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ミステリの祭典

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みりんさんの登録情報
平均点:6.66点 書評数:385件

プロフィール| 書評

No.225 6点 ミステリー・オーバードーズ
白井智之
(2024/02/05 23:32登録)
「俺、普通にグロイのいけるんだよね」という厨二病的なイキリをしたくなるところだが、『ちびまんとジャンボ』がちょっと本当に読んでてキツい。トラウマレベルの気持ち悪さ。
虫が苦手な方はやめておいた方がいいでしょう。

【ネタバレあります】





『グルメ探偵が消えた』 6点
珍しく外国舞台 「目には目を 歯には歯を」の精神大事ですね。真相がややずるい気も。
『げろがげり、げりがげろ』 8点
中盤の衝撃のタイトル回収に爆笑。いやーさすがですねぇ、しっかり騙されましたよ。すこーしだけ(色んな意味で)感動するラスト。
『隣の部屋の女』 5点
なんか普通。いや騙されたけど。あまり白井作品らしくないサスペンス寄り(?)の作風。なんか似たような真相の作品を読んだことある気がするなあ。連城か?
『ちびまんとジャンボ』 5点
読むのキツかった。ふつうにフナムシ過剰摂取で死なないの?って思った。
『ディティクティブ・オーバードーズ』8点
「完全幻惑」「事実幻惑」「虚偽幻惑」を分類し、消去法で犯人を特定する発明的ロジック。難解すぎて一部諦めたが『東京結合人間』のドミノ倒しロジックと同じく、よく思いつくなと感心です。


No.224 8点 死体の汁を啜れ
白井智之
(2024/02/04 19:14登録)
おーっとこれは白井智之ベスト短編集に間違いなさそうですよ。うろ覚えだが「お前の彼女は二階で茹で死に」「名探偵のはらわた」よりトリック重視で、その辺が気に入ったのかも。

【ネタバレがあります】





中でも「死体の中の死体」がベストオブベスト。なぜこんなアイデアが思いつくのか?もしかして作者5人くらいいる?
次点で「膨れた死体と萎んだ死体」「何もない死体」も短編とは思えない満足度。平均だと6〜7点だが、傑出している作品を大きく評価して8点付けます。
オチの勘違いも良い。珍しく使いまわせそうなコンビが出てきたので続編どうでしょうか?


No.223 7点 好きです、死んでください
中村あき
(2024/01/26 12:08登録)
こういうのにあと何度自分は騙されるのでしょうかねぇ… 
現代チックの読みやすい文章に密室+首無死体+恋愛リアリティーショー 当然エンタメ性◎
巻頭の「恋愛と殺人においてのみ、人は今も誠実である」 この作品にピッタリな言葉ですね。


*ちょいネタバレ*






ちと砂飲み込みすぎじゃない?


No.222 6点 そして誰も死ななかった
白井智之
(2023/12/22 15:07登録)
「死者が蘇る世界で謎解き」ってのを最初に考案した作家は誰なんでしょうね。七回死んだ男か生ける屍の死か?それとも海外作家が遥か前から書いていたのか気になるところ。
話が逸れましたが、この作者の割には普通寄りの特殊設定(どういうこと?)ではあるが、相変わらずよくこんな多重推理のアイデアが泉の如く湧き出てくるなと感心する。特に時計と血と亀裂のロジックは分かりやすいしユニークだし面白い。ただ、多重解決ものは最後に明かされる真相が1番ぶっ飛んでいてほしいという願いもあり、トリックも動機も衝撃が薄れてしまった感も否めない。

【ネタバレあり】



「私たちははじめから一度死んでいたのだ」ってヤツ、妙に既視感があるのに何の作品か思い出せない。モヤモヤする。


No.221 7点 コンビニ人間
村田沙耶香
(2023/11/26 13:26登録)
中編くらいのボリュームなので1時間半ほどで読み終わります。

【ネタバレします】




「現代社会は縄文時代のまま変わっていない」「社会というムラにおいて役割を果たさないものは忌み嫌われ、排除される」
コンビニというムラでは自らの役割を全うする働き者の主人公。コンビニの声を聞くために生まれてきたのだと断言し、"普通"の人間から求められる将来・"正常"な社会と決別するラストはもはやホラー。ミステリーではないが面白かった。非ミステリには5点つけることが多いけど、軽く衝撃だったので7点に変更。


No.220 7点 名探偵のはらわた
白井智之
(2023/10/28 22:54登録)
津山30人殺しをモチーフにしたミステリはこれで3つ目ですが、どれも当たりですね。


【ネタバレがあります】


今まで読んできた白井作品は根っからの悪人が語り手であることが多かったのでこんなに真っ当なヤツは初めてな気がする。あと『名探偵のいけにえ』と話が繋がっているとかいないとか聞いていたんですが、いけにえの方をだいぶ前に読んだせいでどこが繋がってたんだ?って思い出せなくてモヤモヤしてます。読み直すか…

神哭寺事件 6点
心理アリバイトリック+オカルト特殊設定の導入。いつもより鬼畜猟奇趣味は控えめではある。

八重定事件 8点
だと思っていると、やって来ましたよ
受け渡しのシーンの絵面を思い浮かべるとシュールすぎる。

農薬コーラ事件 7点
少々ズルいミスリードと人間消失。子供の頃、親から外に放置されてる飲み物を飲むなと執拗に忠告されたのはこの事件のせいだったのか。

津ヶ山事件 7点
どこまで元の事件から改変を加えているのかは寡聞にして知らないが、こういう実際の事件に新たな解釈を施す試みは面白い。

ところで表紙の武装した女キャラはいったい誰やねん…


No.219 6点 笑え、シャイロック
中山七里
(2023/10/26 20:43登録)
不良債権の回収を務める渉外部の銀行員が中心のお話。横山秀夫『クライマーズ・ハイ』とか池井戸潤と同じように"プロフェッショナル-仕事の流儀-"系。

【ネタバレがあります】



回収担当として辣腕を振るう上司山賀からその志を受け継いだ主人公結城が如何にして理不尽な不良債権を回収するのか楽しめます。主人公と相対する債権者も画家や技術職社長、新興宗教、ヤクザと幅広く、銀行事情について非常にタメになるし面白い。
ミステリとしては一応殺人事件は起こるが少々無理やりのフーダニット。ミステリ要素は無理に入れなくても、ずっと山賀と結城の2人コンビでやっていっても良かったんじゃないかなあと。エピローグの締め方は素晴らしい。
仕事の流儀系では今のところ一番好きかも。


No.218 7点 お前の彼女は二階で茹で死に
白井智之
(2023/10/22 01:48登録)
正直いうと短編集ってあんまり心踊らないんだよねぇ。でもこの作品の密度は異常です。短編でも多重解決を徹底するのってふつうに頭おかしいと思うんだけど、どうなってんのこの著者。今最も脳内を覗き見したい作家ランキング堂々の第1位。
いつもの謎比喩と全編にわたる"ゲロキモロジック"に加えて、やたら記憶に残るネーミングセンス(大耳蝸牛、ヒコボシ、まほまほ…etc)が楽しめる。

【ネタバレがあります】




『ミミズ人間はタンクで共食い』『アブラ人間は樹海で生捕り』の2つはノエルが○したのがどちらかという前提条件で推理がガラリと変わるのすごいね。よう思いつくわこんなん。
『トカゲ人間は旅館で首無し』では純密室+雪密室。そして何の思い入れもなさそうに惜しみなくコロされてしまうあのキャラ。もっと見たかったよミミズ女探偵。
『水腫れの猿は皆殺し』はおもしろトリックと連作短編だからこそできる少々強引なサプライズ。ですが今まで相棒も探偵も容赦なくコロしてきたお話だからこそ生きる仕掛けだと思います。
『後始末』では『ミミズ人間はタンクで共食い』という原点に戻る綺麗な幕引き。お見事。

ヒコボシが最後にナンカイイヤツ感を出すのとお咎めなしなのがちょっと不満だったかな。


No.217 9点 adabana -徒花-
NON
(2023/10/19 01:31登録)
雪積もる小さな町で、猟奇的な殺人事件が起こる――。身体を切断された被害者は女子高生・五十嵐真子。そして、犯人として警察に自首して来たのは、同級生の藍川美月。犯行を供述する美月だが、そこにはある違和感が…!? 闇に抗う2人の少女の“秘密”をめぐる、リアル・サスペンス!!
(Amazonより)

(上)(中)(下)3巻構成の漫画です。本当に読むのが辛いですよこの作品。
どこかリアリティのある物語と絵の力が相まって、ラスト12ページを読んだ時の感情は私の言語力では伝えきれません。あまりのやるせなさに数日は引き摺る物語でした。ミステリ的サプライズは乏しいですが、小説では味わえない漫画の良さを最大限に引き出した傑作だと思います。
『蝶の墓標』を読んで真っ先にこの作品を思い出したので登録しておきました。

高校生藍川美月が親友だった五十嵐真子を惨殺したと自首するシーンから始まるサスペンス漫画であり、ドキュメンタリー映画のような作品でもあります。NON先生は表情を描くのがとても上手く、回想シーンで真子が容赦なく追い込まれ、段々とやつれていく過程は何度読んでも辛くなります…… 美月は何を考えているのか分からず、百面相のように表情が変わる。その不気味さに引っ張られて読み進めると、(下)で全ての意図が明かされた時にあの時の表情の意味に気付くのです。ストーリー構成の無駄のなさ、そしてわずか3巻にまとめたのも高評価です。


No.216 6点 蝶の墓標
弥生小夜子
(2023/10/18 23:50登録)
苛烈ないじめを受けて夭逝した少年はなぜ最期に微笑んだのか?
自己保身に走る大人の汚さと善悪の境界が曖昧な少年少女の残酷さが生む悲劇。このやるせない気持ちが込み上げる復讐物語は漫画『adabana-徒花-』を思い出します。
蘇芳色の痣を持つ夏野とまだら模様の羽を持つ蝶。果たして羽化して良かったのか…

夫婦において小さな齟齬は骸骨に成長する。その骸骨にお互い気づかないフリをして地下深くに埋めていく結婚生活の危うさがシングルマザー視点から語られたり、女性作家ならではの描写が素敵です。
人間ドラマを求める方にオススメですよ。ミステリ的サプライズはやはりダイイングメッセージの意外性ですかね。
※ジャンルをどれに投票したら良いか分からなかったので、詳しい方いたらお願いします


No.215 7点 少女を殺す100の方法
白井智之
(2023/10/17 19:27登録)
外で読むときはブックカバー必須の物騒なタイトルですね。周りに引かれないように気をつけましょう。
どうやら傑作『名探偵のいけにえ』は著者の抑えきれない猟奇趣味をなんとか封印して、生み出された奇跡の作品だったようです。今作もあまりに容赦のないグロ描写と+α少女趣味が炸裂しています。が、そんなことは減点材料にならないほど白井先生のアイデアの豊富さに圧倒されます。

【ネタバレがあります】





少女教室 7点
挨拶代わりに20人の少女を亡き者にし、見事な消去法ロジックからの倒叙ミステリ。そして意外なwhyと意外な名探偵。一番作者らしい短編かな?

少女ミキサー 9点
理不尽脱出デスゲームの中に本格の香り。今後忘れられない短編になりますねぇこれは。
腸の強度ってこんなにあるの??

少女殺人事件 6点
余りにも斬新な犯人特定ロジック。唯一のメタミステリで1番笑えます。

少女ビデオ 7点
これは読んでて気持ち悪くなるくらいグロい。しかし耐えてでも読む価値あるどんでん返し。
ところで、腸の強度って・・・(以下略)

少女が町に降ってくる  8点
横溝&三津田先生の香り+荒唐無稽すぎる特殊設定。
犯人が○○を殺すために、大変回りくどい方法をとるのですが、「アイデアに酔ってたのよ」の一言で解決です。作者の自白が聞こえてきたような気がして笑いました。


No.214 8点 東京結合人間
白井智之
(2023/10/15 17:06登録)
「白井智之、二十四歳。末恐ろしい書き手である」と綾辻せんせーが帯で賞賛しているが、なんか妙に腑に落ちる。こういうの好きそう。

【ネタバレあります】



プロローグから挨拶代わりの痛覚刺激型グロ描写。読んでるこっちもあそこがいてぇ。
ノーマルマンが2人だという前提から導かれるドミノ倒しロジックは発明的じゃないか?まあ…
大多数の作家がトリックのために特殊設定を作っているのに対して、白井智之は更なるグロを描写するために特殊設定を作ってるんじゃねぇかと疑っていた。が、著者の猟奇趣味で包み隠された奇想極まるトリック。まさに鬼畜設定パズラーにふさわしい。正直なんでこんなに評点が低いのか分からんくらい凄かった。まあ例によって私は1ミリも気付けませんでしたが、ミステリを読み慣れている方にはバレバレっぽいのが減点要素なのかな?乱歩の『孤島の鬼』のような不気味さもあって大変気に入りましたね。

結合人間のビジュアルに想像力を掻き立てられるが、文庫本表紙みたいに横に並んでいるのかな?だとすると身長が伸びるのはどういうことなんやろね。


No.213 7点 甲賀忍法帖
山田風太郎
(2023/10/14 20:20登録)
『甲賀忍法帖』と聞いて思い浮かべるのはあの名曲の方。「下弦の月が♪朧に揺れる♪」という歌詞から始まるが、今回初めて原作を読んでまさにこの作品の主題じゃないかと妙に納得できた。
俺なんてキッズだから"異能力バトル"の先駆けって『ジョジョの奇妙な冒険』だとずっと思ってたよ。1959年にここまで下地が完成していたなんて驚いた。これより前の"異能バトルもの"ってあるんですか…?

心は少年のままなんで、甲賀10人vs伊賀10人が秘術を尽くして命懸けの集団戦をするなんて設定を聞くだけでワクワクしてしまう。少年漫画ではなかなかお目にかかれない能力もあったりして新鮮です。
この作品は本来時代ものとして評価すべきなんだろうけど、その風流を感じ取れないアホな私は異能バトルとして評価する(苦笑) そうするとやはり後発の『ジョジョ』や『ハンターハンター』を読んでいる身としては、(小説と漫画を比べるなんて馬鹿かって話だが)知略を巡らす攻防がなく戦いが単調であり、少々物足りないという評価になる。しかし、異能バトルの先駆けとして大変偉大な作品であることに間違いはなく、山田風太郎に感服です。


No.212 7点 レーエンデ国物語
多崎礼
(2023/10/14 00:12登録)
これまた登録していいか微妙な所ですが『十二国記』が登録されてるしまあ良いよね…?
読んだ感想としては"子供にも見せられる『ゲーム・オブ・スローンズ』"でした。漫画だといっぱい読んできたけど、小説でここまでのハイファンタジーは新鮮。ハイファンタジーゆえに固有名詞が大変多く、読んでる途中のメモも過去最長クラス。小説界で話題沸騰なだけあってちゃんと面白いんだなこれが(ミステリ読みに刺さるかは怪しいですが・・・)

ディティールに拘った世界観の構築とセリフの力強さが素敵だなあと。ここまで練られていると作者が1章では書ききれずに隠した設定は数多そうなので、続編にも期待が高まる一方です。
想い人であり同胞であるユリアとトリスタン
恋敵から永遠の親友同士になったユリアとリリス
この二組の関係が特に好きでキャラクター小説としても楽しめると思います。

以下いいなと思ったセリフ p382より
「レーエンデに来なければ私は自由の意味を知ることもなく、世継ぎを産む道具として消費されていたでしょう。人を愛する喜びも、人を愛する苦しみも知らないまま、絶望の中で朽ち果てていたでしょう。ですからたとえ、時を戻せたとしても私は同じことをします。恐ろしい災禍に巻き込んでしまうとわかっていても、このレーエンデにきてトリスタンと出会い、彼を愛さずにはいられないでしょう」


No.211 7点 麦の海に沈む果実
恩田陸
(2023/10/10 17:55登録)
学園サスペンス+ファンタジー。
【ネタバレあります】


主人公が魔女と呼ばれたり、背後で蠢く巨大な陰謀やホラー要素など『緋色の囁き』やダリオアルジェント監督『サスペリア』と似た舞台設定です。シリーズ前作の『三月は深き紅の淵を』の4章は今作の予告編のような作りになっていたのですね。
ここまで魅力的な世界観を映像的に表現できる著者の手腕に素直に感服しました。過去を顧みない凛とした主人公の選択にはほろ苦い青春小説としても心に深く残ります。リドル・ストーリーではなく最も大きな謎対しては明確な答えを示しますが、細部ははっきりと描かれません(特に学園関係)。
もっとこの不思議に包まれた学園に閉じ込められたい。キャラクター達のその後を見せてほしい。と引き摺らせる読後感。これが恩田ワールドでしょうか。


No.210 8点 ルルとミミ(乙女の本棚)
夢野久作
(2023/10/09 02:47登録)
図書館で予約して受け取りに行くとまさかまさかの児童文学。少し恥ずかしい思いをした。こんなに救いのない物語を児童に読ませるのは果たしてどうなのか…トラウマになるんじゃないか(笑)

この著者はそこそこ読んできたが、今までに見たことのない童話のような語り口です。
『瓶詰の地獄』といい夢Qは「兄妹」に何かフェティシズムでもあるんでしょうかね。いや〜子供には刺激が強すぎるぞこれ。ラストはサプライズと言えばサプライズであり、メリーバッドエンドと言えるかもしれない。最後の見開きは絵の効果も相まって儚く美しい。

ねこ助という方の絵が素敵でこの幻想的な作風に大変マッチしています(+1点)


No.209 5点 三月は深き紅の淵を
恩田陸
(2023/10/08 22:20登録)
不思議な魅力のある作品です。
ミステリとしては1章『待っている人々』、人間ドラマとしては3章の『虹と雲と鳥と』が良いと思いました。4章は恩田先生が執筆の際に感じたことを思うままに書いている私小説ですかね。曰く付きの全寮制学校に途中入学した主人公が背後で蠢く陰謀と戦う学園サスペンスは個人的に興味をそそる設定(最近見たダリオ・アルジェント作『サスペリア』っぽい)で大変気になっていたのに、細部はあまり明かされないまま終わってしまった。考えるな感じろって事ですかね…4章はふつうに奇書です。


No.208 6点 暗色コメディ
連城三紀彦
(2023/10/07 17:57登録)
連城作品で、ここまで論理的で高度な謎解きには正直ビックリです。


No.207 7点 人間の顔は食べづらい
白井智之
(2023/10/06 17:49登録)
白井智之のデビュー作。これほどの作品が最終候補作止まりって恐ろしい世界ですねミステリ界は。

【ネタバレがあります】


病気で家畜が死滅した世界で非自然人であるクローン人間を食すこと(食人法)が許される世界。そのSF的世界観をベースに複数の怪奇事件と多重推理をたっぷり楽しめる本格ミステリ。そして最終的には物理の檻と人間社会の檻の2つを超える物語だったのですね。素晴らしい作品だと思います。
新型コロナウィルスという言葉が出てきた時にはこの作品の刊行年度が2014年であることに疑問符がつきましたが、そういえば元々あるウィルスだったんだな。わざわざ新型って付くんだから当然か…


No.206 7点 あやかしの鼓―夢野久作怪奇幻想傑作選
夢野久作
(2023/10/04 02:11登録)
夢野久作の傑作選にはとりあえず『死後の恋』『瓶詰の地獄』は入れておけという風潮があるほどには両者とも傑作だと思います。『死後の恋 夢野久作傑作選』とだいぶ選出がカブっているのもあって、今回未読作だったのは『難船小僧』『幽霊と推進器』『あやかしの鼓』の3つのみ。いや〜でも『死後の恋』は見かけるとつい読んでしまいます(^^)

『難船小僧』 6点
伊那一郎が乗り込んだ舟は必ず沈没してしまう。科学的にはそんな事はありえないという理由で実験的にその少年を同伴させた船長とその事に阿鼻叫喚の船員達が描かれる。
たぶん「難船小僧のナンセンス」っていう親父ギャグが言いたかっただけだと思うけど、登場人物の冷淡さもなかなか強烈。

『幽霊と推進機』 5点
これまた『難船小僧』と同じ怪奇海洋奇譚。船という閉鎖空間にやな奴ばかり出てくるのも似通っている。だがこのオチはだめだろうw

『あやかしの鼓』 8点
音を聞くと呪われるという「あやかしの鼓」 夢野久作処女作の短編という事で1番楽しみにしていましたが、期待を裏切りませんでした。
特に100年越しの『あやかしの鼓』演奏描写。愛する人に裏切られた時の憎悪。生きながらにして死んでいた男が鼓に込めた情念。鼓が奏でた音の怨みの響き。小説という媒体ではやむを得ず音を文字に変換する必要があるが、ここまで鼓が奏でる音の呪いに説得力を持たせる作者の筆力には鳥肌が立ちます。著者はデビュー作から怪奇幻想小説家として異彩を放ち、注目されていたことが想像に容易い。

あと初読時は普通だと感じた『白菊』の持つ妖しい魅力に気づき、再評価路線。

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