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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.484 7点 ブラウン神父の不信
G・K・チェスタトン
(2016/02/08 13:18登録)
ブラウン神父と符合を見せる音楽家と言えばジミ・ヘンドリクスだ。右利きであるにも関わらず、右利き用のギターをわざわざ上下(当然だが左右も!)逆さまにして左手で弾く(※)。この逆転の逆転が必ずしもそのまま元に戻っては来ない不思議なねじれの逆説性はミステリの世界で喩えれば間違いなくかの神父領域の味わいでしょう。ましてあの革新性と完成度のマリアージュぶりです。
※但し弦は普通に弾けるよう逆張りにしていました。やろうと思えば弦そのまま(つまり上下逆)でも弾けたって説もある。

さて有名作も揃って派手目なイメージの纏わる本短篇集。幾つかの類似性からホームズの「復活」と並び語られる事も多いですが、わたくしの感想は、ホームズ「復活」と似てシリーズ先行作に較べると少なからず色褪せているかな、と言った所。それでなお充分「かなり面白い」の範疇に記憶を留めさすGKCの底力には感服しきりでございます。  
個人的に感慨深いのは最後の二作「ダーナウェイ家の呪い」「ギデオン・ワイズの亡霊」でしょうか。


No.483 8点 猟人日記
戸川昌子
(2016/02/08 12:22登録)
はじまりは都会の夜の軽い読み物という感触でしたが、、徐々にダークなトーンに染まり行き、最後は意志の強い心理トリックに刺されて果てます。 慄然とさせてくれますねえ。。

『講談社大衆文学館』でOG(Old Girls=大いなる幻影)と一緒になった本を読んだものですが、読了してみれば一見して派手なOGより渋目のこちらに軍配が上がっていました。僅差でした。

しかし現代の感覚で「外国人の様な濠りの深い容貌」の好男子が夜な夜な。。とか言われると平井●が新宿某エリアで●漁りに精を出している図が浮かんで仕方ありませんて。(彼はそういう事しなさそうだが?) 


No.482 7点 春から夏、やがて冬
歌野晶午
(2016/02/03 12:19登録)

予想外 。。。。 結末も 幕引き人(探偵役?裏主人公??)も 真犯人(?)も 真相(??)も

ネタバラシ。。。を言うと 少しは明るい終わりなのか そうでないのか モヤモヤしたままなのが本当に 予想外

反転。。はさほど強烈でない だが物語の構成 不思議な終わらせ方が 救いの無い中にも 謎めいた感動を招き入れている



No.481 9点 長いお別れ
レイモンド・チャンドラー
(2016/02/03 12:08登録)
酒もだが、コーヒーの薫りが染み込んだ名作。 第二十二章、滑り出しの数頁がとても好きだ。 ギムレット? エメラルド? このあたり、ストーリーがミステリ流儀で蠢き始める十字路だろうか。

長い小説の終わり間近でもう一度ギアが上がる作りが頼もしい。ここが最終コーナーかと見えた地点から、本当の終結地点までストーリーの激しい起伏が持続。 ラストシーンは。。 反転、感動ともどもやられました。アンコールピースの様な、日常に戻る合図の様な最後の一文も良い。

大事な亡き(行きずりの)友を偲びながら夥しい数と存在感の主要登場人物群。味方も敵もグレイゾーンも躍動豊かに、上手に書き分けられている。
時々皮肉たっぷりの妄想で暴走するのも最高だ。あわや森村誠一もどきのヒッピー演説になりかけるじゃないか。

今さらながらフィリップ・マーロウというのは不思議な良い奴です。それにしても同じL.A.上流犯罪捜査の後輩フランク・コロンボとは、敵(時に好敵手)を見下ろすタイミングと容赦無さの発揮場所が正反対だな。

さてこの小説がどうしてこんなに心地よいのかと追憶を巡らせば、要するに松本清張の長篇良作と程近い感覚なのでしょう。但し清張の場合は会話文さえ無駄口を排除するものだから余計にストイックでサスペンス度合いも強い。
TBSやFMLにはのめり込まなかったが、TLGBには深い所を掴まれた。


No.480 4点 パーフェクト・ブルー
宮部みゆき
(2016/01/28 18:21登録)
確かに読んだんだけど、忘れちゃってんだよねえ、まぁまぁイマイチかな、って思ったこと以外。
(同様の感想書かれてる方がいらっしゃったんで、笑ってしまいました)

でもE-BANKERさんの評を見てちょっと思い出したのですが、確かに「犬」であるミステリ的必然性が無いですよね、「長い長い殺人」に於ける「財布」が如し、、いやアレの場合はちょっと違うけど、どちらも結末で何らかの「化け」が無かったという意味で。赤緑色盲(赤は血の色。。)だとか、色々引っ掛けられるフックは有ったと惜しまれるのですが。。

でも3点って事もない。 宮部みゆき処女説、もとい、処女作。


No.479 5点 金色の喪章
佐野洋
(2016/01/28 18:11登録)
佐野洋平均的サスペンス。 いや、本当は平均ちょぃ下かな。本格の謎に近い不可能興味(人物系)は魅力だが、明かされる真相がちょぃと「チャンチャン」なんだな。。 読んでる間は楽しいんだけどね、再読ぁするわきゃ無いでしょうそんな暇じゃないよ、ってなくらい。熱心なファン以外には薦めませんが、イマイチとまでは落ちず。


No.478 7点 ミニ・ミステリ傑作選
アンソロジー(海外編集者)
(2016/01/28 13:07登録)
目次の題名眺めるだけで興味津々。幼い私には「文法で気付かれる」話と「小人が騙される」話が印象的だった。一発アイデアでノックアウトされる類のやつ。今振り返れば「誘拐されていた」話がなかなかのものと思う。定番「二十年後に再会」の話はやはりぐっと来る.。他にも、驚いたり、泣けたり、唖然としたり、ニヤリと来たり、不安になったり、感心したり、指を鳴らしたり、狐につままれたり、作者も有名無名、語りつくせぬ魅力を放って止まない、小さなお菓子がいっぱい詰まった箱の様な掌編集。EQGJ(エラリー・クイーン・グッド・ジョブ)です。

ところで例の、創元さんの悪い癖”重複排除”の犠牲になっているのが三篇もある(ブラウン、ウールリッチ、シムノン)のは悲しい!
その一方で唯一人、特別に二篇収録されているのがかのモーパッサン、というのが何とも!


No.477 9点 仮面山荘殺人事件
東野圭吾
(2016/01/28 12:27登録)
すっかり忘れていましたが、私が初めて読んだ東野圭吾は確か本作。
花も実もある本格ギミックス圧縮てんこ盛りで、最高の面白さでした。
ま~~設定からしてびっくり、展開にどっくんどっくん、結末にぶっひゃーー、てなもんです。
深夜の首都高を盗んだ大型満載キャリアカーでぶっ飛ばした挙句八丈島までぶっ飛んで行きたい時は、本格ミステリ好きだったら、代わりにこの本を読むと良いでしょう。


No.476 8点 砂の器
松本清張
(2016/01/27 18:27登録)
‘蒲田’と言やぁむかし乗換え駅でよく途中下車したもんです。どこぞの呑み屋行ったんだろ、例の二人は。ひょっとして「鳥万」かな?と思って原典確認したら”トリスバー”だった! しかし蒲田如きでもう場末と呼ばれるとは、時代を感じますねえ。

構築美に少しく皹(ひび)が見られるのは承知ですが、破綻する程の破格でもなく、適宜の余裕を湛えた準大河小説として併せ呑む許容内ではないでしょうか。そんな人間臭い蟠(わだかま)りの萌芽も含め素晴らしい味わいを端から端まで並べ尽くした作品と思います。日本列島を股に掛ける遠望ゆたかな旅情は目鼻に眩しく、人情と社会の歪ませ合いがひりひり痛い。謎伏せの深さがいつにも増して雄大な渾身の力作だ。躊躇無く「社会派推理小説」と呼びたい。生前の祖父と、本作について少しでも語り合いたかったなァ。

例の音楽ですが、例のバカトリックですが、、いいんですよ小説の場合はアレで。逆に映画版の様な佐村河内さんもかくやの絢爛悶絶恩讐交響詩を清張文章で表現された日にゃ、ちょいと違うものに捩れてしまいまさあねえ。そういうのはまぁ中山七里さんに託したい所で。


No.475 8点 高木家の惨劇
角田喜久雄
(2016/01/27 13:30登録)
よいこのみんなには「発狂」でおなじみ角田喜久雄おじさんの健筆が、退屈弛緩を排除した滑り出しの勢いそのままに終結まで颯爽と駆け抜ける快作! 時折のアクセントに煙草。

果たしてこれはアリバイトリックのお話なのか、それとも。。思いの外早い時点で”装置”の存在が露呈するや予想外の安っぽさが湧き上がるが、それに抗してバランス取るかの様に、事件背景が実はこちらの憶測よりずっと複雑であるとの暗示物件が次々と忍び入る。
されどやはり物理トリック満開な雰囲気に苦笑するも、先走り癖のある読書を宥める様に作者は更に先走り、優しい解説と共に更なる謎の泥沼まで提示してみせるってんだから、そのしたり顔ぶりは見事だ。
終結が呆気なく来たなと思えば、、まさかの”トリック反転”ですか!こりゃ参りました。ストーリーが反転するのでなく、トリックが反転するってどういう事よ!こういう事だよ。。それと表裏一体なのが、クリスティ再読さんご指摘の際立って格別な「犯人像」ですよね。。そして蟷螂の斧さんの言及される(第一)被害者の、結局は自らを死に至らしめたその企図たるや。

さて事件の隠された全景も晒され、題名の本当の意味は、そういう事なんですね、と納得し、刑事ドラマの様にちょっとくだけたシーンで〆。

むかし祖父の書棚に何処かの叢書と思しき本作が置いてあり、ずっと気になっていたのでありますが、幼い頃は題名が怖いのと、後には何故か読むのを遠慮し、時のはずみで生前ないし遺品として貰い受け損なったこのクラシックな本格推理、何処と無く梗概を聞きかじったつもりで重い腰を上げ読んでみますると、これがアナタこっちの憶測を豪快にぶち破る大きなヒネリと機動性に満ちた作品で存分にシビレさせていただきました。音楽に喩えれば意外とジョージィ・フェイムの様な味わい、かも。


【ネタバレ】
第二の探偵にして有力容疑者、且つ証人でもある人物が終盤に来て第二の被害者となる錯綜急展開(軽くシンデレラの罠状態!?)には参ったよ


No.474 7点 地獄から来た天使
土屋隆夫
(2016/01/26 18:52登録)
氷の椅子 /潜在証拠 /絆 /老後の楽しみ /私は今日消えてゆく /わがままな死体 /地獄から来た天使
(角川文庫)

エロかったりドタバタだったり、なんかネジ具合のおかしい土屋さんが目立つ短篇集だが、ミステリとして水準は高い。そうそう「絆」は中でも異質の(普段の土屋さんらしい)涙を誘い背筋を伸ばす文芸推理の佳品。アクの強い倒叙「潜在証拠」は浸食力抜群。


No.473 8点 泥の文学碑
土屋隆夫
(2016/01/26 18:37登録)
空中階段 /りんご裁判 /ある偶然 /虚実の夜 /盲目物語 /夜行列車 /穴の穴 /泥の文学碑
(角川文庫)

これは充実の短篇集ですね。創意ある復讐譚の表題作からして本腰が入っている感じ。言うだけ野暮ですが文芸作としても(勿論ミステリとしても)抜群の冴えと味わいの作品群です。日本に生まれて良かった!


No.472 6点 企画殺人
鮎川哲也
(2016/01/25 18:10登録)
錯誤 /偽りの過去 /蟻 /墓穴 /憎い風 /尾のないねずみ /てんてこてん
(集英社文庫)

魅力ある題名が体を表し損なった感のある小粒な倒叙ミステリ集。ギザじゅうさん、測量ボーイさんおっしゃる通り犯行の露呈や犯人特定の決め手が偶然頼りな作品ばかりで、では倒叙本格は棄てて倒叙サスペンスに専念したのかと言うとそこまで腹を括っちゃいない。まぁそんな清張流儀を鮎川さんにお願いしても仕方ありません、これはこれで悪くもありません。「TTT」を最後に持ってくるのはちょぃと粋だね。(どうして粋かは言えないよ)


No.471 6点 謎解きの醍醐味
鮎川哲也
(2016/01/25 17:19登録)
寄せ集めでもファンには嬉しいもの。フーダニット中心、良作も何気にちらほら。謎が興味を引く「塗りつぶされたページ」の論理展開は鮮やか。三本のエッセイも見逃せません! “南区南太田”なるタイトルには思わず「暗闇坂」を思い出してしまいましたがあっちは同じ京急沿線でも”西区戸部”だったか。

離魂病患者/夜の断崖/矛盾する足跡/エッセイ 日記/プラスチックの塔/エッセイ 南区南太田/塗りつぶされたページ/緑色の扉/霧笛/エッセイ ペテン術の研鑽
(光文社文庫)  


No.470 7点 晩餐後の物語
ウィリアム・アイリッシュ
(2016/01/25 16:41登録)
サスペンスだとか雰囲気よりも面白い物語集として、ストーリーを追いオチを探って読むのがいい感じの一冊。酒に合う。名作の誉れ高い表題作は、フーダニットの風薫る中間部にスリルがあって良いですね、そうしておいて実は父子愛の泣かせる物語でもある。最後の見え見えなアレはオマケ。他も手を替え品を替え実に美味。「ヨシワラ」はアンコールピース。

晩餐後の物語/遺贈/階下で待ってて/金髪ごろし/射的の名手/三文作家/盛装した死体/ヨシワラ殺人事件
(創元推理文庫)


No.469 7点 わたしを離さないで
カズオ・イシグロ
(2016/01/25 11:01登録)
「或るおぞましいこと」を主題に据えた問題作。終結近くまで隠すかと思われた謎の核心らしき事柄は物語のごくアーリーステージであっさり暴露。しかしまだ枝葉なのか幹なのか容易に素顔を見せない謎たちが居座り、隙あらば増殖せんとする気配もそこかしこ。一番の深淵な謎は語り手の人物が現在どんな状況に置かれているのか、とも思えるが.. これはある意味「日常の謎」か、はたまた「日常(?)の謎」か? しかし仮に「(?)」無しだとしても語り手にとってはるか昔の事柄だ。。という事は。。 いや、これはひょっとして、より大きく一般的な日常の謎、決して解こうとしてはいけない普段は見えない類の謎の隠喩なのだろうか。

さて物語の丁度真ん中あたり、核心その一に続きその二もあっさりと明かされる。それでもなお徐々に積み重なり行く違和感には二種類、語り手が過去に感じたと書かれているものと 読者が感じるよう仕向けられるものと。第二部から第三部へ移る瞬間、予期していたざわめきと突然の静寂が一気に吹き上げる感覚に掴まれた。「提供者」のみならず「介護人」なる存在、その実像と、物語の中で果たすであろう役割はまだまだ見せない。。「最悪の事態」って一体何だ? 謎が解けたりまた生まれたり、常に少しずつ増え続ける薄暗いモヤモヤ感よ。

最後の最後近くまで、もしや、まさか、と思わせる際どい筆致に寄り掛かってしまいたくなった。本当の終結部、まだ終わらずにちゃんと私を納得させよと祈るように読み進めたが、祈りは伝わらなかった。 その終結の、目を疑う抑制の際立ちに私は泣いた。

多くの登場人物が多くの会話を交わしながらのこの強烈な寂しさ、空気のうすら寒さは心に残る。
ミステリとすぐ隣り合わせの庭に秘かに育った、幹の太い樹の様な作品。

*ハヤカワ文庫表紙のカセットテープが「イニシエーション・ラヴ」を連想させるのは、本作をミステリ寄りに読ませてしまう一因かも..


No.468 5点 人質カノン
宮部みゆき
(2016/01/21 10:09登録)
重い社会テーマを軽く短く展開。初期の東野圭吾短篇集を、洞察ちょっと浅くして、代わりに温かみをふうっと吹き込んだような。。


No.467 6点 返事はいらない
宮部みゆき
(2016/01/21 09:41登録)
軽くてきれいで温かい。ちょっと怖くて淋しい。悪くないね。


No.466 5点 ミステリーを科学したら
評論・エッセイ
(2016/01/20 15:32登録)
言うだけ野暮ですが、ミステリがちゃんと'分かった上で'書いてある本ですからね。色んな意味で信用出来ます。仮に嘘や間違いがあっても信じちゃいます。目立ってエキサイティングというわけでもないが、ふんふん、ふふん、ふふふ~~~んってな具合に読めちゃって、ためになる。そんな本でした。


No.465 9点 ブラウン神父の醜聞
G・K・チェスタトン
(2016/01/20 14:07登録)
【逆ネタバレかも知れません】
本短篇集の中に一つ、人気ミステリ映画「ユージ○○○・サスペクツ」の元ネタ乃至インスパイア元ではないかとサスペクトされる作品がありましてね、『醜聞』の中ではそれがいちばん好きです。一般人気も高そうなあの一篇なんですが。。
【逆ネタバレかも知れないのはここまで】

後半の通しテーマになっている感のある、往時のエマージング・ホット・イシューであったであろう共産主義について(資本主義もろとも!)キリスト者の立場から既にこんな深みある温かい洞察を施していたとはね。。感動を覚えますよ。更に思えば、共産主義が早晩滅びてしまう予見さえ包んで愛情豊かに労わろうとする文筆の慰めですよね、泣けて仕方がありません。このあたりに、作者の文章鮮度永続性の鍵が埋まっている思いがします。

巻末、訳者の片割れ中村保男氏による、著者への共感溢れつつ時に厳しく当たり、総括者意識豊かな解説文の洞察絵巻は賢明なる読者諸氏にとってこの上無い前方指標となり得ましょう。「共産主義者の犯罪」なる作品の標題そのものに対する謎解きがチェスタトンの持つ奥行き深さの良い実例解説になっている件(くだり)もハイライトの一つと言えましょう。

過日逝ったDavid Bowieに、チェスタトンだったらどんなにか含蓄と警鐘に富んだ最高の追悼挨拶を叩き付けた事だろう、と切実に妄想する今日この頃ですが、皆さんどうにかお過ごしでしょうか。

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