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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.70点 書評数:1342件

プロフィール| 書評

No.862 6点 崩れた偽装
鮎川哲也
(2019/02/09 02:19登録)
呼びとめる女/囁く唇/あて逃げ/逆さの眼/扉を叩く/赤い靴下/パットはシャム猫の名/哀れな三塁手  (光文社文庫)

A級半~B級の倒叙短篇集。コンプリートを目指す熱狂的ファン、或いは列車の旅に何か軽い気持ちで読みたい人向け。序盤~中盤と面白いんだが終結部で尻すぼみ、というパターンがやはりこの手の鮎哲には多い。 しかし 「あて逃げ」の大胆過ぎるドタバタ心理劇は何度思い出しても笑ってしまうなア。 あと、プロ野球チーム"北海サーモンズ"…


No.861 6点 完璧な犯罪
鮎川哲也
(2019/02/07 22:36登録)
小さな孔/或る誤算/錯誤/憎い風/わらべは見たり/自負のアリバイ/ライバル/夜の演出
(光文社文庫)

殺人者がへまをして、完璧とはほど遠い犯罪が暴露されまくる物語集。どいつもこいつも小道具使いの小味な倒叙短篇。音楽ネタがチョィチョイ出て来るのは良いぞ。


No.860 8点 半七捕物帳【続】
岡本綺堂
(2019/02/03 11:31登録)
お文の魂/石灯籠/勘平の死/湯屋の二階/お化け師匠/春の雪解/三河万歳/熊の死骸/張子の虎/弁天娘/冬の金魚/むらさき鯉/三つの声 (講談社 大衆文学館) 編者は縄田一男
    
講談社『大衆文学館』では後期作品を集めた’正’(北原亞以子編)のほうがより私の好み。半七第一作「お文の魂」を筆頭にアッサリ目の最初期作がずらり、残り半分ほども前期の作品が占める。

んな中でグッと来たのは「むらさき鯉」。こりゃ濃いわァ~。 物語の終わらせ方がちょィと独特な 「三つの声」で締めるのも趣があらあな。 他の、比較的サラリとした作品も充分に愉しめましたよ。 何といっても、言うだけ野暮ですが、文章が良いのさね。


No.859 8点 月長石
ウィルキー・コリンズ
(2019/01/31 15:00登録)
“道徳的均衡は回復し、ふたたび精神的雰囲気は、すみわたったような感じになりました。では、みなさま、また話をつづけましょう”

物語は調味も濃い根菜スープのようで導入から夢心地。吸引力の望遠スパイラルでどんな終結が襲おうと受け止めてやる。。。。って未来へのノスタルジア極まる感慨に心のリンパ液も過剰生成。これぞ圧巻の古典。流石に百五十年サヴァイヴァーは違う!そしてこんだけ長いとラストシーンへの予見と思慕もまた格別。悠然と流れ行く大河とその両岸の森林のようでありながら、初めから謎という魅力あふれる刺激物の爆発を匂わせ、嗚呼。。。。今度の帰郷は夜行で行こう。

“人生は一種の標的のようなもので、、、不幸がいつもそれを狙っていて、いつも命中する”

物語はほとんどすべて、インドから強奪された月長石(大きな黄色ダイヤモンドの通称)の英国での更なる盗難事件、に纏わる当人たちが当時を振り返る手記のリレーで構築されます。いっけん嫌味な奴かと思いきや、そのじつ皮肉屋なれど澄んだ心で素晴らしいユーモアを噴霧し続ける老執事ゲイブリエル・ペタレッジとその聖典『ロビンソン・クルーソー』(読みたくなった)。もののはずみとさじ加減によってはイヤミス傾斜にも流れそうな紙一重の芳醇ユーモアを持続させるクラック嬢とその清らなる教え。頼りの弁護士。患った医者。そして。。。。 単に視点が移るのみならず、先行手記への共感やら批評やらあったりして、果たして、事件にまつわる伏線や日常(?)の伏線がそこには巧妙に張り巡らされているのでありましょうか。パロディとユーモアの軸足や分量が語り手に依り推移するからこその長時間興味持続は妙手の選択です。手記群に描かれるは二人の青年と一人の娘、尊属たち、下僕たち、バラモンらしきインド人たち、そして 。。。。。。。。

“夜の出来事がすべてを決定するだろう”

物語の途上で探偵役(本当にそう?)が警察を退職してから再登場。さんざんの不在を託った後で満を持したそのタイミング。好きな薔薇の名前と、論争仲間の園丁も一緒。 

「ぼくのような立場にいたら、それこそ一生涯ですよ。いますぐにも、自分の潔白を証明するために、なにかをしなかったら、ぼくという存在は自分にとって耐えがたいものになるだけです」

もし、あらすじだけ聞いて満足(何たるナンセンス!)したなら、大山鳴動鼠一匹の感を受けるかも知れませんな。はっはっはっ。。 しかしまあ、大英帝国らしく七つの海を股にかけた大河冒険小説というわけでは全然ないのですなあ、舞台もほとんど英国のごく一部だし、じっくり情緒を煮詰めた大時代な恋愛小説ですよね、そこに幾何かの冒険なる通奏低音(微かに聞こえ続ける)と、決して小さくはない謎とその解決が織り込まれている。解決(事実確認)法の大胆さには開拓地が草刈らない、いや開いた口が塞がらないですが!

“人をさばいてはなりません! 信仰の友々よ、人をさばいてはなりません!”

きっと同時代に膨大な量の、今読めば長いだけで詰まらない小説が浮かんでは消えて行ったんだろうなあ、コリンズ自身のも含めて(?)。。なんて当たり前の奇蹟にしみじみ思いを馳せました。 ところで重要な脇役のEJ氏、滝藤賢一を彷彿とさせて仕方ありません。舞台で演じてたりして? 

「こんどの災難のもとは、みんな月長石なんですか ーー それとも、そうじゃないんですか?」

ミステリファンには二種類しかない。月長石を読んだやつと、そうでないやつだ。ってマイルスも確か言ってましたっけ? 私もようやく、前者の仲間入りしました。えへん。


No.858 4点 白の恐怖
鮎川哲也
(2018/12/30 11:45登録)
鮎川さん、テキトーにやっつけたな(笑)! こりゃ◯●社から「ウチみたいな弱小は手を抜かれる、プンプン!」と言われても仕方なし(作家本人は否定してるらしいですが?)。 短い話の割に、真犯人が割り出されるまでの”持たせ”の微妙な時間が露骨に長くて。。。このヘンなバランスでバレないわけには行かんでしょ、アレが。。 しかしこれ本気で仕立て直せば、、 容疑者(甥姪+α+β)もう少し増やしたりして、もっともっと物語を分厚く、叙述トリックもどき(?)をこんなショボイんじゃなくてもっともっともっと巧妙に埋め込んで、出来たらもう悪魔的な領域まで。。。。 未完の「白樺荘事件」(未読です)の存在が見果てぬ夢に誘っちゃって仕方が無いってなもんですわ。 だけどまあ、作品の出来は度外視で、鮎川ファンとして妙に惹かれる所はあります(測量ボ-イさんご覧になった”眼鏡をかけていない写真”も見てみたい!)。

さて、本作に於ける星影探偵はまるでチャーチルが好んだと言う究極のドライ・マティーニに於けるベルモットのような存在ですな! こりゃァ独特過ぎて椅子から転げ落ちるわ!!

光文社文庫の復刻新刊で読みました。 併録短篇「影法師」は氏の最初期ペンネーム群に引っ掛けた異国ロマンス追想譚、の最後にミステリ要素がポテッと乗っかる小品で鮎さんらしい満州、ロシア語、声楽の趣味推し。 おまけの昭和三十年代新聞・雑誌掲載エッセイがまたよろしおす。 メモリアル写真集(全て眼鏡してる)に、山前譲氏の穏やかな解説もありがたい。


No.857 7点 黒い塔
P・D・ジェイムズ
(2018/12/26 02:28登録)
黒い塔と言えば飯倉ノアビル。ダルグリッシュと言えばリヴァプールのケニー(警部の方はダルグリーシュが本当らしいが)。 ちょこっとだけ”ニュー・シネマ・パラダイス”を連想させる導入部から、晩秋の大河の様に瞑く分厚く内に激しさ沈めた中盤は実に私好みで魅了されましたが、明かされる真相がちょっとね。。 「黒い塔」の犯罪者にとっての存在意義に、もっと果てしなくおぞましいものを薄っすら想像していたのだが。。ミスディレクションだったのかしらそこは。見事に騙されたのかも知れないけど、騙された喜びも驚きも我が心のハードルを越えず。真相解明後、ラストシークエンスのエキサイティングな展開は悪くないです。モリアーティの手紙のユーモアはかなり好きです。 7.47で惜しくも7点。

関係ないけど 「黒い塔 P.D.ジェイムズ」 でGGL検索したら 「黒い塔 | P・D・ジェイムズのライトノベル - TSUTAYA/ツタヤ」 ってのが現れたのは大笑いでした。


No.856 4点 仮面病棟
知念実希人
(2018/12/08 19:22登録)
【最初に伏字ネタバレ】      どう見ても▼▼以上に怪しい■■が「●●側の人間でした」というだけではなあ、ちょっとカックンだわ。。       カタルシスに欠ける中途半端な結末、の割にストーリー展開に攻めの姿勢を感じる、だがその結果なんだかアンバランスで衝撃度低。 これを普通の先褒め法で「ストーリーは攻めてるが結末いまいちで衝撃低い」と言っちゃうと何だか微妙に違う、そんな肉離れ起こしそうなガチの中途半端。 折角のディープ社会派因子さえどういうわけかサスペンスの単なる引き立て役に。 でも読んで面白い読みやすい。子供の守りしながら隙間時間であっという間でしたよ。もっとイカした作品を書くポテンシャルを感じますよ。 最後に、これもネタバレでしょうが、男女の機微要素が逆ハードボイルド過ぎるのは、そこがメイントリックの一部であるのが見え見えである事を度外視しても、萎えました!(これもやはり衝撃弱めるアンバランスの一要素)


No.855 7点 逃がれの街
北方謙三
(2018/12/05 23:48登録)
「心配すんな、俺の足のところさ。」 “足のさきで、紙袋に触れて音をさせた。”

ヒロシ(子供)の正体は誰なんだ? 親子の問題ってやつが一つ前面に押し出される物語だけに気になって仕方が無い。それと、主人公は何故そこまで敵を殺すことに抵抗が薄いのか(隠された過去に何が?)。。なんて考えながら読んでました。。 スリルと感動を求めるべき一読者の立場を忘れて、そんなものをかなぐり棄ててもむしろ主人公たちの生活の平静だけを本気で求めてしまう。なんて高圧力のリアリティだ!  ラストシーン、一面の雪のイメージのせいか不思議と静謐な感覚なのが大いに救い。 だがこの結末は決してミステリ流儀ではないな。 エピローグで”その人物”ばかり掘り返すのは不満。むしろあの”おっさん”の現状と行く先に光を当てて欲しかった(過去はそっとしといて)。 でもいいさ。 痛切人情と冒険持続で読ませまくるサスペンス小説の秀作でありましょう。 8点に大きく迫る7点を。

最後に、kanamoriさん仰るように「初秋」に感動する人なら本作にも鉄板の感動要素があると思います。(かの作同様、本作もハードボイルド・ミステリとは違いますな)


No.854 6点 シカゴの事件記者
ジョナサン・ラティマー
(2018/11/26 23:07登録)
豪快過ぎる犯人設定に納得が行きません(笑)!! 登場人物一覧表を見て”こりゃ警察小説の新聞社版か?じゃあ真犯人もその手の。。”と思ってたら、まさかの。。。。 いやいや、探偵=最有力容疑者=事件の担当記者という豪快構造は面白いですな!! (←これについては【ネタバレ的補足】を最後に書きます) 少し前に書いたP.マクドナルド「エイドリアン・メッセンジャーのリスト(ゲスリン最後の事件)」もそうですけど、ハリウッド暮らしが長かった往年の推理作家が戦後に満を持して復活、となると映画シナリオ経験の影響もあってこういう(空さんも仰る)ドタバタコメディを書いてしまうもんなんでしょうか。ま少なくともハードボイルドではあり得ないですw しかし、終わってみれば物語の外縁部に放ったらかしの登場人物が多いこと多いこと。

ところで本作、まさかの再読でした。とは言え小学校高学年の時節、親(題名からして父の方かなあ..)からもらった創元推理文庫を無理して読んだら全く頭に入らなかったもので、遥かな時を越えてリトライしてみたら案の定、ワンフレーズたりとも記憶にございませんでした。 クリスティとか、子供なりに当時から読めたのもあるんですけどね、やっぱこういう内容だとある程度経験を積んでこそ意味の通じる部分の比重が高いんでしょう。そういや『処刑6日前』なんかは本作より前に学校図書館のジュヴナイルで読んだなあ、たしか。当時は同じ作者とは知らなんだ。

【ネタバレ的補足】
探偵役が途中まで「自分が犯人かも?」と疑いを残しているのもいいですね。しかも当事者でありながらそれを記事に書く、って倒錯した焦燥のスリルがやっぱりね、ミソですよ。


No.853 4点 贖罪
湊かなえ
(2018/11/25 09:47登録)
渾身の一筆書き、いい感じだ! でもミステリとしちゃしっかり落ちてない! イヤミスではないイヤノベル!! 湊君のイヤの勘所はミステリと巧みに溶け合ってないとセンス・オヴ・ワンダーのセの字も無えだ!!「実はそんなに●●●じゃありませんでした」的ひっくり返しがなんとも、詰まらん。 弱い! もっと胸を突く大真相を!! いや違う、目を疑う蜃気楼の舞台裏を!!!


No.852 6点 聖アンセルム923号室
コーネル・ウールリッチ
(2018/11/24 11:31登録)
枯葉のように軽くも、心に残る物語を秘めた一冊。巻末、都筑氏の「(作者も銘打つ通りミステリではない本作が何故ミステリ叢書に入っているのか、という質問は)すでに本文を読み終わって、この解説を読んでおられる読者からは、出ないはずで、なぜ出ないかは、本文をお読みになればすぐわかる」がエヴリスィングを物語っていよう。

20年代末(もうすぐまた20年代がやって来る!)の社会事象に搦めとられて今にも自殺せんとする実業家の淡々としたユーモアと勇気の物語がいちばん心に残ります。民族ネタできわどく落としたあのショート・ショートは何とも捩れた感慨をくれました(これぞミステリ型感動)。 若い二人の衝動結婚と詰まらない別れの話はどうでもいいが時の流れを見せてくれたからよろしかろ、戦争を契機とするバカみたいな民族対立エピソードも哀しきスパイス(アメリカの公用語は当初ドイツ語になるかも知れない流れだったんだぜ。だいたい国名からしてイタリア語じゃないのさ!)。 悪党没落心理劇は適度にスリルとミステリ性があって良し。 最終作を怒涛のクライマックスにしなかったのも素敵。


No.851 8点 眼の気流
松本清張
(2018/11/23 10:25登録)
眼の気流/暗線/結婚式/たづたづし/影   (新潮文庫)

怨念と犯罪のストーリーが巧みに躍動し0909(ワクワク)させる「表題作」と、強烈に暗く後ろめたいムードで押し尽くす「たづたづし」が何と言っても白眉。特に後者の、後を引く煙った薫りの力強さと言ったら無え。同じ暗闇話でもサスペンス以上に感慨がじんわり来る「暗線」も素晴らしい。「結婚式」「影」は本来ならちょっとした小噺を清張流に重く深く心理の底まで沈めた様な作品。後者はアンコールピースの味わいも。佳き短篇集と言えましょう。


No.850 8点 佐渡流人行
松本清張
(2018/11/19 22:32登録)
腹中の敵/秀頼走路/戦国謀略/ひとりの武将/いびき/陰謀将軍/佐渡流人行/甲府在番/流人騒ぎ/左の腕/怖妻の棺  (新潮文庫)

表題作は圧巻の時代ミステリ。結末が見えてるとか伏線がそのまんまとか言うのは野暮。サスペンス強度を最大に上げる為わざとそうやってんだから。これだけ理不尽な時代イヤミスでありながら、逞しい救いの突風を吹かせる終結には最高の余韻が。 単純な主題に収斂させない物語の重層性と言い、やはり本作こそ白眉。

どことなく連城っぽい題名からは想像つかない最後のドタバタ劇「怖妻の棺」は視界の霞む高速展開と言い濃密な人情風景と言いなんだか凄い。エンディングは最高に爽やか。たまにはタバコが吸いたくなる一品だ。

ダークサスペンスからぎりぎりハッピーエンド(??)の「甲府在番」や怖滑稽バイオレンス「いびき」、歴史サスペンスのこれぞ魅力満載「陰謀将軍」に痛快人情アクション「左の腕」、どれもこれも壮年清張の筆冴え渡り盤石のラインナップ。 「腹中の敵」「戦国謀略」なんかはちょっと、氏にしては当たり前すぎる感もあるが。。突き上げる心理の意外性でサスペンスをより加速させて欲しかったが。。やはりスリルは有りつまらない代物ではありませんからこのあたりもまあ満足。

戦国末期武将、江戸泰平の役人、罪人に無宿人、流刑者、そして市井の者たち。 色んな意味で”流された”人間の話が目立つ。 そこに微妙な統一感が醸し出されている一冊と言えるか。


No.849 7点 貸しボート十三号
横溝正史
(2018/11/11 00:45登録)
本格興味を唆る破格の対称性を孕んだ事件構築の凄みに、ユーモアや青春描写の無骨な優しさまで含み実に無駄の無い、中身の締まった快心の一打。容疑者配置の充実ぶりも光る(一部学生達の書き分けがより鮮明であれば尚良し)。真犯人披歴場面の捻りある趣向も瞠目にアタイ。ただ、入り組んだ真相に若干(これだけ爽やかな青春ストーリーでありながら)無理筋のバカミス性が入り込むアンバランスは異物の感触。。それと、これ言うとネタバレの一種かも知れませんが「十三号」という番号に特に意味が無かったのは、ま仕方無かろう。なんとなく「製材所の●密」を無意識に連想してたんだけど。。。ラストシーンは、イイね!(7点)

ところで私が読んだのは春陽文庫の横溝正史長編(うそつき!)全集からですので、角川文庫とは異なる併載二篇にもいちおうコメントさせて戴きます。

人面瘡     
のっけからストーリーさかのぼることさかのぼること時系列幻惑ウヒェー。眼の病って、絶対何かあると思ったら、まさかそういうアレかァ、んン~ん。。 人面瘡(と妹への罪悪感)の正体は何気に想像を超えましたよ、もっとおとなしい真相と思い込んでたもんで。(7点)

首   
前半は退屈進行なんだが後半はきびきびと。情景も浮かぶ(その割にメジャー映画撮影隊の存在は肉体感がいまひとつ)。 人情話のくせに(ちょっと複雑な)トリックの根幹がむしろ人情のベクトルに向かってないのが、、、斬新というよりは残念。心理的に噛み合ってないやね。でも、特に金田一によって露わにされる人情のところは沁みる。ラストもなんだかいい。(6点)


No.848 6点 エイドリアン・メッセンジャーのリスト
フィリップ・マクドナルド
(2018/11/07 12:57登録)
旧題「ゲスリン最後の事件」。今は改題済みと言え「最後の事件」でっせ、旦那お好きじゃないですか、「最後の事件」。

ユーモアと友情、得体の知れないサスペンスに奇妙な形の謎。 50年代末作という仄めかしもあり、これまさかスパイ物。。。かと思わすような大規模事件(事故?)発生。そこで命を落とした名士メッセンジャーが遺したリストには共通性の見当たらない人名(職業/居住地付き)が十も羅列。。。 こいつらは誰たちなんだ? 殺されるのか? 死んでるのか? 着実に展開する捜査模様に魅力あり。 ムスー 笑 ムスワー 笑々 あのカナダ人のオマンコ野郎 笑々々 くすぐりがいっぱいあってほんと笑っちゃったりあきれたり。 ルコックってww

創元推理文庫解説の瀬戸川氏も書いてらっしゃる通り、本格ミステリ黄金時代にデビューし、ハリウッドでの長い脚本家生活を経、久方ぶりに往年の名探偵を再登場させた(1959年)PMならではのパロディ趣向全開、カラフルで馬鹿らしくて愉しい物語です! 断固、本格ミステリではありませんな!!
  
最後にもっかい言うときます。「最後の事件」でっせ。。(しつ恋) 


No.847 8点 魍魎の匣
京極夏彦
(2018/10/31 22:58登録)
「お弁当」という当たり前の単語が・・・こんなにも・・・・(本の形状じゃありません)

処女長篇『姑獲鳥の夏』に違わずというか、ぶれないスタイルですが、内容の深さは結構な差で二作目のこちらと感じました。読みやすさは変わりません。まるで大衆文学の理想郷です。

読中ふりかえるたび、驚きと背中合わせの納得と、引き換えに却って深まる謎。。。そこに時系列操作への確固たる意志。この長い長い物語の中でそいつをやられるとクラクラ来る度合いも殊更に罪深い。やはり、小説分量もトリックのうち、と来やがるんですね。 探偵役候補が四人もいるかの如き麻雀蜃気楼も心地よし。気になる気になる”前半部略”連打も効きました。 そこへ来て今度は”以下略”の、奥が見えぬ追撃。。

「あんたの言葉はーーー 少しは届いていたぜ」
「今朝ーー 五つになったんだ」

消失トリック。 その片側は驚くほどショボイもの。

中盤のオカルト談義では近年のLGBT論に通じる痛恨の”誤解解きたい”ディザイアーの蠢きが刺さりました。 しかし、警察手帳に入れてたんかい、「それ」(笑)。

消失トリック。 ところがもう片側の。。。。。。。。。。。。。。。。


No.846 6点 東西ミステリーベスト100
事典・ガイド
(2018/10/20 23:42登録)
さほど思い入れは無いんですが、何気に面白く読んだものです。
セレクションの保守性もまたよろし。


No.845 8点 日本ミステリーの100年
評論・エッセイ
(2018/10/20 23:39登録)
“時間や経済と相談して、ぜひたくさんの作品を読んでいただきたい”

著者は山前譲。 1901(明治三十四)年に始まり、大正、昭和を経て2000(平成十二)年で終わる一年ごとのエッセイ風歴史スケッチ。ガチ研究書的ディープな知識は求め得ないが、拙者の様なライトユーザには充分、時々パラパラめくるだけで何だかいい気持ちでタイムスリップ出来てしまう、得難い一冊であります。 エッセイの他にその年の代表作(古い時代となると現在忘れられている作も多くなかなか興味深い)、ミステリ各賞の受賞作一覧、また日本ミステリ史と社会一般の対照年表 が付き、佐野洋の生まれたのが野口英世の逝った丁度十日後であるとかが分かる。大阪圭吉が没したのはヒトラー自殺より後か。。 更に昔の雑誌や単行本の表紙写真も多数掲載。守友恒『幻想殺人事件』だの『名作』昭和十四年十一月號だの、嗚呼面白い。 一見軽い本のようでいて、実は結構内容詰まっていますね。 副題の「おすすめ本ガイドブック」ってのは微妙に本作の趣旨とズレてますけどね。


No.844 7点 黒い鶴
鏑木蓮
(2018/10/15 23:32登録)
帯に謳われる「純文学ミステリー」って事も無いと思いますが、味わい深い良い文章です。どことなく連城三紀彦を連想させる(時がある)作風ではありますけど、そこまでキレキレではなく、むしろゆったり鈍めの魅力があります、この短篇集(十周年記念オムニバス)を読んだ限りでは(長篇はどうなんだろう)。医学系を中心に自然科学の勘所を巧みに操った物理トリックを押し出しながら、小説としては心理に軸足置いた、そんな素敵な作品群が並んでおりますね。

黒い鶴/ライカの証言/大切なひと/雲へ歩む/魚の時間/京都ねこカフェ推理日記/あめっこ/誓い/水の泡/花は心 (潮文庫)


以下、順不同御免(十篇中七篇だけ)

某作(7点) 。。。。内容は面白いんだが語り口が何だかもっさりした話だなあチャンチャカチャンてが? って思ってたら、意表を突く鮮やかな幕切れに討ち取られました。残酷小噺の味わいで締めますね。してみると全体の9割を占めるもっさり部分は全てミスディレクションって事か。。。しかし、あの様な特殊状況の人がそんな、無防備な事しますかねえ、ってちょっと引っ掛からなくはない。いっけん抽象的な何かに思える題名の意味するところ、分かってみると怖い怖い。

某作(7点)。。。。医学ミステリはエエなぁ。山風思い出しまふわ。話の運びはなかなかスリリング、ながら、トリックはともかくアレはもう普通に推理クイズ流儀のナニなんじゃけど、、結果この重みですよ。 んでやっぱ最後の一文がキツくのめり込むんだな。やばいね。

某作(9点)。。。。構成がある意味レイラ(デレク&ザ・ドミノズ) のような、不思議設計の直角折れサスペンス。かと思ったら、おお。。。。。。ん~~~こりゃガツン来るね、変則叙述物理トリック炸裂だ!! 本短篇集で一押し!!!

某作(8点)。。。。最後にもう一捻り半無くて一捻り弱さえ無くて充分。日常めいた謎の提示そのものが何故かたまらなくダークなせいか、こんなホワイトエンディングであっても(?)、いや、そうであるからこそか(?)、凄くいいミステリ。 しかし、題名と内容とのギャップが。。。(笑)

某作(7点)。。。。ほっこりやんわりの展開から、じんわりともやもやが同居のエンディングへ。最終コースまで心温まる物語ながら、心温まるだけの終結でないところが良い。

某作(6点)。。。。期待持たせとくチカラはなかなかだが、映像技術に纏わる綺麗な伏線がラスト直前やっと登場したりして。。。 最後の台詞に微妙な洒落(なのか?)を残す洒落っ気はどうなのか。

某作(8点)。。。。まさかのクリスティ技、極められました。旅情もいいね。


仏教で言う八苦の五苦以降、すなわち
愛別離苦(あいべつりく)… 愛する者と別離すること
怨憎会苦(おんぞうえく)… 怨み憎んでいる者に会うこと
求不得苦(ぐふとくく)… 求める物が得られないこと
五蘊盛苦(ごうんじょうく)… 五蘊(色・受・想・行・識 = 人間の肉体と精神)が思うがままにならないこと
の4パートに各作を割り振るという凝りよう(後付けの筈だがこじつけ感はあまり無い)で、更には全作著者本人のルーブリック(若干おぼこい)が付くというゴージャスな構成美?。。が活きているかは微妙ですが、こういうのも珍らかで面白いしアリでしょう。

作品によっては、京言葉に北東北弁と言った言葉の魅力もリアリティたっぷりに充満します。特に後者、「はだく」じゃなくて「はたく」なんだよ、分かってるねえ、と思わず作者の肩をはたきたぐなりまスた。


No.843 6点 最後の一壜
スタンリイ・エリン
(2018/10/13 10:58登録)
エゼキエレ・コーエンの犯罪/拳銃よりも強い武器/127番地の雪どけ/古風な女の死/12番目の彫像/最後の一壜/贋金つくり/画商の女/清算/壁のむこう側/警官アヴァカディアンの不正/天国の片隅で/世代の断絶/内輪/不可解な理由  (ハヤカワ・ミステリ)

有名な表題作を始め、洒脱なフレイヴァでシャープに魅せるピースが並びますが、私はむしろ重厚な味わいの「エゼキエレ・コーエンの犯罪」「12番目の彫像」が好きですね。特に後者は不思議な奥行きがあってスィヴィレます。展開がドタバタでうっかり笑ってしまう悲劇「不可解な理由」で〆るという悪だくみも素敵。 「最後の一壜」のオチは。。。ユルくて心動かず。もう一ひねり半できなかったものか。 でもいい寡作家さんです。

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