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ミステリの祭典

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名探偵ジャパンさんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.210 7点 死と砂時計
鳥飼否宇
(2018/03/10 19:40登録)
他の方も書かれているように、最終話の破壊力が全てでしょう。ラストの落ちには、「そっちかい!」と読んだ全員が突っ込んでしまったのではないでしょうか。せっかくいい話にまとまりかけてたのに(笑)
そこに至るまでの数話は、無理やり捻りだしたという力業のトリックが目立ったような気がしますが、あの最終話は、それまでの積み重ねがあるからこそ感動的(?)なわけで、どうしてもそこに至るまで、いくつかの事件の積み重ねが必要で、作者も苦労したのではないでしょうか。
勝手な印象ですが、アニメ化したら映えるような気がします。(1~5話までを二回に分けて、最終話に三話使って、ちょうど13話の1クールです)


No.209 6点 神様の裏の顔
藤崎翔
(2018/01/27 17:53登録)
著者は元お笑い芸人だと聞いていたので、本作を読んで、「もしかして、アンジャッシュのどちらか?」と一瞬思ってしまいました(アンジャッシュはまだ活動しています)
作者の著書は「私情対談」を先に読んでいたのですが、登場人物の独白だけによる構成というのが本作と全く同じだったのですね。これが作者の得意技ということなのでしょう。

「この話がどうミステリになっていくのか……」という展開で始まり、途中、タイトルを思い起こし「もしかして……」と思わせ、「いや、そんな直球のはずがない」と考え直させる。そして最後に一波乱あって、ラストの落ちに繋がるという、かなり考え抜かれた(アンジャッシュのコントのような、と言ったら作者は怒るでしょうが)構成の妙でした。
面白かったのですが、複数の偶然に依らなければ犯行(構成)が成立しないところは気になりました。


ここから若干ネタバレありです。


これは個人的な嗜好の問題になるのですが、最後、殺人者が裁かれることなく逃げ延びる、というのは好みではありませんでした。ラストの「犯人の正体」が明らかにされた時点で、こうなることは予想が付きましたけれど。
登場人物の一人称にも関わらず、重要な手掛かりが後出しで語られるなど、本格ミステリとしてはどうか? という展開だったのも気にはなりました。


No.208 8点 屍人荘の殺人
今村昌弘
(2018/01/14 12:06登録)
これは近年の鮎川哲也賞受賞作の中でも出色の出来です。
「受賞の言葉」によると作者は、本格ミステリ一辺倒に傾倒していたわけではない、雑食読書家だそうで、そんな人がこれほどのものを書き上げてしまうのですから、これはもう「天才現る」と言ってもよいのではないでしょうか(決してプレッシャーを与えているわけではありません 笑)。次回作以降の活躍が望まれてなりません。

作品については、色々な意見があるかと思いますが、私も作品構造を成すの「あれ」については読前の方には伏せて置いた方がよい、という考えで、ですのでネタバレ上等としなければ何も語れないため、早いですが以下「ネタバレ注意」とさせていただきます。




※ここからネタバレあり※

特殊設定ミステリの一種となるのですが、その設定とロジックが見事に融合していました。作中に登場したどの殺害トリックも「あれ」なくしては成立し得ないものばかりで、作者の気概を感じました。
決して少なくないのに、登場人物の書き分けも十分配慮されていることに加え、館の形状も特殊なため、場面がすぐに頭に浮かんできて、ほぼストレスゼロで読めました。
私は館の見取り図を眺めるのが好きなため、作中で決定的となったあの「顔を見合わせる場面」を読んですぐに「変だ」と気づき、その場で双方が何事もなかったかのようにやり取りを済ませてしまったため、「これはこのどちらか(あるいは両方)が犯人に違いない」と決め込んで読み進めてしまいました。ですが、こういうシーンを入れてくることが作者のミステリ書きとしての矜持でありましょう。そのフェアプレイ精神に拍手を送ります。


No.207 7点 リベルタスの寓話
島田荘司
(2018/01/05 23:10登録)
常日頃から島田荘司は、「ミステリに必要なのは、今も昔も幻想的な謎である」そして「新しい時代に沿ったミステリを」といったことを言い続けています。島荘の偉いところは、「だからお前ら(若いやつら)書けよ」と、言うだけ言ってあとは投げっぱなしジャーマンスープレックス、としないところです。御大自ら書く。ミステリ界の大重鎮となっても、このスタンスは変わりません。何と頼もしいのでしょうか。

本作は、まさに上記二つの要件を見事に満たしています。「死体の内蔵がすっかり抜き取られ、人工物に置き換えられている謎」そして「昔ではありえなかった現代社会ならではの犯行動機(厳密には違いますが)」の合わせ技です。

メイン作品の「リベルタスの寓話」を前後編に分けて、間に中編を挟むという手法も面白いです。アメリカのバラエティ番組のような構成です。

この中編「クロアチア人の手」も、昔ではありえなかったトリック。一見して「あれみたいなものを本当に作ることが可能なのか?」という疑問はもちろん発生しますが、本作の肝はそこにはなく、御手洗が展開する水槽と魚にまつわるロジックがメインです。「そういうものがあったとしたら、このトリックは十分可能だろう」という、特殊設定もののひとつとして見ればおかしなところはないでしょう。それを解き明かすための手掛かりも十分に開示されています。

御手洗は二編どちらにも電話越しでのみの登場ですが、その存在感はいささかも陰りません。我らが石岡くんは「クロアチア人の手」のみの登場ですが、その分大活躍(?)を見せます。キャラクター小説としても抜群の出来栄えでした。


No.206 6点 八王子七色面妖館密室不可能殺人
倉阪鬼一郎
(2018/01/04 22:21登録)
新年一発目の書評は倉阪鬼一郎のバカミスでめでたく行きたい。と考えていましたので、未読だった本作を選んでみました。
相変わらずの費用対効果の悪すぎる苦労と頑張り。もうこの手のものを何作か読んでいる身としては、「そうだね!」と極めて短い言葉で作者の努力を讃えるしかないのですが、この手のものを何作も書くというのは、やはり偉業なのではないかと思ってしまうのです。
後半に入ると、「バカミス」の一言で片付けられない、いやにしんみりとした展開が待っています。「悪魔にだって友情はあるんだー!」と号泣しながら叫んだ悪魔超人サンシャインではないですが、「バカミスにだって人間ドラマはあるんだー!」と私は叫びたい(号泣はしません)。
著者近影で、猫の着ぐるみを着てマラソンを疾走する作者。これもドラマでしょう。


No.205 6点 白霧学舎 探偵小説倶楽部
岡田秀文
(2017/12/03 19:02登録)
今どき、こんな……、と思ってしまうような、直球正統派の本格ミステリです。
タイトルの通り、少年少女が探偵役を務め、戦時下の疎開先という特殊な舞台、時代設定で、この時代を知らないはずなのですが、なぜか郷愁のようなものを感じてしまいました。とあるアニメのスタッフが、中学生の恋愛をテーマにした作品作りのため、現役中学生の恋愛事情を取材をしたのですが、「スマホやLINEがあるという以外には、僕たちの年代の頃とほとんど変わっていないと感じた」と語っていたことを思い出しました。時代が変わっても、少年の心の持ちようというのは、あまり変遷しないものなのかもしれません。もちろん、読者にそう思わせるというのは、作者の確かな取材知識、筆力に裏打ちされてのことです。
「探偵小説倶楽部」のメンバーたちも、エキセントリックに過度なキャラクター立てをするでなく、しかし個性的な少年少女ばかりで、(もちろん、時代的なものもあるのでしょうが)目先の受けに走らない人物造形で好感が持てます。人並由真さんも書かれていますが、薫もかわいいです。


No.204 7点 探偵さえいなければ
東川篤哉
(2017/12/01 22:02登録)
シリーズ最新作(2017年現在)ですが、作風はもちろんのこと、鵜飼探偵も流平くんも、初登場以来まったくブレません。時がいくら流れて時代が変遷しようと、彼らと、彼らが住む烏賊川市だけは、ずっとこのままなのでしょう。

非常にグロテスク、かつ犯人が悲惨な目に遭う「とある密室の始まりと終わり」もいいですが、何と言っても本短編集の白眉は「ゆるキャラはなぜ殺される」でしょう。
ゆるキャラ探偵剣崎マイカ、まさかの再登板。これは私も含めた、全烏賊川市シリーズファンが待ち望んでいたのではあるマイカ。
あらゐけいいちの描く、かわいらしく味のある表紙イラストも、もはやシリーズには欠かせない存在となりました。


No.203 7点 密室に向かって撃て!
東川篤哉
(2017/12/01 21:51登録)
本格にユーモアの皮をかぶせたこのシリーズの作風は、この頃から今まで、全然変わっていません。本作も、書かれてから十五年も経っているとは思えないほどです。

このシリーズで私が好きなのは、キャラクターやその言動はふざけていても、事件自体は本格(しかも、キャラクターや作風にマッチするような「日常の謎」ではなく、ガチガチの殺人事件)を貫いているところです。銃弾の数や、それが撃たれた場所をあぶり出す推理はあくまでロジカルで、それらを担保する物証もきちんと、しかもかなり早い段階から出してきてフェアです(砂浜で見つけた、あれは、もっとうまく処分するべきだったのでは? とは思いますが)。

このシリーズ、数年前に実写ドラマ化しましたけれど、ほとんど話題にはなりませんでしたね。ガチのミステリ好き以外の、もっと一般層にも読まれてよいシリーズだと思います。


No.202 5点 パワードスーツ
遠藤武文
(2017/11/29 17:55登録)
今から少しだけ先の近未来。サイバニクス・ラボラトリー社の営業、大和健斗は、自社の製品「パワードスーツ」売り込みのため地方都市を訪れていた。「パワードスーツ」とは、人間が着込んで使う強化服の一種で、装着者の体力を何倍にも向上させることができる。いち早く建設現場などに導入され、重機の代わりを果たしているこのパワードスーツを、大和は病院の介護部門にも売り込もうとしていたのだった。病院事務長の樫村へ接待を施した翌日、大和は直属の上司である高槻が、法律で製造が禁止されている、パワードスーツの軍事転化版「アーマードスーツ」の開発に秘密裏に着手していたことを知る。

表紙めくるといきなり「本書には、ある仕掛けがあります。注意してお読み下さい」と警告が書いてあります。が、そんなに気にする必要はないでしょう。2011年刊行ながら、今の今まで書評が付かなかったことから察せられるように、そんな大した(失礼)仕掛けではありません。

肝心の内容は、上記の通り、飛躍しすぎず、リアルとワンダーのバランスを保ったSFという、こういったものが好きな人にはたまらない設定が魅力なのですが、生かし切れなかったように思います。一応、高齢化社会に対する問題提起のような内容も含んでいて、社会派SF的な側面もあるのですが、この作者の本は初めて読んだのですが、読みにくいです。登場人物も、役割通りに作者に動かされているだけという感が拭えず、「お前らがロボットなのか!」と言いたくなってしまいました。
近未来リアル派SFと本格ミステリの融合を果たそうという試みだったのかもしれませんが、惜しい作品になってしまいました。


No.201 6点 風ヶ丘五十円玉祭りの謎
青崎有吾
(2017/11/09 17:51登録)
長編は、さすがのロジックを繰り出してきて、ガチ本格にキャラクター小説のスパイスを振りかけた。程度に収まっている本シリーズですが、本短編集くらいにまでなると、半分以上キャラクター小説です。
正直、そこまでこのシリーズのキャラクターに入れ込んで読んでいたわけではなかったので、ほぼ全てのキャラクターの読み分けが出来ていない「お前、誰だよ」状態でした(登場キャラクターに年齢、職業的相違がない、ほとんどが女子中高生ということも理由のひとつでした。舞台がそうなので当たり前なのですが)。

私は、「混ざるべきでない食品同士が混ざってしまう」という状態に異様な嫌悪感を覚えるので、「もう一色選べる丼」に出てくる「二食丼」は絶対に食せない自信があります。同じ丼に盛る以上、境界線で絶対に混ざるでしょ。麻婆丼と親子丼の具が混ざるって、考えられません。混ざらないように食べるには、相当な努力を要するはず。こんな悪食な真似をするなら、ハーフサイズの丼を二つ出してもらいたいです。これでも本作のトリックは通用しますよね?

一番面白かったのは、「その花瓶にご注意を」でしょうか。あとは、結構、真相を知ったときに「そうだったのか!」と膝を打つというよりは、「しょーもな!」と感じてしまうものばかりで(特に表題作は、それをやったとして、そんなにリターンが見込めるかなぁ?)、やっぱり個人的に、ミステリには「犯罪者」がいないと、どうにも締まらないな、という感想を改めて持ちました。


No.200 6点 7人の名探偵
アンソロジー(出版社編)
(2017/11/06 11:44登録)
新本格生誕30周年を記念して刊行されたアンソロジーです。
タイトルからして、各作家の「持ち名探偵」が豪華な競演をするのかな。と期待したのですが、登場するシリーズ探偵は、「メルカトル鮎」(麻耶雄嵩)「火村英生」(有栖川有栖)「法月綸太郎」(法月綸太郎)の三名のみ。半分を切っています。一応、「名探偵」をテーマとするなら、我孫子と歌野もギリ、テーマ範疇に入れてよいかと思いますが、山口と綾辻は完全に「テーマ逸脱」でレッドカードでしょう。こういった作品が集まった時点で、メインタイトルを変更すべきでしたね。真面目に「持ち名探偵」で書いてきた三人が不憫です。

「水曜日と金曜日が嫌い――大鏡家殺人事件」麻耶雄嵩
麻耶(メルカトル鮎)らしい、ひねくれた本格。美袋くんがまた酷い目に遭ってしまいます(事件が解決したあとも)。かわいそうですが笑えます(ひどい)。
なにげに冒頭で、彼が訪れた寺の手水舎にあった鋳物が、妖怪「手長足長」だった。という伏線(?)が仕込んであります(手長足長、をご存じないかたは、姿を検索してみて下さい)。こういう遊びは、私が気付いていないだけで、作中まだ他にもあるのかもしれません。

「毒饅頭怖い 推理の一問題」山口雅也
短編なのに、冒頭で八ページも古典落語「饅頭怖い」の説明に費やしています。とはいっても当然丸写しではなく、山口流に改作されており、軽快な読み口はさすがです。それに続く本題も、名調子に引かれて楽しく読めました。

「プロジェクト:シャーロック」我孫子武丸
一応「名探偵」をテーマにした作品ですが、ミステリではなくSFです。SFサスペンスとでも言いましょうか。ミステリではありませんが、興味深く読めました。

「船長が死んだ夜」有栖川有栖
正統派の本格、であるがゆえ、本アンソロジーの中では逆に異彩を放ってしまったというのが皮肉です(これは続く法月にも言えますが)。こういった、ある種作家にとっては「お遊び」が許される記念企画なのに、真面目に本格を、しかも、きちんとテーマに沿ってシリーズ探偵の火村を出して書いてくるとは、実に有栖川らしいです。
「犯人はボックスに入っていたブルーシートを取り出す必要があった」「だからポスターを燃やすしかなかった」一見支離滅裂な、この原因と結果を繋ぐアクロバットこそが本格ミステリの醍醐味だなあ。と改めて感じ入りました。

「あべこべの遺書」法月綸太郎
有栖川と同じく、逆に浮いてしまった正統派ミステリ。紙幅の都合もあるのでしょうが、法月警視の話からだけで真相を看破する綸太郎の、安楽椅子探偵ぶりがかっこいいです。事件の様相が結構入り組んでいるため、流し読み厳禁ですが、この緊張感もじつにミステリらしく、法月らしくて好きです。

「天才少年の見た夢は」歌野晶午
収録された某作品と、まさかのネタかぶり。そういった事情もあり、本作は大トリ綾辻のひとつ前という位置に配されたのでしょう。本作については、あまり語らないほうがよいと思います。

「仮題・ぬえの密室」綾辻行人
「名探偵」がテーマで綾辻。とくれば、島田潔が活躍する「館シリーズ番外編」か? それとも「殺人方程式」の明日香井が沈黙を破り、まさかの復活? と想像を逞しくしてしまいましたが、蓋を開けてみれば、どこまでが本当か分からない、メタフィクションものでした。綾辻だからこそ許される作品でしょう。

総評として、どれも確かに面白かったのですが、せっかくの「新本格30周年」という二度とない記念企画。一本背骨の通った、ぶれのないテーマで読みたかったな。というのが正直なところです。

新本格は30周年ですが、個人的なことでは、これが私の200番目の書評となりました。


No.199 7点 人間じゃない
綾辻行人
(2017/11/03 17:54登録)
今までに綾辻が書いてきた中の、単行本収録されていなかった短編を集めた本です。
本格ミステリあり、ホラーあり、幻想小説(?)ありと、これまで放置されてきた作品を寄せ集めただけにも関わらず、計算したかのように、まさに「これぞ綾辻行人」と言うに相応しいバランスに整ったと思います。
逆に言えば、本来であれば各ジャンルの作品を一冊にまとめられるくらい書きためてから、各々刊行するのが一番よいのだと思いますが、こういった寄せ集めの作品集を出すということは、もう綾辻には、そこまでするだけの気持ちはなくなったということなのでしょう。作家としての「終活」に入っているのでは? と失礼ながら思ってしまいました。館シリーズの最終作を書いたら、綾辻行人の(少なくともミステリ作家としての)役目は終わるのでしょう。

完全にファン向けの作品集であることは否めません。私は「7点(かなり楽しめた)」付けましたが、(いないとは思いますが)本作で初めて綾辻行人を読む、もしくは綾辻にそれほど思い入れのない人であれば、評価は1から2点程度は下がってしまうのではないでしょうか。


No.198 6点 猫は知っていた
仁木悦子
(2017/10/28 16:29登録)
時代的なものを考えれば、信じられないくらいの読みやすさでした。知らない人に読ませたら、「現代の作家がこの時代を舞台にして書いた小説」と言っても信じるでしょう。ただ、事件自体も時代相応といいますか、トリックにために人を動かしたり、博打のような仕掛けに頼ったりと、ミステリとしての脇の甘さは目立ちます。でも、2017年から数えて60年前ですからね。しかも本作がデビュー作。十分といえますし、当時リアルタイムで読んだ読者には驚きを与えたのではないでしょうか。本邦ミステリ史に書き留められ、読み継がれていくべき一作です。


No.197 6点 T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか
詠坂雄二
(2017/10/28 16:18登録)
作者らしい、ちょっとひねくれた結末のミステリでした。
絶海の孤島に渡ったメンバーが残した映像パートと、それを検証する現在パートが交互に進行していくのですが、他のレビュワーの方も書かれていた通り、映像パートが退屈です。これは、わざと平坦な文章にしてドキュメンタリー色を強めた、という解釈もできますが、作者は冒頭の「前説」で、「映像が退屈なため、それを解決するために小説という形にした」と書いており、それだったら、もう少し何とかならなかったのかな、とも思うのです。
事件の真相自体も、過去に似たような例があるものの派生バージョンです。そこは作者も承知していたのでしょう。やはり「前説」で、「(真相は)物語的な驚きに欠けたもの」と前もって書いています。ただ、これは決して「逃げ」ではなく、「この話の肝はそこじゃないんだ」という表明でしょう。
詠坂作品は、ほとんどの作品が有機的になにかしら繋がっていて、本作もその「詠坂ワールド」の一翼を担う一作であるわけで、乱暴な言い方をしてしまえば、「コアなファンのための作品」ということもでき、それが本作の一番の肝なのでしょう。


No.196 1点 NO推理、NO探偵?
柾木政宗
(2017/10/08 22:38登録)
最初にお断りしておきますが、1点付けたからといって、本作が「最低最悪…」の駄作。であるということではありません。本作は、1点を付けられるべくして生み出され作品なのです。「抱かれたくない男性タレント第1位:出川哲朗」みたいなもので、作者も出版社も、石をぶつけられること承知で世に出した、そういう作品、キャラクターなのです。高得点を付けることは、むしろ本作に対しての営業妨害になります(付ける人はあまりいないと思うけど)。
「メフィスト賞最大の問題作」という触れ込みらしいですが、作品的に「問題」ということではなく、「メタ的に言えば」この作品が賞コンクールを受賞してしまうという現状が「問題」なのでしょう。こういうものを持ち上げられたら、真面目に本格ミステリを書いている作家が、あまりに不憫でなりません。

しかし、本作の作者は、こんな「出オチ」のようなデビューをしてしまって、大丈夫なのでしょうか? 二作目を出しても、本作を読んだ読者は、ほとんどが手に取りもしなくなるのではないでしょうか。仮に真面目な本格ミステリを書いたとしても、本作のあとでは説得力ゼロです。名前を変えて再デビューするしかないかもしれません。


No.195 6点 アガサ・クリスティー賞殺人事件
三沢陽一
(2017/09/29 17:21登録)
実に興味をそそられるタイトルです。
が、これは連作短編集で、その中の最終作をメインタイトルにしたもので、ページを開いてちょっと拍子抜けしてしまいました。
作家になることを諦めて死ぬつもりで旅に出た主人公が、行く先々で奇妙な事件に巻き込まれるというスタイルで、最終一作前で、自作が「アガサ・クリスティー賞」を受賞したことを知ります。いや、結果確認してから死のうとしろよ。

短編向きのトリックをうまくまとめた小気味の良い作品が続き、いよいよ迎える表題作。これはタイトル以上に中身に拍子抜けしてしまいました。そこまでに至る事件が、実にいい感じで進んでいたために、余計にこれは……という感じです。
容疑者たちが、取り調べで次々に有栖川作品の素晴らしさを語る「異様な有栖川推し」も、書き手が受賞二作目の新人だから、というフィルターがかかっているせいかもしれませんが、ただのおべんちゃらにしか聞こえません(これを綾辻あたりが書いたなら、ジョークとして流されて、読者も居たたまれない思いをしなくて済んだでしょう)。
「終わりよければすべてよし」を逆に行ってしまったような気がしました。

最終作を取っ払って、「死ぬ死ぬ」言いながらも元気に日本全国を旅し続ける作家崩れの事件集。みたいな構成にしたほうが面白かったかもです。


No.194 8点 十三番目の陪審員
芦辺拓
(2017/09/13 16:37登録)
まず驚いたのは、芦辺拓らしからぬ読みやすさ。
陪審員制度や医学的説明を分かりやすく読者に伝えようと努めたため、いつものような癖のある、ミステリ的装飾過剰な文体が抑えられた結果なのだと思います。芦辺拓、この調子で他の作品も書いたらよかったのに!(それでも原発に関する解説は少し過剰かと思いましたが)

倒叙ものの様相を呈していた第Ⅰ部も非常に興味深く読みましたが、法廷に舞台が移ってからの第Ⅱ部は、途中で読むことを中断するのが不可能なほどの、息つく暇もないサスペンス。
医学、法廷という専門的なガジェットがあっても、「本格ミステリ」であることを失わない作者の姿勢も嬉しい。
本作で特に印象深かったのは、本職である弁護士としての本領を発揮した、シリーズ探偵の森江春策です。全く覆すことが不可能とも思える難問に挑み、悩み、中傷を受け、それでも決して諦めない、優しくて理知的で頼りになる大人の名探偵。昨今はやりの、こまっしゃくれた子供探偵には、この魅力、色気は出せません。最高にかっこよかったです。


No.193 7点 敗者の告白
深木章子
(2017/09/06 19:16登録)
死亡した主婦と長男が残していた手記。夫の証言。それぞれが微妙な食い違いを見せ、本当は誰が被害者で、誰が加害者だったのか。事件の真相は藪の中に消えていこうとするのですが……。
練りに練られたプロットが光る佳作です。登場人物の何人かは、事件発覚時には確実に死亡しているため、これを後から覆すことは出来ない。死者の告発と生者の言い分。どこに瑕疵を見いだすか。嘘をついているのは誰なのか。
全編が手記と証言で構成されているというのも面白く、多少強引な部分はありますが、十分楽しめました。
(余談ですが、タイトルを聞いて真っ先に「歯医者の告白」と変換してしまったのですが、作中に本当に歯科医が出てきたのには驚きました。作者、狙ったのかな?)


No.192 6点 赤い博物館
大山誠一郎
(2017/09/06 19:01登録)
作者らしい、トリック重視の短編集です。
相変わらず無理矢理感はありますが、そこも売りなので。しかし、今回は警察官が主人公で、「密室蒐集家」のようなファンタジックな設定が薄れたリアルな舞台のため、多少の違和感は浮き彫りになってしまっています。特に最終話。皆さんご指摘の通り、あんな理由のためだけに無辜の人間を殺害せしめるとは……。確実に目的が達せられるという保証もないのに。何とかして「あれ」を奪ったほうがどれだけ容易で、精神的な負担も軽くなるかしれないはずです。
ベストは「復讐日記」です。まさかの反転劇は大いに楽しめました。

事件の内容以上に驚いたのは、「連作短編なのに大オチがない」というところでした。続編があるのでしょうか。


No.191 6点 致死量未満の殺人
三沢陽一
(2017/08/30 18:08登録)
一件の毒殺事件だけでここまで書く。というよりも、事件に対してページ数が多すぎるように感じました(序章とか、あんなにいる? 本編に入っても、「俺が殺した。俺が殺した」と引っ張りまくって、回想で実際に事件が起きるのは、全ページの半分くらいに達してからです)。コンテストの応募規定枚数に載せるために水増ししたのでは? などと思ってしまいます。短編から中編のボリュームに収めたほうが、かっこよく決まったのではないでしょうか(当作が受賞したコンテストには応募できなくなってしまいますが)。
この「水増し」を行うためなのか、いやに詩的な言い回しがあちこちに出てきて、これにはちょっと苦笑しました。

ミステリとしては、練られたプロットが心地よく、犯人が最初から判明している倒叙もの、と思わせて隠された真相が、それをさらに飲み込む新たなる真相が、という多段階構造も楽しめました。

余談ですが、本作のトリックのひとつである「砂糖壺」のやつは、遙か昔に「マジカル頭脳パワー」というクイズ番組で見たことがあります(懐かしい)。

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