home

ミステリの祭典

login
sophiaさんの登録情報
平均点:6.94点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.330 7点 灰かぶりの夕海
市川憂人
(2023/04/11 23:25登録)
ネタバレあり

「揺籠のアディポクル」と似通っていますが、どこが似通っているのか書くと致命的なネタバレになってしまうのでさすがに書けません。これはみんな騙されるのではないでしょうか。とは言え騙しを成立させるために主人公が情報をかなりの部分隠しているところが文句なしの高評価とはいかなかった所以です。プロローグで語られている前置きも限りなくアウトに近いですし。しかしながら、そのような難点もラストシーンの感動で許しちゃおうかなあと悩むところも「揺籠のアディポクル」と同じです。特に今作は新海誠監督の映画みたいですね、うん。
余談ですが、2021年時点で20歳の主人公が千円札のことを野口英世ではなく夏目漱石と表現することに違和感があったのですが、特に伏線ではなかったようですね。


No.329 7点 サクリファイス
近藤史恵
(2023/03/22 00:00登録)
必要最低限の風景描写しかされていませんし、物語自体もコンパクトにまとまっていて読みやすかったです。過去の事件を絡めて不穏な空気を醸成していくのが上手く、サスペンスとしても読めたのですが、やはり他の選手のためにそこまで自己犠牲の精神を持てるものなのかという大きな疑問は付きまといます。心変わりするに至った経緯をもっと描いてくれると得心がいったかもしれません。


No.328 7点 十字架のカルテ
知念実希人
(2023/03/14 18:53登録)
十字架から逃れようとする者、十字架を背負おうとする者、被疑者の視点、家族の視点、実に色んなパターンが網羅されていて、精神科ミステリーの王道ともいえる連作短編集です。特に最終話のどんでん返しにはぞっとさせられました。注文を付けるとするならば、凛だけではなく、影山が精神科医を志した理由なども語られると物語にもっと深みが出たのかなと思います。


No.327 7点 君のクイズ
小川哲
(2023/01/22 23:44登録)
ネタバレあり

構成はどうしてもアカデミー賞映画「スラムドッグ$ミリオネア」がちらつきましたが、真相は真逆になっているのかなと思いました。クイズという競技の戦い方やプレイヤーたちの矜持なども描かれており、200ページ足らずの作品とは思えないほどの読み応えがあったのですが、「本庄絆は最終問題でなぜあのような答え方をしたのか」という最大の謎の答えが想像を超えてこなかった感じです。


No.326 4点 11 eleven
津原泰水
(2022/11/21 23:57登録)
先日訃報が流れた方。筆力が評価されている方のようですが、私にとっては異様に読みにくい文体で、斜め読みしない限りとても読み進められませんでした。内容も説明不足で起承転結のはっきりしない、言っては何ですが雰囲気だけの独善的なエログロ作品集で、読む人をかなり選ぶ作風だと思われました。幻想的な11の短編と聞き及び、恒川光太郎の「白昼夢の森の少女」のようなものを期待して手に取ったのですが、こうも違いますか。最後の「土の枕」のようなまともな話がもっと読みたかったです。


No.325 6点 此の世の果ての殺人
荒木あかね
(2022/10/23 20:13登録)
世界の滅亡を仕方のないものと受け入れ残りの人生を淡々と生きるハルと、この期に及んでもなお正義の暴走に歯止めがかからないイサガワのコンビには引き付けられるものがありますし、文章も読みやすいのですが、ただいつになったら面白くなるのかと思っているうちに終わってしまった感があります。私のように派手なギミックを期待して読むとがっかりするかもしれない渋い作品です。ミステリーではなく純文学だと思って読んだのなら違う読後感を持ったかもしれません。偶然が幾重にも積み重なって出来たストーリーも賛否が分かれるところだと思います。


No.324 9点 方舟
夕木春央
(2022/09/28 00:04登録)
ネタバレあり

クローズドサークルの出来方も凝っていますし、死地からの脱出と殺人事件の真相究明に相関関係があって、「紅蓮館の殺人」のパワーアップ版という印象を受けました。探偵役の解決も至って論理的で、その時点で7点あげられました。しかしながら各所で絶賛されるほどの作品ではないかなあなどと考えておりましたが、エピローグで脳に雷が落ちました。「全てが反転」というのはまさにこの作品のためにある言葉かと思います。そしてこの作品のなお優れているのは全ては解説しなかったことです。読み返すと犯人の随所の言動が違う意味を持って浮かび上がり一層怖さを感じます。10点があげられないのはたった一点。浸水ペースが結構遅いので、救助を呼んでくる時間があったのではないかという点です。ですがそれを差し引いても論理とどんでん返しの融合した傑作であることは間違いがなく、2022年にもなってまだこのような斬新で鳥肌の立つようなクローズドサークルものが読めることを幸せに思います。


No.323 8点 俺ではない炎上
浅倉秋成
(2022/09/10 00:19登録)
ネタバレあり

SNSでの成りすましによって殺人犯の汚名を着せられるという、浅倉秋成らしくはあるのですが、安っぽい邦画のような題材に手を出したなあと読む前は思っていました。それでもさすがのリーダビリティ。視点人物の入れ替わりのスパンが短くてテンポもよく、ページをめくる手が止まりませんでした。第三者と思われるいわゆるツイ民視点から始めたのもテーマ的によかったと思います。
この作品の目玉である、終盤に待つ構図のひっくり返しは綺麗に決まったと思います。この作者はどんどん技を身に付けていっていますね。ある人物の台詞、「このままだと×××な×××の手によって殺されてしまう」というミスリードだけが引っかかりはするのですけれども。真犯人の正体に驚きと同時に強い違和感(あの人物がこんなことしたの?)が感じられてしまったのもマイナス要素ではありますが、逃亡サスペンスとして総じて出来がよかったので高評価させてもらいました。


No.322 7点 #真相をお話しします
結城真一郎
(2022/09/01 00:38登録)
ネタバレあり

●惨者面談 7点
●ヤリモク 6点
●パンドラ 6点
●三角奸計 7点
●#拡散希望 7点

現代の世相を取り入れたダークな短編集。決して面白くないわけではないのですが、何となく展開が読めてしまう作品が多いです。「三角奸計」は一見傑作のように思えたのですが、知っているかどうかの確認ならば名前を出したり写真を送ったりしない方がよかったのではないかと思い減点。「#拡散希望」は映画「トゥルーマン・ショー」を思い出しましたね。この短編集の中では一番意外性があったのですが、アリバイトリックの粗さで減点。全体的なことを言うと、マッチングアプリやSNSやリモート飲み会やYouTubeなどインターネットに関するものが多い点、さらに5作品全てが現在と過去を織り交ぜる構成なので、もっとバリエーションが欲しかったところです。


No.321 7点 スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ
森川智喜
(2022/08/23 21:15登録)
三途川による鏡の使い方講座といった具合。特にママエの事務所に乗り込んでからの使い方は目から鱗でした。ほぼワンサイドゲームなところは前作「キャットフード」と同じですね(今回も緋山君の状況理解の早さに助けられた?)。前作に負けず劣らず面白かったのですが、本格ミステリ大賞受賞作という肩書きは不必要にハードルを上げてしまった気がします。なお、三途川はもっと効率的に鏡を使えたはず論争については、言葉は荒いですが平和マンさんの意見に賛同します。第一部でイングラムがママエに対して口を酸っぱくして「少しは自分の頭を使いなよ」と諫めていたのが、鏡を持ちつつ自分の頭で考えたい三途川との対比という点で効果を上げていると思います。鏡に最適解を聞いたところで、その実行は人の手によるものであり、成功することまで保証されるわけではありませんしね。


No.320 7点 キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人
森川智喜
(2022/07/27 00:16登録)
本格ミステリ大賞受賞作「スノーホワイト」を読む前に前作を軽く読んでおこうと手を伸ばしただけだったのですが、設定が独特な上に論理クイズのようで割と楽しめました。ただ、本作はウィリーと三途川理の頭脳バトルといった趣ですが、ウィリーは終始後手に回っていてほぼワンサイドゲームじゃないですか?(まあ使える駒数が多くて三途川が断然有利なのですけど)そしてメルヘンかつコミカルな雰囲気がだんだん薄れてガッチリした殺し合いになっていき後味が悪い上にラストがちょっと分かりにくいですね。しかしながらアクの強いヒール役の探偵が衝撃的で、「スノーホワイト」を読むのがより楽しみになりました。


No.319 4点 六番目の小夜子
恩田陸
(2022/07/23 22:41登録)
びっくりするぐらい期待外れでした。伏線を逐一メモしていた自分を可哀想に思いました(笑)ホラーなので全てに説明をつける必要はないと私は思いますが、訳の分からなさが怖さを大きく上回ってしまったのは大問題ではないでしょうか(怖かったのは野犬の群れだけ?)。
筆力にも問題があるように思います。雅子と沙世子が仲良くなる過程が全く描かれておらず違和感がありましたし、沙世子の内面だけは描かないのかと思いきや描いてしまっていたり、他にもキーパーソンなのに存在感のない担任などさすがデビュー作で色々と粗いなあと思いました(これでも加筆修正したというから驚きです)。


No.318 8点 あれは子どものための歌
明神しじま
(2022/07/11 00:11登録)
ネタバレあり

タイトルや表紙からライトノベルのようなものをイメージしていましたが、文章表現は文学的ですし、話もなかなか複雑でした。ジャンルとしてはファンタジーであり、特殊設定ミステリーという趣でもあります。よもや全5話つながっているとも、第1話の因縁の決着が最後に待っているとも予想できませんでした。決着がもう少し劇的であるとなおよかったですが、予想以上に細部まで神経の行き届いた読み応えのある作品でした。再読にも十分堪えるでしょう。しかしどうも最後の方が「るろうに剣心」っぽいんですよね(笑)


No.317 6点 小さな異邦人
連城三紀彦
(2022/06/28 00:32登録)
ネタバレあり

及第点は最初の「指飾り」と最後の「小さな異邦人」ぐらいです。「無人駅」は生きているように見せかける必要があまりなく藪蛇だと思います。「蘭が枯れるまで」は犯人のプランが複雑過ぎで現実感が皆無です。「白雨」の××愛ネタはミステリーで最も安直な騙しに感じて苦手なんですよね。「小さな異邦人」も手放しで褒めにくいネタではありますが、この短編集の中では優れた方に入ってしまうのが寂しいところです。果たしてこの短編集が遺作じゃなくてもランキング上位に入れたか疑問に思います。なお全て2000年代に書かれた作品ですが、昭和のミステリーという味わいで古さを感じました(一応携帯電話は登場しますが)。


No.316 7点 花束は毒
織守きょうや
(2022/05/28 14:25登録)
直接的な描写をせずに浮き彫りにするという「火車」の手法。ラストの余韻も似ています。全体的に叙述に起伏がなく淡々としているのも敢えてのことなのでしょうか。7点か8点か迷ったのですが7点になったのは、最後のどんでん返しだけに懸けて逆算で物語を作ったという感じを受けてしまったからです。もう少し寄り道のようなものが欲しかったかもしれません。主人公と探偵・北見理花の中学時代の因縁もそんなに効いていないような。


No.315 6点 パラレル・フィクショナル
西澤保彦
(2022/05/19 17:20登録)
第二部までは面白かったのですが第三部で失速。××の予知夢の見方が都合よすぎて醒めてしまいましたし、ひねりすぎたせいでタイムパラドックスが生じてしまっています。「七回死んだ男」は完成度が高かったなあと再認識する結果となりました。もうひとつ付け加えるとするならば、作中で描かれる男女の歪んだ関係性がどうにも気持(以下自粛)


No.314 7点 夜のピクニック
恩田陸
(2022/05/10 23:49登録)
想定していたよりはミステリーだったのでその方向で期待してしまったのが間違いなのか、もう少し伏線回収があってほしかったという物足りない思いを抱いてしまいました。とは言えさすがに本屋大賞受賞作。思春期の登場人物たち、特に甲田貴子の心情描写の瑞々しさが素晴らしく、本来なら男の自分には聞いていられないはずのガールズトークも味わって読むことが出来ました。


No.313 8点 誰も僕を裁けない
早坂吝
(2022/04/30 01:52登録)
ネタバレあり

館の仕掛けを犯人しか知らない、×××とらいちが似ているという偶然などご都合主義な部分は確かにあるのですが、叙述トリック解除による舞台の一本化が鮮烈な良作であると思います。トリックや伏線をエロ要素で作らせたらこの方の右に出る者はいませんね(笑)らいちとW主人公の彼が、ただ利用されただけの間抜けな男で終わってしまいかねない流れだったのを、最後に中心に戻して終わったのもポイントが高いです。


No.312 8点 死の命題
門前典之
(2022/04/19 22:39登録)
改題・改稿作品「屍の命題」を読みました。序盤で面白そうという感触を得たものの、中盤から矢継ぎ早に起こる事件があまりに常軌を逸しているため、これは納得できるような解決編は期待できないのかなと思って読み進めたのですが、鮎川哲也賞選考会で当の鮎川哲也氏が推したのも頷ける仕上がりで凄まじい作品でした。個々の事件は割と荒唐無稽でしょうもないのですが、それらは恐らくはこっちを実現するための手段にすぎないのだろうという一連の事件の全体像に感服しました。伏線であることを示す点々をそんなに打たなくてもいいと思わなくはないのですが、ある人物が「驚いた顔でコーヒーカップを握りしめて立っていた」という伏線は大変よかったです。
余談ですが「うほっ、うほっ」という擬声語はやめてもらえませんかね。もしかしてこいつゴリラなのか?とかいらぬ推理をしてしまったので(笑)


No.311 5点 廃遊園地の殺人
斜線堂有紀
(2022/04/09 03:54登録)
ネタバレあり

過去の銃乱射事件の謎の方が魅力的で、現在の殺人事件が埋もれてしまいました。読み終わって間もないのに「犯人誰でしたっけ」という状態ですし、トリックもそんな労力をかけてまでやることなのかと感じました。いつの間にか「ハルくんは誰」というのが話の軸になっているのにも違和感がありました。そこに付随して最も気になるのが冒頭のワンシーンの「籤付晴乃は」という表記ですねえ。ここを「ハルくんは」と書いていればなあと切に思います。
それから本作品はどうも読みにくかったです。主人公を含め主要人物に過去を隠している(あるいは記憶が曖昧な)人物が多いせいか、物語に感情移入しにくかったです。取って付けたような主人公の出自もあまり響かず。先に書かれている方もいますが、伏線が多すぎるのも読みにくさの一因でしょうか。しかもそのほとんどが解決編まで回収されないので整理するのが大変で、快適な読書とは言い難かったです(終わってみると特に意味のなかったダミーの伏線もちらほらありましたし)。ある程度は回収しつつ話を進めてほしいと思いました。「楽園とは探偵の不在なり」ではもっと「小説」が上手かった気がするので失望が大きいです。

370中の書評を表示しています 41 - 60