江春策が放つ台詞は、最も印象深いものの一つだった。


No.157 7点 鍵孔のない扉
鮎川哲也
(2004/04/02 11:52登録)
『鍵孔のない扉』 (光文社文庫)
   鬼貫警部シリーズ
氏の作品の中では評価があまり高くない・・・らしい。
が、犯人の巧緻極まるアリバイも充分良かったし、徹頭徹尾論理に拘るところも嬉しい限り。
ちょっとした事から謎を解く手がかりを得るのはお決まりだが、それがシデ虫や浪曲というのも面白い。
鮎川哲也中期から後期にかけての力作。


No.156 9点 黒いトランク
鮎川哲也
(2004/04/02 11:44登録)
『黒いトランク』(創元推理文庫・光文社文庫)
   鬼貫警部シリーズ
クロフツの『樽』正史の『蝶々殺人事件』に連なるアリバイ物の傑作!
正直言って上の二作のように死体が入れ物に詰められていて、犯人と何個もの入れ物の動きを追うとなると、頭がこんがらがってあまり好きではない。この作品も例外ではなく、トリックを完全に理解できたとは言い難い。
が、よく練られた巧緻なアリバイに、それを追う鬼貫警部、それを見てるだけでも充分面白い。時間を取ってゆっくり読むのがおすすめ。
創元版の英題が『Inspector Onitsura's Own Case』となっているのも、ファンにとって心憎い。


No.155 4点 英国庭園の謎
有栖川有栖
(2004/04/01 12:33登録)
まず「雨天決行」はアイデア不足
「竜胆紅一の疑惑」はホワイダニットではあるが、いささか説得力に欠ける。書き方次第ではもっと作品が引き締まったはずだ。
「三つの日付」はアリバイもの・・・だが真相には拍子抜け。この程度のアイデアなら五つの日付くらい欲しい。
「完璧な遺書」は倒叙。しかし、真相がまったく面白くない。
「ジャバウォッキー」は一風変わった暗号。だが、単なる言葉遊び。
「英国庭園の謎」は暗号。暗号自体は悪くないが、犯人を絞り込むロジックに欠け、結局暗号のアイデア一本だけ。
全体的にアイデアの出し惜しみをしているのか物足りない作品ばかり。
さらに事件ー推理ー解決という当たり前の話ばかり(例外はジャバウォッキー)、ワクワクするような変わったのもない。火村英生という名探偵の呪縛にとらわれている。本格としての幅もなく、ロジックトリックの本格としての深さもない。いまいちの一言に尽きる。


No.154 6点 異人たちの館
折原一
(2004/03/30 12:00登録)
今までのような一発どんでん返しでなく、様々な箇所に二重三重と罠を張った作品。さらに通常の三人称、インタビュー、創作小説、謎のモノローグ等々の文体を使い分け、今までの作品より上手いと感じた。
最後の真相が大体予想していたことの範疇内だったので驚きは感じられなかったが、楽しめることは間違いない。


No.153 8点 アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂幸太郎
(2004/03/25 22:04登録)
伊坂幸太郎=このミス系の作家、というのが読む前の印象(読んだ後でもそれは変わらないけど)
これが伊坂の初読になるが、かなり上手い作家である。
文章は洒落てて読みやすい。話の発端から読者をグイグイと引き寄せるストーリーテリングの巧みさ。キャラの魅力的な描き方。どれをとっても一級品!(これは決して褒めすぎではないはず)
本作は主人公の椎名が引っ越しをしてきた現在と、二年前を交互に繰り返し話が展開される。この構成からトリックは大方予想がつくものの見事に騙された。が、決してこのトリックが話の焦点ではない。このトリックが明かされたことによって、話をぐっと掘り下げる手腕こそが伊坂の才能である。
本格推理、青春(恋愛)小説といった楽しみを渾然一体となった傑作!
(今年のこのミス候補・・・のはず)


No.152 6点 天使の屍
貫井徳郎
(2004/03/25 21:47登録)
「大人」と「子供」の論理が平行線でありながらも、必死に近づこうとする様に貫井徳郎の上手さを感じた。そして「子供」たちによる真相の意外性たるや・・・!
それに加え、きっちりと本格的な仕掛けがあるのも流石である。
ネット心中などが新たな論点として挙げられ、既存の論理が崩壊(新たな論理の誕生?)する今日、これを読むべきであるのかもしれない。


No.151 5点 放浪探偵と七つの殺人
歌野晶午
(2004/03/23 11:45登録)
パズラータイプの短編集(ノベルス版だと解答が袋とじ)
舞台や事件もバラエティに富むよう工夫してある真っ当な本格推理。で、あるだけに物足りなさは残る。
やはり本格でありながら、本格という枠組みから逸脱(超越?)する何かが欲しい。また、普通の本格としても上手い短編とは言いがたい。(容易に暗号ものを乱発しない点は好意が持てるが)
一応ベストは「阿闍梨天空死譚」


No.150 9点 匣の中の失楽
竹本健治
(2004/03/21 23:05登録)
三大奇書に並ぶアンチミステリの傑作!
作者が24歳という年齢にしてこの作品を書き上げたという点では、日本のミステリ界にかつてない超大型新人だったといえる。(『翼ある闇』でデビューした麻耶雄嵩もこれには譲らざるをえない)
アンチの傑作『虚無への供物』が基本的に本格のスタンスを取っているという点では同じだが、虚無は最後でアンチの世界へ大きく飛来すると感じたが、匣ではじわじわとアンチに反転するといったように感じた。
なぜこの作品には第六章がないのか(あるいは抜けているのか)がいまだに疑問として残っているが、現実と虚構をひっくり返し、小説という基盤そのものを破壊させかねないパワーは充分虚無のあの趣向に対抗しうる傑作である。
 濃い、さかしまの霧のようでもあった。


No.149 6点 日本殺人事件
山口雅也
(2004/03/17 19:35登録)
「日本」の言葉から想像する「日本的」なものを強調して描いたアイロニカルなパロディ(っぽい作品)
これが本格かどうかという意見も尤もではあるが、やはり本格として扱うのも間違いではないと思う。
ジャポネスクな雰囲気の歪んだ世界の歪んだ論理を描くというのは山口雅也の持ち味であり、「論理」というものがその世界に応じて姿を変えているとするなら、これも立派な本格だと思う。
しかし、この作品内の「ニホン」が歪んで見えるのは、今の「日本」こそが歪んでいるからだと思ったのは私だけか?


No.148 7点 プラスティック
井上夢人
(2004/03/16 22:06登録)
トリックそのものはシンプルにして単純。途中で気づいてもさほど読者に支障はない。むしろ、トリックの明かされた後が井上の真骨頂。
誰が誰で何が起こっているのかという展開は本格を思わせ、それに対する不安や恐怖はサスペンスを思わせ、結末自体はSFを思わせもする。しかし、井上の作品にその様な分類をする事がナンセンス。
この作品は格をもたない「無格」であり、「プラスティック」である。井上夢人その人が「プラスティック」なのかも知れない。
「ダレカガナカニイル・・・」同様、はまる人はとことんはまると思う(自分のこと)。


No.147 7点 ダレカガナカニイル・・・
井上夢人
(2004/03/16 21:56登録)
岡嶋二人コンビを解消した後の井上夢人の処女作
井上が岡嶋とはまったく違った作風を見せ付けてくれるのは非常に嬉しい(そうでなきゃ解消の意味が無いし)。
発端からラストまで圧倒的筆力でグイグイ読ませる。結末の意外性と叙情性でいつまでも読後の印象が薄れないSFミステリの傑作!


No.146 8点 龍臥亭事件
島田荘司
(2004/03/15 11:26登録)
暗闇坂に続く大作群の閉めをくくる超大作
密室、消失、見立て、そして舞台が岡山(津山三十人殺し、横溝正史)とくれば期待しないわけにはいかない。
が、本格としてはいささか陳腐。今までもトリックに無茶があるのは何度もあったが、しっかりと論理で固めていたけれど、今作はその論理も薄弱。論理以前にこんなトリックを成立させることが詭弁に近い。これを作者言うところの「奇想」と取るのは無理がある。
しかし、社会派としては秀逸の出来!探偵役を御手洗でなく、石岡和己を据えることで、「石岡和己」のアイデンティティの再生とともに戦前の犯罪史を紐解くことで、日本人論を語る。そしてそこに現われる多数による少数への無知、無理解。
今作は同じ「日本人」としても読み逃すことは出来ない。


No.145 6点 スクランブル
若竹七海
(2004/03/11 13:25登録)
ミステリに対して「人間が描けていない」という批判は多多あるが、人間描写とミステリを融合する作品もある。
が、この作品は人間を描くことがミステリ(トリック)になっているのは中々上手い。
「青春」「推理」「小説」の佳作


No.144 8点 サマー・アポカリプス
笠井潔
(2004/03/10 13:19登録)
二度殺された死体、見立て殺人、密室…と本格のケレン味も高く、前作以上にレベルの高い作品ではあるが基本的に楽しめたかどうかという採点はしづらい。
前作同様にこのテーマを探偵小説の形にしていることには疑問もあるが、ニコライ・イリイチも出てきて(名前だけ)矢吹駆の運命の輪が具体化してきたので、のシリーズがどうなっていくかという点で気になることではある。


No.143 8点 暗色コメディ
連城三紀彦
(2004/03/02 13:10登録)
『暗色コメディ』 新潮文庫

超絶技巧・・・いや、狂絶技巧かな


No.142 6点 冥府神の産声
北森鴻
(2004/02/26 12:19登録)
本格的要素はやや薄い。(ハードボイルドよりの所もある)
私はミステリよりも、トウトに魅せられた人間たちと『脳死』が織り成すドラマを描くという点で楽しんだ。
『狐罠』の陰に隠れているが充分楽しめるのは間違いない。


No.141 8点 聖アウスラ修道院の惨劇
二階堂黎人
(2004/02/26 12:12登録)
ロジックよりトリックというだけあって、ロジックはやや飛躍気味で納得しづらいところがあるがそれを指摘するのはナンセンス。真相の意外性と豪快なトリック(密室トリックはいまいちだが・・・)を楽しめさえすればよいと思う。
舞台、真相の悪魔性、ペダントリー、どれもが前二作をはるかに凌駕する物。ただし現実からの遊離性と内容の過多気味の点で灰汁が強すぎて読者を選ぶ嫌いもある。


No.140 7点 敗北への凱旋
連城三紀彦
(2004/02/21 12:06登録)
『敗北への凱旋』 (講談社文庫)

楽譜を使った暗号ミステリーということで本格度は薄かと思いきやがちがちの本格。
チェスタトンの「折れた剣」の様な(ちょっと違うけど)トリックや入れ替えやら長編を持たすため一工夫も二工夫もされている。
さらにはプロットの妙もさえ、男女の愛憎を押し出したミステリー・ロマンでもある。
というより本書の見どころ(読みどころ?)はロマン>本格


No.139 6点 パーフェクト・ブルー
宮部みゆき
(2004/02/20 12:08登録)
長編第一作ということでまだこなれていないのか、文章が多少わかりづらかった。
しかし巧妙なミスディレクションの使い方やプロットの組み立ても上手い。
犬の視点を使うことによって社会問題を批判するあたりも後の宮部みゆきの才能の片鱗が窺える。

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