| 斎藤警部さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.69点 | 書評数:1438件 |
| No.1238 | 7点 | 屍人荘の殺人 今村昌弘 |
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(2024/04/09 21:47登録) 「いけ、そこだ。頑張れ、殺せ」 被害者の意外性(!!!)はそのまま物語構造への湧き立つような疑惑に直結。 一見目新しいような探偵役が、話が進むにつれぐだぐだに類型的な存在に落ち着いたり、パニックやら恐怖やらがさっぱりリアルに迫って来なかったり(私のホラー感覚欠如障碍もあるが)。 なかなか冴えたるロジック含めて情報はギンギンに詰まっている筈なのに、なんなのこの謎の中だるみは。 しかしリーダビリティは終始丸ビル並みに高いだな。 鋭いロジックの付け込めそうな隙というか場というか違和感がそこかしこふんだんにジャカジャカ踊っているのは見逃せない美点でありましょう。 専門筋からやたらな高評価を受けるのも納得のブレイクスルー新機軸。 ですが、個人的には文章の好みの壁を越えられなかったですね、ミステリそのものの熱エネルギーが。それでも充分に高く評価しちゃいますよ。 “食糧危機と●●●と殺人者、複数の波濤がぶつかり打ち消し合う、不思議な平穏の中に俺たちは身を置いていた。” エレベーターには、●大●●●がある。。。。 意外な組み合わせの男女に意外なミステリドラマもあった(そこにちょっとした短いアレも。。)。 或るカウントダウンにそこまでスリルを感じる登場人物がいたのは、そういうわけか。。 「おっしゃるとおりです。実際に殺人は起きているのだから、それが可能であることを証明してもなんら意味はありません」 物語の根幹に纏わる所で、ホワイダニットとハウダニットが異例なほど不可分に連結した或る人間ドラマ事象には、強い力がありましたな。 ところで、プロローグのとエピローグの繋がりは、ちょっとやばくないですか。。。 |
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| No.1237 | 7点 | マックス・カラドスの事件簿 アーネスト・ブラマ |
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(2024/04/06 14:10登録) 「『探偵ジェイク・ジャクスン』を読んでいたのかね?」 ディオニュシオスの銀貨 カラドスとカーライル、意外な再会。そして小手調べの事件解明。蠢き始める一篇。 古銭の偽造に纏わる話。 7点 ストレイスウェイト卿夫人の奸知 灼熱の騙し合い冒険譚。最後に顕れるのは、まるでやさしい連城のような、反転そのものを逆説に掛けたが如くの、滋味溢れる反転模様。 「円の弧はわずかなものであっても、全体の形を作り上げることはできる」 ラストシーンの明るさ、爽やかさ、温かみにはやられました。若い没落貴族夫婦、真珠の盗難に纏わる話。 9点 マッシンガム荘の幽霊 集合住宅にて幽霊騒動。トリックこそギャフンギャフンだが、その背景/動機はなかなか読ませる怖さと面白さがある。ちょっとした冒険シーンも良し。ラストシーン更に良し。 7点 毒キノコ 少年毒死事件。地道な捜査部分含む物語のドラマ性が躍動し、トリックのおとなしさを凌駕。やはりラストシーン良し。 7点 ヘドラム高地の秘密 第一次世界大戦前夜のスパイ疑惑なる深刻な背景を持つ冒険譚。暗号解読に纏わるカラフルな挿話が良いバランサーとして機能。 6点 フラットの惨劇 「命が狙われている」と探偵のもとへ駆け込んで来た浮気亭主。ホームズ譚を大甘にした風情だが、情景の浮かぶ文章に軽いユーモアの配置も効いて読ませる。決定的な偽装発覚ポイントをカラドスが明かす小ぢんまりしたエンドも、ささやかな考えオチで締まり良し。 6点 靴と銀器 民家にて銀製品コレクションが消失し、靴が盗難の証拠品と目される。こういう言い方するとネタバレっちゃネタバレなんだけど、全く無関係な二つの事象がある種小粋に面白い絡み方をして、不思議な結果を見せた話。乾いたメロドラマの中に、手堅く、なかなかに熱いロジック在り。ドタバタ気なユーモアよろし。いきなり小咄風に締めるラストも悪くない。 7点強 カルヴァリー・ストリートの犯罪 卸売会社の優しいお飾り社長が精神錯乱?状態で帰宅。その後、会社の倉庫が火事に遭っていた事が判明。 緩いホームズのような話だが、この過不足無いユーモアと時代感は素敵だ。 6点 探偵二人。主役は盲目。暗闇のようで暗闇でない、あちこちで手掛かりが光る「場」での心理戦が実に眩しい。 あか あか あか あか あか あか あか おお おお おお おお おそろしい おそろしい おそろしい にゃあお とびら |
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| No.1236 | 8点 | 無間人形 新宿鮫IV 大沢在昌 |
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(2024/04/01 13:56登録) 若者を標的にした新手の覚醒剤ビジネスを巡り、警察と麻取、ヤクザと不良、地方財閥の本家と分家、そして一人のロックスターが複雑なパズルの様に交錯しながら或る破局へ向けて突っ走る警察×犯罪ノヴェルの剛速球。 詳細コメントは省くが、最大のミステリおよび文芸上の興味は「何故わざわざ違法な仕事を始めたのか」かな。 それと例の「携帯電話は繋がっていた」シーンが熱かった。 |
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| No.1235 | 7点 | ソロモンの犬 道尾秀介 |
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(2024/03/27 21:34登録) 「人間と動物を区別するなんて、お茶と飲み物を区別するようなものだ。人間に失礼だよ」 序盤より何気な叙述ジャブ心地よし。あざといくらいで丁度よし。またエピローグでも対称形のように、叙述のアレの答え合わせがそこかしこでパチリパチリと心地よく、碁石を打つが如く響く。 回想配置と時系列揺さ振りの妙味・醍醐味ったらない。 この構成の中でうねりまくり、ミステリ興味を引き摺りまくるストーリーの向こうには作者の固い拳が見える。 頑張ったな、道尾秀介さん。 大学生の男子二人(一人は主人公)+ 女子二人(一人は主人公の恋愛対象)= 人間四人の友達サークル。その周辺にて、シンママ助教のご子息でもある「四人が可愛がっていた少年」が交通事故死。連れていた愛犬に、腕に巻き付いたリードを引っ張られ、トラックの前に体が引き摺られる形で、多くの違和感を残しながら。。。。 或る雨の日偶然に、古式ゆかしい喫茶店に同席した四人は事故?事件?の真相を探り出そうと、年季の入ったテーブルを囲み、過去を振り返り、掘り返そうと対話を始める。 普通だったらエピローグになるような「本編最終章」から本当の「エピローグ」の最後の最後まで、魚卵びっしりニシンのように味と謎とミステリ興味が詰まりまくった素晴らしきガッツを見せる入魂の一篇です。 セイスンミステリだからって、いい大人の方も敬遠する事はまるでありません。 犬の習性。ヒトの習性。ふむふむ。。 まあ、或る人物の行く末があまりにも爽やかにうやむやに放置された感は少し気になります。そのため完璧作にはなり損ねていると思いますが、そんな事はいいんです。 メイン事件の真相がちょっと弱いかな、とは思いますけどね。 それでも高得点だね。 |
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| No.1234 | 8点 | 石の猿 ジェフリー・ディーヴァー |
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(2024/03/23 14:10登録) 「しかし」ライムが言った。「きみにとっては、事件は集産化されなかった」 蛇頭、中国公安刑事、反体制密航中国人、中国系米国人刑事等こぞって登場し、社会問題孕んだスリルでいくらでも深く抉れそうな所、敢えてソレは気前よく濃いぃダシに使い切り、中国文化へのツンデレ共感帯は盛り立てつつ、JD自家薬籠中の激風サスペンスで平常心の堂々反転勝負を挑んだ、誇り高き一篇! 「だめよ、ライム。このままでいいの。やりすぎなくらいがちょうどいいときもあるのよ」 数十数名の中国人を乗せ、ロシア某港より出航した密航船。ニューヨークに到着する直前、悪天候にも祟られ当局に拿捕されかかったその時、密航を取り仕切る蛇頭「ゴースト」はあろうことか船を爆破させる。更には生き残った密航者たち、即ち自らの大量殺人を告発する証人となり得る者たちの全抹殺に取り掛かる。まずは身内の裏切り者から、古代中国を思わせる惨烈な拷問の末、捜査陣へ見せつけるように葬り去った「ゴースト」。 瞬時の隙も無く読者を揺さぶり続ける本作だが、中でもラス前第四章終わりのヒリヒリする熱さったら無い。 やぱぁ友情・・奇蹟と必然の結晶・・が中心に来るミステリは最高だね。 こ、この泣かせるシーンは、まさか、アレのフラグじゃあるまいな・・と危ぶみつつも、やはり胸熱だ。 しかし、このタイミングでソレをバラすって事は。。などと熱々の先読み、切ない憶測を促す文章力と構成力は本当に強力。 現場(海底)遺留品から数学的に或る疑惑を状況証拠へと具体化して行くくだりも素晴らしい。 最後の、「二人」それぞれの決断。 友情のため、愛のため、それだけではない。 そしてあまりに熱い抱擁。 何より、最高に泣かせる「或る見知らぬ人」への手紙! 今さら言ってネタバレにもならないだろうが(??)、やってくれました、この甘々の、瞬時にしてお花畑の広がる(?)とろける結末・・ だがそこへ行き着くまでのスリルとサスペンスと反転がモ~ァザン盤石であるからこそ、俺は全然好きだ。 それから、これを言うと若干ネタバレかも知れないけれど、ある意味それまでのシリーズ作風が重要な真相隠れ蓑になっているような気配は、いたします。 何しろ、アッチのあの反転はよしんば想定内としても、まさかの大オチがね。。。 そして相変わらず、高級コールガールの様な高級読み捨てマテリアル。 これぞ最高の美点でありましょう。 |
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| No.1233 | 7点 | 死者は語らず 「宝石」傑作選集Ⅰ 本格推理編 アンソロジー(国内編集者) |
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(2024/03/20 16:17登録) 五つの時計■■鮎川哲也 「大切なお客さんが待っているんだし旨い酒があるし、それに可愛い奥さんもいるからな。十分ばかり邪魔をして帰ってきた。」 本格推理不滅の象徴。 完璧の化身。 滋味の麹壺。 いい酒、いい音楽、いいニシンの燻製。 文章の節々に覇気と余裕と緻密な配置。 スリルもサスペンスもスロースターターと見せつ、直ぐ点火。 母娘の情愛に絆される場面など有。 堅牢なロジックと涙が出る程の味わいが不可分に結託し、同席で流しそうめんを啜っているよう。 “甘い疑念”潰しも抜かりなく伴走。 何気にエロい実践の説得力たるや。 しかもその持続の妙たるや。 「いや、それとこれとはある程度関連性もありますが、本来別のものなんです。しかしどうにかアリバイを崩すこともできました。」 アリバイ偽装と暴露の極意を『ナんとカ講義』ナんテ大掛かりな光り物でなく、さり気なくも深い耀きの地の文で披歴。 警察内部の犯罪オン犯罪という構造だが、社会派など眼中の大外刈りで颯爽と。 しかし本作の鬼貫は本当に、腹の底から良いな。 君の魅力に、俺もアタイも落ちそうになったぜ。。 更にはラスボス?蕎麦屋のギラつく魅惑の坩堝よ! 締めも言うこと無し! いっそ全文暗誦したい。 10点 風の便り■■竹村直伸 幻想か、怪奇か、愛なのか。 届く筈のない、精神を病んで入院中の父親から娘への優しい手紙。 その背景には、タイミングの妙が何とももどかしい謎めいた毒死事件。 巨大過ぎる切なさへの、吹雪さえ呑み込む切実な予感。 物語の芯らしきものが罪悪の峡谷へと沁み渡り、うなりを上げる。 ノンキだと・・!? 何故そこで、それを我が子に託す?! 超自然と論駁推理とを結ぶ焦点の在り処には果たして何が。。。 真相はミステリとして特に目新しいものでもないが、そこへ至る道筋のまぁスリリングなこと! 「ハナミズキ」 のエンドレスリピートをバックに読みたくなるのは前半まで。後半はがらっと顔色が変わる。 7点 泥まみれ■■島田一男 家出癖のある、二十も歳の離れた弟が、遠方にて、遠い親戚筋の女と心中を図り、死亡。 因縁蟠る中で兄は或る復讐を心に誓う。 自然と抒情豊かな物語背景に、島一節のちょぃと熱い所が炸裂。 凄まじさと癒しの行き交うエンディングにはどことなく風太郎風の味わいが。 7点 E・Pマシン■■佐野洋 この真犯人/真相意外性は結構なパワー持ってるよ。 アパートでのガス中毒死に続いた予告殺人。 SFチックな犯罪解決ロボット顛末のオチには流石の左翼魂。 ところで真相暴露のヒントなった或るワードの特性、現在ではちょっと微妙ですかね。。 7点強 吸血鬼考■■渡辺啓介 こんな洒落た羊頭狗肉は許せる。 英国カントリーサイドの大邸宅を舞台に、ちょっとした歴史ロマンと現在の淡い恋愛模様、そして秘めた友情物語が交錯。 ゲーム風展開に及ぶシーンも好き。 6点 臨時停留所■■戸板康二 標題が誘う軽いミステリ興味は、ミステリと言うより文学的反転へと帰着。 仄かな旅情を含みつつ、激しい部分もありながらやさしいオチで幕を引く、田舎の人情小品。 6点 消えた家■■日影丈吉 戦中台湾怪奇譚。 軽い数学パズルに絞められる話。 油の軽いフレンチフライ。 5点 おたね■■仁木悦子 「二十二年です」 “日ごろから数えてでもいるのか、おたねはすぐ答えた。” これぞ勝利の歌。。。 とも言い切れない物語の襞の深さや佳し。 人を泣かせるのに機械的物理トリックも使いよう。。 と思えばそこには心理のダメ押しが! こりゃ唸った。。 偶然再会した昔の使用人の重い告白を聞く。 8点 毛唐の死■■佃実夫 旧い事件を歴史学者の様に解き明かさんとする図書館司書。事件の被害者は徳島県在住の著名なポルトガル人。 調査の過程はひたすらに地味だが、解決篇となる最後の酒のシーンでは感動押し寄せる忘れ難き一篇。 7点 付録「宝石」の歴史■■中島河太郎 同誌の飛躍と艱難、光と影の道筋を、具体的作者・作品名やエピソードを愉しく散りばめ綿々と証言。 往時の空気が良く漂う。 嗚呼「抜討座談会」。。 8点弱 |
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| No.1232 | 7点 | Nのために 湊かなえ |
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(2024/03/16 13:50登録) 作者自ら語ったという『立体パズル』そのもの! ズルズルと解(ほど)き出される魅惑のゲーム性、新事実は新世界。これに恋愛心理劇や●●●●に纏わる過去など程よくキツめに絡んで彩り豊か、おかげで味気無さとは無縁の小説型パズル。 叙述ギミックも最高に効いている。(「十年後」の置き場所!) こじらせ王子がドえらいことやらかしよった、ってだけの話じゃなかった。 作中作の使い方。 仄かな暗号興味。 将棋の魔力がなにものかを発揮する。 マンション高層階で謎の複数死から始まる所は宮部みゆき「理由」を髣髴と。 頭文字Nに該当する人物ばかり登場するけど、ひょっとしてNobodyのNかも・・・なんて憶測してみたり。 いやはやタイトル通り(?)文句無しの「エンタメ」長篇そのものでした。 圧巻のリーダビリティに是非、あなたも振り回されたし。 「お外はすばらしいでしょ。この世界はみんな、あなたのものなのよ」 |
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| No.1231 | 7点 | 君の膵臓をたべたい 住野よる |
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(2024/03/09 20:54登録) 「いい天気ー。こんな日に死のうかなー」 不治の病を膵臓に抱える女子高生は『共病文庫』なる秘密の余命日記を付けている。 現代医療のお蔭で外観は普通に明朗快活な高校生活を送る彼女。 クラスメイトの静謐男子がある日、通院先にて偶然『共病文庫』の存在を知る。 そこから始まる、二人を中心とした、奥深く謎を秘めた青春&人生ストーリー。 「いやぁ、君がまさか私をそこまで必要としてるなんて、思いもよらなかったよ。人間冥利に尽きるね」 殺人事件が起きた。 主人公には名前が無い(最後に明かされる..?)。 ヒロインには将来が無い(だが現在は輝いている)。 この物語にはどうも何かある。 変わりゆく主人公。 この、大馬鹿者・・・・ んもう、じれったいんだか何だか。 “また彼女は韜晦に走るだろうか。そうしたら、僕はどうしよう。更なる追及の勇気が、僕にはあるだろうか。あったとして、何か意味があるのだろうか。” こう見えて本作、親子愛とキレッキレな友情、そして未来と青空の物語であることは確実。 仄暗さと明るさの好配色のような、柔らかいがイテテ率も高いユーモアが遍く浸透。 ぅっぁーたまらない会話の投げ合いとか。「革命に次ぐ革命で国民がいなくなるよ」 心の言葉のすれ違いとか。。 “やっぱり私は弱い。ばれなかったとは、思う。” 何処となく漂う、大◯◯トリックへの予感や、その手掛かりめいたもの。 何気なく挿入される ”クイズ” 的な何か。 一見勘違いのようで・・・そうでないような絶妙なダブルミーニングもどき。 主人公の特性に頼った、素晴らしき逆説の煮詰め具合。 ヒロインの命が掛かっている事を実感させるに足る、言葉の意味深さの沁み渡り。 「家に挨拶したの。私を育ててくれた大切な場所だよ」 ようよう結末へ向かうにつれ、来た来たあぁーーと押し寄せる波しぶきの圧と祝福にやられたし。 “旅行も楽しかったし” ・・・ これ泣けたなあ “一度胸に抱いて” ・・・ このワンフレーズも本当にやばかったですよ 単なる(?)メモの、等比級数的にぶち上げ広がる、心への何か・・・ これほど泣かせる事務的事項の羅列、「(怒)」、「(第一回)」あるかってんですよ。 アレの感動突風のすぐ後に、ミステリ興味のズキズキワクワク展開図を置きに来るってのもねえ、色んな方向から揺さぶられて、こりゃあもうたまらんのですよ。 “仕方なく僕は「考えておく」と答えた。彼女は「お願い」と一言だけ添えた。意味のある一言だった。” 『生きる意味』について、あるいみ最近の理論物理学にも通じるような、ちょいと深い、い~い事が語られるシーンもありました。 最後の方、「えっ!? そっち?!」と展開に嘆き、そこにバランスの悪さを感じもしたけれど、考えたらそれはこちらが勝手に、ある種の静かな常套展開を想定してたに過ぎないのですな。 そんなもの、必要ありませんね。 “世界は、差別をしない。” 本作、可読性こそめっちゃあ高いが、一気に読んじゃああまりに勿体ない。 是非、じっくり行きましょう。 略称は「キミスイ」だそうです。「人間の証明」のアレをチョイ思い出します。 娘の男子クラスメイト推し本を読んでみました。 |
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| No.1230 | 7点 | 迷走パズル パトリック・クェンティン |
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(2024/03/06 22:28登録) 「誰もが己の本分をわきまえるべきです。ぼくは演劇プロデューサーなので、演劇プロデューサーとしてこの問題に取り組みたいと思います。」 信頼できないかも知れない探偵役(候補??)。 意外な被害者と意外な殺人現場。 ドタバタ心理試験。 真犯人かどうかはともかく天才的犯罪者が登場して場を掻き回す。 「台の上のもの!」(笑) そして、高名の指揮者が奏でる美しいピアノよ 。。。。 主人公がアルコール依存症治療のため閉じ込められた精神病院内にて、病理なのか超自然なのか判然としない怪奇現象が続発。 その現象内でまるで予言されたかの様に、やたらパンチとヒネリの効いた連続殺人事件が起こる。 患者の中に佯狂の者はいないのか? 医師や看護師の中に殺人狂は紛れていないのか。。? “子供たちよ、物事は少しばかり悪いほうへ向かっている。だが、心配することはない”” おお、真犯人暴露へ向かう道筋が最高にスリリングじゃないか!! 多方向への憶測振り撒きが半端でないぞ!! おっとぉ、こいつあ全く以っていよいよ。。いんやいや、この端倪すべからざる、抜け目ない逆説駆け巡る結末と、そこへ至る迄のステップの軽やかにして踏み込みの深い、揺さ振りの眩しさ、頼もしさよ!! 真犯人当てちゃってたにも関わらず、こりゃあ参ってしまいした。 声のトリックこそ、ちょいとご都合すっとこピクニックな感じですが、それがメイントリックってわけでもなし、良いでしょう。 シリーズ第一作目がこれ、という構造もいろんな意味で凄いですね。 イザベルより断然アイリスだねえ。 「自分の推理を過小評価することはない。わたしと同じだったのだから」 |
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| No.1229 | 7点 | アリバイの唄 笹沢左保 |
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(2024/02/29 23:30登録) 元刑事の口癖は「ベイビー」(笑)。 彼の苗字は「夜明」。 まさか、その珍姓に引っ掛けた前代未聞の叙述アリバイトリックでも登場するのではアルマイナ、と半笑いで余計な緊張! 退官し今はタクシー運転手の「夜明」が東京で乗せた、激しい喧嘩真っ最中のわけあり男女。その女の方が愛知で屍体となり発見される。 一方、数日後に上野から逗子まで運んだ女性の訪問先には、まさかの「夜明の初恋の人」が住んでいた! こりゃ夜明元刑事、自身の事件ってとこか。 さてこの偶然、ミステリ的にサホリンはどう落とし前を付けるつもりか。。 “崩しようもない完璧なアリバイがある。それが、いまの夜明には唯一最大にして、何ともやりきれない希望といえそうであった。” あまりにモノあり気な早朝の電話連絡。 鉄壁のようなチラリズムのような、心惹かれるアリバイ夜話。 大トリック物理的側面の核心を掠る、実に際どい地の文もあった。 ”○○○の○” なる、まるで初恋の帰り道のように儚いようで儚くないミスディレクション兼ちいさな手掛かり(?)もクイッと引っ掛かって来ましたよ。 島田一男ばりの粋な言葉の投げ合い、島田荘司ばりの大規模バカトリックに、ちょいと小粋で(?)おバカな手掛かりまで。。 まるで長い電報文の様な、口頭ダイイングメッセージらしきもの、こいつもなかなかのおバカさん。 第一この表題はある意味バカタイトルと言っても良いのかな? ふむ、本作はまるで「バカ」のタペストリーだ。 しかし、そのタイトルの意味するものが炸裂するラストシーンはどうしたって泣ける。 つか泣き笑い。 結構重い人間ドラマは後付けの装飾だと思う。 それで良い。 この本は面白い。 「正解だぜ、ベイビー」 |
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| No.1228 | 8点 | 寒い国から帰ってきたスパイ ジョン・ル・カレ |
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(2024/02/24 12:48登録) 「一分あれば、壁まで行きつける。では、しっかりやれよ」 「きみはおれたちをなんだと考えている。 スパイだぜ」 本作が忍ばせた連城三紀彦スピリット(?)は後からじわじわ来る。 将棋のように、ゴールに向かい一手一手詰めて行った挙句のどんでん返しではなく、オセロの如く、状況の瞬時転覆が連鎖する形で大反転の真相暴露。 この小説の外貌の醍醐味はそこにある。 主人公の直接相対する相手がステージクリア風に次々切り替わって行くのも小気味良い。 そして、最後には・・・・ 敵味方驚きの構造が明かされてお終いではない。 それは飽くまで組織の枠組。 中で実際に動く者たちの関係は複雑に推移する。 そこにまた意外性を醸すミステリ興味の重要エレメントがある。 統制された心理の暴力が荒れ狂うクライマックスの査問会(裁判)シーンは圧倒的。 だが、それすらも、、、、これ以上は言えません。 “どんなに愛情に富む夫であり、父親であったにしても、つねに愛し、信じている相手から、遠のいたところに身をおかねばならぬ。” “第二、第三の人物として生きることを、おのれ自身に強いたのだった。 バルザックは死の床にあって、かれが創造した人物の健康状態を心配したと聞くが、同様のことがリーマスにもいえた。創造の力を棄てることなく(以下略)” ラストシークエンス、事務的側面含んだ緊張と、それすら裏切る予感。 物語の、そして最終章のタイトルが意味するところ、確かに受け取りました。 怖るべきは、物語内の比重高く大胆不敵な□□トリックさえ実は●●●だった、という物語構造でしょうか。 それは本作主題の痛切なメタファーですらありましょう。 「神とカール・マルクスをおなじように軽蔑する男たちーー」 「しかし、リーマス。 きみも利口な男じゃないな。」 さて、最後の一文ですが・・ |
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| No.1227 | 6点 | 雪に残した3 新田次郎 |
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(2024/02/20 21:41登録) 土樽よいとこ またおいで 皆さんなじみの ヒゲがいる 『ダイイングメッセージ作成をリアルタイムで目撃』 という尊きレアケースから始まる雪山物語。 死に際に遺す「3」なんて言ったら、クイーン某短篇で語り尽くされた(?)様に、文字通り(文字通り)、多方向からの憶測を呼ぶものですが。。 「なるほど、それでどうしたんだ。おれはこの年で推理小説のファンなんだ。昔は女に興味を持ったが、このごろは女よりも読書に興味を持っている。」 舞台は魔の谷川岳。山の仲間が悪天候の中不審な死を遂げ、同じ山の仲間たちを巡って次々に顕れた疑惑につぐ疑惑。 探偵役「星野」は在京山岳会の会長にして零細出版社の社員。 山岳会の仲間たちや取引先社長の力を借りて真相糾明へ向かいジリジリとアプローチ。 やがて迎える容疑者3名揃えての「山の裁判」を前に、晴れやかな出発の勢いと、微かな翳り。 まさか、稀代の “バカ真相” ではアルマイナと少しばかりの危惧も持たせつつ。。 含みを持たせたやらしい結末 ・・・ 「推理小説はいい。最後まではらはらさせながら読ませるあのもたせかたは、なんともいえない味があるぞ。」 山岳推理小説ではおなじみの「山男ならではの純粋さ云々」と「山男だからと言って純粋とは限らない云々」、相反する二つのキーフレーズは五月蠅くならない程度にやはり登場。 俗物としか映らなかった「◯◯」の豪快な問題解決者ぶりに胸のすく熱いシーンもあった。 「金次第だ。金さえあればなんだってできる。その金は俺が出す。」 “星野は何か明るいものを目の前に感じた。問題はやはり金である。” 自然の怖さなどは然程伝わって来ず、山の空気の爽やかさなど割と小ぢんまり描写されるばかりだが、其れも又佳し。 地味ながら不思議なワクワク感、ばらけた様で何処か締まりのある、小味で愉しい小品(長篇)です。 “裁くのはおれだ。しかし、裁かれる者はそれを知っているであろうか” 或る登場人物の◯◯◯○ー○というか○○が後出しに過ぎるのだけは、あきれて物も言えなかったが(でも仕方無いのかな。。)。。。 本当は本格推理とは言い難いのだが。。だが敢えて本格と呼びたくなるのだな。。 繰り返しになりますが、本作の結末、含みのある独特のやらしさは一度味わってみて損は無いでしょう。 ラーメンと、マッチの図案、最高だね! |
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| No.1226 | 7点 | 蒲生邸事件 宮部みゆき |
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(2024/02/17 19:07登録) 「坊っちゃまにお伝えくださいまし。◯◯は約束を果たしましたと。よろしいですね、必ずお伝えくださいましよ。」 歴史的事件に絡まるタイムトラベル要素は、SFというよりやさしさファンタジー。 このやさしさが、終局で効いて来るんだなあ。 ただ、時間移動に伴う肉体への負担にリアリティ持たせているあたり、甘々のファンタジーというわけでもない風。 「人殺しをする、そんな勇気が僕にあったなら、最初からこんな羽目にはならなかった。」 本作、ストーリーの盛り上がって行く曲線が緩やかでなかなかにじれったい。 何しろ、ミステリ性の中核であろう事案が、あんな所まで進んで、やっと見え隠れし始めるという構造。 そこまでの筆運びが佳いからこそ許されるわざですね。 “自殺死体の周辺に拳銃が無い” という謎が起点の話の膨らみが微妙にミステリ的興味から外れたと思ったら、SF要素とギリ点でタッチするあたり、こりゃほんとに微妙ですわなあぁ。 動線が 奇妙な作りの 蒲生邸 ・・・ こんな魅力あるフックさえ・・・ 「君は学がない。その割に頭がいい。そのくせ、妙に勘が鈍い。」 目立つのは、やや浮き足立った色恋要素。 恋愛対象が意外と微妙に絞り切れてない(ただ決め打ちはしてある)感じもリアル。 さり気なさに予感を秘めた或る別れのシーン、良かったです。 タイムトラベルに纏わるちょっとした日常の??トリックには良いユーモアが籠っていたな。 楔を撃つ ’チョイ役’ 再登場の証言を経て、ラストモノローグはさり気なく爽やかに、未来を祝福。 ジャンル的には。。 私も、alcheraさん、ごんべさん仰る様にこれはミステリ/SFどちらのスロットにも嵌らず、まして歴史小説ではなく、、 toukoさん同様、青春小説だと感じましたね。 ミステリですけどね。 |
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| No.1225 | 1点 | 恐怖王 江戸川乱歩 |
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(2024/02/10 11:36登録) あな、スリルもサスペンスもトリックもロジックもありゃしない。 中途半端な猟奇犯罪を半端に繰り返す変な人の話。 冒険も意外性もリアリティも痕跡すら見つからず(ちょっと言い過ぎ?)。 東京市中が恐慌に陥っている空気感はまるで無く、悲劇に見舞われた探偵役「大江蘭堂」の心の動きも直接間接まるでうわのそら。 第一こいつさっぱり頼りにならねえや。 妖婦の何とかさんもまるで魅力匂わず。 作者の物語闖入もヒつこくて鼻につく。 被害者の肉体損壊のされ方にちょっと目を引く所はあったかな。 リーダビリティは異様に高く、読んでいて不快な気分にはならない。 そこで2点ばかり加点して、なお1.5に届かず。 と、思いきや、最後のこの 。。。。思索的オープン反転?! 。。 いやいや、エンディングはちょっとだけ取って付けの趣きがあったけど、とてもとてもこんくらいじゃあ逆転は叶いませんよ。 乱歩さん、心に砂漠を作らないで! 次はいいやつ頼みますよ(象)。 |
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| No.1224 | 7点 | 八点鐘 モーリス・ルブラン |
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(2024/02/07 23:34登録) 塔のてっぺんで 単純な計算式に還元の上で隠匿されていた絶望悲劇が暴かれる。 主演二人の始まりの物語。 水瓶 証拠隠滅の物理トリックは陳腐化していようと、真犯人追い詰め心理戦の摩擦熱を発するスリルは不滅。 レニーヌ最後の台詞も共感に溢れる。 テレーズとジェルメーヌ これは熱い。 有名な⚫️⚫️トリックが暴露されてこそ顕在化する、愛人と夫と妻と幼い娘達のドラマに心は釘付け。 最後のオルタンスとレニーヌの会話でノックアウト。 映画の啓示 これまた随分と大胆な犯罪露見の手掛かりだなと思っていたら。。ミステリよりも◯◯よりも姉妹の愛情物語が勝ってしまったかな。 締めのホットな部分が長くなって来ているね。 ジャン=ルイの場合 或る青年の出生に纏わるドタバタ悲喜劇から始まり、滑稽味を残したまま貫徹した心理トリック問題解決は、若干肩透かしだったか。。 締めの台詞もちょっとなあ。 よく言えば落語風。 斧を持つ貴婦人 やにわに風雲の「転」へと導く、黒い光沢の冒険譚。 オルタンス気絶の際の台詞にゃあ最高にじゅんわり溶かされた。。 ミステリ性が薄いようでいて、最後にやっと気付かされる、淡く優しくも胸に迫るツイスト。 先行作とは異質の静謐なエンディングに打たれたし。 雪の上の足跡 人によってはタイトルで噴き出すかも知れないが、一見大時代ドラマの添え物めいた心理的物理トリックが、実は奥深い余韻を残す。 おまけにダメ押しのコミカルな落ちにまで手を伸ばす。 いやはや趣深し、足跡トリック。 レニーヌとオルタンスの関係も愈々もって趣深い。 マーキュリー骨董店 大胆なミスディレクション(?)を経ての激しい頭脳戦から、麗しくも悦ばしい、King & Prince ”シンデレラガール” が流れて来るような白光のエンディングへと雪崩れ込み。 諸々の落とし前もジャスト・イン・タイムに付けられ、連作短篇集としてまず文句なしの終結。 ごさっしたーー。 |
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| No.1223 | 7点 | ある男 平野啓一郎 |
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(2024/02/04 09:07登録) 二人目の夫が山中の仕事場で事故死。 夫の兄は実家から駆け付け、一目見るなり「これは弟じゃない!」。 数年前に一人目の夫と離婚の際世話になった弁護士(主人公)が再び呼ばれ、「夫」の正体探しと「弟」の所在捜しに奔走する、サスペンス沸々と蠢く人間史発掘ドラマ。 溢れる言葉で思弁と春情いっぱい。 フレーズの密集が匂わしい割に、リーダビリティは頗る高い。 「それにやっぱり、他人を通して自分と向き合うってことが大事なんじゃないですかね。他者の傷の物語に、これこそ自分だ!って感動することでしか慰められない孤独がありますよ。……」 亡くなった/消えた人物の捜索(キーワードは「●●」。。。。)への興味に留まらず、夫婦や親子、兄弟や男女の愛憎関係へも、濃淡織り交ぜイメージ豊かな主題性が付与されています。 ある組合せの二人の関係に、ある意味エンドマークが下された直後から、二人にとってはアンコールピース、物語にとってはクライマックスが始まる予感でいっぱいの構図、ニクいね。。 と思い込んでいると。。 いやはや、この進行からの流れも最高にじんわり来ました。 「なんか、二百歳まで生きた人間を知ってるとか、メチャクチャ言ってましたよ。」 ○○は、思わず吹き出して、手に持ったコーヒーを零しそうになった。 「僕には三百歳って言ってましたよ。」 回鍋肉カレーとマイケルシェンカー、シメイホワイト。。 終盤の方で、どうしても一呼吸、いや暫くの時間を置いてから読みを再開したくなる章間がありましたね。筆力だねえ。 様々な人間どうしの関係叙述が整理を終える度パタパタと蓋を閉じ、最後にあの一文。 大空のようなスッキリと少しのモヤモヤ、双方含んだまま、素晴らしい終わりを本作は迎えてくれました。 “そして、自分によく似たような男が、もう一人いたんだなと思った。” “その後は、しばらく二人とも黙っていた。” 最後に。 この本は、思わせぶりな「序章」が何とも掴んで来るのですよね。 追記 ・亡くなった「夫」が仮に「X」と呼ばれ、そこに「ツイッター」や「フェイスブック」も登場するため何だか紛らわしいこと! ・チャラついてキャラの濃い「兄」が登場シーンから脳内大泉洋だったお蔭で、嫌な奴というよりコミックリリーフになってくれちゃいました。(ひょっとして映画版でも.. と思ったが、別な俳優さんでしたな) |
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| No.1222 | 6点 | カッコウの卵は誰のもの 東野圭吾 |
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(2024/01/31 18:43登録) ウィンタースポーツ(板系)周辺に巻き起こる、ビジネスへの野望と親子の苦悩、そして脅迫および傷害事件。 慌ただしい一連の流れの中で、元冬季オリンピアンである主人公の抱える葛藤と謎は大いに膨れ上がる。 期待の若手アルペンスキーヤーであるわが娘が、自分と血が繋がっていないとは ・・ ← この裏事情が全く一筋縄で行かないのが、本作の大きな魅力、というか太い幹。 "もし天罰が下るとしても――。 ( 中 略 ) その時には、自分が命を賭けて阻止するのだ。" 物語の分水嶺らしきものが早い段階から次々に上書き更新され、揺さぶりを掛け続ける、こりゃぁ東野らしい強い展開だ。 終盤もいい所に差し掛かって急展開の圧縮率が尋常でないミステリ期待値を噴出して来る。 そしてこの、黒幕の創意と悲しさたるや・・・・・ 読前の予断を裏切り社会派/科学派要素は薄め。 ちょっと気恥ずかしいが人間派は言えるかも知れない。 だが何より、複数のトリッキーな親子関係の謎で押し通した、プチ数学的とさえ言える論理(?)サスペンス・ミステリでありましょう。 そのくせしっかり感動もさせてくれちゃってよ。 参ったな。 「あるもの/こと」を託された人物の葛藤が、もっと直接的に描写されても良かったという思いは残ります。 ノルディックの未来を託された青年の、スキーそっちのけでエレキギターに傾倒する描写が光っていました。 |
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| No.1221 | 7点 | その可能性はすでに考えた 井上真偽 |
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(2024/01/28 19:09登録) “端から「偶然にしてはでき過ぎ」という反論は封じられているのだ。何と傍若無人なルールであることか。” 事象の合理的解決が不可能である事を証明せんと命を削る、なんとも革命的な逆行型の探偵役。これを主軸とし、キャラ立ちの良過ぎる脇役たちが荒唐無稽に暴れ回る。 ラノベから派生した深夜アニメから派生したRPGのようなフレイヴァを放つ設定と展開。 ラストシーンは熱かったな。。。 「だから◯◯、◯◯も約束して、これからの毎日を楽しく生きるんだ。一人になったからって寂しがってちゃだめだ。」 偉大なる逆説の泡立ちが眩しい魅惑の推理ファンタジーに宿るは、命と資産と知力の脈打つ遣り取り。 箱庭めいた埓内の前提があれよあれよと拡大されて行く面白さ。 プロージビリティがスッ飛んでいるからこそ却って佳きとなってしまう画期的なゲーム構造。 ご都合に蹂躙された机上の幻も、ここまで執拗に積み上げられたら最早マテリアライズド・・・ 「――そして実際、その行為で◯◯は救われた。もしこれが真相なら、その事実自体はとても尊いものだ」 しかしですな、可能性潰しの着眼がもっともっと徹底して広角だったら、天下の奇書になっていたかもですな。 本作では、相当に深そうなポテンシャルの8分の1も発揮出来ていないでしょう、この作家さん。 「探偵さん」 つうっと、頬を涙が伝った。 「この私を止めて頂き、どうもありがとうございました」 伏線の、隠し方と見付けさせ方のバランスがちょっと取れてないかと感じる案件は幾つか見受けた。が、まあ目くじらは立てぬ。 多重解決の詰将棋ドリルブックみたいな一冊でもあった。 所々、論理の遊戯が高踏過ぎて眩暈を誘う熱砂特別区もあった、それもまた尊し。 「無自覚に叙述トリックを使ってしまったか・・・・・・」 なんと。 |
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| No.1220 | 6点 | 影の地帯 松本清張 |
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(2024/01/20 20:40登録) “その目撃者が宿に訪ねてきました。その興奮で、この手紙をあなたに書きました。” 本作の中心にある『屍体隠蔽』については、猟奇的トリック自体もさる事ながら、その二重底構造になっている点を推したい。 「お願いです。これ以上深入りしないでください。」 「あなたは、なんのために、ぼくにそういう注意をするのです。」 写真家である主人公馴染みの ”銀座ママ” が失踪。 前後して与党保守党の領袖が失踪。 事件の周囲に見え隠れする魅力的な若い女性と小太りの中年男は、主人公が以前に航空機内で偶然出遭った二人連れだった・・・ 幾手にも分かれつつ親密なる協調の探偵群は、その構成にちょっとした捻りあり。 決してありきたりでない主要登場人物群の有り様に変容めいた彩りもあったりして、盤石の推進力あるストーリー展開。 後半風情からあまりに痛く怪しい魍魎どもの蠢きと、そこへ被せてまた更なるうねり。 飽くまでも爽やかに。 いやァ愉しいっす。 昭和30年代中盤。 「おれは、もうやめたよ。妻子のあるからだだから、いま死ぬのはいやだからな。」 ごく淡い水彩画からのテイクオフが心地よい恋愛要素、そして、まさかの(?)◯◯物語という熱い側面。 清張らしい冷徹な規律は認められるが、やはり甘々の通俗長篇。 もはや量産期京太郎ぽい旅情サスペンス。 匂わせとご都合の激しさが逆に愛おしい。 だが社会派要素なるものは、果たしてどうかな。。 最後のそれらしき考察も、却って安心しちゃってるみたいで、”もどき” 感が強い。 さて主人公の名前は田代利介(たしろ・りすけ)。 今だったら「ロリスケ」って呼ばれるかも? |
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| No.1219 | 8点 | 雪は汚れていた ジョルジュ・シムノン |
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(2024/01/14 19:27登録) 純白の感動を呼ぶ、痛切極まりない "◯◯式" のシーン。 私はそこに、この物語の中心点を置きました。 「世界じゅうでいちばん大きな罪を犯しましたが、これはあなた方には関係のないことです。」 占領下の街。 小さな娼家に母親と暮らす不良青年は、くぐもった未来像を突き抜け何者かになるべく、もがいては行動を起こし、またもがいては無闇に行動し、やがて引き返せない一本道に迷い込み、なにものかに、、、捕らえられる。 一人称ハードボイルドが似合いそうなムードと筋運びを、神になりきらぬ、時にもどかしい作者視点で包み込むように叙述しきった、重量感溢れる惨酷犯罪心理劇。 "フランクは言葉なんかこわくない。彼は無理にその言葉を大声で口にしてみた。" 「きちがい!」 サスペンスフルなクライムノヴェル風前半から可読性と玩読性が激しく拮抗しつつ、 後半、ある場面転換からやにわに直面する混濁と悟りのキャッチボール。 推理、思索とまどろみの取っ組み合い。 以心伝心と疑心暗鬼。 幻想と混乱のコールドロン。 そこに見い出した或る「◯」。。 読み応えは充分。 心に残る最強の脇役陣に突き上げられ、愚かな主人公の行く末を見守らざるは無い、胸中に深く長く染み渡る逸品です。 |
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