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ミステリの祭典

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人並由真さんの登録情報
平均点:6.34点 書評数:2231件

プロフィール| 書評

No.271 5点 雪と毒杯
エリス・ピーターズ
(2018/02/09 12:19登録)
 犯人に関しては、フェアプレイに務めて丁寧すぎる叙述が仇となり、これしか無いでしょうという感じですぐにわかる。恋愛模様のからんだ人間ドラマの部分は、なんか昭和30年代の手塚漫画の単発中編(少女もの)を読んでいるような感じであった。
 全体としては嫌いじゃないけれど、後半~終盤のまとめ方がやや乱暴に思えてこの評点。


No.270 5点 過去からの声
マーゴット・ベネット
(2018/02/09 12:13登録)
『飛ばなかった男』から60年ぶりのこの作家の翻訳刊行。実にロマンである。

 その『飛ばなかった男』の感触から、今回もいかにも旧クライムクラブ風というかのちの日本の新本格的な内容を予期したが、実際の中身はずいぶんと違ったものだった。
 主人公であるヒロインの彼氏が殺人現場に関わった(犯人ではないらしい?)。
 じゃあ素直に警察に届けるか、いや、ちょっとの小細工でより良い結果を得られるのではないか・・・というグレーゾーンの状況の中、徐々にややこしい立場になっていく主人公の図はなかなか説得力があり、その辺は面白かった。ちょっとウールリッチ風の趣もある、ラブ・サスペンスである。
 ただまあベネットの未訳作品の残りがこのレベルなら、もうあえて紹介しなくってもいいんじゃないかとも思えたけれど。


No.269 6点 崩れる脳を抱きしめて
知念実希人
(2018/01/10 12:09登録)
 ミステリ版『半分の月がのぼる空』。そつなく書けている。主人公の窮地からの逆転劇もお話作りとしてうまい。

 ・・・だけのハズだったのに、最後にページを閉じるとき、眼が潤んでいた。何でだろ。


No.268 6点 透明人間の異常な愛情
天祢涼
(2018/01/09 12:44登録)
 悪い意味でどんどんキャラクターものになっている感のあるシリーズ。
 当初から××機能を使っている透明人間という設定を読者に明かしておいて、その上で謎の怪人の正体を探る趣向はミステリ的にアリだとは思うが、その上でどう読んでいっても想定を大きく外れない解決が少し食い足りない。
 とはいえミスディレクションをイケイケで繰り出してくる作者の手際は、やはり好ましいんだけどね。

 個人的にはこの「タイガ」版路線の美夜シリーズにさっさと決着をつけて、当初の『キョウカンカク』的な単発ものに戻してほしい。


No.267 5点 S&S探偵事務所 最終兵器は女王様
福田和代
(2018/01/09 12:16登録)
 ミステリとしては薄味だが、キャラクターものの連作としてはそこそこ楽しめた。本作の前日譚となる長編は未読だけどね。
 読んでいる間はITの知識が増えたように思える。


No.266 7点 マツリカ・マトリョシカ
相沢沙呼
(2018/01/09 12:11登録)
 以前から気になりながらも全く手つかずだった相沢作品でマツリカ・シリーズだが、初めて読んでみたこの一冊はえらく歯応えがあり、そして面白かった。
 血なまぐささ皆無の日常の謎を契機にした多重推理が連なっていく趣向、そして最後に名探偵が綿々と語るロジックの切れ味と多重感。

 巨×のあたりのロジックなど、それはどうよ、それでもやる人はやるんじゃないの、という思いもしないでもないが、その辺の受け手のツッコミを刺激するのですら、きっとこの作品の芸であろう。まちがいなく2017年の最大の収穫のひとつ。


No.265 6点 痴漢冤罪
新堂冬樹
(2018/01/09 12:00登録)
 それぞれ過去に心に傷を負いながら、悪党として生きることを選択した二人の男の闘い。
 新堂作品はあまり読んでないんだけど、これは良い意味で、一回も視聴をやめられない深夜23時枠のよく出来た連続テレビドラマを観るようで実に面白かった。
 後半の脇役の使い方が一部ストーリーの駒的になっているあたりとか、ラストが少し弱いのはナンだが、それでも十分に読み応えある一冊。


No.264 6点 がらくた少女と人喰い煙突
矢樹純
(2018/01/09 11:54登録)
 がらくた集め少女に比べてもうひとりの主人公のキャラクターはいまいち生かしきれなかった印象だが、死体の首が喪失した真相に関しては、前代未聞の奇想であろう。
(もし前例があったらすみません~笑~)
 
 それにしてもこれは確かに、今風の筆致で綴った横溝作品だよね。横溝ファンの人は「ああ」と通じるものがあるでしょう。


No.263 6点 紅城奇譚
鳥飼否宇
(2018/01/09 11:46登録)
 戦国時代の一つの城郭の隆盛期からその破滅までの挿話を、謎解きミステリ連作の形で綴った外連味ゆたかな一冊。
 なかにはちょっと薄味なものもあるが、奇想かつトリッキィな趣向の連発は最後まで楽しめた。


No.262 7点 カミカゼの邦
神野オキナ
(2018/01/09 11:42登録)
 小説としての熱量は、全盛期の西村寿行を思わせる感じで最強だった。
 沖縄を主題にした作者のルサンチマンは間違いなく受け手を選ぶだろうが、それも良い。きわどさの中にあまり深入りしたくないという弱気な思いを抱かせながらも、こちらの心をしっかりと捉えたそんな一冊。


No.261 5点 陽気な死体は、ぼくの知らない空を見ていた
田中静人
(2018/01/09 11:36登録)
 ヒロインふたりの凄絶な関係は、これがフィクションでありドラマであっても、もう少し何とかなったはずでしょう、という印象です。書き手が登場人物いじめに酔っている感じで、どうもすんなり受け入れられなかった。
 最後のホワイダニットの真相はそれなり以上に鮮烈だけど、一方で幽霊ドラマを並列して綴ったために、物語の焦点がぼけた気もする。

 ただ筆力はある新人作家さんだとは思うので、次作もまた読むかもしれない。


No.260 5点 帝都大捜査網
岡田秀文
(2018/01/09 11:31登録)
 大筋のホワットダニット(何が、どういう事件が起きているのか)の方はまあ面白かったものの、もうひとつの大仕掛けの方は必要だったのか? という印象。はっきり言ってこの長編で、この作品で、この事件でやる必然性は、頗る希薄だよね。
 途中で違和感を覚えながらも、別にことさらそんなヘンなことする意味もないだろと思っていたら、最後に・・・。
 もちろん、この仕掛けで、あまたある現行国産ミステリの中で、とにもかくにも作品の印象を強めたという一点の意味ならば、まさに作者の思惑通りですが。
(まあ、この考えを突き詰めていくと、ミステリ史上、名作と呼ばれているいくつかの作品にも咎が行くんだろうな。そうなったらそうなったで、アレなんだけど。) 


No.259 6点 少女は夜を綴らない
逸木裕
(2018/01/09 11:21登録)
 今回も前作に負けない力作だとは思う。サブキャラクター(悪役のオヤジや、特売マニアを自称する下級生の女子ほか)もよく描き込んでいる。
 とはいえ本作の場合、ミステリの妙味が青春小説としての側面にもうひとつ拮抗しえなかった印象が残る。いやミステリとしての工夫はしてあるんだけど、そのパーツの座りがいまひとつこなれてない感じというか。
 他の作者の他の作品だったら、ミステリとしては薄味でも良い小説、泣ける青春小説だったら高い評価をしたいものはいくらでもあるんだけどな。なんでなんだろ。


No.258 5点 鉄道探偵団 まぼろしの踊り子号
倉阪鬼一郎
(2018/01/09 11:15登録)
 連作中編集。倉阪作品はそんなに読んでいないのだけど、新シリーズらしい。
 一部、ミステリとしては成立していないんじゃないの?(謎解きをかなり専門的な分野での知識に負うという意味で)といった感触の話などもあった。
 が、未知のジャンル(筆者にとって)で楽しそうにトリヴィアを興ずるキャラクターたちの語らいは悪くない。
 個人的には最後の一編が、ホワイダニットの謎としても市井の人間ドラマとしても印象に残る。


No.257 6点 人形は指をさす
ダニエル・コール
(2018/01/09 11:08登録)
 刊行前から海外35ヶ国での出版が決まったという鳴り物入りの作品だけあって、読んでいるうちは確かに面白かった。後半で物語の大きなポイントが明らかになる時点ではああ、×××にこういう立場を背負わせるのかというある種の昏い感慨も覚えた。

 とはいえ最後まで読むとAmazonでの某氏のレビュー通り、本作品の最大級に重要な謎といえる部分が放って置かれたまま終わり、その意味でう~ん、ではある。
 あと書きたいこともあるけれど、ネタバレになるので今回はストップ。


No.256 6点 虚ろなる十月の夜に
ロジャー・ゼラズニイ
(2018/01/09 10:58登録)
 クトゥール・ネタ+オールスターもののダーク(ただしまったく暗くない)ファンタジー。「名探偵」としてホームズも登場しているので、このサイトに感想を記しておく。
 クトゥールの邪神か旧支配者の復活の儀式があり、その前で有名キャラクター(切り裂きジャックやドラキュラ伯爵、ヴィクトール・フランケンシュタインほか、または、ああこれは虚実の有名なキャラクターが原典だなとすぐに思えるオリジナルキャラ)が二陣営に分かれて、その復活と阻止を巡って一定のルールの下に争う物語。
 壮絶に異常な出来事を、ジャックの愛犬(使い魔)であるスナッフの視点を通して淡々と書いていく(こんな特異なバトルが日常の人間界とどういう接点を持つのか、を含めて)ゼラズニイの筆致が実に快く、魔人たちの使い魔同士の交流劇も楽しめる。
 ゼラズニイ作品は何冊か読んでそれぞれそれなり以上に面白かったけど、体系的に読んでいるわけじゃないので、本書が作者の著作のなかでどの辺のポジションを占めるかはよく分からないんだけど。


No.255 5点 殺しのディナーにご招待
E・C・R・ロラック
(2018/01/09 10:44登録)
 承認欲求の高い、あるいは高そうな一流半~二流の物書き連中が、謎の何者かの意志のもとに招集される。作者がそんな一同のキャラクターを少しずつ書き分けていくのと並行して、その陰で殺人事件が起きる(起きていた)という導入部は良かった。
 しかし、その後のもたつきぶりはややげんなりで、せっかくの複数キャラによる多重解決の思索ももう少し整理して書けばいいのに、ああもったいない、という感じである。

 ロラックは、面白そう、期待できる、という感じで読み出し、部分的には良いところもありながら、全体としては今ひとつ。読んだ作品はそんなのばっかりである。


No.254 5点 紙片は告発する
D・M・ディヴァイン
(2018/01/09 10:39登録)
 多様な登場人物の描き分けが完了しないうちから、読者の目線を無視して作者が物語を進めていく印象で中盤までは読むのがかなりきつかった。
 やがて主人公(ヒロイン)格のメロドラマと地方政治の内紛あれこれに焦点が定まってからはそこそこ読めるようになってくる。
 解決は、う~ん、確かに伏線や手がかりは張ってあったけど、これで謎解きパズラ-として作者は面白いと思ってるの? という感じ。ミステリに最低限必要なトキメキが無い。
 ラストのストーリー上の決着は、まあ良かった。


No.253 6点 <サーカス・クイーン号>事件
クリフォード・ナイト
(2018/01/09 10:33登録)
 クリフォード・ナイトは初めてだけれど(稀覯本のアレも持ってはいるが読んでない~汗~)、結構、楽しめた。サーカスの動物による死亡が一種の事故か、それとも誰かの意思に起因する殺人か? という「ホームズのライヴァル」時代の某短編を想起させる謎もなかなか気を惹くし。
 大学教授なれども幼少からサーカスが大好きで、休暇を利用して芸人(ピエロ役)を演じる名探偵ロジャーズのキャラクターも良い。
 軽妙かつ飽きさせない職人芸の旧作パズラ-として好ましい出来でした。他の作品ももっと紹介してください。


No.252 6点 黒い睡蓮
ミシェル・ビュッシ
(2018/01/09 10:24登録)
 日本でも話題になった秀作『彼女のいない飛行機』のあとに紹介された作品(原書での刊行はこちらが先らしいが)だけに期待した
 結果は、まあおおむねソツなく全編面白く読めた(&ミステリとしてのポイントが明確だった)『彼女』に比べ、こちらは悪くないがもうちょっと・・・という感じ。

 とはいえ大きな仕掛けが早々に何となく見えてしまいながら、あるミスディレクションを用意してそんな読者の疑念を封じにかかる辺りは好感が持てる。それでもそのミスディレクションそのものの意味にも気づく人もいるかもしれないが。
 画家モネについてのトリヴィアの提供と、多数の登場人物を書き分けていく流麗な筆致という意味で、小説としては面白かった。

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