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ミステリの祭典

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偽装同盟

作家 佐々木譲
出版日2021年12月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 麝香福郎
(2023/11/11 21:29登録)
警視庁特務巡査・新堂裕作は、連続強盗事件の容疑者を捕らえたが、ロシアの日本統監府保安課に身柄を奪われてしまう。翌朝、神田明神近くの空き地で若い女性の変死体が見つかり、新堂はそちらの事件にも関わることに。一方、行方不明になっていたポーランド系アメリカ人記者の刺殺死体が汐留で発見される。
本作は前作から数ケ月後の、大正六年三月十一日の夜から始まっていることに留意したい。時を同じくしてロシアの首都ペトログラードで大規模なデモが起きており、警官隊がデモ隊に向けて発砲し、多くの死者を出すことになる。いわゆる二月革命が進行中だったのだ。
二月革命とシンクロするように物語は進む。警官の捜査権は日本側にあるが、統監府に対して有名無実なのが現実だ。容疑者の身柄を奪ったことに対する正当な抗議も、腰が引けた警視総監が待ったを掛け、ロシア側の関与が疑われたアメリカ人記者の殺害も、死因をロシア側に都合の良いように捻じ曲げられる。さらにロシアに憧れていた女性の事件からは、地方や性別、経済などの格差問題も浮かび上がる。
もう一つの日本をディテール豊かに描く捜査小説としての魅力もさることながら、その背後にある時代のうねりまで包括する作品だ。

No.1 6点 ぷちレコード
(2022/09/28 22:19登録)
日露戦争から12年たった1917年、警視庁の新堂は連続強盗事件を追っていたが、逮捕する段階で容疑者をロシア内務省警察部にもっていかれ、やがて女性殺害事件が起きる。
ヒトラーに制圧された英国を舞台にしたレン・デイトンの警察小説「SS-GB」を想起させる歴史改変物の秀作。形の上では講和条約を結んだ同盟国でああるが、「強大な帝国と弱小属国」との「不平等な二国間関係」が至るところできしみをあげ、弾圧に屈せざるを得ない。
ロシア軍の将軍にちなんだクロパトキン通りのうち、小川町交差点から東京帝大前までの一帯がロシア人街であるとか、日比谷公園の一部が接収され松本楼はロシア軍将校倶楽部であるとか、東京がすべてロシア化されていて生々しい。犯人捜しも丁寧であり、ロシアでの二月革命の影響も背景に溶け込ませ、物語に緊張感を与えているのもいい。

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