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ミステリの祭典

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最後の一壜

作家 スタンリイ・エリン
出版日2005年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点
(2019/06/30 07:56登録)
 そのワインは、1929年にサントアンの葡萄園でわずか40ダースだけが醸造されたという。今日ではそのすべてが失われ、多くの専門家が史上最高の名品であろうとしながら、誰ひとりとして現物を味わったこともなければ、ボトルを見たことすらなかった。その伝説のワイン、ニュイ・サントアンが、たった一本残っていた! 最後に残された至高の一壜をめぐる、皮肉で残酷きわまりない復讐劇とは・・・
 1963年から1978年にかけて「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」に、ほぼ年一作ペースで掲載された作品を纏めた、エリンの第三短編集。約束された結末に向けた完璧な筋運びと、最後に立ち現れる女心の怖さで読ませる表題作がやはりマストですが、コクのある短編揃いでいくつかの佳作も含まれます。
 次点は完璧にシステム化された悪意を描く「不可解な理由」。スケールは小さくなりますが、名作「ブレッシントン計画」の発想をさらに隠微に、綿密に推し進めたような作品。「内輪」と共に雑誌「EQ」初期に「ゆえ知らぬ暴発」の別題で掲載されました。あの号はこれがピカイチだったなあ。高い密度に加えて池央秋さんの翻訳が達者ですね。
 続いて長めの「エゼキエレ・コーエンの犯罪」。濡れ衣を着せられて休職旅行中の警官が、戦時中のローマで起きたナチス殺害事件の謎を追う話。清廉で通っていたユダヤ人が仲間を売り、占領軍将校の金を持ち逃げした男として今に至るまで侮蔑されていますが、彼の汚名を雪ぐ過程で主人公が人間として揺るがぬものを掴み取るのが感動的。ただ尺が長い分短編としては若干緩いかな。本当は「内輪」がここに来るのかもしれませんが。
 あとはギャンブル物の「拳銃よりも強い武器」。好みの「天国の片隅で」。先の二短編集ほどの出来映えではありませんが、いずれも熟成されたものばかり。充分に楽しめる一冊です。

No.1 6点 斎藤警部
(2018/10/13 10:58登録)
エゼキエレ・コーエンの犯罪/拳銃よりも強い武器/127番地の雪どけ/古風な女の死/12番目の彫像/最後の一壜/贋金つくり/画商の女/清算/壁のむこう側/警官アヴァカディアンの不正/天国の片隅で/世代の断絶/内輪/不可解な理由  (ハヤカワ・ミステリ)

有名な表題作を始め、洒脱なフレイヴァでシャープに魅せるピースが並びますが、私はむしろ重厚な味わいの「エゼキエレ・コーエンの犯罪」「12番目の彫像」が好きですね。特に後者は不思議な奥行きがあってスィヴィレます。展開がドタバタでうっかり笑ってしまう悲劇「不可解な理由」で〆るという悪だくみも素敵。 「最後の一壜」のオチは。。。ユルくて心動かず。もう一ひねり半できなかったものか。 でもいい寡作家さんです。

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