home

ミステリの祭典

login
猫サーカスさんの登録情報
平均点:6.18点 書評数:429件

プロフィール| 書評

No.69 7点 新検察捜査
中嶋博行
(2018/01/08 15:07登録)
17歳の少年が殺人を起こし逮捕された。殺した女性の心臓を食べるというショッキングな犯罪で、少年は「ソウルガード」と呼ばれる。本作では、少年による猟奇殺人に加え、法廷での被告人射殺と、もっぱら派手で凶悪な犯罪が扱われている。さらに事件の背後に、国家規模の犯罪をもくろむ巨悪の存在があるという、極めて大胆な発想及び設定によるストーリー、さらにハリウッド映画並みの娯楽性が発揮されている。女性検事による地味な捜査模様を描くのに終わっておらず、エンターテインメントとしての面白さが十二分に詰まっている。


No.68 6点 沼地の記憶
トマス・H・クック
(2018/01/08 15:07登録)
語り手ジャックは、教師時代に起きたある事件を回想する形で、物語は進んでいく。やがて、なぜ過去を振り返るジャックの口調に悔恨と悲しみが滲んでいるのかを、知ることになる。この作品にも、クックお得意の父と息子の葛藤のモチーフが登場する。さらに、人間の善意と傲慢さについても深く考えさせられた。教え子エディに対するジャックの親身な指導は、どこから道をそれていったのか。あるいは、事件はただの不運だったのか。登場人物全員の思うようにならない人生が重く胸を打つ。


No.67 6点 魔術師の視線
本多孝好
(2018/01/04 18:59登録)
かつてインチキだとたたかれた「超能力少女」と彼女の周囲で起こる謎の陰謀をめぐるサスペンス。ビデオジャーナリスト楠瀬薫のもとへ、以前超能力少女とマスコミに登場した少女から「ストーカーにつきまとわれている」と助けを求められる。どこまで彼女の言葉を信じていいのか迷っている中、楠瀬の知り合いが怪死するなど、事件は思わぬ方向へ進んでいく。常に相手の視線の動きを追い、言動の裏を読もうとする心理描写と真実をめぐる攻防が全編に渡って展開されているとともに、ミステリとしての意外性も巧みに織り込まれている。その一方で、人物の描写が生々しく伝わってくるドラマの描き方も上手い。


No.66 7点 特捜部Q Pからのメッセージ
ユッシ・エーズラ・オールスン
(2018/01/04 18:59登録)
コペンハーゲンが舞台の警察シリーズ第三作。未解決事件専門の特捜部Qにスコットランドの海岸で7年前に見つかったボトルメールが送られてきた。カール警部補の二人の助手は、海水と歳月で損傷した手紙の解読にのめりこむうちに、文面からおぞましい疑惑が姿を現す。遠い過去の事件が現在にどう結び付くか、犯人像がじっくり描かれ、説得力もたっぷり。自宅で介護することにした半身不随の元同僚の様子や、カウンセラーのモーナとの恋など、カールの身辺の変化も読みどころ。とりわけ個性的すぎる助手たちとカールのちぐはぐなやり取りが笑いを誘い、いい味を出している。


No.65 6点 ホテル・ピーベリー
近藤史恵
(2017/12/28 15:50登録)
ハワイが舞台の青春ミステリ。木崎は友人に勧められ、ハワイ島ヒロのホテルへ来た。居心地が良く、食事もおいしい小さな宿。オーナーは日本人夫婦で、宿泊客もみな日本からの旅行者だ。そこで、木崎は少しずつホテルの女主人・和美と親しくなっていく。だが、宿泊客をめぐり、不可解な出来事が続いていく。ここに描かれているのは観光客でにぎわう華やかなリゾート地というイメージとはいささか異なるハワイ。陰のある主人公をはじめ、訳ありな登場人物が多く、ホテル自体も謎めいている。心の奥の秘めた感情や官能が揺り動かされるような巧みな語りにより、サスペンスが盛り上がっていく。真相を知った驚きと苦く切ない青春の物語が混然として、読後いつまでも作品世界から離れられない。


No.64 5点 死神を葬れ
ジョシュ・バゼル
(2017/12/28 15:49登録)
研修医のピーターは時々ヤクをやりながら、過酷な病院勤務に耐えている。だが、入院してきた末期がんの患者は、なんと彼の正体を知っているマフィアだった。ピーターがマフィアと関わりを持った半生と、現在進行形の病院の出来事を交互に描写する語り口は、はつらつとしている。とりわけ病院部分は、冗談とも本気ともつかない長ったらしい医学的な注がついたり、奇病に苦しむ患者や異様な風体の滅茶苦茶な医師が登場したりする。独特のずれた波長さえ合えば楽しめる斬新な作品。


No.63 5点 迷宮捜査
緒川怜
(2017/12/23 21:45登録)
警察庁捜査一課の刑事が活躍するミステリで、いくつもの事件が錯綜し、一筋縄ではいかない話運びを見せている。殺人事件の捜査を主眼とした本格的な警察小説ながら、主人公とその妹をはじめ、さまざまな人物の過去が現在に絡んでくるなど、複雑な人間ドラマが展開していく。実際に起きた事件の要素を巧みにフィクションへ盛り込みつつ、強引とも思える大胆なプロットを構築し、けれん味と意外性に満ちたサスペンスに仕上げている。


No.62 7点 夜を希う
マイクル・コリータ
(2017/12/20 18:48登録)
LAタイムズ最優秀ミステリ賞受賞作。フランクは英雄とあがめていた父親が殺人に関わっていたことを知り、父を悪の道にひきこみ裏切った男にいつか復讐をしたいと願っていた。そんな時、絶好のチャンスが訪れるが、いくつかの偶然が重なり、復讐劇は思いがけない方向に転がりだす。フランクの屈折した心情が丹念に描かれ、青年の成長物語にもなっている上、ラストの迫力ある戦いのシーンも読み応えたっぷり。最後の最後に待っている衝撃の真相は、物語全体を見事に引き締め余韻を与えている。


No.61 7点 ブラックボックス
篠田節子
(2017/12/20 18:48登録)
この作品は、食の最前線で起こる不気味な様相を描いた問題作。完全無欠なはずのシステムに、次々と想定外のトラブルが起こる。どれほど調べても明確な因果関係は不明。そればかりか個人の告発は握りつぶされ、マスコミは問題を単純化して、犯人捜しへと向かう。安全を重視するあまり、無菌状態を追及する社会は、感染症の流行を防ぐ一方で、人からタフな免疫力を奪うのだろうか。本作を読むと単に食の問題のみならず、現代日本のありとあらゆる脆弱さや過剰なアレルギー反応を連想する。さらに外国人労働者、職場のセクハラ、地方の人間関係などの問題がテーマと絡み、巧みに展開することでドラマの妙が生まれ、他人事と思えない不安が増幅する。描かれているのは単純な善悪で決められない、この世界の複雑で醜悪な現実そのもので考えさせられる。


No.60 8点 シスターズ・ブラザーズ
パトリック・デウィット
(2017/12/16 14:38登録)
ゴールドラッシュに沸く1850年代の米国を舞台とする、殺し屋の兄弟が主人公のウエスタン小説。物語の前半は、ヤマ師を殺しにサンフランシスコに向かう兄弟の道中を、後半はヤマ師と出会ってからの冒険を、弟のイーライの視点から描いている。人を食ったような乾いたユーモアの漂う語り口に、最初から最後まで魅了されっぱなしだった。兄のチャーリーは冷血で悪賢く、平然と人の命を奪う。弟のイーライは兄よりもお人よしで、夜の女や貧弱な馬に思いやりを示したりもする。この二人が出会う人々が、唖然とするほどの奇妙奇天烈な連中ばかり。血なまぐさい場面もどっさり出てくるが、イーライのどこか達観したおっとりとした語り口のせいか、それほどおどろおどろしくは感じられない。欲にとりつかれた右往左往する人々の姿は、滑稽でいて物悲しく哀愁が漂う。かたや、イーライにとって「二度と味わえないであろう最高に幸福な一瞬」の美しさは心にしみる。忘れがたい強烈な印象を残す作品。


No.59 7点 天上の葦
太田愛
(2017/12/16 14:38登録)
渋谷のスクランブル交差点で何もない空を指して絶命した老人の謎の追求と、同じ日に忽然と姿を消した公安警察官の捜索が並行していく。物語は次第に大きく広がり、太平洋戦争時代までさかのぼり、権力によって言論が統制されていた過去と、今再びその危機が押し寄せる現代の恐怖に焦点を当てていく。国家権力の暴走と、それを非難するどころか組み込まれてしまう大手マスメディアの脆弱さ、権力に屈することなく真実を追求するネットジャーナリズムの急進性など劇的に描き切り、なんとも力強い。骨太の社会派ミステリ。


No.58 6点 狙撃
永瀬隼介
(2017/12/12 19:02登録)
身内の警察官を内偵すべく任務に就いた女性がヒロインの警察小説。本作は、監察の仕事を与えられた上月涼子の苦闘を中心としながら、警察庁長官狙撃事件の真相に迫る。モデルとなっているのは、1995年3月に起きた警察庁長官銃撃事件。現実にはすでに未解決事件となってしまったが、作者は大胆にも事件の真相を暴いてみせた。ヒロインとその上司など奇抜で個性的な人物が次々に登場する。警察ミステリとしての意外性など、娯楽性に富んだ作品に仕上がっているばかりか、警視庁刑事部と公安部の確執における闇の部分に隠された真実を暴こうとするサスペンスが楽しめる。


No.57 7点 サンドリーヌ裁判
トマス・H・クック
(2017/12/12 19:01登録)
妻殺しで起訴された夫の裁判を通じて、夫婦それぞれの秘められた内面を描き出している。起訴された夫の視点から、裁判の様子が、そして彼自身の回想がつづられる。証人尋問に、弁護士と検事の駆け引き。そんな法廷ものらしい場面も確かにある。しかし、真に物語を支えるのは、ひたすら内側へ向かってゆく主人公の語りでしょう。心情を吐露しながらも、殺人か否かという肝心の点だけ述べずに続く語りは作者の得意技。宙づりにされたまま最後まで引っ張られた感覚が楽しめる。


No.56 7点 てのひらたけ
高田侑
(2017/12/07 21:22登録)
作者ならではの深みをたたえた奇妙な話が並んでいる。表題作は、ありふれた怪談のような話で始まりながらも、女性の「ひかがみ」の美しさ、声や匂いの魅力など、五感を刺激するあやしい描写にあふれており、たちまち物語に引き込まれてしまう。他の収録作も、ある意味、不思議な空間や次元に入り込み、ありえないはずの世界が、いつの間にか現実と入れ替わっているというストーリーが基本になっている。曖昧な虚実の境界が溶けてゆく怖さ。そして幸せと不幸は表裏一体。ラストには、懐かしさ、後ろめたさ、愛おしさといった複雑な感情が、一度に合わせて喚起させられる。実に切なく甘美なホラー作品集。


No.55 6点 誓約
薬丸岳
(2017/12/04 18:11登録)
罪を犯した少年時代を隠して生きる男に、過去の亡霊が襲いかかる物語。男は殺人事件の濡れ衣を着せられて逃走しながら、次第に真相に迫り、予想だにしなかった真犯人と驚きの動機を知ることになる。テーマは少年を取り巻く環境の苛酷さと心の弱さ、罪の償いと許しであり、最終的には人の善性に対する信頼と愛がうたいあげられて、胸を熱くする。一歩間違うと人生譚に堕しかねないが、作者は非常な現実を見据えているから、苦みのきいた温かさが生まれている。


No.54 6点 グッバイ・ヒーロー
横関大
(2017/12/04 18:10登録)
巻き込まれ型の犯罪サスペンス。「困っている人がいたら助けなければいけない、それが俺のルール」という亮太は、奇妙で厄介なトラブルに次から次へと巻き込まれつつも機転を利かせて解決する。ある時わけありな、おっさんの頼みをひそかに受け入れたところ、思わぬ事態に。大金をめぐる攻防、裏社会の組織と、手ごわい問題や相手ばかりが立ちはだかる。話の運びの面白さと意表を突く逆転の妙に加え、亮太のバンドのライブが間もなく始まるため、時間内に解決しなければならないというタイムリミットサスペンスの要素が加わり、一段とスリルが増している。作者ならではの、ハートウォーミングな味わいをももった痛快なミステリ。


No.53 6点 代償
伊岡瞬
(2017/11/29 19:44登録)
主人公の弁護士圭輔のもとに、小学生時代苦手だった達也から弁護の依頼が舞い込む。2部構成の本作。ふたりの子供時代が語られる前半では、まだ少年にもかかわらず卑劣な達也という男の本性がたっぷりと描かれている。巧みに他人をそそのかし、いつも自分は安全地帯にいる狡猾さ。そして後半の法廷場面では、悪魔のような手口で罠を仕掛けてくる達也に、圭輔は追い詰められていく。誰も過去の罪からは逃れられず、いずれは代償を払わなくてはならないという苦い主題の物語。だが、最後には救いが待ち受けている。


No.52 5点 神の子
薬丸岳
(2017/11/29 19:42登録)
詐欺グループの一員として活動し逮捕歴のある町田は、常人離れした知能と記憶力の持ち主。町田を取り巻くさまざまな人物の視点から語られる本作は、一種の群像劇ともいえるでしょう。町田と関わらざるをえなくなったり、窮地から助け出されたりした者たち、それぞれの複雑な内面や感情の起伏などが書き込まれているため、どんどん物語に引き込まれてしまう。さらにホームレスの少年・稔の行方をめぐるエピソードや町田に異常な関心をしめす謎の人物の存在など、物語は重層的に展開し、思いも寄らないクライマックスをむかえる。このクライマックスが個人的には好みでは無いが、読み応えの大きい犯罪ミステリ。


No.51 5点 プロメテウスの涙
乾ルカ
(2017/11/25 19:49登録)
大胆な趣向を取り入れたホラー長編。北嶋涼子のクリニックに、あや香という少女が訪れた。母親によると、突然人格が変わり、奇妙な動きをし、奇声をあげ、注意してもやめようとしないという。一方、学生時代に涼子と親友だった浅倉祐美は、留学先のアメリカで不死の体をもつ死刑囚と出会う。全身がんに侵され、ほとんど死にかけていながら何年も生き続けていた。やがて両者をつなぐ思いも寄らない事実が判明する。親友同士が同時期に事件の当事者と出会うなど、ご都合主義的な設定もあるのだが、場面ごとの状況や物語の展開がリアルに描かれているせいか、そんな偶然性を深く考えないまま一気にラストまで読んでしまった。作者は、現実味のある細かい描写を、丹念に積み重ね、およそあり得ない超自然的な出来事を生々しく物語っている。この迫力は半端なものではない。


No.50 7点 秘密
ケイト・モートン
(2017/11/25 19:44登録)
物語は現在、50年前、第二次大戦中の1941年を行き来しながら進む。穏やかな現在と対照的に、戦時下のロンドンでは爆撃機が飛び交い、波乱万丈のドラマが繰り広げられる。恋をし、夢を抱く若者たちの姿は生き生きとしまぶしい。「これだけは長く生きていれば誰だって、どこかで後悔したくなるようなことをやっているはずよ」と死の床で母が漏らした言葉の意味が明かされた時の驚き。語り口もストーリーも仕掛けも、文句なく素晴らしい。なによりローレルの動機が母を糾弾するためではなく、愛する母を理解するためだという事に心を揺さぶられた。

429中の書評を表示しています 361 - 380