斎藤警部さんの登録情報 | |
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平均点:6.69点 | 書評数:1304件 |
No.824 | 6点 | Dの複合 松本清張 |
(2018/07/07 18:10登録) 清張覚悟のバカミスはノっけから伝説と旅情と殺人興味の締まり良いタペストリー。 例によって激しすぎる思い込みがバシバシ的中したり偶然の力が半端無かったりそりゃもう酷いもんですが(笑)面白いから免罪です。「なに、煙草?」って台詞はもうギャグかと思いましたよ。 あと例の「『Dの複合』と名付けるだろう」とかなんとか頭の中の楽屋落ちみたいな苦笑必至のアレ。。 何がバカと言って、長きに渉って積りに積もった”伝説”と”数字”の二方向に展開する謎の群が、終わってみればアカラサマに小説の中の作り物の事件のために無理やり嵌め合わせられてるチャンチャラ感。本当に復讐したいんならそんなことウダウダやってるワケがあるかい!! ってなハイパー作り物感、いくら何でも破綻しています。でも面白いから仮釈です。文章良いからもう恩赦です。まあこれで凡庸なナニだったらバカにも見えないただのイマイチミステリなんでしょう。こんなスットコ本をわざわざ格調高いフミで書くんかい! っていうね。ああ面白かった! |
No.823 | 9点 | 嵐が丘 エミリー・ブロンテ |
(2018/07/06 12:40登録) 探偵小説黎明の時代に早くも生まれた魁偉なる大イヤミス。構成の妙、大いに有り(当時は物議を醸したとか)。 旅人ロックウッドが訪れた田舎(イングランド北部ヨークシャー)の館に棲むは厭世の紳士ヒースクリフ、若い男女キャサリンとヘアトン(及び老僕)。 見たところ険悪な仲の三人にはどの組み合わせの親子関係も婚姻関係も無いと言う。 では何故そんな三人が一緒に? 不意に遭遇した深く暗い謎を説き明かすべく過去の一切を旅人相手に語り尽す(?)のは”近隣にあるもう一つの館”の家政婦。。。。 恋愛小説の逸品と伝えられる本作ですが、登場人物表と曰くありげな「妙な家系図」を見ればたちまち鋭いミステリ興味が噴出し、少し読み進めば忽ち、変則ハウダニットの好奇心に王道ホワットダニットの竜巻が覆いかぶさりに掛かります。 ごく狭いコミュニティに展開する尋常ならざる嫌悪と復讐のエナジーは早過ぎた核爆発のメタファーかも知れません。 あまりに突出した癒やしの、美しい臨終シーンも忘れられない。 本作が後世のインスピレーションを誑かした『かも知れない』ミステリ要素は。。 (現代感覚の)本格流儀に絞っても、或る種の●●に依る●●トリック、信頼出来ない語り手、小説構造によるミスリード乃至●●トリック、現在の異状から過去の犯罪を暴き出す趣向、「私」というワトソン役の存在(?)、細かい所では(ちょっと某館モノ著名作を思わせる)遺産相続に絡むナニも。。。 それらに加えてあまりに深く痛くイヤミスィーな、度を超した復讐と”心の犯罪”の底が見えない地獄模様の無間陳述。。のようでいて第一の(?)語り手、旅人ロックウッドが絶妙なコミック・リリーフとして機能してくれる作者のやさしさも見逃せない。 行方不明時代のヒースクリフがどこで●●●●●●来たのか全く言及どころか暗示もされないのだが(実はほんの微かに仄めかしてはいる、と思うが)、、そこんとこを全ての道徳的悪事の「動機」と並んで最後に二大真打謎解きの披歴という構成にしていれば、こりゃ紛れもないミステリではないか、但し現代の眼から見て。同時代的にはそれでもいっぷう変わった一般小説ってとこか。(当時は「モルグ街」のころ) ううむ、ひょっとして名作「●●の●の●」の、映像化が不可能とされる或る重大要素は、本作にインスパイアされていたりして。 本作(のTVドラマ)に触発されたというケイト・ブッシュの同名曲’Wuthering Heights(嵐が丘)’、ミステリ神経敏感な方にとっては歌詞が何気に本作の核心ネタバレを掠る感じになっておりますので、、と言ってもタツローの「夏への扉」に較べたら全然安全ですが、、いちおうご注意を。 逆に言うと、本作を読んだ後にこの曲を聴けばより味わい深く、怖い、に違い無い。 蹴球W杯イングランドが勝ち残っている間にお読みになればより一層、胸が締め付けられる、かも。 一度でいいから見てみたかった 女房がHeathcliff隠すとこ 歌丸です(安らかに) |
No.822 | 8点 | 湖底のまつり 泡坂妻夫 |
(2018/06/22 01:52登録) フランス流儀×ジャポン陰影の重ね掛け。ミシェル・ルブラン「殺人四重奏」を現代日本受けするよう翻案したつもりが全くの別物になりましたが目論見通りです、みたいな 感じ。。 ではない。。 いずれダムに 沈 む(既に 沈 んだ 。。?)鄙びた村とその近郊が舞台の連 続殺 人事件( か?) ページ少し進んだらもうヤラれます。何かがねじり込まれています。何かをウグウグしたいです。 村には(最後の?)祭が来る。。。 この小説のいったい何処の部分が私を騙してくれるのか、全く見当が付かない。。。。 “同じ姓が多い”だと? 気を持たすなよ、転がすなよこいつめえ。 非常時における男と女の出遭いが。。いや~ぁこれ以上は言いませんなあ。。 微妙な違和感でも大きな違和感でもない、違和感としては中途半端サイズの、それだけにミステリ違和感的には真の意味で微妙な違和感が四方八方きれいに嵌まって取り囲まれたまま。 そこに比喩はあるのかい。。惑わしてみるだけかい。。。 本当に、もう切実に、ストーリー展開が読めず読めずの無間連鎖に赤面してしまうほど。それもこの一見(?)何らかの悪魔企画がかっちり決まっていそうな小説構成で!!その構成自体の構成までが読者側の思い込みを脇腹掠って飛び越える展開図になっていそうで怖い… ”ダムの気持ち”をミステリの舞台裏に応用したら、どうなるんだろうっ 。。。 さて残り頁も少なく流石にまとめに入ったか、と思うと終局間際に! いろんな意味でクライマックス、アレを取り出すシーンは悪い意味で笑っちゃいましたがね 笑 【こっからちょっとネタバレ】 パーゾウは 完全にダシに使われたというか、媒介でしたな。ついでに言えば社会派要素も。 読了後、サブちゃん「祭」の ♪男は~~~ が流れて来る人がいたとしたら、なかなかの皮肉屋さんですね! あと、ほっぺふくらますのは何の伏線でもなかったのね。 【ちょっとネタバレここまで】 騙されるってより眩惑されました。 風景が刻まれる小説です。 |
No.821 | 7点 | 落ちる 多岐川恭 |
(2018/06/19 23:37登録) 昭和30年代中盤。バラエティ豊かと言うより締まりの緩いバラバラ感の初期短篇集。でも各作の出来はなかなか。 落ちる(表題作) 7点強 反転をサスペンスが上回る心理ホラー一本勝負はエンディングに深い味わい。横道に淫せず一気に書ききったよな勢いがいい。 しかし直木賞の応募作に「落ちる」なる縁起の悪い題名(笑)。 結果ミステリ枠として戦後初の直木賞受賞作。(戦前には「人生の阿呆」がありました) 猫 7点 妙な規模感ある大胆物理トリック。タイトルの象徴する所は何かという変則ホァットダニットにはモヤモヤする意外性あり。沼田刑事。。。。。しかしこのエンディングはなーんとも画期的で、しかも人道的にヤバくないスか?? ヒーローの死 6点弱 当たり前過ぎる結末でびっくり。昭和30年代の雰囲気はとても良い(ので大幅点数アップ)。 ある脅迫 6点 ちょっとした叙述ギミックが味。よく出来たストーリーだが、〆の小噺流儀はちょっとなあ、、もっと巧く小噺〆る人もいるよね。 笑う男 7点 これぞ推理&調査!! 題名の反転も、地味だがなかなか。 問題は、ピエール瀧をどっちの役に振ったらエエかだな。 「と、思うでしょう。ところがこれからが。。」 ← これいいねえ 私は死んでいる 7点 この設定と会話筋のユーモアはいいな、言葉選びはともかく。 Ohジジイ、いいぜ。。。。 いやあ、これほど深く温かい 、おまけに微妙にずれてる”五十歩百歩”がありましょうや!? 「どうもおかしい。何か考えてる。」 さてこれはネタバレだと思うんで一応警告しておきますが、 ’トランチャン’が実はベトナム人かタイ人の名前で日本語通じず。。というオチかとちょィと思ったもんです。。 嬉しいようで惜しいようで、やっぱりありがたく温かく淋しいエンドが印象的。 かわいい女 7点強 この構成にしてこの結末、こりゃなかなか趣き深い。重厚感ある分厚い短篇。 女と男、男と女。 なーんだか微妙にB級感漂う(でも面白い)作が目立つんだが、最初と最後に配置された「落ちる」「かわいい女」は締まりのあるA級作品、点数も高め。 |
No.820 | 5点 | 赤ちゃんをさがせ 青井夏海 |
(2018/06/15 18:37登録) 意外と赤ちゃん(‘;’)の匂いがしないというか、赤ちゃん度は決して高くない、むしろ困った大人たち中心の世知辛い物語三篇。まあ確かに’あたたかい’所はありますが、そんなほのぼのしてばかりもいられない本ですね。だいたい、赤ちゃんが生まれるってとこに謎やら事件が直結するんだから、こりゃあディープなワケありに決まってるわけで。 第一話 お母さんをさがせ/第二話 お父さんをさがせ/第三話 赤ちゃんをさがせ 第一話からいきなり、アホやなァ(ニヤニヤ)と思えるほどの純ゲーム性が全面に出たり、或る作では謎堅き失踪サスペンスが突発したり、また或る作では、、まさかの最高に純度高いハードボイルド流儀で締めてくれた。あれは痺れたね。 文章、脇役級のはずの人物がチョイ役で消えるような木目の粗さも時には看過できなかったが、でもまずまあ許せる。 4.8点くらいかな。 |
No.819 | 7点 | 鏡は横にひび割れて アガサ・クリスティー |
(2018/06/12 22:50登録) ホェンダニット応用編、いつ●●が成立したか(長期と短期の噛み合わせ)。 忘れ得ぬ犯人像、鮮烈な動機。危険な含みのエンディング。 意外なタイミングの連続殺人に僅かの蛇足感もありますが、”村”やマープル達に訪れた経年変化の描写と合わせ技で、短篇で光りそうなワンアイディア(と呼ぶには残酷過ぎる背景だが)を長篇で活かす構成要素としてしっかり機能したと言えましょう。 間違い無く、味わいの一篇です。 |
No.818 | 8点 | 夏への扉 ロバート・A・ハインライン |
(2018/06/07 12:20登録) ラストに圧倒的キラキラ感がふりそそぐSFクライム。 但し空想科学の力を借りるのは悪事側でなく、主人公が果たす復讐と の部分。 友情に恵まれなかったウォズとジョブズのような二人が、二人の女性に翻弄される物語、と意地悪く集約してみたくもなる。悪役をブッ飛ばす爽快感、良い意味で善悪割り切り過ぎの感じ、良い意味でリアリティ、素晴らしき技術者魂、タフガイの猫、人によっては◯◯◯かも知れない恋愛要素、事のきっかけは冷凍保存(コールド・スリープ)。。。。。。。。そして!!!! 舞台は未来と大未来、まるで過去に大過去を物語る半七のようだ、と思いきや、あの点が決定的に違う、というか逆だ。(なお前述の未来も大未来も今(2018-06)や過去。本書はロックンロールの爆発する1950年代中盤の作で、当時の未来(1970)を物語の現在地に、大未来(2000)を未来地にそれぞれ設定)。。更に痛気持ちいいのが、半七とは逆に、時を経た読者にとってその輝きを最低限の勇気ある見切りだけ失うべく、作者も翻訳者も使命のトルネード爆心地にて弄したであろう、文字通りに文字通り今在る言葉の原資だけでなんとか紡ぎ切ったであろう時の流れへの対抗策と、その事自体へ献呈するユーモア、その象徴的集約モーメントにさえ与えんとする、、う~~ん、我ながら何言ってんだかさっぱり分からん。 そこで水爆だぜ。。。 もしも金(gold)の資産価値が相対暴落していたら、、この軽SOWには、軽ながら、ウー、結構やられた。 本サイトにて現状、評の数が極端に少ないのは、本作にミステリ寄りのイメージが希薄なせいかも知れないが、実際はかなり濃密なミステリ興味にも裏打ちされた、何気に犯罪とサスペンスにまみれたSFファンタジーです。 素敵な恋を呼び込みたいのなら、読んでみる方がいい。 「何度人に騙され、痛い目をみようとも、結局は人間を信用しなければ何も出来ないのではないか。」 ↑ このヒューマニティ溢れる経済学的物言い、最高です。 あれえ、猫のピートは。。。。。 ’夏’の象徴ないし意味するところとは、いったい。。 山下達郎の同名曲(作詞は吉田美奈子)、ミステリ神経敏感な人にとっては歌詞が何気に本作の核心ネタバレを掠る感じになっておりますので、ご注意を。 逆に言うと、本作を読んだ後にこの曲を聴けばより味わい深い、かも。 |
No.817 | 8点 | 変調二人羽織 連城三紀彦 |
(2018/05/31 12:19登録) 変調二人羽織(表題作) おゝ、これぞ文学と不可能殺人の融合(笑)! 処女作からこの反転の抉りの深さ、やばいです。 鶴が一羽、東京の空を舞った夜、引退を控えた悪評芬々の落語家(こちらも鶴の異名あり)が最後に開いた一席にはわずか五名の招待客。 或る捻った趣向のもと、弟子との二人羽織で演じられる高座にて、停電の間隙を突き。。。 事の次第を語るはくたびれ気味の現役刑事と、若くして辞めた後輩との往復書簡。 多重解決によく似た大きな反転を繰り返し、、折原ティックな最終反転は初め蛇足と見えたけど、警察小説的人間ドラマとしてはそこが肝要なわけですね。 8.4点 ある東京の扉 不思議と堅実なリアリティがある、ユーモア自慢の一篇。チンピラ文士(?)の売り込む推理小説ネタをベースに脳内事件話が拡がる。アリバイ破りの焦点は、交通の事情により密室状態の東京都からどうやって埼玉県某市まで行けたか。 走りながら考える、進化する多重解決(!)の味わいは格別。 ラヴェルのあの曲がそんな大胆な盲点トリックの隠喩にねえ。。 私も敬愛する某作家を冒涜する下劣な駄洒落には大笑い。 7.7点 六花の印 冒頭からすぐ、時系列のホッピングが笑うほど凄い。戦中明治の世と戦後昭和の世、時代小道具は違えど相似に満ちた二つの死を待つ短い旅程。。あいつを殺して俺も死ぬ。あの人が死んだら、私も。。。。 違和感の軋む表題に趣を付与するラストシーンは達者な筆の所為か取って付け感まるで無し。 よくも最初期からこんな超絶技巧の銘品を。 参った。 8.8点 メビウスの環 冷たい仲の俳優夫婦は本当に殺し合って(?)いるのか。。 んーー .. 連城期待値のクライテリアでは物語と文章要素は俗に過ぎ、ミステリ要素はヒネリが無さ過ぎで凡作範疇。。。 と思うと最後の思わぬ●●●●●趣向に討たれます。 でもやっぱどこか弱い。 7.2点 依子の日記 復員後、田舎に隠遁して仕事を続ける著名小説家とその妻、そこを訪れる編集者の若い女。 物語は、この女を殺そうと夫婦で決意した日の「妻の日記」から始まる。 女の豹変と過去の重圧、そして嫉妬、事件、新たな苦悩に新たな疑惑、そしてまさかの、新たな、、、、 新たな、、 目視水深を遥かに超えて渦巻く闇の嵩張りに包まれちまう、こりゃあディープな一篇。 9.4点 著者によるあとがき、推理小説を書くきっかけとなった父親の話、風のようにさり気ない筆致が泣けます。 |
No.816 | 6点 | 西南西に進路をとれ 鮎川哲也 |
(2018/05/30 00:14登録) 昭和40年代後半から50年代初頭の準落穂拾い短篇集。 最初の倒叙3篇、つかみは堅実、中盤は実に面白い展開なのだがオチ(どうしてバレたんでしょうか?)でズッこけるというこの頃の鮎川倒叙悪癖典型のような作ばかり。でも最後に行くまではどれも妙に面白いんです。 ワインと版画/MF計画/濡れた花びら/猪喰った報い/地階ボイラー室/水難の相あり/西南西に進路をとれ (集英社文庫) 後半順叙篇の方が、物語の面白さはまた別として、ミステリとしての締まり具合はぐっと上。とは言えやはり何処か気を張り通せなかったよな緩みのちらつく作品が目立つ。そんな中でも相対的に際立って見えるのが「水難の相あり」。昭和のスキー場をメイン舞台とした謎多き魅力的な犯罪物語だが、それにしてもラスト近くまで不可解なタイトル(スキー場で水難とな?)の意味が明かされるシーンにはアリバイ偽装暴露の創意が光り、感動します。。 惜しむらくは最後の表題作、「本当はA地点までドライブしたのをB地点までと錯覚させる」のが肝なのですが、こりゃひょっとして鮎川三十年代黄金短篇群に匹敵する大きな心理的アリバイトリックに蹂躙されるブツではなかりしかと、ごくうすぅーく期待もしてみましたが、、まさかそんなチャチい小物理トリックがネタとはな!!(やってる事自体は結構壮大なんですけどね) でもトリックが明かされる工程にゃ妙にスリルがあった。 そうさ、短篇集にリアルタイムで収められなかったブツを後年集めた本だそうだが、どの作も決して詰まらなくは無いのさ。 |
No.815 | 4点 | 三重露出 都筑道夫 |
(2018/05/26 19:20登録) こりゃ期待しますよ、作中作趣向は普通のナニとして、その作中作ってのが現実世界の探偵役(翻訳家)が絶賛翻訳進行中(!!)の忍術スパイ小説で、そん中に探偵役の昔の知り合い(謎の死ないし失踪?を遂げた女)らしき人物が登場、翻訳を進めるうち現実の事件を解く鍵が見つかるんでないかと翻訳家は気を張り眼を凝らしつつ、現実世界でもワトソン役(事件当時から友人)の助力を得て当時の状況に追想と推理を巡らす、、という素敵な複雑構造。 そりゃあ、期待しないわけが無いでしょう。。 無いでしょう。。。 無いでしょう。。。。 ‘61のシボレーインパラが登場するのは良かった。 ラストはまさか某奇書を意識しているのか?? |
No.814 | 7点 | ノア・P・シングルトンの告白 エリザベス・L・シルヴァー |
(2018/05/25 23:08登録) こりゃスッキリしないですよ。 モヤモヤし過ぎであるが故に、これ言ってもひょっとして事実上ネタバレにならんのかも知れんけど、或る弁護士が或る事をズルズル延ばし続けた理由は或る事(物語の核心)の或る種共犯関係を確認したくないような、したいような、告白したいような、そんなスッキリしない気持ちに支配されていたから、なのでしょうか? またもう一人の弁護士の役割は、前述の共犯関係の暴露に近づきかけた挙句、用心のため排除されてしまった脅威的存在ってこと? 主人公の父は、その経緯すら気づかなかった哀れさの象徴か?? 〝あの瞬間、わたしはたくさんのことを悔やんだ〝。。 死刑の日取りが半年後に迫った独房の主人公(ノア・P、35歳女性)は、牢獄生活ですっかり錆びれた頭脳で(昔は優等生だった。。)、なお色彩豊かにおかしな比喩でいっぱいのモノローグを紡ぎ続ける。彼女の助命に奔走するのが、彼女が殺害した女性(同じ大学に通っていた)の実の母親という不可解。。。。 「父親になりたいのなら、とっくになってたはずでしょう。」 出だし数頁から叙述足取りの揺らぎは本当に惑わせる。 叙述遊興でも、きっと叙述欺瞞でもない(かどうか。。。)叙述の揺さ振りによる真相プロービング、 それも初期も初期から飛ばし過ぎやでえ。。。 目次の無い事が暫時、気になって仕方が無いんだぜ。 やっぱり、 こいつ(主人公)が、結局執(や)られるのか否か、或いは別の成り行きで死ぬのか、もしくは。。 ああー、もう言わねえよいちいち。 え、何故そこで、被害者の名が。。 “パットスミス”なる造語(いや、アダ名)には笑ったが、そのパットスミスの踏み行かねばならなかった、運命の茨道よ。。 原題は’THE EXECUTION OF NOA P. SINGLETON(ノア P. シングルトンの処刑)’。ただ英語の’EXECUTION’は際どい所で必ずしも’処刑’を意味するとは限らない。 ノアが何らかを’執行’しただけかも知れない。そのあたりの微妙さを活かした邦題’~~の告白’はGOOD JOB。 のあぴーの収監番号”10271978”は、 奇しくも藤原道長没年とサザンオールスターズ音盤デビュー年を並べてくっつけた数字の並びです。これには心底驚きますが、本作のエンディングにはあまり大きな驚きを持てない人が多いかもしれません。または別の意味でびっくり、と来るかも。 ま、人それぞれさ。 住んでる国の違いもあるかも知れないサ。 現代米国ミステリ。 |
No.813 | 7点 | 不安な産声 土屋隆夫 |
(2018/05/24 05:59登録) こりゃのめり込むよねえ。。。。 出だし’告白開始の合図’からもう、期待感という名の巨大な絶壁が目の前に立ちはだかりますよ。あせらなくていいから、ゆっくりじっくり崩壊に向かってくれ、絶壁よ。。 人工授精の業績で名を馳せる大学教授は何故、出遭ったばかりの女性を し、更には、、、、のみならず、、、、、、、、 ところが、、、 一見平凡のような章立て「過去の章」「現在の章」「犯罪の章」「未来の章」もよくよく練り込まれています。 若い女性の殺害を認めつつ、“千草姉さんに申し訳が立たない”と何度も悔やみつつ、偶然同じ名の千草検事には事件の核心を隠し続ける教授。 遠い過去、亡くなった姉さんの復讐を動機に、或る非道極まりない行為を犯した教授。 更に過去、ラジオ番組に出演して人工授精を取り巻く諸々について一席ぶち、一躍セレブリティ(有名人)の座に躍り出た教授。。 もしも本作を、常道の本格推理形式に再構築したらどうだろう、とか、読了前から早くも妄想炸裂気味になっていました。それだけ内容重厚で魅力溢れる中盤の展開だった、というわけです。 そうそう、アリバイ崩し基調の本格要素がどっどどどどうと雪崩れ込んで来る「犯罪の章」、そこに見えるトリックこそ小粒ではありますが、それまでの心理ミステリー風横顔から急展開ならではの味わいが思いのほか深く、小説全体に一層の彫りの深みを与えていました。粋だ。 さてここからはっきり【【ネタバレ】】になりますが 謎の核心である「初対面の人物を殺害した背景」が成功確信犯ではなく事故(人違い。。)だったなんて。。。(しっかり伏線が張ってあったのが逆になんとも)ここで、動機の堅牢無比な筈の意外さが、断崖絶壁の幻想からせいぜい工事現場の立入禁止フェンスへと一気に萎んでしまう口惜しさや! せっかく中盤でグイグイ引っ張っといて、結末で不意に手を離された、昔のスキー場のロープトウ(ご存知の方は?)電気系統がブレイクダウンしやがったみたいな気分です。 ま例えば、てっきり千草姉さんとこそ何かあったんでないかと冒頭から仄かに匂わせるのは純粋にミスディレクションとして成功してるのかも知れないが、、もちろんそこだけじゃないんだが、、うむむ。。。 おまけに、追い討ちを掛ける、あまりに見え透いた最後のオチ。。 結末にたどり着くまでの非凡なる面白さを勘案し、献上する得点はそれなりです。 |
No.812 | 6点 | せどり男爵数奇譚 梶山季之 |
(2018/05/19 10:37登録) おいら、人様の病膏肓(やまいコーコー)趣味話をうかがうのが好きでしてねえ。自分は絶対そこまでしねえよ、と呆れつつ、その道の専門家様が滔々と語り紡いでくれる魅惑のストーリーにはついウットリ聴き入ってしまうのでございます。。なわけで、ハイエンド古本売買の魍魎世界に材を取り、薄ッすらミステリ香漂う本書は私にとってマグネット効果覿面のちょっとしたB級グルメはしごツアーなのでございました。 色模様一気通貫/半狂乱三色同順/春朧夜嶺上開花/桜満開十三不塔/五月晴九連宝燈/水無月十三么九 本書、前述した如く、探偵小説要素は霞のようにうすら淡い短篇が主体ではありますがその淡さこそ、えも言われる魅力の大事なバランサー要素でございますね。そんな中で突出してミステリ領域に喰い入って来るのが「十三不塔」。これは異色作ですが、一般娯楽小説に近い他の作品群と連環してみなそれぞれの読み応えがあります。 尚、全作とも麻雀の上がり役に因んだ表題が付けられており、それぞれのストーリーを暗示しておるわけで。。。(みんな、もっと麻雀しようよ!) 清張譚との接点が何気なく連発するのも魅力です。 近年「ビブリア古書堂」で言及され、知名度が回復しました。 |
No.811 | 7点 | ガラスの鍵 ダシール・ハメット |
(2018/05/06 23:28登録) 高名な拷問~逃走のくだりに差し掛かる予兆のあたりから物語の内燃機関躍動が露わに。ネタは上院議員選挙区の内幕。滋味溢れる犯罪真相追及の道筋にはハードボイルドミステリなる肩書への裏切り一分も無し。表題の由来が、本作の最も頑強な柱である「或る友情」とは別方向にあったのはスカされた気分だが、その別要素と不可分のエモーショナルなラストシークエンスは胸に残る。 |
No.810 | 4点 | 殺人のスポットライト 森村誠一 |
(2018/05/05 20:08登録) 新宿のホームレス達が知恵を出し合い、自分たちが棄てた筈の’社会’で起こる事件に解決の光を当てる連作短篇。森誠の筆でこの設定にしては社会派要素は抑制されている。が本格推理としても薄味。妙に記憶には残る。 題名が何だかホームレスと直接無関係で中途半端なのは、作者のアンチ逆差別的な心に依っているのかも知れないが、まあ確かに「宿無し探偵の事件簿」なんてのよりはずっと読む気にさせる(私の場合は、ですが)。 |
No.809 | 8点 | 百舌の叫ぶ夜 逢坂剛 |
(2018/05/04 21:14登録) 露骨極まりない叙述ギミック! そこで殺すんかい。。。(これかてちょっとした叙述ギミックやで) 時系列の揺さぶり、半端ねえ。。。。。 骨格も豊かな●●欺瞞があっさり暴露されたかと思えば、その隠された位置エネルギーを遥かに上回る甚大な謎また謎をひっくり返す運動エネルギーにどこまで押し寄せられるのか分かりゃえしねえ。。。。 “生き物のようにうねる●の●”。。。 ラストシークエンス、小説的多幸感に直結しそうな”多主人公感”に苦笑する瞬間があるも、一蹴。 とは言え後に思えばやはり主人公トゥーマッチな感はあるが。。やはり面白さの力で完全凌駕。 最高の冒険本格ミステリにして、痛切の社会派ダークファンタジー、傑作でございます。 集英社文庫の作者後記に露骨なトリックネタバレとささやかな粗筋ネタバレとが配備されてある故、幸せであるべき全ての初読者諸氏におかれては是非とも各其注意深さを発揮し、時ならぬ不運に襲われる痛恨なきことを! |
No.808 | 6点 | メグレ罠を張る ジョルジュ・シムノン |
(2018/05/03 11:37登録) 冒頭、メグレが洒落たことをする。 謎解きの展開もある種洒落ており、、途中で早くも大味な真犯人決め打ちで終了フラグかと思いきや、応用編フーダニット(●●殺人●●●●●●真犯人●●●●●●●●●誰か?)の二段階ヒューマンドラマ興味が読者に追い付いて来た。。。 だが最終局面、追い詰める畳み掛け、あからさま過ぎること詰め将棋の如しで味わいの深さを少しだけ損なったな。。 もっとモヤっとしてもいいのに。。 なんてね、そりゃ多作家の自由だよな。 ‘マゼ’って名前の奴がどうにも’MOD’S HAIR’を思わせてクスリしました。「半ライスおかわり」みたいなシーンにはちょっと笑った。途中から”あの人物”が、オリラジ藤森が演じてるイメージにはまって仕方無かったな。。 |
No.807 | 6点 | 愚行録 貫井徳郎 |
(2018/05/02 08:46登録) 個人的にイヤミスってのはスカッと爽快になりたい時に(80年代のヤングが山下達郎を聴く感じで)読みたいもんなんですが、本作はあまりに文芸として優れているせいか(?)中途半端に嫌な気持ちを沈殿させたままで終わるのか。。と思いきや最後に、嫌悪よりも哀しみの方角に大きく舵が切られ、おかげで読者の気持ちは美しく締まった。。。。ってそりゃなんて理不尽な感動だ!! 被害者夫婦の裏の顔みたいなものは、おぞましいとは言えないレベルではないかな(ストーカー撃退の件は若干エグかったですが)、その割に、結果として引き起こされた犯罪の限り無い重篤さ。。。その根本原因は被害者よりも犯人側の育ったあまりに悲劇的環境の方に大きく比重が偏っていますよね。そこに、ミステリとしては一抹の不満が。。 さて本作、真犯人が現在おかれている状況に一ひねり+αあるのが推理小説としての美点ですね。●●●●●●臭さを感じさせない、格調ある物語構成も良し。 |
No.806 | 7点 | 博士の愛した数式 小川洋子 |
(2018/04/30 10:13登録) Viva特殊設定! 日常のちょっとした謎に、結構なサスペンスと、大きな感動。いかにも最後は泣かせげなストーリー振る舞いのくせに、無意識に流れる心のBGMは何故か明るい。素敵だ。素数だ。友愛数だ。。。。作者ならではの独特な’痛さ’や、ごく一般人の筈の主人公が作者自身並に頭の良過ぎる言動を晒すバランスのおかしさは見え隠れするが、それすらサスペンスの控えめな醸造に貢献。まるで逆イヤミスの様だ! 不謹慎のフの字も出ない障碍者ユーモアがこの世の中の愛おしい素晴らしい側面を描写する。作者らしい、羅列で心を揺らすテクニークもわざとらしく無さ全開で披露。中途には思いがけぬ大転回も!! 。。。。結末はブライトエンド過ぎて’ミステリファン受けする一般小説’とはイメージが直接絡み合わないかも知れないが、私にとっては、ミステリの原色虹色を吸いきった絵筆をひたす洗い水の必要善の如し。この味わいは私に必須の癒しエレメントに違いない。8時間で記憶が消える数学者とその家政婦とその息子、そして●●●の●●の物語。 我が老父も阪神ファンであることを思わずにいられない小説でもある。 |
No.805 | 6点 | 本命 ディック・フランシス |
(2018/04/29 21:41登録) 第12章ラストシーンのヘンリイ(ガイシャの息子)には泣けた。 黒幕が挙がっておしまいかと思いきや、むしろその手下級暴露で二重底の謎がやっと解決というヒネリある構成。 その手下の方、たしかに強烈に意外な犯人だったが、まさか犯人ではないと思い込ませる技倆は大したものだが、、ちょっとイヤだったな、そいつが真犯ってのは。。。。 でもラストショットの友情発揮は良かったよ。明るい冒険ミステリをありがとう。オールドソウルファンとしてはL.C.クックを思い出す名前の会社が妙に心に残る。 |