home

ミステリの祭典

login
楽園とは探偵の不在なり

作家 斜線堂有紀
出版日2020年08月
平均点7.29点
書評数7人

No.7 9点 zuso
(2023/12/04 22:11登録)
この作品には天使が登場する。二人殺した者を地獄に落とす天使。この天使が無数に降臨してきた結果、世界は変わった。そんな世界において、ある孤島の館で連続殺人らしき事件が発生する。誰がどうやってこの事件を成立させたのか。島に招待されていた探偵が真相解明に挑む。
解明される論理の面白さとともに、徐々に明かされる探偵の過去も興味深い。そしてこの事件の後の探偵の心も、読み手の心に響く。

No.6 8点 パメル
(2023/02/05 07:38登録)
探偵の青岸焦は、天使の祝福を信じ取り憑かれている大富豪の常木王凱に「天国が存在するか知りたくないか」という言葉に誘われ、天使が群生する孤島「常世島」の彼の邸宅を訪れる。五年前、ある事件で同僚たちを失った青岸は密かに天国の在処を探っていたが、探偵仕事を通じて知り合った常木がそれを察して自分の島に呼んだのだ。
島では常木と彼の仲間、代議士、天国研究家、記者、医者など「天国狂い」の癖のある人物が集まり会合の予定だったが、外界との行き来が閉ざされたこの場所で、連続殺人事件が起きてしまう。
この世界には、コウモリに似た翼をもつ灰色の天使が降臨していた。天使といっても見た目は不気味で、その正体も本当に神に遣われたのかどうか定かではない。二人以上を殺した者は、天使によって即座に地獄に堕とされるようになってしまった世界で、起きないはずの連続殺人が起こってしまうという大きな謎がある。この世界のルールを無視した連続殺人は可能なのか。果たして犯人は誰で、いかなる目的と方法で犯行を続けているのかという、フーダニット、ホワイダニット、ハウダニットと謎が多く魅力的である。
人の推理や裁きに意味がない環境で、探偵にできることはあるのか。何とも人を喰った設定だが、細部まで工夫されていてリアリティもあり、正義を目指すという志に燃える青岸探偵事務所の悲劇も倫理的なドラマ性を高めている。
特殊な世界、孤島、館、怪しい人々、連続殺人。ガジェットだけでなく、並行して語られる青岸の過去の物語も、この物語をただのパズルで終わらせない深みのあるドラマに仕立て上げている。

No.5 6点 okutetsu
(2022/11/28 19:37登録)
二人以上殺せないはずの世界で連続殺人が起こるという設定が面白い
天使というギミックもいい

解決編も鮮やかで嫌いではないが、さすがに無理があるようなところも多いと思う
そもそもどう考えても苦労して連続殺人に仕立て上げるより全員いっぺんに殺したほうが効率的だ。
争場だけは地獄に落としたかったと言ってたけど争場だけ特別恨む理由もよくわからない。

あと文章が青臭いなと思った。でもそこは好きな要素でもあるので変わらないでほしいとも思う。

No.4 7点 虫暮部
(2021/11/30 12:43登録)
 世界の変貌を描いたSF。ミステリ要素は物語を進める為の装飾に思える。何も悪いことではない。面白ければジャンル認定なんてどうでもいいのである。
 EQの名を出したのは“操りテーマ”を意識してのことだろうか。 

No.3 8点 文生
(2021/09/23 18:00登録)
何をもって人を殺したと判断するかという定義が曖昧など、本格ミステリとしては粗いところはありますが、2人殺すと天使によって地獄に引きずり込まれるという終末感あふれる世界観には大いに引き込まれていきました。また、そうした特殊設定を利用したトリックもなかなかにユニークです。個人的には元ネタのSF小説『地獄とは神の不在なり』よりも面白かったです。ただ、癖が強い作品なので人によって好みが大きく分かれそうではあります。

No.2 8点 sophia
(2021/02/06 00:07登録)
天使崇拝や探偵の存在意義などその辺りの話は抽象的でよく分からないのですが、ミステリー部分は設定の枠内で最大限の意外性を作り出しており、良く出来ていると思いました。ただ残念な点がひとつ。それは解決編における犯人の名指しが早すぎることです。もっと引っ張ることが出来たでしょう。

No.1 5点 HORNET
(2020/12/30 20:40登録)
 ある日世界に「天使」が降臨した。顔のない頭部に長い手足、蝙蝠のような羽根と、見た目はグロテスクだが、彼らは2人以上の殺人を犯した者を地獄に落とす。それが逆に「一人までは殺せる」という不文律を生み、凶悪事件は却って増える傾向に。そんな社会状況の中、探偵・青岸焦は天使に異常な執着をする大富豪・常木王凱に誘われ、天使が集まる常世島を訪れることに―

 「1人までは殺せる、2人以上になると地獄行き」という特殊設定を生かしたミステリの仕組みは確かに面白かったが、主人公・青岸の芝居じみた心象描写はちょっとうるさく、なんだか「早く読み終えてしまいたい」という気持ちになってしまった。各ミステリランキングで高評価を得ているが、自分的にはそこまで特に秀でた印象はなかった。

7レコード表示中です 書評