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ミステリの祭典

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ことはさんの登録情報
平均点:6.26点 書評数:265件

プロフィール| 書評

No.185 8点 天冥の標Ⅱ 救世群
小川一水
(2023/06/04 02:12登録)
パンデミック小説なので、ミステリ読みでも、楽しめるはず。パンデミック小説として、抜群に面白い。
コロナ前に書かれた作品だが、コロナ時の対応を彷彿とさせる描写がおおく、的確にリサーチされていたんだなと驚く部分も多い。ただまあ、現実のコロナのときのほうが全然ぐたぐだで、作品内の政府の対処が理想に見えてしまう。”残念な現実”には、ため息しか出ない。
本作は、17巻になる壮大なSFシリーズの1作だが、本作だけ読めばSF要素はあまりないので、SFが好きでなくても問題なく読めるはず。それに、本作はシリーズ2作目だけれど、他作との繋がりはうすく、独立して楽しめるので、ぜひ読んでほしい。
(SF的振りが気になった人だけ、1作目からシリーズをよみすすめればよいので)
ただ、パンデミック小説なので、登場人物にはつらく厳しいシーンがある。そういうのが苦手な人にはお勧めしない。あとは、性的なシーンも少しある。これはシリーズ全体で”性”についてもアプローチしているからなのだが、本作だけ読むと、少し浮いて見えるかもしれない。


No.184 6点 そばかすのフィギュア
菅浩江
(2023/06/04 01:56登録)
初期作品ということで、どれも書き込みは深くない。1シチュエーション/1アイディア・ストーリーといった趣き。シチュエーションにきっちりはまる、シンプルなプロットで各編書き上げられている。
シンプルなため、「もっと書き込みが深くて、もっと登場人物に思い入れができれば、もっと面白いのに」と感じた。それでも楽しめるのは、シチュエーションが良いからだろう。シチュエーションのセンスの良さは、後に「博物館惑星」に結実するのだなぁと思う。
また、濃淡はあるけれど、どれも結びの部分に反転を準備しているから、ミステリ的な読み心地がある。連城三紀彦の普通小説よりの作品に近しい感触かな。ミステリ読みも楽しめる、かも。


No.183 7点 プレーグ・コートの殺人
カーター・ディクスン
(2023/05/31 00:42登録)
「死と奇術師」を読んだら、カーが読みたくなって、再読。昔読んだときの印象より少し下がった。
良い点と悪い点がはっきりした作品だった。
良い点からいうと、まずはなんといっても密室のメイントリック。「気付けるかよっ!」というところはあるので推理比べには向かないが、これは印象的だよ。やっぱり記憶に残る。プロットも、フェル博士登場で空気感が変わる「チェンジ・オブ・ペース」がいいし、登場してすぐにフェル博士が提示する事件の見方が、意外かつ説得力があって見事。
でも、悪い点もいろいろ目についた。まず、これは、作品そのもののせいではないが、降霊術というのが、いまひとつ。昔読んだときは、もっとドキドキできたのだけど、今はもうのれないなぁ。時代もあると思う。昔はテレビの心霊写真特集なんかを怖がれたけど、今ならもう「加工でしょ?」となってしまう。それと、犯人の経路の件と、あの人の立ち位置は、ちょっとずるいなぁと感じた。
全体的にいえば、雰囲気、トリックの妙、ゴタゴタした展開なども含めて、カーの特徴はよくでているので、代表作にふさわしいと思う。
他、H・Mにしては、コミカルなシーンがないなと考えたとき、ふと、昔どこかのネットで読んだ分析を思い出した。
内容はこんな感じだった。
”初期は、H・Mとフェル博士のキャラの描き分けは少なく、H・Mには怪奇な事件、フェル博士にはとらえどころのない事件をあてている。「三つの棺」から変わる。ここから、描き分けとして、H・Mはコミカルな言動が増え、フェル博士は落ち着いた言動が増える。事件もそれにあった割り振りがされる。”
”なるほど”と思ったのでおぼえている。


No.182 7点 死と奇術師
トム・ミード
(2023/05/13 17:42登録)
ほんとに日本の新本格みたい。
「謎と議論と解決」以外の要素はきわめてすくない。キャラクターはスケッチ以上には掘り下げられないし、ドラマ要素も簡素に描写されるだけ。それに対して、謎の改めは、「三つの棺」の密室分類を引用してしっかりと行う。いやぁ、楽しいなぁ。
密室の解答は、あっけないものだけど、それを実現するための状況設定はじつに面白い。解決編で手がかり索引(xxページ参照)があるのも楽しい。惜しむらくは、解決シーンの演出がもっと「見得を切る」ようになっていれば、そそられたのになぁと思う。
「謎解きよりもドラマ重視」のような人にはまったく楽しめないだろうけど、謎解きファンは一読の価値あり。次作も翻訳されてほしいなぁ。


No.181 6点 メアリー、メアリー
エド・マクベイン
(2023/05/13 17:40登録)
リーダビリティはすごく高い。 登場人物がみんな知っている事件の概要を、法廷シーンで小出しに知らされる構成がよい。少しずつ明かされる事件の状況に引っ張られて、ぐいぐい読まされてしまった。一気読み。
これは、一人称の語りに久しぶりに戻ったこともある。やっぱりこのシリーズは、三人称よりホープの一人称のほうがいい。
だけど、結末の付け方がなぁ。「あっち、と思わせて、こっち」という意図は感じたけど、成功している気はしない。そもそも「この結末はどうなのよ?」って話。
結末の残念感の減点より、終盤まで一気に読まされた加点を重視して、採点はおまけ。
マクベインの法廷物が他にあったら読みたいけど、あるのかな?


No.180 6点 たったひとつの、ねがい。
入間人間
(2023/05/13 17:39登録)
プロット、キャラクターとも、いかにもラノベで、仕掛けもわかりやすい。
ただ、1章はすごくいい。キャラクター描写も魅力的で、だからあの展開はいやな気分にさせられる。感情が動かされるのはすごいことなので、これで採点はおまけ。


No.179 5点 どんがらがん
アヴラム・デイヴィッドスン
(2023/05/13 17:34登録)
解説にあるとおり「変な小説」だった。
面白さのポイントがよくわからない話が多かった。賞をとっている作品が4つ、「EQMM第1席:物は証言できない」、「ヒューゴー賞:さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」、「MWA賞:ラホール駐屯地での出来事」、「世界幻想文学大賞:ナポリ」とあるので、世評も高いのだが、どこを評価されたのだろう。とくに「ナポリ」はわからなかった。これ、幻想文学か?
一番わかったのは「さあ、みんなで眠ろう」。これは切ないSFだった。
全体的に玄人好みなのかな? わからないが、気を引かれるところはある。いつか再読してみたら、ひょっとしたら楽しめるかもしれない。


No.178 5点 ディミトリオスの棺
エリック・アンブラー
(2023/05/13 17:28登録)
めずらしくスパイ小説の古典を読んでみた。
予想外に地道に人の証言をきいてまわる展開で、この読み心地は私立探偵小説だなと思った。印象に残るのは、プロットよりも、聞き込みで出会う人物の肖像や、主人公のディミトリオスの肖像だった。
プロットとしては、目を引くものはないが、それは本作を参考に作られた作品を多く目にしているからなのだろう。たぶん、きっと、小説よりも映画でたくさん。
興味深かったのはラストシーン。
事件は終わり、知人からもらった手紙を読む主人公。そこには国際情勢の記述があり、不穏な空気が感じられるのだが、語り手のミステリ作家は、次の小説の構想を練り始める。
「冒険から平穏な日常に帰るラスト」と読みとれるのだが、舞台が1930年代後半、第二次大戦前夜なので、「平穏な日常には戻れないのだ」という皮肉に見えてしまった。(書かれたのが1939年なので、書いた当時に作者が考えていた訳ではないが)


No.177 6点 十二人目の陪審員
B・M・ギル
(2023/04/23 20:58登録)
裁判を舞台にしたサスペンスで、CWAゴールドダガー受賞作。ゴールドダガーを受賞している割には、ネームバリュー低いな。
解説では、法廷物として2つのタイプをあげて(「弁護士や検事を主人公にした法廷闘争」と「陪審員たちの心理を描く」)、本作はどちらかというと後者と書いているが、どちらのタイプでもない気がした。
三人称/多視点で、複数の人物の心理に踏み込んで書いているが、その書き振りは「冷静な観察者の記述」といった感じのため、「弁護士や検事を主人公」としたヒーロー感や、「心理を描く」サスペンス感も薄味だ。乾いた文体で的確に物語られていき、味わいはハードボイルドが近い思う。
プロットとしては、ストーリーの途中に何個か捻りが加えられているが、選択肢が限られるために、予想がつく人も多いだろう。
ただ、終章の”ある出来事”は、かなり驚かされた。それでいて納得感があったのは、人物の設定/エピソードが伏線として機能していたからで、これはよくできていると思う。
かなり良作だと思うが、自分の琴線に触れる部分は少なかったので、採点はこのくらい。


No.176 5点 ドアのない家
トマス・スターリング
(2023/04/17 22:55登録)
1つの事件が、2つの視点から語られ、最後に合流する構成。こういう構成は好き。
このうちの1つは、34年ぶりにホテルから出たという「引きこもり女性」が視点人物なのが個性的なところ。こちらのパートは、他の人の書評でも書かれているが、アイリッシュに似た感じを受けた。
とくに前半で、都市の中をふらつくところは、アイリッシュに似ていると思う。その中でなかなか良かったのは、地下鉄内で主人公が心理的に追い詰められるところ。主人公の疑心暗鬼に共感できて、迫力がある。
もう1つのパートは、警察による事件の捜査だが、こちらはやや平凡な印象。
こちらの視点人物は警部だが、組織の活動がほとんど描かれないので、私立探偵小説のようだ。容疑者への聞き込みも1人でいって、その内容を質疑する相棒もいない。私生活の描写が多いのも、私立偵小説のイメージを強めている。
後半、飽きさせないが、展開は想定されるところかな。この辺は、やや残念だった。最後の犯人の行動は、(評価するわけではないが)驚いた。
作品の評価とは違うが、何人かの容疑者の動機に、第二次世界大戦が背景としてとりこまれていて、興味深かった。1950年の作品なので、当然まだ生々しい記憶としてあったのだ。今では想像することしかできないが、こういう動機がフィクションにあることが、現実感を付与する(そう作者/編集が判断する)時代だったのだな。


No.175 5点 悪魔の報酬
エラリイ・クイーン
(2023/04/17 22:51登録)
再読。昔読んだときは、結構面白かった印象だったが、今回でだいぶ評価が落ちた。主要2人の恋愛模様が、楽しめなかったのが大きい。(たぶん、昔は楽しめたから面白かったのだろう。この辺の感覚は変わってしまっているのだなあ)
2人の行き違いも、もっと話し合えばいいのにと思ってしまうし、キャラの書き込みが十分でないからなのか、心理に共感できない。視点人物が一定でないのも、キャラに寄り添えなかった要因だろう。
ミステリとしても、全体の構築性が乏しい。
まず、事件に対する議論がない。議論の前に、「なにがあったのか?」のデータが整うのが、かなり後半になってからなので、議論のしようがない。これは、読み終わってから考えると、状況がわかれば犯人がわかってしまうからだと思う。
犯人特定のスタイルはクイーンらしくて好きだが、シンプルな内容なので、状況がわかればエラリーの推理を事前にあてることができそうだ。そのため、ぎりぎりまでデータの提示を遅らせたのだと思う。ぎりぎりまでデータの提示を遅らせた理由も、途中から(彼らが話し合ったタイミングで)なくなっていると思うのだが、読み違えているかな?
よかった点の特記すべきは、犯人の心理状況の設定かな。これは面白い。 
そう考えると、映画化からのノベライズである「完全犯罪」(「エラリー・クイーンの事件簿2」所収)のほうが、よかった点はそのままで、より軽快に、よりコンパクトになっているので、面白いかもしれない。


No.174 8点 ミステリーズ
山口雅也
(2023/04/02 01:38登録)
再読。
出版当時に(ハードカバーで出た当時に)読んでいて、面白かった記憶があったが、これだけ異世界設定が出回っていると、衝撃度は下がってしまったなぁと思う。採点は、初読時の衝撃を思い返してつけた。
全体的な印象を一言で言えば、「山口雅也風、異色作家短編集」。全作で、山口雅也の少し非現実的でポップな世界観が楽しめる。
作中でいいのは、間違いなく「解決ドミノ倒し」と「不在のお茶会」だと思う。
「解決ドミノ倒し」は、作者のあとがきにあるとおり、どんでん返しの数で勝負で、これだけ返した後、どう収拾をつけるんだというところで、斜め上に放り投げるという、絶妙なバランスがよい。
「不在のお茶会」は、ファンタジー、もしくは、妄想的な状況で始まり、登場人物のある気付きで終わる。今では、類似アイディアを取り込んだ作も多いので衝撃はないかもしれないが、中盤の討議も含めて、無駄や駆け足も感じられず、見事にまとまっている。この趣向の最初期の代表作といってよいと思う。
山口雅也を未読の人で、「どんな作風なんだ?」と知りたい人には、とくにお勧め。


No.173 9点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2023/04/02 01:31登録)
角川文庫の新訳で再読。
初期のクイーン作で唯一再読していなかった。それは初読の印象がよくて、再読してつまらないと「良い思い出が……」とがっかりすることを懸念してだったのだが、杞憂だった。推理とドラマが非常にバランスのいい傑作。
冒頭の事件は明快。視点人物がリアルタイムで遭遇するので、フランス、オランダと比べると、捜査の段取りも少ない。かわりに登場人物たちのドラマが語られていく。(フランスのある人物と比べるとなんと違うか)
中盤、法廷闘争をはさみ、サスペンスと人物ドラマが展開し、名探偵に啓示を与える手がかりが出たところで、読者への挑戦。
解決編の推理は「そこから推理を紡ぐのか!」思わされるもので、実に鮮やか。面白い!
推理部分が魅力的なのは、推理の手がかりが明快なところが大きいと思う。作品によっては、些末で記憶に残らない描写をもとに推理をすすめる作品もあるが、本作の推理の手がかりは、読んできた読者なら必ず覚えているものなので、論理展開を追うときにストレスがない。
マイナス点と思うのは、第4部の展開がやや安直なところだが、重要な手がかりを最後に出すための策ととらえて、目をつぶろう。
クイーンのベストをあらそえる傑作だと思うが、XやYと比べて分が悪いのは、全体を貫く趣向が弱いとこかな。Xのあれや、Yのあれに比べると、「中途の家で殺された男」という謎の提示以外に”趣向”と呼びたいところがないのは、やはり弱い。
他に印象に残ったシーンは、中盤の面談のシーン。ここだけ、他に比べて情景描写が細かく、登場人物の心理がせまってくる。リーが力を入れた場面なのだろうか?


No.172 7点 ハートフル・ラブ
乾くるみ
(2023/03/24 00:11登録)
久しぶりの乾くるみ。
「イニシエーション・ラブ」のシリーズ感を出したタイトルがあざとい。でもシリーズではありませんし、短編集です。
よかったのは、「夫の余命」と「数学科の女」。採点が高めなのは、この2作のおかげ。
「夫の余命」。過去に遡っていく順番で語られる構成が楽しく、最後も決まっている。もちろん、乾くるみ作なので人を選ぶけど、私はこれはそうとう好みです。やられました。
「数学科の女」。乾くるみらしい強烈なキャラがすてき。つっこみどころは色々あるけど、このキャラだけで満足です。「演技なのそれ」「そう」。いいなぁ、この辺の会話。

他も寸感。
「同級生」。既視感のある展開。ミステリでなくても、映画のあれやこれやでも……。どこを見せたかったのだろう?
「カフカ的」。巻末の初出情報によると、「共犯関係」というアンソロジー収録されているので、お題が先にありきなのかな? 乾くるみらしい発想があってわるくない。主人公については、ある点で、もやもやする。驚かせポイントを拾えていないかも。
「なんて素敵な握手会」。ショートショートだけど、きれいに典型的な”あれ”を決めている。
「消費税狂騒曲」。巻末の初出情報によると、「平成ストライク」というアンソロジー収録されているので、お題「平成」が先にあったのでしょう。ちょっとした小咄かな。
「九百十七円は高すぎる」。巻末の初出情報によると、「彼女」というアンソロジー収録されているので、お題「百合」が先にあったのでしょう。「百合」と謎解きがあってない。でも、乾くるみらしい描写はあって、わるくない。まったく楽しめない人も、多そうだけど。

全体の感想としては、香草を使用した料理みたいに、「癖があって、個性的。たまに食べると楽しめる。でも、”うまい!”っていうのとは、ちょっと違う」という感じで、乾くるみらしさが満載。楽しませてもらいました。


No.171 5点 カマラとアマラの丘
初野晴
(2023/03/12 02:54登録)
初めて初野晴を読んだが、どうにも、掴みどころがわかる前に読みおわってしまった。
まず、設定は「廃墟となった遊園地に秘密の霊園があり、ここを訪れる者がいる」というものだが、これが「現実設定なのか」、「現実設定に特定の特殊設定が追加された(キング作品のような)ものなのか」、「異世界設定なのか」が明確でないので、「どんな設定?」と模索しながら読みすすめることになった。
1話目で世界設定は把握したつもりになったが、作がすすむと状況設定がかわってきて、結局、最後まで模索しながら読むことになってしまった。
(たとえば、1作目では「霊園に行こうとする者がいる」ことで話が始まるので、それが世界に入る入口だと思ったが、4作目では、その人が霊園に行こうとするとは思えないし、「自分が一番大切にしているものを差し出す」という設定は、4作目ではあいまいだったし)
また、視点人物も一定でなく、感情移入しやすい人物がいない作もおおいので、すこし引いた視線で読むことにもなり、このため、感情移入できなくて、楽しめなかった。もちろん、全ての小説が「感情移入できないと楽しめない」訳では無いが、本作は間違いなく感情移入できたほうが楽しめる話だったと思う。
動物に関しての色々な話題はかなり面白かったので、残念。「あわなかった」ということなのでしょう。
1話目が、いちばんすっきりとまとまっていて、よかったかな。犬を飼っていることもあるかも。


No.170 7点 正義
P・D・ジェイムズ
(2023/03/09 01:11登録)
ジェイムズ作は、間違いなく、作を追うごとに読みやすくなっている。
1つ1つの描写は相変わらず濃厚だが、各章がそれほど長くなく(章ごとに視点人物は変わるけれど)視点人物が明確なため、全体をすっき見渡せるからだと思う。
全体を概観してみよう。
第1部は、被害者のまわりの人間関係が描かれ、動機があると想定される人物が複数描かれる。(被害者が誰かについては、作者が最初の数行で明かしているので、ネタバレではないかな)
第2部は、ほとんど捜査側の視点で、点景で関係者側が描かれるだけ。ここまで捜査側にふりきった視点は、ジェイムズの過去作にはなかったのではないか? これは、読みやすさに貢献していると思うし、この読み心地は、警察小説の面白さ、もしくは、私立探偵小説の面白さだと感じた。この辺は好み。
第3部で、かなり駆け足で事件が進行する。ここから警察小説/私立探偵小説というよりは、犯罪ドラマになっているかなぁ。ここからラストまで、犯罪ドラマとしてはよいが、謎解きミステリとしての面白さ(謎が解かれたときのカタルシス)はあまりない。ただ、第1部で描かれた殺意のうち”これがこう嵌まっていくのか!”というところて、犯罪ドラマとしては面白かったし、なにより「邪悪に生まれついた人」を説得力をもって描いていて、これはかなり印象深い。
個人的に好みだったのは、終盤の犯罪ドラマの部分の主体がミスキン警部がになっていること。最終版に明かされる”あるちょっとした事実”がミスキン警部に関わってきて、これはなかなか面白かった。その前にも、ミスキン警部が「死の味」のあるシーンを思い出すシーンがあり、ミスキン警部のドラマとしては、「死の味」「原罪」「正義」で3部作なんだなと感じた。いつか「死の味」を再読したら、ミスキン警部のドラマ部分は、圧倒的に初読時より楽しめる気がするなぁ。
また、まだ読んでいないが、この後の作品のあらずじ/ネット感想を参照すると、ミスキン警部のドラマとしてはここまでで一旦区切りで、この後のミスキン警部関連のドラマはトーンが変わっていくと予想している。(継続して読むつもりなので、違ったら今後の作の感想で訂正します)
ミスキン警部関連では、本作の初登場シーンが、終盤のシーンの(ドラマとしての)伏線となっている点もいい。やはり作者は、ダルグリッシュと同じくらいミスキンにも思い入れがありそうで、ミスキン警部推しとしては、今後の作品も楽しみだ。


No.169 6点 父親たちにまつわる疑問
マイクル・Z・リューイン
(2023/03/09 01:04登録)
久しぶりのサムスン物。もう新作は読めないと思っていたので嬉しいよ。
個々の話は、長さも短いので、きわめてシンプル。印象的なキャラクターと、どこかほのぼのしたユーモア。プロットは無駄なく引き締まっていて私立探偵小説の好短編といえる。
(ジャンル投票は「ハードボイルド」としました。サムスン物は「私立探偵小説」だけど、「ハードボイルド」ではないよなぁと思いながら)
全体を通すと、全ての話が大なり小なり「家族の話」で、かなり高齢となったリューインが、ここでこのテーマにフォーカスするのかと、意外なような、納得なような……。
なんにしても、感慨深いな。
久しぶりに、中期の傑作を読んでみようかな。記憶では「消えた女」「季節の終り」がツートップなんだけど、今読むとどう思うかな?


No.168 6点 あやし~怪~
宮部みゆき
(2023/03/09 00:52登録)
このサイトで評価が高かったので読んでみた。
うん、語りはいい。情景描写も目に浮かぶし、会話も、口調だけでキャラクターがイメージできるように書き分けられていて、すっぽり世界に浸れる。所々でてくるゾクリとするシーンは、インパクトもある。
高得点の人は、きっとこの語りに魅せられているんだなと想像するし、それはよく分かる気がする。
でも、プロットは定型的に思えるし、予定調和と感じるものもあるので、私の採点はこの程度。やはり自分は、プロットを主に楽しむタイプなのだなと、あらためて実感した。


No.167 5点 ひよこはなぜ道を渡る
エリザベス・フェラーズ
(2023/03/09 00:44登録)
久しぶりのフェラーズ。トビー&ジョージものは、これで全作を読み終えた。
最後まで読めばもちろん事件は解決されるのだが、どこかすっきりしない。
これは、いろいろなことが発生して、事件が複雑になり過ぎているからに違いない。何人もの思惑が重なり、しかもそれが、同じ日に実行されていて、読者の整理がおいつかないからだ。(私のあたまが悪いせいかもしれませんが)。そこから派生して「ここまで同時に重なるか?」との違和感がもでてくるから、なにかすっきりしないんだよな。
トビー&ジョージものは、他も結構複雑だった記憶があるなぁ。(もう朧な記憶だが)
ユーモラスな感じはいいんだけどね。


No.166 6点 国語教師
ユーディト・W・タシュラー
(2023/03/09 00:37登録)
確かにある犯罪事件が中心にあるので、ミステリではあるが、かなり普通小説よりの作品。魅力的なのは、「語り」の形式でよませるところでしょう。メール、作中作、調書 etc。
過去の事件の真相は、それほど意外ではないが、終盤のある展開は意外だった。ラストは登場人物の心理が胸に迫る。ミステリのカタルシスはないが、小説としていい作品です。

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