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ミステリの祭典

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弾十六さんの登録情報
平均点:6.13点 書評数:524件

プロフィール| 書評

No.84 7点 レスター・リースの新冒険
E・S・ガードナー
(2018/11/18 11:24登録)
本書に収録されているのは全てDetective Fiction Weekly(以下D.F.W.)に掲載されたものですが49作目(1936-3-21)を最後にシリーズ第1作目から続いていた同誌への掲載が一時中断し、Street&Smith's Detective Story誌(月刊誌)が50作目(1938年12月号)から56作目(1939年8月号)までリースものを掲載します。ところが57作目(1939-9-16, Lester Leith, Magician 本書に収録)は雑誌表紙の最上部に大きく"Lester Leith is Home Again!"と書かれ、D.F.W.に再び掲載されました。(これ以降最終話まで同誌及び後継誌に掲載。63作目掲載のDetective Fiction誌及び64作目と65作目<最終話>を掲載したFlynn's Detective FictionはD.F.W.の後継誌) この時期D.F.W.は表紙の雰囲気を変えたり週間から隔週刊、月刊に変わったり版元が変わったり雑誌タイトルを変えたりと台所事情が苦しかったのがうかがえますが、1938年の突然の掲載誌変更(大人気作のライヴァル社への移籍ですから…)にはどんな事情ががあったのか気になります。(長編作家として安定してきたガードナー自身の中短編の寄稿自体が減っており、既にパルプマガジンは主戦場では無かったのですが…)
さて、本書には以下の5作を収録、いずれも楽しい紳士怪盗ものです。(#はリースものの掲載順通し番号)
#19 In Round Figures (D.F.W. August 23, 1930)
#33 The Bird in the Hand (D.F.W. April 9, 1932)
#57 Lester Leith, Magician (D.F.W. September 16, 1939) [aka The Hand Is Quicker Than the Eye]
#2 A Tip from Scuttle (D.F.W. March 2, 1929)
#62 The Exact Opposite (D.F.W. March 29, 1941)


No.83 7点 レスター・リースの冒険
E・S・ガードナー
(2018/11/18 11:03登録)
文庫版で読了。
なぜレスター リースはほんの数作しか翻訳されないのか?
答えは簡単でテキストが手に入らないから。ガードナーの短編集に収録された2作、Ellery Queen編の単行本The Bird in the Hand and Four Other Stories(1969)及びThe Amazing Adventures of Lester Leith(1980)収録の7作以外はパルプマガジンを漁るしかありません。(EQMM採録作で未翻訳のものがあるのかなあ…)
FictionMags Indexという素晴らしいHPで調べるとレスター リースものは全部で65作。Detective Story誌に掲載された7作以外は全てDetective Fiction Weekly誌(以下D.F.W.)及びその後継誌に掲載されました。(ヒューズのガードナー伝付属の全作品リストでD.F.W.1929年夏頃?と記載していたA Sock on the Jawは存在せず、逆に全作品リストに漏れている1作 Vanishing Shadows, D.F.W. 1930-2-8 をFictionMags Indexで見つけました。このHPでは各号の表紙の画像を掲載していて、リースものは人気が高く大抵カヴァーストーリーになっているので当時のリースのイメージがわかります)
私はレスター大好きなのですが、本国での人気が高まるのを待つしかありませんね… (あと56作も楽しみが残ってる!と思うことにしましょう)
怪盗サムでお馴染みの大正ボーイ乾先生の翻訳も快調。いずれも楽しい紳士怪盗ものです。
今回収録されてるのは以下の4作(#はリースものの雑誌掲載順通し番号です)
#23 The Candy Kid (D.F.W., March 14, 1931)
#64 Something Like a Pelican (Flynn's Detective Fiction, January 1943) [aka Lester Leith, Financier]
#51 The Monkey Murder (Detective Story, January 1939)
#58 A Thousand to One (D.F.W., October 28, 1939) [aka Lester Leith, Impersonator]

(2023-4-22追記)
アマゾンで探したら、グーテンベルク21に妹尾訳『レスター・リースの冒険』があることに気づいたので(以前は翻訳の問題でパスしていました…)文庫版未収録の1篇のためにポチりました。収録内容、訳者あとがきから判断してグーテンベルク21版は早川HPBと同一であることはほぼ確実です。(ここまで慎重になる必要ある?「ほぼ」は不要ですね)

訳者あとがきに興味深い文章がありました。

(…)レスター・リースのシリーズは、二十年ほどまえにアメリカの雑誌にのっただけで、まだ単行本にはなっていない。この本におさめた六編のうち、五編までは、最近クイーンマガジンに再録されたのを訳したのである。
(…)
この六編のうち、「いたずらな七つの帽子」だけは、ディテクティヴ・ストーリーといういま廃刊になっている雑誌の、一九三九年二月号からとった。私はいまこの雑誌を探しているがこれ一冊しかもっていない。(…)

単行本出版時には、もう雑誌が行方不明になってたみたい。妹尾さんは1962年(70歳)お亡くなりになっています。蔵書はどうなったのかなあ…

最初の二篇を読みましたが、翻訳はやっぱり怪しげ(口調は良く、日本語にはなっていますが、意味が良くわからないところがちょっと多めにあるのです)。

でもレスター・リース楽しいなあ。筋はすっかり忘れていて、本当に既読物件なの?と思うくらい。人並由真さまのおっしゃる通り、ESGのスピーディーな中篇は現代でも十分通じると思います!(とは言うものの、中篇集の売れ行きは長篇と比べると悪そうだと勝手に感じているので、出版側とすれば二の足を踏むのではないか、とも思ってしまいます…)

文庫本と収録内容を比較後、人並由真さまからご指示のあったHPBと文庫版との異同の詳細を追記します。そして「いたずらな七つの帽子」はネットで原文を入手済なので、読後、妹尾訳の実態を分析(という大袈裟なものではない)したいと思っています…


No.82 5点 検事卵を割る
E・S・ガードナー
(2018/11/18 09:29登録)
ダグラス セルビイ第9話。1949年8月出版。
最後の事件です。冒頭からブレード新聞の新しいオーナーが登場し、セルビイを脅します。A.B.C.は第8話からセルビイ少佐と呼びかけます。セルビイは戦時中、敵のスパイ組織に対抗するスパイ活動をしていたらしい。(A.B.C.はきっと、スパイだったお前はまだ綺麗な手なのか?と言いたいのでしょう) A.B.C.が振る舞うバター入りラム酒を味わうセルビイと保安官。セルビイの武器は頭脳と気魄のこもった誠実。「卵を割る」ところが一番盛り上がるのですが、あとは惰性な感じで結末まで進みます。今回もアイネズは登場しません。
訳者あとがきによると地理的にはマディスン郡はリバーサイド郡のことらしいです。
セルビイvs.メイスン(のような弁護士)という夢の対決が見たかったなー。(まーでも多分、お互いの理想が同じなので対立せず協力しつつ、メイスンのトリックプレーで一気に解決してセルビイ苦笑、シルヴィアおかんむり「あんなズルいやり方って!」という流れですね)


No.81 5点 馬鹿者は金曜日に死ぬ
A・A・フェア
(2018/11/18 08:16登録)
クール&ラム第11話。1947年9月出版。HPBで読了。
井上訳ではラム君の一人称は「私」です。 お金に目が眩んで依頼を受けるバーサ。ラム君は作戦をひねり出し、セラーズ部長刑事は礼儀正しく帽子を脱ぎます。複雑な筋立ては相変わらず、解決も一筋縄ではありません。こんがらがって胃もたれする感じ。


No.80 6点 憑かれた夫
E・S・ガードナー
(2018/11/17 16:58登録)
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第18話。1941年2月出版。HPBで読了。
冒頭、ハリウッドに向かうプラチナブロンドが事件に巻き込まれます。メイスン登場は第五章p23から。あの犬の事件の法廷で有名なメイスン。シナリオ作家あがりで、ここ2年余りでのし上がった34才の映画プロデューサーのモデルってプレストン スタージェスをすぐに思いついたのですが1940年にやっと初の監督・脚本作を仕上げたばかりなので、まだ大物という感じではないはず。メイスン映画(1934-37)の経験から作者が見聞きしたイメージなのでしょう。
メイスンが見つける死体の数は多すぎる、メイスンを信じない警察の人間はすぐ思いつくだけで3876人いる、メイスンには兄弟も妻もいない、いずれもトラッグ調べ。
メイスンとトラッグが味方となり敵となり絡み合って事件は進み、裁判は予審で終了。あとはメイスンが解説するのですが、ちょっと複雑すぎて解決編を2回読み直しました。
トラッグ警部が前作に続き大活躍。メイスンへの好意(僕は君が好きだ。君も僕が好きなんだろう)を隠さずBL好きには堪らないかも。
以下トリヴィアです。
銃は小口径(多分32口径)のオートマチックが登場。メーカー不明です。
p36『映画』誌(Photoplay): 映画関係セレブのゴシップ雑誌(1911-1980)。
p154 3丁目とタウンゼント街の角のサザン パシフィック鉄道駅(Southern Pacific Depot at Third and Townsend Streets): Southern Pacific Depot San FranciscoでWeb検索すると駅ビルの写真が見られます。1914年建造のMission Revival-styleで1970年代に取り壊されたとのこと。
p217 四人で仲良くレストランで夕食の時、デラと先に踊りたいとトラッグが言うと、ドレイクは「年の順だよ。」(Age before beauty, my lad)と返します。トラッグとメイスンの歳はほぼ同じと書かれてるので、ドレイクはメイスンより年上なのでしょうか?作者がメイスンとドレイクの年の差や上下をはっきり書いたことは無いように思います。(60年代メイスンシリーズではトラッグはメイスンより年上な感じの描写ですが、これは多分TVシリーズの逆影響。あるいは翻訳がTVの印象に引きずられたのかも。なお、TVシリーズ主演者の生年はメイスン=レイモンド バー1917年、デラ=バーバラ ヘイル1922年、ドレイク=ウィリアム ホッパー1915年、トラッグ=レイ コリンズ1889年)
p221 乾杯の音頭をとったメイスンは「犯罪のために乾杯」(Here is to crime)、このあとの作品で何度も出てくる作者お気に入りの文句です。(D.A.セルビイやクール&ラムにも出てきます) トラッグが「そして犯人の逮捕に」(And the catching of criminals)とすかさず返すのが可笑しい。


No.79 8点 おとなしい共同経営者
E・S・ガードナー
(2018/11/17 14:59登録)
ペリーファン評価★★★★★
ペリー メイスン第17話。1940年11月出版。ハヤカワ文庫で読了。
冒頭にメイスンが登場せず依頼人の三人称で始まる(この形式、私は嫌いです)のはシリーズ初、第三章(p38)からメイスンが事務所に出勤し、やっと物語に現れます。
ホルコム(馬鹿で意地っぱりで頑固な…)は転勤し、代わりのトラッグ警部(メイスンと同年代でほぼ同じ背丈)は初登場でいきなりナイトクラブで大暴れ、その後も派手に大活躍、頭脳戦でメイスンと互角に張り合います。
ドレイク探偵が全く姿を見せないのはシリーズで唯一です。(裏で情報収集活動はしていますが、セリフはたった5行(p170-171)電話の声として登場するだけ)
前作に引き続き医師ウィルモント博士が登場。今回は赤毛の看護婦3人とゴージャス。
物語はいつものこんがらがる筋で、メイスンが打つ手をトラッグがことごとく潰してゆく緊張感あふれるストーリー。デラも逮捕寸前まで追い詰められます。でもペリー自身の危ない冒険は控え目なのがズルい。トラッグから習ったスピード運転をデラに披露して物語は終了。
以下トリヴィア。
銃は32口径のリボルバーが登場。メーカー不明で、らでん細工の握りがついてることだけしかわかりません。
p10 メイスン事務所の時間外連絡先はグレンウッドGlenwood 6-8345(電話取次サービスの番号)
p107 パラフィン・テスト(paraffin test)シリーズ初登場、当時の新技術です。(1933年にメキシコ警察が初導入とのこと)
p222 雑誌「探偵実話」(one of the True Detective magazines): 正確にはTrue Detective Mysteries、小説系&実話系のパルプ雑誌(ハメットやトンプソンの初期作品を掲載)だったが1930年代から実話系にシフトして行き、1941年からはTrue Detectiveと改称。
今回は新機軸が多いのですが、ルーティーンも懐かしいです… (お馬鹿なホルコムとのドタバタはしばらくお預けです)

<これ誤訳?>
ラストシーン、デラがメイスンに言います。
「あなたは国産のネクタイが嫌なのと同じに、後見人なんか嫌いですもの…」You don’t want a guardian any more than you want domestic ties: 家庭的な絆、じゃないでしょうか…


No.78 6点 餌のついた釣針
E・S・ガードナー
(2018/11/17 13:31登録)
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第16話。1940年3月出版。ハヤカワ文庫で読了。
三月はじめの嵐の真夜中、メイスンの自宅の電話が鳴ります。依頼人が誰だかわからない、という珍しい謎。メイスン版「依頼人を探せ!」です。(冒頭のジョーク「キャッシュならキャリー」はCash and Carryのこと)
受付嬢ガーティの描写が前作と違います。ここでは愛想の良い大柄で豊満な肉体の金髪。big, good-natured blonde(第2章) an ample figure(第12章)
車は大型のクーペ、傘は大嫌い、といったメイスンのプロフィールがちらほら。どもり主教事件が初出のグレーヴィ話(Thousand-Island Gravy)も再び出てきます。(後年の作でも何回か登場。お気に入りのジョークを何度も繰り返すジジイですね…)
身元を上手に隠す女の正体を無理やり暴く手口が鮮やか。でも、今回の策略(p209)はちょっとやりすぎだと思います。(かなり人騒がせです)
込み入ってこんがらがった筋を、メイスンが不敵な口先攻撃で解明してゆくいつものストーリー。終盤、地方検事バーガーが登場し、メイスン逮捕状が発行されますが… 結末ではお馴染みホルコム部長刑事が結構いい奴です。
銃は32口径のリヴォルヴァと38口径のリヴォルヴァが登場。どちらもメーカー不明です。
なおp133でメイスンが引用する“法律の解説”(Restatement of the Law)はThe American Law Institute出版の実在本とのこと。


No.77 7点 転がるダイス
E・S・ガードナー
(2018/11/17 10:33登録)
ペリーファン評価★★★★★
ペリー メイスン第15話。1939年9月出版。ハヤカワ文庫で読了。
大好きなネタ(今回はヤマ師)だとイキイキするガードナー。抜け目ないジジイのキャラが魅力的。タイトルは骨とサイコロの掛け言葉。レギュラー脇役の電話交換嬢兼受付ガートルード レイド初登場。本作では眼鏡で、背が高く、カマキリのように痩せている…(tall, thin as a rail, her figure angular, her face plain)などと描写されていますが、第16話以降はなぜか豊満タイプのブロンド(メガネ描写なし)に変身。ガードナーはキャラの一貫性に結構無頓着です。
物語は事務所のシーンからスタート。仕事の手紙と金持ちが嫌いなメイスンをデラがあやします。鑑定士ミルトン スタイブによる筆跡講座あり。ホルコム部長刑事は(なぜか)サンタに罵られます。メイスン事務所はセントラル・アンド・クラーク(Central and Clark 残念ながら架空の所番地)と明記。書中で言及されているニューヨークのモデル殺し(検死医が死亡時刻の推定を間違えた)は実在の事件かどうか不明。「サン クェンティン監獄のガス死刑室」p189とありますが、カリフォルニア州が絞首刑から致死性ガス刑に変更したのは1937年議決で、最初のガス室はサンクエンティン(1938)に作られ、12月に最初の執行があったそうです。
メイスンの冒険はスピード違反(ここでの警官に対するメイスンの態度は全くヒドい…)など小粒なものばかりで、法廷でもトリックを使い、好意的な老判事ノックスを呆れさせます。でも結末はパズルの紛らわしいピースがぴったりはまり、その切れ味でデラがロックを踊りたくなるほど興奮します。 (この時代に「ロック」?と思って原文を見たら I could dance a jig on the judge’s benchでした)


No.76 8点 偽証するおうむ
E・S・ガードナー
(2018/11/17 07:45登録)
ペリーファン評価★★★★★
ペリー メイスン第14話。1939年2月出版。電子本(グーテンベルク21)で読了。
9月12日月曜日(1938年が該当)から物語は始まります。冒頭はいつもの事務所ですが、殺人事件発生後にメイスンが依頼を受けるのはシリーズ初。「ホーカム」巡査部長(「わが20年の警察生活」原文は単にin twenty years)は、いつもお馴染みのホルコムですが、ここでは「ニューヨーク検察本部」の殺人班所属と訳され、メイスンに対するセリフもちょっと丁寧です。原文はSergeant Holcomb of the Metropolitan Police 宇野先生は本書の別の箇所でロスアンジェルスと補って訳してる(原文the city)のに、なぜMetropolitan=New York? なお原文にLos Angelesは一度も出てません。
いまは失業も珍しいことではない、という時代、登場人物が不況論を語ります。「ついこの間の保険代理業者殺人事件」は「カナリヤの爪」のこと。小鳥屋ヘルモンドは2度目の登場。電話の盗聴には大掛かりな仕掛けが必要です。(ポータブル録音機がポピュラーになるのはまだ先の話、本作はデラが速記する時代です。)
メイスン探偵の冒険はいつもの通り二転三転、圧倒的に不利な証言をどうするのか、が見もの。結末はとても鮮やかです。
銃は図書館収蔵の「41ミリ口径」(原文A forty-one. 迫撃砲じゃないんですから… 正解は.41インチ)デリンジャー式ピストルが登場。短い銃身が2本並んで双方から発射出来る、とあるので有名なRemington Double Derringer(1860年代からの生産)でしょうね。「仕込み銃の一種で畳み込むと小さくなる」(評者注: 折りたたみ式の銃ではない)とか「弾丸2発は同時に発射された」(評者注: 銃のバレルは2本ありますが1本ずつ代わり番こに発射する構造)という変な箇所があります。原文を見ると仕込み銃はtrick weapon(隠し武器、くらいの感じ?)、畳み込むのはOne of those short-barrelled guns, with a trigger which folds back out of the way. It’s small enough to be carried anywhere. 試訳「短銃身の銃で引き金が引っ込むやつ、小さくて何処にでも持ち込める」、弾丸2発同時はboth barrels of the gun had been fired at once. 続けざま、というニュアンスでしょうか。


No.75 5点 カラスは数をかぞえない
A・A・フェア
(2018/11/17 06:33登録)
クール&ラム第10話。1946年4月出版。HPBで読了。
ラム君は「旅行」から戻った、と訳されてますが、原文はit's so good to have you back in the office で「旅行」は関係ありません。コミさんは自分が訳した「猫」の「ヨーロッパ旅行」を思い浮かべたのでしょう。
セラーズは部長刑事から警部に昇進、殺人課から異動しご無沙汰だった様子。バーサに惚れており、自分は40歳だからバーサと釣り合うと自薦します。(バーサの歳が35から40の間って…)
いつものように複雑な筋立て。コロンビアに飛んで手がかりを得るラム君、最後は自分のオフィスを持ちエルシーを個人秘書にします。
銃は22口径の自動拳銃が登場、詳細不明。訳者あとがきでは登場人物の年齢や設定が作品によって結構違っていることを書いています。


No.74 6点 万引女の靴
E・S・ガードナー
(2018/11/15 06:23登録)
ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第13話。1938年9月出版。HPBで読了。
雨宿りしたデパートのレストランで食事をとる二人。メイスンの夢は動く鉄道模型の大きなジオラマセットを事務所に置くこと、助手ジャクスンはゲジゲジ眉毛で子供時代がなかったような感じの男、デラは今112ポンドで109ポンドが理想、などの他愛のない会話から物語の幕が開きます。
誰でも知っている有名弁護士メイスンというのが第2シーズンの設定。メイスンが賭博場のバーで注文したのはオールド・ファッション。ちょい役でシナハラ・イツモという名の日本人コックが顔を出します。
メイスンの無茶は控え目ですが、今回はドレイクが巻き込まれて災難を受けます。地方検事が証人を入念にコーチする場面が興味深い。ホルコムは「捜査課」(homicide squad)在籍10年と証言、いつもの活躍が見られます。法廷でメイスンが最終弁論を行い、陪審の評決が出るのは珍しい。
いつもの込み入った筋でスピーディな冒険物語が楽しめますが、突飛な習慣の叔父さん(計画的な突発性泥酔及び賭博症って…)が変テコで、周りの人物の行動も不自然な感じ、解決もちょっとスッキリしません。
さてトリヴィアです。
デパートでの37ドル83セントの買い物、現在価値は930ドル程度(食パン換算)。
11章の引用「自分の仕掛けた爆発物に吹っ飛ばされた技師を見るのは楽しい」(For 'tis sport to see the engineer, hoist by his own petard. )はハムレットからの有名句。
銃は38口径拳銃が2丁登場。いずれもリヴォルヴァですがメーカー型式不明。銃関係の翻訳は難あり。
p149「いわゆる練習用拳銃」(what they call a service revolver) 練習用ではなく、「官給品の拳銃=軍用拳銃」のこと。「女性には反動が強い、重すぎる」とあるのでM1917(45口径、Colt製・S&W製の二種類あり)だと思われます。
p229「38口径弾といわれる弾丸」(女性に手頃な弾)と訳されているのは原文では「38ショート弾」(a shell known generally as a thirty-eight short) 特に断りなく「38口径弾」といえば、普通は38スペシャル弾(1899年開発、正式名称.38 Smith&Wesson Special)を指します。38 shortは正確には38 Short Colt弾(1874)で「38口径」ファミリーの元祖的な存在。38 S&W弾(1876)[稀に38 S&W short弾と呼ばれる]とは別物。いずれも38スペシャルと比較すれば弱い弾。38スペシャルが撃てる銃なら38ショートも撃てます。なおモロ族との戦闘でストッピングパワー不足が指摘された「38口径」は38 Long Colt弾(1874)のこと…

<大事なところで誤訳>
p254 それは拳銃で撃たれて死んでいたある人物なのです。(That was someone who was a dead shot with a revolver): dead shot=marksman リヴォルヴァを持った射撃の名手、という意味ですね… (これは訳文の前後から明白に変だと気づきましたが、もしかしたら他にも結構誤訳あり?)


No.73 6点 サイロの死体
ロナルド・A・ノックス
(2018/11/14 20:37登録)
1933年出版。
冒頭の謎が地味目で、展開はゆったりとしているのですが、解決編は怒涛の勢いがあり楽しめました。探偵ブリードン夫妻(と言っても妻はちゃちゃを入れるだけ?)のシリーズものなんですね。ブリッジ、トートー、モスマンが車の愛称?と註釈され、冒頭に車が6台も出てくる割に具体的な描写が少ないので、どんな自動車なのかイメージしにくかったです。作者は車にあまり興味がなかったような気がします。


No.72 7点 The Perry Mason Book: A Comprehensive Guide to America’s Favorite Defender of Justice
事典・ガイド
(2018/11/14 20:24登録)
Kindle版を購入。
表紙がレイモンド バーですが、小説版のメイスンをきちんとフォローしています。公式には長編82作、中編2作、短編1作のようです。小説版の解説には、名前の判明している全登場人物リスト、あらすじ、翻案(テレビ・バージョンとの関係など)、注釈があり、注釈にはトリヴィア関係がどっさり。地名が架空の場合は明記され、建物やホテルが実在の場合は詳細が記され、版による「次の事件への予告」の違いや、デラにプロポーズした回数や、ドレイクの秘密ノックの変遷なども記載されています。本書によるとシリーズ中に挙げられた判例や書物は大抵実在のもののようで、法律関係に手を抜いていないガードナーの姿勢が伺えます。テレビシリーズの解説は、作品を視聴したことがないのでまだ読んでいません。この本で大抵のペリー メイスン情報は手に入るはずです。(私が書いている銃関係のトリヴィアはレミントン ダブル デリンジャーに触れていることを除いて全く出ていませんでしたが…) 英語ですが平明で読みやすいと思います。Kindle版なので簡単に検索出来るのが非常に便利。紙の本換算で1983ページ。560円。


No.71 6点 掏替えられた顔
E・S・ガードナー
(2018/11/14 20:11登録)
ペリー ファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第12話。1938年4月出版。HPBと電子本(グーテンベルク21)で読了。訳はいずれも砧 一郎。
事務所に変わった依頼人が来る…というパターンの第1シーズン(1〜11話)が終わり、第2シーズン(私見ですが27話まで)はいろいろ趣向を変えているのが特徴です。本作は豪華客船、次作はデパートの食堂から話が始まります。第16話では依頼人が誰かわからず、第17話以降は冒頭にメイスンが登場しないことが多くなるのです。
本作はハワイから出航する船上のメイスンとデラから始まります。二人は中国と日本を訪れ法律制度を調査していた(バリ島にも足を伸ばしてた?)らしいのですが、休暇に飽きたメイスンに魅力的な謎が迫ります。
留守を守るジャクスンは鼈甲ぶち眼鏡の真面目タイプ。デラは「せいいっぱいやってる」とやさしいのですが、メイスンは「闘士としては腰抜け」(a rotten fighter)と散々な評価。
今回はメイスンが珍しく焦りまくります。事件自体はパズルが上手く完成するのですが、ちょっとごたついている印象を受けました。
さてトリヴィアです。
銃はメーカー不明の38口径リヴォルヴァが登場。メイスンの拳銃も初登場。ショルダーホルスターを使い、リヴォルヴァであることしか書かれていません。
遂に本作でメイスン事務所がL.A.にあると明言されました。(今まではthe cityなどとボカしていました。内容からはバレバレでしたが… ) p184「君のロスアンジェルスの事務所に、電話をかけてみたらどうだい、ペリイ」とドレイクが言います。原文でもHow about calling your Los Angeles office, Perry?となっているので確定です。この本でロスアンジェルスと訳されている部分は全て原文でもLos Angelesです。結構しつこく出て来るので、どーしたのかな?と思うくらいです。(上の文も無理にL.A.って入れなくても充分通じますよね)
p26 「メイスンの小型カメラで、天然色のスナップを…」アマチュア向けカラーカメラの発売は1936年から。
p222「マーケット ストリートを左に折れ、湾をまたぐ橋に…」(the bridge which crossed the bay) この橋は1936年11月に開通したサンフランシスコのBay Bridge。
(最後のネタ2つはメイスンのトリヴィア本から。ガードナーは新しもの好きです)


No.70 7点 カナリヤの爪
E・S・ガードナー
(2018/11/13 22:57登録)
ペリー ファン評価★★★★★
ペリー メイスン第11話。1937年9月出版。Saturday Evening Post連載(1937-05-29〜1937-07-17) ハヤカワ文庫で読了。
ガードナーは本作がLiberty誌から断られガッカリ。もしPost誌が買わなかったらシリーズは、ここで終わっていたかも。
主計さんの文庫あとがきを読めば、訳者が本作に思い入れが強いのがわかりますが、ちょっとくだけすぎの会話文(特にドレイク)は好みが分かれると思います。
物語自体は、スピード感満載の、ちょっと込み入ってるが割とスッキリした筋の話です。メイスンのやんちゃな行動は控え目、ホルコム刑事はちょっとしか活躍しません。なので全体的にパンチには欠けますが、ファンには楽しい幕切れが… (次の事件の予告は前作で終了)
さて、トリヴィアです。
モンタレイ号、ヨハンソン船長という「どもりの主教」関係の名前がちょっとだけ出てきて覚えてる人はニヤリ。
デラの個人情報は、シリーズ中にほとんど出てきませんが、本作では「姉妹はいないので損してた」(I always felt I was short-changed by not having any sisters)と自ら暴露。
訳文では「ロスアンジェルス」(p5、p180)となっていますが、いずれも原文はthe city。
Hawaiian ParadiseはHarry Owens作詞作曲で1935年作。
銃はスミス・アンド・ウェッスン 38口径六連発リボルバーが登場。ミリタリー&ポリス(M10)だと思われます。「台は鋼鉄張りかニッケル張りか」(Was it blued-steel or nickel-plated?)というセリフは、表面がブルースチール(青黒い色)かニッケル仕上げ(銀色)かということ。「握りの台尻に近い部分の真珠のはめ込み」(the pearl handles right near the butt of the gun)とはパールグリップのことですね。


No.69 6点 裁判
ロバート・トレイヴァー
(2018/11/11 21:34登録)
1958年出版。創元文庫で読了。
1958年の米国ベストセラー(Publishers Weekly調べ)トップ3は
1 Doctor Zhivago by Boris Pasternak
2 Anatomy of a Murder by Robert Traver (本書)
3 Lolita by Vladimir Nabokov
本書は映画化(1959)され、日本版の題は『或る殺人』(オットー・プレミンジャー監督、ジェームズ・ステュアート主演)
私は映画を最初に見て、納得がいかないところがあったので原作を読むことにしました。
上下巻あわせて800ページの厚さ。でも映画が意外と原作にかなり忠実(もちろん大きく変えた部分あり)なので、イメージが浮かびやすくスラスラ読めます。文章は悠々たるものですが冗長ではありません。映画の疑問点は原作を読んで全て解消しました。ただし原作も純オリジナルとは言えず実録に近いようです。
作者が本職なので法廷シーンは迫力があります。もしかしたらペリー メイスンのTVドラマ(1957年から)の影響がこの作品をベストセラーにのしあげたのかも、と想像してしまいました。


No.68 4点 震えない男
ジョン・ディクスン・カー
(2018/11/11 20:47登録)
JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士 第12作。1940年出版。HPBで読了。
なにせエリオット三部作(曲った蝶番、緑のカプセルの謎)の一つなので、非常に期待して読んでたのですが、事件現場の目撃者の証言(p72)で、あっこれは駄目なJDCだ!とガッカリ。でも意外と持ち直すのが早くて、まともな探偵小説?と思ったら、やっぱり変てこな物語でした。動機も手段も上手くいく可能性も登場人物の心理もかなり無理があります。あまりにヒドいので誰かに読ませたくなりますね!
歌はたった一曲だけ。
p180「浜辺に坐ってみたいのよ」(I Do Like to Sit beside the Seaside): ミュージックホール由来でI do like to be beside the seasideという有名曲があります。作詞作曲John A. Glover-Kind (1907)
銃器関係では古式ピストルのコレクションが登場。
p46 車輪式引金(wheel lock): ホイールロックは回転式発火装置
p46 ナポレオン時代の騎兵用ピストル(Napoleonic cavalry pistol): フリントロック式のもの。Webに画像あり
p47 雷管(percussion cap): パーカッション式は1820年頃の発明なので「ウォータールー」以前のピストルのコレクションならホイールロック式かフリントロック式ですね。
唯一の現代銃は登場人物(英国人だと思います)の所持品のa .45 army revolver(p57): 英国陸軍ならWebley拳銃(正しくは.455口径、JDCは「ウェブリー45口径」と書いたことあり)、可能性は低いが米国陸軍の45口径ならM1917。流石に骨董品のColt Single Action ArmyやRemingtonのNew Model Armyではないと思われます。
p122 毛状引金(hair-trigger): ヘアトリガーは「ほんのちょっと触れたら発射する状態の引金」のことですが「毛状引金」という訳語は初めて見ました。

ところでp146の会話はこんな感じに訳したいと思いました。
“You don’t take many chances, do you?”(運はあてにならないと思ってるんですね)
“My boy, I never take any chances”(私は決して幸運をあてにしないのですよ)


No.67 7点 ルーフォック・オルメスの冒険
カミ
(2018/11/11 07:24登録)
1926出版。
蛇足をつけたりで出しゃばりな訳者なんですが、駄洒落も頑張ってるので良いことにしましょう。(駄洒落の原文を教えて欲しかったです)
内容はファンタジーな綺想溢れるほのぼのギャグ。ワトソンが登場しない、ホームズ物語とは全く関係ない名探偵パロディものです。
知らないうちにカミさんが沢山翻訳されていて、ちょっとびっくり。訳者さんに感謝です。


No.66 5点 検事踏みきる
E・S・ガードナー
(2018/11/11 06:58登録)
ダグラス セルビイ第8話。1948年10月出版。Saturday Evening Post誌連載(1948-7-31〜9-18)
マディスン シティ誕生90年祭。(11月1日から5日まで) 西部開拓時代のコスプレに興じる市民たち。楽しかりし90年代、という表現。A.B.C.が来てから5、6年ほどたった時期の物語。セルビイは一悶着あったが地方検事に返り咲き、レックスやシルヴィアとともに事件を捜査します。今回アイネズは登場しません。法廷シーンもなし。マディスン シティの危機にセルビイは敢然と立ち向かいます。終幕は愉快ですが、解決に至る手段がちょっと単純すぎて、いただけない感じです。
ところで乾杯の言葉が「犯罪のために」(Here's to crime) メイスンが愛用し、クール&ラムにも出てくるので、ガードナーが実生活で使ってた音頭なのかも。


No.65 5点 斧でもくらえ
A・A・フェア
(2018/11/11 05:26登録)
クール&ラム第9話。1944年9月出版。ハヤカワ文庫で読了。
1944年ラム君は南太平洋からマラリアのため帰還(不在期間は18カ月)、一人称で物語は進みます。バーサはラムの帰還が嬉しいのに毒舌を吐くツンデレぶり。でも前作のヨーロッパ休暇の謎やバーサとセラーズ刑事の関係も一切言及がなく、1943年には大した事件が無かったことになっています。
クール&ラム探偵事務所の料金は1日20ドルプラス必要経費。ラム君は新しいアパートを借ります。
物語はお得意の込み入った筋立てです。複雑すぎてちょっと胃もたれするのが欠点ですね。

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