青い車さんの登録情報 | |
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平均点:6.93点 | 書評数:483件 |
No.243 | 7点 | 空想オルガン 初野晴 |
(2016/09/22 23:40登録) シリーズ三作目ですが、暗号あり、怪奇現象ありで今回も楽しませてくれます。しかし、やはり表題作の収束性に尽きる本だと思います。ギミックとしてはありがちなのに、感動的な見せ方がうまく実に効果的です。青春小説としても、吹奏楽部の活躍が盛り上がり、いよいよ軌道に乗ってきた感があります。長い期間でコツコツ書かれてきただけあって、シリーズにまったく尻すぼみ感はありません。読み残している『千年ジュリエット』『惑星カロン』にも期待が持てます。 |
No.242 | 8点 | 容疑者Xの献身 東野圭吾 |
(2016/09/21 23:50登録) オールタイムベストの上位に食い込むほどの高い評価を得た東野圭吾氏の代表作ですが、長いこと読み落としていました。感想としては、とにかく話の運び方がうまいです。ふつうの作家なら愛情が過剰にエスカレートした殺人犯の偏執性を描いたりしそうな題材で、僕も中盤で嫌な予感がありました。しかし、最終的にそれがタイトルのとおり「献身」だったと判明する流れからはさすがのストーリーテラーぶりを感じさせます。説明するのは簡単でも、これを効果的に見せるのはなかなか真似できるものではありません。トリック屋の二階堂氏の指摘した細かい粗などものともしない、圧倒的なクオリティの小説だと思います。 |
No.241 | 8点 | ブラウン神父の知恵 G・K・チェスタトン |
(2016/09/20 22:52登録) ほとんど僕の責任ではあるのですが、童心以上に読みづらい作品が目立った気がします。あと、どれとは言いませんが似通ったトリックの作品どうしが同じ短篇集に入っているのも興を削いでいるように思えます。しかし、そうは言っても犯罪の目的を見事にひねった『泥棒天国』や『シーザーの頭』など、充実ぶりは前作同様です。 『器械のあやまち』『銅鑼の神』などの印象的な逆説、警句も印象的です。特に器械~は、器械がいかに精緻であっても、それを扱う器械(人間)が不完全であれば無謬にはなりえない、という現代にも通じる含蓄を感じました。 |
No.240 | 6点 | もう誘拐なんてしない 東川篤哉 |
(2016/09/20 00:32登録) 相変わらず、基本的に悪人が出てこない作風で安心して読めます。案外手の込んだ○○差トリックを使っているあたり骨格はちゃんとした本格で、ミステリーとしてもけして薄味ではありません。ただし、一部の犯行をほとんど掘り下げていないことや、動機の説明がおざなりなこと、爽快な大団円の描き方が雑なことなど粗もあり、実にもったいない作品だと思います。 |
No.239 | 5点 | 挑戦者たち 法月綸太郎 |
(2016/09/20 00:15登録) 面白いは面白いんですが、想像していたのとまったく違ったベクトルの異色作になってしまいました。それ以前に、これは正確には小説というより評論集といったほうがいいかもしれません。元ネタを知らなければ楽しめない部分も多々あり、間違ってもベストセラーにはなりえない作品です。 『キング~』『犯罪ホロスコープ』は間違いなく法月さんの新たなピークを刻んだ作品群だったと思うので、そろそろSFや、パロディ、批評を混ぜ込むといった遊びから抜け出してほしいのがファンとしての願望です。作者曰く新たに綸太郎シリーズの腹案があるそうなので、そちらに期待しましょう。 |
No.238 | 9点 | ブラウン神父の童心 G・K・チェスタトン |
(2016/09/17 22:04登録) 本の帯だったかの書評で、ホームズシリーズを旧約聖書とするならばブラウン神父シリーズは新約聖書というのを読みましたが、そう持ち上げるのも頷ける出来でした。とにかくどの短篇にも必ず感心する部分があるというのは驚異的。これだけ豊富なアイディアを惜しげもなく使われると、先を越された他の作家たちは困ったのではないか?と思えるほどです。 有名な『見えない男』や『折れた剣』もいいけど、個人的にはユニークな犯行という点で『飛ぶ星』『アポロの眼』がお気に入りです。あと、『秘密の庭』の衝撃も特筆もので、この時代にすでにこの手法が存在したことに驚きました(「庭に入り込まなかった」「完全には出なかった」といった神父の禅問答じみた受け答えも面白いです)。 ただひとつだけ、かなりとっつきにくい文章に拒否反応を示す人も多そうなのが気になります。 |
No.237 | 10点 | 陰獣 江戸川乱歩 |
(2016/09/13 23:00登録) ほんのちょっと読んだだけで、ずっと乱歩を敬遠していました。いわゆるエログロナンセンス描写の魅力だけで評価されているのではないかと。しかし、その侮っていた描写力、雰囲気づくりの凄まじさにこのたび『陰獣』を読んで圧倒されました。サディストとマゾヒスト、天井からの覗き見といった過去作品のエッセンスを含みつつ、論理的推理とどんでん返しを両立させています。さらには、本来ならモヤモヤが残る独特な結末もいい味を出しています。 『蟲』のほうは、別の短篇集で以前読んでいたのですが、読み返してみると記憶よりずっと面白かったです。主人公・愛造の異常心理はにわかには理解できません。でも、彼が生まれながら持っていた人というものに対する歪んだ感情は少しわからないではない部分もあります。そこがまた恐ろしいです。 200頁ほどの薄い本なのに非常に濃い内容でした。江戸川乱歩という作家の底力がようやくわかった気がします。 |
No.236 | 6点 | 初恋ソムリエ 初野晴 |
(2016/09/10 23:31登録) 前作に引き続き粒ぞろいの短篇集です。明るいタッチのフォルムに包まれた骨太なストーリーばかりで、気軽に手に取れるのに、読んだ後に充足感があります。収録されている四話どれも好きですが、やはり表題作が出色だと思います。安直に甘酸っぱい感動話に落ち着くのかと思ったら、予想を超える重さを残した結末でした。本シリーズのこれまでに出ている5冊を順番に追って行こうと思える出来でした。 |
No.235 | 6点 | 退出ゲーム 初野晴 |
(2016/09/10 23:14登録) 一話目『結晶泥棒』はイントロダクションを兼ねた作品で、そこそこの面白さ。しかし、『クロスキューブ』の展開のすばらしさには驚かされました。残る表題作と『エレファンツ・ブレス』も良作で、青春小説の爽やかさとユーモアに、人間ドラマのほろ苦さが伴っています。ミステリーとしては高度ではないのでこの点数ですが、単なるラノベだと侮れない一冊です。 |
No.234 | 7点 | 秋期限定栗きんとん事件 米澤穂信 |
(2016/09/10 22:42登録) 連続放火事件にまつわるトリックは素直に感心できたのですが、年季の入ったミステリー読者の方からはさほど喜ばれなかったようです。そこよりは彼女のできた小鳩くん、年下の男子を振り回す小佐内さんの方が重要ポイントでしょうか。しかし、それにしたって瓜野くんは可哀想すぎるだろ……。おそらく最終作になるであろう冬季がずっと出ていませんが、このシリーズがどう終結するのか、期待と不安が半々といったところです。 |
No.233 | 7点 | ウッドストック行最終バス コリン・デクスター |
(2016/09/10 22:31登録) 事件そのものは派手ではないものの、論理の試行錯誤の繰り返しで読者を引っ張っていってくれる作品です。中盤でモース警部が述べる乱暴すぎる消去法推理にはポカンとなりましたが。 クライマックスで畳み掛ける推理は圧巻で、登場人物はそう多くないのにしっかり意外性も確保しているのはすばらしいです。法月綸太郎氏が『誰彼』で挑戦したという「デクスターしている」推理は処女作から完成されいていたことがわかります。ただ、抑制の利いた乾いた文章があまり好みでなかったことだけが心残りです。 |
No.232 | 9点 | 幻惑の死と使途 森博嗣 |
(2016/08/28 18:05登録) これはいいですね。まさにマジックの原理を応用した犯行なのですが、まんまと盲点を突かれました。観念的な動機もこれまでならモヤモヤしたものが残ったのですが、本作はそこも含めて面白かったです。すべてのトリックを暴いたかと思いきや、最後の最後でこれまでの思い込みをひっくり返しすべての真相が明らかになる逆転が見られるところも憎い趣向です。謎、推理、ストーリー展開どれをとってもこれまででいちばんだと思います。 |
No.231 | 7点 | 神津恭介、密室に挑む: 神津恭介傑作セレクション1 高木彬光 |
(2016/08/28 00:12登録) 今時のすれた読者が読むにはキツイものがある作品が目立つ気がします。ただし、後半のふたつ『影なき女』と『妖婦の宿』は間違いなく傑作で、これだけはミステリーを語るなら読んでほしいと言っても過言ではありません。特に『妖婦の宿』はたったこれだけの頁数で二段構えの推理が堪能できるフーダニットの傑作だと思います(特に人形の使い方が上手い)。『影なき女』の方は、事件の構図の反転が鮮やかで、当時としては画期的な発明だったでしょう。 |
No.230 | 6点 | 夏期限定トロピカルパフェ事件 米澤穂信 |
(2016/08/28 00:01登録) 春期と同じく、謎解きの醍醐味は小規模な事件が中心となる「日常の謎」系として見ても弱い、というのが正直な感想です(『シャルロットだけはぼくのもの』は引きつけられましたが)。それでも、今回は小佐内さん誘拐というスリリングな展開で前作より読者へのアピールは強くなっています。あと問題となるのは主人公ふたりにどれだけ共感を覚えられるかですが、僕は共感まではいかずともちょっと変わった価値観のある子たちを見守る、という程度のスタンスで読みました。 |
No.229 | 6点 | 殺人者と恐喝者 カーター・ディクスン |
(2016/08/24 23:14登録) 叙述のフェア、アンフェアの概念がまだ定まっていなかった頃の作品であるためか、確かに今読むと反則すれすれです。ただ、それでも最後の逆転は見事ですし、邦題の付け方も上手く、読みながら推理してやろうというタイプではない僕は十分満足できました。催眠術に便乗して殺人を起こすという犯行は面白いものの、種明かしされてからその状況を想像するとかなりヘンテコです。しかし、それもこの作者なら許せてしまえます。傑作とまでは言いませんが読んで損はありません。 |
No.228 | 5点 | 一角獣殺人事件 カーター・ディクスン |
(2016/08/24 23:00登録) 題名になっている「一角獣」が、ほとんど内容に必然性を持たせていないのが残念です。そんな凶器普通は知らない上に明らかに不合理ですし、単なるハッタリで終わってしまっています。それを抜いてしまえばアイディアはすり替わりのみで、クローズド・サークルの情緒も引き出せていません。カーター・ディクスンにしては不出来な部類の作品だと思います。成功すれば、荒唐無稽でも爆発力がそれを上回るのが魅力の作家なのですが。 |
No.227 | 5点 | 御手洗潔の挨拶 島田荘司 |
(2016/08/24 22:19登録) あれだけ重厚感ある長篇を書いている作者にしては、どういうことかと思ってしまうほど冴えない作品が多いと感じました。『数字錠』の間違った場合の数の説明には首をひねりました。『紫電改研究保存会』に至っては有名な古典の焼き直しに過ぎないと思います。ただ、唯一『ギリシャの犬』の奇妙な暗号だけは感心しました。 |
No.226 | 8点 | 封印再度 森博嗣 |
(2016/08/24 21:50登録) これまでと同じく、地の文章・会話文ともに独特、なかなか軌道に乗らないストーリー、他の多くの方々も述べられている萌絵の暴挙など、マイナス点は多いです。しかし、それらを考慮してもかなり面白く読めました。 なんといっても壺と箱をめぐる謎がかなり分厚いこの本を支えるのに十二分に魅力的。そしてすごいのは、その謎がけして尻すぼみにならず、読者の期待を裏切らない解決が与えられているところです。古い作品を例に出すと、横溝の『本陣殺人事件』で金田一に機械トリックをつまらないと言わせつつ、読者を過剰なまでに派手な機械トリックで魅了して見せたことを思い出させます。その他の不満を吹き飛ばすほど突き抜けた発想です。 『すべてがFになる』がさほどピンと来なかった僕ですが、これはかなり好きです。犯行動機がぼやけているところは相変わらずですし、ドラマ版は褒められた出来ではありませんでしたが。 |
No.225 | 10点 | シャーロック・ホームズの帰還 アーサー・コナン・ドイル |
(2016/08/24 00:04登録) 少し前にようやく出たカドカワ版の新訳で読了。ずっと小さかった頃に少年向けで読んでいたものもありましたが、大きくなった今読むとまた違った発見があり、実に楽しい読書でした。 昔はシャーロック・ホームズというと勝手に完全無欠で冷徹、推理機械の代名詞のように思っていましたが、新訳の短篇集を三冊読んでみると案外人情味のある人物だと気付きました。特に『プライアリ・スクール』や『三人の学生』の最後のセリフはぐっとくるものがあります。その他心に残ったのはポウの某作から影響を受けたと思われる『踊る人形』珍しいホームズの失敗を描いた『恐喝王ミルヴァートン(犯人は二人)』などです。 また、『ノーウッドの建築業者』『金縁の鼻眼鏡』など、推理小説初心者でもとっつきやすく、かつ論理的な推理もある短篇も入っています。古き良きイギリスのノスタルジーに浸りながら読んでも楽しめるので、必読の書という評価は伊達ではありません。 |
No.224 | 6点 | 火刑法廷 ジョン・ディクスン・カー |
(2016/08/14 21:54登録) (ネタバレしています) 傑作と推す人も多いものの、僕は世評ほど楽しめませんでした。 語り手が妻と瓜二つの女が凶悪な毒殺魔と記載されているのを見るという掴みは最高で、さすがはカーといったところです。しかし、それ以降、中盤にかけてはあまり面白くない会話ばかりが続き、(翻訳の問題もあるかもしれませんが)リーダビリティが弱いと感じました。死体消失トリックの完成度はすばらしいだけに、もうひとつかふたつ派手な見せ場が欲しかったです。 ただ、擁護したい点も。ネット上で、不親切な記述のせいでトリックに難が生じていると指摘されているのを見ましたが、それはさして問題ではないでしょう。ふつうの大きさのアレには死体が収まらない、というのは読み手の認識の問題で、人によっては十分推理可能なはずです。 |