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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.203 5点 笑わない数学者
森博嗣
(2016/07/17 13:11登録)
 像消失のトリックは、普段ほとんど推理などできない僕でも見抜けました。あの見取り図を見た瞬間ピンときた人も多いかもしれません。カンタンだからレベルが低いという考え方は嫌いですが、これはちょっと底が浅すぎるような。これを犀川が気付かないというのも違和感が残ります。好きな人も多い作品ですが個人的にはかなり物足りない印象です。


No.202 7点 ここに死体を捨てないでください!
東川篤哉
(2016/07/17 00:56登録)
 妹の殺した女の死体を見ず知らずの若者を巻き込んで捨てに行く……。こんな筋書きなのに陰気くささはまるでなしで、テンポよく実にユーモラスに描かれます。殺害トリックはかなり破天荒です。それでもストーリーにうまく取り入れてあるので違和感は感じません。ギャグも絶好調でラストも爽快、文句なしの良作です。


No.201 8点 交換殺人には向かない夜
東川篤哉
(2016/07/17 00:47登録)
 これまたトリッキーな作品。今や交換殺人は単体で用いても面白くはなく、そのため本作のように予めタイトルに掲げしまうような作品も書かれるわけですが、その上でここまで捻ったものができるとは。ドタバタ劇の果てに事件が意外な収束を見せるところ、アホなやりとりの中の伏線など、まったく油断なりません。素直に楽しめました。


No.200 6点 完全犯罪に猫は何匹必要か?
東川篤哉
(2016/07/17 00:36登録)
 『殺意は必ず三度ある』といいこれといい、案外と東川さんには凝ったトリックを駆使した作品が多いですね。合理性よりもサプライズ重視という志向を如実に感じます。ただこの作品に関しては、本筋の謎解きよりもみそ汁をかけた死体をめぐるバカミス的なホワイダニットのほうが記憶に残りました。


No.199 7点 長い廊下がある家
有栖川有栖
(2016/07/10 22:05登録)
以下、各話の感想です。
①『長い廊下がある家』 不可解な謎と論理的な推理がしっかり両立しています。特殊な構造の建物ではまず疑われるカラクリによるトリックを否定し、少々古典的ながらもうまくこちらの盲点を突いてくる真相がうまいです。
②『雪と金婚式』 こちらも個人的にツボでした。第三者の何の関係もない行為が予想外に事件を狂わせる、というあまり見たことがない話。心温まる結末もいいです。
③『天空の眼』 作者としてはかなりの異色作。この時代ならではのツールを本格ミステリーに組み込んでくる発想が面白いです。悪く言ってしまえばヘンテコなトリックが奇妙な後味を残します。
④『ロジカル・デスゲーム』 数学の世界ではわりと知られたネタだと後で知りました。しかし、この短篇で見るべきなのは火村の生き残るための決死の戦略にあると思います。

 全体的によくまとまった好篇が揃っています。個人的ベストは地味ですが②かもしれません。


No.198 6点 乱鴉の島
有栖川有栖
(2016/07/10 21:34登録)
 それまで専ら江神二郎が担当していたクローズド・サークルの事件に、火村英生が挑みます。とは言っても、この21世紀に何の捻りもない孤島連続殺人を作者が描くはずもなく、ミステリアスな雰囲気をまとった老詩人とオタクなカリスマ社長を同時に登場させるところには工夫が凝らされています。そして、まさかあの医学ネタが絡んでくるとは!と大袈裟でなくのけぞりました。
 しかし、謎解きに関しては若干の物足りなさも感じます。〇〇〇〇症を消去法に用いるなど、ロジックへのこだわりは相変わらず伝わってきましたが、この長さにしては明らかに軽量級です。いや、これだけ脇道に逸れがちな要素をたくさん含んでいては、これが精一杯かもしれませんが。


No.197 8点 殺意は必ず三度ある
東川篤哉
(2016/06/24 19:40登録)
 冒頭、鯉ヶ窪学園野球部の弱小っぷりを説明する文から噴き出してしまいました。ユーモアとして見てもミステリーとして見ても、かなり冴えていると思います。
 発端となるホームベース盗難事件という極めて小規模な犯罪が、実は本筋の事件に不可欠な要素となっていることが初読時には驚きでした。叙述のテクニックと視覚的な錯覚を与えるトリックを組み合わせ、新鮮な事件と謎を生み出すことに成功しています。そして、見立て殺人は数あれど、「野球見立て」というのもありそうでなかった新鮮な題材です。総じて見て、様々なアイディアが詰め込まれ、かつギャグも邪魔にならない程度に楽しめる快作。


No.196 7点 密室に向かって撃て!
東川篤哉
(2016/06/24 19:20登録)
 『密室の鍵貸します』ではいわゆる「鍵の掛かった部屋」パターンの密室だったのに対し、本作では衆人環視の密室がテーマになっています。銃声を利用してアリバイを確保するトリックがよく練られており、作中でもネタバレされている海外の名作を意識したような決死の犯行には意表を突かれました。銃弾の数から犯人を導き出す推理もロジカルで、前作より格段に密度の濃い仕上がりです。


No.195 7点 学ばない探偵たちの学園
東川篤哉
(2016/06/24 18:37登録)
 語り手の転校生・赤坂通が、先輩の多摩川流司と八橋京介の無理やりな勧誘に引っかかり入部してしまった「探偵部」。実質ただの推理小説研究会のような彼らが校内で発生した殺人事件に首を突っ込み、そこで巻き起こすドタバタ劇と迷推理を描いた鯉ヶ窪学園シリーズ初の長篇。
 作者の持ち味であるゆるいギャグは学園ものという爽やかな舞台と相性が良く、湿っぽさ、暗さは皆無なので、軽い気持ちで読むにはうってつけでしょう。冗談のような、人によっては馬鹿馬鹿しいと取られかねないふたつのトリックも、この世界なら違和感なく読めます。


No.194 8点 貴族探偵対女探偵
麻耶雄嵩
(2016/06/12 15:02登録)
 以下、各話の感想です。
①『白きを見れば』 愛香のダミー推理から、それを崩した上で貴族探偵の使用人たちが正しい推理をする、この連作の基本的な流れを示したストレートなフーダニット。コートのボタン、停電、シャッターに付いた埃などの手がかりからなるシンプルな推理はなかなかの出来です。
②『色に出でにけり』 キーアイテムである手帳によって犯人を暗示しているのがよくできています。アリバイトリックを解く手際の鮮やかさも良く、①と同様に佳作だと思います。
③『むべ山風を』 シンクのティーカップ、断水、ゴミの分別、上座と下座といったミステリーではあまり見慣れないものを消去法推理の材料にしているのが実にユニークです。極限まで物語が削ぎ落とされ、容疑者の大半が直接出てこないので好みは分かれそうです。
④『幣もとりあへず』 登場人物と作者からの二重のトリックが絡むことで、ほぼ100パーセントの読者が騙されるであろう、もっとも作者のクセの強さが表れた作品になっています。難点は、愛香の推理が面白みに欠け、多重解決の醍醐味が薄いところです。
⑤『なほあまりある』 ①から④すべてが伏線として機能しているという収束性はまさに圧巻。オチも決まっています。

 前作では徹頭徹尾イヤミな奴だった貴族探偵にも、読んでいくうちに愛着が出てきました。愛香がどこにいっても必ず登場するところは完全に漫画的な展開ですが、そこも作者らしい所。このシリーズがこれからどのように終結するのか注目していきたいです。


No.193 8点 愛国殺人
アガサ・クリスティー
(2016/06/11 20:11登録)
 気に入らない人がいるのもわかります。批判する論者の意見で多くを占めるのが政治絡みの描き方が薄っぺらいというもので、それは至極もっともです。
 しかし、アガサ・クリスティーにそんな面白さを求めるのはナンセンスではないでしょうか。本作に関してはいくつものトリックを贅沢に盛り込んだ凝った謎解きを喜んで読むべきです。特に関心したのは顔の潰された死体の扱いで、その答も作者らしいさりげないヒントがあり好ましく感じました。
 そして、もうひとつ話題になるのが犯行の動機です。スケールがでかいようでいて詰まるところ実に卑しいもので、不思議な読後感を残します。そういう意味で『愛国殺人』はよくできた邦題と言えます。今日BSでドラマ版の再放送を観ましたが、そっちではポアロの犯人に対する糾弾の言葉があり、なかなかに爽快でした。


No.192 8点 陸軍士官学校の死
ルイス・ベイヤード
(2016/06/05 22:16登録)
 読者が一緒に推理しながら読むようなタイプの作品ではないですし、真相にも想定を上回る驚きがないので僕の嗜好からしていえばあまり高評価ではありません。それでも、青年期の傲岸不遜ながらも初々しいエドガー・A・ポオのキャラクターや、学校内をはじめとした19世紀アメリカの味のある描写が実に美しく楽しく、満足度は高いです。文庫上下巻で700頁を超える分量を飽きずに読めました。


No.191 7点 跡形なく沈む
D・M・ディヴァイン
(2016/05/31 22:30登録)
 思い出深いアガサ、クイーンなどを除き、翻訳ものはどちらかと言えば苦手だったのですが、これはなかなか良かったです。犯人の見当が付きやすいとの意見も多いですが僕は綺麗に騙されました。そしてその犯人の執念が生み出した動機にはぞっとするものがあります。登場人物の恋愛模様も邪魔でなく、ほどよいアクセントになっておりドラマとしての厚みもプラスに評価。特にハリーとアリスのふたりの関係が面白く読めました。


No.190 7点 幻の女
ウィリアム・アイリッシュ
(2016/05/30 22:11登録)
 現在の読者からすれば、真相及び殺害トリックなどは特に目新しいものではありません。フーダニットととしてもある意味ではありがちな手法で犯人を隠蔽しているので、気付いてしまう人もいるかも。しかし、特筆すべきはそのプロット。妻殺しの罪で死刑執行を待つ男、男と一緒にいたはずの謎の女、そして捜査で相次ぐ関係者の死とサスペンスとして申し分のない完成度です。変な余韻を残さず爽快に締めくくっているのも高く評価します。


No.189 4点 マルタの鷹
ダシール・ハメット
(2016/05/27 19:58登録)
 ハードボイルドの巨匠ハメットを読んでみたものの、相性が悪かったのでしょう、正直どこを面白がればいいのかわかりませんでした。とにかくサム・スペードという人物がまったくカッコいいと思えません。男はすぐ殴り、女にはキスをする単細胞で、クールさの欠片も感じられず読んでいて厭でしょうがなかったです。タフガイという言葉でそれを正当化しているあたりもちょっと……。これで既存のミステリーを単なる謎々と下に見る神経も理解できません。これまで極端な酷評をするのは避けてきましたが、本作はそれだけ合いませんでした。


No.188 5点 風塵地帯
三好徹
(2016/05/27 19:41登録)
 日本推理作家協会賞受賞作シリーズが図書館に並んでおり、その中からタイトルに興味を持って読んでみました。スパイ小説というジャンルは初めてなのですが、今となってはやや古臭いストーリーも含め意外と楽しめました。軽すぎず重すぎない適度な緊張感を持って読める文章もいいです。日頃親しんできた本格推理と比べたら当然推理のとっかかりが少ないため謎解きの醍醐味はないのですが、読書傾向が偏ってきた今こういう作品を読むと新鮮さが感じられ、読んで損はなかったと素直に言えます。


No.187 9点 斜め屋敷の犯罪
島田荘司
(2016/05/26 22:37登録)
 前に読んだ二冊(『占星術~』『異邦の騎士』)と同様、これまた夢中で読ませる力が凄いです。例のミステリー史に残るトンデモトリックも、この勢いのある文章に乗せられると馬鹿馬鹿しいという気持ちをカタルシスが軽々と越えてしまいます。また、とことん荒唐無稽な話のようでいて、被害者のとっていたポーズ、バラバラにされた人形などの謎に意外な整合性のある真相が用意されているところも気が利いており、ワン・アイディアに頼りきりでない骨太な仕上がりにも思えます。第一の殺人の動機がちょっと解せない(あの誓いを立てた犯人の心理は当の本人にしかわからないのでしょうが)のがひっかかるものの、それを除けば奇想ミステリーの最高峰としてほぼ文句なしです。ただ、登場人物のステレオタイプな描き方にはちょっと辟易しました。特に成金社長の下衆な俗物っぷり。実際の偉い人はあんなんばかりではないでしょう。


No.186 6点 夜よ鼠たちのために
連城三紀彦
(2016/05/24 17:52登録)
 初の連城三紀彦作品。確かに面白いです。表題作をはじめ、どれも反転する事件の構図に驚かされ、作者の技術を感じます。ただ、全体的に暗くて重い話が多すぎるような……。いや、そういう筆致が売りなのかもしれませんし、現に上質な文章だとは思うのですが、もうちょっとスカッとした結末のものが読みたかったです。作者の責任ではなく好みの問題ですね。米澤さんの『満願』とかはもうちょっと気軽に読めたのですが。適度に重厚で適度にライトな文体を求めるのはワガママでしょうか?


No.185 9点 黒いトランク
鮎川哲也
(2016/05/24 17:37登録)
 クロフツの傑作『樽』にインスパイアを受け、元ネタをさらに複雑巧妙に発展させた名作。トリックの解明が閃きだけでなく地道な捜査によって裏付けされているのがすばらしく、人によっては退屈であっても本格好きは知的興奮を覚えるはずです。綿密な計算を基に盛り込まれたいくつものアイディアが綺麗に調和しているという印象を受けます。ただし、あまりの複雑さに僕の頭では付いていくことが困難で、解決篇では何度も表を見返しました(細かい時刻表や路線図にいたってはチェックする気力すら出ず)。よくできていることが減点対象という珍しい作品です。少し時間を置いてもう一度読み返すとより面白いかも。


No.184 5点 怪盗グリフィン対ラトヴィッジ機関
法月綸太郎
(2016/05/22 15:37登録)
 どうも最近の法月さんは『キング』で労力を使いすぎたのか、自分の書きたいものを奔放に書いているという感じがします。それが悪いとは言いませんが、少なくとも僕個人としてはもっとストレートな本格が読みたいです。
 本作も途中までは『絶体絶命』と同じくポップなユーモアが溢れていて楽しかったのですが、終盤はほとんど理解不能でした。書こうと思えば普通のミステリーにもできたはずなので、もしかしたら狙ってやっているのでは?とさえ思えます。不定期連載していた『挑戦者たち』も非本格なので僕が求めているような作品は当分お預けかもしれません。

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