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ミステリの祭典

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オールド・ボーイ
パク・チャヌク監督映画「オールド・ボーイ」のノベライズ版

作家 大石圭
出版日2004年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 斎藤警部
(2022/04/19 00:40登録)
先に書評したオリジナル劇画、のパク・チャヌク監督映画版、の更にノベライズ版です。
劇画と映画では微妙に違う設定、大きく異なる展開と来て結末(真相&反転)は全くの別物になっていますが、このノベライズ版も、映画版をなぞってはいるものの、それなりの違いがあり、特にエンド~エピローグを大胆に差し替えているのは特筆事項です。映画はいったん落ち着いてしみじみとするものがありますが、ノベライズ版はそれなりにしみじみしつつも、映画では敢えて消したあの案件もあり、やっぱりキッツいですね。。
なお、後年のスパイク・リー監督映画版も、パク・チャヌク版とは微妙に異なる設定に展開と、また決定的に異なるエピローグを取っています。ややこしいですね。

というわけで、前の書評の通り、何気に ‘爽やか’ と言っても過言でないエンドを迎える劇画オリジナル、とは打って変わって、ジ・エンペラー・オヴ・ダークネスと呼びたいような最悪のバッドエンドを迎える本作です。そしてエピローグ、映画とさえ全く異なる未来の方角へ、ずらしたね。。。。 しつこいようですが、パク・チャヌク映画はギリギリの所でワーストエンドを避け、その後には救いのエピローグがあります。ノベライズの本作はそこんとこ容赦ありません。

私刑禁固のニーズに応える裏ビジネス「私設刑務所」にTV付き軟禁された男が、15年後に突如、大金と上等な服装付きで釈放される。毎日出前で運ばれる揚げ餃子定食を食べ続け(劇画では料理にバリエーションがあった)、欠かさず続けたTV教養講座視聴と筋力鍛錬の賜物で、膨大な知識と逞しい肉体を備えて刑期を終えた、どう見てもダーティーな物腰の彼は、腕試しに乗ってみた若いチンピラ共との喧嘩(なんと一人殺しちまう!劇画でも映画でもそこまでやってないのに!)で自信を付け、自分に15年間もの不自由を押し付けた「敵」を捜し出し、きっちり落とし前を付けるべく、行動を開始する。 最初に入った寿司屋「日本海」(!)の若い女子職人(珍しい存在)の家で暮らすようになった彼を、遠くから見つめる一人の男がいた。。 いっやーー、あらすじ書けるのはここまで。  「そのあとに起こったことは、すべてあなたたちの責任です。わたしは一切、関与していません」  

ところで軟禁期間ですが、何故、劇画版の「10年」から「15年」に伸びたのか。 更に言えば、スパイク・リー版では「20年」にまで伸びたのか。 実はここにこそ、オリジナル劇画には無かった熾烈な地獄落としの鍵が潜んでいました。
昔、パク・チャヌクの映画をまだ観る前、既に観たと言う友人が呑みの場で、冗談っぽくうっかり「◯◯◯◯!」とネタバレに通じる大キーワードを口にしてしまったんですね。幸いその一言で済んだのですが、それを聞いた私は「15年」と「◯◯◯◯」なるキーワード、更に日本原作であるというポイント(..苦笑..)から計算して、或る仮説を立てたんです。つまり「××××」である「◯◯◯◯」のホニャララを防ぐための15年間軟禁、要は逆の方かと思ったんですよね。 そしたら、蓋を開けてみたら逆じゃない方だったというワケで、、しかもそのポイントは日本の原作には無かったと、原作では(もし私の仮説通りだったら、どこからカウントするかにも依りますが)微妙過ぎる10年しかなかったと(笑)。 ちなみにスパイク・リー版が20年と長いのは、おそらく、米国の国民感情というかモラル(?)的に、そこ15年ではいかにも短い、、という事でしょうか。

しかし大石さん、重い役をよく引き受けてくれました。文章は、視点バトンタッチ(これが良い)に神の眼が混入しちょっとグラグラしますが、それより、結末を知っていても引き込まれる、サスペンスとスリルの強烈さです。泣けるハードボイルドなシーンもあったな。。下品なユーモアに込めた強烈な伏線.... 爽やかなくせに強烈な伏線もある、こっちの方がキツかったな.... そして、ユーモアが抑圧されたシークエンスで貴重なコミック・リリーフの台詞にさえ同趣の・・・・  まあ、大石さんオリジナルのストーリー等々ではありませんので、そこはハンデを付けるべく少し点数落として、7点とします。つまり、作品そのものは相~ッ当に面白い(というか凄い!)という事です。

問題の、映画版から改変されたエンド~エピローグ、燃え盛る激烈さならノベライズの方ですが、映画の行く末の方が、そこに静かに宿る強烈な切なさが沁みますよ。。。。
映画の冒頭でいきなりフラッシュフォワードのシーン、ノベライズではカットされていますが、特別出演風チョイ役さんのあの台詞、残していれば大反転の大きな伏線として機能したろうに、と大いに惜しまれます。
小道具「◯◯の◯◯」が登場するシーンの置き場所は、ラストの衝撃のためには、そこじゃないんじゃ、、ネタバレっしょ、、いや、わざとそこにしたのかな。。何の優しさかな。。 
複数の人物から見た「或る事」を描写するのにやたら繰り返す同じ表現(しかも長い)、これは、ちょっといただけなかったですね。
「●●●を使うなんて・・・・・・汚いやつだ」  ←これ、もしやメタなジョークか(笑)?

原作の日本劇画からどうインスパイアされてここまで大改変したかと思いを巡らせば、まあ、あの重要要素はシンプルに登場人物配置から閃いたのかな。。それと、( 中 略 )文化の浸透した韓国なのにというか、韓国だからこそ敢えてぶつけて来たのかな、最高の復讐方法として。 
その重要要素、主人公側もさる事ながら、復讐者側のそれに纏わる経緯や、何よりその終局のシーン、これがたまらなく切なく、響き残るわけでねえ。。。。

ところで、重要な登場人物で一人、名前の由来が気になった人がいたのですがね、、ネタバレに繋がるので、何も言わずこのへんで。

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