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ミステリの祭典

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ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:242件

プロフィール| 書評

No.82 5点 元彼の遺言状
新川帆立
(2021/10/23 23:08登録)
第19回このミステリーがすごい大賞受賞作。
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言を残して、大手製薬会社の御曹司・森川栄治が亡くなった。殺人を疑われる要素はなかったが、遺産目当ての犯人たちが次々と押し寄せる。弁護士の剣持麗子は英治と学生時代に交際した過去があるが、犯人候補に名乗り出た英治の友人の代理人として、「犯人選考会」に参加する。
設定も度肝を抜くが、ヒロインの弁護士像も、極めて異色。お金好きで身勝手、すぐに人を馬鹿にする性格で親しみがわかない。もちろん読んでいけば少しずつ印象が変化するように作られているし、事件の意外な展開も真相もよく考えられている。出色のデビュー作といえるが、全体的に少し受けを狙いすぎの部分が鼻につく。


No.81 5点 スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫
友井羊
(2021/10/09 23:12登録)
チョコレート盗難の疑いをかけられたのをきっかけに、主人公は自分の推理力を目覚めさせていく。
ひとつひとつの作品の謎解きもさることながら、やはり読みどころは最終章で明らかになる大仕掛け。あまりに予想外、しかも書き手の立場にとって難度が高すぎる趣向に茫然。もう一度読み返したくなる。


No.80 6点 雪冤
大門剛明
(2021/10/09 23:05登録)
死刑制度の根本を問う真摯な社会派の姿勢を貫きながら、本格もののケレンの味を余すところなく発揮している。
あまりにもどんでん返しが続くので、本当に辻褄が合ったのか不安感が残ったが。


No.79 6点 バック・ステージ
芦沢央
(2021/09/26 22:10登録)
卓抜した心理描写を駆使したシリアスなサスペンスを描いた作品が多い中、本作はかなりポップな読み口になっている。(もちろん、ヒリヒリするような感情に迫るサスペンスもあるが...)
連作短編集の形をとっており、その仕掛けの鮮やかさには驚かされた。


No.78 8点 告白
湊かなえ
(2021/09/26 22:07登録)
担任の女教師が教え子の生徒たちに語り掛ける短編の不快な後味も強烈だが、さらに同じ事件をめぐって視点を変えながら、連作長編に仕立てる技量もなかなかのもの。
毒に満ちた、巻を措く能わずの気色悪さに、類稀なる才能をみた。


No.77 6点 時の密室
芦辺拓
(2021/09/11 23:15登録)
エッシャーの騙し絵をキーポイントにした連作的な長編で、個々の事件の独立性が高くて、それが揃うとまた違った様相を見せるのが面白い。
小ぶりなネタ、素っ頓狂な仕掛け、テキストレベルの工夫などバラエティに富んでいる。


No.76 6点 暗幕のゲルニカ
原田マハ
(2021/09/02 23:12登録)
一枚の絵画をめぐって二つの時代を舞台に物語が進んでいく。特にピカソの生きた時代の描写は凄まじい。この時代に足を踏み入れたかのようなリアリティを感じさせるし、ゲルニカ誕生の背景にも思わず納得させられた。
美術の知識が無くても、ピカソの凄さや芸術の力が伝わってくる。過去と現代、生きる時間は違えど、芸術を武器に戦争に「NO」を突き付ける人々の姿に胸が熱くなる。


No.75 5点 見当たり捜査官
戸梶圭太
(2021/09/02 23:08登録)
警視庁捜査共助課の久米山警部補の仕事は、指名手配犯、容疑者と思われる人間の体格や顔つきなどの特徴を覚え日夜、駅や繁華街などの雑踏に立ち、似ているものを探す「見当たり捜査」。この見当たり捜査に従事している男を主人公にした連作短編集。
思わぬ邪魔やトラブルに見舞われて捕り逃す。その繰り返しを描きつつ、人情でほろりとさせる話あり、何をやっても上手くいかない男の身につまされる話ありとバラエティに富んだ作品集。


No.74 5点 死写室
霞流一
(2021/08/15 23:00登録)
撮影所、地方のロケ先、試写室、映画館などで起こった事件を扱っている短編集。
作者の作品ではおなじみの探偵、紅門福助が登場する連作ミステリ。作者はかつて映画会社に勤めていたことがあり、その舞台裏や細部を熟知している。加えて、独自のユーモア感覚が随所に発揮されており、強烈な個性の人物やとんでもない出来事が次々に登場する。
さまざまな映画の現場を舞台に、本格探偵小説の趣向とドタバタコメディーの要素が合わさったミステリに仕上がっている。


No.73 8点 13・67
陳浩基
(2021/08/10 23:16登録)
一九六七年から二〇一三年という激動の香港史の裏側で、市民の平穏な暮らしを守るため、自らの身を捧げた警察官の人生を遡りつつ照らすことで、彼が第一話で描かれるような存在になった理由が丁寧に描かれていく。
警察小説として優れていながら、謎解き小説としても類まれない面白さがある。丁寧に描かれた伏線から導き出せる、あっと驚く真相。しかも毎話、盲点を突いてくる。その手際はお見事としか言いようがない。


No.72 7点 傷痕のメッセージ
知念実希人
(2021/07/30 23:07登録)
医療の専門知識を生かしつつ、家族の絆を問うスリリングな展開で引っ張っていく。
大学付属病院の女性医師で、外科から病理部へ出向中の千早は、唯一の家族である父をがんで亡くす。かつて刑事だった父の遺言に従い、同級生で指導医の紫織と病理解剖した結果、胃に暗号が刻まれていることが明らかに。同じころ、かつて父が追い、未解決のままだった連続殺人犯「千羽鶴」の犯行が28年ぶりに再開され、2人に忍び寄る。
父が抱えていた謎と現在進行形の殺人事件の絡まり合い方が絶妙。
何よりも作品をユニークにしているのは、司法解剖を担う法医学医ではなく、医学の発展のために解剖する病理医に焦点を合わせた点だろう。探偵役である紫織の死者との向き合い方が、亡き父の声を娘に伝えることにつながり、胸に迫る。


No.71 5点 モンスターズ
山口雅也
(2021/07/21 22:11登録)
シリーズ探偵の登場しない中短編を集めた作品集「ミステリーズ」「マニアックス」に続く第三弾。
ドッペルゲンガーをテーマにした恐怖譚「もう一人の私がもう一人」、アメリカ私立探偵小説のパロディーのような「半熟卵にしてくれと探偵は言った」と作品ごとにスタイルは異なるが、通好みのテーマやしゃれたディティール、洗練された語り口と会話、技巧に富んだ趣向や逆転の妙など、作者ならではの作品が並んでいる。
特に最後に収録された中編「モンスターズ」は、なんと一九四〇年代のドイツを舞台に、吸血鬼やフランケンシュタイン、そして透明人間までが登場するナチものなのだ。海外の異色短編作家を好むようなミステリファンにお薦めしたい。


No.70 5点 どの口が愛を語るんだ
東山彰良
(2021/07/13 23:11登録)
愛を巡る、あるいは愛に似た何かを巡る短編集。
中学生で熊本に引っ越してきた「ぼく」が恋をし猿に火をつけるまでの経緯を綴った「猿を焼く」、台湾の同性婚合法化に前後した心の機微を描いた「恋は鳩のように」、新型コロナウイルス禍の影響を濃厚ににじませるゾンビもの「無垢と無情」など4作を収録。
場所や状況を変えながら、人が他者に抱いてしまう執着を普遍的かつ現代的に描いている。


No.69 7点 われらの世紀
真藤順丈
(2021/07/13 23:06登録)
「最後の侍」の異名を持つ日本人とドイツ軍が死闘を繰り広げる「一九三九年の帝国ホテル」や、戦時下で勇躍するアイヌの女性を描く「レディ・フォックス」など10編を収める。
戦争を背景に、ダイナミックな歴史のうねりを感じさせる作品から、不気味な余韻を残す幻想的な話まで幅広い作風が楽しめる。笑いに取りつかれた芸人らの破滅と狂気を捉えた3作品も印象的。一つ一つが異様な迫力を放つ作品群。


No.68 5点 歩道橋シネマ
恩田陸
(2021/06/29 22:49登録)
ホラー含みのファンタジー作品集。
とにかく見過ごしがちな、日常のさりげない光景や営みを独特の感性で切り取って見せる技は、この作者の持ち味でしょう。
作品は、いずれも断章と呼ぶべき短いもので、「コボレヒ」などわずか2ページしかないが、どことなくひやりとさせられる不思議な小品だ。ミステリ色の強いのは冒頭の「線路脇の家」「楽譜を売る男」「降っても晴れても」のあたりでしょうか。どれも短いので、ゾッとするまではいかないが、雰囲気に満ちた佳品ぞろい。


No.67 7点 誘拐
五十嵐貴久
(2021/06/29 22:42登録)
総理大臣の家族を巻き込む前代未聞の事件が展開していく。
韓国大統領の来日を間近に控えた東京は、これまでにない厳戒態勢が敷かれていた。歴史的な条約締結を控えていたためだ。そんな時に首相の孫娘が誘拐された。密かに捜査を進めていく警察。しかし、全く痕跡を残さない犯人たちの綿密な犯罪計画の前に翻弄されるばかりだった。やがて事件は解決へと向かっていったのだが。
犯人側の視点から犯行のほとんどが語られていくものの、政府や警察側は事件の着地点と目的がいつまでも判然としないまま混乱するばかり。多くの「誘拐」ものの醍醐味は、誘拐された者の身の安全と身代金の受け渡しに関する犯人と警察の攻防だが、ここでは二重三重に意表を突かれてしまう。
結末には、単なる誘拐事件を扱った警察小説にとどまらない驚きが待ち受けている。


No.66 6点 スタフ staph
道尾秀介
(2021/06/17 22:22登録)
肩肘はって頑張る女性とその甥。その甥が巻き込まれる少し変わった事件。
全く先の見えない展開に、衝撃のどんでん返しに驚くが、そこからさらに待ち受ける衝撃の真相に唖然とさせられる。
最後にこの物語の本当の狙いに気づいた時は、胸を締め付けられるほどの切なさを感じた。


No.65 6点 キャプテンサンダーボルト
阿部和重 伊坂幸太郎
(2021/06/17 22:17登録)
経済的に追い込まれている主人公たちが、ちょっとした判断ミスから巻き込まれてしまった国際的なテロ事件と国家権力の闇の部分。
強大で理不尽な敵に対して、あまりにも非力に思える彼らが勇気と行動力と仲間の助けと、そして何よりも少年時代の思い出を武器に窮地に立ち向かっていく姿を、緊迫感と共に描いている。
エピローグは少々都合良すぎるか。


No.64 5点 ファイナル・ゲーム
黒武洋
(2021/06/08 23:05登録)
本の帯の紹介に「バトル・ロワイアル」「SAW」「ライアーゲーム」の系譜、とあるとおり、大胆な虚構性と残酷なゲーム性が打ち出された異色ドラマ。
ある時、大学のサークル仲間五人が、卒業七年後に再び集結した。彼らを待ち受けていたのは、絶海の孤島での生き残りを賭けた殺人ゲーム。
突然、逃げ場のない孤島に放り込まれ、殺人が連続する。現代風な「そして誰もいなくなった」状況がゲームのように始まるかと思えば、後半になると予想外の展開と新たな混乱が巻き起こる。奇想と極限状況と逆転劇が巧みに織り交ぜられた物語。


No.63 8点 ウォリス家の殺人
D・M・ディヴァイン
(2021/06/04 22:56登録)
大学教師のモーリスは、幼馴染の人気作家ジョフリーの妻から夫の様子がおかしいと言われ、ジョフリーの邸宅を訪ねた。
近所に住むジョフリーの兄ライオネルとの確執、妻の不倫、編集者との意見の対立とさまざまな問題が露見する中で、ジョフリーが殺される。犯人としてライオネルが逮捕されたものの、新たな証拠や動機が発見され、いくつもの可能性が浮上してくる。
邸宅に出入りする全員に動機があり、全員が何かを隠していて、しかも全員がはっきり言って嫌な人間であり、誰が犯人でもおかしくない。巧みな伏線を張り巡らし、衝撃の真相へと導いていく手腕は素晴らしい。

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