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ミステリの祭典

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十三番目の陪審員
森江春策シリーズ

作家 芦辺拓
出版日1998年09月
平均点7.20点
書評数15人

No.15 6点 ミステリ初心者
(2021/01/22 18:04登録)
ネタバレをしています。

 ジャンルについて詳しくないのですが、いろいろな要素が重なった作品です。まず冤罪事件を捏造する際に用いられた方法や、遺伝子や血液などの話はサイエンスミステリ(?)。政治家、警察、マスコミの腐敗や陪審員制度を採用しない異常さなどの話は社会派ミステリ。事件を検証し、議論や舌戦や苦戦と逆転などの楽しさが味わえる法廷ミステリ。少々のサスペンスの感じもあります。
 サイエンスと社会派の部分は少々読みづらさを感じ、なかなかページが進まなかったのですが、物語にリアリティとどんでん返しなどを求めるとどうしても説明が必要なため仕方ないと思います。
 最初は冤罪事件の弁護だけかと思いきや、その裏にある大きな悪との戦いになり、最後は感動的なラストにもっていく探偵はヒーロー的でなんともかっこいい(笑)。

 以下、好みでない部分。
 私の好みは本格なのですが、この作品は本格度が少々落ちる気がします。DNA検査をすり抜けるトリックも、関心はしましたが面白いとは感じませんでした。推理小説というよりも、面白い本といったかんじで、あまりジャンル分けするべきではないかもしれません。コテコテの本格好きにとっては、やや物足りなかった印象です。

No.14 6点 パメル
(2018/05/15 01:15登録)
この作品は、裁判員制度が施工される十年以上前、「もし日本に陪審員制度が存在したら・・・」という発想から生まれたらしい。
弁護側と検察側の今まで経験の無い陪審員制度に四苦八苦しながら、心理的な駆け引きが繰り広げられ、惹きつけられる。
そして、結審により驚愕の真実が明らかになる。法廷ミステリでありながら、本格ミステリとしても楽しめる、一粒で二度おいしい・・・そんな作品。(古っ)

No.13 8点 名探偵ジャパン
(2017/09/13 16:37登録)
まず驚いたのは、芦辺拓らしからぬ読みやすさ。
陪審員制度や医学的説明を分かりやすく読者に伝えようと努めたため、いつものような癖のある、ミステリ的装飾過剰な文体が抑えられた結果なのだと思います。芦辺拓、この調子で他の作品も書いたらよかったのに!(それでも原発に関する解説は少し過剰かと思いましたが)

倒叙ものの様相を呈していた第Ⅰ部も非常に興味深く読みましたが、法廷に舞台が移ってからの第Ⅱ部は、途中で読むことを中断するのが不可能なほどの、息つく暇もないサスペンス。
医学、法廷という専門的なガジェットがあっても、「本格ミステリ」であることを失わない作者の姿勢も嬉しい。
本作で特に印象深かったのは、本職である弁護士としての本領を発揮した、シリーズ探偵の森江春策です。全く覆すことが不可能とも思える難問に挑み、悩み、中傷を受け、それでも決して諦めない、優しくて理知的で頼りになる大人の名探偵。昨今はやりの、こまっしゃくれた子供探偵には、この魅力、色気は出せません。最高にかっこよかったです。

No.12 7点 あびびび
(2017/09/07 23:12登録)
読み進めるうちに、「あ、これはテレビで見た!」と気づき、その分興味半減だったが、最後は、「うん、読んで良かった。原作の方が数段素晴らしい」と思った。

陪審員制度、上の人は、そんなに反対していたのかと思うと、この国の政治が垣間見えてくる。

No.11 4点 nukkam
(2016/06/27 11:13登録)
(ネタバレなしです) 1998年発表の森江春策シリーズ第5作の本格派推理小説です。復活した陪審員制度(現実の裁判員制度とは少々違います)にDNA鑑定の無効化などよくもまあこれだけ考えたものだと感心する一方、あまりにも人工的な作品世界になじめませんでした。またこのプロットではやむを得ないのでしょうが組織的陰謀の色合いが強くて通常の本格派推理小説の犯人当ての楽しみが少ないのも個人的には好みに合わなかったです。

No.10 8点 505
(2015/11/09 12:18登録)
刊行年(1998年)からして気鋭のリーガル・ミステリという位置付けで良いだろう。社会派としての要素を取り込みつつ、本格としての本分を失っていない、このバランス加減が凄まじくキレている。作者によるあとがきには『逆本格』と書かれてあり、これがまた目から鱗でありながらも、正鵠を射ているから末恐ろしい。まさに本書を凝縮した言葉である。

〝人工冤罪〟を企てたクライムサスペンスの皮を技巧的に被りつつ、法廷モノとしての丁々発止な様を軽やかに描くことで、〝DNA鑑定〟や〝司法の在り方〟などといった社会的な部分に対して極めて鋭い切り口を堪能できる。それだけで留まっておらず、本格としての体裁を整合的に表現されているところが秀逸。中でも、本書における陪審員制度に一石を投じるシーンと密接に絡み合う〝冤罪と有罪〟の狭間で揺れるパラドックスへの見事な切り返しは拍手喝采ものである。逆説的な状況に対して、〝どちらも手にする〟という無理難題に対して、捻りを加えつつもストレートに描いた傑作。気持ちの良い読書体験であった。

No.9 8点 ロマン
(2015/10/20 16:02登録)
裁判員制度導入前に書かれた、陪審員制度での法廷ミステリ。面白かった。DNA鑑定も欺く人工冤罪という壮大なアイデアからの状況の反転、そしてスリリングな法廷での駆け引きまで一気通読。DNA絡みのネタの真相には若干脱力するし、冒頭の原発事故の話は全体の中でどうにも浮いてる感が強いけれども、「裁判の結果がどっちに転んでも最悪」という状況をきっちり積み上げた上での、陪審員というシステムを利用した鮮やかな解決はお見事。

No.8 7点 白い風
(2011/10/07 20:56登録)
初めての芦辺作品でした。
1998年の作品だったけど、冒頭に原発メルトダウン事故の話や2009年から開始された”裁判員制度”と今読むと余計に面白いかとも思った。
殺人事件を捏造し、警察と報道がいかに冤罪を生み出すか暴こうと考えた男の目線から始まり、予期せぬ事件に発展した後は弁護士・森江春策目線に変わって行くのも苦にはならなかった。
事件そのものより、その背景にある巨大な陰謀へ続くあたりはちょっと飛躍し過ぎかな?とは思ったけど、楽しめました。
このシリーズを中心に他の作品も読んでみたいですね。

No.7 7点 江守森江
(2010/07/15 10:40登録)
陪審制導入の噂と名作映画「十二人の怒れる男」へのリスペクトから、この作品は書かれた(同じオマージュ作品なら薄味な三谷幸喜「12人の優しい日本人」の方が好き)
近未来設定なので無用な蘊蓄は無いが、それでも芦辺拓は芦辺拓で、詰め込み過ぎでクドいのは変わらない。
逆に言うなら(ファンに限定されるが)濃密な読書が楽しめる。
陪審制は否定され、裁判員制度が導入された今でも、設定の妙やプロットは本格ミステリとして時代に流されないパワーがある。
つかみ所の無い名探偵・森江春策だが、今回は凄腕な弁護士として描かれ嬉しい。
好きだか芦辺作品を読むと疲れが襲ってくる(ユンケル飲んで読書に励むなんて・・・・)

No.6 8点 itokin
(2009/03/28 11:34登録)
陪審員制度の導入がささやかれ始めた時期に書かれたものなのか、その制度そのものを改めて考えさせられた良い教科書になった。展開及び終盤の袋小路の設定にいささか無理があるが、それをこえる読むものを引きつける力があり楽しめた。

No.5 7点 ロビー
(2005/04/15 15:22登録)
推理小説としての完成度はともかく、陪審員制度の存在意義について深く考えさせられる作品。
個人的には日本でこの制度が受け入れられることは困難であると思っている。
すべての日本人が、本作に登場する陪審員のような成熟した判断力を持てればともかく…。
いや、そしたら犯罪そのものがなくなるか?

No.4 9点 ギザじゅう
(2004/06/06 14:49登録)
あまり本格本格してないため、普通の人にも薦めやすい作品。
本作のプロットも非常に錯綜しており、「冤罪計画」や陪審員制度と非常に凝っている。後半からの法廷シーンも非常に圧巻であり、トリックも面白い。最後の最後で陪審員制度と冤罪をめぐる陰謀の恐ろしさもさながら、それに対する森江春策の解決のスマートさも、一読忘れがたい。竜頭蛇尾ということも無く、一気に読めてしまう。
本書は近未来を舞台にしているようであるが、今後50年後か100年後に本作がどうなっているか、非常に重要な作品でもある。率直に言えば、日本に陪審員制度が導入される可能性は低いというのが、今の日本の現状であると思う。だからこそ、このような作品は書かれるべきである。
社会派推理に限らず、評論でも何でも、今の世界に欺瞞を感じ、それを表現することが重要なのである。それがわからずに、本書に現実性という点から酷評するのは非常に悲しいことである。

No.3 7点 寝呆眼子
(2002/08/29 20:38登録)
日本に陪審員制という設定は、「十二人の優しい日本人」をどうしても連想してしまいます。それはさておき、本書ですが、前半がちょっと増長ぎみだったけど、楽しく読みました。

No.2 9点 三毛猫
(2002/04/13 01:53登録)
別に小説なのですから、厳密な現実性を求めなくても
いいのでは? 私はとてもたのしめましたよ。

No.1 7点 Nakatz
(2001/06/26 09:57登録)
冤罪を証明するという、「逆本格」のミステリ。
ただ、物語の後半で「冤罪になっても駄目、有罪はむろん駄目」という難問に
直面しますが、これを実にアクロバティックな手法で解決しています。
これは「さすが!」という感じでした。

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