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ミステリの祭典

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オーブランの少女

作家 深緑野分
出版日2013年10月
平均点7.18点
書評数11人

No.11 6点 蟷螂の斧
(2022/03/01 09:06登録)
①オーブランの少女 7点 美しい庭園での老女の殺人事件。老女の若し頃の日記には・・・殺人の動機。乙女チックな雰囲気なのに残酷
②仮面 5点 少女のために医師は殺人を犯すが・・・ロリコンっぽい。ある謎がそのままでモヤモヤ感が残る
③大雨とトマト 7点 大雨の日、料理店に少女が現れ、父親を捜しているという・・・短篇らしいオチ
④片思い 4点 女子寮の女高生にはある秘密が・・・女高生の雰囲気はよく描かれていますが、ミステリーとしては?
⑤氷の皇国 8点 幼い皇太子を毒殺したと二人の娘が捕らえられた。それぞれの父親は・・・究極の選択

No.10 9点 ミステリーオタク
(2022/02/05 15:26登録)
十九(?)~二十世紀の五つの国を舞台にした五つの「少女たちの」サスペンスミステリー。

《オーブランの少女》
この上なく異様で不可解な殺人事件の真相として語られる物語。
色彩に満ちたおとぎ話のような世界に事が起こり始め、やがて構図の変転を現してくる。
個人的には「アレの意味」に気づけなかったのは悔しいが、非常に印象深い作品。

《仮面》
これもグイグイ読ませてくれて、3分の2ぐらいのところで事件の全貌が見えるが、その後のドス黒さで読後感はかなり悪い。

《大雨とトマト》
二十数ページ、ワンシーン+αの中にスパイシーなネタが小気味よく仕込まれたナイスなショートミステリー。
表題作に続いて「あのヒント」に気づけなかったのは悔しい。
この作品では人物名や地名の記載が一切ないため、どこの国の話かはっきりとは分からないが何となくイタリアかな。

《片想い》
ないかと思っていた日本のお話。舞台は昭和初期の高等女学校。
他作に劣らずトリッキイなストオリイではあるが、本作では作者はトリックより成長途上の女の子達の情緒描写に魂を込めていたようだ。

《氷の皇国》
最後は北欧からの童話チック・ミステリー。100ページを越える中編作品。
出てくる地名は全て架空のもので、歴史の話や国の体制も全くの創作のようだが、地理的な舞台は恐らくノルウェーを想定したものと思われる。表題作同様、色彩感覚に満ち溢れた過酷なフェアリーテール。


う~ん、これほど完成度が高い作品集に出会ったのは久しぶりだ。
作者は芦沢央さんと同じく30代で、同じように魅力的な女性だが二人ともミステリー慣れした読者をも唸らせるような作品をポンポン生み出してくる。
これからもこういう作家が次々と世に出てくることを切に願っています。

No.9 8点 sophia
(2021/06/06 19:14登録)
●オーブランの少女 8点・・・時代や民族などの背景を隠したのが巧み
●仮面 7点・・・気分が悪い(笑)
●大雨とトマト 7点・・・洒落が利いていてコンパクトにまとまった好編
●片想い 8点・・・なぜか急に朝ドラに
●氷の皇国 8点・・・展開の読めない一大叙事詩

古今東西を舞台にして少女を主役に立てた粒揃いの短編集。初めの2つを読んだ時点ではいわゆるイヤミス集なのかなと思っていましたが、「大雨とトマト」はコメディタッチで、そして「片想い」は女学生の切なくも爽やかな青春を描いてきました。著者の作風の多彩さには感心するばかりです。「氷の皇国」は「オーブランの少女」と構成が似てしまっているのですが、間に毛色の違う話を挟んだことであまり気にならないようになっています。収録順もよかったですね。著者は近年は専ら長編を書いておりそちらも傑作揃いなのですが、是非またこういう短編集も書いてもらいたいものです。

No.8 7点 まさむね
(2018/10/21 22:46登録)
 「少女」という共通テーマはありつつも、各々異なる舞台や時代を設定し、巧みに活かしています。ミステリ要素云々は措きつつ、どの短編も次々にページをめくらされました。デビュー短編集としては、出色の出来と言えるのではないでしょうか。
 ベストは、やはり表題作の「オーブランの少女」。「仮面」の深さ、「大雨とトマト」の奇妙な味わい、「片想い」の女学生心理、「氷の皇国」の切なさと雰囲気も捨てがたく、いずれも高水準でしたね。

No.7 6点 tider-tiger
(2018/09/29 01:47登録)
各短編それぞれ異なる雰囲気があり、そこにミステリ要素を持ち込んでいる。でも、ミステリ的な部分はあってもなくてもいいような感じ。
すべて少女の物語であるが、舞台はすべて異なる。それぞれの舞台の雰囲気がよく出ている。
他の作品で人並さんが仰っていた『たぶんこの作者は、語りたい、描きたい題材をしっかり手の中に掴み切ってから筆を動かした方がいい気がする』との御意見に同意。
この人ははったり効かせてセンスだけでガンガン書いていけるタイプではなさそう。ゆっくりじっくり時間をかけてよい作品を生み出していって欲しい。
以下 ネタバレなしの各編へのコメント

『オーブランの少女』こういう世界観からいきなりそのネタをぶちこんでくるのか! 予想外で驚いた。面白かった。リボンの秘密がやや拍子抜けだった。この作者の可能性をもっとも感じた作品。7点
『仮面』際立った欠陥はないしさらさらと読めるのだが、これといった美点もなかった。おまけの5点
『大雨とトマト』本短編集で二番目に好きな作品。オチは読めたが、この小品はセンスがいい。完成度でもこれがベスト。心理描写が楽しかった。6点
『片想い』実際のところは知らないが、昔の女学生ってこんな感じだったんだろうなとは思う。本作も登場人物の内面が面白く描かれていて引き込まれる。ミステリではないが、ミステリ要素が作品にもっともうまく溶け込んでいるのはこれだと思う。物語も面白い。6~7点 
『氷の皇国』物語の大枠はそんなに悪くない。氷の国の生活がけっこう細かく書かれていて(リアリティがあって)雰囲気があった。なのに暴虐の皇帝とその周囲にリアリティがなさ過ぎる。寒い国の生活だけではなく、暴君とはいかなるものなのかもきちんと調べてみるべきだったと思う。それから後半部分は推敲不足ではないかと感じた。これを読んでいたらガラスの仮面の作中作を思い出した。おまけで5点

No.6 6点 makomako
(2017/07/09 07:40登録)
一番良かったのが、表題のオーブランの少女でした。
 私は不勉強にて作者のことが全く分からないのですが、名前からすると男か女かわからない。でも内容は圧倒的に女性の視点ですのできっと女性なのでしょう。外れていたらごめんなさい。ダメなやつとおしかりください。
 きれいなところが実はドロドロした歴史を持っていたという表題作はまあ面白く読めましたが、以後の作品は全然話は違うのですが、似たような感覚で、だんだん読むのが面倒になってしまいました。
 このサイトの評ではかなり好評なのですが、私はあまりピンときませんでした。

No.5 8点 HORNET
(2017/05/09 21:23登録)
 直前の、虫暮部さんの「この作者にとって、ミステリは目的ではなく手段」という書評がまさに言い得て妙、的を射てらっしゃると思った。
 古今東西様々な舞台設定で物語を編み上げる作者の筆力と見識は見事。無駄なく構成された展開も見事で、一冊で幅広く楽しめると感じる。そうした物語全体としての仕組みや構成が作品の味であり、ミステリはその骨組みの一部という感じが強い。
 私も「片思い」がイチ押し。ほろ甘い独特の乙女心が描かれていて、読み物として非常に面白かった。

No.4 6点 虫暮部
(2017/04/14 10:19登録)
 物語の骨格は古典的だが諸々の味付けが非常に巧み。と言う褒め言葉はそのまま批判でもある。この作者にとって、ミステリは目的ではなく手段なのだろう。その前提で読めばなかなか高水準の短編集だが、私はもう少しミステリ的な捻りの効いたものが好きなので……「片想い」のキャラクターは良かった。

No.3 6点 メルカトル
(2016/12/01 22:07登録)
どの作品も文芸としては一流かもしれないが、ミステリとしてはいささか薄味。しかしながら、どれもなかなかに印象深いのでもっと高得点を付けるのに吝かではないのだが、いかんせんミステリ要素が薄く・・・。
例えば表題作『オーブランの少女』などは、導入部に関しては申し分のない吸引力を持って読者を引き付けるので、その後の展開が物凄く期待できるが、結局謎解きはほとんど皆無であり、起こったことをそのまま書き連ねているに過ぎず、個人的には望んでいない方向へ行ってしまった感が強い。実に勿体ないと思う。
また最終話『氷の皇国』は全般的に引き締まった好編だが、やはり謎解きが中途半端だし、犯人もあまりにミエミエでせっかくの素材が台無しになってしまっている。まあそれを差し引いても高得点は堅いのだけれど。
というわけで、私としては作者の力量は認めるが、このサイトでの採点はこの程度で致し方ないのだ。今後の活躍に期待したい作家ではある。

No.2 10点 Tetchy
(2016/11/18 23:53登録)
いやはやこれまたすごい新人が現れたものだ。洋の東西を問わず、しかも現代のみならず近代から中世まで材に取りながらも、まるで目の前にその光景があるかのように、さらには色とりどりの花木や悪臭などまでが匂い立つような描写力と、それぞれの時代の人間たちだからこそ起きた事件や犯罪、そして悲劇を鮮やかに描き出す深緑野分の筆致は実に卓越したものがある。

プロットとしては正直単純であろう。表題作は美しい庭に纏わるある悲劇の物語で、次の「仮面」は不遇なメイドの救済のための殺人計画と思わせた殺人工作。「大雨とトマト」はある雨の日の出来事で「片想い」は女子高生の淡い友情物語。そして「氷の皇国」は流れ着いた死体に纏わるある悲劇の物語。既存作品に着想を得て書かれたものだとも解説には書かれている。

しかしこれらの物語に鮮烈な印象を与えているのは著者の確かな描写力と物語を補強する数々の装飾だ。そして鮮烈な印象を残す登場するキャラクターの個性の強さだ。従って単純な話であっても読者は作者の目くるめくイマジネーションの奔流に巻き込まれ、開巻すると一瞬にしてその世界の、その時代の只中に放り込まれ、時を忘れてしまう。濃密な時間を過ごすことが出来るのだ。
それはまるで作者が不思議な杖を振るって「例えばこんな物語はいかがかしら?」としたり顔で微笑みながら見せてくれるイリュージョンのようだ。

収録された5編は全て甲乙つけ難い。どれもが何らかのアンソロジーを組めば選出されてもおかしくないクオリティに満ちているが、敢えて個人的ベストを選ぶとすると表題作の「オーブランの少女」と「片想い」の2作になろう。
この2作に共通するのは女性の友情を扱っている点にある。表題作はまさに死線を生き長らえた2人の女性が決意の上、秘密の花園を生涯かけて守り抜き、そして彼女たちに悲劇を与えようとした女性の長きに亘る復讐という陰惨さがミスマッチとなって得難い印象を刻み込む。
後者は何よりもなんとも初々しい昭和初期の女子高生たちが築いた友情が実に眩しくて、郷愁を誘う。
多感な時期に得た友情は唯一無比で永遠であることをこの2作では教えてくれるのだ。

他の3作も上で述べたように決して劣るものではない。「仮面」ではアミラという女性に隠された過去に非常に興味が沸き、「大雨とトマト」の場末の安食堂の主人の家族に起こるその後の騒動を考えると、嵐の前の静けさと云った趣が奇妙な味わいを残す。掉尾を飾る最長の物語「氷の皇国」の北の小国で起きたある悲劇の物語も雪と氷に囲まれた世界の白さと氷の冷たさに相俟って底冷えするような余韻をもたらす。
そしてこれら5作に共通するのは全て少女が登場することだ。それぞれの国でそれぞれの時代で生きた少女の姿はすべて異なる。

ある意味これらは少女マンガ的題材とも云えるが、繰り返しになるが一つ一つが非常に濃密であるがゆえに没入度が並大抵のものではない。どっぷり物語に浸る幸せが本書には詰まっているのだ。
物語の強さにミステリの謎の強さが釣り合っていないように思えるが、それは瑕疵には過ぎないだろう。私は寧ろミステリとして読まず、深緑野分が語る夜話として読んだ。ミステリに固執せず、この作者には物語の妙味として謎をまぶしたこのような作品を期待したい。
もっと書きたいことがあるはずだが、今はただただ心に降り積もった物語の濃厚さと各作品が脳内に刻んだ鮮烈なイメージで頭がいっぱいで逆に言葉が出てこないくらいだ。

こんな作者がまだ現れ、そしてこんな極上の物語が読めるのだから、読書はやめられない。実に愉しい読書だった。

No.1 7点 kanamori
(2013/11/25 18:43登録)
ミステリーズ!新人賞佳作の表題作をはじめ5編の中短編を収めたデビュー作品集。さまざまな国や時代を背景にしていて、作風も個々の作品で異なりますが、いずれも”少女”に纏わる謎を描くという点で共通しています。

なんといっても表題作の「オーブランの少女」が印象に残る。外界から隔離された美しい庭園がある施設を舞台にしたゴシック小説風の物語のなかの、秘められた真相はかなり衝撃的。
中世ヨーロッパをイメージさせる架空の厳寒の王国を舞台にした中編「氷の皇国」も物語性豊かで、非情な裁判劇がスリリング。長編で読みたいと思わせる濃密さがあった。
他の作品は、ヴィクトリア朝の英国、昭和初期の日本の女学校を背景にしたもの、場末の安食堂を舞台にした小品な一幕劇と、バラエティ豊かでいずれも新人とは思えない筆力を感じた。(今後の期待値込みで+1点)

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