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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.764 4点 清張ミステリーと昭和三十年代
評論・エッセイ
(2017/11/23 01:19登録)
どんな山奥の田舎町でも駅から映画館が何軒か見渡せたとか、振り返って見るには魅力の昭和三十年代。高度経済成長をバックボーンとした様々な社会様式変化、すなわち人口集中に伴う交通網拡充と首都圏の拡大だとか、性倫理柔軟化だとか、流通業態の変遷だとか、医学の発展/未発展だとか、を端的に示す要素を清張魅惑の作品群中からそれぞれ引っ張り出して、政府系等第三者データと照らし合わせ「ああそうだったねえ」と納得し合う本。内容は緩いうえ面白味に欠ける。 半端に学識ぶってないで、ノスタルジー面白本に徹してガツンと決めてくれたら良かったのに。まあ、著者がそういうタイプの方ではないって事でしょう。


No.763 8点 誰にも出来る殺人
山田風太郎
(2017/11/16 01:01登録)
ケレン味に、ジットリ情緒が纏わりつくをカラッと揚げて、永遠の新感覚。こりゃチョっとした本格。人気を集めるも納得だね。

途中からミステリってより物語の面白さが引っ張り過ぎるきらいはありますが、、悪いモンじゃありません。


No.762 6点 アルキメデスは手を汚さない
小峰元
(2017/11/11 19:00登録)
義父より借りパク積読しておった一冊。読前の浅はかな憶測を裏切る、分厚く丁寧なミステリ内容の序盤~中盤にどっぷり魅了された。人間ドラマとしてもなかなかシビレる。最終章の独白羅列による構成が素敵。だけどね、その最終章の役割が、既に看破ないし推理されたトリックやら犯人やら事件全体像のおさらいにほぼ過ぎないものになっちゃっててね、わざわざページ数喰ってんだから更にもう一押し二捻りの真相深掘り、或いはロジック構築のミッシングリンク発表でもいいですよ、何らかの付加価値展開で驚かせて欲しかったねえ。でも読中とにかく愉しかったからね。7に迫る6点で余裕の合格。思わせぶりな表題の意味する所が、あまり有機的に真相の中核を貫いていないのは少し残念。 高安(たかやす)関と同じ読みと思われる名前の重要登場人物が出て来るので、その人が登場するたびに高安関のテッポウ姿をいちいち連想せずに読み進める事も重要です。「俺の若い頃と歌謡曲は一向に進歩しておらん」なる当時の中年刑事のつぶやきには笑いました(波止場とか女の涙とかそんなんばっか、ってことらしい)。 ところで田中はなかなか面白い奴だ。演じるなら若造りで山田孝之だな。主役喰うべな。


No.761 4点 透明な同伴者
鮎川哲也
(2017/11/08 00:53登録)
透明な同伴者 /写楽が見ていた /笑う鴉 /首 /パットはシャム猫の名 /あて逃げ
(集英社文庫)

軽い軽い、なかなかに弱っちィ倒叙ミステリ短篇集。四十年代後半モノ中心。自分は鮎川さんの文章世界が好きだから読めるけど、人にはとても薦められない。最後の「あて逃げ」が物語としてちょっと面白いくらい、でもミステリ興味は薄い薄い。「写楽」の指紋や「パット」の遺書エピソードあたり、もう二捻りの余地は充分にあるでしょう、って思うんだけど。なんでそこでチャンチャンで終らせちゃうの、ズッコケるよ~。「あて逃げ」だってこんだけ面白いシチュエーションなんだから更に磨きを掛けりゃ相当の傑作に化けられたろうに。。んで言及しなかった残りの三作はどう捻っても叩いてもどうしようも無さそうなポンコツ共。 ま、こんな鮎川さんも嫌いじゃないさ。


No.760 7点 死者の木霊
内田康夫
(2017/11/07 01:25登録)
振り返れば、真犯人は見え透いているし、では早々に犯人決め打ちで強固なアリバイ粉砕に心血を注ぐのかと言えばそんなことは無い、アリバイトリックの核心は単純極まりない●●だし、主役の若刑事が犯人に気付くタイミングもじれったいほど遅い。なのに、きめ細やかさと胆力とを併せ持つ流石の筆力にほだされて一片の退屈も無く、心地良い読書体験を完遂出来ました。 やはり真髄はバランスですね。 何気にいっぷう変わった人物造形配置のたくらみも見事です(たぶん本作充実の肝はそこ)。 もう少し彼の初期作を読んでみたいと思わせる、人気作家内田康夫のデビュー作でした。


No.759 5点 傾いたローソク
E・S・ガードナー
(2017/11/04 19:42登録)
仄かな社会派要素を匂わす”言えない事情”の中にアリバイ乃至逆アリバイ(とは違うか?)の興味が芬々。会話の粋もジャスト・イット。メイスンとデラの関係がS&Mっぽくなるシーンもあったりして(←誤解を招く書き方ですが)。犯行現場と目されるボート内の細やかな物証捌きは宇宙(の一画)規模のダイナミズムがバックボーンとなり(何しろ地球と月が相手だ)、裁判所と犯行現場を股にかけ実にプラグマティックなロジックと直感のマリアージュ劇を見せてくれるわけですが。。。。

時折トライしてみるペリー・メイスン、やっと、初めて、出だしから興味深く中盤を面白く読み進める事が出来ました。結末の真相暴露だけ、微妙に期待ほど踏み込み深くなく、ちょぃとササッと通り過ぎて行きました。いっそクイーンばりに一本の”傾いたローソク”から超絶論理演算をスルスルと紡ぎ出してくれて構わなかったのに。。ともあれ、個人的に初めてのメイスン(というかガードナー)合格点(5.0点超え、5.3程度)です。まだほんの数作しか手を付けてませんけどね。


No.758 5点 犯罪交叉点
アンソロジー(国内編集者)
(2017/11/03 01:03登録)
カサックの「殺人交叉点」と間違えちゃいそうですが、こちらは良い意味でぐっと緩めの鉄道ミステリ集。編者は鮎川哲也。

急行しろやま(中町信) /歪んだ直線(麓昌平) /殺意の証言(二条節夫) /急行十三時間(甲賀三郎) /鬼(江戸川乱歩) /轢死経験者(永瀬三吾)
《徳間文庫》

たしか甲賀さんの作でしたかね、夜汽車に乗って紙袋入りのピーナツをボリボリするってシーンが妙に忘れられません。


No.757 7点 終着駅
森村誠一
(2017/11/01 04:25登録)
別々に田舎から出て来た女一人と男二人は中央線内で知り合い、新宿駅で別れた。 二年後、男の一人は屍体で見つかり(高層ホテル密室殺人!)、もう一人は行方不明。。 その後も事件は連発、都合五件!!!!! 錯綜する事件の連関性には偶発事項もちょィと目立つが。。 熱い人間ドラマと相当に複雑な謎解き興味が堂々ぶつかり合った力作である事は確か。 機会があったら、読んでみるといい。


No.756 8点 セカンド・ラブ
乾くるみ
(2017/10/29 15:05登録)
そりゃ私も読み返しましたよ、アノ部分。。(セックスシーンじゃないよw)  だけど、ァんだよそんダケのオチかよ。。。と悪態ツイてからよぉく考えてみたら、フィードバック回路になってんじゃねえか。。(だからこそ最終章、古風なほど丁寧なドンデン返しの説明を。。。)イッセーさんやのりちゃんさんがその様な主旨の評を書かれる意味がよおく分かりました。こりゃ確かに、「イニシ」より悪どく手が込んでるかも知れない。  ※これ言うと微妙にネタバレ&逆ネタバレかもですが。。。。「イニシ」が仮に日常の謎・叙述ミステリだとしても「セカン」の方は日常の域からはみ出してるってか、はみ出してるかも知れないってか、、、(あのオチの事じゃないよ)、、そこにこそ、本作の怖ろしい秘密が蠢いていますよね。。。。ヤバそうだなあ、乾さんって。もっと読もっと。

そうそう本作は「イニシ」に較べると表面的によりミステリっぽいというか、割と早い段階からミステリらしい怪しいエピソードが出て来たり、積極的に疑惑を生むストーリーの流れになっていたりします。ので、恋愛小説なんてカッタリーという人にもさほど苦にはならないかも。

でもやはり私は、まるで「叙述トリック版 黒いトランク」とでも呼びたくなるほど緻密で美しい企みが網羅された「イニシエーション・ラブ」に軍配を上げます。それでなお「セカンド・ラブ」は素晴らしい作品だと思います。

ところで本作、こう見えて意外と戦後の名作「●青殺人事件」を思わせる所があったりしますよね。。


No.755 7点 少年探偵ブラウン
ドナルド・J・ソボル
(2017/10/28 09:05登録)
ジュニア向けオリジナル短篇ミステリの代名詞であり金字塔である本シリーズはThe Rolling Stonesと同期の’63デビュー。

主人公、エンサイクロピディア(百科事典=博学の象徴)ことリロイ(ロイ)・ブラウンは磯野カツ夫と同じ小学五年生だが学業成績や性向はずいぶん違う。そのパパはフロリダ州アイダヴィルなる小地方都市の警察署長。ママはたぶん美人。相棒のようで用心棒のようなガールフレンド、サリー・キンボールは腕っぷし自慢の大柄美少女。仲間にチャーリー・スチュアートやハーブ・スタイン(なんか名前が格好いい)等々。少し年上の不良グループ「タイガーズ」を率いる敵役は陰険系いじめっ子のバグズ・ミーニー(日本語で言うと「陰険クソ野郎」みたいな酷い名前。この名のせいでグレたんでなかろうか!)はいつも最後はグループともどもリロイの頭脳とサリーの腕力にとっちめられる運命。しかし本当の不良は、より年長のハイスクールドロップアウト、いつもインチキ商売でガキどもから金を巻き上げようと企んでは結局エンサイクロピディアに窘(たしな)められるウィルフォード・ウィギンズ、こいつはヤヴァい、だが魅力的だ。マニア向けでは「タイガーズ」をビビらせる年上の「ライオンズ」なる半グレ(?)集団も稀に登場(だがやはりリロイの詭計に討たれて退散)。んでパパが警察から持ち帰った未解決事件や、身の回りで起きた不可解な現象やらバグズの陰謀やらウィルフォードのセコい投資詐欺やらを次々暴きに暴いて、、まァなんともカラフルに愉しいお話がいっぱいなのですよ。

謎と解決の核心は推理クイズ的ちょっとした知識頼みのものがほとんどなわけですが、それがそのまま少年少女の知識欲に訴えるという側面も見逃せず、また何より超若い読者を「謎と謎解き」の魅力の前に晒すという社会的使命(?)に真正面から応えんとするその心意気や如何! おっといつもの癖で美辞麗句でした。

便宜上、シリーズ全体(まだ続いてんのかも知んないが)を評価対象と致しました。(一巻ずつ評したいというコアなファンの方は別途是非どうぞ。私も強いて言えば”ENCYCLOPEDIA SAVES THE DAY”が特に好きです。)

同著者「2分間ミステリ」の評でも同様のこと書きましたが、本作の原書群も英語学習のテキストに最適! 私も、幼少の頃に翻訳も読みましたが、むしろいい大人になってから原典で読んだほうの比重が高いです。

蛇足:
Roy Brownというと旧いR&Bというかロッキンブルーズというかジャンプというか、とにかくイカした音楽の人と同姓同名でもあるです。


No.754 5点 殺人鬼登場
ナイオ・マーシュ
(2017/10/25 21:38登録)
物語は「意外な被害者」から発動! ここでグイッとつかまれたんだが、そこ以外は全般的に古式ゆかしくも軽~ぃ調子でぶっ通し、最後まで使命感(俺には、日本で埋もれたこの小説を掘り返す義務がある! 的な)も無く、ほんのわずかな倦怠を引き摺りながらもスタスタ読み終わってしまいましたよ、ってな感じで。詰まらなくはないですだよ。たしかに犯人設定は意外っちゃ意外なんだが、その暴露に行き着くまでの経緯ってか伏線なりレッドヘリングなりロジックってか何だか、あと最後に犯人に仕掛られけたトラップもね、グッと来ないんですよ、浅くて、ちっとも驚けないしミステリ的な感動もないんだもん。。まあその分ちょっとしたメロドラマ要素で当時の読者のご機嫌を伺ったってとこか。そうそう、ユーモアはやっぱり悪くないですよ! んだども現代日本のミステリ者に必読って事もなかろう、が、前述した「被害者の意外性」に限って言えば個人的に読んで良かったと思います。そいや「目つきに関する証言」だったか、あれはちょっとグッと来たな。私が読んだのは大叔父から譲り受けた旧ゥ~い新潮文庫(第二版、白帯紛失)なのですが、奥付を見ると初版からの間に結構な年月が経っており、当時(昭和三十年代)からあんまり日本人受けしてなかった事が偲ばれます。訳が旧過ぎるんでしょうが「シャネル第五号」ってのは笑いました。なんかマリリンとコント55号が時空を超えてコラボしてるみたいで。 「辻褄の合わない調子で鳴り止む電話のベル」ってのも妙に心に残った訳文。大久保康雄。

しつこいけど、この犯人設定、たとえば調子いい時のアガサだったら、大き過ぎて見えないくらいの豪快なツイストを噛ませて見事に最後まで目くらまし、いやポイントは単に真犯人に気付く/気付かないじゃなくて、如何に真犯人暴露に深みを見せるか、その結果として驚かせるか、そこんとこ上手くやって傑作に仕上げてたんじゃないかな、なんてねえ。まあ本作はジャンル的に軽本格で、そんな重い内容を求める事も無いんでしょう。ただ私の個人的好みにジャストフィットと行かないだけ。


No.753 7点 化人幻戯
江戸川乱歩
(2017/10/21 10:47登録)
まさか、痛恨の出落ちネタバレかと浅はかにも疑えば疑える、このタイトルと第一の事件との相関関係。。へっへっへっ、いゃあ流石に奥行きある物語の全体像。一方で、真犯人を隠匿しようとしてんのかしてないのか、特にナウなヤングにとっては犯人バレバレもいいとこであろう上に「おぃおぃもうバラすのかよ」ってなストーリー配分の唐突感もあるかも知れませんが、このエログロに走らない短い戦後長篇には読者を徐々に酩酊へと誘う落ち着いた妖力があります。またトリックの都合上(!)空間的拡がりと豊かな空気感の終始漂うのが素敵。 ‘ひとたまりもない。。。’ 「抑えつけ」のシーン、アンフォゲッタブルだね(実はこれ、ある部分での●●●ィ●●●●ンになってるわけか)。。
そして、犯人最後のセリフとそれに続く最後の二文、素晴らしく心に刻印される。 「犯人像」ってやつですか。。。。。


No.752 8点 赤ひげ診療譚
山本周五郎
(2017/10/20 00:14登録)
周五郎のミステリというと「あの長篇」と「あのシリーズ短篇集」が先ずは挙げられますが、ところがどうして、この有名短篇集の、少なくとも大半はミステリ範疇です(ストレートな推理小説も含む)。 ご存知「赤ひげ」なる町医者が中心で活躍する連作ですが、あつかう病の多くは心に起因する病。となれば物語の経緯はどうしたってミステリの側に寄り添ってしまうのが理(ことわり)というもの。体の病の話でも、何らかの形で「心の謎」を解きほぐすハイライトシーンが多い。優しさと厳しさに包まれた、現代(発表当時&ナウの両方)に否応無く通じてしまうエヴァグリーンな社会問題と堂々斬りあう重厚な社会派小説(ほぼミステリ)として幅広く読まれて欲しい銘品です。 

狂女の話 /駆込み訴え /むじな長屋 /三度目の正直 /徒労に賭ける /鶯ばか /おくめ殺し /氷の下の芽


No.751 7点 世界から猫が消えたなら
川村元気
(2017/10/18 22:17登録)
なかなかの感動ある物語、そこへ多少なりミステリ要素が見える一冊となれば当サイトで評せずにはいられません。とは言えその人間関係ミステリ要素 .. 余命わずかの主人公(三十歳の男)は、何故父親と疎遠なままなのか? .. は例えば「災厄の町」なんかに較べたら極めて希薄な、霞のようなものではありますが..

特に前半、何となく断捨離だかタイムマネジメントだかを説く寓話のような感触がありました。それは、本作が小説としてユルユルの構造・細部を露呈しているにも関らず、作者が訴えたい主旨であろう人生指南めいた何かがくっきり提示されている所に、要因がありそうです。。要するに「うざい」と評されかねない要素が芬々なわけですが、どこかで上手にバランスを取って素敵な読み物に仕上げていると思いますね。作者は若き映画プロデューサー。

‘母さん。。。。。。。’ ‘よりによってこんな時に。。。’   父よ。。

頭の中、Stevie B ’The Postman Song a/k/a/ Because I Love You’が終局あたりから流れて来ました。(主人公は郵便配達員)  余韻と言うには拡がりの豊か過ぎるエンディングがたまらなく良いです。


No.750 7点 天国からの銃弾
島田荘司
(2017/10/15 12:04登録)
中篇力作x3

ドアX
冒頭は森村誠一風演説がセックス領域に入り込み過ぎたかの様な上等パロディの様相。その部分含み、等比級数でも放物線でもなく優しい比例直線でむずむず増殖してくれるイヤミス濃度。この、加速を抑えつけようとするかの島荘の優しさ表出には泣ける。こんだけごってり激烈粘着心理劇の末にまさかの大物理現象で〆る気なんじゃ、、と怖れていたら。。 7.2点

首都高速の亡霊
“それでは殺意を悟られる。。。””なんと敏感な奴だ。。””どちらかと言えば善人。。。” バカかこぃつわ バカか、こぃっ,, ちっともイヤにならなぃイヤミス+ドタバタ+豪快物理+偶然+複数視点+ちょィとした怪談風味。しかし最後の「誰も損をしなかった」は大嘘もいいとこ、というか、本作のプチ社会派サイド主題への当てこすりか。 6.8点

表題作
数学的興味が最強の悲しみを削ぎ溶かし続けるかのような、解決シーン滑り出しには何とも本格ミステリ独特の感動があり、泣けた。 謎も熱く、持続する。 日常の謎然としたオープニングからまさかの●●展開、更には盲点を衝く人物背景の暴露、と意外性に満ち満ちた本格興味炸裂の中篇大作。アクションシーンもあるぞ(笑)! 8.3点

通しテーマは「老人の逞しさ」かも知れん。


No.749 8点 災厄の町
エラリイ・クイーン
(2017/10/07 12:16登録)
切ない話だ。。。。その切なさの理由は本作のパズラー核心部分が握っている。素敵じゃないか。それは a touch of “アガサへの対抗案”めいたもの,, 最高にナチュラルな微笑みをもたらすオープニングシーンから、哀しくも明るさに取り縋る最後の台詞まで、私ァ好きだ。

事象は毒殺未遂と毒殺。後者は目標外しとも推測され、更にはもう二人があの世行き。。 終盤に近づくにつれ,行く先の見えなさが心地良過ぎて多幸感にさえ包まれる。 大きく拡がった香りを備えた切実な予感だ。。。。

明かされた真相(物語の様相一変でガツンと来ます)によれば、、 或る夫婦の現在の●●が実は意外な●●●●で、と「しこり」を刻印する部分がある。だからこそ一層切ないんでしょう。そこをスッキリさせちゃったら同じ反転劇でも途端にお涙頂戴なものになってしまいそう。

ところで、「登場人物表」に載せる人、もっとふんだんでいいのに(いにしへのポケミスはもっと少なかったから新訳版はこれでもましだ)。 アルバータとか、不動産屋ペティグルー、保険屋ケチャム、カーラッティにオールセン、老詩人(?)アンダーソンだって重要だよ。純ミステリ的には違うけど、ドラマの演出として最高に記憶に残る人でしょう?


No.748 7点 特務工作員01
大藪春彦
(2017/10/05 00:24登録)
公務員でルパン3世+ゴルゴ13(=ルルゴン16)みたいな男が主人公。ナイジョー(内情)こと内閣情報室付特務工作員の中でもピカイチの実力を持つ01番の石坂晃が命を受け國際レヴェルで起こる火急の厄介ごとを次々に斬りまくる、というか撃ちまくる殺しまくるヤリまくる(三番目のはまァ控えめ)のだが、ただ単純に国家武力の先鋒となって問題鎮圧する様を描くのでなく、そこには毎回どうにも嫌らしい釈然としないしこりが空中に漂い、最後にはそのしこりもミステリ的には解き明かされ人間的には依然わだかまりを残したまま。。と苦く激しい魅力たっぷりの一冊。  

第一話 回想録争奪作戦
第二話 原子力空母粉砕作戦

私の読んだ旧い双葉新書(ひょーっとしてプレミア付いてねえべが)には『長編非情アクション』なる素敵な肩書きが付けられています、が実際には六話の短篇連作、但し六話全体通しての大ストーリーも流れているので肩書きも全くの嘘ではない(そのストーリーは言わずにおこう)。 「非情」ってのは情容赦無い殺しっぷりの事か(但し不必要に痛めつける事はしない。必要な時はやるけど)。ハードボイルドの意味での「非情」は全く無く、主人公が狙われ、追い詰められ、反撃し、見事に敵を殲滅するまでの心情一切が赤裸裸に描かれる類の迫真力で勝負。描かれるのは心情のみならず、大藪印の薀蓄波状総攻撃(銃器、肉体、各種ヴィークル等々)もまた最高に興味津々の描写でリアリティたっぷりに晒される。最高だ。

第三話 政府貯蔵金塊強奪作戦
第四話 ジョンソン燃料基地爆破作戦

んでやっぱり、飽くまでミステリ小説として読んで、そのオマケ(アクションだの薀蓄だの國際政治の暴れっぷりだの)の大盤振舞にも圧倒される、ってのが幸せな読み方だなあ、自分としては。

第五話 機動隊殲滅作戦
第六話 テレビ塔爆破作戦


No.747 8点 西郷札
松本清張
(2017/09/30 08:16登録)
至宝「松本清張(初期)傑作短編集」の一角。 新潮文庫、時代小説篇その一。

「推理篇」と大きく違わない「現代篇」に較べればこちらは非ミステリの様相が濃い。とは言えその面白さの核心は何れにも共通の「清張DNA」に在り、陰鬱の嵐に晒されるダーク・サスペンスの基調は揺るがない。。のかと思えばそれなりにカラッと明るい爽快さを放つのもあり、、

犯罪興味をミステリ外の方向へ強烈に引っ張ったデビュー作「西郷札」、逃亡サスペンスの痛さが突き抜け歴史の転換を形成する「梟示抄」、視点の機微が冴える残酷ヒューマン・サスペンス「啾々吟」、事は深刻ながらどこか可笑しみのあるドタバタ劇「権妻」、何故かトボけた明るさ残す嫉妬の経緯イヤミス「噂始末」、際どい所で大胆な救いを見せる悲喜劇「面貌」、追い詰められた自暴自棄イヤミス「酒井の刃傷」、、クライム、サスペンス、パッション、ルサンチマン、、熱い熱い親ミステリ要素が沁み通った作品群に大いに組み伏せられたいではないか、まして秋の夜は、諸君!

だけど、最後の「白梅の香」だけはまるで藤沢周平が風呂上がりにステテコ一丁で書いたかのような軽く優しい明朗作で全く清張らしくない! そのくせ本作だけは純粋ミステリ範疇。主人公が性格良いイケメンってのも実に清張らしからぬ設定! 古いクラシック音楽の世界では時々「伝バッハ作曲」なんてのがあって、その中には「どう聴いてもヴィヴァルディあたりの作だろう」と突っ込みたくなるのも多いのですが、まさか本作、その類ではあるまいな?

西郷札 /くるま宿 /梟示抄(きょうじしょう) /啾々吟(しゅうしゅうぎん) /戦国権謀 /権妻 /酒井の刃傷 /二代の殉死 /面貌 /恋情 /噂始末 /白梅の香
(新潮文庫)


No.746 8点 太陽黒点
山田風太郎
(2017/09/27 23:40登録)
意外と通俗。読み易さが面白さにしがみついた。
しかし、最終章は。。。

最終章に至るまでミステリらしくない、との意見が多いのが意外です。海外某作を思わせる各章表題の「死刑○○日前」。これこそ(某作を知る知らぬに関らず)「こりゃミステリだな」と察する大きなヒントとして風太郎氏が敢えて記載したものではなかろうか。 それに、何気に伏線も豊富ですよ(ってそりゃイニシエーションなんとかも同じか)。。。。ここからちょっとネタバレですが。。。。。。。。。。。。普通だったらチョイ役で構わないような某人物の存在感が途中から増し増しになる流れだって、オカシイじゃあァりませんか。。

さてその最終章での真相吐露ですが。。微妙に期待を裏切ったナ。。。。またしばらくネタバレです。。。。。。。。。。。。。。。。一見どうしたって主人公に見える人物が、実は犯人(黒幕)の捨てゴマの一つに過ぎなかった、、ってのはよろしんだけど、小説自体の中心からいきなりポーンと外周部に飛ばされちゃってるってのは、バランス欠いてるような。。あの人を殲滅のターゲットにした理由もなんだか曖昧で、ミステリの旨味無しで被害者が可哀相なだけ。。そのへんの落とし前はっきり付けた上で更なる大きな意外性で攻めて欲しかったナ! まぁ、滅多なことは言えないわけですが。。

とは言え、そこで大きく減点されてなお8点(8.3くらい)付けちゃいます。とにかく「結末にどんな暗黒が待ち受けているんだろう」とワクワクしながらぐいぐい読めてしまうのヨ。だいたい小説そのものが面白いし。

あと、ご指摘の方もやはり多い廣済堂文庫の裏表紙ネタバレ粗筋はちょっと非常識ですね。せっかく良い叢書なのに残念です。 ところで(これ言うとネタバレか?)表表紙の青年はいったい誰。。。


No.745 7点 遠い幻影
吉村昭
(2017/09/22 01:53登録)
私をミステリにして。。 (私を女にして。。 俺を.. 女に。。) そんな幻聴が遠くから届きそうなくらい、あと一歩n’1/4で如何様にもミステリ域に踏み込んでしまぇそうな、だがそこで立ち止まり、霞の中に佇んで終るような筋運びの、、日常のサスペンス短篇集。いや日常というには抉り過ぎる題材ばかりで、、むしろ非犯罪サスペンスと言うべきか。いや、それでいいのか。。。

時折ゾゥ とするような逸話を埋め込んでいるなど、または明らかにヤヴァぃ親族姻族の過去察知など、ミステリのその気にさせる飛び道具さえ所々見出せるんですが。。でもやっぱり敢えて手前で引いたよな美しい小説の数々(本人はそんなあんな意識してない風ですが)。 逆に「これがもし東野圭吾だったら。」とか「宮部みゆきだったら。。」とか(私の場合だと「佐野洋だったら。。。」がいちばん先に来る)、 色んなタイプの作家がミステリとして展開・完結・時に自爆した場合を妄想してみるのも、単に一興と言う以上の趣き深さを提供してくれるのはno doubt steady go でないかと思われます。

ごめん、しゃべり過ぎた。

梅の蕾 /青い星 /ジングルベル /アルバム /光る藻 /父親の旅 /尾行 /夾竹桃 /桜まつり /クルージング /眼 /遠い幻影
(文春文庫)

ともあれ、あのね、美しく、読んで愉しい短篇小説集です。

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