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ミステリの祭典

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糸色女少さんの登録情報
平均点:6.35点 書評数:209件

プロフィール| 書評

No.209 6点 銀河風帆走
宮西建礼
(2026/07/17 18:30登録)
核兵器が存在しない世界線の2020年を背景に間近に迫った小惑星の地球衝突による災厄を回避すべく、高校生たちが知恵を絞る「もしもぼくらが生まれていたら」。部活に制限されたパンデミック中に系外流星を観測しようと天文部の先輩後輩コンビが奮闘する青春小説「されど星は流れる」。噴火による世界的な食糧危機を前に、化学部コンビが合成食糧開発に挑む「冬にあてがう」。同型の恒星船2隻が深宇宙で相見える一騎打ちサスペンス「星海に没す」。表題作は、発表時の日本のSFとしては反時代的といってもいいくらいオールドファッションな印象だったが、今や流行を先取りしていたようにも見える。前半の3編は、困難な状況のもと、少年少女が科学への信頼を基盤にベストを尽くす物語でメッセージ性が強め。


No.208 6点 射手座の香る夏
松樹凛
(2026/07/03 18:28登録)
表題作は近未来の技術特区で発生した身体盗難事件から始まる。作業員が人工身体に意識を転送して仕事をしていると、鍵のかかった部屋から身体を盗まれてしまったのだ。そこに狼の伝説や、登場人物の友情と葛藤が絡み、濃厚なドラマが展開する。
「十五までは神のうち」は出生を巡る自己決定権とタイムマシン、「さよなら、スチームヘッド」は仮想空間と現実でそれぞれの状況に苦しむ者たちのサバイバルと情緒、「影たちのいたところ」は紛争地域で生じた身体が影に変わってしまうという不条理な事態を描いている。
巧みなストーリーテリングと、謎に挑む人々の動きが魅力的で、いずれも青春SFミステリの味わいを帯びている。


No.207 5点 ムントゥリャサ通りで
ミルチャ・エリアーデ
(2026/06/13 21:13登録)
元小学校の校長が語る元教え子たちの数々の幻想的なエピソードからなる、一種の千夜一夜物語風の枠組みを持つ。
時空空間を超えたエピソード群は、校長が語るにつれてひとつの物語に収束するどころか、次第に錯綜して迷宮化していく。語りは騙りであると同時に神話的な力を有するということを悟らせてくれる。


No.206 7点 機工審査官テオ・アルベールと永久機関の夢
小塚原旬
(2026/05/25 20:26登録)
永久機関の発明者の褒賞を設定した国を舞台に、大金を狙う発明者と装置の真贋を見抜く審査官の攻防を描く工学ミステリ。
SF的な飛躍はないが、あり得ないはずの永久機関を偽装、看破するロジックの応酬に派手な剣戟を絡めて一気に読ませる。語りの仕掛けも憎い。


No.205 5点 播磨国妖綺譚 伊佐々王の記
上田早夕里
(2026/05/08 20:21登録)
室町時代を舞台にした新機軸の陰陽師もの第二弾。
薬と祈禱によって物の怪を退ける薬師・律秀と僧。呂秀の兄弟が再び活躍する。自然の象徴たる物の怪たちへの柔らかな眼差しと、ロジカルな陰陽道の有り様が二本の柱として息づく世界は印象的。
今作は、かつて人間に退治された巨鹿の妖・伊佐々王が兄弟の前に立ちはだかり、その哀しい誇りが胸を刺す。


No.204 6点 浴槽で発見された手記
スタニスワフ・レム
(2026/04/13 19:42登録)
「捜査」英国各地の死体安置所で死体が動くという怪現象が頻発する。初めは姿勢が変わる程度だったが、遂に死体が消える事件が発生。捜査を担当するグレゴリー警部補は証拠や証言を集めていくが、調べれば調べるほど超自然的な仮説へと引き寄せられていく。そこには神秘的で不明瞭な領域が現世に浸透しているような感覚が。
「浴槽で発見された手記」召喚状を受けた主人公が庁舎に赴くが、目的地にたどり着けない。陰謀や真偽不明の情報が渦巻く庁舎は、硬直した官僚機構や米ソ冷戦の時代を踏まえている。無力感に襲われながらも理性を失うまいと努める主人公に静かな共感を覚える。


No.203 6点 あなたのための物語
長谷敏司
(2026/03/19 18:48登録)
神経状態を制御して人間の思考や感情を模倣できるITP技術の開発を進めていたサマンサは、wanna beというITP人格に物語を書かせていた。しかし、サマンサは余命半年だと告げられる。
迫り来る死への本能的恐怖で「人間性」を剝ぎ取られるサマンサを赤裸々に描いているのが本書の魅力。そしてサマンサは人間を模倣したwanna beの物語を読むことで、人間を人間たらしめる、模倣できない固有のものとは何なのか答えを出していく。
ファーストコンタクトものであり、ラブストーリーであり、人間の根幹を成すものを執拗に追及する重厚な一冊。


No.202 6点 時空争奪 小林泰三SF傑作選
小林泰三
(2026/02/20 17:29登録)
バーチャルワールド、星間宇宙船、タイムマシン、クトゥルー神話など、お馴染みのSF的素材が作者の手にかかると、ここまで驚き笑いに満ちたものになるのかと呆れさせる。
特に表題作は、どことも知れぬ研究室で教授と学生との対話が繰り広げられるうち、宇宙全体が異様なものに変貌してゆくという超絶技巧的宇宙SF。そんなこともあるのかと思いながらも、強引な論理に思考が止まるような快感が味わえる。


No.201 5点 ロボットの夢の都市
ラヴィ・ティドハー
(2026/01/23 20:54登録)
太陽系などに人類が展開した未来が舞台だが、星間戦争があり、戦闘やテロが散発している。ある日、砂漠の都市にある古道具屋にロボットのパーツが持ち込まれた。それは禁断の技術で作られた伝説のロボット「ゴールデンマン」の残骸だった。
そこから物語は、都市の底辺をたくましく生きる女性や、流浪民の少年などを巻き込んで、オカルティックに展開していく。未来の話でありながら、現代の閉塞を反映した、寓話と呼ぶには強烈な教えと戒めと楽しみがある。


No.200 7点 オーラリメイカー
春暮康一
(2026/01/05 20:25登録)
宇宙に進出した地球の人類を含む知的生命体が連合を形成している遠い未来、その一方で人工知能から進化して自意識を持った被造知性が知能流を組織し、両者は潜在的な対抗関係にあった。知能流に押され気味の連合は、新たな加盟種族を求めて宇宙探査を行っていた。そんな中、銀河辺境の星系で惑星軌道が作為的に修正された痕跡が見つかる。
この作品は壮大なスケールの宇宙SFであり、「知性とは何か」を問い掛けている。作者の作品の多くに共通するのは、真の知性の深化は必ず倫理を生むという、祈りにも似た信念だ。それは本書のために書き下ろされた「滅亡に至る病」の主題ともなっている。


No.199 6点
小田雅久仁
(2026/01/05 20:11登録)
肉体にまつわる7編からなる作品集で、どの作品も身体の奥から突き上げてくるような怖さに満ちている。
どれも現実と地続きのままに、現実とは紙一重の異世界に入り込んでいく。その様は眩暈さえももたらす。加えて肉体をテーマにしていることの肌感が怖さに拍車を掛ける。とはいえ、怖いだけではない。迷い込んだ異世界には新たな世界の兆しのようなものもほのかに見える。本作は、単なる物語ではなく、物語による曼荼羅なのだ。その濃密さに圧倒される。


No.198 7点 なめらかな世界と、その敵
伴名練
(2025/11/17 21:21登録)
ソ連が西側に先駆けて人工知能の技術的特異点を迎えた世界で東西の人間が冷たく熱く戦う「シンギュラリティ・ソヴィエト」、内外で事件の流れが変わってしまった新幹線によって分かれた二人が再び出会うために駆ける「ひかりより速く、ゆるやかに」など六作品を収録。
いずれも一行目から見知らぬ世界に放り込まれ、ある時は笑ってしまうほど壮大な設定で突き抜ける。そして途方もなく壊れた世界を背景に、二者間あるいは三者間の強い想いがぶつかり合うさまが描かれる。世界の様相と人間の愛、憎しみ、祈り、叫びは結びつき、想像もしなかったクライマックスへと導いてくれる。


No.197 5点 最後にして最初の人類
オラフ・ステープルドン
(2025/11/17 21:11登録)
戦争や疫病、回復困難な環境破壊などの災厄により、人類は滅びつつある一方、新たな進化の階梯を上ろうとしていた。
人類の科学技術や社会制度は、寄せては返す波のように発展と停滞を繰り返しながら、総体としては進歩してきたが、精神性の面では、ほとんど発展することが出来ずにきたと言えるだろう。そんな人類の結末はどんなものになるのか。
第一次大戦後の国際秩序であるベルサイユ体制が崩れ、世に暗雲が広がる時代に本書は書かれた。ここに込められた祈りにも似た思いは、これまた現代世界の不安に応えるものとしても読める。


No.196 6点 女の国の門
シェリ・S・テッパー
(2025/10/25 21:08登録)
荒廃地に囲まれた土地に、城壁に囲まれた「女の国」と付属した「戦士の国」が点在する。女の国で生まれた男児は五歳になると戦士の国に送られ、十五歳の時点で、女の国に戻って戦士に軽蔑されつつ、従僕として暮らすか、戦士の国で死ぬ可能性の高い兵として暮らすかの選択に迫られる。
しかしこの制度には、隠された大きな秘密があった。古代ギリシャの都市国家をモチーフとしたディストピアもののこの作品は、ジェンダーを扱ったSFとして有名だが、核戦争後の世界で残された人々がどのような世界を築くかという思考実験としても成功している。


No.195 6点 トゥモロー・ネヴァー・ノウズ
宮野優
(2025/10/25 20:59登録)
同じ一日を何度も繰り返す、タイムループを扱った作品。
第一話「インフェルノ」の主人公は娘を殺害された「私」。病院に入院した犯人をめった刺しにして復讐を果たし、警察署の中で眠りについた私は、自室で目覚めた。犯人を殺したはずの時間より前に自分がいることに気付いた私は再び病院に向かうが殺害に失敗してしまう。トリッキーな設定の物語は、思いがけないサプライズを見せて終わる。
以降、世界各地を舞台に四つの物語が展開されていくのだが、その日の学園を守るヒーロー、それでもなお強さを追い求める格闘家、ウェブニュースの掲載をやめない記者、図書館の膨大な書物を読み進める読書家。それぞれの物語がそれより前の物語と意外な形で繋がりながら、大きな作品世界が立ち上がっていく様が見事。


No.194 6点 ビッグデータ・コネクト
藤井太洋
(2025/10/04 14:17登録)
官民複合施設のコンポジスタのシステム設計、開発に関わっていたエンジニアが誘拐されるという事件が起こる。やがて、捜査線上にウィルスの作成、配布の冤罪での逮捕されたハッカー、武岳の名が浮かび上がる。警察は武岳に捜査協力を要請する。
真犯人の計画を挫くべく武岳がとった手口、そして真犯人たちがとったビッグデータを収集する方法は、サイバー空間ならではのトリックだと言える。特に後者のトリックは、サイバーセキュリティ事情とも対応したものであり、個人情報を盗む時代からビッグデータを収集する時代へと、ステージが上がったことを否応なしに思い知らされる。マイナンバー制度の落とし穴、個人情報保護法に関する誤解なども書かれており、現代のサイバーセキュリティ事情に対応したミステリとなっている。             


No.193 7点 アブソルート・コールド
結城充考
(2025/08/31 11:46登録)
物語は主人公である高層人女性コチと男性警察官未来とその補佐を務める佐久間の女性社員雫の視点を入れ替えつつ進み、さらに彼らと物語中では出会うことがない元警察官の物語がサイドストーリー的に語られる。
事件は佐久間の本社ビルで細菌テロが起きたことから始まる。テロに巻き込まれて命を落とした高層人の遺体から、コチは巨大な容量を持つ量子記憶装置を回収する。そこには奇妙なAIと佐久間会長が主導する秘密計画のデータが隠されていた。コチは量子記憶装置から逃げ出したAIによって操られる猿型のオートマンを相棒として、AIを巡る事件の核心に迫っていく。
敢えて電脳空間的なものは最小限に抑えて、現実空間でのアクションを中心に据えたのが成功し、サスペンスの連続で最後まで一気に走り抜ける。最後に電脳世界のささやかな変容が暗示されるところも、いかにもサイバーパンクらしい。


No.192 5点 自殺コンサルタント
豊田有恒
(2025/08/12 21:26登録)
得意とする自動車のメカニックな描写の高揚が象徴的な作品が集められた第一部、テレビを観ていない時間の長さで集金される「停視料」などショートショートの第二部、そして比較的長めの作品の第三部となっており、表題作をはじめ行き過ぎたメディアの暴走をテーマにした作品が多いのも特徴的だ。
七百年前からタイムスリップした男がCMスターになる「魔界へ来た男」、人々が突然「欲」を失う変則パンデミック的な破滅SF「欲望ゼロの日」が印象深い。


No.191 6点 マザーコード
キャロル・スタイヴァース
(2025/08/12 21:20登録)
二〇五〇~六〇年代の近未来を舞台に、暴走したバイオ兵器が人類を破滅させていく様を描き出すパンデミックSF。
物語の発端は二〇四九年。アメリカはIC=NANと呼ばれる生物兵器を開発、運用していた。人間が吸い込むと細胞のアポトーシスが発生しなくなり、数週間で確実な死に至る。本来、人から人への感染はあり得ないはずだったが、古細菌がNANを取り込むことで自己複製が可能となり、瞬く間に人類に広がっていってしまう。
ワクチンも効かず、凄まじい勢いで感染拡大をする中、既存の人類を改変する時間はなく、研究者らは遺伝子改変を施した新世代の子供たちと、現代人類が消えた後に彼らの世話をするマザーAIの構築にリソースを振り分け、二〇五〇年代のパンデミック対抗と、新世代の少年少女たちの冒険を描くパートが交互に語られていく。新世代パートは単調で精彩を欠く面もあるが、AIと新世代の人間が強く結びつく新しい関係性を描き出していて、AIテーマの作品として満足させてくれる。


No.190 7点 ホープは突然現れる
クレア・ノース
(2025/07/26 18:11登録)
人に記憶させない、という特異体質の女泥棒ホープが、人に画一的な幸福を提供するポイント制アプリ(パーフェクション)と因縁を持つ。それは、ホープによるダイヤモンド盗難がパーフェクションの開発元企業を怒らせ、ホープが追われる羽目になり、結果としてパーフェクションにまつわる陰謀に巻き込まれてしまう。
主役の特異体質を、手口や対処法、人との会話の続け方など外面的のみならず、内面的にも活かしているのが素晴らしい。内面的な要素とは「世界に忘れられる自分の人生の意味は何か?」という問いであり、これが本書を貫く幹となる。
語り口も極めて魅力的。世界で自分を忘れるという孤独が常に乗ったそれは味わい深い。それでいて要所でのサスペンスフルな展開、緊迫感あふれる描写もいい。

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