かくして殺人へ HM卿シリーズ |
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作家 | カーター・ディクスン |
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出版日 | 1999年12月 |
平均点 | 4.55点 |
書評数 | 11人 |
No.11 | 4点 | ことは | |
(2023/07/17 17:41登録) やりたいことはわかった気がするが(犯人があれなことでしょうが)、そんなに面白いとは思えなかった。 シーンとしては、映画のセットでの硫酸殺かけのように面白いシーンもあるが、ときどき入れられる撮影シーンがチグハグであったり、第二の事件の付け足し感がいつも以上だったり、全体的には、どうにも失敗作の感が拭えない。 どこまで取材したかわからないが、当時(1940)の映画撮影の雰囲気を楽しむというのは珍味なので、見どころはそれくらいかな。 |
No.10 | 3点 | レッドキング | |
(2020/10/05 20:40登録) 撮影所のシナリオライターに採用された牧師の娘。通話管からの硫酸浴びせ掛け、窓越しの銃弾、毒入りタバコ混入と様々な手段で命を狙われる羽目に。フー・ホワイというより、いわばフーム・ダニットのミステリ。フー自体のひねりも効いてはいるが、別にカーがこんなの書かんでもなあ。 |
No.9 | 5点 | 雪 | |
(2020/07/31 20:59登録) ドイツへの宣戦布告を間近に控えた一九三九年八月二十三日水曜日。イギリス、ハートフォード州のイースト・ロイステッドからやって来た田舎牧師の娘モニカ・スタントンは、ロンドン近郊のパイナム・スタジオでアルビオン・フィルム社のプロデューサー、トマス・ハケットの面接を受け、見事脚本家に採用された。 スキャンダラスなベストセラー小説『欲望』をものしたことで新聞各紙から標的にされ、伯母のフロッシーには事あるごとに「せめて面白い探偵小説でも書いていれば――」と言われてきたが、それももう終わり。『欲望』の脚本を映画界の傑作にし、自分もこの巨大な、まばゆい世界の一部となるのだ。モニカは純粋な感謝と使命感に燃えていた。 ――だが彼女に割り当てられたのは探偵小説『かくして殺人へ』の映画脚本。しかもその原作者は、伯母が当てつけのように口にしてきた探偵作家、ウィリアム・カートライトだったのだ。 カートライトと衝突しながらも彼に指導され脚本執筆に勤しむモニカだが、面接初日から謎の人物に付け狙われ、いきなり硫酸を浴びせかけられる。なおも続く銃撃事件を受けて密かに彼女に一目惚れしたウィリアムは、陸軍省情報部に自分の推理を送りつけることで直接、情報部長ヘンリ・メリヴェール卿の出馬を促すが・・・ 『読者よ欺かるるなかれ』に続くHM卿シリーズ第10作。次作『九人と死で十人だ』及びフェル博士シリーズ第12作『震えない男』と共に、イギリス参戦直後の1940年に発表されました。バトル・オブ・ブリテン突入前の刊行という事もあってか、スパイ云々はあるものの結構お気楽な雰囲気です。 創元文庫版解説で霞流一氏が「自選ミステリ十傑中の或る作品にチャレンジしたもの」と述べていますが、どちらかと言うとコメディ風の軽いシロモノ。毒煙草のトリックも軽妙ではあるものの小技の類で、身構えるほどの物でもない。むしろ中盤に用意されたダマシをどう評価するかでしょう。この時期だと構造的に一番近いのは『殺人者と恐喝者』になりますかね。でもこっちは更に悪辣なので、ちょっと擁護できそうにありません。 ただしこのおかげで容疑者の幅が広がり、十章以降のサスペンスがより高まっているのも事実。メイントリックの鍵となる旧館の構造も、手掛かりとしてしっかり描写されています。 灯火管制を利用した戦時中ならではの襲撃方法に加え、ラストのヌケヌケとした皮肉など、要所々々は締めた作品。高くは評価できませんが、退屈させない仕上がりとは言えるでしょう。 |
No.8 | 6点 | 弾十六 | |
(2019/01/03 19:39登録) JDC/CDファン評価★★★★☆ H.M.卿第10作。1940年出版。新樹社の単行本(1999)で読みました。 多分この作品の最大のネタは、大抵のレヴューでバラされちゃう「〇〇が××ない」です。きっとパーティかなんかで誰かに「あんた人殺しの血生臭い作品ばかりでサイテー。文学のブの字もない」と言われて思いついたのでは? 作者がニヤニヤして「ばかり…ではありませんな…」と返すのが思い浮かびます。(だから「ネタバレなし!」とうたってるレヴューも一切信用してません。こないだひどいのがありました。(ここのじゃないです) 読み終えた作品の評を読んでたら、今読んでる別の作品のネタバレが! あー‼︎) 1939年8月23日木曜日からはじまる事件。映画作成現場のドタバタぶりといつものラブコメ的な男女のやりとり。全体の楽しい雰囲気はWWII開戦の緊張感から来たものか。大事なことを言いかけて止める手法の連続にはイライラしますが、ネタの盛り上げ方は流石です。大ネタもJDC/CDらしくて(合わない人多数だと思いますが)気に入りました。ただしキテレツな話を求めている人には物足りないですね。(もっと派手な犯行が良いです) 以下トリビア。 p12 二万ポンドのダイヤのネックレス: 消費者物価指数基準1939/2019で64.9倍、現在価値1億8千万円。 p21 ミスター ダンの説が正しいとすれば、潜在意識の下では非常に奇妙なことがおこっているらしい。(If Mr. Dunne’s theory is correct, some very peculiar things go on in the subconcious mind.): 訳注はFinley Peter Dunneのこと、としているが、何か文脈と合わない。自分の体験した予知夢のことを書いて結構読まれたというAn Experiment with Time(J.W. Dunne作1927)のことでは? p38 つまらなくて馬鹿馬鹿しいあんなトリック、千年経ったって成立しやしないでしょうね。(They are nasty, footling litte tricks that would never work in a thousand years): JDC/CDは流石に良くわかってらっしゃる。 p72『バンジョーを弾く人』(The Banjo Player): 19世紀の部屋に掛かっているありふれた絵という設定。William Sidney Mount作(1856)? p105 ラム チョップとパイナップル(Lamb chops and pineapple): ダイエット法。2週間で10キロ痩せるらしい。なおこのダイエットを実践したとされてるサイレント時代の女優? Dalmatia Divineは架空人物っぽい。 p109 チェスター(Chester): 米国タバコの銘柄。Chesterfieldなら有名ですが… p173 ティペラリ(Tipperary): It’s a Long Way to Tipperary(1912), Jack Judge&Harry Williams作詞作曲。ミュージックホール起源。英国ではWWIを象徴する歌。 p180 50本入りのプレイヤーズ(Player’s): 英国タバコメーカー。銘柄は書いていない。 p180 1ポンド6ペンスの妥当な料金(the modest sum of one and sixpence): タクシー代。現在価値9352円。歩いて行ける距離にしては結構高め。でもこの英語表現だと1シリング6ペンスだと思います。(その場合は684円) p262 一万五千ドル: 米国消費者物価指数基準1939/2019で18.09倍、現在価値3014万円。 p266 ビッグアップル ダンス(dance the Big Apple): 1937年米国で大流行。某Tubeにわかりやすいのがあります。輪になって陽気に踊るのが特徴かな。 p267 鉛で出来たシリング貨(a lead shilling): 本物は.500シルバー、重さ5.6g、直径23mm。当時のジョージ六世コインの裏のデザインはイングランドとスコットランドで違ったようです… p273 あなたって本当に、何とやらの息子ってところね(you are a crafty old son of a so and so): 翻訳が難しいですね… 試訳「古狸なbナンチャラの息子」 銃は38口径のリボルバー(a .38 revolver)が登場。メーカー等記載なし。 最近WWI前の作品ばかり読んでたので、実に快調に読めました。 (2019-1-4追記)文庫版は全面改稿らしいです。書店で見たら、タクシー代は1「シリング」6ペンスに直っていました。Mr. ダンの訳注も削除されてました… |
No.7 | 4点 | E-BANKER | |
(2017/07/09 19:42登録) 作者名義、HM卿登場作品としては十番目の作品に当たる長編。 原題“And So To Murder”。 1940年発表。創元文庫の新訳版で読了。 ~処女作がいきなり大当たりしたモニカは、生まれ育った村を出てロンドン近郊の映画スタジオへやってきた。ここでプロデューサーに会うのだ。モニカの小説を映画化するかと思いきや、脚本は脚本でも他人の原作を手掛けることに。スタジオ内の仕事場で執筆を始めたモニカは、何度も危険な目に遭う。硫酸を浴びかけたり銃撃されたり、予告状も舞い込みいよいよ生命の危機である。義憤に駆られた探偵小説家のカートライトは証拠を持ってHM卿に会い、犯人を摘発してくれと談判するが・・・~ シリーズも十作目ともなるとクオリティの低下が目立つ・・・そんな感じ。 今回はカーがいったい何を書きたかったのかさえ、よく分からなかった。 トリックの鍵は真犯人の○○なんだろうけど、正直なところ、『よく確認しろよ!』って言いたくなる。 硫酸や銃まで持ち出してるわけだからねぇ・・・ そんな杜撰な殺人計画ってあるのかねぇ?? 物語はHM卿の登場をもって風雲急を告げる。 もしかして事件の構図がガラッと変わるのか?と期待したわけだが・・・それほどものでもなかった。 サプライズ感の薄いフーダニットもなぁー、今ひとつ。 あと、モニカとカートライトの恋愛模様。 実に中途半端だ! もっと書きようがあっただろうに・・・ 有り体にいうと「駄作」という評価になりそうな本作。 それもこれも比較対象となるシリーズ前半作品がスゴすぎるせいなのか、本作がヒドすぎるせいなのか。 両方かな。 かくして、こんな評価になりました・・・ |
No.6 | 5点 | makomako | |
(2017/05/27 18:23登録) 映画撮影所での事件なので映画関係者が登場するのは当然なのですが、私は職の区別があまりわかっていないので、読んでいて人物がごちゃごちゃになりがちでした。登場人物が決して多くないのに。 お話としてはちょっとそこが浅く、トリックもいまいちといった感があり、こんな評価となりました。 |
No.5 | 7点 | Tetchy | |
(2017/05/08 23:34登録) カーター・ディクスンは事件関係者の勘違い、もしくは想定外の出来事で殺人計画が捻じ曲げられ、それがために不可解な状況が起こるという、ジャズ演奏で云うところの即興、インプロビゼーションの妙をミステリに非常に巧みに溶け込ませるのを得意としているが、本書においてもそれが実に巧く効いている。 ただ本書で唯一不可能状況下での犯罪は封も開けていない、モニカが駅で買った煙草にどうやって毒入り煙草を忍ばせたかという物だが、案外無理があるトリックだとは感じる。 そしてだいたい作者が映画業界を舞台にした作品を書くときは作者自身がその業界に関わったことがあるからだからだが、やはりディクスン自身もその例に洩れず、解説の霞氏によれば本書が発表される2年前の1938年にイギリス映画界で脚本家として携わったらしい。その時の経験は散々だったようで、そのことが作品にも色濃く表れている。特に最後の台詞 「映画産業にはよくあることだ」 はその時の思いがじっくりと込められているように思える。 ところで私はHM卿シリーズはけっこう読んでいるわけだが、なにせ時系列的に読んでいないため、各作品での繋がりに対する記憶がほとんどない。本書に登場するHM卿の部下ケン・ブレークとスコットランド・ヤードの首席警部ハンフリー・マスターズ以外の登場人物は私の中では消失してしまっている。その原因はカーター・ディクスンならびにディクスン・カー作品の訳出のされ方にもある。例えば近年新訳で刊行されたHM卿の作品は以下の通りだ。 2012年『黒死荘の殺人』;第1作目 2014年『殺人者と恐喝者』:第12作目 2015年『ユダの窓』:第7作目 2016年『貴婦人として死す』:第14作目 2017年本書:第10作目 このように順番はバラバラである。この辺が改善されると今後の読者も系統だってシリーズを読めるので助かるとは思うのだが。しかしこうやって見ると上には書いていないが、ジョン・ディクスン・カー名義の作品も合わせると毎年コンスタントに新訳が出されていて、ファンとしては非常にありがたい状況ではある。 まだまだ絶版の憂き目に遭って読めないでいるカー作品をこれからもコンスタントに刊行してくれることを東京創元社には大いに期待しよう。 |
No.4 | 4点 | nukkam | |
(2016/05/24 16:49登録) (ネタバレなしです) 1940年発表のヘンリー・メリヴェール卿シリーズ第10作となる本格派推理小説です。何度も未遂事件を起こしてじわじわとサスペンスを高めていくプロットを狙ったようですがあまり効果は上がっていないように感じます。映画業界という一見派手そうな舞台ですが全体的に地味ですし、トリックも小粒なものです。ミスディレクションをいくつも用意しているところはさすがに巨匠らしいと言えなくもありませんが、大方のファン読者は本書程度の謎解きでは特徴の少ない凡作にしか感じないのでは。 |
No.3 | 4点 | 了然和尚 | |
(2015/04/25 18:16登録) 最初に動機なく狙われる事件が続けば、真の目的は別の殺人というのはパターンすぎます。但し、真のターゲットはちょっとひねってます。それでも、全体に平凡でした。本格の手がかりもカーにしては不明確でした。メイントリックの吸いかけタバコの取り換えは面白くはあるが、詰めが不足しているように感じます。口紅ついてないか?とか、毒タバコにどうやって火をつけて長さを調整したかとか。どっかのテレビサスペンスでパクリが出そうな面白い着想ですが。 |
No.2 | 5点 | kanamori | |
(2010/06/27 18:02登録) ベストセラー女性作家への連続襲撃事件を扱ったH・M卿ものの第10作目。 怪奇趣向やファース、密室殺人などの作者らしさが出ていないスマートな本格編で、犯人の動機が一番のキモである点など、クリステイの作品を彷彿とさせます。 |
No.1 | 3点 | 空 | |
(2008/12/04 21:43登録) カーが時々試みる悪ふざけ的なアイディアが空回りした作品ではないでしょうか。 動機の着想にはかなり感心したのですが、犯人の「意外性」でこの手はないでしょう。それと関連しますが、読者が知りようのない手がかりをH・M卿が握っていたというのも、嘘は書いていないなどと作中で言い訳することのあるカーにしては珍しいアンフェアぶりです。 |