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ミステリの祭典

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なめらかな世界と、その敵

作家 伴名練
出版日2019年08月
平均点7.80点
書評数5人

No.5 6点 蟷螂の斧
(2023/05/08 21:58登録)
①なめらかな世界と、その敵 6点 お父さんは食事を終えて雑誌を読んでいる。今日はお父さんの命日だから早めに帰って来てね・・・乗覚障害
②ゼロ年代の臨界点 4点 日本国内のSF史は1900年代の女学生が発表した作品から・・・月面着陸
③美亜羽へ贈る拳銃 8点 花嫁と花婿はお互いに銃を相手の額に突きつけた。それは永遠に愛することが可能となる脳へのインプラント処理であった・・・俺を愛する美亜羽
④ホーリーアイアンメイデン 4点 この手紙を読むころには私は死んでいるという妹から姉への手紙 特殊能力
⑤シンギュラリティ・ソヴィエト 8点 アームストロング船長が月面到着。そこに見たものはスターリンの銅像であった・・・誕生日の蝋燭(ラストはSFというよりバカミス的で面白かった)
⑥ひかりより速く、ゆるやかに 7点 新幹線が動かず、中にいる乗客も動作の途中で静止していた。しかし、よく観察すると少し動いている・・・到着は2700年後(青春物語)

No.4 7点 メルカトル
(2023/03/12 22:54登録)
いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描く表題作や、ありえたかもしれないもう1つの日本SF史を活写する「ゼロ年代の臨界点」、伊藤計劃の『ハーモニー』にトリビュートを捧げた「美亜羽へ贈る拳銃」、未曾有の災害が発生した新幹線の乗客と取り残された人々のドラマ「ひかりより速く、ゆるやかに」など、人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集。
Amazon内容紹介より。

ハードSFに苦手意識のある私ですが、これは「読め」ました。難解でもないですが流し読みを許さないクセの強い文章の作品、如何にも青春していますと云ったラノベ風の作品など、一体この作者のスタイルはいずこにあるのか疑問を持たずにはいられない、バラエティに富んだ短編が並んでいます。どれが突出しているという訳でもなく、いずれも一定の水準をクリアしている佳作揃いです。

まあ個人的には気軽に読める表題作が最も親しみ易かったでしょうか。第二次世界大戦下での姉妹の絆を、妹の手紙のみで表現した異色作『ホーリーアイアンメイデン』も良かったですね。多分他の方とは随分好みが違うと言われそうですが。やや敷居が高いと思われますが、SFファンなら読んでみても損はないでしょう。

No.3 10点 じきる
(2022/09/02 09:51登録)
独創性と物語力を兼ね備えた傑作短編集。バラエティに富んだ作品世界で、器用に文体を世界観合わせてくるのもすごい。
SFですが「美亜羽へ贈る拳銃」など、ミステリ的な手法の使い方も上手いと思います。

No.2 9点 虫暮部
(2020/11/29 15:08登録)
 凄いなこの人。“奇跡の才能”との謳い文句に偽り無し。
 非常にSF的なアイデアと、心を鷲摑みにするキャラクター設定と、それを十二分に具現化する文章力。おかげで私は、女子高生の向こう見ずな決断に驚き、百合めいた姉妹愛に悶え、“不可解な鉄道事故が日本中に与える影響”についての考察に感服する。
 どの短編がベストだとか打率何割だとかじゃなく全編グレイト(「美亜羽へ贈る拳銃」は構造を複雑にした割にその効果が薄い、とは思う)。
 「ひかりより速く、ゆるやかに」の、めくられた単語カードの言葉“ irrevocable /取り返しがつかない”――これが収録作品の共通したキー・ワードに思えるんだけど、どうかな?

No.1 7点 HORNET
(2020/06/27 12:23登録)
 架橋葉月の住む世界は、いくつもの現実が、いわばパラレル・ワールドとして並行進行している世界。しかも人々は、視点を移すだけでそれらの世界を自由に行き来し、渡り歩くことができる。しかし、旧知の親友・厳島マコトが、その行き来ができず一つの現実で生きることしかできない「乗格障害」になってしまう。自分だけが一つの現実世界に縛られることになってしまったマコトは、葉月ら周りの人間を拒絶しようとする―(なめらかな世界と、その敵)
 本書には表題作の他に5つのSF短編が収められてる。創作の「日本のSF史」(注まで付けられていて非女王に凝っている)、脳に撃ち込むインプラントによる人格操作、抱きすくめるだけで人から攻撃性を奪う不思議な少女、人工知能が人間を飼う世界、突然「超低速世界」に入り込んでしまった修学旅行生を乗せた新幹線―いずれも独創的な設定で面白い。
 設定を説明するような件がないのが、物語としてはきれいだが、理解にやや時間を要することもあるが、短編ながら一つ一つの話がよく練られている印象だった。

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