鍵孔のない扉 鬼貫警部シリーズ |
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作家 | 鮎川哲也 |
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出版日 | 1969年01月 |
平均点 | 7.18点 |
書評数 | 11人 |
No.11 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2021/04/29 07:58登録) 評者は30年くらい前に一度きり読んだだけと思う...初期作は何度も読んでたりして、トリックが頭に残っているが、本作は内容完全に忘れていた。けどね、意外に定石どおりだから、トリックは両方推理完璧。としてみると、逆に評者は評価がしづらくなる.... パズラーの場合、「さっさと真相の推測がついた作品」=「易しいからバツ」という評価をするのは、評者はどうかと思うんだ。フェアだから「解ける」は想定内のわけだからね。もう少し別な視点がないものか、という風にはいつも感じている。 そう思うのは、おそらく本作に時刻表が一枚も入っていないからなのかもしれない。もちろん、蔵王温泉から軽井沢、と旅情はあるから「鮎哲アリバイ崩し マイナス 時刻表」な作品、という見方ができるだろう。そうしてみると、やはり鮎川哲也の「時刻表」というものが、「作品のアンカー」として働いていたようにも感じるんだ。 いや「時刻表アリバイトリックは辛気クサいだけ」とか「時代が変わっていてもう時刻表トリックが成立する余地はない」というご意見はごもっとも。評者も老眼が進んで、時刻表をツラツラ眺めるのがツライ(苦笑)。いくら鮎哲でも時刻表が載ってるからって、時刻表ベースのトリックではない、ということだってよくある。 でも、やはり作品の重心とかリアリティの根源とか、そういう役割を時刻表が果たしているのでは、と思うんだ。どうだろうか。 というわけで、皆さまの高評価にあえて逆らいたい。 鮎哲アリバイ物には時刻表が、それでも欲しい。 |
No.10 | 7点 | ミステリ初心者 | |
(2020/09/26 19:15登録) ネタバレをしています。 鬼貫警部シリーズは毎回そうなのですが、とにかく読みづらく、ページがなかなか進みませんでした(笑)。読者がアリバイトリックを解こうとあれこれ考えられるまでに必要なページ数が多いですね。短編を無理やり長編にしたような印象があります。 文章の相性は悪かったのですが、推理小説としての質は非常に高くて満足しました。 犯人のアクシデントに対する神がかり的なアドリブ(?)、そしてアリバイトリックは緻密で考え抜かれています。なおかつ、読者はよ~く考えたらわかるような気にさせられれます(私はわかりませんでしたが)。 読者にもヒントや伏線が提示され、なかでもシデ虫のヒントはとても好きです。 |
No.9 | 7点 | 蟷螂の斧 | |
(2016/08/29 10:05登録) 第2の殺人のアリバイ崩しが魅力的でした。「鍵」が謎解きのカギになっているところがいいですね。サブ的に「シデ虫」が登場します。最近の「法医昆虫学捜査官シリーズ」(川瀬七緒氏)によって、この「シデ虫」メインの物語に変換されることも可能でしょう。このようなミステリーの変遷や発展形を考えると感慨深いものがあります。 |
No.8 | 8点 | あびびび | |
(2016/06/06 23:42登録) 事件が起こり、事件の環境が淡々と語られ、捜査が行われる。捜査の甲斐があって容疑者が狭められるも、難関が立ちはだかり、その後行き詰る。そして、5分の3くらい進んだところで、捜査が鬼貫警部に委ねられる。 ここからが鬼貫警部シリーズの白眉である。自分的には、鬼貫警部が現地(出張)で交わす地元民との会話、その地方の特色、グルメなどが楽しい。今回は蔵王温泉から我我温泉、青根温泉、遠刈田温泉の評価が楽しかった(自分は温泉命で年間10回くらい全国を旅している)。 今回の謎の中で一番唸ったのは、なぜ、黒と茶色の靴を用意したのか?だった。判明すると単純明快だったが、その時点では思い浮かばなかった。 |
No.7 | 5点 | nukkam | |
(2015/12/26 16:22登録) (ネタバレなしです) 1969年発表の鬼貫警部シリーズ第12作のアリバイ崩し本格派推理小説で、文献によると本書から時刻表が載らなくなったそうです。「最終章に至る前に」読者が真相にたどりつけるようフェアプレーで謎解き挑戦しているようですが、犯人当てならまぐれ当たりもあるでしょうがアリバイトリック破りはそうもいかず、難易度は高いと思います(作者側からすればまぐれ当たりなんか認めたくないかもしれませんが)。伏線は丁寧に張ってあり、複雑で緻密なトリックはアリバイ崩し好きの読者にはたまらない魅力でしょうが、そうでない私にはあまり楽しめませんでした。 |
No.6 | 8点 | 斎藤警部 | |
(2015/10/16 06:14登録) 謎の重みに磐石のトリック。 実に押し出しの良い、これぞ昭和高度成長期のA級本格推理。 適度の旅情に音楽話、ほんのオマケと分を弁えつオマケ以上の味わい。これがまた、たまりません。 それにしてもこりゃ良く出来たパズルですなあ、パズラーと言うよりパズルそのもの、密室とアリバイからの、と言うか空間と時間からの脱出パズル。あちらを立てたらこちらが立たず、一体どうした事でしょう?? ところがこれ、小説として読んできっちり面白い! やはり、絶妙にリミッターを掛けた本格流儀の人間ドラマに、抑制の効いたユーモアの底流が上手いこと”つなぎ”の役目を果たしているのでしょうかなあ何かにつけて。言うに及ばずそこはかと無いサスペンスの風圧が常に冷静な目を光らせています。嗚呼、輝ける昭和ミステリの栄光。 鮎川さん、どうして逝かれてしまったんですか。。。(←いつの話だ) 最後にどうでもいい話をすると、大昔この題名をどこかで見て(たぶん小林信彦氏の書評本)しばらくの間「瞳孔のない鍵」なる小説だと思い込んでいたんですよw。何なんだ「瞳孔のない鍵」って!?ふつう無いですよ、鍵に瞳孔も虹彩もつけまつげも、ねえ。 |
No.5 | 9点 | ボナンザ | |
(2014/04/07 15:41登録) 中期の傑作。謎解きがややあっさりしすぎな以外はほぼ完璧な出来。私は死のある風景よりもこちらを上位に置く。 |
No.4 | 6点 | E-BANKER | |
(2011/09/24 21:53登録) 鬼貫警部シリーズの長編。 同シリーズらしく、巧緻なアリバイ崩しが主眼の作品です。 ~徹頭徹尾、謎に満ちた長編。声楽家で野生的な美貌を持つ久美子と、その夫で伴奏ピアニストを勤める冴えない男・重之。この音楽家夫妻に生じた愛情の亀裂を発端に殺人事件が発生した。被害者は久美子の浮気相手と思われる放送作家だった。事件は華やかな芸能界の裏面に展開。犯人確実と目された重之の容疑が晴れると、捜査は混迷の一途を辿る。やがて、犯人は大胆にも第2の殺人を予告してきた・・・~ まさに「これぞ、鬼貫警部シリーズ」とでも言いたくなる作品。 作者が「あとがき」でも触れているとおり、真犯人は作品中盤でほぼ確定し、あとは如何に堅牢なアリバイを崩すのかに移る。 どの作品でもそうですが、とにかく見せ方がうまい。 本作では「被害者の靴」が、真犯人の仕掛けた欺瞞を解く「鍵」になっており、ここが判明すればあとはスルスルと解けることに・・・ 「電話」については、時代を感じさせますねぇ。 (特に、天○と天○の違いなんて、ニクイねぇー。だからこその舞台設定!) ただ、密室(とは言えないかな?)については拍子抜け。 あれだけ鍵の構造について講釈をたれたのですから、もう少し凝ったトリックかと思いきや・・・(あれとはねぇ) まぁ、初心者でも中毒者でも安心して読める作品というのが鮎川ミステリーの良さでしょう。 (今回は「時刻表」は出てこないので、その方面が苦手な方も気軽に読めるのでは?) |
No.3 | 7点 | 空 | |
(2010/01/20 21:30登録) 残り1/4を切ってから、それまでにもちらちら顔を出していた鬼貫警部がやっと自ら乗り出して、犯人の2つのアリバイを崩していきます。 巻半ばで第2の殺人が起こってから、犯人の目星がつくわけですが、実はこの犯人の最初の登場は何となく唐突感があります。小説構成としては最初から怪しい気もするのですが、事件の全体像がわかってみると、犯人の思惑はなるほどと思わせられます。 巧みな偽アリバイ(と密室)を考え出した犯人も最初の殺人を含め、いくつかミスをしています。しかし、それらのミス発見からさらに調査や推理を積み重ねていくことにより、徐々に核心に迫っていくのが鮎川ミステリの醍醐味です。 ただ第2の殺人では、死体が適当な時期に発見されるかどうかが定かではないという点、犯人の計画が偶然に頼ってしまっています。まあ何とかして、いい時期にその場所に警察の注意を引き付けるという手もあったとは思いますが。 |
No.2 | 9点 | 測量ボ-イ | |
(2009/05/10 14:23登録) これはまさしく僕好みの作品です。 密室・アリバイの二重だてで、どちらか片方だけなら弱い 謎の提示が両方ある事で不可能状況を見事に補強していま す。 犯行がちょっとしたアクシデントから発覚するのも氏の作 品ではよくあるのですが、氏の作品の中でもベスト5に入 る出来栄えだと思います。 |
No.1 | 7点 | ギザじゅう | |
(2004/04/02 11:52登録) 『鍵孔のない扉』 (光文社文庫) 鬼貫警部シリーズ 氏の作品の中では評価があまり高くない・・・らしい。 が、犯人の巧緻極まるアリバイも充分良かったし、徹頭徹尾論理に拘るところも嬉しい限り。 ちょっとした事から謎を解く手がかりを得るのはお決まりだが、それがシデ虫や浪曲というのも面白い。 鮎川哲也中期から後期にかけての力作。 |