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ミステリの祭典

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ブラウン神父の醜聞
ブラウン神父シリーズ

作家 G・K・チェスタトン
出版日1957年03月
平均点6.42点
書評数12人

No.12 6点 虫暮部
(2024/02/22 13:39登録)
 「緑の人」「とけない問題」が良い。ミステリ的な核は小粒なのに大仰な書き方なのでバランスがおかしいが、ここまで来るとそのこと自体が絶対的な個性に思えてしまう。
 ところで、ブラウン神父は、有名な素人探偵なのか、市井に穏やかに潜む無名の人なのか、シリーズ中(本書に限らず)に設定が混在して矛盾を来してない?

 訳者による入魂の解説「ブラウン神父の世界」について。くどくど五月蠅い、と私は感じてしまった。
 確かにどんな物語にも、何がしかの予備知識や共通認識が求められはする。風刺は対象を知らないと通じないから、チェスタトンには特にその傾向が強いかもしれない。
 しかしそれがどうした。作者の意図に合わせる義務は無い。そうやって正解(だけ)を求める行為は読書をつまらなくするよ。読者は作品を自由に曲解する権利を持つのである。

No.11 4点 レッドキング
(2022/06/29 23:12登録)
ブラウン神父第五(にしてラスト)短編集。
  「ブラウン神父の醜聞」 対決すべき「真」の背徳の為の「偽」の背徳の追放・・あんまり大したことない逆説。2点
  「手早いやつ」 「手早い奴」って・・「描かなかった奴」ってだけじゃん。1点
  「古書の呪い」 古本を開いた5人の連続消失事件。「すぐに開けてみましたよ、私は迷信家ではないので・・」 9点
  「緑の人」 海軍人の水死と聞いて海を連想しない者とは・・2点
  「ブルー氏の追跡」 桟橋小屋の周りをグルグル追いかけっこする加害者被害者が消失して・・4点
  「共産主義者の犯罪」 社会的ダーウィン(資本)主義も共産主義も、カトリックの真の敵としての在り様は・・1点
  「ピンの秘密」 労働争議脅迫状と自殺宣言のWhyが鮮やか。 流血物証と告知夢の価値転倒が見事。8点
  「とけない問題」 剣で刺され、木に吊るされた老人の屍体。だが死因は刺殺でも絞殺でもなく・・4点
  「村の吸血鬼」 寒村で妖婦として冷眼視されるよそ者の女。一年前の夫の死の真相は・・2点
で、全体平均で、2+1+9+2+4+1+8+4+2=33÷9=3.666‥、4点。
※結論として、F・モーリアックや、O・S・カード等と同様に、作品はなかなか魅力的だが、その宗教(ま、イデオロギーやね)において、「価値観の敵」と言わざるを得ない奴だな、ギルバート・キース・チェスタトン。

No.10 6点 クリスティ再読
(2020/01/27 12:24登録)
本作だともう1935年の作品、というのがどうにも困ったところのように思う。ハメットは長編をすべて書き終えて、クイーンだと「スペイン岬」だから、国名シリーズが行き詰っての時代。アメリカ的な探偵小説なんてものが完璧に確立した時代に、チェスタートンが「アメリカ的性格」を批判しても、そりゃなんだ!ということに過ぎないよ。アメリカだってもう狂乱のジャズエイジですらなくて、大恐慌真っただ中である。
とはいえね、評者の評点6点はほぼ「共産主義者の犯罪」のオマケ点みたいなものなんだ。今ではほぼ忘れられている思想家になるんだけど、ラスキンって人がいてね、この人の「キリスト教的社会主義」というものは、第二次大戦前には一応近経・マル経に対する第三勢力みたいな評価があって、日本でも賀川豊彦とか神戸灘生協とかに影響があったりした。このラスキン、いわゆるゴシック・リバイバルの立役者で、ロセッティのラファエル前派とともに、イギリスのカトリシズムを代表した著述家だったんだ...早い話、チェスタートンの師匠と見ていい人なんである。
で、このラスキンのキリスト教経済学を継承して、しかもマルクス主義と共闘したのが近代的デザイナーの元祖でもあるウィリアム・モリスで、この人の名前は本編にも出ている。評者一時モリスについて調べたことがあってね、ここらへんのバックグラウンドを最後に継承したのがほかならぬチェスタートンだと思ってるんだ。つまり、皆さんが宗教vs共産主義、資本主義vs社会主義、とタダの対立で単純化するのは、本当にチェスタートン理解からは誤解でしかないからね。
つまり、ラスキンもモリスも、中世ゴシックの美にあこがれる一方、キリスト教道徳をベースにした資本主義批判とオルタナ経済の提案、汎ヨーロッパ伝統の継承と国家主義批判、といったイギリス・カトリック知識人の「型」を作りあげ、チェスタートンがこれを継承した背景が分からないと「共産主義者の犯罪」の寓意性はわからないと思うんだ。

なるほど、共産主義は異端説です。しかし、あなたがたがあたりまえのこととして受け入れている異端説ではありません。あなたがたが考えなしに受け入れているのは資本主義のほうです。と言うよりも、死滅したダーウィン説という変装をつけた資本主義の悪がそれです。皆さんはあの社交室で話しあっていたことを覚えておいででしょうー人生とはつかみあいにすぎないとか、自然は最適者の生存を要求するとか、貧乏人は正当な給料をもらうべきかいなかということは重要な問題ではないとかーそういったことです。ほかでもない、それこそが皆さんの慣れ親しんでいる異端説なのです。

社会ダーウィニズムとかさ、自己責任とかさ、人件費圧縮だとかさ、そういう言葉を耳にしたらブラウン神父というかチェスタートンは嘆くよホント。本作あたりがラスキン経済学の最後のなごりみたいなものなんだが、イギリス左翼にはモリス信奉者が今でもいるらしいしね。チェスタートン読むなら「ユートピア便り」とか読むの理解の助けになるんだろうけども、モリスの「世界の果ての森」なら英国中世ファンタジーの元祖みたいなものだから、一応本サイトでも微妙に範囲内かなあ。

No.9 6点 ボナンザ
(2019/08/14 14:57登録)
ブラウン神父シリーズのラストを飾るにふさわしい良作ぞろい。
機械的トリックは初期に及ばないが、そうしたアイディアなしでもここまで書けるのは流石。

No.8 7点 ALFA
(2017/04/22 17:48登録)
「童心」にみられるような鮮やかなトリックや大掛かりな反転はないが、チェスタトンらしい逆説に満ちた短編集。
多くの短編に共通するテーマは「人は見かけ通りではない」ということ。
(以下ネタバレ)


ロマンチックな風貌の人物は詩人ではなく、カウンターの中にいる人物はバーテンではなく、押し出しのいい紳士は業界の大物ではなく、白髪の聖職者は・・・・・
多くの人が思い込みや錯誤に陥るなか、純真なブラウン神父の目は正体を見抜いて犯罪を暴く。
ワンパターンといえばワンパターンだが、チェスタトンらしさを味わえる。
「共産主義者の犯罪」は一種の社会風刺にまで踏み込んだ異色作。
それにしてもこの読みにくさはチェスタトンの原文のせいばかりではないだろう。「童心」の旧訳と新訳二編を読み比べるとよくわかる。
創元社は文字の大きさやカバーの変更でお茶を濁すのではなく新訳を出すべきだった。創元社には悪いがハヤカワ版が待ち遠しい。

No.7 6点 nukkam
(2016/08/24 08:35登録)
(ネタバレなしです) ブラウン神父シリーズ第5の、そして最後の短編集である本書を最晩年のチェスタトン(1874-1936)が出版したのは本格派黄金時代の真っ只中の1935年です。この年にはクイーンは国名シリーズ最終作の「スペイン岬の秘密」を、カーは最高傑作といわれる「三つの棺」を、クリスティーも代表作の一つ「ABC殺人事件」を発表しています。本書はそれらと比べると目新しいものは何一つありません。過去のチェスタトン作品と水準的に大差なく、これを「進歩がなく時代遅れ」とネガティブに評価するか「最後まで自分のスタイルに忠実」とポジティブに評価するかは読者の気分次第でしょう(笑)。短編なのに実に次々と事件が起きる「古書の呪い」やある意味他愛もない目的のためにあそこまで凝った準備するアイデアが結構笑えた「とけない問題」が個人的なお気に入りです。なお本書のオリジナル版は8作品から構成されていますが、創元推理文庫版では短編集に未収録だった「村の吸血鬼」(オカルトミステリーかと思ってたら全然違いました)が追加編集されています。

No.6 9点 斎藤警部
(2016/01/20 14:07登録)
【逆ネタバレかも知れません】
本短篇集の中に一つ、人気ミステリ映画「ユージ○○○・サスペクツ」の元ネタ乃至インスパイア元ではないかとサスペクトされる作品がありましてね、『醜聞』の中ではそれがいちばん好きです。一般人気も高そうなあの一篇なんですが。。
【逆ネタバレかも知れないのはここまで】

後半の通しテーマになっている感のある、往時のエマージング・ホット・イシューであったであろう共産主義について(資本主義もろとも!)キリスト者の立場から既にこんな深みある温かい洞察を施していたとはね。。感動を覚えますよ。更に思えば、共産主義が早晩滅びてしまう予見さえ包んで愛情豊かに労わろうとする文筆の慰めですよね、泣けて仕方がありません。このあたりに、作者の文章鮮度永続性の鍵が埋まっている思いがします。

巻末、訳者の片割れ中村保男氏による、著者への共感溢れつつ時に厳しく当たり、総括者意識豊かな解説文の洞察絵巻は賢明なる読者諸氏にとってこの上無い前方指標となり得ましょう。「共産主義者の犯罪」なる作品の標題そのものに対する謎解きがチェスタトンの持つ奥行き深さの良い実例解説になっている件(くだり)もハイライトの一つと言えましょう。

過日逝ったDavid Bowieに、チェスタトンだったらどんなにか含蓄と警鐘に富んだ最高の追悼挨拶を叩き付けた事だろう、と切実に妄想する今日この頃ですが、皆さんどうにかお過ごしでしょうか。

No.5 7点 ミステリーオタク
(2016/01/04 12:17登録)
あけおめ、ことよろ

本書の中では、やはり古書の呪いが一番インパクトがあった

No.4 7点 E-BANKER
(2012/08/27 16:23登録)
ブラウン神父の作品集もついに最終譚。
相変わらずの「逆説」的真相と「読みにくさ」は今回も健在。

①「ブラウン神父の醜聞」=不倫を犯した妻を逃がした・・・という「醜聞」をまき散らされたブラウン神父。ただし、それは大きな誤解。真相は人間の初歩的な思い込みに関するものなのだが、マスコミ人がこんな偏見持ってちゃいけないでしょう。
②「手早いやつ」=イギリスのとある古ホテルで起こる殺人事件。胸には異国の剣が刺し貫かれているのだが、死因は毒殺・・・。ある宗教家を巡る殺人事件に珍しくブラウン神父が拳をかざして立ち上がる!
③「古書の呪い」=いかにもブラウン神父ものらしい作品。1冊の古書をめぐる連続人間消失事件に対して痛烈な逆説的解決が浴びせられる。敢えていうなら、動機が若干分からんがこれは名作だろう。
④「緑の人」=これもよくできてる。アリバイ的な部分はかなりお粗末なのだが、一人の女性を通して人間の「金銭欲」に対する浅ましさを痛切に皮肉ってるところがミソ。
⑤「ブルー氏の追跡」=これもお得意の「逆説」が決まった作品。まあ、はっきり言えば「二番煎じ」か「焼き直し」なのだが・・・
⑥「共産主義者の犯罪」=これはタイトルそのものが逆説的仕掛けを孕んでいる。「マッチ」という小道具をきっかけに、これまた表層とは異なった解決に導かれる。
⑦「ピンの意味」=ちょっとごちゃごちゃして背景が分かりにくい作品。
⑧「とけない問題」=久々に親友・フランボウが登場。協力してある事件を解決することに。死亡したあとに、なぜか首を吊るされ、なぜか剣で刺された死体を巡る事件なのだが、これはプロットが見事。ラストも実にブラウン神父らしい・・・
⑨「村の吸血鬼」=掉尾を飾るにはちょっと迫力不足かな。今までの焼き直しレベルという感じ。

以上9編。
5作目まで来るとさすがにレベルダウンは免れないかなという予想でしたが、意外に健闘。満足のいく水準と言ってよいでしょう。

というわけで、「ブラウン神父」シリーズ全5作を読了。
さすがに評判どおりと唸らせる作品もあれば、「どういう意味??」っていう作品まで、結構お腹一杯になりました。
シリーズ全作品を通じてのベストは、「折れた剣」や「見えない男」など、やっぱり「童心」収録の作品に落ち着きそう。
(本作では③⑧は双璧。④も意外によい。)

No.3 6点 kanamori
(2011/02/11 17:54登録)
ブラウン神父シリーズの第5短編集。
この最後の短編集も、パラドックスや立ち位置の逆転というお得意のモチーフが健在。「ブラウン神父の醜聞」や「ブルー氏の追跡」などはその典型で、ともに先入観(人は見かけによらぬもの)を逆手に取ったもの。
収録作の中では、「見えない人」パターンの人間消失トリックを扱った「古書の呪い」が印象に残った。

No.2 7点
(2009/06/29 21:29登録)
このシリーズでは、初めて本のタイトルと同じタイトルの短編小説が最初に収録されています(『~秘密』はプロローグでした)。ブラウン神父ではお馴染みのパターンの話ですが、現実にこのような事件に出くわせば、記者と同じような勘違いをする人は多いかもしれません。記者や、彼の記事の読者と同じような人が陥りがちな思い込みに対する辛辣な態度がチェスタトンらしさです。『《ブルー》氏の追跡』や『村の吸血鬼』にも似た逆転の発想があります。
『古書の呪い』のアイロニーも痛烈で記憶に残りますが、何と言っても『とけない問題』のとぼけぶりに拍手喝采。不可解極まりない謎の事件にとんでもない解答を用意してくれています。

No.1 6点 Tetchy
(2008/09/26 22:58登録)
ブラウン神父シリーズ最後の短編集。
やはり名作のシリーズとは云え、5集目ともなると質は落ちるのは避けられない。

全般的にチェスタトンが好んだと思われる、立場の逆転を要したトリック物が多いが、その書物を手にしたものは神隠しに遭ってしまうという「古書の呪い」やいくつもの死因が考えられる死体を扱った「とけない問題」など、白眉のものもあるから侮れない。
最後まで気の抜けない短編集だ。

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