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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1626件

プロフィール| 書評

No.266 7点 仄暗い水の底から
鈴木光司
(2008/06/08 19:01登録)
7編の水をテーマにした連作短編ホラー集。神奈川県に住む老婆が孫娘に朝の散歩時に一週間お話をするという構成になっている。

映画化された本書。私は映画を観ていないが、恐らく最初の1編「浮遊する水」のみが映像化されたらしい。
確かにこれはおぞましい。最後に吐き気を伴います。

その他『光射す海』の後日譚である海洋奇談が1編収められており、ちょっと得した気分になる。

どれも標準はクリアしているが、やはりページ数が足りていないと感じるものもあった。
あと『楽園』、『光射す海』で使用した題材の再使用も気になる。
意外と懐小さいなぁと思ってしまった。

初めて読むなら十分楽しめる短編集です。


No.265 5点 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件
麻耶雄嵩
(2008/06/08 01:44登録)
この作者、本格ミステリのコードに対して非常に自覚的。
つまりあえてこういう裏を斯く書き方をしているようだ。

驚愕のトリックを好む本格ミステリファンを喜ばすかと思えば、それをあっさりと覆し(オイラはあのトンデモ推理が非常に気に入ったのだが)、あえてマイナーチェンジを行う。
そして最後に本格のコードでは最もありえない人物を第三の探偵に仕上げる当たり、非常に本格に対して嘲笑的だ。

だからもうこの小説には現実味なんて全然考えてないのだ。
単純に思いも知らない真相を提供し、読者の裏を斯く事こそがこの作者の目的なのだから。
みなさんの感想を読んで、あの真犯人が犯罪行えることないだろ!と突っ込んでいたのは64人中たった1人だけだったことから、もうまんまと麻耶氏の掌中に踊らされているなぁと思った。

文章については読みにくいということはあまり感じなかった。
むしろ海外古典ミステリの方が読みにくいだろう。
で、この文章が21歳が書いたとは思えないというコメントが方々で見られたが、オイラにしてみれば、これは21歳ぐらいでないと「書かない」文章だろう。
なぜならこれほどまでに言葉の使い方に無頓着な文章も、ない。
これはとにかく今までの人生で色んな書物を読んで知った難しい単語を、本当の意味、使用方法を考えもせずに、自分の知識の放出というカタルシスを得るがためだけに書かれた文章だからだ。
これはまさにコメントにもいくつか見られたように「頭でっかち」の文章だ。
そしてこれは麻耶氏の罪ではなくて、これを校正し出版する義務がある講談社の罪なのだ。

あとみなさん、このタイトルの意味解りました?
私は解りましたが。
このタイトル自体、本格ミステリ、いや小説そのものをあなどっているかのように思うのですが。
だって全然中身と関係ないですもの。


No.264 7点 光射す海
鈴木光司
(2008/06/06 19:26登録)
精神病院に運ばれた入水自殺未遂の記憶喪失の女性の正体を探るというまっとうなミステリです。

『リング』の時にも感じましたが、謎を少しずつ手掛かりを提示しながら、解き明かしていくプロセスが非常にこの作者は上手いと思います。それもなんの無理や偶然性も感じさせず、小出しに読者に提供し、ページの繰る手を休ませません。

ただ最後がねぇ、ちょっと悪趣味な感じがしました。
でも読んで時間を損した、なんては思わない作品です。


No.263 7点 楽園
鈴木光司
(2008/06/05 18:48登録)
日本ファンタジー大賞受賞作で、作者のデビュー作。
ファンタジーとはいっても、山岳小説、海洋冒険小説、そして地底洞窟への探検といったエンタテインメントがふんだんに盛り込まれているので、これはもうミステリといっても問題ないでしょう。

とはいえ、主題は1000年を越える男女の愛の物語です。輪廻転生を繰り返し、いつか再会を誓う男女は魂の奥底でどの時代においても引き合う力を感じている。『リング』というホラーで有名な作者ですが、こんなロマンティックな作品も書いていたんですね。


No.262 8点 リング
鈴木光司
(2008/06/04 20:40登録)
あまりに有名なこの作品がなくてちょっとビックリ!
ホラーですが、『このミス』にもランキングしているので広義の意味でミステリと判断しました。

いやあ、これは本当に面白い作品ですね。もう謎のビデオテープの発端から、どんどん明かされていくビデオの内容の秘密、そして呪いを打ち砕くために試行錯誤する浅川と高山の冒険行。
エンタテインメントのあらゆる要素が詰まった作品です。
そして後に日本中にブームを巻き起こす貞子のキャラクター性も秀逸。
最後にどかぁーんと明かされるビデオに隠された謎は、よくよく考えると何故気付かなかったのだろう?というくらい至極当たり前な内容ですが、これも作者の手腕のなせる業でしょう。
私は映像作品は見てませんが、本書を読んで、なるほど、これは映像化向きだと得心しました。


No.261 10点 男たちは北へ
風間一輝
(2008/06/03 20:20登録)
自転車旅行を題材にしたロードノベル。作者が行った東京~青森間自転車走破の実体験に基づいているらしい。
それに自衛隊の陰謀を絡めて、単なるロードノベルに終わっていない。

そしてこの無骨な主人公桐沢の魅力にどんどん引き込まれていき、読者は彼と同化し、旅の名残を惜しむように本を閉じることだろう。

作者のデビュー作でありながら、傑作。
多分あなたも私同様、読み終わったら自転車の旅に出たくなるに違いない。


No.260 7点 紫苑の絆
谷甲州
(2008/06/02 20:18登録)
一人の男を求めて、上越国境での鉱山採掘現場からストーリーは端を発し、酷寒の信州の山中での逃亡行。そこから北海道の小樽へ移り、そして一路ロシアのウラジオストクへ。そこでは国境警備隊の一員となり、朝鮮独立運動に加担する反乱軍の討伐を頼まれ、やがてソ連内で勃発する複数の民族間闘争の荒波に否応無く飲み込まれていく。

文庫本上中下巻合わせて1,500ページ弱の壮大なストーリーなのだが、なぜか満腹感がない。
それは同じようなシーンの繰り返しが多いからだ。

色んな要素を詰め込んだにしては展開は単調である。
ただ連続ドラマにすると、かなり面白くはなりそうな題材ではある。


No.259 6点 ジャンキー・ジャンクション
谷甲州
(2008/06/01 19:28登録)
単なる冒険小説と思ったらさにあらず。
なんと「口寄せ」、つまり霊との交信が物語を左右するのだ。

しかし、だからといって非現実的だと切り捨てられないところがある。
舞台はネパールの山中、つまりヒマラヤ山脈である。もっとも神に近いところであり、またネパール、チベット、インドなど、そこいらに存在する国々は神への信仰も厚い。
だからこそこういうありえないことも起きうると受け入れられる。

まあ、それと作品の出来とはまた別の話だが。


No.258 7点 背筋の冷たくなる話
谷甲州
(2008/05/31 23:38登録)
山岳冒険小説、SF小説の旗手、谷甲州が手がけたホラー短編集。この作者には珍しく、日常を舞台にしたものが多かった。

収録作の中では「鏡像」と「三人の小人と四番目の針」が個人的には好き。
まず「鏡像」は恐らく誰もが子供の頃に抱いた鏡の向こうには鏡の世界があるといった原初体験を扱っているのが面白い。
「三人の小人と四番目の針」はよくもまあ、こういうことを考えたものだと感心した。時計の針をそれぞれ家族構成に当て嵌め、語る様は非常にしっくり来ていて面白かった。

谷氏が山岳冒険小説やSF小説だけじゃなく、こんなのも書けるぞ!と高らかに唱え、証明した事が本短編集における収穫だろう。特に子供を主人公に書かせるとこんなに面白い物が出来るのかと驚いた。この路線の作品ももっと読みたい。


No.257 6点 神々の座を越えて
谷甲州
(2008/05/30 20:09登録)
『遥かなり神々の座』の続編。
とにかく全てが長すぎ!
エピソードとして語るべきところまで全て詳細に書いているので自然、物語は長大化する。
これは作者のとにかく自分の知っていることを全て注ぎ込もうという意欲に他ならないのだろうが、その分、贅肉も感じてしまった。
上下巻もいらない内容だと思うが・・・。


No.256 7点 凍樹の森
谷甲州
(2008/05/29 23:30登録)
冒頭の狩猟劇は坂東眞砂子の『山妣』を読んでいなかったら、存分に楽しめただろう。

とはいえ、これはかなりの力作であるのは間違いない。極寒の山中での狩り、列車襲撃シーン、逃亡劇などはこの作者の十八番で、その寒さを肌身に感じさせられるものがある。

しかし、美川の宿敵と想定された庄蔵の役割があまり物語に寄与していないからかなぜか煮え切らなかった。


No.255 6点 黒猫遁走曲
服部まゆみ
(2008/05/28 19:33登録)
『時のアラベスク』、『罪深き緑の死』と重厚かつ濃厚な趣きのミステリを読んだ後で本書を手にしたとき、あまりの軽妙さにえっ、これ同じ作者!?と面食らってしまった。

文庫書き下ろしの本書の著者近影にも写っているように、著者は無類の猫好きらしく、猫をテーマにした本書もそれが故に非常に読みやすいものとなったようだ。

ミステリ的には大したことないが、こういうのも書けるという著者の意外な側面に何よりも驚いた。


No.254 3点 罪深き緑の夏
服部まゆみ
(2008/05/26 21:52登録)
こ、これは辛い・・・。
第1作目のゴシック趣味、少女マンガ趣味をさらに深化させて物語を形成しているが、ほとんど幻想小説だ。
結局どういう話か漠然としか記憶に残っていない。
こういうの苦手です。


No.253 5点 時のアラベスク
服部まゆみ
(2008/05/25 19:35登録)
本書がデビュー作にて横溝正史賞受賞作。
とても新人とは思えないゴシックに彩られた文体、西洋芸術への芳醇な知識に圧倒されたのだが、意外と本作で用いられたトリックは凡庸。
しかも犯人もすぐに解ってしまったし(アナグラム、あからさま過ぎです)。
少女マンガ好きには堪らないミステリかも?


No.252 5点 揺歌
黒崎緑
(2008/05/24 23:40登録)
尾崎豊をモデルにしたと思われるカリスマ男性歌手とそのファンとの恋愛を軸に描いたミステリ。多分ほとんどの人がこの本を読んだ事ないと思う。

音楽好きなオイラにとってはギターに関する薀蓄がツボ。

しかしこのカリスマ歌手の新曲のタイトルがショボイ。
“ししとうルーレット”(←多分あってると思う)なんて曲、誰が買いたいと思うのだろうか・・・。


No.251 7点 白き嶺の男
谷甲州
(2008/05/23 15:08登録)
加藤武郎と久住浩志という2人の男たちの関係について訥々と語られる連作短編集。

この短編集には登山の困難さが経験した者でしか解らない迫真のスリルとリアリティで語られるところにある。それぞれの1編は40~50ページぐらいの長さながら、そこに書かれる登山の息苦しさは正に登山が死と隣り合わせのスポーツである事を濃厚に物語る。

登山家でもある著者ならではの登山での特殊なエピソードは肌身に皮膚感覚に訴える物があるが、短編だからかちょっと物足りなさも感じた。


No.250 7点 遥かなり神々の座
谷甲州
(2008/05/18 00:20登録)
「山男には惚れるなよ」という唄があるが、それを地で行く主人公の造形に圧倒された。
やっぱり登山家というのはある意味人生破綻者なのかもしれない。

そしてこの主人公がヒマラヤ登山で出くわす事件から、ニマという男を通じて戦士になっていく過程もなかなか読ませる。

しかし最後のくどいくらいのどんでん返しは不要じゃないかな~。
最後にどっかーんと爽快感がほしかった。


No.249 8点 神祭
坂東眞砂子
(2008/05/16 23:18登録)
この人は長編も短編も非常に巧い!
5編中、首を切った鶏が消える奇妙な話の表題作、ミズヨロロという忌み鳥を食べたがために疎外された未亡人の話「火鳥」、そして村役場の課長が失踪して、ときおり姿を見せるという「隠れ山」の3編がベスト。
よくもこんなの思いつくなぁとひたすら平伏。

初期作品は情念のこもった作品ばかりだったが、ここまで来ると物事をありのままに受け入れ、不思議を不思議として捉えるといった、肩の力を抜いた作品も目立ってきた。
順番に読んできて、作者の変遷がわかり、非常に面白かった。


No.248 7点 道祖土家の猿嫁
坂東眞砂子
(2008/05/15 22:58登録)
猿そっくりの風貌から猿嫁と呼ばれるようになった蕗の一生を描いた作品。
連作短編のようなつくりになっており、各章の話が蕗のある時点でのエピソードを語るような構成になっている。

いやあ、この主人公ほど報われない女性もいないだろうと思わせる読後感。
見合いした当初から夫に嫌われてしまうのだから、夫婦間の愛情のない結婚なのだ。
92歳に吐露する心情がまた哀しい。女としてセックスの悦びを知らずに一生を終えてしまうのだから。

よくもまあこんな残酷な物語が書けるなぁとこの作者にあらためて畏怖してしまった。


No.247 9点 旅涯ての地
坂東眞砂子
(2008/05/13 22:57登録)
作者自身初めて海外を舞台にし、さらに初の歴史小説であるという初物づくしの大作。

緻密なまでの当時の風景描写になかなか馴染めなかったが、上巻後半の急展開からページを繰る手が止まらないほどだった。
そして上巻を読み終わったときに、物語は全て終わったように感じ、下巻の同じくらいの厚さを見たときに、何が残っているのだろうと思ったが、これがまたすごい話だった。

最後はなんともいえない虚無感が漂う。しかし、傑作である。
唯一、主人公の夏桂の信条に関して語りすぎだったのが小さな瑕だった。

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