home

ミステリの祭典

login
sophiaさんの登録情報
平均点:6.94点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.270 7点 あと十五秒で死ぬ
榊林銘
(2021/03/02 23:21登録)
●十五秒 8点・・・被害者と犯人の攻防を視点の切り替えのみならず、時系列の操作も用いて意外な着地点へ誘った傑作。
●このあと衝撃の結末が 5点・・・構成が凝り過ぎていていまいち入り込めませんでした。
●不眠症 5点・・・ガラッと趣向を変えてヒューマンドラマ寄りにしてきましたが、後味がよくない。もっと希望を感じさせるオチにしてほしかったです。
●首が取れても死なない僕らの首無殺人事件 8点・・・当初思っていたよりもコミカルな話で楽しく読めました。

個人的に評価の二分される四編となりました。「このあと衝撃の結末が」は作者が作った複雑な迷路をゴールまでクネクネ引っ張って行かれているようで疲れました。推理も予定調和かつ牽強付会な感じがします。特に電話番号の件にもっと根拠が欲しかったです。「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」はミステリーとしても友情物語としても面白かったです。××の指紋は採取してなかったのかという疑問はありますが。しかしまあ、この島の犯罪捜査において指紋やDNAに意味はあまりなさそうですね(笑)


No.269 7点 教室に並んだ背表紙
相沢沙呼
(2021/02/21 21:36登録)
中学校の図書室を舞台にした連作短編です。毎話主人公が変わり、それぞれに悩みを抱えて図書室を訪れます。ミステリー色はほぼありませんが、司書の「しおり先生」の言葉が心に染みるいい作品だと思います。以前登場した人物を再び違う視点から描く構造も効いています。しかし女子校かと思うぐらい、ほとんど女子しか登場しません(笑)


No.268 10点 孤島の来訪者
方丈貴恵
(2021/02/18 00:13登録)
まずこの世界観で想起するのは「ターミネーター」「プレデター」「寄生獣」あたりです。前作「時空旅行者の砂時計」もそうでしたが、ともすれば何でもありになってしまいかねないSF要素に制約を設けて、本格ミステリーの枠に収めるのに長けています。話も前作ほどの難解さはなく、それでいてサバイバルゲームの要素も増え一層引き込まれました。「読者への挑戦」の前にちょっと考えてみましたが、断片的には当てることの出来た部分もありましたが全容解明はとても無理でした。いや、よく練られたプロットで伏線の配置も見事です。敢えて挙げる難点は、人類の存亡まで懸かった事態の深刻さの前に、主人公の復讐計画が霞んでしまったことぐらいでしょうか。前作にはサービスしての9点を付けましたが、今作は正真正銘の10点を差し上げます。


No.267 9点 時空旅行者の砂時計
方丈貴恵
(2021/02/10 18:23登録)
中盤にマリスやらカシオペイアやらが出てきたときには、ここまで細かく積み重ねてきた伏線が無視されてほぼSFになってしまうのではないかと危惧しましたが、最後まできちんと本格ミステリーをしていました。世界観はスケールが大きく難解で、事件に関する情報量も多くて整理していくのが大変にも関わらず、一気に読ませる力があります。この作品の全てを理解できたわけでもありませんし、こじつけのような見立てが必要なのかなどと考えると点数を付けるのは非常に難しいのですが、SFマニアであろう著者の意欲を買ってこの点数とします。


No.266 8点 楽園とは探偵の不在なり
斜線堂有紀
(2021/02/06 00:07登録)
天使崇拝や探偵の存在意義などその辺りの話は抽象的でよく分からないのですが、ミステリー部分は設定の枠内で最大限の意外性を作り出しており、良く出来ていると思いました。ただ残念な点がひとつ。それは解決編における犯人の名指しが早すぎることです。もっと引っ張ることが出来たでしょう。


No.265 7点 検察側の罪人
雫井脩介
(2021/01/31 23:59登録)
最上が私情と職責の狭間で苦悩する姿が描かれるものと思っていたところが私情一直線の大暴走で、ちょっぴり安いクライムノベルになってしまった気がします。罪の露見もあっさりとしたもので、こうなるだろうなあという予定調和で終わってしまいました。テーマは深いものがありますし熱い作品なのですが、惜しい仕上がりでした。とにかくもう少し最上に共感させてほしかったです。


No.264 8点 蟬かえる
櫻田智也
(2021/01/18 17:08登録)
●蝉かえる 9点・・・モチーフは2016年の熊本地震ですかね。
●コマチグモ 7点・・・よく出来た時系列パズル。
●彼方の甲虫 8点・・・架空の宗教の設定が上手い。
●ホタル計画 8点・・・そいつの方ですか(笑)
●サブサハラの蠅 7点・・・メイントリックはそう目新しいものではないですけども。

前作を超える粒ぞろいの作品群。表題作は殊に抜きん出ています。土地の信仰や風習、災害ボランティア活動の在り方など様々な要素が絡み合って謎を作り、ドラマを作っています。他四作も良かったのですが、最初の話が良すぎたというのはあるかもしれません。亜愛一郎とは違い魞沢には自我の描写が増えてきましたが、今後このシリーズをどう展開させていくのか楽しみです。


No.263 7点 サーチライトと誘蛾灯
櫻田智也
(2021/01/11 02:10登録)
●サーチライトと誘蛾灯 6点
●ホバリング・バタフライ 7点
●ナナフシの夜 6点
●火事と標本 6点
●アドベントの繭 7点

泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズへのオマージュの念は否が応でも伝わってきます。神出鬼没のとぼけた探偵のキャラ造形、随所に軽妙なユーモアを交えているのも同じです。そんな中で事件と虫を毎回絡めているのは著者ならではのプラスαです。ミステリーとしての出来はどの話も大差ないのですが、そのプラスαでしみじみとした読後感の作品群に仕上がっています。特に「ホバリング・バタフライ」と「アドベントの繭」の2編が気に入りました。この分なら「蝉かえる」にも期待できそうです。


No.262 7点 アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿
澤村伊智
(2021/01/06 17:55登録)
全7話から成る連作短編集。初めの5話はあまり面白くありませんし、鬱陶しい喋り方のキャラにも苛つかせられますが、途中で投げ出してはいけません。この作品はラスト2話のための作品であり、途中のエピソードを伏線として使うという、連作短編集の見本のような作りです。終わりよければ全てよしで1点プラスしておきます。しかしこれジャンルは何でしょう。ホラーっぽい雰囲気はありますが、日常の謎でしょうか。


No.261 8点 揺籠のアディポクル
市川憂人
(2020/12/08 19:07登録)
事件を契機に隔離病棟の主人公が動き始め、外界を知ることで真実が明らかになる構成です。引き込まれます。M・ナイト・シャマラン監督の映画のようです。殺人事件の真相は読者が色々考える内の一つでしょう。何せ登場人物が四人しかいませんから。しかしこの作品の肝は犯人当てではありません。嵐のせいで何が起こったのか、そのせいで登場人物の運命がどう変わったのか、そして何を考えたのかです。初めは9点ぐらい付けようかと思ったのですが、マイナス1点したのは、主人公の××××がちょっと都合よすぎるかなと思ったからです。それでも退廃的な世界観においてのラストは切なく美しいです。美しすぎました。


No.260 7点 この本を盗む者は
深緑野分
(2020/11/30 17:36登録)
相変わらずの描写の細かさの上、今回はファンタジーなので、斜め読みの技術と想像力が要求されるというなかなか難しいことになっています。何でもありの魔術世界で、なぜそうなるのかなどは深く考えずに雰囲気を味わうというのがこの作品の正しい楽しみ方なのかなと思います。そうです、これは「千と千尋の神隠し」です。真白の役割や正体はハクに通じるものがありますしね。正直に言って一つ一つのエピソードはそう面白いものではないので、この作品に対する評価は全体の骨組みに対するものになり、特に最後に明かされるブック・カースの正体に驚けるかどうかに懸かってくると思います。作者本人の弁の通り自由すぎる作品なので、ミステリーとしての評価はそれ程でもありませんが、読後感のいい作品でした。でも、本嫌いの人にはあまり読ませない方がいいかもしれません(笑)


No.259 6点 汚れた手をそこで拭かない
芦沢央
(2020/11/07 23:06登録)
●ただ、運が悪かっただけ 5点
●埋め合わせ 7点
●忘却 6点
●お蔵入り 6点
●ミモザ 4点

各短編の核になるアイディアは悪くないのですが(最終話を除く)、ストーリー運びが淡泊ですし、真相が分かってからのオチがいまいちです。同じようなことは「許されようとは思いません」でも感じました。ただ、この方の作風は好きなのでもう一皮剥けることを期待します。


No.258 8点 闇に香る嘘
下村敦史
(2020/11/01 21:45登録)
「中国残留孤児」「視覚障害者」「腎移植」という三つの社会的テーマを組み合わせていくつもの謎を作り出し、一つの壮大なミステリーに仕立て上げています。伏線を逐一記録して整理していかないと頭の中がハテナマークだらけになること必至の複雑な話です。読み返してみると成程、出自の部分の語りは完全に省いてあります。これは読者に対して公正を期すためだと考えられますが、本人はそう認識していたという体で語らせておいてもよかったのではないかと思いました。あとは満州で戦死した(?)父親のことにもっと触れてあげて欲しかったことと、夏帆が八歳には思えなかったので年齢設定を上げて欲しかったことを記しておきます。


No.257 5点 真夜中のたずねびと
恒川光太郎
(2020/10/23 00:36登録)
どの話も途中までは面白いのですが着地がいまいちです。現実的なサスペンスを描きたいのか、死者が蠢くようなホラーを描きたいのか、どっち付かずになってしまっています。どの話もあまり印象に残りませんし、各タイトルも的を射てはいません。この方はファンタジー色が強い作品じゃないと本領が発揮されないように思います。


No.256 6点 僕の神さま
芦沢央
(2020/10/18 18:33登録)
小学生版の「本と鍵の季節」といったところですが、この二人がなぜ仲が良いのかあまり分からないです。目玉エピソード「夏の「自由」研究」は論理の飛躍が気になりました。


No.255 9点 マツリカ・マトリョシカ
相沢沙呼
(2020/10/11 21:12登録)
各人の推理が次々に披露される現代の密室談義が面白く、近年になくほぼ一気読みしてしまいました。この作品は犯人も動機もほぼオープンにされているようなものですが、密室トリックが皆目見当が付かないというものです。真相は一度ボツになった推理の応用になっているというのが実に高度でした。
ちなみにこの作品は前二作を読んでから読むのがお勧めです。シリーズのレギュラーメンバーみんなに見せ場があり、どうも物足りなかった前二作でコツコツと積み上げたものは全てこの作品の為のものだったのだと思わされました。特に主人公の成長が嬉しいです。


No.254 6点 マツリカ・マハリタ
相沢沙呼
(2020/10/06 23:53登録)
全編通してのテーマであり、最後に明らかになる「一年生のりかこさん」の怪談および松本梨香子の正体の切れ味がどうもよくありません。情報を錯綜させすぎたせいでしょうか、年表でも作らないと事のあらましが掴みにくいかもしれません。初めの2話の時点では前作を超えたかと思いましたが、結局同じくらいの評価になりました。


No.253 6点 マツリカ・マジョルカ
相沢沙呼
(2020/09/18 00:21登録)
ミステリー小説としては中身が薄いです。そもそも扱う事件自体が「こんな事件があったんじゃないか」という推測に基づくものが多く、実体が見えにくいので読み応えに乏しいです。あまり事件に関係のない叙情的な描写も多いですしね。それでも最終話のサプライズで幾分取り返したかと思いましたが、伏線となった彼女との思い出部分を読み返してみると、フェアとはちょっと言い難い気がします。怪談が事件につながったのは1話目だけですね。3話目のゴキブリ男は少しは事件に絡めてほしかったです。ただ全体としてこういう緩い作品も箸休めとしてはいいのかなと思ったりもします。6点が付けづらい流れですが、まあ5点に近い6点ということで(笑)


No.252 7点 罪人の選択
貴志祐介
(2020/09/11 23:44登録)
●夜の記憶 4点・・・習作にもほどがある。
●呪文 6点・・・竜頭蛇尾。「Nintendo」には笑いました。
●罪人の選択 8点・・・二段構えのデスゲーム。さすがは表題作。面白い。
●赤い雨 8点・・・今の世相にマッチしたパンデミックもの(?)サスペンスとしても一級品。後半法廷ミステリになっちゃいましたが。

著者の短編集は初めて読みました。後半2つがよかったです。「夜の記憶」は加筆修正した方がよかったのではないかと思いますが、本格デビュー前の作品とのことで、そのまま載せることに意義があったのですかね。それと関係ありませんが、著者の作品の主人公は本当によくセックスをしますよね(笑)


No.251 5点 火のないところに煙は
芦沢央
(2020/09/04 23:59登録)
連作短編ですが、消化不良の話が多くてやきもきしますし、かと言って最後に1話1話に立ち戻って保留した謎を鮮やかに解き明かしてくれるわけでもありません。がっかりです。1話単位で少しでも面白いと思えたのは「誰かの怪異」ぐらいでしょうか。

370中の書評を表示しています 101 - 120