斎藤警部さんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.69点 | 書評数:1304件 |
No.1104 | 6点 | 往復書簡 湊かなえ |
(2021/11/03 03:40登録) 手紙の交換が進むにつれ、過去が深堀りされ、謎解きや葛藤を経、何某かの結論に至る三つの連作短篇(文庫版は+α)。 手紙のきっかけは学生時分の影深いインシデント。 『第一話』の真相は予想外だけど、驚くわけじゃない。これはこれで「どダークな真相」という捉え方もありそうだが、個人的にはかなりのギャフン作ですね。ここで長篇の第一部終わり、ってんなら期待するけど。(実際そう勘違いして、続きにすっげ期待しちゃったんスけどねww)仕切り直して『第二話』は、随分深くまで掘った暗黒真相の果てに。。なんじゃこのさわやかエンディングはw こんなんじゃもっと人間ドラマに寄せた普通文学+ミステリ風味チョイの方がいいんじゃないか、と思ったが。。『第三話』にはミステリ魂埋まってました!三作中もっともさり気ない導入から犯罪領域に急カーヴするタイミングのスリルは強力。「時●」ってやつの使い方も絶妙。「●る」という言葉のダブルミーニング的なとこ、ヤられた。奥の深い真相暴露は横溝の某短篇を彷彿とさせたかも(?)。 文庫で追加になったという『エピローグ』、色々●●って(?)愉しいですが、考えオチ過ぎて(?)もやもやエンドだった『第三話』に泣ける落とし前を付けた、って解釈でいいのかな? |
No.1103 | 6点 | 地獄の道化師 江戸川乱歩 |
(2021/11/01 20:56登録) 犯人の意外性より、犯人像の鮮烈な悲劇性ですね。通俗なものではありますが、通俗ならではの刺さり具合です。それはまた、犯人が物語の中で実は一度も■■を■■ていない(■■でもないのに!)という異様な事実にも染め上げられてありましょう。 ミステリー三昧さんも書いておられますが、最後の最後まで確定容疑者を一人に絞らせない周到な技が光ります(或る人物が■■■■のまま、というのが大きいかな)。こんだけ毒々しい物語の末にバッサリしたエンドも良し(妖怪人間ベムを彷彿)。サイズ感含め「一寸法師」との喰い合わせは確かに良いですな。 |
No.1102 | 6点 | 黒後家蜘蛛の会1 アイザック・アシモフ |
(2021/10/30 07:56登録) 会心の笑い 古典的真相を疑わせて思いっ切り引っ張った挙句、そっちを攻めるのか。。しかもそっちを先にバラす。。よく見りゃ違和感伏線も(際どい所だが)あるんだな。。シリーズの始まりがコレとは、何気な怖さを与えてくれる。 贋物(Phony)のPh この俯瞰解決の手法、他の不可能犯罪に対しても応用すべきですね。 というかアレか、そこは逆か。 実を言えば は? 何かの皮肉ですか?(本作だけはちょっといただけない) ↑ 個別コメントは最初の三作で書く気が蒸発しました。。。 と言っても決してつまらないのではなく、いちいち書かなくても本書はもう大丈夫だな、と。(何がもう大丈夫なんだ) 仮に短い推理クイズの形式でプレゼンしたら不発のギャフンで終わりそうなネタを人物描写や蘊蓄披露も豊かな物語世界の中に注ぎ込み、質実な分析と推理とで味のある終結まで持って行く様子にはこのシリーズ独特の沸々とするスリルが宿っており、読みだしたらやめられなくなる、だが単なる中毒性とは違った魅力があります。 各作締めのヘンリーの台詞の、しみじみし過ぎないさり気なさは素晴らしいですね。 必ずしも「日常の謎」ってわけじゃないのもポイントかな。 「解答が出揃いましたところで、ときたまわたくしは、どうやらそうむずかしく考えることはないと見当を付けまして、複雑なところを通り抜けて単純な真実に行き当たることがあるのでございます。」 |
No.1101 | 7点 | 地を這う虫 高村薫 |
(2021/10/27 19:00登録) 元ノンキャリ刑事達(年代はまちまち)、第二の労働人生に起きたサスペンスフルな事象を追う、四つの物語。 彼等の仕事は、警備員、サラ金取り立て、政治家運転手、守衛(昼夜掛け持ち)。 愁訴の花/巡り逢う人々/父が来た道/地を這う虫 (文春文庫) 文庫裏表紙に謳われる『深い余韻をご堪能ください』に偽り無し。 主人公の過去から繋がる、現在の不可解な或いは違和感光るインシデントを看過出来ず、今なお消えない刑事魂に突き動かされ巻き込まれ正面から取り組む男達。 背後から吹き付ける冷たいサスペンスと、人間ドラマを邪魔しない匙加減の絶妙なツイスト。 読後に持続するじんわり感は強力。 短篇集で表題作だけ異色の作、ってのはままある事ですが、本作の場合もそれですね。 最後の「地を這う虫」は際立ってミステリ色強く、ある種幾何学パズルの趣も窺える。ユーモア有り(ろんさん同様”台帳”には笑いました)、まさかのアクション有りで、人間ドラマも割と明るい側面を押し出す。 だが決して先行三作に較べ軽くも浅くもなく、むしろ個人的にはこの表題作がいちばん心に残りましたね。 (ミステリ色の強い作品、実はもう一つあります。 まあ四作どれも充分ミステリですが。) |
No.1100 | 8点 | 屍蘭 新宿鮫III 大沢在昌 |
(2021/10/25 18:04登録) ホップする剛速球で文句無し!じっくり行きたいがスタスタ読めてしまうのが恨めしい。早い段階で深い謎を惜し気も無くバラして行くリスキーな(?)展開も納得、この勢いと重さの共存あってこそ成り立っている。時折の硬い説明文さえエンタテインメント天然色。ラストがちょっと爽やか過ぎかと感じたが。。題名の意味に、最後の最後で花開かせる手綱さばきは見事。女子力の強い物語だが、そこは女子達のみならず某ノンケ男子の造形や行動も大きく寄与していよう(この人物、いいねえ)。 いくら状況をナニしたからと言って気が付けば周りは鮫島の味方ばかりになっていたり、あんな最強武器をあんな無防備な持ち歩きしていたり、ヘンな所も数ありますが、、物語が見事にぶっ飛ばしています。 晶の音楽がさっぱり聞こえて来ないのも、まあ気になりません。 ところで、先頃ジャガー星に帰還された千葉のジャガーさんの若い頃、今と違ってバリバリのハードロッカー(パンク寄り)だった頃の楽曲を久しぶりに聴いてみて、晶のやってる音楽にもしかしてちょっと近いんじゃないのか、なんて想像してしまいました。 当時の晶、ジャガーさんのこと知ってたかな。。(実は対バンしてたりとか) |
No.1099 | 5点 | 覆面作家は二人いる 北村薫 |
(2021/10/22 13:20登録) やっぱり、タイトルが引っ張りますよね。いらぬ先回りで憶測してしまうので、その分ミステリ度が嵩上げされましたかね。 時折過多に思えたユーモアも、琴線ヒット率は個人的に高かったッスね。実際けっこう笑ったね。 「 『俺は十九だ』 といって殴りかかってきたんだ」 兄貴は、さらに首をかしげた。 「そりゃあ、おかしな話だな」 にしてもあらためて随分とフェミニンな作風ですこと。表紙絵や挿絵の彼女がいかにも’女性目線で可愛い女性’て感じなのも拍車を掛けてるな。 この彼女、どういう発達障害か知らないが、やっぱ世の中は、真ん丸なんじゃなくどっか引っ込んでどっか出っ張ってる人達が補完し合って成り立ってるんだなあと、中にはこの彼女みたいな凸凹の直径比が極端な人もいていいんだよなと、思いました、半分冗談スけど。 謎解きとしては、最後の表題作はちょっと良かったですね。。 ただ、バードさんおっしゃるように、謎の焦点がばらけてもったいない感じはします。(私なんざ「年増のチンピラに絡まれた事件」も謎インシデントの一つにカウントしてましたよ) |
No.1098 | 8点 | 応家の人々 日影丈吉 |
(2021/10/20 06:40登録) “あの童女のおもかげのほかに、この陰惨な事件の連続から、守るべき思い出の何ものもないのをさとった。” 作中作の斬れ味、作中作中作の濃艶さ。現実(作中)世界とのリンクも闊達(ところが構成の妙はそこだけじゃない)。作中の現実とは、一人の女性の周囲に、新旧夫の二人を含み、あまりにも短期間に連続して起こる夥しい不審死。ストーリー途上にはまさかの匂わせミステリかと危惧させる展開もあり、捨て置けないトラベル&タイムトラベルミステリーの趣もあり。多種多様なルビの氾濫も手伝い、言い逃せない読み辛さはある。だが、こりゃあ短かめの長篇ながらも贅沢にゆっくりと味わいたい作品。とか言ってると最終コーナーにかかり唐突に一気に燃え盛る本格ミステリ魂の火炎放射が凄い。まさかの鮮烈物理トリック、それも明瞭伏線付きだった! … 造形にちょっと靄がかかった探偵役の主人公が最後になって急に閃きまくるのは、読者一般には見えなくとも、当時のディープ台湾に浸っておればこそ嗅ぎ出すことの出来たアレに対する機微がそこに遍在していたから、って事でしょうか。。その事実が最後に浮かび上がる、歴史がかった重めの捲り感こそがミソなのかも。 それにしたってこの終結! これを■■だと騒ぎ立てる人もあろうが、意外過ぎて粋で、何と言ったものですかね。 南十字星の見える南台湾 .. 日本領だったころの .. を舞台とした、苦くも起伏に満ちた回想と、現在の.. の物語です。 題名のちょっとした違和感も、最後には切なく茫洋と解消。 主人公がファム・ファタールに傾き過ぎないのも頼もしく、また良い意味で逆に歯がゆく、素晴らしいバランス。 旅をしたな、という粗く爽やかな感慨が残る。 作者による、その品格と裏表のとぼけたあとがきもよろしい。 |
No.1097 | 6点 | 象牙色の嘲笑 ロス・マクドナルド |
(2021/10/15 11:04登録) いいですね、事件全貌の一部だけチラ見せ続けて誤誘導するトリック。そこに時間の経過が被さるもんだから。まるで「群盲象を評す」の四次元版のよう。このパズル興味を輝かせるものこそ、物騒で手の早いそれなりのHB的魅力、そして明暗の人間ドラマ。なかなか小気味良い(?)屍体消失トリックも鮮やかでした。 |
No.1096 | 9点 | 造花の蜜 連城三紀彦 |
(2021/10/11 13:40登録) やべ、俺もう死ぬかも。。 誘拐事件らシきモのをモチーフに、妖異で濃厚なスクリュー展開が緊張緩めず延々と味わえた奇蹟の作品。余裕で大きくうねる二重螺旋ストーリー、容赦無いターン、裏を抜けるパス連打の躍動に、いつしか時系列までうねり始めた。。 疑惑妄想の乱反射も凄まじく、結果、ゴージャス過ぎる死にネタの数々を置き去りに。。!! すると半分も行ってないのに早くもドンデン返し、の連続、と言うよりむしろ。。。ですよ!?(当然のように大小いくつもの謎を引き摺ったまま)。 連城は読者を誘拐しようと、或いはむしろ読者に誘拐されようとしたのではないか。 被害者、加害者(この線引きが凄まじい)の思惑、行動に加え警察稼働の部分も冷静ながら熱く、読みどころには事欠かない。 おっと、何なんだよその言葉のぶつけ合いトリック。。。。さて、いつの間にか(?)一部、二部の罠なのか何なのか。。 最終章(かどうかも分からない地平)に読み進むのが怖い!! かへり見すれば、モーツァルトの交響曲第40番(出だしが超有名なやつ)を髣髴とさせる、途中まで緻密に張り詰めまくっていたのを、最終楽章だけ一気に力を抜いて、でも充分キャッチーではあって、全体のバランス取るような、そんな構成だったかも。 しかしこれ地方新聞の連載でやられたら、参りますな。 連城の犯罪ファンタジーに宿る、謎のリアリティ押し切り感覚は凄いです。それを長篇でやり切ったのが本作。 |
No.1095 | 8点 | ねじれた家 アガサ・クリスティー |
(2021/10/05 20:50登録) 短い最終章、最後の台詞に大真相のほのめかしが宿る。そう、真犯人意外性より大真相の異様さで圧倒する小説。真犯人がものすごーーーい後になってやーっと暴露される構成も、この真相あってこその必然性、並びに演出有効性。まるでコンクリート打ちっぱなしの店のように露骨に晒された伏線ならぬ大ヒントの数々。探偵役不要(?!)の物語ながら、ある種の探偵役は主人公父親の警視庁副総監か。⚫️⚫️⚫️な真犯人が⚫️⚫️⚫️される結末も衝撃的。ちょっとアンチミステリな趣向も見え隠れ。なーんか探偵役らしき人物がずーっとふわふわしててピリッとしない筋運びだなー(そのくせ面白い!)、マザーグース感、館モノ感まるで無いし、と思ってたら、、そういう真相に繋がったってわけですか。。!! そこんとこ、真相分かってみればもはや不要だったんじゃないかと錯覚する大きなミスディレクションとしても充分成立していたんですね。際立って特殊な物語構造が魅惑の源泉です。本作もまた、アガサらしい堂々の企画一本勝負と言えましょう。(若い頃ほど露骨でないのも味がある) |
No.1094 | 7点 | ミイラ志願 高木彬光 |
(2021/09/30 22:00登録) こりゃあいい。サスペンスに滋味溢れる歴史/時代娯楽九連作です。 ミイラ志願■兇賊は死罪を免れようと仏門を叩き、即身仏となる難行を志願する。和尚はあっさりと受け入れる。痩せ細っても俗気が滅しない兇賊。怖ろしい結末。 偽首志願■影武者と信長公の唯一の違いはある食物の嗜好。トリックにトリックを重ね、トリックに溺れる武将たち! 乞食志願■蹴鞠芸人として生を全うしたい、義元の嫡男。ミステリ性はほぼ無いが人生の良い話。しかし脇役が中心に来る終結は、あまりに重い。 妖怪志願■関ケ原前夜、武将たちに家康を滅ぼすべく次々とアドバイスを送る謎の者。この大オチは異色作と言えましょう。 不義士志願■複雑な事情で、吉良邸討入りから外され、事後も不如意な目に遭う赤穂の義士。ところが。。。。 この結末は眩しい。 飲醤志願■太平の世、頑健無比の大男を抹殺するにはどうしたらよいか。 バカサスペンスに剛毛が生えた様な話。 首斬り志願■明治の首斬り役人に強力な跡取りが現れた! 和やかな導入からまさかの反転、ミステリ性の高さは随一。 女賊志願■幕末から明治、刺青に纏わる歴史の謎を解き明かしてみると。。。 或る人生に纏わる心の謎が赤々と現れた。。 渡海志願■会話のミスディレクションがニクい。。幕末、密航を企てた動機は、そこか。。。。歴史に深く軸足挿したハウダニットが最後に炸裂! 一方の主役、長崎奉行の英明が限りなく尊い。 |
No.1093 | 7点 | 九人と死で十人だ カーター・ディクスン |
(2021/09/27 22:01登録) ある物質の『過ぎたるは何とやら』に着目した鮮やかな逆転(!)物理トリック、の実行失敗(!!)が作り出した不可能状況の魅惑、あまつさえもう一つの大トリックが不可分に結んでいたとは。。(アレが盲点になってた、チェックもされなかったというのは、、人数を考えると無理も無いのか..??)まあ、この物理トリックは実践云々より、想像上でこそ価値のある事象ですかね。(だがもう一つの方のチェック機能が働かなかった件は、若干無理があるような。。いや、この特殊状況下だからこそ逆に見逃され易かったのか??) あまりに鮮やかな犯人指摘シーンは、たとえソレがアレだとしても、この一瞬の眩暈は珍重したい! 適度なユーモアに戦時ならではの緊張もアシストし、撓み無用の良い雰囲気。HM卿もしっくりはまる。 動機は、それなりに深くも見えたが、ミステリ軸で検討すると、どうってもんでもないかな。。 まあ、クリスティとはまた違う、ちょっとした人間関係トリックというかナニにはやられましたかね。 目を引くタイトルだけど、計算違わない。。? なんてね。何気な●●●●●●●●●になってるからいい、のかな? |
No.1092 | 7点 | 真珠郎 横溝正史 |
(2021/09/22 21:14登録) 告白書の書かれたタイミングに妙味あり! 犯人意外性より、真相意外性とその騙し絵の奥深さ。首無し屍体を取り囲むミスディレクションは秀逸。前半は、天変地異のさなか敢行された残虐殺人を巡るパニック冒険譚。ゆりりんも登場する後半は、主人公の周囲でばかり起きる連続殺人を巡るサスペンスフルな推理劇。この構成もコントラスト鮮やか。探偵役の比重が妙に軽いのも味のうち。戦後の本格横溝黄金期にそれぞれの作品内へと巣立って行く諸要素が詰まった、戦前横溝の力作と言えましょう。 角川文庫併録の「孔雀屛風」 悲恋と◯◯◯◯心、この一見合い馴染まない様な二つの心理が百年以上の時を超えて。。、。日常の謎めいたスタートから、あっと言う間に犯罪の暗雲が立ち込める。古文書や文語調手紙の緊張感も巧みにはまり、締まり良くもロマンスに心温まる好短篇。「真珠郎」の後には良い清涼剤。 しかし、罪な恋人たちだ。。 |
No.1091 | 6点 | 殺人症候群 リチャード・ニーリィ |
(2021/09/18 14:38登録) 最終章には心ふき飛ばされたなあ。。。(一瞬、■■かと思った。。) そして、否応なく考えさせられました。 このような真相を巡って、周りが如何に目星を付け捜査を進めて犯人捕獲に至るか、の一挙手一投足が興味の中心に来ましたね。 そこに至る前の"犯人やりっぱなし"の部分にもっと硬質のサスペンスがあればなあ。。 でも充分、詰まらなかァない代物。 本作を「妻に」捧げる作者、ちょっと怖いです。 本作一番のポイントは、実はそこかも知れません。 |
No.1090 | 9点 | 冤罪者 折原一 |
(2021/09/15 05:46登録) いやー諸君、どいつも人間臭くて大いに結構!! 一くん、やったね! Gの重みでグリグリ来るジェットコースターサスペンスは、乱反射を止めないイヤミス魂の遍路。 これやばい。ビッチリやで。。。。 何らかの怪しさを持つ重要人物群(どいつも癖ツヨ)の重要度がだんだん均等になって来る切迫感が気持ち悪いんだよなあ、最高に。てかそのお蔭で色々見えにくくしてるんだね、凄いねえ。。。 「幕間」の効果もそれぞれ堅調、時に爆発、カッコツケのギミックに終わりようが無え。 叙述トリックではない、は言い過ぎかも知れんが、それに立脚しきってない、飽くまで目眩しの一つとして逞しく消化している、このぶっとい頼もしさたるや。 強烈なのが何度も襲うエピローグも圧巻。(ク●フ●の「●に●●●●く●●い」を思わせるシーンがあった..) 面白すぎ読み易すぎてあっと言う間だったのが、内容のあまりの充実具合に、二週間半くらい掛けて読んだような錯覚が起きています。時間は伸び縮みする、ってのはこれですね。 一くん、話題の森●一くんにも爪のアカ、テキーラに混ぜて呑ませてやって!! |
No.1089 | 7点 | 罪への誘い ミシェル・ルブラン |
(2021/09/10 02:41登録) ロックンロール革命以前(発刊は’59だが..)と思しきレコード会社を舞台とした、謎と疑惑の乱反射も眩しい素敵なクライム・ストーリー。老いた初代社長には腹違いの二人の息子。共に同社社員であり、微妙な対立関係にある二人が揃って食指を動かすのは録音技術主任のハクいスケ。三十路にもなって軟派の不良で麻薬中毒、未成年暴行であわや新聞沙汰になりかけ巨額の口止め料を無心に来るようなグズグズの弟に、十も年上で小心者の兄(販売部長)は、、とうとう何かがプツリと切れた。。。。 「どうやらあなたにはアリバイ必要なようですな。それもうんとしっかりしたアリバイが。アリバイは何ですか?」 いやはや、二百頁ほどアッと言う間に読んでしまう爽快痛快やばいお話でした。結末を待たず中盤早くから激しく腰振るように二転三転するストーリーの動体エネルギーは大したもので、通底するカラフルなユーモアもそこに上手く融合。あれ、そこでいきなりまた90度旋回するの??。。とか何とか振り回されていると、、ようやくそこにトゥッサンが乗り出してからのカットバック畳み掛けが尊い!! と、思った矢先に、アレ、何だこれトボケてらあ! ところがさ、勝負は始まったばかりなんだなあ。仮に見え透いた結末に雪崩れ込もうとも、これだけ楽しませてくれたなら大いに満足さ、って殊勝にも思ったもんだが、果たして。。。。 そっか、ささやかな叙述トリックがあったのだね! と振り返ったのも束の間、そこ随分大胆にやったもんだなーと。でも叙述トリックより叙述ギミックの方が光ってるね。大伏線の大胆な置き場も、完全に目眩しされてました。 ほんのちょっぴり、イニシエーションなんとかを折り目つけるとこ変えて折りなおしてみたような、そんな感じもしました。(適当に言ってます) ちょっとした自作カメオ出演も面白い。 弁護士流エジプト文字、いいね! そんでもって、いっやー、最終盤に至っての、この、真犯人と探偵役のタイミング最高の攻防! 何より、突如発熱するエンディングと、深みに響くラストセンテンス。。。。人間の哀しみ。。。。 このコントラストにヤラれるのよ。 しかしだな、よりによって、まさかそんな所に、笑うほどの致命的証拠が!! |
No.1088 | 7点 | 夜の終る時 結城昌治 |
(2021/09/08 00:41登録) 誰が漏洩(もら)したか、誰が殺したか、二つのフーダニット。当初、恐喝犯に逮捕予定をリークしたのは殺された刑事で、刑事を殺したのが恐喝犯と目された。要は仲間割れだ。ところが、その恐喝犯は拘束中の警察内部で謀殺され、更にはそのトボけた実行犯(?)も屍体で発見される。これで複雑になったフーダニットのフーは、かえって全四件とも一人に絞られたのか、それとも。。。。 簡素で情感滲む、可読性高いハードボイルド文体で書き捌いた昭和の警察群像劇です。いくつかの新機軸を意識して書いた作品の様ですが、その意気込みが前のめりにならず、豊かな内容が堂々と、着地すべき場所に着地しています。筆力ですね。 後半と呼ぶには短すぎる第二部をもっと膨らませて、途中まで真犯人を明かさず進む倒叙形式で(第一部の最後でも真犯人を明示/暗示せず)行ったら、もっとガツーーンと来たんじゃないかな、などとも思いました。 まあでも、真犯人とその背景を知ってから第一部を読み直すと、はぁーーコイツそうだったのかよ… って見事な大胆伏線や裏ストーリーが哀感帯びて次々と浮かび上がって来るのですね。 やはり、ここは構成の妙と言うべきでしょう。 そうか、アンタの「夜」ってのは。。。 終わるのか。。。。 読んだら、赤羽に行きたくなりました。 |
No.1087 | 7点 | 小人たちがこわいので ジョン・ブラックバーン |
(2021/09/06 15:09登録) ほー?これ本格ミステリなんだ。。徐々に島荘っぽくなるし。。本格映えするフックがいくつもあるし。。って思って読んでたんですけどね。大型物理トリックの予感もなかなかで、飛行機のエンジン音微調整に異様にこだわるとか。。 ジャンルミックス × 素材ミックス(伝説の遺跡発掘、公害の犯人捜し、東西冷戦、ナチスの亡霊、ヒッピーnotビート族、バイオテロ。。)の限界詰め込み小説なんですかね。ホラーラーでない自分にはその旧モダン・ホラーの終局だか新モダンホラーの黎明だかのスリルが殆ど感じ取れず、専ら本格ミステリと政治絡みサスペンスの熱い併走、に何だかよく分からない面白要素が闖入して来たぞ、てぇなもんでした。結果的に前述の飛行機エンジンの件こそ本作のメインバカトリックとして自分は認識することになります。んでやっぱり島荘のような熱さでぶち抜く最終コーナー。。。最後は、島荘、とうとう裏切るw みたいな〆。 当初の憶測で期待した本格ミステリ寄りの結末ではなかったけれど、なんだか混乱したけど(エピローグはもやもやしただけ)、要は全体の面白さが勝ったのですね。 小説技法的には、古い文庫解説にもあったけど、会話の捌きが上手いです。 むかし職場の先輩が「この本だけは本っ当に怖かった..」と語っていたのが今も記憶に鮮やかな一冊です。(すみません、自分は怖がれなくて..) それと、昔の創元推理文庫巻末目録でフレドリック・ブラウンの次に並んでいたせいか、本作もブラウンの作品だとしばらく思い込んでいたものです。「三人のこびと」に引っ張られたのもあるかも。あとチェイスの一連の邦題ともちょっとイメージかぶってましたね。 |
No.1086 | 7点 | 疾風ロンド 東野圭吾 |
(2021/08/31 19:30登録) やっぱ夏は雪だな! 全力で書き飛ばした様な一筆書きハイクオリティには参った! このツイストだらけの豪速リーダビリティは、ターンを交えて高速直滑降(スノボ群と共存しつつ)の隠喩そのものではないか?! 物語の幹は、或る超危険物質の争奪戦、舞台はスキー場、やわらかい人達が軽い会話と行動を繰り返すくせにやたらサスペンスは熱い!! Tetchyさんもご指摘の、スタート間もないトコでいきなり大型ツイストが捻じ込まれる展開はシビれます。 こんだけヤバいブツを相手にお気楽過ぎねえかと思う場面もたくさんありますが、それはもういいです。 斬新で滑稽で絵になる雪上のアクションシーン、忘れるものか! ホワイトなんだかブラックなんだかターコイズなんだか、誰が狡くて誰が哀れか、誰がしっかりしてんだか無用心なんだか、心と頭が空中に迷う凄いエンド!! こんだけエンタメに振っといて、ダークなしこりもそれなりに残す。やっぱビールは苦くないとな。フウー。 (コロナ禍で罹患等被害に遭われた方には、辛い側面のある小説かも知れません) |
No.1085 | 9点 | 首無の如き祟るもの 三津田信三 |
(2021/08/30 18:30登録) 「でも、これは●●じゃありませんか」 「………」 連続殺人の被害者に何気な意外性。こいつが何気に、ぶっといミステリ信頼感の柱を成している(だけでなく、大化けするぞ!)。 見せつけるように晒されるメタ要素も、すんなり馴染むから厄介だ。 生首●●ン●●ン●とでも呼びたい仰天心理/物理トリックの横暴な正面突破! こんなに、このレベルまで、肌理が細かく大胆不敵で、隅の隅までびーっちりと、夥しいこと目が眩むほどの伏線群ユビキタス配置。。。。普通だったら不興を買っておかしくないご都合要素も、瞬間粉砕されて風の中。。 たった一つの盲点大疑惑から、スルスルと全ての欺瞞が暴かれるに至る、凝縮度合も甚だしいスリルの突き上げよ!! 更に、これだけ心を揺り動かしておいて実は●●ー●●●作だという、灼熱の大どんでん返し!! いやいや、本当にやばい作品。 やたらな高評価も納得しかありません。 色んな意味で、最後は虹が掛かったか、掛からなかったか。。。。。。。 それにしても、シリーズ先行二作に較べて、文章が格段に良くなっている! 時代の空気も今度こそは嗅げた。場違いな平成感ほぼ無し!(作品そのものは、やっぱり平成の新本格だなあ、って感心します) 文章でズッコケた先行二作もミステリの内容は半端でなく充実してると思ったし、こりゃシリーズ次作以降も楽しみですな。 |