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ミステリの祭典

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天上の葦
鑓水七雄シリーズ

作家 太田愛
出版日2017年02月
平均点7.67点
書評数3人

No.3 7点 makomako
(2020/04/27 20:08登録)
社会派推理小説が好きなら、ぜひ読んでみてください。
 力作です。
 かなり長いが、物語は二転三転してなかなか本筋が見えてこない。
 読者は都会の中から忘れられたような島へ、そしていつのまにか戦争の時代へとめまぐるしく変化するお話に翻弄される。これでもう終わりかと思ったら起死回生の一撃で立ち直り、でも相手もなかなか降参せず新たな手を打ってくる。
 このようなお話なので、さぞやハラハラドキドキとなりそうなのですが、思ったほどドキドキとはなりません。
 これはシリーズものなので主人公たちが死んでしまったりはしないということがはっきりしているのと、お話の中での「良いもの」と「悪いもの」がはっきり分かれているため、読んでいて安心感があるのですが、どんなピンチになっても最後は正義が勝つことが約束されていることが感じられるせいなのでしょう。
 

No.2 9点 HORNET
(2018/08/19 11:00登録)
 正午の渋谷交差点で、歩行者が皆渡り終え、歩道へと引いていった後、中央に一人の老人が残って立っていた。車のクラクションが飛び交う中老人はまっすぐに点を指差し、そのまま絶命。奇しくもその様子は、いつも冒頭映像として渋谷スクランブルの中継映像を流している正午のニュースにより、全国にライブ中継されていた。
 「老人が何を指差していたのかを解明せよ」―訳あって倒産目前となっていた鑓水探偵事務所に、そんな依頼を持ち込んできたのは天敵ともいえる政治家の使い。依頼元には不本意な思いしかないが、鑓水はその依頼を受け、仲間と共に真相解明に乗り出す―

 上記の老人の死の真相解明と並行して、失踪した警察庁公安刑事の行方を追うストーリーが描かれる。やがて両者は交差し、日本の暗黒の歴史を背景とした物語へと広がっていく。
 非常に読み応えがあり、厚みのある内容に満足した。今の政治社会情勢を鑑みると、いろんな意味で考えさせられる作品。

No.1 7点 猫サーカス
(2017/12/16 14:38登録)
渋谷のスクランブル交差点で何もない空を指して絶命した老人の謎の追求と、同じ日に忽然と姿を消した公安警察官の捜索が並行していく。物語は次第に大きく広がり、太平洋戦争時代までさかのぼり、権力によって言論が統制されていた過去と、今再びその危機が押し寄せる現代の恐怖に焦点を当てていく。国家権力の暴走と、それを非難するどころか組み込まれてしまう大手マスメディアの脆弱さ、権力に屈することなく真実を追求するネットジャーナリズムの急進性など劇的に描き切り、なんとも力強い。骨太の社会派ミステリ。

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